説明

マグネトロン

【課題】 長寿命化が図れるとともに、連続使用が可能なマグネトロンを得る。
【解決手段】 冷陰極型のマグネトロンは、基板211上に炭素繊維材料の1つであるグラファイトナノファイバを成長させた第1の電極21と、基板211上に二次電子放出係数が1以上の酸化バリウム221を塗布した第2の電極22とを陽極筒体内部の中心軸上に交互に配置した構造の陰極20を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジ等の高周波加熱機器に用いられるマグネトロンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冷陰極型と呼ばれて陰極にフィラメントを使用しないマグネトロンが開発されている。この種のマグネトロンでは、マグネトロンを励起させるのに十分な電界放出を得ることを目的に、様々な構造の陰極が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図6は、上述した特許文献1で開示されたマグネトロンの陽極筒体内部の一部分を示す軸方向断面図である。この図に示すように、マグネトロンは、複数枚の陽極ベイン10(この図では2枚のみ見えている)が不図示の陽極筒体の内側壁面より陽極筒体中心に向かって放射状に配置されており、これら陽極ベイン10の先端より先の空間で、陽極筒体の中心軸上に陰極11が配置されている。陰極11は、円筒状に形成されたロッド12と、このロッド12に取り付けられた第1の放出要素である第1の電極13及び第2の放出要素である第2の電極14とを備えている。第1の電極13及び第2の電極14はそれぞれ複数個あり、ロッド12に対して交互に取り付けられている。
【0004】
第2の電極14は、電子放出活性材である酸化物などの二次電子放出材料を用いて円筒状に形成されており、その内径がロッド12の外径より僅かに大きくなっている。第1の電極13は、超微細な耐火性金属材を用いた平坦なリング状の金属箔である。この場合、第1の電極13の内径はロッド12の外径より僅かに大きく形成され、外径は電極間空隙の値の0.1から0.2倍だけ第2の電極14の外径よりも大きく形成されている。また、この第1の電極13に使用される材料としては、電界放出を安定化させる必要があることから、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)、W(タングステン)等の耐火性金属材が用いられる。なお、耐火性金属の合金であるW−Ta合金が用いられることもある。
【0005】
このような陰極構造を有したマグネトロンは、第1の電極13から電界放出によって放出された電子が、軸方向の直流磁界と陽陰極間の半径方向の直流電界とによってサイクロイド運動を行い、その電子の一部が陽極ベイン10の高周波電界からエネルギーを得て陰極11の第2の電極14に衝突することで二次電子を放出し、それにより、電子数を雪崩状に増大させてマグネトロンを励起する。
【特許文献1】特表平6−510629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のマグネトロンにおいては、寿命が短いうえ、パルス動作しかできず連続使用ができないという問題があった。つまり、第1の電極13は平坦なリング状の金属箔であったため、マグネトロンを連続動作した場合に変形したり、溶解したりする虞がある。また、第1の電極13がリング状の金属箔で機械的強度にも弱く、変形した場合にはマグネトロンの電流放出特性を変化させてしまう。さらに、サージやガス放電が生じた場合には金属箔を一瞬に破壊してしまう。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたもので、その目的は、長寿命化が図れるとともに、連続使用が可能なマグネトロンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は下記構成により達成される。
(1) 陽極筒体内の中心軸上に配置され、炭素系材料による電子放出源を設けた第1の電極と炭素系材料以外の電子放出源を設けた第2の電極とを組み合わせて構成した陰極を備えることを特徴する。
【0009】
(2) 上記(1)に記載のマグネトロンにおいて、前記第1の電極及び前記第2の電極は、それぞれ円筒状に形成され、前記陽極筒体内の中心軸上に交互に配置されることを特徴する。
【0010】
(3) 上記(1)又は(2)に記載のマグネトロンにおいて、前記第1の電極は、前記第2の電極より陽極方向へ突出していることを特徴とする。
【0011】
(4) 上記(1)から(3)のいずれかに記載のマグネトロンにおいて、前記第1の電極の炭素系材料は、炭素繊維であることを特徴とする。
【0012】
(5) 上記(4)に記載のマグネトロンにおいて、前記炭素繊維は、カーボンナノチューブ又はグラファイトナノファイバであることを特徴とする。
【0013】
(6) 上記(1)から(5)のいずれかに記載のマグネトロンにおいて、前記第2の電極の炭素系材料以外の材料は、二次電子放出係数が1以上の物質からなるものであることを特徴とする。
【0014】
(7) 高周波加熱機器において、上記(1)から(6)のいずれかに記載のマグネトロンを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
上記(1)、(2)、(4)又は(5)に記載のマグネトロンによれば、陰極の電界放出電極である第1の電極に炭素系材料による電子放出源を設けたので、従来の金属箔を使用したものと比べて炭素繊維の繊維形状により無数に電子放出部があることから、連続動作しても変形したり溶解したりすることがなく、またサージやガス放電によって部分的に一部の電子放出部が破壊されても特性の変化も少ない。これにより、長寿命化が図れるとともに、連続使用が可能となる。
【0016】
上記(3)に記載のマグネトロンによれば、第1の電極の外径が第2の電極の外径よりも大きく、第2の電極より陽極方向へ突出しているので、陽極の高周波電界からエネルギーをえ易くなり、電子放出を高めることができる。
【0017】
上記(6)に記載のマグネトロンによれば、第2の電極に適用する炭素系材料以外の材料として、二次電子放出係数が1以上の物質を用いたので、効率良く二次電子の放出が可能となる。
【0018】
上記(7)に記載の高周波加熱機器によれば、高周波加熱機器として寿命を左右するマグネトロンに上記構成のマグネトロンを用いたので、長寿命化ができることによる信頼性の向上が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係るマグネトロンの陰極構造を示す軸方向断面図である。
【0020】
図1に示すように、本実施の形態に係るマグネトロンの陰極は、グラファイトナノファイバを基板上に成長させて炭素繊維材料による電子放出源を設けた円筒状の第1の電極21と、酸化バリウムを基板上に形成して炭素繊維材料以外の二次電子放出材料により電子放出源を設けた円筒状の第2の電極22と、第1の電極21及び第2の電極22のそれぞれを挿入可能な大きさに形成されて、第1の電極21及び第2の電極22を保持するロッド23と、このロッド23に挿入された第1の電極21及び第2の電極22を上下方向から固定する上下エンドハット24、25とを備えて構成される。
【0021】
図2は、第1の電極21の外観とその一部分を拡大した図である。
この第1の電極21は、円筒状に形成した絶縁性を有する基板211の外側表面にCVD(Chemical Vapor Deposition)法やプラズマCVD法によってグラファイトナノファイバ212を成長させたものである。このグラファイトナノファイバ212を基板211の側面に成長させた陰極表面に強電界(10V/mm)を加えると、この陰極表面のポテンシャル障壁が薄くなり、電子の波動性から生じるトンネル効果により空間に電子が放出される。
【0022】
図3は、第2の電極22の外観とその一部分を拡大した図である。
この第2の電極22は、円筒状に形成した絶縁性を有する基板211の外側表面に、二次電子放出係数が1以上の物質となる酸化バリウム221を形成させたものである。この場合、基板211の外側表面に炭酸バリウムを塗布し、その後、800℃にて加熱することで炭酸バリウムが酸化バリウム221に分解される。
【0023】
このような構造の第1の電極21と第2の電極22とがロッド23に対して交互に挿入されて、上下エンドハット24、25で固定される。なお、本実施の形態では、図1に示すように第1の電極21が3個、第2の電極22が2個の組み合わせであるが、それぞれの個数に限定はなく交互に配置されれば良い。
【0024】
上記の陰極構造を持つマグネトロンにおいて、陽極ベイン10を既存のマグネトロン(10分割、内径8mm)と同一のものとし、軸方向上下に図示せぬ永久磁石を配置して、軸方向に0.35Tの直流磁界40を生じさせた。また、マグネトロンの陽極ベイン10と陰極20との間に6KVの電圧を印加した。このとき陽陰極間電圧によって生じる半径方向の電界によって、陰極20のグラファイトナノファイバ212から電界放出により電界放出電子が放出された。
【0025】
このグラファイトナノファイバ212から放出された電子30は、図4に示すように、軸方向の直流磁界40と陽陰極間の半径方向の直流電界によってサイクロイド運動を行い、その電子の一部が陽極ベイン10の高周波電界からエネルギーを得て二次電子放出膜である酸化バリウム221に衝突し、これにより二次電子31が放出される。これにより、電子数は雪崩状に倍増されて最大50mAの電流が放出され、また最大200Wの発振が得られることが確認できた。
【0026】
このように、本実施の形態のマグネトロンによれば、基板211上に炭素繊維材料の1つであるグラファイトナノファイバを成長させた第1の電極21と、基板211上に二次電子放出係数が1以上の酸化バリウム221を塗布した第2の電極22とを陽極筒体内部の中心軸上に交互に配置した構造の陰極20を備えているので、連続使用が可能となるとともに、長寿命化が図れる。すなわち、第1の電極21に使用される炭素繊維には無数に電子放出部が形成されるので、連続動作させても変形したり溶解したりすることがなく、またサージやガス放電によって部分的に一部の電子放出部が破壊されても特性の変化が少ないので、変形して電流放出特性が変化したり、溶解や破壊によって使用不能に陥ったりすることも無い。
【0027】
なお、上記実施の形態では、陰極20の構造において、図1に示すようにグラファイトナノファイバ212を設けた第1の電極21と、酸化バリウム221を塗布した第2の電極22との配置を、下エンドハット25から第1の電極21、第2の電極22を順に交互に配置させたが、それぞれの配置を入れ替えても同等な効果を得ることができる。
【0028】
また、上記実施の形態では、第1の電極21に、グラファイトナノファイバ212を設けたが、他の炭素系材料であるカーボンナノチューブに替えても良好な結果を得ることができる。
【0029】
また、上記実施の形態では、第2の電極22に、二次電子放出材料である酸化バリウム221を設けたが、他の酸化物である、アルカリ金属、アルカリ土塁金属、白金族金属に替えても良好な結果を得ることができる。
【0030】
また、上記実施の形態では、第1の電極21と第2の電極22の面を略一様にしたが、図5の軸方向断面図に示すように、第1の電極21Aを第2の電極22より突出させて、第1の電極21Aの電極表面の電界をより高くして、電子放出を高めることができる。
【0031】
また、本実施の形態のマグネトロンを高周波加熱機器に用いた場合、製品としての寿命を延ばすことができ、製品の信頼性向上が図れる。すなわち、高周波加熱機器の寿命を左右する主なものがマグネトロンであり、このマグネトロンに本実施の形態のマグネトロンを用いることで、高周波加熱機器の長寿命化が可能となる。
【0032】
なお、上記実施の形態では、第1の電極21と第2の電極22とを別体として構成したが、これらを1つの円筒形の基板上に交互に形成する構成としても良い。
【0033】
また、上記実施の形態では、第1の電極21を3個、第2の電極22を2個で構成したが、これらの数に限定はなく任意である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
電子レンジなどのマグネトロンを使用する用途への適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施の形態に係るマグネトロンの陰極の構造を示す軸方向断面図である。
【図2】一実施の形態に係るマグネトロンの陰極を構成する第1の電極の外観とその一部分を拡大した図である。
【図3】一実施の形態に係るマグネトロンの陰極を構成する第2の電極の外観とその一部分を拡大した図である。
【図4】一実施の形態に係るマグネトロンの陰極における作用を説明するための図である。
【図5】一実施の形態に係るマグネトロンの応用例を示す軸方向断面図である。
【図6】従来のマグネトロンの陰極の構造を示す軸方向断面図である。
【符号の説明】
【0036】
10 陽極ベイン
20 陰極
21、21A 第1の電極
22 第2の電極
23 芯出し棒
24 上エンドハット
25 下エンドハット
30 一次電子
31 二次電子
211 基板
212 グラファイトナノファイバ
221 酸化バリウム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極筒体内の中心軸上に配置され、炭素系材料による電子放出源を設けた第1の電極と炭素系材料以外の電子放出源を設けた第2の電極を組み合わせて構成した陰極を備えたことを特徴とするマグネトロン。
【請求項2】
前記第1の電極及び前記第2の電極は、それぞれ円筒状に形成され、前記陽極筒体内の中心軸上に交互に配置されることを特徴とする請求項1に記載のマグネトロン。
【請求項3】
前記第1の電極は、前記第2の電極より陽極方向へ突出していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のマグネトロン。
【請求項4】
前記第1の電極の炭素系材料は、炭素繊維であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のマグネトロン。
【請求項5】
前記炭素繊維は、カーボンナノチューブ又はグラファイトナノファイバであることを特徴とする請求項4に記載のマグネトロン。
【請求項6】
前記第2の電極の炭素系材料以外の材料は、二次電子放出係数が1以上の物質からなるものであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のマグネトロン。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のマグネトロンを具備することを特徴とする高周波加熱機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate