説明

マグロの養殖生け簀又は養鰻池

【課題】クロマグロの養殖生け簀に関し、高速で泳ぐ習性のあるクロマグロが互いに衝突したり、壁面に衝突したりする危険性の少ない、安全な養殖生け簀を簡易構造で実現し、運動不足を解消する。
【解決手段】内側仕切り手段と外側仕切り手段との間の水域をクロマグロや鰻が環状方向により高速で泳げるような環状水域を形成することによって、養殖されているクロマグロが環状方向に高速で泳げるようにして、運動不足を解消する。環状方向に泳ぐため、クロマグロ同士が交錯して衝突するといった危険も生じない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグロ特にクロマグロの養殖用の生け簀に関する。
【背景技術】
【0002】
実開平5-20556号に記載のように、水槽の底部に沈降しようとする汚泥物を能率よく確実に外部に排出させることができ、水槽の底部を常に清浄に保持して、水の汚濁を防止し、水質を常に良好に保持することができ、魚介類の養殖を良好に行なうことのできる巡流槽を提供すべく、水が巡回する水槽の底部に水を排出する排水手段を備えた巡流槽において、前記排水手段は、前記水槽の底面に水流方向とほぼ直交する方向に配設された集汚物溝と、この集汚物溝の長手方向のほぼ中央に開設された少なくとも1個の排水口と、排水力をもってこの排水口より水を排出させる排水機構とにより形成されていることを特徴とする構造が提案されている。
【0003】
また、実開平4-55270号に記載のように、魚類特にカツオ、マグロ類の高速遊泳魚が養殖されている水槽、生け簀、タンク等の壁面又は網面に衝突して該魚の頭部をいため、その結果として該魚が斃死又は損傷することの防止を目的とする特殊な構造の壁面又は網面に関し、養殖魚用水槽又は生け簀の壁面又は網面そのものに又は壁面又は網面にそって魚類が認識し得る程度の大きさを持つと共に魚類の両眼の視野が20〜30°以上の範囲にある突状物が存在することを特徴とする構造が提案されている。
【特許文献1】実開平5-20556
【特許文献2】実開平4-55270
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように、汚泥物を能率よく確実に外部に排出させる構造を採用することによって、水槽の底部を常に清浄に保持して、水の汚濁を防止し、水質を常に良好に保持することは可能である。また、中央に区画壁が立っていて、その周囲に一方向の水流ができる構成になっているが、高速で回遊する性質のあるクロマグロの場合は、区画壁の両端の位置では急カーブなっているので、カーブを曲がりきれずに、外周寄りを遊泳しているクロマグロと衝突する危険がある。
【0005】
また、特許文献2のように養殖魚用水槽又は生け簀の壁面に、魚類が認識し得る程度の大きさを持つと共に魚類の両眼の視野が20〜30°以上の範囲にある突状物を設ける構成は、実用性に欠ける。すなわち、クロマグロは高速で泳ぐので、必然的に生け簀のサイズも大きくなるが、大きな生け簀の全壁面に突状物を設けるのは困難で、現実的でない。
【0006】
本発明の技術的課題は、このような問題に着目し、実現性に富んだ簡易な構造で、高速で泳ぐ習性のあるクロマグロが互いに衝突したり、壁面に衝突したりする危険性の少ない、安全な養殖生け簀を実現し、運動不足を解消することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の技術的課題は次のような手段によって解決される。請求項1は、半径が5m以上の内側仕切り手段の外側に外側仕切り手段を設けて、内外の仕切り手段の間をクロマグロや鰻が環状方向により高速で泳げるような真円形の環状水域を形成してなることを特徴とするマグロの養殖生け簀又は養鰻池である。外側仕切り手段の半径は、環状水域の広さに応じて適宜決定される。このように、養殖されているクロマグロの遊泳領域が、半径が5m以上の内側仕切り手段の外側に外側仕切り手段を設けて、内外の仕切り手段の間をクロマグロが環状方向に高速で泳げるような真円形の環状に形成してあるため、養殖されているクロマグロは、真円形の環状水域を環状方向に遊泳できる。その結果、クロマグロの習性である高速遊泳が容易に可能となり、運動不足が解消される。また、高速遊泳するには環状方向に泳ぐことになるため、クロマグロ同士が交錯して衝突するといった問題も生じない。
【0008】
請求項2は、陸上競技用のトラックのように直線部分と曲線部分とを有している内側仕切り手段と外側仕切り手段の間をクロマグロや鰻が環状方向に高速で泳げるような環状水域を形成してなるマグロの養殖生け簀又は養鰻池であって、内側仕切り手段の曲線部分の半径が5m以上であることを特徴とするマグロの養殖生け簀又は養鰻池である。このように、内外の仕切り手段の間に形成された環状水域が、陸上競技用のトラックのような環状水域であるため、トラック状の環状方向に泳ぐ限り、クロマグロ同士が交錯して衝突する危険性が少ない。このとき、トラック状の直線方向に泳いだり、半円方向に泳いだりすることになるため、単調な遊泳とならず、ストレスが蓄積されることも少ない。
【0009】
請求項3は、楕円形状の内側仕切り手段と楕円形状の外側仕切り手段との間をクロマグロや鰻が環状方向に高速で泳げるような楕円形状の環状水域を形成してなるマグロの養殖生け簀又は養鰻池であって、長円部の半径が5m以上であることを特徴とするマグロの養殖生け簀又は養鰻池である。このように、内外の仕切り手段の間に形成された環状水域が楕円形状であるため、養殖されているクロマグロは、楕円方向に泳ぐことになり、長円領域を泳ぐときと短円領域を泳ぐときとで、泳ぐ方向が多少異なるので、多少の変化を伴った泳ぎとなる。その結果、単調な遊泳とならず、ストレスが蓄積されることも少ない。
【0010】
請求項4は、前記の少なくとも外側仕切り手段がネットで形成されていることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3に記載のマグロの養殖生け簀又は養鰻池である。内側仕切り手段と外側仕切り手段との間の環状水域をクロマグロが泳ぐとき、外側の仕切り手段の凹曲面に衝突する確率が高いが、その外側仕切り手段がネットで形成されているので、コンクリートなどの剛体の仕切り手段と違って、クロマグロが衝突した際の衝撃が少なく、安全である。
【0011】
以上の各環状水域において、外側の仕切り手段の径を大きくして、環状水域の幅方向の寸法を大きくしておけば、クロマグロの群れは外側の領域を例えば右向きに遊泳するのに対し、内側の領域では逆に左向きに遊泳するなども可能となる。したがって、クロマグロが遊泳する際の自由度が高くなる。養鰻池の場合は、逆に環状水域の幅を狭くして、鰻のUターンを困難にし、同じ方向に泳ぎやすくすると、より高速遊泳が促進され、運動量の増加に適している。
【発明の効果】
【0012】
請求項1のように、養殖されているクロマグロの遊泳領域が、半径が5m以上の内側仕切り手段の外側に外側仕切り手段を設けて、内外の仕切り手段の間をクロマグロが環状方向に高速で泳げるような真円形の環状に形成してあるため、養殖されているクロマグロは、真円形の環状水域を環状方向に遊泳できる。その結果、クロマグロの習性である高速遊泳が容易に可能となり、運動不足が解消される。また、高速遊泳するには環状方向に泳ぐことになるため、クロマグロ同士が交錯して衝突するといった問題も生じない。
【0013】
請求項2のように、内外の仕切り手段の間に形成された環状水域が、陸上競技用のトラックのような環状水域であるため、トラック状の環状方向に泳ぐ限り、クロマグロ同士が交錯して衝突する危険性が少ない。このとき、トラック状の直線方向に泳いだり、半円方向に泳いだりすることになるため、単調な遊泳とならず、ストレスが蓄積されることも少ない。
【0014】
請求項3のように、内外の仕切り手段の間に形成された環状水域が楕円形状であるため、養殖されているクロマグロは、楕円方向に泳ぐことになり、長円領域を泳ぐときと短円領域を泳ぐときとで、泳ぐ方向が多少異なるので、多少の変化を伴った泳ぎとなる。その結果、単調な遊泳とならず、ストレスが蓄積されることも少ない。
【0015】
環状水域をクロマグロが泳ぐとき、外側の仕切り手段の凹曲面に衝突する確率が高いが、請求項4のように、少なくとも外側仕切り手段がネットで形成されているので、コンクリートなどの剛体の仕切り手段と違って、クロマグロが衝突した際の衝撃が少なく、安全である。
【0016】
以上の各環状水域において、外側の仕切り手段の径を大きくして、環状水域の幅方向の寸法を大きくしておけば、クロマグロの群れは外側の領域を例えば右向きに遊泳するのに対し、内側の領域では逆に左向きに遊泳するなども可能となる。したがって、クロマグロが遊泳する際の自由度も高くなる。
【0017】
以上のように、クロマグロの高速遊泳に適する環状構成の生け簀であるため、構成が簡単で実用化は容易で、実現性に富んでいる。エンドレスの環状水域を環状方向に泳げるため、クロマグロが高速で泳いでも、互いに衝突したり、壁面に衝突したりすることも少なく、安全である。したがって、限られた水域で養殖する際でも、安全に運動不足を解消でき、クロマグロの大量生産に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に本発明によるマグロの養殖生け簀が実際上どのように具体化されるか実施形態を説明する。図1は本発明によるクロマグロ用の養殖生け簀の実施形態であり、真円状の環状水域になっている。1は内側の仕切り手段であり、2は外側の仕切り手段である。内外の仕切り手段1と2との間の領域3は、養殖用の海水が入っている水域で、環状をしている。内外の仕切り手段1、2は、コンクリート壁などでも可能ではあるが、自然の海域にネットを真円状に張った構成だと、海水の循環も良く、海水の汚染も抑制できる。
【0019】
このように、内側仕切り手段1や外側仕切り手段2が真円状をしているため、環状水域3も真円状となる。その結果、環状水域3中に養殖されているクロマグロは、真円状の環状方向に群れをなして遊泳することになる。その結果、高速で遊泳することが可能となり、また高速で遊泳しても、クロマグロ同士が交錯して衝突するなどの恐れも少なくなる。
【0020】
図2は環状水域31を陸上競技用のトラックのような形状にした実施形態で、内側仕切り手段は直線部分4と半円状の部分5とからなり、外側仕切り手段も直線部分4と半円状の部分5とからなっている。したがって、内外の仕切り手段の間に形成される環状水域31も、陸上競技用のトラックの形状となり、トラック状の環状水域に沿って環状方向にクロマグロが遊泳することになる。
【0021】
その結果、内外の仕切り手段の直線部分4、4間の水域41をクロマグロが泳ぐ場合は直線遊泳となり、半円部分5、5間の水域51をクロマグロが遊泳する場合は半円方向の遊泳となる。したがって、1周する間に、直線方向遊泳と半円方向の遊泳を交互に2回繰り返すことになり、単調な運動とはならないため、バランスのとれた運動となり、しかもストレスの蓄積も低減できる。
【0022】
図3は、内側仕切り手段6や外側仕切り手段7も楕円状をしており、その結果、環状水域32も楕円状となる。したがって、楕円状の環状水域32においてクロマグロが楕円の環状方向に遊泳する際に、クロマグロの遊泳方向も楕円状の環状方向となるため、クロマグロが遊泳する際の方向が1/4周ごとに変化することになる。その結果、単調な遊泳から開放されてバランスのとれた遊泳となり、ストレス解消も可能となる。
【0023】
図1〜図3において、環状水域の円状部が急カーブになっていると、クロマグロは方向が急な泳ぎが必要となり、高速遊泳に適しない。あるいは、隣接する他のクロマグロと交錯し、衝突する危険がある。したがって、クロマグロが急カーブを要しないように、各円状部における曲率はできるだけ緩めにするのがよい。そのため、最小半径Rは10m以上が適しているが、最低でも5m以上にすることが必要である。
【0024】
以上のような内側仕切り手段と外側仕切り手段とで環状水域を形成してクロマグロを養殖する場合、自然の海域において、内側仕切り手段や外側仕切り手段をネットで形成すると、クロマグロが高速で衝突した場合でも、衝撃が緩和されるので、クロマグロの受けるダメージが低減される。なお、クロマグロが高速で直進する性質を考慮すると、外側仕切り手段の凹曲部の内面に衝突する確率が高いので、少なくとも外側仕切り手段を柔軟なネットにすることが望ましい。
【0025】
図4は、図1の真円状の養殖生け簀の一実施例を示す斜視図であり、内側の仕切り手段1も外側の仕切り手段2も格子状の柵を形成すると共に、合成樹脂製の紐や糸などで編んだ柔軟性のあるネットを取付けた構成になっている。ネットの網目は、クロマグロや鰻が通過できない程度のサイズにすることは言うまでもない。
【0026】
各実施形態において、内側の仕切り手段と外側の仕切り手段との間隔を広くして、環状水域の幅を大きくすると、外周寄りの水域をクロマグロが例えば右周りに遊泳する場合に、内側の水域では逆に左周りに遊泳するということも可能となり、群れをなして右周りも左周りも自由自在なとる。
【0027】
以上のように、本発明は特にクロマグロの養殖に適しているが、鰻を養殖する際の養鰻池にも適用することによって、鰻の運動不足を解消し、充分に運動させることによって肉の締まりを高めることもできる。この場合は、環状水域3、31、32の幅が狭くなるように、内側仕切り手段と外側仕切り手段との間隔を狭めることによって、鰻の逆戻りを抑制し、すべてが同じ方向に高速で泳ぎやすいようにすることが望ましい。その結果、他の鰻に妨げられずに、高速遊泳が可能となるので、肉質の締まった鰻を量産できる。

【産業上の利用可能性】
【0028】
以上のように、真円状や楕円状、トラック状などの環状水域を形成してあるため、クロマグロも環状水域の形状に沿って環状方向に高速遊泳をするので、互いに交錯したり仕切り手段に衝突することもなく安全である。また、クロマグロの習性である高速遊泳が可能で、運動不足やストレスの蓄積が解消され、最適な養殖環境が実現される。しかも、構成が簡素なため、安価に実現でき、大量養殖に適している。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明による真円状のクロマグロ用の養殖生け簀の実施形態を示す平面図である。
【図2】陸上競技用のトラック状の環状水域を示す平面図である。
【図3】楕円状の環状水域を示す平面図である。
【図4】真円状の養殖生け簀の実施例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0030】
1 内側の仕切り手段
2 外側の仕切り手段
3・31・32 環状水域
4 直線部分
5 半円状の部分
6 楕円状水域の内側仕切り手段
7 楕円状水域の外側仕切り手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半径が5m以上の内側仕切り手段の外側に外側仕切り手段を設けて、内外の仕切り手段の間をクロマグロや鰻が環状方向に高速で泳げるような真円形の環状水域を形成してなることを特徴とするマグロの養殖生け簀又は養鰻池。
【請求項2】
陸上競技用のトラックのように直線部分と曲線部分とを有している内側仕切り手段と外側仕切り手段の間をクロマグロや鰻が環状方向に高速で泳げるような環状水域を形成してなるマグロ又は鰻の養殖生け簀であって、内側仕切り手段の曲線部分の半径が5m以上であることを特徴とするマグロの養殖生け簀又は養鰻池。
【請求項3】
楕円形状の内側仕切り手段と楕円形状の外側仕切り手段との間をクロマグロや鰻が環状方向に高速で泳げるような楕円形状の環状水域を形成してなるマグロの養殖生け簀又は養鰻池であって、長円部の半径が5m以上であることを特徴とするマグロの養殖生け簀又は養鰻池。
【請求項4】
前記の少なくとも外側仕切り手段がネットで形成されていることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3に記載のマグロの養殖生け簀又は養鰻池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−151476(P2007−151476A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−352221(P2005−352221)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(505451822)
【Fターム(参考)】