説明

マグロ属魚類用飼料

【課題】マグロ属魚類の栄養要求を満たすとともに、増重率、増体長率、生残率、飼料効率等の飼育成績が優れるマグロ属魚類用の人工飼料を提供することにより、マグロ属魚類の種苗生産、養殖、天然資源の増強と管理に貢献すること。
【解決手段】タンパク源として脱脂酵素処理魚粉、脂質源として極性脂質を含む動物油脂又は植物油脂、及び糖質源として活性澱粉を含有してなるとともに、ビタミンCを200mg/kg以上、好ましくは400mg/kg以上配合してなるマグロ属魚類用飼料、或いはそのエネルギー含量が5190〜5300kcal/kgである前記マグロ属魚類用飼料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマグロ属魚類用飼料に関する。その目的は、世界のマグロ属魚類資源が減少に向かうなかで、その人為的資源管理に不可欠な種苗生産を、確実かつ効率的に実施するための人工飼料を提供することにある。
【背景技術】
【0002】
本発明の出願人である近畿大学の水産研究所は、クロマグロの種苗生産に世界で初めて成功した研究機関であるとともに、種苗生産を産業的に実施できる技術と規模を併せ持つ希少な施設である。
近年、マグロ属魚類資源の減少は著しく、絶滅危惧種にも指定されようとしている。この主たる原因はマグロ属漁獲量の60%を消費する日本にあるとされ、資源回復に向けた早急な研究、技術開発および情報の発信が望まれている。
【0003】
従来、マグロ属魚類の種苗生産において、ふ化3日後からシオミズツボワムシを、10日後からマダイやイシダイの卵やふ化仔魚を給与し、稚魚に変態した3週間後からは徐々に、細断したマイワシ、イカナゴ、マアジ、他の多獲性魚類などの生餌に切り替える飼育方法が採用されてきた。特に、マグロ属魚類の稚魚は他の魚種に比べて成長が著しく速いことから、日出から日没まで連続的に給餌する必要があり、また消化性の低い餌飼料を与えると成長が大きく停滞する。
【0004】
生餌の給餌において、その調製に際しては細断に長時間を要するために生産効率が低く、加えて、栄養素の過不足、疾病の経口感染、自家汚染などの問題を生じる。もし、マグロ属魚類用の人工飼料による飼育が可能になれば、生餌摂取による伝染性細菌およびウイルス症の経口感染の防止や投薬、ストレス耐性低下の防止などが可能になるばかりか、給餌の省力・機械化に貢献し、安定した種苗生産技術の確立をも可能にする。さらには、養殖用はもちろん資源増強を目指した放流用種苗の生産を、省力的かつ効率的に行なうことができる。
【0005】
しかしながら、これまでに、マグロ属魚類用飼料のタンパク質源として、酵素処理魚粉の高い利用性が明らかにされただけで(特許文献1参照)、脂質、糖質およびビタミンCの給源と、それらの適正な配合割合については不明であることから、人工飼料は実用の段階に至っていないのが現状である。
【特許文献1】特開2006−223164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、優れたクロマグロの種苗生産や飼育技術をもち、好ましい飼育環境を保持できる飼育施設を用いて、鋭意研究を行うことができる本発明者らにおいてのみ成しえたものである。本発明の課題は、マグロ属魚類の栄養要求を満たすとともに、増重率、増体長率、生残率、飼料効率等の飼育成績が優れるマグロ属魚類用の人工飼料を提供することによって、マグロ属魚類の種苗生産、養殖、天然資源の増強と管理に貢献することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、タンパク源として脱脂酵素処理魚粉、脂質源として極性脂質を含む動物油脂又は植物油脂、及び糖質源として活性澱粉を含有してなるとともに、ビタミンCを200mg/kg以上配合してなるマグロ属魚類用飼料に関する。
請求項2に係る発明は、前記ビタミンCの配合量が400mg/kg以上であることを特徴とする請求項1に記載のマグロ属魚類用飼料に関する。
請求項3に係る発明は、前記脱脂酵素処理魚粉の含有量が62〜80%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のマグロ属魚類用飼料に関する。
請求項4に係る発明は、前記脱脂酵素処理魚粉中の脂質含有量が9%未満であることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載のマグロ属魚類用飼料に関する。
請求項5に係る発明は、前記動物油脂又は植物油脂の含有量が4〜12%であることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載のマグロ属魚類用飼料に関する。
【0008】
請求項6に係る発明は、前記動物油脂又は植物油脂中に極性脂質を20%以上含むことを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載のマグロ属魚類用資料に関する。
請求項7に係る発明は、前記動物油脂又は植物油脂中にドコサヘキサエン酸(DHA)を16%以上含むことを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載のマグロ属魚類用飼料に関する。
請求項8に係る発明は、前記活性澱粉の含有量が10%以下であることを特徴とする請求項1乃至7いずれかに記載のマグロ属魚類用飼料に関する。
請求項9に係る発明は、前記マグロ属魚類用飼料のエネルギー含量が5190〜5300kcal/kgであることを特徴とする請求項1乃至8いずれかに記載のマグロ属魚類用飼料に関する。
請求項10に係る発明は、前記マグロ属魚類用飼料が、マグロ属魚類の稚魚用飼料であることを特徴とする請求項1乃至9いずれかに記載のマグロ属魚類用飼料に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のマグロ属魚類用飼料は、人工飼料である。したがって、従来の生餌が抱えていた問題点、即ち、給餌に伴う生産効率の低下、疾病の経口感染、水槽や養殖場の水質の悪化等の自家汚染などを防ぐことができる。
本発明のマグロ属魚類用飼料は、これのみで長時間飼育した場合でも、マグロ属魚類の栄養要求を完全に満たすことから、増重率、増体長率、生残率、飼料効率等の飼育成績が優れるだけでなく、マグロ属魚類のビタミン欠乏による免疫能低下を防ぐ。
本発明のマグロ属魚類用飼料は、マグロ属魚類の稚魚に与えられた場合、特に優れた飼育成績をもたらす。
【0010】
マグロ属魚類の成長、特にその稚魚期の成長は、ブリやマダイのそれらの2〜3倍であり、それらの成長を支えるための餌飼料は、摂餌活性が高く、必要量の各栄養素を含み、且つ、それらが消化しやすいものでなければならない。また、特に稚魚の時期は、噛み合いや水槽壁への衝突死が頻発するなど、種苗生産の成否を決定する重要な期間でもある。
本発明のマグロ属魚類用飼料は摂餌活性が高く、必要とされる栄養素含量を含み、消化しやすい。本発明の他の利点は、その保管のための冷凍庫が不必要で、手撒が容易になるとともに自動給餌機を用いることができることから、給餌に掛かる時間や労力を大きく節約できる。
従って、マグロ属魚類の種苗生産、養殖、天然資源の増強と管理に貢献する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のマグロ属魚類用飼料について説明する。
本発明に係るマグロ属魚類には、クロマグロ(Thunnus orientalis)、大西洋クロマグロ(Thunnus thynnus)、キハダマグロ(Thunnus albacares)、メバチマグロ(Thunnus obesus)、ビンナガマグロ(Thunnus alalunga)、ミナミマグロ(Thunnus maccoyii)、コシナガマグロ(Thunnus tonggol)が含まれる。
【0012】
本発明のマグロ属魚類用飼料は、タンパク源として脱脂酵素処理魚粉、脂質源として極性脂質を含む動物油脂又は植物油脂を、及び糖質源として活性澱粉を含有してなり、さらに、ビタミンCが多量に配合されてなる。
前記ビタミンCは、マグロ属魚類用飼料1kgあたり、200mg以上、好ましくは400mg以上配合されてなる。この理由は、ビタミンCが200mg以上配合されてなるマグロ属魚類用飼料は、成長や脳・肝臓のビタミンC含量を正常に維持するため好ましく、一方、200mg未満の場合は、生残率や飼育成績は著しく劣る。
【0013】
前記ビタミンCとは、L‐アスコルビン酸、L‐アスコルビン酸カルシウム、L‐アスコルビン酸‐2‐燐酸マグネシウム(APM)、L‐アスコルビン酸‐2‐リン酸ナトリウム・カリウム等のアスコルビン酸誘導体、これらのビタミンC類の2以上を任意の割合で配合した混合物、あるいはビタミンC含有天然物をマグロ属魚類用飼料に添加することにより配合される。
【0014】
タンパク源として脱脂酵素処理魚粉を含有する。マグロ属魚類用飼料中の脱脂酵素処理魚粉の含有量は、62〜80%、好ましくは65〜74%、さらに好ましくは65〜68%である。
本発明で使用する脱脂酵素処理魚粉は、好ましくは特許文献1に記載の酵素処理魚粉を脱脂したものを使用する。即ち、本発明に係る脱脂酵素処理魚粉は以下の特徴を有する酵素処理魚粉を脱脂処理したものである。
【0015】
まず酵素処理魚粉を製造するにあたり、魚粉が酵素処理される。使用される酵素は特に限定されないが、好ましくは、ペプチダーゼ、プロテアーゼ又はプロテイナーゼの生物由来酵素が用いられる。酵素処理魚粉は、好ましくはニシン目ニシン科(Clupeidae)、ニシン目カタクチイワシ科(Engraulidae)、スズキ目アジ科(Carangidae)又はスズキ目サバ科(Scombridae)から選択される1種以上の魚粉から製造される。
例えば、マイワシ(Sardinops melanostictus)やカタクチイワシ(Engraulis japonicus)、アンチョビー(ニシン目カタクチイワシ科(Engraulidae)に属する)などのイワシ類、マサバ(Scomber japonicus)やゴマサバ(Scomber australasicus)などのサバ類、マアジ(Trachurus japonicus)、マルアジ(Decapterus maruadsi)のアジ類又は大西洋ニシン(Clupea harengus)などニシン類が挙げられる。また、上記魚類の漁獲海域は特に限定されないが、ペルー・チリ付近の太平洋東部沿岸で漁獲されたものが多く用いられる。このうちアジ類を含有する魚粉からなる酵素処理魚粉は、アミノ酸バランスや保存性に優れているため、特に好ましく用いられる。
【0016】
前記脱脂酵素処理魚粉中に含まれるその他の成分として、ペプチド、ポリペプチド、アミノ酸、ビタミン類、ミネラル、脂肪酸が含まれている。
前記アミノ酸としては、リジン、メチオニン、トリプトファン、ヒスチジン、アルギニン等の必須アミノ酸等が含まれる。前記ビタミン類としては、塩化コリン、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンB群等が含まれ、前記ミネラルとしては、リン、カルシウム、セレン、亜鉛等が含まれている。
【0017】
本発明に係る脱脂酵素処理魚粉とは、前記酵素処理魚粉に脱脂処理を施したものである。この脱脂処理とは、食品安全法で認められている有機溶媒,例えばn-ヘキサンなどで抽出することにより行われる。
本発明に係る脱脂酵素処理魚粉は、好ましくは、脱脂酵素処理魚粉中の脂質含有量が9%未満である。この理由は、脂質含量が9%以上の場合、極性脂質を含む動物油脂又は植物油脂を必要量配合すると、飼料の脂質含量がマグロ属魚類の要求量を越えるため好ましくないからである。脱脂酵素処理魚粉の脂肪酸組成を表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
さらに詳細には、本発明に係る脱脂酵素処理魚粉中、蛋白は65〜80%、好ましくは70〜80%含有されている。
【0020】
脂質源として極性脂質を含む動物油脂又は植物油脂を使用し、この油脂は好ましくは極性脂質を多量に含む。動物油脂又は植物油脂中に極性脂質は、好ましくは20%以上含まれる。前記油脂としては、サケ・マス類の卵巣(スジコ)油が好適に使用できるが、さらに好ましくは、その極性画分にドコサヘキサエン酸(DHA)を多量に含む動物性油脂が使用され、前記DHAを好ましくは20%以上含むスジコ油が好適である。尚、このスジコ油は魚卵から抽出した油脂である。
【0021】
本発明に係る極性油脂は、好ましくはその脂質含量が90%以上、より好ましくは95%以上である。本発明で使用可能なスジコ油の脂肪酸組成の一例を表2に示す。
【0022】
【表2】

【0023】
本発明のマグロ属魚類用飼料中の前記極性脂質を含む動物油脂又は植物油脂の含有量は、好ましくは4〜12%、より望ましくは8〜12%である。但し、飼料中に含まれるその他の成分由来の脂質の総含有量が好ましくは、10〜22%、より望ましくは15〜18%となるように調整される。飼料中の脂質の総含有量が、10%未満或いは22%を超えると、マグロ属魚類の生残率や成長、飼育成績が低下するため、いずれの場合も好ましくない。
【0024】
糖質源としては、活性澱粉が使用される。前記活性澱粉としては、馬鈴薯、キャッサバ、トウモロコシ等の植物性の活性澱粉が挙げられる。本発明のマグロ属魚類用飼料中の活性澱粉の含有量は,好ましくは10%以下、より望ましくは3〜8%である。
従来使用されている他の魚類用の飼料と比較して、マグロ属魚類用飼料中の活性澱粉の含有量は少ない。即ち、一般的な草食又は雑食魚類用の飼料中の糖質成分の配合量は40〜20%であり、マグロ属魚類以外の肉食魚用飼料には、11〜20%程度含有される。このような含有量で、即ち、活性澱粉が10%を超えると、マグロ属魚類の成長や飼育成績が低下するため好ましくない。
【0025】
本発明のマグロ属魚類用飼料のエネルギー含量は、好ましくは5190〜5300kcal/kgである。この範囲のエネルギー含量を有するマグロ属魚類用飼料は、成長や飼育成績に優れる。
【0026】
本発明のマグロ属魚類用飼料には、任意に薬剤、免疫賦活剤、ハーブ、栄養剤等の添加剤を含んでもよい。本発明のマグロ属魚類用飼料は水分を含んだモイストペレット、乾燥したドライペレットあるいはエクストルーダーなどで調製したEP・EXペレットのいずれの形態でも使用できる。
【0027】
本発明のマグロ属魚類用飼料は、マグロ属魚類の成魚又は稚魚のいずれに対しても使用できるが、好ましくはマグロ属魚類の稚魚に対して使用される。前記「稚魚」とは、ふ化後20日程度から初めて成熟するまでの期間(3〜6年)のマグロ属魚類をさす。(或いは、体重が0.1〜150000g、平均尾叉長が2〜150cmであるマグロ属魚類をいう。)
【実施例】
【0028】
以下、実施例に基づいて本発明のマグロ属魚類用飼料を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
<試験例1>マグロ属魚類用飼料のビタミンC配合量に関する試験
マグロ属魚類のビタミンC要求量はこれまで明らかにされていない。そこで、ビタミンCの給源としてアスコルビン酸‐2‐燐酸マグネシウム(APM)を異なる割合で飼料に配合し、肝臓および脳におけるビタミンC含量から、その要求性と適正配合量を明らかにした。
【0029】
(1)供試魚および飼育方法
近畿大学水産養殖種苗センター浦神事業場で、人工種苗生産した平均体重3.05gのクロマグロ稚魚を、15トンコンクリート製八角水槽に60尾ずつ収容して8試験区を設けた。各水槽には30 L/minで濾過海水を注水した。期間中の平均水温は25.1℃、平均溶存酸素量は8.45mg/Lであった。
表3に示した試験飼料組成に従い、試験飼料を作成した。原料を良く混合してから外割で30%の水道水を加え、直径1.4〜1.8mmのペレットに成型し、凍結乾燥機でドライペレットに調製した。飼育期間は14日間とし毎日7:00、9:00、11:00、13:00、15:00および17:00に、各試験飼料を所定の試験区に飽食給与した。なお、試験区は各試験飼料につき2反復区を設けた。
【0030】
試験飼料にはタンパク質源として酵素処理魚粉(BIO-CP/ナガセ生化学品販売(株))を、脂質源としてスケトウダラ肝油9重量部に対してDHA油(70%ドコサヘキサエン酸:播磨化成(株)製)1重量部を混合したものを、糖質源として活性デンプンを、ビタミンおよびミネラル混合物としてHalver処方のものを、ビタミンC源としてアスコルビン酸‐2‐燐酸マグネシウム(APM:昭和電工(株)製)をそれぞれ用いた。また、摂餌促進物質としてグルタミン酸8.5:ヒスチジン232.8:IMP(イノシン酸2Na塩)200.9(重量比)からなる混合物を添加した。尚、前記酵素処理魚粉と摂餌促進物質については特許文献1に記載されているものを使用する。尚、表3中APM‐0、APM‐500、APM‐1000、APM‐2000(0、500、1000、2000mg/kg)とは、ビタミンCが飼料1kg中にそれぞれ、0、200、400、800mg配合されていることを示す。
【0031】
APM‐0、APM‐500、APM‐1000、APM‐2000区それぞれについて、肝臓及び脳のビタミンC含量を測定した。測定は、HPLCを用いる定法により行った。
尚、表3中には試験飼料の一般成分として、粗タンパク質、粗脂質、粗灰分、糖質等と、APM含量を示した。
【0032】
【表3】

【0033】
(2)飼育成績
14日間の飼育成績を表4に示す。期間中にはいずれの試験区でも衝突死が頻繁に起こり、終了時における生残率は20%と顕著に低くなった。しかし、1日1尾当たりの摂餌量、成長率などはAPM‐0区が、他のAPM‐500、APM‐1000およびAPM‐2000区より低かった。
【0034】
APM‐0区では試験開始7日後より、遊泳・摂餌不活発、痩身、群の形成不全などのビタミンC欠乏症と考えられる症状がみられた。
【0035】
【表4】

【0036】
肝臓および脳のビタミンC含量を図1に示す。いずれの臓器における含量もAPM‐1000区からAPM‐2000区にかけて高くほぼ一定の値を維持した。
【0037】
表4で示す飼育成績および図1で示す臓器のビタミンC含量から、マグロ属魚類用飼料中の適正なビタミンC含量は、APMにして500mg/kg飼料前後、ビタミンCとして200mg/kg、好ましくは、APMにして1000mg/kg飼料以上、ビタミンCとして400mg/kg含まれる飼料が優れていることが分かった。なお、飼育試験ではAPM‐500区で終了時の体重が他の区より若干優れていたが、他の項目に大きな差異や一定の傾向がみられなかった。これは,主に飼育期間が短かったためと考えられる。
【0038】
<試験例2>マグロ属魚類用飼料の適正なタンパク質および脂質含量に関する試験
本発明のマグロ属魚類用飼料のタンパク質源として、n‐ヘキサンで脱脂した酵素処理魚粉(BIO-CP/ナガセ生化学販売(株))と、脂質源としてサケ・マス類の卵巣から調製したスジコ油(日清マリンテック(株))を用いた。これら両者の配合量を補足的に5段階に変化させて、タンパク質および脂質の適正な配合割合について検討した。なお、比較・対照としてイカナゴ切餌を与えた。
【0039】
(1)供試魚および飼育方法
近畿大学水産養殖種苗センター浦神事業場で人工種苗生産した平均体重0.26gのクロマグロ稚魚を、15トンコンクリート製八角水槽に200尾ずつ収容して各試験区を設けた。各水槽には30 L/minで濾過海水を注水した。期間中の水温は26.6〜27.1℃、溶存酸素料は7.54〜8.09mg/Lであった。
表5に示した試験飼料組成に従い、試験飼料を作成した。原料を良く混合してから外割で15%の水道水を加え、試験用造粒機で直径0.75〜1.2mmのペレットに調製した。飼育期間は9日間とし毎日5:30、8:00、11:00、13:00、15:00および16:30に、所定の飼料を各試験区に飽食給与した。なお、試験区はそれぞれ2反復区を設けた。
尚、表5には試験飼料の一般成分として、粗タンパク質、粗脂質、粗灰分、糖質などと、爆発熱量計で測定したエネルギー含量を示した。
【0040】
【表5】

【0041】
(2)飼育成績
9日間の飼育成績を表6に示した。終了時における平均体重、平均体長、平均増重率、飼料効率などは、脱脂酵素処理魚粉68%とスジコ油8%を配合した飼料3区が最も優れており、イカナゴ区に比べても全く遜色はなかった。例えば、飼料効率についてみると、3区が120%、次いで4区118%、5区113%、2区112%、1区が94.7%、そしてイカナゴ区が69.2%と最も低かった。
【0042】
【表6】

【0043】
一方、表中の生残率をみると、飼料5区が最も高く飼料1区が最も低かったが、それらは61〜69%の範囲で区間差は僅かであった。なお、これらの多くは噛み合いおよび衝突死が原因であった。
【0044】
飼育成績を総合評価すると、飼料2〜4区で優れていたことから、脱脂酵素処理魚粉の適正な配合割合は62〜74%(飼料粗タンパク質含量約55〜65%)、極性脂質を多く含むスジコ油の適正な配合割合は4〜12%(飼料粗脂質含量約14〜22%)であることが分かった。更に詳細には、飼料3及び4区が特に優れていることを考慮すると、脱脂酵素処理魚粉の適正な配合割合は62〜68%(飼料粗タンパク質含量約55〜61%)、極性脂質を多く含むスジコ油の適正な配合割合は8〜12%(飼料粗脂質含量約17〜22%)であることが分かった。また,適正な飼料タンパク質/脂質比および飼料エネルギー/タンパク質比は,それぞれ2.6〜3.5および35.5〜39.4であった。
【0045】
<試験例3>マグロ属魚類用飼料の適正な糖質含量に関する試験
本発明に係る糖質源には、活性デンプンすなわちα−馬鈴薯デンプンを用いた。試験例2中の表5に示す飼料3を基本にして、活性デンプンの配合量を4段階に変化させ、最適な配合割合について検討した。なお、飼料のタンパク質/脂質比を3.6〜3.8の範囲内とするように調整した。
【0046】
(1)供試魚および飼育方法
近畿大学水産養殖種苗センター浦神事業場で人工種苗生産した平均体重1.65gのクロマグロ稚魚を、15トンコンクリート製八角水槽に150尾ずつ収容して各試験区を設けた。各水槽には30L/minで濾過海水を注水した。期間中の水温は26.3〜26.9℃、溶存酸素量は6.29〜 6.89mg/Lであった。
表7に示した試験飼料組成に従い、試験飼料を作成した。原料を良く混合してから外割で15%の水道水を加え、試験用造粒機で直径3.0mmのペレットに調製した。飼育期間は8日間とし毎日5:30、8:00、11:00、13:00、15:00及び16:30に、所定の飼料を各試験区に飽食給与した。なお、試験区はそれぞれ3反復区を設けた。
尚、表7中には試験飼料の一般成分として、粗タンパク質,粗脂質,粗灰分,糖質などと,爆発熱量計で測定したエネルギー含量を示した。
【0047】
【表7】

【0048】
(2)飼育成績
8日間の飼育成績を表8に示した。終了時における平均体重、平均体長、平均増重率、飼料効率などは、脱脂酵素処理魚粉68%、スジコ油8%および活性デンプン3%の飼料3と、脱脂酵素処理魚粉63.8%、スジコ油7.54%および活性デンプン8%を配合した飼料6を給与した区が同等で優れていた。しかし、活性デンプン配合割合を13および18%と増加させた7および8区で飼育成績は低下した。例えば、飼料効率についてみると、飼料6区が136%、次いで3区127%、7区122%および8区120%の順に低下し、6区と3区の間に有意な区間差はなかったが、6区と7・8区の間に有意差(危険率5%)があった。
【0049】
【表8】

【0050】
一方、表中の生残率をみると、飼料8区が最も高く60.2%であったが、飼料3、6および7区が50%前後で区間差は僅かであった。なお、これらは衝突死が主因であり、魚体が大きくなると頻発することが示されている。
飼育成績が飼料3及び6区で優れていたことから、マグロ属魚類用飼料中の活性デンプンの特に好ましい配合割合は、8%、或いはそれ以下である。
【0051】
前述の試験例を総合評価すると、特に適正な飼料タンパク質:脂質:糖質含量比(重量比)は、65〜80:4〜12:3〜10であり、詳細には、62〜74:8〜12:3〜8である。即ち、重量比が12:3:2前後となるようにタンパク質:脂質:糖質を組み合わせることにより優れた飼育成績を生む飼料を製造することができる。
また、試験例2および3より、エネルギー含量が5190〜5300Kcal/kg飼料(21700〜22170kJ/kg飼料)によって格別優れた飼育成績が得られることが明らかとなった。
【0052】
<試験例4>マグロ属魚類用飼料の有効性に関する試験
本発明の有効性を確認するために,試験例2および3と同一起源のクロマグロ稚魚を供試して、飼料6とイカナゴによる飼育試験を行った。
【0053】
(1)供試魚および飼育方法
近畿大学水産養殖種苗センター浦神事業場で人工種苗生産した平均体重9.5gのクロマグロ稚魚を、40トンコンクリート製円形水槽に145尾ずつ収容して2試験区を設けた。各水槽には60L/minで濾過海水を注水した。期間中の水温は26.3〜26.9℃、溶存酸素料は6.02〜7.32mg/Lであった。
表9に示した試験飼料組成に従い、試験飼料を作成した。原料を良く混合してから外割で10%の水道水を加え、試験用造粒機で直径3.0mmのペレットに調製した。飼育期間は11日間とし毎日6:00、10:00、14:00および18:00に、飼料6とイカナゴ切餌を所定の試験区に飽食給与した。
【0054】
【表9】

【0055】
(2)飼育成績
11日間の飼育成績を表10に示す。終了時における平均体重、平均体長、増重率、飼料効率などは、飼料6区では45.9g、14.6cm、340%および143%、イカナゴ区では46.7g、14.5cm、362%および118%であった。平均体重、体長および増重率に顕著な差異はなかったが、飼料効率は飼料6区がイカナゴ区より優れていた。
【0056】
【表10】

【0057】
表中の生残率をみると、しかしながら、飼料6区が66.1%であり、イカナゴ区の81.8%より顕著に劣った。これは、飼料6区ではイカナゴ区より遊泳活動が活発で、斃死魚には頭部の変形と脊椎骨の骨折が主に認められたことから、飼料組成に問題があるのでなく、単に衝突死が頻繁に生じた結果と考えられる。一方、イカナゴ区では比較的小さくかつやせた個体が多く斃死し、消化管に食塊も認められなかったことから、摂餌不活発によるものと推察される。なお、実際の種苗生産現場では、試験例1〜4で供試した大きさのクロマグロ稚魚は、海面に設置した直径あるいは一辺が8〜12mの網生簀で飼育することから、衝突死の発生は顕著に低くなる。
【0058】
飼料6区の飼育成績がイカナゴ切餌のそれに匹敵していたことから、本発明のマグロ魚類用飼料が、体重50gまでのマグロ属魚類の稚魚に対して、特に好適に使用されることが示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】試験例1における試験魚の肝臓および脳のビタミンC含量を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク源として脱脂酵素処理魚粉、脂質源として極性脂質動物油脂又は植物油脂、及び糖質源として活性澱粉を含有してなるとともに、ビタミンCを200mg/kg以上配合してなるマグロ属魚類用飼料。
【請求項2】
前記ビタミンCの配合量が400mg/kg以上であることを特徴とする請求項1に記載のマグロ属魚類用飼料。
【請求項3】
前記脱脂酵素処理魚粉の含有量が62〜80%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のマグロ属魚類用飼料。
【請求項4】
前記脱脂酵素処理魚粉中の脂質含有量が9%未満であることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載のマグロ属魚類用飼料。
【請求項5】
前記動物油脂又は植物油脂の含有量が4〜12%であることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載のマグロ属魚類用飼料。
【請求項6】
前記動物油脂又は植物油脂中に極性脂質を20%以上含むことを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載のマグロ属魚類用資料。
【請求項7】
前記動物油脂又は植物油脂中にドコサヘキサエン酸(DHA)を16%以上含むことを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載のマグロ属魚類用飼料。
【請求項8】
前記活性澱粉の含有量が10%以下であることを特徴とする請求項1乃至7いずれかに記載のマグロ属魚類用飼料。
【請求項9】
前記マグロ属魚類用飼料のエネルギー含量が5190〜5300kcal/kgであることを特徴とする請求項1乃至8いずれかに記載のマグロ属魚類用飼料。
【請求項10】
前記マグロ属魚類用飼料が、マグロ属魚類の稚魚用飼料であることを特徴とする請求項1乃至9いずれかに記載のマグロ属魚類用飼料。

【図1】
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【公開番号】特開2008−148652(P2008−148652A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−341897(P2006−341897)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】