説明

マジック角スピンプローブ用RFコイル

【課題】静磁界に関して選択された角度、具体的にはマジック角に向けることのできるスピンプローブ用の、より効果的なRFコイルを提供する。
【解決手段】偏向磁界B0に対して角度θの向きに向けられたサンプルに対して使用されるマルチモードRFプローブは、サンプルへの結合が強められた合成RF磁界を生じる。直角コイルまたはソレノイドコイルを、サドルコイルまたは直角コイルと組み合わせて使用することにより、マルチモードが実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核磁気共鳴(NMR)の技術分野に属し、さらに詳しくは、偏向磁界の向きに対して所定の角度に向けられた軸のまわりに回転するサンプルを調べるための、偏向磁界と直交する最適化されたRF磁界を発生することのできるNMRプローブに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴による分析においては、偏向磁界(B0)の方向に対して選択された角度θの方向に向けられたサンプルの回転軸の周囲における一様な偏向磁界の中で、サンプルをωsで高速に回転させ、それによりサンプル中の双極子結合を均し、またサンプルの空間的な不均一性を均すことが知られている。選択される角度は、いわゆるマジック角であることが多く、これは関数3cos2θ−1をゼロにする値と規定され、つまり約54°44’である。
【0003】
サンプルの体積全体にわたってRF磁界(B1)の望ましい分布を実現するには、サンプル(またはサンプル保持容器)の回転軸の方向に向けられたコイル支持構造を有するソレノイドコイルを備えていることが知られている。図1を参照のこと。そのようなソレノイドコイル(ここでは共鳴装置8で表わされている)によって発生されるRF磁界B1sは、回転軸9の方向に向いているが、NMRの応用において重要なのは、偏向磁界B0に垂直なこの磁界の成分、すなわちB1sのx−y平面への投影成分である。単純にするために、回転軸がz−y平面内にあり、偏向磁界B0の方向と回転軸(ソレノイドの軸)との間の角度がθであり、またソレノイドのRF位相がρsであると仮定する。すると以下の式が成り立つ。
【0004】
【数1】

【0005】
ソレノイドによる有効磁界成分はx−y平面上への投影に限られ、従って下記のように整理される。
【0006】
【数2】

【0007】
もしもθがマジック角であれば、そのような従来技術の場合の有効磁界は約0.816B1となる。
軸方向に対称形のプローブコイルがB0に対して傾いて置かれた場合に、原子核のスピンを操作するために利用できるB1磁界を大きくして、共鳴を検出する際の信号雑音比を高くすることが望ましい。近似的な平面(電流ループの面)をソレノイドの軸に対して傾けることにより、ソレノイドRFコイルのソレノイド軸に対して小さな角度をなすRF磁界を発生することが知られている。
【特許文献1】米国特許第6420871号明細書
【非特許文献1】C.E.Hayes他、「1.5Tでの全身NMR撮像のための、効率が良く、非常に一様な高周波コイル」(J.Magn.Reson.,63,622−628)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】

【0009】
そこで本発明の目的は、静磁界に関して選択された角度、具体的にはマジック角に向けることのできるスピンプローブ用の、より効果的なRFコイルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
サドルコイルおよびバードケージコイルの形状はそれぞれ、ソレノイド/サンプルの回転軸と同一と見なすことのできるそれらの形状的な対称軸に垂直な平面内でRF磁界を発生する。
各々同一の共鳴周波数に同調された、角度について変位させられた一対のRFポートを有するバードケージコイルは、(励起されると)平面偏向されたRF磁界を発生する。2つの振幅が等しく、角度変位が90°であり、また位相差がπ/2である場合は、偏向はバードケージコイルの正中面内において円偏向となる。(本発明は直角モード/円偏向に制限されず、場合よっては、x−y平面上に投影された円偏向を生じるためには、楕円偏向が望ましいことがある。)単純にするために、円偏向という場合は楕円偏向を含むこととし、直角モードはマルチモードコイルを一般的に表わすものとする。Z方向の偏向磁界B0に対してその軸が角度θの方向に向いて配置された直角バードケージコイルは、やはり図1の共鳴装置8と同一視できる。回転軸がz−y平面内にあると考えられ、2つの(直角)モードが等しい振幅を有し、また位相ρBとρB+π/2とで特徴づけられる場合、分析が単純化される。
【0011】
【数3】

【0012】
NMR励起現象にはxとyとだけが寄与することに注意すると下記のようになる。
【0013】
【数4】

【0014】
これら2項は、RF磁界成分(平面P内で振動している)を表すものと考えられる。バードケージコイルの偏向面はその円筒形の軸と直交する平面であり、それが適切である場合はP平面と呼ばれる。2つのモードに対して振幅が等しいという条件を緩めると、平面P内で楕円偏向した波が得られる。これらの振幅の適切な選択により、以下で説明するように、平面P上での楕円偏向が円偏向した波としてx−y面上に投影される。
【0015】
サドルコイルは、その対称軸をB0に対して角度をつけて配置することができる。1つのサドルコイルは、コイルの誘導性部材を横断する、すなわちコイルの対称軸を横断する平面内で、直線偏向を生じる。サドルコイルを、その形状の軸の回りに回転させてその偏向の軸をB0と垂直な平面内に向けて、それによりサンプル回転軸の所望の向きに対してRF磁界を最適化することができる。
【0016】
平面偏向または直線偏向したRF磁界をソレノイド磁界にベクトル的に加算することにより、合成されたRF磁界のベクトルを一様な磁界B0と直交する平面上に投影したものが、ソレノイドの磁界成分のみの場合よりも大きくなるようにすることができる。RF磁界をB0と直交するx−y平面上に投影したものが大きくなることは、NMR励起にとってより有効であり、また励起する上でサンプルとの結合を強めることを可能にする、この同じ特徴が、サンプルの共鳴脱励起に対するより密接な結合をも促進するのである。
【0017】
本発明によるスピンNMRプローブは、サンプルを収納する容器と、ゼロではない所定の角度(例えばマジック角)をなす回転軸の回りに容器を回転する手段とだけではなく、サンプルの周囲に配設されてサンプル容器の回転軸に沿って配置されたサドルコイル共鳴装置またはマルチモード共鳴装置と、サドルコイルまたはマルチモード共鳴装置を励起する手段とをも備え、それにより回転軸に垂直な主要成分を有する合成磁界B1を発生することを特徴とする。最も一般的なNMRの用途では、直角コイルがマルチモード共鳴装置を構成するので、本願において直角コイルという場合、該当するならばもっと一般的なマルチモードコイルを含むものと理解すべきである。直角コイルは、その中心軸と平行に延設された棒を有する近軸バードケージコイルであってもよい。従来技術によるソレノイドコイルの代わりに、直角検出/励起でそのようなコイルを使用すると、それによって発生されるB1(P)磁界はその対称軸と(また同時にサンプル容器の回転軸とも)垂直となる。本発明によるB1(P)磁界は、直角コイルのインダクタを横切る平面P内で回転する回転ベクトル(円偏向または楕円偏向した磁界)によって特徴づけられる。
【0018】
本発明のある実施形態においては、平面P内で回転し、または平面P内の軸に沿って振動するベクトルB1(P)は、他のベクトルB1(S)、例えばB1(P)に対して選択された位相差を有する同一の共鳴周波数に同調された軸方向磁界と結合し、合成磁界B1を発生する。B1(P)とB1(S)とが互いに直交すると仮定する。最も一般的な場合では、この合成ベクトルの先端はかなり複雑な3次元リサージュ曲線を描く。本発明のように2つの成分の周波数が同一であれば、複雑さは大幅に軽減される。サドルコイルが平面P内でRF磁界を発生する場合、B1(P)はP内の選択された軸に沿って直線偏向し、また軸方向の磁界B1(S)と組み合わされて、合成ベクトルの先端は、ソレノイドの軸とサドルコイルの磁気の軸とを含む平面内で2次元リサージュ曲線を描く。全体として本発明によれば、B1(P)と結合されたベクトルB1(S)を有する実効RF磁界の総和は、マジック角の方向に向けられた単純なソレノイドを使用する従来技術における0.816B1よりも大きくなる。磁気共鳴の実効性を示す量は、偏向磁界B0が直交する平面内にあるB1のRF磁界成分の相対強度である。そのようなB1磁界が傾いて、B0と平行な成分を与えるのは、B0に対してある角度に傾いたRF磁界B1が共鳴装置によって実現したときであり、この平行な成分は共鳴の励起に対して無効である。共鳴励起を最大にするには、B0と直交するx−y平面上へのB1の投影を最大にすることが望ましい。
【0019】
周波数ω0で互いに直交するRF磁界成分を発生する2つのコイルを組み合わせて、選択された向きの成分を有するRF磁界を発生するNMRプローブを構成することができる。上で説明したバードケージコイルを同軸に配設されたソレノイドと組み合わせ、一方のコイルを他方のコイルの中に配設することにより、そのような選択された方向のRF磁界が形成される。z方向からθだけ傾いた軸に沿った向きに配設されたソレノイドによるRF磁界を加えた場合に(およびy−z平面内での表記の便宜のため)式2の単純な一般化が、y上に投影されたソレノイド磁界の成分B1Sを付け加えることで、以下のように得られる。
【0020】
【数5】

【0021】
この場合、バードケージコイルは直交する2つのRFモードを与え、ソレノイドは第三のRFモードを与える。3つのチャンネルを形成するそのようなプローブから3つの別々のRFポートを引き出すことができ、それらは例えば3つの並列RF源、または同時に(並列に)励起または検出するための受信器に接続することができる。
サドルコイルとソレノイドコイルとを同軸状に組み合わせることが、本発明の別の例である。
【0022】
本発明の別の例である単一コイルの実施形態によれば、直角コイルはその中心軸の回りで螺旋状に配設された棒を有する斜めの、または螺旋形のバードケージコイルであり、斜めの各一巻きが、回転軸と磁界B0の方向との間の角度と等しいゼロでない角度を回転軸に対してなす法線ベクトルを規定する。すると2つの直角モードが両方とも磁界B0と直交し、それにより最大の形状(幾何学的)効果が得られる。斜めの形状により軸方向の成分が得られ、それにより単一のバードケージコイルが偏向磁界に対して選択された向きに、特徴的に大きな体積で一様なRF磁界を発生し、サンプルとの共鳴結合の強化を実現する。
【0023】
マルチ同調構成を有するプローブが、マルチ同調コイル、例えば磁界B0の方向に関して傾斜角度を持って配設された近軸バードケージコイルを、上で述べたように斜めの棒の変形を持つ別のバードケージコイルの内部に配設することにより構成できる。
より一般的には、本発明のプローブは、サドルコイルおよびソレノイドコイルのような任意の2つの直交B1コイルであってもよく、これらのコイルは、両方とも共通の共鳴特性と選択された位相差とを有するコイルである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図面が複雑になるのを避けるために、添付図の全てにおいてサンプル容器およびそれを回転させる手段は図示してない。コイルに接続された回路は、以下の図面では「チャンネル」として模式的に示してある。
本発明を実施するためのNMRシステムは、一様な静磁界を発生する磁石、NMR現象を励起するためのRF源、および核磁気共鳴信号を検出するためのRF受信器を含む。励起と検出とが同時には行われない機能である限り、必要であれば両方の機能に同じ共鳴装置が利用できる。送信/受信スイッチにより、励起源の検出器からの分離を維持しながらコマンドプロセッサの状態に従って共鳴装置が励起源および検出器のいずれかと通信を行うことが保証される。そのようなシステムは当該技術において既知のものである。
【0025】
本発明の多くの実施形態を以下に説明する。これらは、ファイリングファクター、同調範囲、RF磁界の一様性、電力効率などのある種の特性に関しての兼ね合いや妥協を表すものである。
図2は、大きな磁石5によって発生された一様な偏向磁界B0と円筒形の直角バードケージコイル10との間の空間的な関係を模式的に示すもので、このコイルは例えば非特許文献1で開示されたような既知のものであり、円筒形の中心軸に関して軸方向に互いに離れて配設された一対の導電性のループ素子12と、前記各ループ素子の間に延設されてそれらを電気的に接続して静電容量(図示せず)を与える複数の導電性部材(棒(ラング))15とを有する。バードケージコイル10の中には、分析対象のサンプルを収納する容器20が配設される。説明の便宜のために、直交座標系を使用する。z軸は一様な偏向磁界B0の方向に延びるものと規定され、回転するかまたは他の方法で向きを付けられたサンプルの回転軸は、円筒形のバードケージコイル10の中心軸がy−z平面内にあり、z軸と所定の角度θをなすように規定される。サンプル容器20は、典型的なマジック角の実験ではこの中心軸の回りに回転するようになされる。サンプル容器20を回転させる手段は図2では模式的に「MOTOR」とだけ示してある。その他の図では、図面が複雑になるのを避けるために、サンプル容器20とそれを回転させる手段とは図示してない。
【0026】
直角コイルとして機能する円筒形のバードケージコイル10は既知の方法で駆動され、それにより発生されるB1磁界が、z軸と角度θをなす(平面偏向した)中心軸に垂直であり、かつその中心軸の周囲で方位角方向にその向きを変化させるようにする。しかし上で説明したように、NMRの応用において重要なのは、偏向磁界B0に垂直な平面偏向したB1磁界の成分である。RFの1周期の間に2回、B1磁界が(瞬間的に)x軸と平行になり、その結果、全B1ベクトルが偏向磁界B0と直交する。B1磁界が(瞬間的に)y−z平面内に入り、z方向に対してθだけ傾斜すると、偏向磁界B0と直交するその成分は、B1cosθ、またはθがマジック角であれば(1/31/2)B1となる。理想的なコイルという制限内で、RF源から供給された電力が同じであれば、本発明は従来技術と比べて3/2倍のRF電力をマジック角での共鳴スピンシステムに結合する。従来技術のコイルと本発明の実施形態とに同一の電力が供給されれば、共鳴スピンシステムに結合される電力は下記のようになることが一般的に示される。
【0027】
【数6】

【0028】
そのように使用されるバードケージコイルはまた、高いフィリングファクターおよび優れたRFの一様性という利点をも有する。
図3および4は、本発明の第二の実施形態による別のスピンプローブを示すが、これは図2に示すように一様な偏向磁界B0に関して配設された円筒形の直角バードケージコイル10だけでなく、同軸状のソレノイドコイル30も有することで特徴づけられる。同軸配置のコイル10および30は、視覚的にわかりやすいように軸方向に変位されたように描かれている。これらのコイルはそれらの共通の軸の上で(定性的に)同一の広がりを有することが好ましい。図3に示した例では、ソレノイドコイル30は円筒形のバードケージコイル10よりも小さな半径を有し、それと同軸の関係でバードケージコイル10の中に挿入される。図4に示した例では、ソレノイドコイル30は円筒形のバードケージコイル10よりも大きな半径を有し、バードケージコイル10は同軸の関係でソレノイドコイル30の中に挿入される。
【0029】
本発明のこの実施形態によるプローブは、互いに直交する2つのコイル、すなわち直角(またはもっと一般的にはマルチモード)バードケージコイルおよびソレノイドコイルを有していると言うことで本質的に特徴づけることができ、この組み合わせはそれぞれ3つのRFチャンネルと通信を行う3つのポートを備え、直角バードケージコイルのそれぞれのポートおよびソレノイドの第三のポートから引き出された互いに直交する2つのモードをサポートする。この構成は典型的な設定条件において3つの調整可能なパラメータを持っている。1つの直角モードの振幅および位相に参考値を割り当てることで、任意に選んだ向きθに対するx−y面上の円偏向を実現するための第二の直角モードの位相および振幅、ソレノイドの位相および振幅を選ぶことができる。いくつかのチャンネルにおける要素に対するRF電力仕様を緩和した3つのチャンネルにわたって、この実施形態で励起に利用できる、より大きなRF電力が分散されることも認識される。

【0030】
図6は本発明の更に別の実施形態によるプローブであり、図2に示した平行棒(ラング)を有するバードケージコイルの代わりに、斜めの直角バードケージ50を有することを特徴とするものを示す。バードケージコイルは近軸の棒または斜めの棒を有する形状とすることができる。図2〜図4に示すように、近軸の棒バードケージコイルは、その軸方向に平行に延設された棒を有する。螺旋形、すなわち斜めバードケージコイルは、バードケージの円筒形表面の円周に沿ってねじれた斜めの棒55を有し、バードケージコイルの端部/リング部材上の各点で円周に沿って配置された対応する各点の間に真っ直ぐな棒を(円筒面上で)構成し、または棒が円筒面上で曲線を描く。斜めバードケージコイルは一様性を向上するために使用されてきており、共通の譲受人に譲渡された特許に係る上記特許文献1に開示されている。
【0031】
本発明のこの実施形態によれば、斜めの棒はコイルの中心軸に対して、コイルの中心軸とz軸、例えば一様な磁界の方向B0との間の角度と同じ角度だけ傾斜している。本発明において棒の傾斜角をそのように選択すると、斜めバードケージ共鳴装置の2つの直角モードは両方ともB0に垂直となるが、これは従来技術の単一モード軸方向磁界または従来技術の傾斜巻き線ソレノイドで得られるほぼ軸方向の磁界とは対照的である。本実施形態において得られるRF磁界は更に、磁界が各横方向の正中面(対称軸と直交)内で一様であり、斜めの誘導性棒の対称軸との相対的角度に従って回転するという、螺旋対称構造によって特徴づけられる。
【0032】
対応するポートを駆動する電力源からのRFエネルギーの結合の最大化などの利点を得るために、ある種のパラメータの選択が望まれる。共鳴装置(複数の場合もある)に供給されるRF電力のうち、B0の回りで歳差運動を行う核スピンを伴う共鳴を励起する唯一の部分は、B0と直交するRF磁界の部分によって表わされるものである。更に、歳差運動を行う核スピンは、歳差運動スピンと同一の回転方向を有する磁界の(B0と直交する)部分からのエネルギーだけを吸収する。x−y平面内で平面偏向したB1磁界は、これらの共鳴スピンへの最大の結合を得るために円偏向させられる。x−y平面内での円偏向は、x−yと交差する平面内での楕円偏向を意味する。共鳴装置の正中面P内での平面偏向で特徴づけられる図2の実施形態では、2モードのバードケージコイルがω1=ω2という関係で特徴づけられ、位相はρ2=ρ1+π/2となる。図1aに示すように、x軸上で振動するモードの振幅Lは前記平面上の楕円偏向の短軸に取られ、長軸の振幅Mはx−y平面上に投影されたときに投影された振幅が等しくなるように選ばれる。従って次の式が成り立つ。
【0033】
【数7】

【0034】
これによって、それぞれのポートに与えられる相対的な振幅が求められる。サドルコイルがx軸に向けられた振幅Lの単一モードを与え、ソレノイドの磁界のy方向への投影がMcosθとなる図5の実施形態に対して同じ関係が得られ、従って共鳴スピンに最適なRFエネルギーを結合するための振幅関係の選択が得られることが明らかであろう。

【0035】
【数8】

【0036】
円偏向状態においてx−y平面上に投影されたRF電力を最大にするためのパラメータの好ましい選択は、ソレノイド位相ρsが(等しい振幅、B1B)バードケージモードのうちの1つの位相と等しく、次式が成り立つようなものであることが明らかである。
【0037】
【数9】

【0038】
この式はx−y平面への投影モード(円偏向)の等しい振幅に対する条件であり、それにより次式が成り立つ。
【0039】
【数10】

【0040】
このバードケージ/ソレノイドの実施形態によれば、バードケージ共鳴装置に対して指定された全RF電力をx−y平面上の円偏向状態で消費することが可能になり、この条件はθの任意の値に対して満足することができる。
図7は本発明の更に別の実施形態によるマルチ同調された構成であり、上で説明して図6に図示したように、別の斜め直角バードケージコイル50の内部に同軸状に挿入された図2に示された近軸直角バードケージコイル10を有するものを示す。(コイル10および50は、視覚的にわかりやすいように軸方向に変位されたように描かれている。これらのコイルは、それらの共通の軸の上で定性的に同一の広がりを有することが好ましい。)同軸に配設された2つの直角バードケージコイルは、近軸および/または斜め形状のバードケージの任意の組み合わせであってもよい。そのようなコイルは各々対応する共鳴核スピンの種類に応じて別々に同調される。この実施形態は、マジック角で行われる二重共鳴実験を目指した図2および図6の実施形態を拡張したものである。
【0041】
わずかな数の実施形態および実施例を例示して本発明を説明してきたが、これらは本発明の範囲を制限するものではない。本発明の範囲内で多くの変形や変更が可能である。例えば図7の直角バードケージコイル10および50は、近軸直角バードケージコイル10の内部に挿入された斜めの直角バードケージコイル50に置き換えることができる。更に、本発明はそのいくつかの実施形態において、上で述べた選択以外の調整可能なパラメータを提供するが、これらは与えられた平面上での円偏向またはスピン共鳴として消費される最大電力の実現ということ以外の基準を満足するように選択することができる。ここに述べる本発明の具体的な応用はマジック角の傾斜を有するNMR実験であるが、固定した方向に関して傾斜したRF磁界の向きを操作することが、本発明の中心的な局面である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】ここで重要となるRF磁界を特徴づける形状を示す。
【図1a】RF磁界を示す図である。
【図2】本発明を実施するマジック角スピンプローブの模式的な側面図であり、その各成分の方向の関係を示す。
【図3】本発明の第二の実施形態によるマジック角スピンプローブで、ソレノイドコイルを含むものの模式的な側面図である。
【図4】図3の変形例であり、外側のソレノイドコイルと内側の直角コイルとを有するものを示す。
【図5】本発明の第二の実施形態の変形例によるサドルコイルを備えているマジック角スピンプローブの模式的な側面図である。
【図6】本発明の第三の実施形態によるマジック角スピンプローブで、斜めバードケージコイルを有するものの模式的な外面図である。
【図7】2つの直角バードケージコイルを有するマルチ同調のマジック角スピンプローブの模式的な外面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏向磁界B0とともに使用されるNMRプローブであって、
円筒形状の軸Rを有する共鳴装置であって、前記軸RがB0に対して角度θだけ傾斜しており、それぞれ異なる位相および方向を有する複数のRF磁界を維持する共鳴装置と、
前記円筒形状の軸に沿って長細いサンプルを保持するサンプル保持器とを含むNMRプローブ。
【請求項2】
前記円筒形状の軸Rの回りに前記サンプルを回転させるための回転器を更に含む、請求項1記載のNMRプローブ。
【請求項3】
前記共鳴装置が、バードケージコイルを含み、このバードケージコイルがこのバードケージコイルの2つの直角モードを動作状態に維持するための2個の互いに分離されたポートを有し、前記モードが各々ω1で共鳴する、請求項1記載のNMRプローブ。
【請求項4】
RF磁界B1を励起するためのRF源を含み、前記磁界B1は前記円筒形状の軸Rと直交する平面内で楕円偏向しており、B0と直交する平面上に前記楕円偏向した磁界を投影したものが円偏向となる、請求項3記載のNMRプローブ。
【請求項5】
前記バードケージコイルが近軸インダクタを含み、前記プローブが更に前記バードケージコイルと同軸状かつ同一の広がりを有するように配設されたソレノイドコイルを含み、また前記ソレノイドコイルがω1で共鳴する、請求項3記載のNMRプローブ。
【請求項6】
0と直交する平面上への前記磁界B1の投影が円偏向した磁界を含むように、前記ソレノイドコイルを励起して前記直角モードと組み合わせて合成RF磁界B1を発生するための別の分離したRFポートを、前記ソレノイドコイルが含む、請求項5記載のNMRプローブ。
【請求項7】
前記バードケージコイルが斜めのインダクタを含む、請求項3記載のNMRプローブ。
【請求項8】
前記共鳴装置が、周波数ω1で共鳴して前記円筒形状の軸RおよびB0に直交する磁気的な軸を有するサドルコイルと、周波数ω1で共鳴するソレノイドコイルとを有し、前記ソレノイドコイルが前記サドルコイルと同軸状かつ同一の広がりを有するように配設されている、請求項1記載のNMRプローブ。
【請求項9】
前記サドルコイルが第一のRFチャンネルを有し、前記ソレノイドコイルが第二のRFチャンネルを有し、B0と直交する平面上への前記RF磁界の投影が円偏向した磁界を含むように、合成RF磁界を発生する、請求項8記載のNMRプローブ。
【請求項10】
偏向磁界B0を発生する磁石と、
RFエネルギー源と、
選択された周波数および位相でのRFエネルギーを検出および分解するためのRF受信器と、
円筒形状の軸Rを有する共鳴装置を有するRFプローブであって、前記軸RがB0に対して角度θだけ傾斜しており、前記共鳴装置がそれぞれ異なる位相および方向を有する複数のRF磁界を維持するRFプローブとを含むNMRシステム。
【請求項11】
前記RFプローブが、前記円筒形状の軸Rに沿って長細いサンプルを保持して前記軸Rの回りに前記サンプルを回転させるための保持器を更に含む、請求項10記載のNMRシステム。
【請求項12】
対称軸を有する円筒対称形のNMRプローブ内にRF磁界を形成する方法であって、前記RF磁界が前記対称軸に対して傾斜した別の軸B0に関して望みの方向を示し、
(a)共鳴周波数がω0かつ位相がρ1のときに、前記対称軸に沿った向きの第一のRF磁界の振幅A1を発生するエネルギーを供給する工程と、
(b)前記工程(a)とほぼ同時に、共鳴周波数がω0かつ位相がρ2で前記対称軸に垂直な平面内で第二のRF磁界の振幅A2を発生するエネルギーを供給する工程とを含む方法。
【請求項13】
円偏向した波がB0と直交する平面上に投影されるように、位相差ρ2−ρ1、A1およびA2を選ぶ工程を含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記第二のRF磁界が、B0と直交する前記平面内で直線偏向している、請求項13記載の方法。
【請求項15】
対称軸を有する円筒対称形のNMRプローブ内に平面偏向したRF磁界を形成する方法であって、前記対称軸が前記対称軸に対して傾斜した別の軸B0に関して望みの方向を示し、
(a)前記対称軸と直交する平面内でベクトル振幅A1を有する第一のRF磁界を発生するエネルギーを供給する工程であって、前記第一のRF磁界が共鳴周波数ω0、振幅A1および位相ρ1を有する工程と、
(b)前記工程(a)とほぼ同時に、前記対称軸と直交する平面内で前記ベクトル振幅A1と直交する前記ベクトル振幅A2を有する第二のRF磁界を発生するエネルギーを供給する工程であって、前記第二のRF磁界が共鳴周波数ω0および位相ρ1+π/2を有する工程とを含む方法。
【請求項16】
前記対称軸に沿ったベクトル振幅A3を有する第三のRF磁界を発生するエネルギーを供給する工程を更に含み、前記第三のRF磁界は共鳴周波数ω0および位相ρ3を有し、前記工程(a)および前記工程(b)とほぼ同時である工程を更に含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記対称軸を、B0に関してマジック角の方向に向ける工程を含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記共鳴装置が、ω1で共鳴する第一のバードケージコイルと、ω2で共鳴する第二のバードケージコイルとを含み、前記第一および第二のバードケージコイルが同軸状かつ同一の広がりを有するように配設されている、請求項2記載のNMRプローブ。
【請求項19】
少なくとも1つの前記バードケージコイルが、斜めのインダクタを含む、請求項18記載のNMRプローブ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏向磁界B0とともに使用されるNMRプローブであって、
円筒形状の軸Rを有する共鳴装置であって、前記軸RがB0に対して角度θだけ傾斜しており、それぞれ異なる位相および方向を有する複数のRF磁界を維持する共鳴装置であって、この共鳴装置は、RFコイルを含み、このRFコイルは、このコイルの2つの直角モードを動作状態に維持するための、2個の互いに分離されたポートを有し、前記モードが各々ω1で共鳴する共鳴装置と、
RF磁界B1を励起するためのRF源であって、前記磁界B1が前記円筒形状の軸Rと直交する平面内で楕円偏向しており、B0と直交する平面上に前記楕円偏向した磁界を投影したものが円偏向となるRF源と、
前記円筒形状の軸に沿って長細いサンプルを保持するサンプル保持器とを含むNMRプローブ。
【請求項2】
前記円筒形状の軸Rの回りに前記サンプルを回転させるための回転器を更に含む、請求項1記載のNMRプローブ。
【請求項3】
前記共鳴装置が、ω1で共鳴する第一のバードケージコイルと、ω2で共鳴する第二のバードケージコイルとを含み、前記第一および第二の共鳴装置が、同軸状かつ同一の広がりを有する、請求項2記載のNMRプローブ。
【請求項4】
少なくとも1つの前記バードケージコイルが、斜めのインダクタをを含む、請求項3記載のNMRプローブ。
【請求項5】
前記共鳴装置が、バードケージコイルを含む、請求項1記載のNMRプローブ。
【請求項6】
前記バードケージコイルが近軸インダクタを含み、前記プローブが更に前記バードケージコイルと同軸状かつ同一の広がりを有するように配設されたソレノイドコイルを含み、また前記ソレノイドコイルがω1で共鳴する、請求項記載のNMRプローブ。
【請求項7】
0と直交する平面上への前記磁界B1の投影が円偏向した磁界を含むように、前記ソレノイドコイルを励起して前記直角モードと組み合わせて合成RF磁界B1を発生するための別の分離したRFポートを、前記ソレノイドコイルが含む、請求項記載のNMRプローブ。
【請求項8】
前記バードケージコイルが斜めのインダクタを含む、請求項記載のNMRプローブ。
【請求項9】
前記共鳴装置が、周波数ω1で共鳴して前記円筒形状の軸RおよびB0に直交する磁気的な軸を有するサドルコイルと、周波数ω1で共鳴するソレノイドコイルとを有し、前記ソレノイドコイルが前記サドルコイルと同軸状かつ同一の広がりを有するように配設されている、請求項1記載のNMRプローブ。
【請求項10】
前記サドルコイルが第一のRFチャンネルを有し、前記ソレノイドコイルが第二のRFチャンネルを有し、B0と直交する平面上への前記RF磁界の投影が円偏向した磁界を含むように、合成RF磁界を発生する、請求項記載のNMRプローブ。
【請求項11】
偏向磁界B0を発生する磁石と、
RFエネルギー源と、
選択された周波数および位相でのRFエネルギーを検出および分解するためのRF受信器と、 円筒形状の軸Rを有する共鳴装置を有するRFプローブであって、前記軸RがB0に対して角度θだけ傾斜しており、前記共鳴装置がそれぞれ異なる位相および方向を有する複数のRF磁界を維持し、前記RF磁界が前記円筒形状の軸Rと直交する平面内で楕円偏向しており、B0と直交する平面上に前記楕円偏向した磁界を投影したものが円偏向となるRFプローブとを含むNMRシステム。
【請求項12】
前記RFプローブが、前記円筒形状の軸Rに沿って長細いサンプルを保持して前記軸Rの回りに前記サンプルを回転させるための保持器を更に含む、請求項1記載のNMRシステム。
【請求項13】
対称軸を有する円筒対称形のNMRプローブ内にRF磁界を形成する方法であって、前記RF磁界が前記対称軸に対して傾斜した別の軸B0に関して望みの方向を示し、
(a)共鳴周波数がω0かつ位相がρ1のときに、前記対称軸に沿った向きの第一のRF磁界の振幅A1を発生するエネルギーを供給する工程と、
(b)前記工程(a)とほぼ同時に、共鳴周波数がω0かつ位相がρ2で前記対称軸に垂直な平面内で第二のRF磁界の振幅A2を発生するエネルギーを供給する工程と
(c)円偏向した波がB0と直交する平面上に投影されるように、位相差ρ2−ρ1、振幅A1およびA2を選ぶ工程とを含む方法。
【請求項14】
前記第二のRF磁界が、B0と直交する前記平面内で直線偏向している、請求項13記載の方法。
【請求項15】
対称軸を有する円筒対称形のNMRプローブ内に平面偏向したRF磁界を形成する方法であって、前記対称軸が前記対称軸に対して傾斜した別の軸B0に関して望みの方向を示し、
(a)前記対称軸と直交する平面内でベクトル振幅A1を有する第一のRF磁界を発生するエネルギーを供給する工程であって、前記第一のRF磁界が共鳴周波数ω0、振幅A1および位相ρ1を有する工程と、
(b)前記工程(a)とほぼ同時に、前記対称軸と直交する平面内で前記ベクトル振幅A1と直交する前記ベクトル振幅A2を有する第二のRF磁界を発生するエネルギーを供給する工程であって、前記第二のRF磁界が共鳴周波数ω0および位相ρ1+π/2を有する工程と
(c)前記対称軸に沿ったベクトル振幅A3を有する第三のRF磁界を発生するエネルギーを供給する工程であって、前記第三のRF磁界は共鳴周波数ω0および位相ρ3を有し、前記工程(a)および前記工程(b)とほぼ同時であり、前記振幅および前記位相は、B0と直交する平面内に投影された円偏向波を生成するように選択される工程とを含む方法。
【請求項16】
前記対称軸を、B0に関してマジック角の方向に向ける工程を含む、請求項1記載の方法。

【図1】
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【図1a】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−503287(P2006−503287A)
【公表日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−544757(P2004−544757)
【出願日】平成15年9月16日(2003.9.16)
【国際出願番号】PCT/US2003/029321
【国際公開番号】WO2004/036234
【国際公開日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【出願人】(599060928)バリアン・インコーポレイテッド (81)