説明

マスキング治具

【課題】マスキングの作業性を向上し再利用を可能とする。
【解決手段】ノズル2のマスキング部位3を覆う治具本体51をシリコン系ゴムで形成し、治具本体51に、ノズル2の圧入部25に挿入される軸部52と、圧入部25が挿入されるリング状凹部53と、ノズル2の凸状段部24に当接する凹状段部54を設ける。軸部52の先端部61は溝部33の側壁62に密着し、リング状凹部53の壁面は圧入部25外周面に密着する。治具本体51の先端面81にリング状のリップ82を形成し、先端へ向かうに従って外側に広がる形状とする。リップ82は治具本体51でマスキング部位3を覆った状態でマスキング部位3を包囲し、リップ82の内側に生ずる負圧によって治具本体51をノズル2に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物のマスキング部位を覆うマスキング治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サスペンションアームには、後工程でブレーキ装置や車輪を取り付ける為に塗装を施さない塗装不要箇所が設定されており、このサスペンションアームを塗装する際には、前記塗装不要箇所を覆うマスキング治具が考案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
このマスキング治具をサスペンションアームに取り付ける際には、シール部が装着された胴体部にサスペンションアームの軸部を挿入し、前記胴体部に設けられたナットを軸部のネジに螺合して行くことで、当該マスキング治具の面接部をサスペンションアームの座面に圧接してシールするように構成されている。
【0004】
このようなマスキング治具では、ネジにナットを螺合して対象箇所との密着状態を形成する構造上、ネジを備えない箇所には、取り付けることができないという問題があった。
【0005】
このため、このようなネジを備えないマスキング部位をマスキングする場合、このマスキング箇所にテープを貼着したり、樹脂塗料を塗布してマスキング処理を行った後に、次処理を行うことが考えられる。
【0006】
また、このマスキング処理は、メッキやショットブラスティング等を行う際にも利用されている。
【特許文献1】特開2002−263534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このようなテープを用いたマスキング方法にあっては、作業者によりマスキングの仕上がりにバラツキが発生し、マスキングによるシール性が不十分となる場合がある。
【0008】
また、樹脂塗装によるマスキングにおいては、マスキング性は良いが、塗料の塗布や乾燥に時間を要するという問題があった。
【0009】
そして、両者いずれの方法であっても、マスキング剤を再利用することができないので、コスト高となってしまう。
【0010】
本発明は、このような従来の課題に鑑みてなされたものであり、マスキングの作業性を向上すると同時に再利用可能なマスキング治具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために本発明のマスキング治具にあっては、対象物のマスキング部位を覆う治具本体に、該治具本体を前記対象物に固定する固定部を設け、前記治具本体で前記マスキング部位を覆った状態で該マスキング部位を包囲し当該マスキング部位の外周部に密着する弾性を有したリップを前記治具本体に設けるとともに、前記リップを先端へ向かうに従って外側に広がる形状に形成して当該リップの内側に生ずる負圧で前記治具本体を前記対象物に固定する前記固定部を構成した。
【0012】
すなわち、対象物をマスキングする際には、治具本体でマスキング部位を覆うとともに、この状態において、前記治具本体に設けられた固定部によって前記対象物に固定する。
【0013】
このとき、この固定部は、前記マスキング部位を包囲するとともに当該マスキング部位の外周部に密着する弾性を有したリップで構成されており、このリップは、先端へ向かうに従って外側に広がる形状に形成されている。
【0014】
このため、前記リップを対象物に押し付けて外側へ広げるように弾性変形した際には、このリップの復元力によって当該リップの内側に負圧が生じ、この負圧により前記リップが前記対象物に密着した状態で前記治具本体が前記対象物に固定される。
【0015】
このマスキング状態において、前記対象物にメッキや塗装やショットブラスティング等を施す。その後、このマスキング治具は、前記対象物から取り外され、再利用される。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明のマスキング治具にあっては、固定部を構成するリップを対象物に押し付けて変形するだけで、当該リップによる吸盤作用によって治具本体を対象物に固定することができる。
【0017】
このため、ネジにナットを螺合して固定する従来と比較して、ネジを備えない箇所であっても取り付けることができ、マスキングを行うことができる。また、取付時には、前記リップを対象物に押し付けて変形するだけなので、マスキング時の作業性が向上する。
【0018】
このとき、この取付状態では固定部を構成するリップがマスキング部位を包囲するとともに、当該マスキング部位の外周部に密着する。このため、対象物との密着性を確保することができるので、十分なシール性を得ることができる。
【0019】
そして、このマスキング状態にある前記対象物にメッキや塗装やショットブラスティング等を施した後において、前記リップで構成された吸盤内に空気を流入し、吸盤効果を解除することによって、当該マスキング治具を前記対象物から取り外すことができる。
【0020】
これにより、当該マスキング治具を再利用することができる。
【0021】
したがって、マスキングの作業性を向上すると同時に、再利用を繰り返し可能とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の一実施の形態を図に従って説明する。図1は、本実施の形態にかかるマスキング治具1を示す図であり、該マスキング治具1は、対象物としてのノズル2をメッキする際に、そのマスキング部位3を覆うものである。
【0023】
すなわち、前記ノズル2は、電磁弁の構成部品であり、当該ノズル2には、電磁弁への流体の通流経路を構成する通流穴11が設けられている。この通流穴11は、ノズル先端に開口するとともに、ノズル側面に開口した側面開口部12,・・・に連通している。
【0024】
前記ノズル2の基端部は、大径に形成されており、この大径部21の周面には、Oリングが装着されるOリング溝22が形成されている。この大径部21の基端面23には、基端側に突出した凸状段部24が中央部に設けられており、該凸状段部24の中央には、円筒状の圧入部25が突設されている。
【0025】
該圧入部25が形成する圧入穴31は、前記通流穴11に連通しており、該通流穴11と前記圧入穴31との接続部分には、ノズル内周面32に沿って溝部33が形成されている。これにより、前記ノズル2の内径寸法は、前記圧入穴31より前記溝部33の部位が大径となるように構成されている。
【0026】
前記ノズル2は、電磁弁本体に接続されるように構成されており、前記圧入部25の内側面は、接続時に被圧入部が圧入される圧入面41が設定されている。また、前記凸状段部24の角部には、前記電磁弁本体に溶接される溶接部42が設定されている。
【0027】
前記圧入面41は、圧入時での寸法精度を確保する為にメッキが禁止されており、前記溶接部42も、寸法精度の確保及び溶接不良を防止する為にメッキが禁止されている。これにより、前記ノズル2の基端部には、前記凸状段部24より中心側にマスキングを要する前記マスキング部位3が設定されている。
【0028】
このノズル2に取り付けられる前記マスキング治具1は、弾性体であるシリコン系ゴムで形成されている。該マスキング治具1は、図2にも示すように、前記ノズル2の前記マスキング部位3を覆う治具本体51を備えており、該治具本体51は、前記ノズル2の基端部を覆う円柱状に形成されている。
【0029】
この治具本体51の中心部には、前記圧入部25の前記圧入穴31に挿入される軸部52が設けられており、該軸部52の外周部には、円筒状の前記圧入部25が挿入されるリング状凹部53が円形リング状に形成されている。該リング状凹部53の外周部には、凹状段部54が形成されており、該凹状段部54には、前記ノズル2の前記凸状段部24が当接するように構成されている(図1参照)。
【0030】
前記リング状凹部53の深さ寸法は、前記ノズル2の前記圧入部25の長さ寸法より大きく設定されており、前記リング状凹部53に前記圧入部25を挿入する際に、前記ノズル2の前記凸状段部24が前記凹状段部54に当接することで、その挿入量が制限されるように構成されている。この挿入規制状態において、前記圧入部25の圧入穴31に挿入された前記軸部52は、その先端が前記圧入穴31より突出して前記溝部33に達するように構成されている(図1)。
【0031】
前記軸部52の外径寸法は、図1に示したように、前記圧入部25の内径寸法とほぼ同寸法又はやや大きめに設定されており、前記軸部52が前記圧入部25の内周面に密着するように構成されている。また、前記軸部52の先端部61での外形寸法は、基端部と比較してやや大きくなるように設定されており、その先端部61を前記圧入穴31より突出した状態で当該先端部61が前記溝部33の側壁62に密着することにより、前記圧入穴31からの前記軸部52の不用意な抜けを防止できるように構成されている。
【0032】
また、前記リング状凹部53の直径は、前記圧入部25の直径とほぼ同寸法又はやや小さめに設定されており、前記リング状凹部53の壁面が前記圧入部25の外周面に密着するように構成されている。
【0033】
前記軸部52の中心には、貫通孔71が貫通しており、前記ノズル2に前記マスキング治具1を取り付けた状態において、前記ノズル2の前記通流穴11が前記貫通穴71を介して基端側より外部へ連通するように構成されている。これにより、メッキ液浸漬時でのメッキ液の通流を確保するとともに、メッキ液からの引き上げ時には、前記通流穴11へのメッキ液の貯留を防止できるように構成されている。
【0034】
前記凹状段部54の外周部は、図2に示したように、リング状に残存した前記治具本体51の先端面81で構成されており、該先端面81の内縁部からは、弾性を有した薄肉のリップ82が全周に渡ってリング状に形成されている。このリップ82は、先端へ向かうに従って外側に広がる形状に形成されており、前記治具本体51で前記ノズル2基端のマスキング部位3を覆った状態で該マスキング部位3を包囲するように構成されている(図1参照)。
【0035】
また、この状態において、前記リップ82は、前記マスキング部位3の外周部に設けられた前記基端面23に密着するように構成されており、当該リップ82を外側に傾倒して前記基端面23に密着させた状態から、その反力によって前記リップ82が起立する際に、当該リップ82の内側の空間に生ずる負圧によって前記治具本体51を前記ノズル2に固定できるように構成されている。
【0036】
これにより、このリップ82によって前記治具本体51を前記ノズル2に固定する固定部91が構成されており、この固定状態において、前記リップ82の密着位置から前記リング状凹部53を介して前記軸部52の先端部61の密着位置までのリング状の空間が密閉状態となるように構成されている。
【0037】
以上の構成にかかる本実施の形態において、ノズル2をマスキングする際には、前記ノズル2の圧入部25を治具本体51のリング状凹部53に挿入し、該リング状凹部53の壁面を前記圧入部25の外周面に密着させる。これと同時に、前記治具本体51の軸部52を前記ノズル2における圧入部25の圧入穴31に挿入し、当該軸部52の外周面を前記圧入部25内周面に設定された圧入面41に密着させる。
【0038】
これにより、前記ノズル2基端より突出した前記圧入部25を包み込む前記治具本体51によって前記圧入面41及び前記溶接部42が設定されたマスキング部位3を覆う。
【0039】
そして、前記ノズル2の凸状段部24が前記治具本体51の凹状段部54に当接するまで前記ノズル2の前記圧入部25を前記リング状凹部53に挿入する。
【0040】
すると、前記治具本体51のリップ82は、前記マスキング部位3の外周部に設けられた前記ノズル2の基端面23に圧接され、外側へ広がるように傾倒して弾性変形する一方、当該リップ82には、復元力によって起立方向に反力が働く。
【0041】
このとき、前記圧入部25に挿入された前記軸部52は、前記ノズル2内周面に設けられた溝部33の側壁62に先端部61が当接した状態で不用意な抜けが阻止されており、前記軸部52の先端部61は、前記圧入部25の先端に密着する。
【0042】
これにより、前記リップ82の密着位置から前記軸部52先端部61の密着位置までの間には、密閉空間が形成されており、前記リップ82が前記反力で起立する際に、当該リップ82の内側に形成された前記密閉空間に負圧が生じ、この負圧によって前記治具本体51を、前記ノズル2に固定することができる。
【0043】
このように、前記治具本体51の前記リップ82を前記ノズル2の基端面23に押し付けて変形するだけで、当該リップ82による吸盤作用によって前記治具本体51を前記ノズル2に固定することができる。
【0044】
このため、ネジにナットを螺合して固定する従来と比較して、ネジを備えない箇所であっても取り付けることができ、マスキングを行うことができる。また、取付時には、前記リップ82を前記基端面23に押し付けて変形するだけなので、マスキング時の作業性が向上する。
【0045】
また、当該マスキング治具1を前記ノズル2に確実にしっかりと固定することができるため、輸送時やメッキ液浸漬時での不用意な外れを防止することができる。
【0046】
そして、この固定状態では前記リップ82がマスキング部位3を包囲するとともに、当該マスキング部位3の外周部に密着する。このため、前記ノズル2との密着性を確保することができるので、十分なシール性を得ることができ、メッキ液の滲入に起因した不具合を未然に防止することができる。
【0047】
すなわち、接続時に被圧入部が圧入される前記圧入面41へのメッキを防止することができ、寸法精度を維持することができるため、圧入時での不具合を防ぐことができる。また、前記溶接部42では、メッキされることによる寸法誤差の発生や溶接不良を防止することができる。
【0048】
次に、このマスキング状態にある前記ノズル2にメッキ処理を施した後において、前記リップ82内側の密閉空間に内に空気を流入し、吸盤効果を解除することによって、当該マスキング治具1を前記ノズル2から容易に取り外すことができる。
【0049】
これにより、当該マスキング治具1を再利用することができる。
【0050】
したがって、マスキングの作業性を向上すると同時に、再利用を繰り返し可能とすることができる。
【0051】
なお、本実施の形態では、前記リップ82の密着位置から前記軸部52先端部61の密着位置までの間に形成された密閉空間を減圧した際の吸盤効果によって、前記治具本体51を前記ノズル2に固定した場合を例に挙げて説明したが、これに限定されるものでは無い。
【0052】
例えば、前記治具本体51の先端面81の内周面を前記凸状段部24の外周面に密着させることによって、前記ノズル2の大径部21の基端面23と、前記凸状段部24の外周面と、前記リップ82との間に密閉空間を形成し、この密閉空間を減圧した際の吸盤効果によって前記治具本体51を前記ノズル2に固定しても良い。
【0053】
また、本実施の形態では、ノズル2をメッキする場合を例に挙げて説明したが、これに限定されるものでは無く、ノズル2を塗装したり、ノズル2にショットブラスティングを施す場合のマスキングに利用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施の形態を示す図である。
【図2】(a)は同実施の形態の側面図であり、(b)は同実施の形態の断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1 マスキング治具
2 ノズル
3 マスキング部位
25 圧入部
51 治具本体
82 リップ
91 固定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物のマスキング部位を覆う治具本体に、該治具本体を前記対象物に固定する固定部を設け、
前記治具本体で前記マスキング部位を覆った状態で該マスキング部位を包囲し当該マスキング部位の外周部に密着する弾性を有したリップを前記治具本体に設けるとともに、前記リップを先端へ向かうに従って外側に広がる形状に形成して当該リップの内側に生ずる負圧で前記治具本体を前記対象物に固定する前記固定部を構成したことを特徴とするマスキング治具。

【図1】
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【図2】
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