説明

マスキング音生成装置

【課題】第三者に不快感を与えずに周囲音をマスキングするためのマスキング音を生成することができるマスキング音生成装置を提供する。
【解決手段】話者の音声を含む周囲音をマスキングするマスキング音を生成するマスキング音生成装置1において、信号処理部7で、マイク5Aが収音した周囲音のスペクトルを抽出する。信号処理部7で、周囲音のスペクトルと、記憶部3に記憶された環境音のスペクトルとの間でスペクトル減算を行って、マスキング音のスペクトルを算出する。信号処理部7で生成したマスキング音のスペクトルを、スピーカ6Aからマスキング音としてマスキング領域Aにいる聴取者に対して出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周囲音をマスキングするマスキング音を生成するマスキング音生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ある音(対象音)が聞こえているときに対象音に近い音響特性(周波数特性など)を持つ別の音が存在した場合、その対象音が聞こえにくくなるという現象(マスキング効果)が一般に知られている。このマスキング効果を利用して、会話の内容が第三者に漏れないようにした所謂スピーチプライバシーと呼ばれる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、マイクロフォン(以下、マイクという)で収音した音声の解析結果(音量レベル及び周波数特性など)に応じてホワイトノイズなどの音源に音響処理を施して、第三者に不快感を与えることのない最低限のマスキング音をスピーカから出力する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−267174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、収音した音声が大きければ、出力されるマスキング音の音も大きくなるため、マスキング音が上記のようなホワイトノイズである場合には、第三者に与える不快感を軽減させることはできない。
【0005】
そこで、本発明の目的は、第三者に不快感を与えずに周囲音をマスキングするためのマスキング音を生成することができるマスキング音生成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、周囲音をマスキングするマスキング音を生成するマスキング音生成装置であり、周囲音用取得部、記憶部、算出部及び生成部を備える。周囲音用取得部は、周囲音の周波数成分を取得する。記憶部は、聴取者に聞かすべき目的音の周波数成分を記憶する。算出部は、周囲音用取得部が取得した周波数成分と記憶部に記憶された周波数成分との差分を算出する。生成部は、算出部が算出した差分、及び周囲音用取得部が取得した周波数成分に基づいて、マスキング音を生成する。
【0007】
この構成では、マスキング音を、周囲音及び目的音の周波数成分の差分から生成している。このマスキング音を出力した場合、マスキング音と周囲音とが重なり合って、目的音が形成される。これにより、周囲音が聞こえる第三者に対して、マスキング音を出力することで、第三者は、周囲音に代わり、目的音が聞こえるようになる。この結果、周囲音のマスキングを行える。そして、この目的音を、人が不快を感じない音とすることで、第三者に不快感を与えずに周囲音をマスキングすることができる。
【0008】
本発明に係るマスキング音生成装置は、類似度算出部及び特定部をさらに備える。記憶部は、複数の目的音の周波数成分を記憶する。算出部は、記憶部に記憶された目的音の周波数成分それぞれに関して差分を算出する。生成部は、算出部が算出したそれぞれの差分に基づいてマスキング音を生成する。類似度算出部は、周囲音及び生成部が生成した一のマスキング音からなる合成音と、一のマスキング音に対応する目的音との類似度の算出を、生成部が生成した全てのマスキング音に対して行う。特定部は、類似度算出部が算出した類似度に基づいてマスキング音を特定する。
【0009】
この構成では、周囲音に応じたマスキング音を生成する具体例として、複数の目的音を予め用意しておき、各目的音に対応するマスキング音を生成して、周囲音に応じたマスキング音を特定する構成を示している。
【0010】
本発明に係るマスキング音生成装置において、特定部は、類似度が最も高いマスキング音を特定する。
【0011】
この構成では、マスキング音を特定する具体例を示している。
【0012】
本発明に係るマスキング音生成装置において、特定部は、類似度の降順又は昇順に複数のマスキング音を特定する。
【0013】
この構成では、マスキング音を特定する具体例を示している。
【0014】
本発明に係るマスキング音生成装置において、類似度算出部は、合成音及び目的音それぞれの音圧レベルを算出し、算出した音圧レベルの差分を類似度として算出する。
【0015】
この構成では、複数のマスキング音から一のマスキング音を特定する例として、音圧レベルを用いた構成を示す。
【0016】
本発明に係るマスキング音生成装置において、類似度算出部は、人間の聴覚特性に応じた音圧レベルを算出する。
【0017】
この構成では、人間の聴覚特性に応じた音圧レベルを用いた構成を示す。
【0018】
本発明に係るマスキング音生成装置は、周囲音を入力するマイクロフォンと、生成部が生成したマスキング音を出力するスピーカとをさらに備える。周囲音用取得部は、マイクロフォンから入力された周囲音の周波数成分を取得する。
【0019】
この構成では、マスキング音生成装置が、マスキング音を生成するためにマイクロフォンで周囲音を収音し、生成したマスキング音をスピーカから出力する構成であることを示す。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、第三者に不快感を与えずに周囲音をマスキングするためのマスキング音を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態に係るマスキング音生成装置の概要を説明するための模式図である。
【図2】信号処理部の構成を模式的に示すブロック図である。
【図3】マスキング音生成部によるマスキング音の生成を説明するための模式図である。
【図4】合成音と環境音との相違を説明するための模式図である。
【図5A】生成された複数のマスキング音から、出力すべきマスキング音を選択する方法を説明するための模式図である。
【図5B】生成された複数のマスキング音から、出力すべきマスキング音を選択する方法を説明するための模式図である。
【図6】マスキング音生成装置の信号処理部で実行される処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るマスキング音生成装置の好適な実施形態について図面を参照して説明する。
【0023】
図1は、本実施形態に係るマスキング音生成装置の概要を説明するための模式図である。本実施形態に係るマスキング音生成装置1は、マイク5A及びスピーカ6Aを備え、マイク5Aから一又は複数の話者の音声を収音する。話者とは、自身の会話内容を第三者に聞かせたくない者をいう。マスキング音生成装置1は、収音した話者の音声に基づいてマスキング音を生成し、生成したマスキング音を、聴取者(第三者)がいる領域(以下、マスキング領域Aという)へスピーカ6Aから出力する。マスキング音生成装置1から出力されたマスキング音は、話者の音声と重なり合って、環境音を形成する。環境音(目的音)とは、例えば、風の音、山に響き渡る音又は海の音など、聴取者が不快に感じない音である。このように、本実施形態に係るマスキング音生成装置1は、話者の音声をマスキングするために環境音を聞かせることで、不快感を与えずに、聴取者に話者の会話内容を聞かせなくさせることができる。
【0024】
本実施形態に係るマスキング音生成装置1は、図1に示すように、制御部2、記憶部3、操作部4、音声入力部5、音声出力部6及び信号処理部7を備えている。制御部2は、例えばCPU(Central Processing Unit)であって、マスキング音生成装置1全体の動作を制御する。記憶部3は、例えばROM(Read Only Memory)であって、必要なプログラム及び各種データを記憶する。記憶部3には、例えば、話者の音声をマスキングする際に、聴取者に聞かせたい環境音のスペクトル情報が記憶されている。操作部4は、ユーザ(話者又は聴取者)による操作を受け付ける。
【0025】
音声入力部5は、図示しないA/Dコンバータ及び入力端子を有し、マイク5Aが接続されている。マイク5Aは、話者の音声を含み、話者以外の他の音声、空調設備又はオフィス機器などの騒音などのマスキング音生成装置1の周囲音を収音する。すなわち、本実施形態に係るマスキング音生成装置1は、話者の音声だけでなく、自身の周囲の騒音などを含めてマスキングするマスキング音を生成する。以下では、マイク5Aが収音した周囲音を入力音という。入力音は、マイク5Aで電気信号(以下、入力音信号という)に変換され、入力端子を介してA/DコンバータでA/D変換された後、信号処理部7へ出力される。
【0026】
音声出力部6は、図示しないD/Aコンバータ、アンプ及び出力端子などを有し、スピーカ6Aが接続されている。音声出力部6には、後述の信号処理部7で生成されたマスキング音に係る信号が入力される。入力された信号は、D/AコンバータでD/A変換され、アンプで振幅(ボリューム)が最適な値に調整された後、スピーカ6Aからマスキング音としてマスキング領域Aに出力される。
【0027】
信号処理部7は、例えばDSP(Digital Signal Processor)を有し、音声入力部5からの入力音信号に基づいて信号処理を行い、記憶部3に記憶されている環境音に対応し、スピーカ6Aから出力されるマスキング音を生成する。例えば、信号処理部7が「海の音」に対応するマスキング音を生成し、そのマスキング音がスピーカ6Aから出力された場合、マスキング音と周囲音とが重なり合って、聴取者には、海の音として聞こえるようになる。なお、上述の音声入力部5及び音声出力部6は、信号処理部7に含まれるようにしてもよい。また、信号処理部7は、CPUなどによりソフトウェアで実現されていてもよい。以下では、マスキング音と周囲音とが重なり合って聴取者が耳にする音を、合成音という。
【0028】
以下に、信号処理部7についてさらに詳述する。
【0029】
図2は、信号処理部7の構成を模式的に示すブロック図である。信号処理部7は、FFT(FastFourier Transform)71、スペクトル抽出部72、マスキング音生成部73、マスキング音選択部74及びIFFT(Inverse FFT)75を備える。FFT71は、音声入力部5からの入力音信号に対してフーリエ変換を行い、時間領域の信号を周波数領域の信号に変換する。
【0030】
スペクトル抽出部72は、FFT71の結果から、入力音信号のスペクトルを抽出する。具体的には、スペクトル抽出部72は、周波数毎に信号強度(パワー)を算出し、算出したパワーが閾値以上のスペクトルを抽出する。このとき、スペクトル抽出部72は、パワーが閾値未満のスペクトルを不要成分と判定し、そのスペクトルを「0」にする。閾値は、騒音など様々な音を含む入力音から、少なくとも聴取者が知覚可能なレベルに対応する値である。また、閾値は、予め設定されていてもよいし、操作部4から入力されてもよい。
【0031】
マスキング音生成部73は、スペクトル抽出部72が抽出した入力音信号のスペクトルに基づいて、記憶部3に記憶されている環境音それぞれに対応するマスキング音を生成する。ここで、マスキング音生成部73が行うマスキング音の生成とは、スピーカ6Aから出力するマスキング音の音源信号を生成することをいう。マスキング音生成部73は、記憶部3に記憶されている環境音のスペクトル、及びスペクトル抽出部72が抽出した入力音信号のスペクトルとの間でスペクトル減算することにより、マスキング音を生成する。
【0032】
図3は、マスキング音生成部73によるマスキング音の生成を説明するための模式図であり、例として、マスキング音生成部73が「海の音」の環境音のスペクトル情報を記憶部3から取得した場合を示す。ただし、図示した波形は、説明のために示すものであり、実際の音及び海の音のスペクトルを示すものではない。マスキング音生成部73は、取得した海の音のスペクトル(図3の左下図)と、スペクトル抽出部72が抽出した入力音信号のスペクトル(図3の左上図)との間でスペクトル減算を行う。マスキング音生成部73は、スペクトル減算により得られた結果を、「海の音」に対応するマスキング音の音源信号のスペクトル(図3の右図)とする。このように得られたスペクトルを有する音源信号がスピーカ6Aからマスキング音として出力された場合、マスキング音と周囲音とは、互いのスペクトルが重なり合い、「海の音」のスペクトルを形成する。従って、聴取者は、「海の音」の合成音が聞こえるようになる。マスキング音生成部73は、上述の方法により、記憶部3に記憶されている全環境音に対応するマスキング音を生成する。
【0033】
マスキング音選択部74は、記憶部3に記憶されている全環境音に対して、マスキング音生成部73が生成した複数のマスキング音から、最終的にスピーカ6Aから出力するマスキング音を選択する。マスキング音生成部73が生成したマスキング音は、マスキング対象の周囲音の音量、すなわち、マイク5Aからの入力音信号の音量に応じて変化する。従って、聴取者が聞く合成音の音量も入力音信号の音量に応じて変化し、記憶部3に記憶されている環境音の音量とかけ離れたものなる場合がある。図4は、合成音と環境音との相違を説明するための模式図である。図4に示す一点鎖線の波形は、記憶部3に記憶された聴取者に聞かせたい環境音のスペクトル波形を示す。また、二点破線の波形は、実線で示す入力音の波形と、破線で示すマスキング音の波形とを足し合わせた合成音の波形を示す。マスキング音は、少なくとも聴取者が実際に聞く合成音により話者の音声がマスキングされるように、音量が調整される。換言すれば、聴取者が実際に聞く合成音のパワーは、入力音信号のスペクトルのゲインが大きくなるにつれて大きくなるため、結果として、聴取者に聞かせたい環境音の音量よりも、図中矢印で示す分だけ大きくなる。このため、大音量でマスキング音を出力した場合、聴取者は、合成音が環境音であっても不快感を覚える場合がある。そこで、マスキング音選択部74は、マスキング音生成部73が生成した複数のマスキング音から、記憶部3に記憶されている環境音に近い合成音を、聴取者に聞かせることができるマスキング音を選択する。
【0034】
図5A及び図5Bは、生成された複数のマスキング音から、出力すべきマスキング音を選択する方法を説明するための模式図である。マスキング音選択部74は、マスキング音を選択するために、聴取者が耳にする合成音と、記憶部3に記憶されている環境音との類似度を算出する。例として、図5Aでは、「海の音」に対応するマスキング音の場合を示し、図5Bでは、「風の音」に対応するマスキング音の場合を示す。
【0035】
マスキング音選択部74は、マスキング音生成部73が生成したマスキング音のスペクトルと、入力音信号のスペクトルとを加算する。これにより、マスキング音生成部73が生成したマスキング音が出力された場合に、聴取者が耳にする合成音のスペクトルが算出される。また、マスキング音選択部74は、記憶部3に記憶されている「海の音」のスペクトル情報を取得する。マスキング音選択部74は、得られた二つのスペクトルの類似度を算出する。類似度が高いことは、聴取者が耳にする合成音が、記憶部3に記憶された環境音に近いことを意味する。類似度は、二つのスペクトルのパワーや音圧レベルにより算出される。
【0036】
マスキング音選択部74は、パワーの差分から二つのスペクトルの類似度を算出する。例えば、図5Bに示すように、合成音のパワーが環境音のパワーよりも非常に高い場合、合成音の音量は環境音より非常に大きくなり、合成音を耳にする聴取者は不快感を覚える場合がある。このため、パワーにおける類似度は、二つのスペクトルのパワーの差分が小さくなるほど高くなるようにする。なお、パワーによる類似度は、ある周波数における一のパワーの差分により決定されてもよいし、周波数領域における複数のパワーの差分の平均値により決定されてもよい。
【0037】
マスキング音選択部74は、二つのスペクトルの音圧レベルを算出し、その差分から類似度を算出する。音圧レベルは、音圧の大きさを基準値との比の常用対数によって表現される量(レベル)であり、人間の感度(聴覚特性)に応じて周波数毎に重み付けされて補正される。人間の可聴域にある音は同じ周波数であれば、音圧レベルが大きいほど大きな音として認識されるため、音圧レベルが大きい場合、聴取者に不快感を与えるおそれがある。そこで、音圧レベルにおける類似度は、二つのスペクトルの音圧レベルの差分が小さくなるほど高くなるようにする。
【0038】
なお、類似度は、算出したスペクトルの振幅値及び音圧レベルの差分値であってもよい。また、例えば、差分値が「10」の場合は類似度「5」とし、差分値が「15」の場合は類似度が「1」とするなど、予め差分値に類似度の値を予め対応付けておき、算出した差分値から類似度が決定されるようにしてもよい。また、類似度は、スペクトルのパワー及び音圧レベルそれぞれで算出した類似度の平均値であってもよいし、何れか高い方(又は低い方)であってもよい。さらに、類似度は、パワー及び音圧レベルの一方のみから算出されてもよい。
【0039】
マスキング音選択部74は、マスキング音生成部73が生成した全マスキング音に対して、上述した類似度を算出し、類似度が最も高いマスキング音を選択する。類似度が最も高いマスキング音をマスキング音選択部74が選択することで、マスキング音生成装置1は、記憶部3に記憶されている環境音により近い合成音を聴取者に聞かせることができ、マスキングの際に聴取者に与える不快感を抑制できる。
【0040】
なお、入力音信号のスペクトルと、マスキング音選択部74が選択したマスキング音とを対応付けたデータテーブルとして、記憶部3等に記憶するようにしてもよい。この場合、スペクトル抽出部72が記憶されたスペクトルを抽出した場合、マスキング音選択部74が類似度を算出することなく、マスキング音選択部74は、最適なマスキング音を選択できるため、マスキング音を出力するまでの時間を短縮することができる。
【0041】
本実施形態では、マスキング音選択部74は、合成音と記憶部3に記憶された環境音との類似度を算出しているが、入力音信号のスペクトル波形と環境音のスペクトル波形との類似度を算出するようにしてもよい。この場合、マスキング音選択部74は、相互相関により、入力音信号のスペクトル波形に近い環境音を求め、その環境音に係るマスキング音を、出力するマスキング音とする。この場合、周囲音と環境音とのスペクトル波形が近い関係にあるため、マスキング音生成装置1は、最小限のマスキング音を出力するだけで、周囲音をマスキングして、聴取者に環境音に近い合成音を聞かせることができる。
【0042】
また、話者が、算出した類似度に基づいて、出力するマスキング音を選択できるようにしてもよい。例えば、マスキング音生成装置1に表示部(不図示)を設ける。そして、「1位:海の音」、「2位:風の音」、「3位:川の音」などのように、算出した類似度が高い順(又は低い順)に、対応する環境音を表示部に表示する。これにより、話者が好きな環境音、又は、聴取者が好きであろう環境音を、聴取者に聞かせ、選択させることができる。なお、類似度が高い環境音を順に、一度音声により出力し、話者に選択させるようにしてもよい。
【0043】
IFFT75は、マスキング音選択部74が選択したマスキング音の音響信号に対し、逆フーリエ変換行い、周波数領域の信号を時間領域の信号に変換する。IFFT75は、変換後の信号を、音声出力部6へ出力する。
【0044】
なお、信号処理部7は、話者のいる音響空間の変化により、同じ話者でもマイク5Aが収音した入力音が変化した場合、出力するマスキング音を切り替えるようにしてもよい。例えば「海の音」を聞いていた聴取者は、途中で「風の音」が聞こえるようになる。この場合、クロスフェード(二つの音源があり、一方を小さくさせながら、同時に他方を大きくする)により、出力するマスキング音を切り替えるようにすることで、聴取者に違和感を与えないようにできる。入力音の変化は、例えば、一定期間における入力音信号のスペクトルの平均値を求め、平均値との差分が閾値を超えるスペクトルを有する周波数を検出したか否かにより検出できる。この場合、閾値を瞬間的に超えたときもクロスフェードが開始され、頻繁にマスキング音が変更されることを回避するため、平均値との差分が、一定時間以上閾値を超えているスペクトルを検出したか否かにより、入力音の変化を検出するようにしてもよい。あるいは、平均値との差分が閾値を超えているスペクトルを、ある一定時間の中で所定回数以上検出したか否かにより、入力音の変化を検出するようにしてもよい。また、上述のように、入力音信号のスペクトルと選択したマスキング音とを対応付けて記憶しておくことで、信号処理部7は、入力音の変化を検出した場合であっても、スペクトルが記憶されていれば、即座に対応するマスキング音を出力させることができる。
【0045】
次に、マスキング音生成装置1における動作について説明する。図6は、マスキング音生成装置1の信号処理部7で実行される処理手順を示すフローチャートである。
【0046】
信号処理部7は、音声入力部5から入力音信号が入力されたか否かを判定する(S1)。入力音信号が入力されていない場合(S1:NO)、信号処理部7は、本処理を終了する。入力音信号が入力された場合(S1:YES)、信号処理部7は、入力音信号に対してフーリエ変換を行い、その結果から、入力音信号のスペクトルを抽出する(S2)。
【0047】
続いて、信号処理部7は、記憶部3から一の環境音のスペクトル情報を取得し(S3)、図3で説明したように、マスキング音の音源信号を生成する(S4)。次に、信号処理部7は、記憶部3に記憶される全ての環境音に対応するマスキング音を生成したか否かを判定する(S4)。全環境音に対応するマスキング音を生成していない場合(S5:NO)、信号処理部7は、S3の処理を実行する。全環境音に対応するマスキング音を生成した場合(S5:YES)、信号処理部7は、図5で説明したように、合成音及び環境音の類似度を算出する(S6)。
【0048】
信号処理部7は、S6で算出した類似度から、最も高い類似度のマスキング音を選択し(S7)、選択したマスキング音の音源信号を逆フーリエ変換した後、音声出力部6へ出力する(S8)。これにより、スピーカ6Aからマスキング音が出力される。
【0049】
以上説明したように、本実施形態に係るマスキング音生成装置1は、聴取者に不快感を与えずに周囲音をマスキングするためのマスキング音を生成することができる。また、マスキング音生成装置1は、話者の音声以外に、騒音などを含めた周囲音の音量を考慮してマスキング音を生成し、出力している。話者の音声のみからマスキング音を生成して、出力した場合、周囲音に合わせて、マスキング音全体の音量を上げる必要がある。このため、周囲音の音量を考慮して生成したマスキング音は、話者の音声のみから生成した場合との対比において、音量を抑えることができる。
【0050】
なお、マスキング音生成装置1の具体的構成などは、適宜設計変更可能であり、上述の実施形態に記載された作用及び効果は、本発明から生じる最も好適な作用及び効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用及び効果は、上述の実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0051】
例えば、マスキング音生成装置1は、マイク5A及びスピーカ6Aを備えた構成としているが、マイク5A及びスピーカ6Aが接続されたパーソナルコンピュータ又はPDA(Personal Digital Assistant)が、信号処理部7の機能を有する構成としてもよい。また、携帯電話機が、信号処理部7の機能を有する構成としてもよい。また、マスキングの際に聴取者が聞く合成音は、環境音としているが、人に不快感を与えない音であれば適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0052】
1−マスキング音生成装置、3−記憶部、7−信号処理部、72−スペクトル抽出部(周囲音用取得部)、73−マスキング音生成部(算出部、生成部)、74−マスキング音選択部(類似度算出部、特定部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲音をマスキングするマスキング音を生成するマスキング音生成装置において、
周囲音の周波数成分を取得する周囲音用取得部と、
聴取者に聞かすべき目的音の周波数成分を記憶する記憶部と、
前記周囲音用取得部が取得した周波数成分と前記記憶部に記憶された周波数成分との差分を算出する算出部と、
該算出部が算出した差分、及び前記周囲音用取得部が取得した周波数成分に基づいて、マスキング音を生成する生成部と
を備えることを特徴とするマスキング音生成装置。
【請求項2】
前記記憶部は、
複数の目的音の周波数成分を記憶し、
前記算出部は、
前記記憶部に記憶された目的音の周波数成分それぞれに関して差分を算出し、
前記生成部は、
前記算出部が算出したそれぞれの差分に基づいてマスキング音を生成し、
周囲音及び前記生成部が生成した一のマスキング音からなる合成音と、前記一のマスキング音に対応する目的音との類似度の算出を、前記生成部が生成した全てのマスキング音に対して行う類似度算出部と、
該類似度算出部が算出した類似度に基づいてマスキング音を特定する特定部と
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のマスキング音生成装置。
【請求項3】
前記特定部は、
類似度が最も高いマスキング音を特定する
ことを特徴とする請求項2に記載のマスキング音生成装置。
【請求項4】
前記特定部は、
類似度の降順又は昇順に複数のマスキング音を特定する
ことを特徴とする請求項2に記載のマスキング音生成装置。
【請求項5】
前記類似度算出部は、
前記合成音及び目的音それぞれの音圧レベルを算出し、算出した音圧レベルの差分を類似度として算出する
ことを特徴とする請求項2から4の何れか一つに記載のマスキング音生成装置。
【請求項6】
前記類似度算出部は、
人間の聴覚特性に応じた音圧レベルを算出する
ことを特徴とする請求項5に記載のマスキング音生成装置。
【請求項7】
周囲音を入力するマイクロフォンと、
前記生成部が生成したマスキング音を出力するスピーカと
をさらに備え、
前記周囲音用取得部は、
前記マイクロフォンから入力された周囲音の周波数成分を取得する
ことを特徴とする請求項1から6の何れか一つに記載のマスキング音生成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図6】
image rotate