説明

マッサージ機

【課題】施療子の硬さを柔らかく硬くしたりすることと等価なマッサージ機制御に関する新たな技術的手段を提供する。
【解決手段】被施療部に接触してマッサージする施療子6と、この施療子6が被施療部へ接触する力が目標接触力となるようにインピーダンス制御する制御部18とを備えている。制御部18は、インピーダンス制御における弾性パラメータの値を調整する弾性パラメータ調整部18bを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マッサージ機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のマッサージ機では、マッサージ動作の強弱調整のために、施療子の位置調整をすることが行われている。例えば、特許文献1には、マッサージ子(施療子)の押出量を変更することによって、マッサージの強さを調整することが開示されている。
マッサージ動作の強弱調整を行うことで、一定強さのマッサージ動作に比べて、マッサージ強さをユーザの好みに合わせることができる。
【特許文献1】特開昭63−79655号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来のマッサージ強弱調整は、単に施療子の位置(押出位置)を調整するものにすぎなかった。すなわち、強いマッサージは、施療子を被施療部側へ大きく押し出し、弱いマッサージは、施療子の押出量を小さくすることによって実現されていた。
【0004】
ところが、マッサージ感は、施療子の押出量だけでなく、施療子の硬さ・柔らかさによっても影響を受ける。つまり、マッサージされる部位(被施療部)によって皮膚弾性特性が異なるため、皮膚弾性が小さく比較的柔らかい被施療部に対してある接触力でマッサージしようとすると、柔らかく弾性のある施療子でマッサージすべきである。そうしなければ、実際に施療子から被施療部に与えられる力は、予期した力より過大となってしまい、ユーザにとっては、強すぎるマッサージとなる。
一方、皮膚弾性が大きく比較的硬い被施療部に対してある接触力でマッサージしようとするときは、硬い施療子でマッサージすべきである。そうしなければ、実際に施療子から被施療部に与えられる力が、予期した力より過小となり、ユーザにとっては、弱すぎるマッサージとなる。
【0005】
この結果、マッサージ機の制御において、ある目標値の力でマッサージを施したい場合であっても、従来のような押出量調整では、目標値の力によるマッサージを実現することができなかった。
【0006】
しかも、従来のマッサージ機において、施療子の硬さを柔らかく硬くしたりすることは、施療子の交換を伴うため、実際の使用を考慮すると、現実的ではない。
【0007】
そこで、本発明は、施療子の硬さを柔らかく硬くしたりすることと等価なマッサージ機制御に関する新たな技術的手段を提供することを目的とする。
また、本発明の他の目的は、皮膚弾性を推定することにある。さらに、本発明の他の目的は、皮膚弾性に基づいて被施療部の凝りを判定すること、あるいは、皮膚弾性に基づいてマッサージ力を適切に調整することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、被施療部に接触してマッサージする施療子と、前記施療子が被施療部へ接触する力が目標接触力となるようにインピーダンス制御する制御部と、を備え、前記制御部は、インピーダンス制御における弾性パラメータの値を調整する弾性パラメータ調整部を備えていることを特徴とする。
上記本発明によれば、インピーダンス制御における弾性パラメータの値を変更できるため、制御部における制御によって、施療子の硬さを柔らかくしたり硬くしたりすることと同様の変更を行うことができる。
【0009】
前記弾性パラメータ調整部は、前記被施療部に接触している前記施療子の変位情報に基づいて、前記目標接触力を実現するための前記弾性パラメータを推定するのが好ましい。この場合、被施療部の弾性特性に関わらず所望の目標接触力によるマッサージが行える。
なお、変位情報には、変位そのものの他、必要に応じて変位と関連した値(例えば、変位から算出可能な速度又は加速度)が含まれる。また、速度や加速度は、変位から算出してもよいし、速度センサ又は加速度センサで検出してもよい。
【0010】
さらに、前記弾性パラメータ調整部は、重力によって使用者から前記施療子が受ける荷重の情報を考慮することで得た前記目標接触力を実現するための前記弾性パラメータを推定(決定)するのが好ましい。この場合、目標接触力は、重力によって使用者から施療子が受ける荷重の情報を考慮することで得られたものであり、この目標接触力を実現するための弾性パラメータを推定(決定)しているので、重力によって施療子が受ける荷重の変化(例えば、使用者の体重の差)に応じて、適切なマッサージ強さとなるように制御することができる。
【0011】
前記制御部は、被施療部の弾性特性を推定する弾性特性推定部を備え、前記弾性特性推定部は、前記被施療部に接触している前記施療子の変位情報に基づいて、被施療部の弾性特性を推定するのが好ましい。この場合、被施療部の弾性特性を推定することができる。
【0012】
さらに、前記弾性特性推定部は、重力によって使用者から前記施療子が受ける荷重の情報を考慮して、被施療部の弾性特性を推定するのが好ましい。この場合、被施療部の弾性特性をより正確に推定することができる。
【0013】
この場合において、前記マッサージ機は、重力による使用者の荷重を測定する測定部と、この測定部の測定値から前記荷重の情報を得る演算部とを有しているものとすることができる。これにより、測定部が重力による使用者の荷重を測定することによって、前記荷重の情報を得ることができる。
または、前記マッサージ機は、使用者の体重を入力する入力部と、この入力部の入力値から前記荷重の情報を得る演算部とを有しているものとすることができる。これにより、入力部に使用者の体重を入力することによって、前記荷重の情報を得ることができる。
【0014】
前記制御部は、推定された被施療部の弾性特性に基づいて、被施療部の凝りを判定する判定部を備えているのが好ましい。この場合、被施療部の凝りを判定することができる。
【0015】
前記制御部は、推定された被施療部の弾性特性に基づいて、前記目標接触力を調整する目標値調整部を備えているのが好ましい。この場合、被施療部の弾性特性に応じて目標接触力を調整することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、制御部における制御によって、施療子の硬さを柔らかくしたり硬くしたりすることと同様の変更を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
[第1実施形態]
[マッサージ機の全体構成]
図1はこの発明のマッサージ機の実施の一形態(第1実施形態)を示す説明図である。このマッサージ機は、脚体4により支持された座部1と、この座部1の後側に設けられた背もたれ部2と、座部1の前側に設けられた脚載せ部3とを備えており、椅子型とされている。
【0018】
背もたれ部2内には機械本体ユニット5が設けられている。機械本体ユニット5は背もたれ部2の内部において、左右一対に設けられたガイドレール(図示せず)に沿って昇降自在とされている。そして、駆動機構(図示せず)によってこの機械本体ユニット5は昇降駆動する。この駆動機構としては例えば、ラックピニオン式とすることができ、ラックが前記ガイドレールに沿って設けられており、ピニオンとこれを回転させる減速器付きモータが機械本体ユニット5に設けられた構造とすることができる。
【0019】
図2は、この機械本体ユニット5の正面斜視図である。機械本体ユニット5の本体フレーム8にマッサージユニット7が前後移動自在に取り付けられている。マッサージユニット7は、ローラ状の揉み玉からなる施療子6と、この施療子6に揉み、叩き、指圧などのマッサージ動作をさせるために駆動する動作部15とを有している。
この動作部15は、施療子6を背もたれ部2の前後方向に移動させる押し出し駆動部(強さ調整部)15aを有している。押し出し機構15aは、マッサージユニット7を前後移動させる駆動源となるモータ10と、このモータ10に減速機構を介して連結されたピニオン11と、このピニオン11に噛合し背もたれ部2の前後方向に沿って設けられたラック12とを有している。
【0020】
モータ10とピニオン11は機械本体ユニット5の本体フレーム8に固定されており、ラック12はマッサージユニット7側に固定されている。この構成により、前記モータ10を正逆回転させることで、ピニオン11が正逆回転し、これによりラック12が前後移動し、このラック12とともにマッサージユニット7が前後移動し指圧動作が行えるとともに、施療子6の位置を調整することができる。すなわち、施療子6の位置を前側に移動させることで、施療子6に大きな力fを生じさせることができ、強いマッサージ動作が得られる。また、施療子6の位置を後側に移動させることで、施療子6に小さな力fを生じさせることができ、弱いマッサージ動作が得られる。
【0021】
図3は、この椅子型マッサージ機の概略構成を示しているブロック図である。この椅子型マッサージ機は制御部18を有している。制御部18は、動作部15によるマッサージ動作の制御の他、施療子6の前後位置(マッサージ強さ)を制御することができる。なお、制御部18は、駆動部15aによる施療子6の移動量を動作制御信号として出力する。
【0022】
制御部18は、施療子6の前後位置に関しインピーダンス制御を行うためのインピーダンス制御部18aを備えている。
インピーダンス制御部18aは、マッサージ機が使用者に加える接触力の目標値(目標接触力)Fが与えられると、その目標接触力Fに相当する力が使用者に加えられるようにインピーダンス制御する。すなわち、インピーダンス制御部18aは、目標接触力に相当する所望の力に対応した押出量を決定して、押し出し駆動部15aによって施療子6を前後動させる。本実施形態のマッサージ機では、従来のように施療子6の単なる位置変位による力の強弱の代用ではなく、使用者に加えられる実際の力を直接制御するため、適切なマッサージを行える。
【0023】
押し出し駆動部15aは、制御部18からの動作制御信号に基づいて、前記モータ10(図2参照)を動作させ、これにより、施療子6に、被施療部に対する所望の接触力を発生させる。
また、前記制御部18は、押し出し駆動部15aによる施療子6の前後移動に応じた施療子6(マッサージユニット7)の位置(押出変位量)xを取得する。施療子6の位置は、制御部18からモータ10へ与えられる動作制御信号に基づいて、制御部18内部で取得してもよいし、モータ10の回転数を検出する回転センサ又は押し出し駆動部15aによる施療子6又はマッサージユニット7の移動量を検出する位置センサの出力に基づいて取得してもよい。なお、施療子6の位置を、制御部18からモータ10へ与えられる動作制御信号に基づいて取得すると、センサが不要でマッサージ機の構成が簡素になる。
また、制御部18は、施療子6の位置xに基づいて、施療子6(マッサージユニット7)の移動速度、加速度を算出することができる。
【0024】
図4は、制御部18による制御手順のフローチャートを示している。まず、インピーダンス制御部18aは、使用者のマニュアル入力にされた目標設定力F、又はマッサージ機の自動マッサージコースにおいて予め設定された目標接触力Fを取得する(ステップS1)。
インピーダンス制御部18aは、目標接触力Fを取得すると、押し出し駆動部15aを動作させ、施療子6を被施療部に接触させマッサージ(指圧)を行う。
【0025】
[インピーダンス制御の弾性パラメータ決定(マッサージ機の柔軟性設定)]
制御部18は、弾性パラメータ調整部18bを備えており、この弾性パラメータ調整部18bは、施療子6が被施療部に接触したときの変位x等に基づいて、目標接触力を実現するインピーダンス制御の弾性パラメータKを決定する(ステップS2)。
【0026】
弾性パラメータKは、弾性パラメータ調整部18bが、下記式の演算を行うことによって算出される。すなわち、弾性パラメータKは、目標接触力F、マッサージユニットの慣性質量M(ここでは、マッサージユニットの質量Mと等しく既知である)、マッサージユニットの変位x、マッサージユニットの目標位置xなどによって求めることができる。なお、マッサージユニットの速度、加速度、目標速度は、マッサージユニットの変位x、マッサージユニットの目標位置xに基づいて、微分演算などにより、算出することができる。
なお、下記式の詳細は、後述する。
【数1】

【0027】
本実施形態のマッサージ機によれば、マッサージ中に、インピーダンス制御の弾性パラメータをリアルタイムで逐次決定できるため、使用者の皮膚弾性特性に関わらず、前記目標接触力Fを実現することができる。
【0028】
つまり、被施療部の皮膚弾性特性が通常よりも高く硬い場合には、より硬い施療子6を用いなければ、マッサージ機が出力するマッサージ力が一定でも、マッサージ機から使用者が実際に受ける力(接触力)は十分ではなくなる(物足りないマッサージ)。
これに対し、本実施形態では、上記のような場合でも、インピーダンス制御の弾性パラメータを大きくして、施療子6の剛性又はマッサージユニット7の剛性を高くしたのと等価な状態を得られる。したがって、使用者の皮膚弾性特性が高くても、目標接触力Fを実現して、丁度良いマッサージを得ることができる。
【0029】
また、被施療部の皮膚弾性特性が通常よりも低く柔らかい場合には、より柔らかい施療子6を用いなければ、マッサージ機が出力するマッサージ力が一定でも、マッサージ機から使用者が実際に受ける力(接触力)は大きすぎるものとなる(強すぎるマッサージ)。
これに対し、本実施形態では、上記のような場合でも、インピーダンス制御の弾性パラメータを小さくして、施療子6の剛性又はマッサージユニット7の剛性を低くしたのと等価な状態を得られる。したがって、使用者の皮膚弾性特性が低くても、目標接触力Fを実現して、丁度良いマッサージを得ることができる。
【0030】
このように、本実施形態では、施療子6の剛性又はマッサージユニット7の剛性の調整と等価な調整(柔軟性設定)をソフトウェアで行うことができ、施療子6等の交換を行わなくても良い。
【0031】
[被施療部の皮膚弾性特性推定]
さらに、制御部18は、皮膚弾性特性推定部18cを備えており、この皮膚弾性特性推定部18cは、施療子6が被施療部に接触したときの変位x等に基づいて、被施療子6が接触している被施療部の皮膚弾性特性(弾性係数)Kを推定する(ステップS3)。被施療部の皮膚弾性特性Kの推定値は、制御部18が下記式の演算を行うことによって算出される。
すなわち、皮膚弾性特性Kは、マッサージユニットの慣性質量M(ここでは、マッサージユニットの質量Mと等しく既知である)、インピーダンス制御の粘性パラメータD(一定値)、インピーダンス制御の弾性パラメータK、使用者の粘性特性D(一定値)、マッサージユニットの変位x、マッサージユニットの目標位置xなどによって求めることができる。なお、マッサージユニットの速度、加速度、目標速度は、マッサージユニットの変位x、マッサージユニットの目標位置xに基づいて、微分演算などにより、算出することができる。
なお、下記式の詳細は、後述する。
【数2】

【0032】
このように、実施形態に係るマッサージ機1では、使用者の皮膚弾性特性をマッサージ中にリアルタイムで推定することができる。そして、推定した皮膚弾性特性は、以下のような利用が可能である。
【0033】
[マッサージの評価1:皮膚弾性特性に基づく「凝り」判定]
被施療部の皮膚弾性特性が高い場合は、凝っており、皮膚弾性特性が低い場合はほぐれている、といえる。制御部18は凝り判定部としても機能する目標接触力調整部18dを備えており、この凝り判定部18dは、推定した皮膚弾性特性に基づいて、被施療部の凝り判定を行う(ステップS4)。例えば、凝り判定しきい値(55[N/m])と、ほぐれ判定しきい値(45[N/m])の2つのしきい値が設定されており、これらのしきい値によって判定を行う。
【0034】
制御部18の凝り判定部18dは、推定した皮膚弾性特性が凝り判定しきい値以上の場合、被施療部は「凝り」であると判定する。また、凝り判定部18dは、推定した皮膚弾性特定がほぐれ判定しきい値以下の場合は「ほぐれ」と判定する。さらに、凝り判定部18dは、推定した皮膚弾性特性が凝り判定しきい値とほぐれ判定しきい値の間にある場合には、「通常」であると判定する。なお、凝り判定のためのしきい値は1つであってもよいし、3つ以上あってもよい。
【0035】
[マッサージの評価2:マッサージ力(目標接触力)の調整]
制御部18の目標接触力調整部18dは、前記凝り判定に基づいて、マッサージ力(目標接触力F)の調整を行う。具体的には、目標接触力調整部18dは、現在k−1時点での目標接触力がF(k−1)であるときに、サンプリング時間Δt後の次の時点kにおける目標接触力F(k)を、例えば、下記式に基づいて決定する。
【数3】

【0036】
上記式に示すように、制御部18は、被施療部が「凝り」であるときは、目標接触力F(k)をより強く設定し、被施療部が「ほぐれ」であるときは、目標接触力F(k)をより弱く設定し、被施療部が「通常」であるときは、目標接触力F(k)をF(k−1)と同じにする。
なお、目標接触力調整部18dは、推定した皮膚弾性特性Kから、対応する目標接触力Fを得るための参照データベース18d−1を有しており、目標接触力調整部18dは、与えられた皮膚弾性特性Kの推定値に基づいて、前記参照データベース18d−1を参照して、目標接触力Fを得る。
【0037】
このように、本実施形態のマッサージ機では、ステップS1で決まった接触力目標値Fだけでマッサージを行うのではなく、使用者の皮膚弾性特性Kの推定値に応じて、接触力目標値Fを調整するため、使用者に印加される力が使用者の皮膚弾性特性Kに応じて調整される。この結果、好適なマッサージ動作が得られる。
【0038】
[弾性パラメータKdの決定方法の詳細]
図5は、インピーダンス制御下における使用者(ヒト)の皮膚表面とマッサージ機のマッサージユニット7との接触をバネ・ダンパで表現した簡略モデルを示している。図5においては、使用者(被施療部)の皮膚弾性係数及び皮膚粘性係数をそれぞれK,Dとし、マッサージ機のマッサージユニット(背面ユニット)7が元々持つ機械的な弾性係数及び粘性係数をそれぞれK,Dとし、インピーダンス制御の弾性パラメータ及び粘性パラメータをそれぞれK,Dとしている。
【0039】
をマッサージユニット7(施療子6)の変位とすると、マッサージユニット7の運動方程式は、下記式(4)のように表すことができる。
【数4】

上記式において、Mはマッサージユニット7の質量、fはマッサージユニット7(施療子6)自身が出力する力(制御入力)、Fは使用者からマッサージユニット7に加わる力である。
【0040】
また、マッサージユニット7がFによって、
【数5】

という振る舞いになるためのマッサージユニット7(実際には押し出し駆動部15)への制御入力fは、下記式(6)のようになる。
【数6】

上記式(6)のfが、インピーダンス制御による制御入力となる。ただし、上記2つの式(5)(6)においてxは、マッサージユニットの変位xの目標位置(目標接触力に対応する位置)である。
【0041】
ここで、上記(5)式をKについて解くと、
【数7】

となり、上記(7)式によって、制御部18は、インピーダンス制御の弾性パラメータを決定することができる。なお、(7)式では、(5)式のFを、目標接触力Fに置き換えている。
【0042】
[弾性パラメータ決定のシミュレーションによる検証]
図5のモデルにおいて、実際の接触力Fが目標接触力Fとなる弾性パラメータKを求めるシミュレーションを下記条件にて行った。
シミュレーション条件1:
実験時間:10[s],サンプリング時間間隔:Δt=0.001[s]
マッサージユニットの粘弾性特性:D=50[Ns/m],K=100[N/m]
使用者の皮膚粘弾性特性:D=50[Ns/m],K=50[N/m]
インピーダンス制御の粘性パラメータ:D=50[Ns/m]
【0043】
図6は、シミュレーション結果を示している。なお、導出した弾性パラメータKはLPF(しゃ断周波数:5[Hz])にて平滑化した。
図6(b)に示すように、目標接触力Fは時間に経過に比例して増加するよう設定されており、この目標接触力Fに対して、実際の接触力Fが追従していることがわかる。この図6(b)から、所望の接触力(目標接触力)が実現されていることがわかる。
【0044】
ただし、図6(a)に示すように、所望の接触力を得ているときのマッサージユニット7の変位xは、目標位置(目標変位)xを実現していない。従来のマッサージ機では実際の変位xを目標変位xに合わせるように制御することで所望の接触力を得ようとしていたが、実際には皮膚弾性特性が使用者又は施療部位によって異なるため、目標変位xを実現しても所望の接触力は得られない。
これに対し、本発明では、図6(a)(b)に示すように、目標変位xに実際の変位xが合うように制御するのではなく、目標接触力Fに実際の接触力が合うように弾性パラメータKを調整して制御するため、所望の接触力を得ることができる。
【0045】
図6(c)に示すように、マッサージユニット7の目標位置xの変化に伴って、弾性パラメータKも変化しており、この弾性パラメータKを用いて、インピーダンス制御の制御入力fを決定する。すなわち、マッサージ機1では、制御部18が、制御入力fに対応する変位量xを求め、押し出し機構部15aを動作させてマッサージユニット7の施療子6の変位xを実現することになる。
【0046】
図7は、前記シミュレーション条件1中の皮膚弾性特性Kを変更したシミュレーション条件2によってシミュレーションを行った結果である。シミュレーション条件2における皮膚弾性特性Kは、時間経過に伴って変化する(図7(d)参照)。皮膚弾性特性Kが時間経過に伴って変化する現象は、マッサージユニット7が上下動作をする場合や、被施療部の皮膚弾性特性が時間的に変化する場合に生じる。なお、シミュレーション条件2におけるその他の条件は、シミュレーション条件1と同様である。
【0047】
図7(b)に示すように、皮膚弾性特性Kを時間的に変化させた場合であっても、実際の接触力Fが目標接触力Fに追従していることがわかる。また、図7(d)の皮膚弾性特性Kの変化に応じて、図7(c)の弾性パラメータKも変化していることがわかる。
【0048】
以上のように、上記(7)式でインピーダンス制御の弾性パラメータKを決定すれば、被施療部の皮膚弾性特性に関わらず、常に目標接触力Fを実現することがわかる。
【0049】
[皮膚弾性特性の推定の詳細]
以下、図5に示すインピーダンス制御を用いたマッサージモデルを基に、施療子6から使用者に与えられる接触力Fを検出するセンサ(力センサ)を用いることなく皮膚弾性特性を推定する方法の詳細を説明する。
マッサージ機のマッサージユニット7から使用者の皮膚に加わる力は、作用反作用により、−Fであるため、下記式(8)によって表される。
【数8】

ただし、xは、Fh=0[N]となるxの平衡位置(基準位置)である。
【0050】
ここで、式(6),(8)を式(4)に代入し、Kについて解くと、
【数9】

となり、マッサージユニット7の変位・速度・加速度から使用者の皮膚弾性係数Kの推定値が得られる。ただし、ヒトの粘性係数Dは既知とする。
【0051】
[皮膚弾性推定のシミュレーションによる検証]
図5のモデルにおいて、皮膚弾性特性Kの推定を試みるシミュレーションを下記条件にて行った。
シミュレーション条件3:
実験時間:10[s],サンプリング時間間隔:Δt=0.001[s]
マッサージユニットの粘弾性特性:D=50[Ns/m],K=100[N/m]
使用者の皮膚粘性特性:D=50[Ns/m]
インピーダンス制御の粘性パラメータ:D=50[Ns/m],K=200[N/m]
【0052】
図8は、シミュレーション結果を示している。なお、皮膚弾性特性Kの推定値は、LPF(しゃ断周波数:5[Hz])にて平滑化した。
本シミュレーションでは、使用者の皮膚弾性特性をK=50,100,200[N/m]のそれぞれの場合において、それぞれの場合の皮膚弾性特性Kが式(9)によって推定できるかどうかを検証した。図8に示すように、わずか0.1[s]程度で、皮膚弾性特性が推定できていることがわかる。
【0053】
次に、前記シミュレーション条件3と同じ条件で、皮膚弾性特性Kが時間と共に変化する場合の皮膚弾性特性推定に関してシミュレーションを試みた。ここでの皮膚弾性特性は、K(t)=10sin{0.2π(t−1)}+50[N/m]とした(周期10[s]の正弦波)。このシミュレーション結果を図9に示す。ここでも、皮膚弾性特性が良好に推定されていることがわかる。
【0054】
[図4の処理のシミュレーションによる検証]
上記シミュレーションと同様の手法を利用して、図4に示す処理全体の検証を下記条件のシミュレーションにて行った。
シミュレーション条件4:
実験時間:20[s],サンプリング時間間隔:Δt=0.001[s]
マッサージユニットの粘弾性特性:D=50[Ns/m],K=100[N/m]
使用者の皮膚粘性特性:D=50[Ns/m]
インピーダンス制御の粘性パラメータ:D=50[Ns/m]
【0055】
上記以外の条件として、使用者の皮膚弾性特性Kは、50[N/m]を中心に10cos(0.1πt)と変動し(図10(d)参照)、また、マッサージユニット7の目標変位xdは0.02sin(0.1πt)と変動するように設定した(図10(a)参照)。
【0056】
また、皮膚弾性特性Kの推定値に応じて、凝り判定を行い、目標接触力Fの調整を、前記式(3)に基づいて行った。
【0057】
式(3)に示すように、凝りと判定(皮膚弾性特性の推定値が55[N/m]以上)された場合には、目標接触力Fは大きくなり、ほぐれと判定(皮膚弾性特性の推定値45[N/m]以下)された場合には目標接触力Fは小さくなる。また、通常と判定された場合には目標接触力Fは変化しない。なお、式(3)において、「0.05」は単位時間当たりの力の変化量[N/s]であるが、この値に限られるものではない。
【0058】
図10は、シミュレーション結果を示している。図10に示すように、推定した使用者の皮膚弾性特性に基づいて、変化する目標接触力Fを実現するようにインピーダンス制御の弾性パラメータKが決定されていることがわかる。つまり、マッサージ機が「凝り」の状態を推定し、その状態に応じてマッサージ(指圧)力を調整することができることが確認された。
【0059】
[第2実施形態]
図11は、第2実施形態に係るマッサージ機を示している。このマッサージ機は、使用者の皮膚表面に実際に加わっている力Fを計測するセンサ30を備えている。このセンサ30は、圧力センサなどによって構成されている。
また、制御部18は、皮膚弾性特性Kの推定値を求める際に、式(9)ではなく、下記式(10)によって算出する。
【数10】

【0060】
センサ30によって使用者の皮膚表面に加わっている力Fが計測できる場合、式(7)及び式(9)から、上記式(10)が得られる。式(10)では、マッサージユニット7の加速度を用いないため、マッサージユニットの加速度を計測又は算出する必要がなく、処理が簡単になる。なお、式(10)では、式(7)のFをFに変更している。
なお、第2実施形態において説明を省略した点は、第1実施形態と同様である。
【0061】
[第3実施形態]
図12は、第3実施形態に係るマッサージ機を示している。このマッサージ機は、複数の施療子6,6が、別々の駆動部15a,15aによって独立に動作するように構成されている。制御部18は、第1実施形態において説明したものと同様の制御を各駆動部15aに対して行う。例えば、左右に対をなす施療子6,6を別々の駆動部15a,15aで動作させる場合、制御部18は、左の施療子6を駆動する駆動部15aに対して、第1実施形態で説明した制御を行うとともに、左側とは独立して、右の施療子6を駆動する駆動部15aに対して、第1実施形態で説明した制御を行うことができる。このようにすることで、左右の被施療部のそれぞれの皮膚弾性特性に関わらず、左右それぞれの被施療部に目標接触力によるマッサージが行える。
なお、第3実施形態及び後述の実施形態において説明を省略した点については、第1及び第2実施形態と同様である。
【0062】
前記第1〜第3実施形態においては、ローラ状の揉み玉6に替えて、他の形態の施療子を有するマッサージ機であってもよい。例えば、マッサージ機としては、手の指に相当する複数の施療子6と複数の施療子6を駆動する多指ハンド型駆動部15aとを有して掴み揉みが可能なハンド型マッサージ機であってもよく、この場合、指に相当する施療子6の接触力を、施療子6ごとに制御することで適切な掴み揉みが行える。
また、施療子6としては、被施療部の上下移動によって被施療部に摺動する擦りマッサージを行える板状のものであってもよい。
【0063】
[第4実施形態]
図13は、第4実施形態に係るマッサージ機を示している。第4実施形態のマッサージ機は、施療子6に振動を与えるバイブレータ6aが設けられたものである。制御部18は、バイブレータ6aのバイブレーション強さを制御するためのバイブレータ制御部18eを備えている。バイブレータ制御部18eは、インピーダンス制御部18aに与えられる目標接触力の強弱に応じてバイブレーション強さを調整するものであり、目標接触力が大きければ、より強いバイブレーションを発生させ、目標接触力が小さければ、より弱いバイブレーションを発生させる。
したがって、目標接触力調整部18dによって目標接触力が調整されると、それに応じてバイブレーション強さも調整される。
【0064】
[第5実施形態]
図14は、第5実施形態に係るマッサージ機を示している。使用者がマッサージ強さの調整のための操作を行う操作部(ジョイステック)40を備えている。使用者は操作部40を操作して実際に施療子6を動作させ、好みのマッサージ強さ(接触力)を決めると、そのマッサージ強さが制御部18の個人用データベース41に、その使用者のための目標接触力として記録される。
記録された目標接触力は、事後的に利用することが可能であり、使用者毎の目標接触力でのマッサージを日常的に受けることが可能である。しかも、皮膚弾性特性に応じて、目標接触力を調整することで、使用者のマッサージ強さの好みと使用者の皮膚弾性特性の双方から決まる最適なマッサージ動作を実現することができる。
【0065】
[第6実施形態]
図15は、第6実施形態に係るマッサージ機の簡略モデルを示しており、インピーダンス制御下における使用者(ヒト)の皮膚表面とマッサージ機のマッサージユニット7との接触をバネ・ダンパで表現したものである。図16は、このマッサージ機の概略構成を示しているブロック図である。
なお、前記第1実施形態において図5に示したモデル図は、水平方向が前記機械本体ユニット5(マッサージユニット7)の前後方向であり、インピーダンス制御を行うにあたり、マッサージユニット7及び施療子6を水平方向に移動させる形態である。すなわち、使用者(被施療者)の皮膚表面に対するマッサージユニット7の施療子6の接触方向(押圧方向)が水平方向である場合である。
【0066】
一方、この図15に示したモデル図は、水平線に対して角度θだけ傾斜した方向を、機械本体ユニット5(マッサージユニット7)の前後方向としている。すなわち、この形態は、背もたれ部2を後方へ倒したリクライニング状態にある椅子型のマッサージ機(図1参照)の場合を示している。したがって、この図15のモデル図は、使用者とマッサージユニット7との重力による影響を考慮したものとなる。そして、前記角度θを、水平線に対する背もたれ部2の傾斜角度とする。また、この第6実施形態において説明を省略する点、例えば、マッサージ機の全体構成については、第1実施形態と同様である。
【0067】
この第6実施形態においても、前記第1実施形態と同様に、施療子6が被施療部へ接触する力が目標接触力となるようにインピーダンス制御する制御部18を備えている。そして、この制御部18は、インピーダンス制御における弾性パラメータKの値を調整する弾性パラメータ調整部18bを備えている。この弾性パラメータ調整部18bは、被施療部に接触している施療子6の変位情報(変位x)等に基づいて、目標接触力を実現するための弾性パラメータKを決定する。さらに、この制御部18は、被施療部の皮膚弾性特性を推定する皮膚弾性特性推定部18cを備えている。
【0068】
[弾性パラメータKの決定方法]
図15において、使用者(被施療部)の皮膚弾性係数及び皮膚粘性係数をそれぞれK,Dとし、マッサージ機のマッサージユニット7が元々持つ機械的な弾性係数及び粘性係数をそれぞれK,Dとし、インピーダンス制御の弾性パラメータ及び粘性パラメータをそれぞれK,Dとしている。
【0069】
さらに、図15において、使用者及びマッサージユニット7は、後方へ倒した背もたれ部2の施療子6(マッサージユニット7)に対して重力による影響を与えている。つまり、背もたれ部2に使用者が凭れることにより、重力によって、この使用者の全体重のうちの一部(荷重M)が施療子6に対して影響を及ぼす。さらに、マッサージユニット7は、自身の重量Mの影響を受ける。マッサージユニット7の重量Mは既知の値であり、この値は制御部18に予め記憶されている。なお、重力によって背もたれ部2に凭れた使用者から施療子6が受ける荷重の情報(Mgsinθ)は、制御部18へ入力されるものであり、この入力の方法については後に説明する。
【0070】
図15において、xをマッサージユニット7(施療子6)の変位とすると、マッサージユニット7の運動方程式は、下記式(11)のように表すことができる。なお、マッサージユニット7の機械的な弾性係数K及び粘性係数Dを0としている。
【数11】

上記式において、Mはマッサージユニット7の質量、fはマッサージユニット7(施療子6)自身が出力する力(制御入力)、Fは使用者からマッサージユニット7に加わる力、Fはマッサージユニット7の重量による成分であり、F=−Mgsinθである。
【0071】
また、マッサージユニット7がFによって、
【数12】

という振る舞いになるためのマッサージユニット7(実際には押し出し駆動部15)への制御入力fは、下記式(13)のようになる。
【数13】

上記式(13)のfが、インピーダンス制御による制御入力となる。ただし、上記2つの式(12)(13)においてxは、マッサージユニットの変位xの目標位置(目標接触力に対応する位置)である。
【0072】
ここで、上記(12)式をKについて解くと、
【数14】

となり、上記(14)式によって、制御部18は、インピーダンス制御の弾性パラメータを決定することができる。なお、(14)式では、(12)式のFを、目標接触力Fに置き換えている。
【0073】
[被施療部の皮膚弾性特性の推定]
次に、図15に示すインピーダンス制御を用いたマッサージモデルを基に、施療子6から使用者に与えられる接触力Fを検出するセンサ(力センサ)を用いることとなく皮膚弾性特性を推定する方法を説明する。
マッサージ機のマッサージユニット7から使用者の皮膚に加わる力は、作用反作用により、−Fであるため、下記式(15)によって表される。
【数15】

ただし、xは、F=0[N]となるxの平衡位置(基準位置)である。
【0074】
ここで、式(15)及び式(11),(13)により、Kについて解くと、
【数16】

となり、マッサージユニット7の変位・速度・加速度から、重力によって使用者から施療子6が受ける荷重の情報を考慮して、使用者の皮膚弾性係数Kの推定値が得られる。ただし、ヒトの粘性係数Dは既知とする。
【0075】
このように、制御部18は、皮膚弾性特性推定部18cを備えており、この皮膚弾性特性推定部18cは、施療子6が被施療部に接触したときの変位x、及び、重力によって使用者から施療子6が受ける荷重の情報(Mgsinθ)に基づいて、被施療子6が接触している被施療部の皮膚弾性特性(弾性係数)Kを推定することができる。
すなわち、皮膚弾性特性Kは、マッサージユニットの慣性質量M(ここでは、マッサージユニットの質量Mと等しく既知である)、インピーダンス制御の粘性パラメータD(一定値)、インピーダンス制御の弾性パラメータK、使用者の粘性特性D(一定値)、マッサージユニットの変位x、マッサージユニットの目標位置x、重力によって使用者から施療子6が受ける荷重などによって求めることができる。なお、マッサージユニットの速度、加速度、目標速度は、マッサージユニットの変位x、マッサージユニットの目標位置xに基づいて、微分演算などにより、算出することができる。
【0076】
このように、実施形態に係るマッサージ機では、使用者の皮膚弾性特性をマッサージ中にリアルタイムで推定することができる。この皮膚弾性特性の推定は、その使用者の体重によって背もたれ部2に作用する荷重を考慮したものであるため、つまり、重力によって使用者から施療子6が受ける荷重の情報を考慮し補正を行ったものであるため、使用者の体格(体重)が様々であっても、それぞれの皮膚弾性特性をより一層正確に推定することができる。そして、この正確に推定した皮膚弾性特性に基づいて目標接触力調整部18dは目標接触力Fを決定することができ、弾性パラメータ調整部18bがこの目標接触力Fを実現するための弾性パラメータKを決定することができる。
【0077】
つまり、正確に推定した皮膚弾性特性に基づいて、第1実施形態と同様に、前記[マッサージの評価1:皮膚弾性特性に基づく「凝り」判定]及び[マッサージの評価2:マッサージ力(目標接触力)の調整]のような利用が可能となり、また、目標接触力調整部18dにおいては、重力によって使用者から施療子6が受ける荷重の情報を考慮することで、目標接触力Fを得ることができ、重力を考慮したこの目標接触力Fを実現するための弾性パラメータKを、弾性パラメータ調整部18bは決定することができる。これにより、制御部18(インピーダンス制御部18a)は、重力によって施療子6が受ける荷重の変化(例えば、使用者の体重の差)に応じて、適切なマッサージ強さとなるように制御することができる。
【0078】
[重力によって施療子6が受ける荷重の情報の入力]
図15に示しているモデルは、使用者が後方へ倒れた背もたれ部2(図1参照)に上半身を凭れかけることにより、その分の体重が施療子6(マッサージユニット7)に影響を与えた状態となっている。
そこで、このマッサージ機は、使用者の体重を入力する入力部19(図16参照)と、この入力部19の入力値を演算処理する演算部21とを有している。この演算部21では、入力部19における入力値を用いて、重力によって使用者から施療子6が受ける荷重の情報を得る。そして、制御部18は、この荷重の情報を前記制御に利用している。
【0079】
これを具体的に説明すると、使用者が入力部19に、自己の全体重を入力し、制御部18の演算部21が、入力部19の入力値に所定の比率(例えば60%)を乗ずる演算を行い、補正値を得る。ここで演算部21が前記比率を乗ずるのは、使用者の全体重のうちの上半身の体重が施療子6に影響を及ぼすためである。さらに、この演算部21は、背もたれ部2の傾斜角度θを検出することができ、この傾斜角度θと前記補正値とに基づく演算を行い、重力によって使用者から施療子6が受ける荷重の情報として、使用者の体重による前後方向成分(式(15),(16)中のMgsinθ)を求めることができる。この場合、前記補正値がMgに相当する。なお、演算部21で用いられる前記比率は、ヒトの全身の体重のうちの上半身に相当する部分の比率(例えば60%)であり、この比率は制御部18において予め設定され記憶されている。
【0080】
前記入力部19は、マッサージ機が備えているコントローラとすることができ、使用者がコントローラを手動操作することにより、自己の全体重の値を入力することができる。このコントローラは、使用者の手動操作によって、マッサージコースを選択したり、施療子6の位置を変更させたりする操作を行うことができるものである。前記演算部21は制御部18が備えている機能として実現できる。なお、制御部18はマイコンからなる。
【0081】
また、重力による荷重の情報の入力の変形例を説明する。このマッサージ機は、重力による使用者の荷重を測定する測定部20(以下、荷重センサとして説明する)と、この荷重センサ20の測定値から前記荷重の情報を得る演算部21とを有している構成とすることができる。荷重センサ20は、マッサージ機に取り付けられており、使用者の体重に起因する荷重を検出する。
【0082】
この場合において、荷重センサ20を座部1に設けることで、使用者の体重を測定し、前記の場合と同様に演算部21が補正値を求め、背もたれ部2の傾斜角度θと前記補正値とに基づく演算を行い、荷重の情報として、使用者の体重による前後方向成分(式(15),(16)中のMgsinθ)を求めてもよい。
【0083】
または、荷重センサ20をマッサージユニット7又は施療子6に設けるのがよい。これは、荷重センサ20が、荷重の情報として使用者の体重による前後方向成分(式(15),(16)中のMgsinθ)に相当する荷重を直接求めることができるためである。この場合において、荷重センサ20の荷重検出方向を使用者の皮膚表面へ向かう方向となるように設定して、荷重センサ20を施療子6又はマッサージユニット7に搭載することで実現できる。これによれば、演算部21は、荷重センサ20の測定値を、傾斜角度θに関係なく、重力によって使用者から施療子6が受ける荷重の情報として得ることができる。
【0084】
また、重力による荷重の情報入力についての変形例として、このマッサージ機は、施療子6を高さ方向に移動させることによって、着座した使用者の肩位置を検出する肩位置検出機能を備えている。この肩位置を検出することにより、制御部18はその使用者の身長を推定し、この身長に応じた体重を推定することができる。そして、この推定した体重を考慮して、前記と同様の手段により(演算部21により)重力による荷重の情報を求めてもよい。または、このマッサージ機は、背もたれ部2をリクライニングさせるための駆動部としてアクチュエータ(図示せず)を備えている。このアクチュエータは電動モータを有しており、使用者が凭れた背もたれ部2を動作させる際の前記電動モータの負荷(電流値)から、制御部18は、重力によって使用者から施療子6が受ける荷重の情報を得てもよい。
【0085】
[シミュレーションによる検証]
図15のモデルにおいて、皮膚弾性特性Kの推定及び接触力Fの追従を試みるシミュレーションを下記条件にて行った。
シミュレーション条件5:
実験時間:20[s],サンプリング時間間隔:Δt=0.01[s]
マッサージユニットの粘弾性特性:D=0[Ns/m],K=0[N/m]
使用者の皮膚粘性特性:D=50[Ns/m]
インピーダンス制御の粘性パラメータ:D=50[Ns/m],K=200[N/m]
【0086】
この他の条件として、皮膚弾性特性Kが時間と共に変化するとし、その皮膚弾性特性K(t)は、50[N/m]を中心に10cos(0.1πt)[N/m]と変動し(図17(b)参照)、さらに、マッサージユニット7の目標変位xが時間と共に変化するとし、その目標変位x(t)は0.02sin(0.1πt)[m]と変動するように設定した(図19(a)参照)。また、パラメータとして傾斜角度θを0°,5°,10°,15°,30°とし、それぞれの場合についてシミュレーションを行い、さらに、傾斜角度θが30°の場合において、使用者の体重(荷重M)を1.0と2.0とに、2倍に変化させている。
【0087】
また、皮膚弾性特性Kの推定値に応じて、凝り判定を行い、目標接触力Fの調整を、前記式(3)に基づいて行った。
図17、図18、図19は、シミュレーション結果を示している。図17(b)に示すように、皮膚弾性特性K(t)の変化に対して、皮膚弾性特性Kが適切に推定されていることがわかる。また、図17(a)に示すように、推定した使用者の皮膚弾性特性に基づいて、変化する目標接触力Fを実現するようにインピーダンス制御の弾性パラメータKが決定されていることがわかる。つまり、マッサージ機が「凝り」の状態を推定し、その状態に応じてマッサージ(指圧)力を調整することができることが確認された。なお、これらについては、各パラメータで同じ結果が得られた。
【0088】
また、図18(a)(b)に示すように、傾斜角度θ及び使用者の体重による荷重Mが変化すると、弾性パラメータKについても、目標接触力F(図17(a))に追従するような変化をしていることがわかる。傾斜角度θ=0°の場合を基準とすると、傾斜角度θが大きくなるにつれて、また使用者の体重(荷重M)が大きくなるにつれて、使用者の体重によって施療子6が受ける力が大きくなるために、施療子6においてクッション性を高めるように(施療子6の当りを軟らかくするために)弾性パラメータKを小さくし、使用者への接触力を弱めている(和らげている)。そして、弾性パラメータKが変化することによって、図19(a)(b)に示すように、傾斜角度θが大きくなるにつれてマッサージユニット7の変位x(絶対値)が大きくなる。つまり、マッサージユニット7の動作位置が使用者から離れる側へとなり、使用者の体重を相殺するような位置での動作となっているといえる。
【0089】
以上より、この実施形態においても、皮膚弾性特性Kの推定及び接触力Fの追従が適切に行われており、さらに、この実施形態によれば、背もたれ部2が傾くことによる重力の影響、及び、使用者の体重の差に応じて、適切なマッサージ強さとなるように制御していることが確認された。
【0090】
また、この第6実施形態において、前記第2実施形態で説明したように、使用者の皮膚表面に実際に加わっている力Fを計測するセンサ30を備えていてもよく、制御部18は、皮膚弾性特性Kの推定値を求める際に(式(16))、この計測値を用いてもよい。さらに、第6実施形態において、前記第3実施形態で説明したように、複数の施療子6,6が、別々の駆動部15a,15aによって独立に動作するように構成されていてもよい。さらに、第6実施形態において、前記第4実施形態で説明したように、施療子6に振動を与えるバイブレータ6aが設けられており、制御部18は、バイブレータ6aのバイブレーション強さを制御するためのバイブレータ制御部18eを備えていてもよい。さらに、第6実施形態において、前記第5実施形態で説明したように、使用者がマッサージ強さの調整のための操作を行う操作部(ジョイステック)40を備えていてもよい。
【0091】
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、様々な変形が可能である。そして、各実施形態の組み合わせも自在である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】椅子型マッサージ機の側面図である。
【図2】機械本体ユニットの斜視図である。
【図3】マッサージ機の機能ブロック図である。
【図4】制御部の処理フローチャートである。
【図5】使用者の皮膚表面とマッサージ機の簡略モデルである。
【図6】皮膚弾性特性が一定の場合のインピーダンス制御弾性パラメータ決定のシミュレーション結果である。
【図7】皮膚弾性特性が可変の場合のインピーダンス制御弾性パラメータ決定のシミュレーション結果である。
【図8】皮膚弾性特性の推定シミュレーション結果である(真値固定)。
【図9】皮膚弾性特性の推定シミュレーション結果である(真値可変)。
【図10】皮膚弾性特性が一定の場合のインピーダンス制御弾性パラメータ決定のシミュレーション結果である。
【図11】第2実施形態のマッサージ機の機能ブロック図である。
【図12】第3実施形態のマッサージ機の機能ブロック図である。
【図13】第4実施形態のマッサージ機の機能ブロック図である。
【図14】第5実施形態のマッサージ機の機能ブロック図である。
【図15】第6実施形態における、使用者の皮膚表面とマッサージ機の簡略モデルを示している。
【図16】第6実施形態のマッサージ機の機能ブロック図である。
【図17】第6実施形態のマッサージ機におけるシミュレーション結果である。
【図18】第6実施形態のマッサージ機におけるシミュレーション結果である。
【図19】第6実施形態のマッサージ機におけるシミュレーション結果である。
【符号の説明】
【0093】
6 施療子
18 制御部
18a インピーダンス制御部
18b 弾性パラメータ調整部
18c 皮膚弾性特性推定部
18d 目標接触力調整部
19 入力部(コントローラ)
20 測定部 (荷重センサ)
21 演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被施療部に接触してマッサージする施療子と、
前記施療子が被施療部へ接触する力が目標接触力となるようにインピーダンス制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、インピーダンス制御における弾性パラメータの値を調整する弾性パラメータ調整部を備えていることを特徴とするマッサージ機。
【請求項2】
前記弾性パラメータ調整部は、前記被施療部に接触している前記施療子の変位情報に基づいて、前記目標接触力を実現するための前記弾性パラメータを推定することを特徴とする請求項1記載のマッサージ機。
【請求項3】
前記弾性パラメータ調整部は、重力によって使用者から前記施療子が受ける荷重の情報を考慮することで得た前記目標接触力を実現するための前記弾性パラメータを推定することを特徴とする請求項1又は2に記載のマッサージ機。
【請求項4】
前記制御部は、被施療部の弾性特性を推定する弾性特性推定部を備え、
前記弾性特性推定部は、前記被施療部に接触している前記施療子の変位情報に基づいて、被施療部の弾性特性を推定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のマッサージ機。
【請求項5】
前記弾性特性推定部は、重力によって使用者から前記施療子が受ける荷重の情報を考慮して、被施療部の弾性特性を推定することを特徴とする請求項4に記載のマッサージ機。
【請求項6】
重力による使用者の荷重を測定する測定部と、この測定部の測定値から前記荷重の情報を得る演算部と、を有している請求項5に記載のマッサージ機。
【請求項7】
使用者の体重を入力する入力部と、この入力部の入力値から前記荷重の情報を得る演算部と、を有している請求項5に記載のマッサージ機。
【請求項8】
前記制御部は、推定された被施療部の弾性特性に基づいて、被施療部の凝りを判定する判定部を備えていることを特徴とする請求項4〜7のいずれか一項に記載のマッサージ機。
【請求項9】
前記制御部は、推定された被施療部の弾性特性に基づいて、前記目標接触力を調整する目標値調整部を備えていることを特徴とする請求項4〜8のいずれか一項に記載のマッサージ機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2008−93404(P2008−93404A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317128(P2006−317128)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【出願人】(000112406)ファミリー株式会社 (175)
【Fターム(参考)】