説明

マッサージ装置

【課題】パラレルリンク方式のマッサージ装置において、簡単な構成により、施療子の幅方向移動速度が、幅狭側に比べ幅広側で遅くなる不都合を低減または解消する。
【解決手段】マッサージ装置1は、左右の施療子2と、駆動部3と、送りネジ4と、送りネジ4の長さ方向に沿って送られる送りナット5と、施療子2及び送りナット5に係合し、送りナット5の動きを施療子2に伝達して施療子2を移動可能とする結合機構と、を備える。送りナット5の1つをその上下動によって左右の施療子2を左右幅方向Yに移動するための幅移動用送りナット52とし、水平軸25と、水平軸25に設けられ摺動部材26と、幅移動用送りナット52に一端を係合され他端を摺動部材26に軸支されて固定された左右一対のリンク23から成る左右一対の幅リンクレバーと、左右の施療子2間の幅が広がった状態のときに左右の幅リンクレバーの長さを実質的に伸ばす延伸機構6を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラレルリンク機構式のマッサージ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人体の背中に当接してマッサージを施す施療子を上下方向、左右幅方向、及び出退方向に駆動すると共に、施療子を含むエンジンと呼ばれる可動部そのものを上下に駆動する駆動モータを可動部に備えた椅子型のマッサージ装置がある。このようなマッサージ装置は、可動部がモータを含むので慣性が大きく、施療子の細かく微妙な動作や素早い動作が困難であり、また、可動部を内蔵する椅子の背もたれ部の薄型化、軽量化が困難である。
【0003】
ところで、リンク機構として知られるパラレルリンク機構とシリアルリンク機構のうち、パラレルリンク機構は、複数の駆動モータが協調して動作するリンク機構であり、シリアルリンク機構に比べ、高速、高精度、高剛性といった特性に優れ、大きな力を発揮できるリンク機構である。そこで、複数の駆動モータを椅子の座部下に配置し、パラレルリンク機構を用いて施療子を駆動することによりこれらの困難を解消し、可動部を軽量化して低慣性化と動作高速化を実現したマッサージ装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上述のマッサージ装置のパラレルリンク機構を、図12を参照して説明する。このマッサージ装置は背もたれ部と座部とを有する椅子型のマッサージ装置である。その機械的な構造は、不図示のガイド枠等から成る固定部(不図示)と、駆動モータ31等を備えて成る駆動機構部と、昇降背板84,85と共に上下動する可動部の3つの部分に大別される。これらの機械的な構造物は、椅子型マッサージ装置1の背もたれ部から座部にかけての内部に実装されている。
【0005】
駆動機構部は、不図示の固定部に固定した駆動モータ31,32,33(総称して、駆動モータ3)、上下方向に配置され、各対応する駆動モータ3によって回転駆動される送りネジ41,42,43(総称して、送りネジ4)、送りネジ4を上下で保持する不図示のネジ受部、及び駆動モータ3の動力を、矢印aで示すように、送りネジ4に伝達する動力伝達部(不図示)等から成る。
【0006】
可動部は、左右一対の施療子2を備えて施療子2の移動と施療子2によるマッサージ動作を行うところであり、通常、エンジンと呼ばれる部分である。可動部は、上下の背板84,85、送りナット51,52,53(総称して、送りナット5)、施療子2などを備えている。可動部全体は、不図示のガイド枠に沿って上下動する。
【0007】
上の背板84は、その左右側板により軸受支持された偏心軸24と、偏心軸24を回転駆動する駆動モータ34とを備えている。下背板85は、背板85の左右側板によって軸受支持された摺動用の水平軸25を備えている。
【0008】
可動部の残りの部分は、送りナット52と施療子2、及びこれらに附属した部分である。送りナット52は、送りネジ42に螺合して、上下の背板84,85間に配置されている。送りナット52の左右には、施療子2を左右幅方向に移動させるための腕木(リンク23)が左右下方に広がって設けられている。
【0009】
このマッサージ装置の施療子2は左右において上下2個づつV字形の連結部材9によって保持されている。施療子2を支持するリンク機構は、連結部材9のV字の谷部に連結されたリンク21,22からなる。
【0010】
上述のリンク21の他端は、水平軸25にその軸方向に沿って摺動自在に設けられた左右一対の摺動部材26に軸支されて固定されている。また、上述のリンク22の他端は、偏心軸24回りに回転可能、かつ、偏心軸24の軸方向に沿って摺動自在に軸支されている。このように、施療子2を支持するリンク21,22の他端が、それぞれ、左右方向に摺動自在と成っている。従って、送りナット52が上下方向の上側へ移動すれば左右の施療子2が幅狭方向へと移動し、下側へ移動すれば幅広方向へと移動する。
【特許文献1】特開2006−271496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した特許文献1に示されるマッサージ装置においては、左右の施療子2間の距離(施療子間幅)変更に関して、次のような改善の余地がある。これを、図13(a)(b)を参照して説明する。図13(a)の幅広状態Aにおいて、リンク23を斜辺(長さL)とする直角三角形に注目すると、そのリンク23の両端のy,z座標値は、y+z=L、の関係がある。この式は円の方程式であり、リンク23の位置に応じて、図13(b)のようなグラフが得られる。このグラフによると、送りナット52の一定の位置変化Δzに対して、幅方向の変化は、幅広状態AではΔyaであり、幅狭状態ではΔybであり、Δya<Δybの関係がある。つまり、送りナット52を一定速度で上下動させた場合、施療子2の幅方向移動速度が、幅狭側に比べ幅広側で遅くなるという問題がある。
【0012】
上述のように、施療子2の左右幅方向移動速度に位置依存性があるので、駆動モータ32の選定条件として、幅広時の移動速度が得られることという制約のもとでは、駆動モータ32の小型化に限界が生じる。そこで、図14(a)(b)に示すように、送りナットを駆動する送りネジ4とこれを回転駆動する駆動モータ3との動力伝達部として、固定シープ91、可動シープ92、およびベルト93から成る無段階変速器90を備えることが考えられる。
【0013】
しかしながら、動力伝達部に無段階変速器90を設ける場合、図15(a)〜(d)に示すように、パラレルリンク方式のマッサージ装置の下部の長さが長くなり、座面の高さが高くなるなどの問題が発生する。図15(a)に示すように、駆動モータ3やその動力伝達部に改善を行わない場合、座部1bの座面を高くすることなく、背もたれ部1aのリクライニングを十分深く行うことができるが、上述の施療子2の左右幅方向移動速度に関する問題が残る。
【0014】
また、図15(b)に示すように、駆動モータ3を大型化すると、施療子2が下まで十分下がらなくなる。また、図15(c)に示すように、駆動モータ3を小型化して動力伝達部を増強すると、リクライニング性能が低下する。また、図15(d)に示すように、駆動モータ3を大型化して後方に下げて(送りネジ4から離して)配置すると、やはり、十分なリクライニングができなくなる。
【0015】
本発明は、上記課題を解消するものであって、簡単な構成により、施療子の幅方向移動速度が、幅狭側に比べ幅広側で遅くなる不都合を低減または解消させることを実現できるパラレルリンク方式のマッサージ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を達成するために、請求項1の発明は、人体に当接してマッサージを施す左右一対の施療子と、前記施療子を動作させるための複数の回転する駆動部と、前記各駆動部にそれぞれ係合し、その駆動部によって回転される送りネジと、前記各送りネジに螺合して当該送りネジの回転に伴ってその送りネジの長さ方向に沿って送られる送りナットと、前記施療子及び前記送りナットに係合し、前記送りナットの動きを前記施療子に伝達して当該施療子を人体に対して上下方向、左右幅方向、および出退方向に移動可能とする結合機構と、を備え、前記送りネジを上下方向に配置すると共に前記駆動部を前記送りネジの端部に配置し、前記送りナットの1つを前記左右の施療子から略等位置に配置して当該送りナットの上下動によって前記左右の施療子を左右幅方向に移動するための幅移動用送りナットとし、前記左右の施療子を左右幅方向にガイドして移動させるための水平軸と、前記水平軸にその軸方向に沿って摺動自在に設けられると共に前記施療子に係合された左右一対の摺動部材と、前記幅移動用送りナットに一端を係合され他端を前記摺動部材に軸支されて固定された左右一対のリンクから成る左右一対の幅リンクレバーと、を備えて成るマッサージ装置において、前記左右の施療子間の幅が広がった状態のときに前記左右の幅リンクレバーの長さを実質的に伸ばす延伸機構を備えたものである。
【0017】
請求項2の発明は、請求項1に記載のマッサージ装置において、前記延伸機構が、前記幅移動用送りナットに設けられ、当該延伸機構が前記幅リンクレバーに対し左右共通に動作するものである。
【0018】
請求項3の発明は、請求項1に記載のマッサージ装置において、前記延伸機構が、前記左右の幅リンクレバーの他端を係合している摺動部材側に設けられているものである。
【0019】
請求項4の発明は、請求項1に記載のマッサージ装置において、前記延伸機構が、前記左右の幅リンクレバーに設けられているものである。
【0020】
請求項5の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のマッサージ装置において、前記延伸機構が、無段階伸縮可能なアクチュエータを用いて構成されているものである。
【発明の効果】
【0021】
請求項1の発明によれば、左右の施療子間の幅が広がった状態のときに左右の幅リンクレバーの長さを実質的に伸ばす延伸機構を備えたので、この延伸機構の作用により、幅移動用送りナットを一定速度で移動させる場合に、施療子の幅方向移動速度が幅狭側に比べ幅広側で遅くなるという施療子の左右幅位置依存性を、低減または解消できる。延伸機構は、座部下に設けることなく左右の幅リンクレバーの近傍、すなわち可動部(エンジン部)に容易に備えることができるので、背もたれ部のリクライニング性能を損なうことなく、施療子の幅方向移動速度が、幅狭側に比べ幅広側で遅くなる不都合を低減または解消できる。また、延伸機構の動作を断続的に行って幅リンクレバーを伸ばしたり縮めたりすることにより、幅移動用送りナットによる左右施療子の左右幅方向の移動に複合的な動作を付加して効果的な施療を行うことができる。
【0022】
請求項2の発明によれば、延伸機構が幅移動用送りナットに設けられ、幅リンクレバーが左右共通に延伸されるので、左右について1つの延伸機構で済み、簡単な構成とすることができる。また、延伸機構の動作を断続的に行って幅リンクレバーを伸ばしたり縮めたりすることにより、幅移動用送りナットによる左右施療子の左右幅方向の移動に複合的な動作を付加して効果的な施療を行うことができる。
【0023】
請求項3の発明によれば、左右に延伸機構を有するので、片側ずつ動作させることにより、施療子の幅方向位置が左右対称位置から外れた変化のある施療を実現できる。また、延伸機構と幅移動用送りナットの複合動作により、左右施療子の左右幅方向の動作を複合的な動作とすることができる。
【0024】
請求項4の発明によれば、左右に延伸機構を有するので、片側ずつ動作させることにより、施療子の幅方向位置が左右対称位置から外れた変化のある施療を実現できる。また、延伸機構と幅移動用送りナットの複合動作により、左右施療子の左右幅方向の動作を複合的な動作とすることができる。左右の幅リンクレバーに延伸機構を組み込むことにより、左右の幅リンクレバーを左右共通の部品にすることが容易である。このような部品種類の削減により、延伸機構部品の製造コストや製造時の組立作業の工数を削減できる。
【0025】
請求項5の発明によれば、施療子の左右幅方向移動に際し、無段階の速度プロファイルの移動を実現でき、滑らかな施療を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係るマッサージ装置について、図面を参照して説明する。本明細書において、マッサージ装置とその各部の空間配置の説明のために、図中に示したXYZ直交座標系を参照する。
【0027】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態に係るマッサージ装置の駆動機構を示し、図2は同マッサージ装置の外観を示し、図3(a)(b)、図4、図5は同マッサージ装置の延伸機構を示す。
【0028】
マッサージ装置1は、図1、図2に示すように、人体Mに当接してマッサージを施す左右一対の施療子2と、施療子2を動作させるための複数の回転する駆動部3と、各駆動部3にそれぞれ係合し、その駆動部によって回転される送りネジ4と、各送りネジ4に螺合して送りネジ4の回転に伴ってその送りネジ4の長さ方向に沿って送られる送りナット5と、施療子2及び送りナット5に係合し、送りナット5の動きを施療子2に伝達して施療子2を人体Mに対して上下方向Z、左右幅方向Y、および出退方向Xに移動可能とする結合機構20(図2)と、を備えている。この結合機構20は、いわゆるパラレルリンク機構式の結合機構である。
【0029】
また、マッサージ装置1は、送りネジ4を上下方向Zに配置すると共に駆動部3を送りネジ4の端部(下部)に配置し、送りナット5の1つを左右の施療子2から略等位置に配置して当該送りナット5の上下動によって左右の施療子2を左右幅方向Yに移動するための幅移動用送りナット52とし、左右の施療子2を左右幅方向Yにガイドして移動させるための水平軸25と、水平軸25にその軸方向に沿って摺動自在に設けられると共に施療子2に係合された左右一対の摺動部材26と、幅移動用送りナット52に一端を係合され他端を摺動部材26に軸支されて固定された左右一対のリンク23から成る左右一対の幅リンクレバーと、を備えている。
【0030】
そして、このマッサージ装置1は、左右の施療子2間の幅が広がった状態のときに左右の幅リンクレバーの長さを実質的に伸ばす延伸機構6を備えている。この延伸機構6は、幅移動用送りナット52に設けられ、当該延伸機構6が幅リンクレバーに対し左右共通に動作するように構成されている。以下において、マッサージ装置1の全体を説明した後、この延伸機構6と、その効果を説明する。
【0031】
マッサージ装置1は、椅子型であり、送りネジ4は、椅子の背もたれ部1aの内部に上下方向Zに沿って配置され、各駆動部3は送りネジ4の端部である下方の座部1b内に配置されている。また、座部1bの内部には、背もたれ部1aをリクライニングさせるための駆動機構や、各駆動部3や駆動機構を制御するための制御部10が内蔵されており、椅子の肘掛部には被施療者が操作する操作部11が設けられている。
【0032】
制御部10は、例えば、マイクロコンピュータや、半導体メモリ、及びこれらのハードウエア上で動作するソフトウエアなどを用いて構成される。制御部10は、駆動部3の電力供給制御等を行うほか、例えば、操作部11からの入力信号に基づいてマッサージ動作のメニューを実行する中央制御部としての制御を行う。
【0033】
なお、施療子2の動作方向のうち、前後方向Xと左右幅方向Yは、椅子に座った被施療者(人体M)が認識する前後左右であり、出退方向は前後方向Xであって、施療子2が人体Mの背中を押す方向である。
【0034】
次に、マッサージ装置1のパラレルリンク機構式の結合機構20の構造を説明する。マッサージ装置1の機械的な構造は、ガイド枠81等から成る固定部と、駆動部3等を備えて成る駆動機構部と、昇降背板84,85と共に上下動する可動部の3つの部分に大別される。結合機構20は、主に可動部によって構成され、この可動部は駆動機構部によって駆動される。これらの機械的な構造物は、椅子型マッサージ装置1の背もたれ部1aから座部1bにかけての内部に実装されている。
【0035】
固定部は、左右の上下方向に配置されたガイド枠81、左右のガイド枠81に橋渡しされてこれらを固定する上部の固定背板82、及び下部の固定台83等から成る。ガイド枠81は、左右の互いに対向する側に、後述の車輪80aを上下方向にガイドする溝が形成されている。
【0036】
駆動機構部は、下部の固定台83に配置された第1、第2、第3の駆動部31,32,33(総称して、駆動部3)、上下方向に配置され、各対応する駆動部3によって回転駆動される第1、第2、第3の送りネジ41,42,43(総称して、送りネジ4)、送りネジ4を下と上で保持する下軸受44、上軸受45、及び駆動部3の動力を送りネジ4に伝達する動力伝達部等から成る。動力伝達部は、例えば、プーリ12,13とタイミングベルト、または歯車などで構成されている。駆動部3は、通常、電動モータによって構成される。
【0037】
可動部は、左右一対の施療子2を備えて施療子2の移動と施療子2によるマッサージ動作を行うところであってマッサージ装置1の中心的な部分であり、通常、エンジンと呼ばれる部分である。可動部は、上背板84、下背板85、第1、第2、第3の送りナット51,52,53(総称して、送りナット5)、施療子2などを備えている。可動部の全体は、後述するように、送りネジ4と左右のガイド枠81に沿って上下動する。
【0038】
上背板84は、第1の送りネジ41に螺合した第1の送りナット51と、背板84の左右側板により軸受支持された偏心軸24と、偏心軸24を回転駆動する駆動モータ34と、背板84の左右両端に設けられてガイド枠81のガイド溝に納まって上下動する車輪80aと、を備えている。背板84は、送りナット51を介して送りネジ41によって、また、車輪80aを介して左右のガイド枠81によって、その動きが上下方向に束縛されている。
【0039】
下背板85は、第3の送りネジ43に螺合した第3の送りナット53と、背板85の左右側板によって軸受支持された摺動軸である水平軸25と、背板85の左右両端に設けられてガイド枠81のガイド溝に納まって上下動する車輪80aと、を備えている。背板85は、送りナット53を介して送りネジ43によって、また、車輪80aを介して左右のガイド枠81によって、その動きが上下方向に束縛されている。
【0040】
可動部の残りの部分は、第2の送りナット52と、施療子2と、偏心軸24と、これらに附属した部分である。まず、施療子2と偏心軸24を説明する。施療子2は、左右にそれぞれ2個づつあり、2個の施療子2がV字形の連結部材9によって保持されている。施療子2を支持するリンク機構は、連結部材9のV字の谷部にそれぞれ一端を連結された下側のリンク21と上側のリンク22とからなる。
【0041】
上述の下側のリンク21の他端は、水平方向の回転軸27によって軸支されている。回転軸27は、摺動部材26に固定されている。摺動部材26は、左右一対で構成され、水平軸25にその軸方向に沿って摺動自在に固定されている。また、上側のリンク22の他端は、連結部22aに軸支されている。連結部22aは、例えば、球対偶や、回転支持部を備えたスラスト軸受などによって構成され、偏心軸24回りに回転可能、かつ、偏心軸24の軸方向に沿って摺動自在と成っている。このように、施療子2を支持するリンク21,22の他端が、それぞれ、回転軸27及び摺動部材26と、連結部22aと、を介して左右方向に摺動自在とされている。このような構造により、左右の施療子2間の距離が変更可能とされている。
【0042】
偏心軸24は、軸心が互いに平行に偏心した左右一対の偏心軸から成っている。偏心軸24は、互いに平行な軸心の間に設けられた軸心の回りに回転される。偏心軸24の回転によって、連結部22a、従ってリンク22の端部は円運動する。左右の連結部22aの円運動は、互いに位相が180度ずれた運動となる。この円運動によって、施療子2が左右で交互に人体Mに対して前後し、いわゆる肩叩き運動が実現される。偏心軸24の回転は、上背板84と共に上下動する上述の駆動モータ34によって行われる。
【0043】
次に、第2の送りナット52について説明する。第2の送りナット52は、第2の送りネジ42に螺合して、上背板84と下背板85の間に配置されている。送りナット52は、送りネジ42によって、その動きが上下方向に束縛されている。第2の送りナット52の左右には、施療子2を左右幅方向に移動させるための腕木であるリンク23が左右下方に広がって設けられている。
【0044】
この第2の送りナット52は、上述したように、幅移動用送りナット52とされるものである。送りナット52がリンク23によって摺動部材26に係合され、さらに、摺動部材26がリンク21に係合されているので、当該送りナット5の上下動によって、左右の施療子2を左右幅方向Yに移動させることができる。送りナット52とリンク23との間には、延伸機構6が設けられている。延伸機構6の一部と、左右のリンク23とによって、左右一対の幅リンクレバーが構成される。
【0045】
(延伸機構)
延伸機構6は、図1、図3(a)(b)に示すように、幅移動用送りナット52に固定された上下方向の直進運動アクチュエータ61と、略逆U字型の板材から成る移動連結部材62とを備えて構成される。アクチュエータ61は、その直進運動部61aを上方に伸ばした状態で、その固定部を送りナット52に固定されている。アクチュエータ61は、制御部10に接続されており、その直進運動が制御される。アクチュエータ61は、例えば空圧シリンダ、油圧シリンダ、リニアモータ等が用いられる。これらの種類に応じて、制御部10から、作動油、圧空、電力などが送られる。
【0046】
移動連結部材62は、逆U字の下方に伸びた左右の枝部分に、ガイド用の長孔62aが形成され、U字の底部相当位置には、曲げ加工された連結片62bが形成されている。連結片62bには、孔が形成されている。その孔を用いて、アクチュエータ61の直進運動部61aの上方先端が、移動連結部材62に一体的に固定される。
【0047】
移動連結部材62は、アクチュエータ61と一体化された状態で、送りナット52に取り付けられる。この状態で、送りナット52に設けられているガイドピンPが、ガイド用の長孔62aにはまり込んでいる。また、移動連結部材62の逆U字の左右の下方端部には、リンク23が、連結部23aの回りに回転自在となるように、結合されている。
【0048】
ところで、図3(b)に示すように、移動連結部材62とリンク23とによって、2つの長さL0、L1が定義される。長さL0は、対偶間の長さで決まるリンク23の実質的長さである(対偶はリンク機構における回転軸)。長さL1は、長孔62aにおけるピンPの位置とリンク23の下方対偶位置との間の距離である。
【0049】
上述の幅リンクレバーは、送りナット52と摺動部材26の関係を実質的に決める機構として、延伸機構6と組み合わせたリンク23によって構成される。このように構成された幅リンクレバーの長さがL1である。この長さL1は、移動連結部材62に対するリンク23の回転角度によって変化する。延伸機構6の動作によって、幅リンクレバーの長さが実質的に伸ばされる。このことは、延伸機構6の動作によってリンク23の長さが実質的に伸ばされる、とも言い換えることができる。
【0050】
次に、延伸機構6の動作を説明する。図4は、送りナット52が水平軸25に対して比較的高い位置にあって、左右の摺動部材26の間隔が狭い状態、すなわち、施療子2の左右幅間隔が比較的狭い状態を示している。この状態では、延伸機構6は、動作させずに、送りナット52の上下運動によって、摺動部材26間の幅、従って施療子2間の幅が制御される。例えば、送りナット52が矢印z1方向に移動すると、摺動部材26が矢印y1,y2の方向に移動する。
【0051】
送りナット52が下方に移動して、水平軸25に接近し、左右の摺動部材26の間隔が広い状態、すなわち、施療子2の左右幅間隔が広い状態となると、送りナット52の上下の移動距離ΔZに対する摺動部材26の移動距離ΔYが小さくなる。そこで、移動距離ΔYを大きくするため、図5に示すように、延伸機構6を動作させる。延伸機構6が動作すると、移動連結部材62が下方に矢印z2に示すように移動し、これに伴って、摺動部材26が矢印y3,y4に示すように移動する。すなわち、延伸機構6の動作によって、幅リンクレバーの長さが、もとのリンク23の長さL0から、長さL1に伸ばされることになる。この伸びによって、摺動部材26、従って施療子2の移動距離ΔY(不図示)が増加する。
【0052】
本実施形態のマッサージ装置1によれば、上述の延伸機構6の作用により、幅移動用送りナット52を一定速度で移動させる場合に、施療子2の幅方向の移動速度に対する施療子2の位置依存性を低減または解消できる。すなわち、施療子2の幅方向移動速度が、幅狭側に比べ幅広側で遅くなるという問題を低減または解消できる。また、延伸機構6が幅移動用送りナット52に設けられ、幅リンクレバーが左右共通に延伸されるので、左右について1つの延伸機構で済み、簡単な構成とすることができる。
【0053】
延伸機構6は、座部1b下に設けることなく左右の幅リンクレバーの近傍、すなわち可動部(エンジン部)に容易に備えることができるので、背もたれ部1aのリクライニング性能を損なわない。また、延伸機構6の動作を断続的に行って幅リンクレバーを伸ばしたり縮めたりすることにより、幅移動用送りナット52による左右施療子の左右幅方向の移動に複合的な動作を付加して効果的な施療を行うことができる。
【0054】
(第2の実施形態)
図6、図7は第2の実施形態に係るマッサージ装置の延伸機構部分を示す。本実施形態のマッサージ装置は、第1の実施形態におけるマッサージ装置1における延伸機構6に代えて、左右の摺動部材26側にそれぞれ延伸機構6を設けたものであり、他の点は同様である。
【0055】
上述の延伸機構6は、図6に示すように、水平軸25と平行に配置された水平方向の直進運動アクチュエータ64と、水平方向のガイド用の長孔を有する移動連結部材63とを備えて構成される。アクチュエータ64は、その直進運動部64aが水平とされると共に、その先端が、取付板64bを介して摺動部材26に固定されている。アクチュエータ64の構成は、第1の実施形態のアクチュエータ61と同様である。
【0056】
移動連結部材63は、アクチュエータ64の固定部に一体的に固定されている。移動連結部材63は、この状態で、摺動部材26に設けられているガイドピンPが、ガイド用の長孔にはまり込むように配置されている。また、リンク23が、その連結部23bの回りに回転自在となるように、移動連結部材63の送りナット52寄りの端部に結合されている。リンク23の他方の連結部23aは、回転自在となるように送りナット52に結合されている。
【0057】
次に、延伸機構6の動作を説明する。図6の状態は、左右の摺動部材26の間隔が狭い状態、すなわち、施療子2の左右幅間隔が比較的狭い状態を示している。この状態では、延伸機構6は、動作させずに、その直進運動部64aが縮んだ状態となっている。このとき、例えば、送りナット52が矢印z1方向に移動すると、摺動部材26が矢印y1,y2のように移動する。
【0058】
送りナット52が下方に移動して、施療子2の左右幅間隔が広い状態となると、図7に示すように、延伸機構6を動作させる。延伸機構6が動作すると、直進運動部64aが伸びて、摺動部材26が左右外方に押されることにより、矢印y3,y4に示すように移動する。すなわち、延伸機構6の動作によって、幅リンクレバーの長さが、もとのリンク23の長さL0から、長さL1に伸ばされることになる。この伸びによって、摺動部材26、従って施療子2の移動距離ΔY(不図示)が増加する。
【0059】
本実施形態のマッサージ装置1によれば、上述の延伸機構6の作用により、第1の実施形態と同様に、幅移動用送りナット52を一定速度で移動させる場合に、施療子2の幅方向移動速度が、幅狭側に比べ幅広側で遅くなるという問題を低減または解消できる。
【0060】
また、左右の幅リンクレバーのそれぞれに延伸機構6を有するので、これらを片側ずつ動作させることにより、施療子2の幅方向位置が左右対称位置から外れた変化のある施療を実現できる。また、延伸機構6と幅移動用送りナット52の複合動作により、左右施療子2の左右幅方向の動作を複合的な動作とすることができ、より多様なマッサージ効果を実現できる。
【0061】
(第3の実施形態)
図8、図9は第3の実施形態に係るマッサージ装置の延伸機構部分を示す。本実施形態のマッサージ装置は、第1の実施形態におけるマッサージ装置1における延伸機構6に代えて、左右の幅リンクレバーに延伸機構を組み込むようにしたものであり、他の点は同様である。
【0062】
上述の延伸機構6は、図8に示すように、第1の実施形態におけるリンク23そのものを、直進運動アクチュエータから成る延伸機構6としたものである。従って、延伸機構6は直線形状であり、その一端は送りナット52に回転自在に係合され、他端は摺動部材26に回転自在に係合されている。アクチュエータ64の構成は、第1の実施形態のアクチュエータ61と同様である。
【0063】
送りナット52が下方に移動して、施療子2の左右幅間隔が広い状態となると、図9に示すように、延伸機構6を動作させる。延伸機構6が動作すると、もとの長さL0から、その直進運動部64aが平行に伸びて、長さL1となる。延伸機構6が伸びることにより、摺動部材26が矢印y3,y4に示すように移動する。
【0064】
本実施形態のマッサージ装置1によれば、上述の延伸機構6の作用により、第1の実施形態と同様に、幅移動用送りナット52を一定速度で移動させる場合に、施療子2の幅方向移動速度が、幅狭側に比べ幅広側で遅くなるという問題を低減または解消できる。
【0065】
また、第2の実施形態と同様に、左右の幅リンクレバーのそれぞれに延伸機構6を有するので、これらを片側ずつ動作させることにより、変化のある施療や施療子2の複合動作による多様なマッサージ効果を実現できる。また、延伸機構6そのものを、左右の幅リンクレバーとするので、左右の幅リンクレバーを左右共通の部品にすることが容易である。このような部品種類の削減により、延伸機構部品の製造コストや製造時の組立作業の工数を削減できる。
【0066】
(第4の実施形態)
図10(a)(b)は第4の実施形態に係るマッサージ装置の延伸機構に用いられる駆動部のブロック構成を示し、図11は施療子の幅方向位置と幅移動用送りナットの上下方向位置の関係を示す。
【0067】
本実施形態は、上述の第1乃至第3の実施形態のマッサージ装置1に適用される延伸機構6を、無段階伸縮可能なアクチュエータを用いて構成するものであり、他の点は同様である。アクチュエータとして、油圧や圧空などの流体を作動媒体とするシリンダの場合、図10(a)に示すように、制御部10とアクチュエータ7との間に、調節弁12を設ける。制御部10は、この調節弁12の開閉を制御することにより、アクチュエータ7の直進運動部7aの伸縮を制御して無段階伸縮可能なアクチュエータ7を実現できる。
【0068】
また、アクチュエータとして、送りネジ付きモータを用いる場合、図10(b)に示すように、制御部10がモータ電流を制御することにより、アクチュエータ7の直進運動部7aの伸縮を制御して無段階伸縮可能なアクチュエータ7を実現できる。
【0069】
上述のような無段階伸縮可能なアクチュエータ7を用いて延伸機構6を構成し、これにより、上述の第1乃至第3の実施形態のように施療子2の動作を行う場合、図11に示す実線の曲線cのように、施療子2の左右幅方向の動作を改善できると共に、その動作を滑らかな動作とすることができる。
【0070】
なお、破線で示した曲線bは、円の一部であり、延伸機構6を備えていない場合の、幅移動用送りナット52の位置に対する施療子2の幅方向位置を示している。この場合、送りナット52の一定移動距離に対して、幅広位置にある施療子2の移動距離が狭くなっている。この点が、曲線cのように改善され、施療子2の幅広位置における移動距離が大きくなっていることが分かる。また、アクチュエータ7が、無段階伸縮可能でない場合、曲線cは、滑らかでなく、段階的なものになる。無段階伸縮可能なアクチュエータ7を用いて延伸機構6を構成して用いるマッサージ装置1によれば、施療子2の左右幅方向移動に際し、無段階の速度プロファイルの移動を実現でき、滑らかで自然な施療を実現できる。
【0071】
なお、本発明は、上記構成に限られることなく種々の変形が可能である。例えば、各実施形態で示した、アクチュエータ61,64などの取付方法や取付の向き等は、所定の延伸機構6の動作が可能な任意の方法を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るマッサージ装置の施療子を駆動する駆動機構の正面図。
【図2】同上マッサージ装置の外観斜視図。
【図3】(a)は同上マッサージ装置の延伸機構の一部を示す斜視図、(b)は同延伸機構の残りの部分を示す斜視図。
【図4】同上マッサージ装置の延伸機構部分の斜視図。
【図5】同上延伸機構の動作状態を示す斜視図。
【図6】第2の実施形態に係るマッサージ装置の延伸機構部分の斜視図。
【図7】同上延伸機構の動作状態を示す斜視図。
【図8】第3の実施形態に係るマッサージ装置の延伸機構部分の斜視図。
【図9】同上延伸機構の動作状態を示す斜視図。
【図10】(a)(b)は第4の実施形態に係るマッサージ装置の延伸機構に用いられるアクチュエータのブロック構成図。
【図11】同上延伸機構の動作を説明する施療子の幅方向位置と幅移動用送りナットの上下方向位置の関係グラフ。
【図12】従来のパラレルリンク機構式の結合機構に基づくマッサージ装置の駆動機構の斜視図。
【図13】(a)同上従来のマッサージ装置における施療子の左右幅方向の移動機構部分の正面図、(b)は(a)の移動機構による施療子の幅方向位置と送りナットの上下方向位置との位置関係を示すグラフ。
【図14】(a)同上従来のマッサージ装置における送りネジの回転速度制御のための送りネジと駆動モータとの駆動力伝達部分の斜視図、(b)は同伝達部分の断面図。
【図15】(a)同上従来のマッサージ装置の一部内部を示す外観側面図、(b)(c)(d)は同マッサージ装置の駆動力伝達部の強化に伴う不具合を説明する一部内部を示す外観側面図。
【符号の説明】
【0073】
1 マッサージ装置
2 施療子
20 結合機構
23 リンク
25 水平軸
3,31,32,33 駆動部(駆動モータ)
4,41,42,43 送りネジ
5,51,52,53 送りナット
6 延伸機構
7 アクチュエータ
L0 長さ
L1 長さ(幅リンクレバーの)
M 人体
X 出退方向
Y 左右幅方向
Z 上下方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体に当接してマッサージを施す左右一対の施療子と、前記施療子を動作させるための複数の回転する駆動部と、前記各駆動部にそれぞれ係合し、その駆動部によって回転される送りネジと、前記各送りネジに螺合して当該送りネジの回転に伴ってその送りネジの長さ方向に沿って送られる送りナットと、前記施療子及び前記送りナットに係合し、前記送りナットの動きを前記施療子に伝達して当該施療子を人体に対して上下方向、左右幅方向、および出退方向に移動可能とする結合機構と、を備え、
前記送りネジを上下方向に配置すると共に前記駆動部を前記送りネジの端部に配置し、
前記送りナットの1つを前記左右の施療子から略等位置に配置して当該送りナットの上下動によって前記左右の施療子を左右幅方向に移動するための幅移動用送りナットとし、
前記左右の施療子を左右幅方向にガイドして移動させるための水平軸と、前記水平軸にその軸方向に沿って摺動自在に設けられると共に前記施療子に係合された左右一対の摺動部材と、前記幅移動用送りナットに一端を係合され他端を前記摺動部材に軸支されて固定された左右一対のリンクから成る左右一対の幅リンクレバーと、を備えて成るマッサージ装置において、
前記左右の施療子間の幅が広がった状態のときに前記左右の幅リンクレバーの長さを実質的に伸ばす延伸機構を備えたことを特徴とするマッサージ装置。
【請求項2】
前記延伸機構が、前記幅移動用送りナットに設けられ、当該延伸機構が前記幅リンクレバーに対し左右共通に動作することを特徴とする請求項1に記載のマッサージ装置。
【請求項3】
前記延伸機構が、前記左右の幅リンクレバーの他端を係合している前記摺動部材側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のマッサージ装置。
【請求項4】
前記延伸機構が、前記左右の幅リンクレバーに設けられていることを特徴とする請求項1に記載のマッサージ装置。
【請求項5】
前記延伸機構が、無段階伸縮可能なアクチュエータを用いて構成されていること特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のマッサージ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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