説明

マット調フィルム

【課題】表面層の傷付き等の劣化に影響されることなくより深みのある艶消し効果を発現することができるマット調フィルムを提供する。
【解決手段】樹脂成形体表面に貼着されるフィルム本体層11と、前記フィルム本体層11の上面12に形成された艶消し効果を有する表面層20と、前記表面層20上面21に形成されて、下面側31に凹凸部32を有し剥離されることによって当該表面層20上面21に凹凸面22を形成するように構成された剥離PET層30とからなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の外装部品等の樹脂成形体表面に貼着されるマット調フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車の外装部品等の樹脂成形体には、耐候性、耐久性、装飾性等の観点から、その表面に適宜の積層フィルムが貼着される。このような積層フィルムとして、例えば、樹脂成形体表面に貼着されるフィルム本体層の上面に耐候性等を備えた表面層を積層し、該表面層の上面に、下面側にヘアライン加工が施されたフィルム層を形成した後、前記ヘアライン加工が施されたフィルム層を剥離することによって前記表面層の上面に凹凸面を形成してマット調(ヘアライン調)に仕上げるように構成されたマット調フィルムが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
ところで、従来のマット調フィルムでは、上記の如く表面層の上面側をマット調に形成することによって艶消し効果が発現されるように構成したものであるが、前記表面層が傷付き等により劣化して艶消し効果が低減することが問題となっている。そこで近年では、表面層の傷付き等の劣化に影響されることなくより深みのある艶消し効果を発現することができるマット調フィルムが切望されている。
【特許文献1】特開平11−321478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであり、表面層の傷付き等の劣化に影響されることなくより深みのある艶消し効果を発現することができるマット調フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、請求項1の発明は、樹脂成形体表面に貼着されるフィルム本体層と、前記フィルム本体層の上面に形成された艶消し効果を有する表面層と、前記表面層上面に形成されて、下面側に凹凸部を有し剥離されることによって当該表面層上面に凹凸面を形成するように構成された剥離PET層とからなることを特徴とするマット調フィルムに係る。
【0006】
請求項2の発明は、前記表面層が、アクリルウレタン塗料に艶消し剤が充填されてなる請求項1に記載のマット調フィルムに係る。
【0007】
請求項3の発明は、前記艶消し剤がポリエチレン系不定形タイプである請求項2に記載のマット調フィルムに係る。
【0008】
請求項4の発明は、前記表面層が、親水性樹脂と疎水性樹脂とを混合してなる請求項1に記載のマット調フィルムに係る。
【0009】
請求項5の発明は、前記親水性樹脂が水性アクリル樹脂エマルジョン、前記疎水性樹脂が疎水性ハイソリッド型アミノ樹脂であり、前記水性アクリル樹脂エマルジョンと前記疎水性ハイソリッド型アミノ樹脂との混合比が4:6〜9:1である請求項4に記載のマット調フィルムに係る。
【0010】
請求項6の発明は、前記表面層が10ないし25μmの厚みを有するものである請求項1ないし5のいずれか1項に記載のマット調フィルムに係る。
【0011】
請求項7の発明は、前記剥離PET層の凹凸部が艶消し部である請求項1ないし6のいずれか1項に記載のマット調フィルムに係る。
【0012】
請求項8の発明は、前記剥離PET層の凹凸部がヘアライン加工部である請求項1ないし6のいずれか1項に記載のマット調フィルムに係る。
【0013】
請求項9の発明は、前記フィルム本体層上面に易接着処理が施されている請求項1ないし8のいずれか1項に記載のマット調フィルムに係る。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明に係るマット調フィルムによれば、樹脂成形体表面に貼着されるフィルム本体層と、前記フィルム本体層の上面に形成された艶消し効果を有する表面層と、前記表面層上面に形成されて、下面側に凹凸部を有し剥離されることによって当該表面層上面に凹凸面を形成するように構成された剥離PET層とからなるため、表面層の傷付き等の劣化に影響されることなくより深みのある艶消し効果を発現することができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、請求項1において、前記表面層が、アクリルウレタン塗料に艶消し剤が充填されてなるため、該表面層の内部から艶消し効果を発現させることができ、表面層上面の凹凸部が削れる等の劣化があった場合でも、艶消し効果の低減を抑制することができる。
【0016】
請求項3の発明によれば、請求項2において、前記艶消し剤がポリエチレン系不定形タイプであるため、経済的に有利であると共に極めて効果的に艶消し効果を発現させることができる。
【0017】
請求項4の発明によれば、請求項1において、前記表面層が、親水性樹脂と疎水性樹脂とを混合してなるため、前記表面層の表面に海島構造が形成され、前記表面層の表面で光を乱反射させることが可能となって、より深みのある艶消し効果を得ることができる。
【0018】
請求項5の発明によれば、請求項4において、前記親水性樹脂が水性アクリル樹脂エマルジョン、前記疎水性樹脂が疎水性ハイソリッド型アミノ樹脂であり、前記水性アクリル樹脂エマルジョンと前記疎水性ハイソリッド型アミノ樹脂との混合比が4:6〜9:1であるため、より安定した艶消し効果を得ることができる。
【0019】
請求項6の発明によれば、請求項1ないし5において、前記表面層が10ないし25μmの厚みを有するものであるため、耐久性や十分な成形屈曲性を備えると共に、経済的にも有利なマット調フィルムを得ることができる。
【0020】
請求項7の発明によれば、請求項1ないし6において、前記剥離PET層の凹凸部が艶消し部であるため、前記表面層上面により好適に艶消し効果を発現させることができる。
【0021】
請求項8の発明によれば、請求項1ないし6において、前記剥離PET層の凹凸部がヘアライン加工部であるため、前記表面層上面をヘアライン調に仕上げることが可能となり、当該マット調フィルムの装飾性を向上させることができる。
【0022】
請求項9の発明によれば、請求項1ないし8において、前記フィルム本体層上面に易接着処理が施されているため、フィルム本体層と表面層との接着性を容易に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下添付の図面に従ってこの発明を詳細に説明する。
図1は本発明の第一実施例に係るマット調フィルムの概略断面図である。
【0024】
図1に示すように、本発明の第一実施例に係るマット調フィルム10は、樹脂成形体Mの表面M1に貼着されるものであって、フィルム本体層11と、表面層20と、剥離PET層30とからなる。前記樹脂成形体Mとしては、例えば、PC、ABS、PVC、PP等の樹脂が使用される。
【0025】
フィルム本体層11は、樹脂成形体M表面M1に貼着される積層フィルムである。このフィルム本体層11としては、例えば、金属等を含む金属化粧層を有する装飾用フィルム等の適宜の積層フィルムが使用される。実施例では、樹脂成形体M表面M1にプライマー処理を施した塩化ビニル樹脂からなる基材フィルム層が貼着され、前記基材フィルム層の上面には、2液反応型のポリウレタン系接着剤等の公知のホットメルト剤がグラビアロールコーティング法によって塗工された接着剤層を介してクロム又はクロム合金の積層スパッタリングからなる金属化粧層が積層され、前記金属化粧層上面にその金属光沢を外面に発現可能なポリエチレンテレフタレート樹脂からなる紫外線カット剤を含んだPETフィルム層が接着されてなる装飾用フィルムが使用されている。
【0026】
表面層20は、フィルム本体層11の傷付き等を防止するとともに艶消し効果を発現するためのものであって、フィルム本体層11の上面12に形成される。該表面層20は、請求項2の発明として規定したように、アクリルウレタン塗料に艶消し剤が充填されてなるように構成される。また、この表面層20は、耐久性や柔軟性、価格的な観点等から、請求項6の発明として規定したように、10ないし25μmの厚みに形成することが好ましく勧められる。
【0027】
表面層20の材料としては、アクリル、ウレタン、アクリルウレタン、ナイロン、ポリカーボネート等の高耐候性の樹脂が使用されるが、アクリルウレタン塗料は皮膜形成能に優れており、特に熱硬化型のものは、光沢、耐候性、耐光性、耐薬品性等に優れているため好ましく用いられる。
【0028】
また、表面層20に充填される艶消し剤としては、粉末状のポリエチレン系樹脂やシリカ、酸化チタン等が使用されるが、経済的な観点等から前記ポリエチレン系樹脂が好ましく用いられ、特に、請求項3の発明として規定したように、ポリエチレン系不定形タイプの艶消し剤が好適である。このように、艶消し剤をポリエチレン系樹脂とすれば経済的に有利であり、特に、前記ポリエチレン系樹脂を粒子形状が不定形なタイプとすれば、極めて効果的に艶消し効果を発現させることができる。なお、ポリエチレン系不定形タイプの艶消し剤では、その粒径が表面層20の厚みより小さいものとされ、平均粒径は1〜5μmが好ましい。また、表面層20に充填される前記艶消し剤の割合は、主剤(例えば、アクリルウレタン塗料)100重量部に対して5〜25重量部が好ましく、これより少ない割合の場合はマット調(艶消し調)を効果的に発現させにくいことが問題となり、多い割合の場合は表面層20が白濁することが問題となる。
【0029】
実施例の表面層20は、アクリルウレタン塗料に平均粒径約5μmのポリエチレン系不定形タイプの艶消し剤(藤倉化成株式会社製「AD8100F」)を前記アクリルウレタン塗料100重量部に対して15重量部の割合で充填し、公知のコンマコーター法によって厚さ約10μmに形成される。このように、アクリルウレタン塗料にポリエチレン系不定形タイプの艶消し剤を充填することにより、粒子形状が不定形なポリエチレン系樹脂が分散して表面層20の屈折率が変化し、該表面層20を内部からマット調(艶消し調)に仕上げることができる。
【0030】
剥離PET層30は、前記表面層20上面21に形成されて、下面側31に凹凸部32を有し剥離されることによって当該表面層20上面21に凹凸面22を形成するように構成される。この剥離PET層30は、公知の二軸延伸法によって約38ないし50μmの厚みに形成され、その材料としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂等の公知のPETフィルムが使用される。剥離PET層30の凹凸部32は、請求項7の発明として規定したように、艶消し部として構成することが好ましく、当該剥離PET層30に適宜の無機物を練り込んで凹凸を形成する練り込み処理、砂等の異物を剥離PET層30下面31に衝突させて凹凸を形成するサンドマット処理、剥離PET層30下面31を化学的に処理して凹凸を形成するケミカルマット処理等の適宜の手法によって形成することができる。これにより、前記表面層20上面21に好適に艶消し効果を発現させることができる。
【0031】
また、前記剥離PET層30では、請求項8の発明として規定したように、前記凹凸部32をヘアライン加工部としてもよい。このヘアライン加工部は、剥離PET層30下面側31に公知のヘアライン加工を施して形成される。このように、剥離PET層30の凹凸部32をヘアライン加工部とすれば、前記表面層20上面21をヘアライン調に仕上げることが可能となり、当該マット調フィルム10の装飾性を向上させることができる。
【0032】
なお、このマット調フィルム10では、フィルム本体層11と表面層20の相性に応じて、請求項9の発明として規定したように、フィルム本体層11上面12に易接着処理を施すことができる。フィルム本体層11上面12に易接着処理を施すことにより、前記フィルム本体層11と表面層20との接着性を容易に向上させることができる。易接着処理としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等をグラビアコーティング法等によって塗布する方法が挙げられる。
【0033】
上記の如く構成されたマット調フィルム10にあっては、表面層20が艶消し効果を有するとともに、その上面21に凹凸面22が形成されるものであるため、表面層20上面21による艶消し効果に加え、該表面層20による艶消し効果も発現され、従来に比してより深みのある艶消し効果を発現させることが可能となる。さらに、表面層20自体とその上面21の双方から艶消し効果が発現されるものであるから、前記表面層20が傷付く等で劣化した場合であっても、艶消し効果の低減を抑制することができる。したがって、表面層20の傷付き等の劣化に影響されることなくより深みのある艶消し効果を発現することができる。
【0034】
特に、表面層20をアクリルウレタン塗料に艶消し剤を充填して形成することにより、該表面層20の内部から艶消し効果を発現させることができ、表面層20上面21の凹凸部22が削れる等の劣化があった場合でも、艶消し効果の低減を抑制することができる。また、艶消し剤をポリエチレン系不定形タイプとすれば、経済的に有利であると共に極めて効果的に艶消し効果を発現させることができる。
【0035】
なお、本発明のマット調フィルムは、上記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において変更可能である。例えば、実施例ではフィルム本体層11として金属化粧層を有する装飾用フィルムを用いたが、これに限定されるものではなく、顔料,染料,着色剤等によって発色させる着色フィルムを有する装飾用フィルム等、目的に応じた適宜の積層フィルムを使用することができる。
【0036】
また、本発明のマット調フィルムでは、請求項4の発明として規定したように、表面層を、親水性樹脂と疎水性樹脂とを混合して形成することができる。親水性樹脂と疎水性樹脂とを混合することによって、親水性樹脂部分では表面張力が大きく凸部となるとともに疎水性樹脂部分では表面張力が小さく凹部となり、前記表面層の表面には前記親水性樹脂部分による凸部と前記疎水性樹脂部分による凹部とが微細に交互に入り交じった海島構造が形成される。このように、海島構造(微細な凹凸)を形成することにより、表面層の表面で光を乱反射させることが可能となって、より深みのある艶消し効果を得ることができる。
【0037】
さらに、上記の表面層にあっては、請求項5の発明として規定したように、親水性樹脂を水性アクリル樹脂エマルジョン、疎水性樹脂を疎水性ハイソリッド型アミノ樹脂とし、水性アクリル樹脂エマルジョンと疎水性ハイソリッド型アミノ樹脂との混合比を4:6〜9:1とすることが好ましく勧められ、より好ましい混合比は6:4〜8:2である。このように水性アクリル樹脂エマルジョンと疎水性ハイソリッド型アミノ樹脂とを混合することにより、より安定した艶消し効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第一実施例に係るマット調フィルムの概略断面図である。
【符号の説明】
【0039】
10 マット調フィルム
11 フィルム本体層
12 フィルム本体層上面
20 表面層
21 表面層上面
22 凹凸面
30 剥離PET層
31 剥離PET層下面側
32 凹凸部
M 樹脂成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形体表面に貼着されるフィルム本体層と、
前記フィルム本体層の上面に形成された艶消し効果を有する表面層と、
前記表面層上面に形成されて、下面側に凹凸部を有し剥離されることによって当該表面層上面に凹凸面を形成するように構成された剥離PET層
とからなることを特徴とするマット調フィルム。
【請求項2】
前記表面層が、アクリルウレタン塗料に艶消し剤が充填されてなる請求項1に記載のマット調フィルム。
【請求項3】
前記艶消し剤がポリエチレン系不定形タイプである請求項2に記載のマット調フィルム。
【請求項4】
前記表面層が、親水性樹脂と疎水性樹脂とを混合してなる請求項1に記載のマット調フィルム。
【請求項5】
前記親水性樹脂が水性アクリル樹脂エマルジョン、前記疎水性樹脂が疎水性ハイソリッド型アミノ樹脂であり、前記水性アクリル樹脂エマルジョンと前記疎水性ハイソリッド型アミノ樹脂との混合比が4:6〜9:1である請求項4に記載のマット調フィルム。
【請求項6】
前記表面層が10ないし25μmの厚みを有するものである請求項1ないし5のいずれか1項に記載のマット調フィルム。
【請求項7】
前記剥離PET層の凹凸部が艶消し部である請求項1ないし6のいずれか1項に記載のマット調フィルム。
【請求項8】
前記剥離PET層の凹凸部がヘアライン加工部である請求項1ないし6のいずれか1項に記載のマット調フィルム。
【請求項9】
前記フィルム本体層上面に易接着処理が施されている請求項1ないし8のいずれか1項に記載のマット調フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2007−216611(P2007−216611A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−42240(P2006−42240)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(593227981)日本プライ株式会社 (8)
【Fターム(参考)】