説明

マツタケ菌糸体含有錠剤

【課題】良好な崩壊性及び安定性を有するマツタケ菌糸体含有錠剤を提供する。
【解決手段】前記マツタケ菌糸体含有錠剤は、マツタケ菌糸体と、セルロース系高分子基材とを含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、崩壊性及び安定性の良好なマツタケ菌糸体含有錠剤に関する。
【背景技術】
【0002】
マツタケ[Tricholoma matsutake (S. Ito & Imai) Sing.]には種々の生理活性物質が含まれていることが知られており、例えば、特許文献1及び特許文献2には、マツタケに含有される各種の抗腫瘍性物質が開示されている。前記特許文献1には、マツタケ菌糸体の液体培養物を熱水又は希アルカリ溶液で抽出して得られる抽出液から分離精製されたエミタニン−5−A、エミタニン−5−B、エミタニン−5−C、及びエミタニン−5−Dに、サルコーマ180細胞の増殖阻止作用があることが開示されている。また、前記特許文献2には、マツタケ子実体の水抽出物から分離精製された分子量20〜21万のタンパク質(サブユニットの分子量=10〜11万)が抗腫瘍活性を有することが開示されている。
【0003】
また、前記のような分離精製物としてではなく、マツタケ菌糸体それ自体を医薬組成物として用いることが、例えば、特許文献3に開示されている。前記特許文献3には、マツタケ(例えば、菌糸体、培養物、又は子実体)、マツタケの熱水抽出液若しくはその乾燥体、又はマツタケのアルカリ溶液抽出液若しくはその乾燥体と、薬剤学的に許容することのできる担体とを含有する、ストレス負荷に対する回復促進用の医薬組成物が開示されている。また、その剤型として、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、若しくは丸剤等の経口剤、又は注射剤、外用液剤、軟膏剤、坐剤、局所投与のクリーム、若しくは点眼薬などの非経口剤が例示されており、これらの経口剤は、例えば、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、澱粉、コーンスターチ、白糖、乳糖、ぶどう糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、大豆レシチン、ショ糖、脂肪酸エステル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、又は合成ケイ酸アルミニウムなどの賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、矯味剤、安定化剤、保湿剤、防腐剤、又は酸化防止剤等を用いて、常法に従って製造することができることが開示されている。しかしながら、特許文献3の実施例では、マツタケの熱水抽出液の乾燥体粉末、あるいは、マツタケのアルカリ溶液抽出液の乾燥体粉末を使用して生理活性を評価しているため、マツタケ菌糸体それ自体を用いた場合の、その具体的な処方や製造方法については記載がない。
【0004】
【特許文献1】特公昭57−1230号公報
【特許文献2】特許第2767521号明細書
【特許文献3】国際公開第02/30440号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マツタケ菌糸体は、これまで、一般に顆粒状の乾燥体粉末の形で提供されているが、経口剤としては、飲みやすさ、用量管理の観点などから、錠剤化が好ましい。本発明者が、マツタケ菌糸体それ自体の錠剤化を試みたところ、他の配合剤を加えずに打錠したときには、崩壊性が極めて悪いことが判明した。例えば、配合剤を含まないマツタケ菌糸体錠剤を水中に放置すると、すぐに表面から水が侵入するものの、表面部分がゲル状態になるため、内部まで水が侵入することができず、その結果、崩壊性が劣るものと考えられた。また、前記錠剤(すなわち、他の配合剤を加えずに打錠して得られた錠剤)を、40℃/75%相対湿度(RH)や25℃/60%RHといった条件で保存試験を実施した場合、経時的な崩壊性の劣化や色調の変化が認められた。
【0006】
マツタケ菌糸体含有錠剤を経口的に摂取する場合、胃又は消化管内で適切に錠剤が崩壊するような処方又は製造方法の採用が重要である。また、長期(少なくとも1年間、望ましくは2年間、更に望ましくは3年間)の流通において充分な品質を担保するためには、充分な安定性を有することが必要である。しかしながら、マツタケ菌糸体に関して、良好な崩壊性と安定性の両方を達成することは、これまで容易なことではなかった。
【0007】
従って、本発明の課題は、良好な崩壊性及び安定性を有する、マツタケ菌糸体含有錠剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、本発明による、マツタケ菌糸体と、セルロース系高分子基材とを含有することを特徴とする、マツタケ菌糸体含有錠剤によって解決することができる。
本発明の錠剤の好ましい態様によれば、セルロース系高分子基材として、結晶セルロース若しくは粉末セルロースのいずれか一方、又はその両方を含有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の錠剤は、良好な崩壊性及び安定性を有する。より具体的には、日本薬局方崩壊試験法に基づく崩壊試験において、30分以内に崩壊するので、本発明の錠剤を経口的に摂取した場合には、胃内で錠剤が完全に崩壊する。また、40℃/75%RHの保存試験において、少なくとも6箇月以上安定であるため、本発明の錠剤は、食品として流通させるのに充分な品質担保ができる。
【0010】
本発明者が各種崩壊剤を検討したところ、セルロース系高分子基材を担体として用いた場合、それ以外の崩壊剤を用いた場合と比較して、有効成分であるマツタケ菌糸体の含有量が45重量%を超えても、良好な崩壊性を示すことが判明した。この結果は、担体の含有量が相対的に低下しても、セルロース系高分子基材を用いた場合、それ以外の崩壊剤と比べて、その崩壊作用を充分に発揮することができることを示している。このような知見は、セルロース系高分子基材それ自体が崩壊剤として周知であっても、当業者といえでも全く予想外の知見であり、本発明はこのような知見に基づくものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の錠剤は、有効成分としてマツタケ菌糸体を含有し、更に、良好な崩壊性及び安定性を付与する担体として、少なくとも、セルロース系高分子基材を含有する。
【0012】
本発明の錠剤において有効成分として用いることのできるマツタケ菌糸体としては、例えば、天然のマツタケの菌糸体、あるいは、培養により得られる菌糸体(すなわち、培養菌糸体)を挙げることができる。マツタケ菌糸体は、各種生理活性、例えば、抗腫瘍活性(特公昭57−1230号公報、特許第2767521号明細書)、免疫増強活性(国際公開第01/49308号パンフレット)、又はストレス負荷回復促進活性(国際公開第03/070264号パンフレット)等を有することが公知である。
【0013】
天然のマツタケ菌糸体を使用する場合には、例えば、天然の菌糸体をそのまま使用することもできるし、あるいは、天然の菌糸体から適当な手段(例えば、凍結乾燥)で水分を除去した菌糸体乾燥物の状態で使用することもできるし、更には、前記菌糸体乾燥物を粉砕した菌糸体乾燥物粉末の状態で使用することもできる。培養菌糸体を使用する場合には、例えば、培養により得られた菌糸体と培地との混合物(Broth)から適当な除去手段(例えば、濾過)により培地を除去しただけの状態で使用することもできるし、あるいは、培地を除去した後の菌糸体から適当な手段(例えば、凍結乾燥)で水分を除去した菌糸体乾燥物の状態で使用することもできるし、更には、前記菌糸体乾燥物を粉砕した菌糸体乾燥物粉末の状態で使用することもできる。中でも、錠剤成型時の加工性や均一性確保の点で、菌糸体乾燥物を粉砕した状態の菌糸体を使用することが好ましい。
【0014】
本発明の錠剤に含まれるマツタケ菌糸体の含有量(乾燥重量として)は、所望の崩壊性及び安定性が得られる限り、特に限定されるものではないが、通常、5〜80重量%であり、好ましくは5〜65重量%であり、より好ましくは5〜50重量%である。
【0015】
本発明の錠剤において担体として用いることのできるセルロース系高分子基材としては、例えば、結晶セルロース、粉末セルロース、カルメロース又はその塩(例えば、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム)、セルロース誘導体(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース)を挙げることができ、良好な崩壊性が得られる点で、結晶セルロース又は粉末セルロースが好ましく、結晶セルロース及び粉末セルロースを併用することがより好ましい。
【0016】
本発明の錠剤は、担体として、セルロース系高分子基材以外の担体を更に含有することができる。前記担体としては、例えば、良好な崩壊性を付与することのできる担体、例えば、でん粉基材(例えば、トウモロコシでん粉、バレイショでん粉)、乳糖、あるいは、適度な結合性及び/又は良好な流動性を付与することのできる担体、例えば、アルファ化でん粉、グリセリン脂肪酸エステル、水飴(例えば、還元麦芽糖水飴)、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール酸エステル、クエン酸エステル、クエン酸カルシウム、リン酸のカルシウム塩を挙げることができる。本発明の錠剤は、所望の崩壊性及び安定性が得られる限り、セルロース系高分子基材以外の担体1種類又はそれ以上を含有することができる。
【0017】
本発明の錠剤に含まれる担体の含有量は、所望の崩壊性及び安定性が得られる限り、特に限定されるものではないが、通常、20〜95重量%であり、好ましくは35〜95重量%であり、より好ましくは50〜95重量%である。
本発明の錠剤に含まれるセルロース系高分子基材の含有量は、所望の崩壊性及び安定性が得られる限り、特に限定されるものではないが、錠剤重量に対して、通常、5〜90重量%であり、好ましくは10〜80重量%である。
【0018】
本発明の錠剤において、セルロース系高分子基材として結晶セルロースを用いる場合、その含有量は、所望の崩壊性及び安定性が得られる限り、特に限定されるものではないが、錠剤重量に対して、通常、5〜90重量%であり、好ましくは10〜80重量%である。
本発明の錠剤において、セルロース系高分子基材として粉末セルロースを用いる場合、その含有量は、所望の崩壊性及び安定性が得られる限り、特に限定されるものではないが、錠剤重量に対して、通常、1〜50重量%であり、好ましくは2〜30重量%である。
本発明の錠剤において、セルロース系高分子基材として結晶セルロース及び粉末セルロースを併用する場合、それらの合計含有量は、所望の崩壊性及び安定性が得られる限り、特に限定されるものではないが、錠剤重量に対して、通常、5〜90重量%であり、好ましくは10〜80重量%である。
【0019】
本発明の錠剤において、セルロース系高分子基材以外の担体として水飴(例えば、還元麦芽糖水飴)を用いる場合、その含有量は、所望の崩壊性及び安定性が得られる限り、特に限定されるものではないが、錠剤重量に対して、通常、5〜90重量%であり、好ましくは10〜80重量%である。
本発明の錠剤において、セルロース系高分子基材以外の担体としてアルファ化でん粉を用いる場合、その含有量は、所望の崩壊性及び安定性が得られる限り、特に限定されるものではないが、錠剤重量に対して、通常、0.1〜20重量%であり、好ましくは0.1〜1重量%である。
【0020】
本発明の錠剤は、有効成分としてマツタケ菌糸体を使用し、担体としてセルロース系高分子基材を用いることを除いて、通常の製剤方法に従って、調製することができる。例えば、造粒法としては、公知の造粒法、例えば、流動層造粒法、撹拌造粒法、又は押出造粒法などを用いることができる。打錠成型後の錠剤の崩壊性を良好に維持させることができる点で、流動層造粒法が好ましい。
【0021】
流動層造粒法を用いる場合には、例えば、有効成分である適当量のマツタケ菌糸体と、適当量の担体とを流動層造粒機内に投入して混合後、水又はバインダー溶液を噴霧して造粒し、これを乾燥した顆粒を用いて、打錠機で打錠することにより、本発明の錠剤を調製することができる。複数の担体を用いる場合には、有効成分である適当量のマツタケ菌糸体と、適当量の担体(複数の担体の内の一部)とを流動層造粒機内に投入して混合後、水又はバインダー溶液を噴霧して造粒し、これを乾燥した顆粒に、適当量の担体(先に投入した担体以外の担体)を加えて混合後、打錠機で打錠することにより、本発明の錠剤を調製することができる。この場合、流動層造粒機内への投入後、複数の担体の内の一部を、水溶液として流動層造粒機内に噴霧することができる。
【0022】
より具体的には、複数の担体として、例えば、結晶セルロース、粉末セルロース、粉末還元麦芽糖水飴、アルファ化でん粉、及びグリセリン脂肪酸エステルを用いる場合、有効成分である適当量のマツタケ菌糸体と、粉末還元麦芽糖水飴及び結晶セルロースとを流動層造粒機内に投入した後、アルファ化でん粉水溶液(例えば、1%アルファ化でん粉水溶液)を流動層造粒機内に噴霧しながら造粒し、得られた顆粒に粉末セルロース及びグリセリン脂肪酸エステルを加えて混合後、打錠機で打錠することにより、本発明の錠剤を調製することができる。
【0023】
撹拌造粒法を用いる場合には、例えば、有効成分である適当量のマツタケ菌糸体と、適当量の担体とを撹拌造粒機内に投入し、水又はバインダー溶液を噴霧して造粒し、これを乾燥して得られた顆粒を打錠機で打錠することにより、本発明の錠剤を調製することができる。
【0024】
押出造粒法を用いる場合には、例えば、有効成分である適当量のマツタケ菌糸体と、適当量の担体とを混合後、水又はバインダー溶液を添加して練合後、これを押出造粒機内に投入して造粒し、得られた造粒物を乾燥して得られた顆粒を打錠機で打錠することにより、本発明の錠剤を調製することができる。
【0025】
本発明の錠剤の崩壊性は、例えば、日本薬局方崩壊試験法(第14改正日本薬局方解説書,一般試験法,58,崩壊試験法)に基づく崩壊試験により、評価することができる。例えば、日本薬局方崩壊試験法に規定された崩壊試験器を用い、試験液に水を用いて、日本薬局方崩壊試験法の錠剤の項に従って、評価することができる。
【0026】
また、本発明の錠剤の安定性は、例えば、日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH;The International Conference on Harmonisation of Technical Requirement for Registration of Pharmaceuticals for Human Use)に基づく「安定性試験ガイドライン」(http://www.nihs.go.jp/dig/ich/quality/q1a/q1a_jp.htmlより入手可能)に基づき、例えば、長期保存試験(温度:25℃、湿度:60%RH)、加速試験(温度:40℃、湿度:75%RH)により評価することができる。より短期的に安定性を評価する場合には、更に高温(例えば、50℃又は60℃)及び/又は高湿(例えば、90%RH)の条件において評価することも可能である。
【実施例】
【0027】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0028】
《実施例1:錠剤の製造》
本実施例では、表1に記載の処方よりなる錠剤を、以下に示す手順に従って調製した。
マツタケ菌糸体としては、国際公開WO02/30440号公報に記載のマツタケFERM BP−7304株を、乾燥物粉末の状態で使用した。前記マツタケFERM BP−7304株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター[(旧)工業技術院生命工学工業技術研究所(あて名:〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)]に平成12年9月14日より寄託しているものである。
【0029】
前記マツタケ菌糸体、粉末還元麦芽糖水飴、及び結晶セルロースを計量後、流動層造粒機内に投入し、1%アルファ化でん粉水溶液を噴霧し、造粒した。得られた顆粒に粉末セルロース及びグリセリン脂肪酸エステルを加えて混合後、打錠機で打錠することにより錠剤を得た。
【0030】
【表1】

【0031】
《実施例2:錠剤の評価》
(1)崩壊性試験
実施例1で調製した本発明の錠剤について、水中での崩壊性を日本薬局方崩壊試験法により調べたところ、崩壊に要する時間は、16.5分〜17.7分(平均:17.3分)であった。
【0032】
(2)安定性試験
実施例1で調製した本発明の錠剤を瓶包装し、6箇月間の加速試験(40℃/75%RH)を実施した。錠剤重量、崩壊試験、性状、錠剤硬度、乾燥減量(1g、105℃、6時間)、pH、及び栄養成分について評価したところ、安定であることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のマツタケ菌糸体含有錠剤は、マツタケ菌糸体の各種生理活性を利用する医薬又は食品の用途に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マツタケ菌糸体と、セルロース系高分子基材とを含有することを特徴とする、マツタケ菌糸体含有錠剤。
【請求項2】
セルロース系高分子基材として、結晶セルロース若しくは粉末セルロースのいずれか一方、又はその両方を含有する、請求項1に記載のマツタケ菌糸体含有錠剤。

【公開番号】特開2006−347981(P2006−347981A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−178023(P2005−178023)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】