説明

マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤

【課題】マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)を阻害する新たな薬剤を提供すること。さらに、MMPが関与すると考えられる腫瘍の増殖および転移を含む疾患の抑制・治療剤を提供すること。
【解決手段】本発明のマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)阻害剤、腫瘍の増殖および転移抑制、およびMMPが関与する疾患の治療剤は、アスタキサンチンおよび/またはそのエステルを有効成分として含有する。本発明MMP阻害剤は、MMPが関与すると考えられる疾病の治療に有用であり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤に関する。より詳細には、アスタキサンチンおよび/またはそのエステルを有効成分として含有する、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤、および腫瘍の増殖および転移抑制剤を包含するマトリックスメタロプロテイナーゼが関与する疾患の治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)は、細胞外マトリックス構成成分(例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ゼラチン、プロテオグリカンなど)を基質として、タンパク質分解活性を示す亜鉛エンドペプチダーゼのスーパーファミリーである。MMP−1(繊維芽コラゲナーゼ)、MMP−2(72kDaゼラチナーゼ)、MMP−9(92kDaゼラチナーゼ)、MMP−3(ストロメライシン1)、MMP−10(ストロメライシン2)、MMP−11(ストロメライシン3)、MMP−7(マトリライシン)、MMP−8(神経栄養性コラゲナーゼ)、MMP−13(コラゲナーゼ3)、メタロエラスターゼ(MMP−12)などがある。
【0003】
これらのMMPに共通した性質として、(1)活性中心にZn2+を有し、酵素活性にカルシウムイオン(Ca2+)を必要とすること、(2)潜在型酵素として分泌され、細胞外で活性化を受けること、(3)アミノ酸配列に高い相同性を有すること、(4)生体内に存在する種々の細胞外マトリックス成分分解能をもつこと、(5)共通のインヒビターである組織メタロプロテイナーゼインヒビター(TIMP)によって活性が阻害されることなどが知られている。
【0004】
既知のMMP阻害剤の多くは、天然アミノ酸をベースとするペプチド誘導体であり、MMPの天然基質中の開裂部位との類似体である。なかでも、コラーゲンの切断点近傍の基質(Gly−Ile−Ala−GlyまたはGly−Leu−Ala−Gly)が、コラゲナーゼと高い親和性を有し、この基質の切断部位に亜鉛親和性基を有するように化学修飾を行った基質アナログマトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤が、数多く研究されている(例えば、特許文献1)。しかし、これらの基質アナログ阻害剤は、ペプチドアナログであるために種々の問題点があることが予想される。そこで、ペプチド構造がより少ない、プソイドペプチドまたはペプチド様物質としては、例えば、スルホンアミド化合物(例えば、特許文献2)、ヒドロキサム酸化合物(例えば、特許文献3)、アミノブタン酸誘導体(例えば、特許文献4)、カルボン酸誘導体(例えば、特許文献5)などが挙げられる。一方、天然物由来のMMP阻害剤もいくつか知られている(例えば、特許文献6および7)。
【0005】
MMPは、生理学的および病理学的な組織分解のいずれにも大きく関与する。例えば、皮膚は、コラーゲン、エラスチンなどの種々のタンパク質により構造や正常な代謝を維持し、水分を保持している。しかし、MMPによるこれらのタンパク質の分解は、たるみ、シワ、乾燥などの原因となる。また、MMPが関与する疾患としては、慢性関節リウマチ、骨関節症、骨粗鬆症、歯周病、多発性硬化症、歯肉炎、角膜表皮および胃の潰瘍、アテローム性動脈硬化症、病態の悪化に関わる血管新生、ならびに腫瘍の増殖・転移のような疾患を含む結合組織の破壊から生じる多数の疾患が挙げられる。特に、腫瘍の増殖・転移においては、腫瘍細胞の結合組織への浸潤のみならず、血管新生を助け、血管基底膜の分解を引き起こすことにより、癌細胞が血管に侵入して血流に乗り、その結果転移を引き起こす。
【0006】
血管新生が関与する疾病の1つである癌の治療法としては、一般的に外科的方法、放射線療法、化学療法(薬剤投与)などが行われている。これらのうち化学療法としては、直接腫瘍細胞に作用して腫瘍細胞を死滅させる薬剤を投与する治療法が広く適用されており、このような治療法に適用するための抗腫瘍剤についての提案は多い。しかし、このような薬剤は、腫瘍細胞を死滅させると共に正常細胞にも作用するため、癌の治療効果は高いが、副作用が非常に強いという欠点がある。また、このような薬剤は、細胞単位で効いても、腫瘍塊の深部まで届かないため、根本的な解決とならない。さらに、癌はその器官が異なると性質も異なり、抗腫瘍剤の選択や投与方法が異なることは珍しくなく、様々な種類の癌に対して効果を有する抗腫瘍剤が望まれている。
【0007】
カロテノイド(カロチノイド)は、動物、植物、および微生物に広く分布し、その数約600種におよぶ黄〜橙〜赤色を呈する脂溶性生体色素である。その一種であるアスタキサンチンは、オキアミ、エビ、カニなどの甲殻類、サケ・マスの筋肉・卵(イクラなど)、タイ・コイ・金魚などの体表などに含有されている。アスタキサンチンは、プロビタミンAとなり得ることや顕著な抗酸化作用を有することだけでなく、抗腫瘍剤としての可能性も知られている。例えば、膀胱癌、口腔癌、および結腸癌の腫瘍形成抑制作用(非特許文献1);抗ストレス作用(特許文献8);アポトーシス誘導作用(特許文献9);トポイソメラーゼ阻害作用(特許文献10);プロテインキナーゼ阻害作用(特許文献11); UV照射からの皮膚の防御作用(非特許文献2);乳癌増殖抑制作用(非特許文献3);アスタキサンチン誘導体の一種による腫瘍形成阻害作用(非特許文献4);免疫応答増強作用(非特許文献5)などが報告されている。しかし、上記のようなMMP阻害や腫瘍転移抑制に関しては、全く報告がない。
【特許文献1】特表2004−529874号公報
【特許文献2】特開2002−284686号公報
【特許文献3】特開2003−321435号公報
【特許文献4】特開2003−212831号公報
【特許文献5】特開平10−130217号公報
【特許文献6】特表2004−520294号公報
【特許文献7】特開2005−8539号公報
【特許文献8】特開平9−124470号公報
【特許文献9】特開2001−114673号公報
【特許文献10】特開2001−114674号公報
【特許文献11】特開2001−114683号公報
【非特許文献1】T. Tanakaら、Carcinogenesis,1995年,16巻,12号,pp.2957-2963
【非特許文献2】N.M. LyonsおよびN.M. O'Brien、J. Dermatol. Sci.,2002年,30巻,pp.73-84
【非特許文献3】B.P. Chewら、Anticancer Res.,1999年,19巻,pp.1849-1853
【非特許文献4】L.M. Hixら、Cancer Lett.,2004年,211巻,pp.25-37
【非特許文献5】H. Jyonouchiら、Nutr. Cancer,2000年,36巻,1号,pp.59-65
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)を阻害する新たな薬剤を提供することを目的とする。本発明はさらに、MMPが関与すると考えられる腫瘍の増殖および転移の抑制剤、ならびにMMPが関与すると考えられる疾患および症状の治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記のように抗腫瘍剤としての可能性が報告されているアスタキサンチンについて種々の検討を行ったところ、アスタキサンチンがマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)阻害活性を有することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、アスタキサンチンおよび/またはそのエステルを有効成分として含有する、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤を提供する。
【0011】
1つの実施態様では、上記マトリックスメタロプロテイナーゼは、表皮および真皮の構成タンパク質の分解に関与する。
【0012】
本発明はまた、アスタキサンチンおよび/またはそのエステルを有効成分として含有する、腫瘍の増殖および転移抑制剤を提供する。
【0013】
本発明はさらに、アスタキサンチンおよび/またはそのエステルを有効成分として含有する、マトリックスメタロプロテイナーゼが関与する疾患の治療剤を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、新たなマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)阻害剤が提供される。このMMP阻害剤は、組織分解および炎症を伴う症状、例えば、腫瘍増殖、関節リウマチ、糖尿病性網膜症などの疾病の治療剤として用いられ得る。特に、本発明によれば、腫瘍転移抑制剤も提供される。さらに、本発明のMMP阻害剤および腫瘍の増殖および転移抑制剤は、低毒性であるため、安全性が高い。また、本発明のMMP阻害剤は、表皮および真皮の構成タンパク質の分解に関与するMMP、すなわちコラゲナーゼやエラスターゼなどを阻害するため、肌にはりを与え、シワ生成を抑制し、そして皮膚を保湿するという効果も得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)阻害剤の有効成分であるアスタキサンチンおよび/またはそのエステルは、以下の式:
【0016】
【化1】

【0017】
(ここで、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または脂肪酸残基である)で示されるカロテノイドの一種である。アスタキサンチンのエステルとしては、特に限定されないが、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸などの飽和脂肪酸、あるいはオレイン酸、リノール酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、ビスホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などの不飽和脂肪酸のモノエステルまたはジエステルが挙げられる。これらは単独でまたは適宜組み合わせて用いることができる。アスタキサンチンは、β−カロチンの骨格の両端にオキソ基とヒドロキシ基とを余分に有する構造であるため、β−カロチンとは異なり、分子の安定性が低い。これに対し、両端のヒドロキシ基が不飽和脂肪酸などでエステル化されたエステル体(例えば、オキアミ抽出物)はより安定である。
【0018】
本発明に用いられるアスタキサンチンおよび/またはそのエステルは、化学的に合成されたものであっても、あるいは天然物由来のもののいずれであってもよい。後者の天然物としては、アスタキサンチンおよび/またはそのエステルを含有する赤色酵母;ティグリオパス(赤ミジンコ)、オキアミなどの甲殻類の殻;緑藻類などの微細藻類などが挙げられる。本発明においては、アスタキサンチンおよび/またはそのエステルの特性を利用できるものであれば、どのような方法で生産されたアスタキサンチンおよび/またはそのエステルを含有する抽出物をも使用することができる。一般的には、これらの天然物からの抽出物が用いられ、抽出エキスの状態であっても、また必要により適宜精製したものであってもよい。本発明においては、このようなアスタキサンチンおよび/またはそのエステルを含有する粗抽出物や破砕粉体物、あるいは必要により適宜精製されたもの、化学合成されたものを、単独でまたは適宜組み合わせて用いることができる。体内での安定性を考慮すると、好ましくはエステル体が用いられる。
【0019】
本発明のMMP阻害剤は、組織分解および炎症を伴う症状、例えば、慢性関節リウマチ、骨関節炎、オステオペニア(例えばオステオポローシス)、歯周炎、歯肉炎、角膜表皮もしくは胃潰瘍、皮膚老化、ならびに腫瘍の転移、浸潤および増殖(それらに限定されない)を治療または予防するのに有用であり得る。本発明のMMP阻害剤は、神経炎症性疾患(ミエリン分解を伴う疾患を包含する)、例えば、多発性硬化症、ならびに血管新生依存性疾患(関節炎症状および固形腫瘍増殖ならびに乾癬、増殖性網膜症、血管新生緑内障、眼内腫瘍、血管線維腫および血管腫を包含する)の処置にも有用であり得る。
【0020】
本発明の腫瘍の増殖および転移抑制剤およびMMPが関与する疾患の治療剤は、上記の本発明のMMP阻害剤と同様に、アスタキサンチンおよび/またはそのエステルを有効成分として含有する。特に、ある種の乳癌などの転移性腫瘍の転移の抑制に有用である。
【0021】
本発明のMMP阻害剤または腫瘍の増殖および転移抑制剤もしくはMMPが関与する疾患の治療剤の投与経路は、経口投与または非経口投与のいずれであってもよい。その剤形は、投与経路に応じて適宜選択される。例えば、注射液、輸液、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、腸溶剤、トローチ、内用液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、外用液剤、湿布剤、点鼻剤、点耳剤、点眼剤、吸入剤、軟膏剤、ローション剤、坐剤、経腸栄養剤などが挙げられる。これは、症状に応じてそれぞれ単独でまたは組み合わせて使用することができる。これらの製剤には、必要に応じて、賦形剤、結合剤、防腐剤、酸化安定剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味剤などの医薬の製剤技術分野において通常用いられる補助剤が用いられる。
【0022】
本発明のMMP阻害剤または腫瘍の増殖および転移抑制剤もしくはMMPが関与する疾患の治療剤の投与量は、投与の目的や投与対象者の状況(性別、年齢、体重など)に応じて異なる。通常、成人に対して、アスタキサンチンフリー体換算で、経口投与の場合、1日あたり0.1mg〜2g、好ましくは4mg〜500mg、一方、非経口投与の場合、1日あたり0.01mg〜1g、好ましくは0.1mg〜500mgで投与され得る。
【0023】
本発明のMMP阻害剤は、上記のような医薬品としてだけでなく、医薬部外品、化粧品、機能性食品、栄養補助剤、飲食物などとして使用することができる。医薬部外品または化粧品として使用する場合、必要に応じて、医薬部外品または化粧品などの技術分野で通常用いられている種々の補助剤とともに使用され得る。あるいは、機能性食品、栄養補助剤、または飲食物として使用する場合、必要に応じて、例えば、甘味料、香辛料、調味料、防腐剤、保存料、殺菌剤、酸化防止剤などの食品に通常用いられる添加剤とともに使用してもよい。また、溶液状、懸濁液状、シロップ状、顆粒状、クリーム状、ペースト状、ゼリー状などの所望の形状で、あるいは必要に応じて成形して使用してもよい。これらに含まれる割合は、特に限定されず、使用目的、使用形態、および使用量に応じて適宜選択することができる。
【実施例】
【0024】
(調製例1:アスタキサンチンモノエステルの調製)
アスタキサンチンモノエステルを、次のように調製した。ヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pulvialis)K0084株を、25℃にて光照射条件下3%COを含むガスを通気しながら栄養ストレス(窒素源欠乏)をかけて培養し、シスト化した。シスト化した細胞を、当業者が通常用いる手段によって破砕し、エタノールで油性画分を抽出した。抽出物は、アスタキサンチン類の他に、トリグリセリドなどの脂質を含んでいた。抽出物を、合成樹脂吸着剤を用いるカラムクロマトグラフィーにかけて、アスタキサンチンのモノエステルを含む精製物を得た。この精製物をHPLCによって分析し、このアスタキサンチンモノエステル精製物が、分子量858のモノエステルを主成分として含み、アスタキサンチンの遊離体およびジエステル体を含まず、わずかにジグリセリドを含んでいることを確認した。
【0025】
(実施例1:種々の酵素に及ぼす効果)
上記調製例1で得たアスタキサンチンモノエステルについて、種々の酵素の活性に及ぼす効果を検討した。アスタキサンチンモノエステルを、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、以下の表1および2に示す各酵素のアッセイ系に250μMとなるように添加してインキュベートした。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
250μMのアスタキサンチンモノエステルによる各酵素活性の阻害率を表3にまとめて示す。
【0029】
【表3】

【0030】
試験に用いたマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)に対して、アスタキサンチンモノエステルは、いずれも非常に高い阻害率を示した。このことから、アスタキサンチンモノエステルは、MMP群全般に対して活性を阻害し得ることがわかった。
【0031】
(参考例1:HUVECに対する50%致死濃度および阻害濃度の測定)
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)(ATCC CRL−1730)を、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから入手し、1%Antibiotic-Antimycotic(GIBCO BRL, USA)を添加した10%ウシ胎児血清含有Endothelial Cell Growth Medium(CELL APPLICATIONS, USA))中、5%CO雰囲気下、37℃にて予備培養した。
【0032】
Matrigelマトリックス(BD Biosciences, USA)を融解して氷上で4℃にて保持し、そして50μLのマトリックスを96ウェル組織培養プレートの各ウェルに移した。プレートを37℃にて少なくとも1時間インキュベートして、マトリックス溶液を固化させた。
【0033】
一方、上記調製例1で得たアスタキサンチンモノエステルを、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、次いで蒸留水で希釈して、40(v/v)%DMSO中に25000、2500、250、25、および2.5μMのアスタキサンチンモノエステルを含むストック試験溶液を調製した。
【0034】
100μLのHUVEC懸濁液(約2.5×10細胞/ウェル)を、5%CO雰囲気下37℃にて96ウェルのMatrigelプレートに入れた。24時間後、100μLの増殖培地および上記の各ストック試験溶液またはベヒクル(40(v/v)%DMSO)2μLずつを、各2つのウェルに添加し、さらに72時間インキュベートした。DMSOおよびアスタキサンチンモノエステルの最終濃度は、250、25、2.5、0.25、および0.025μMであった。
【0035】
インキュベーション終了後、20μLの90%alamarBlue試薬を個々のウェルに添加し、さらに6時間インキュベートした。次いで、各ウェルの蛍光強度を、Spectrafluor Plusプレートリーダーを用いて、励起波長530nmおよび発光波長590nmにて測定し、生存細胞数を計数した。これは、生存細胞が、alamarBlueを非蛍光性の酸化型(青)から蛍光性の還元型(赤)に変化させる能力に基づく。なお、50%致死濃度は、実験開始時の細胞数の50%になる濃度を算出し、そして50%阻害濃度は、コントロールであるベヒクルの場合における細胞数に対して50%の細胞数となる濃度を算出した。
【0036】
この結果、HUVECに対するアスタキサンチンモノエステルの50%致死濃度(LC50)は250μM(DMSOへの最大溶解濃度)以上であり、毒性が低いことがわかった。さらに、50%阻害濃度(IC50)は51μMであり、比較的低い濃度で細胞増殖阻害効果を有することもわかった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、新たなMMP阻害剤が提供される。このMMP阻害剤は、組織分解および炎症を伴う症状、例えば、慢性関節リウマチ、骨関節炎、オステオペニア(例えばオステオポローシス)、歯周炎、歯肉炎、角膜表皮もしくは胃潰瘍、皮膚老化、ならびに腫瘍の転移、浸潤および増殖(それらに限定されない)を治療または予防するのに有用であり得る。さらに、神経炎症性疾患(ミエリン分解を伴う疾患を包含する)、例えば、多発性硬化症、ならびに血管新生依存性疾患(関節炎症状および固形腫瘍増殖ならびに乾癬、増殖性網膜症、血管新生緑内障、眼内腫瘍、血管線維腫および血管腫を包含する)の処置にも有用であり得る。本発明によれば、新たな腫瘍の増殖および転移抑制剤も提供され、ある種の乳癌などの転移性腫瘍の増殖および転移を抑制するために有用である。また、本発明のMMP阻害剤を用いれば、肌にはりを与え、シワ生成を抑制し、そして皮膚を保湿するという効果も得られるので、化粧品としても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスタキサンチンおよび/またはそのエステルを有効成分として含有する、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤。
【請求項2】
前記マトリックスメタロプロテイナーゼが、表皮および真皮の構成タンパク質の分解に関与する、請求項1に記載の阻害剤。
【請求項3】
アスタキサンチンおよび/またはそのエステルを有効成分として含有する、腫瘍の増殖および転移抑制剤。
【請求項4】
アスタキサンチンおよび/またはそのエステルを有効成分として含有する、マトリックスメタロプロテイナーゼが関与する疾患の治療剤。

【公開番号】特開2006−8714(P2006−8714A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2005−301148(P2005−301148)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】