説明

マトリックス効果の低減方法

【課題】不溶性担体を備える測定容器において、測定項目に関わりなくマトリックス効果を低減させ、測定精度を向上させる。
【解決手段】生体試料中の測定対象物質を検出する方法に用いる測定容器であって、開口部を有し、開口部に近接して位置する吸収要素と、開口部と吸収要素の間に配置した液体が透過可能な不溶性担体を備え、該不溶性担体には測定対象物質を直接あるいは間接的に捕捉することができる結合性の生理活性物質があらかじめ固定化されており、同時に多項目の測定対象物質が測定可能であり、該不溶性担体は乾燥された状態で提供される測定容器。測定前に該不溶性担体に一定量以上の水分を滴下する測定容器において、該生理活性物質を固定化前、あるいは同時に、該不溶性担体にプロトン濃度1×10-6M以上の水溶液を滴下する工程を含むマトリックス効果の低減方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、生体試料中の核酸、抗原、抗体あるいはホルモン等の測定対象物質を不溶性担体上で検出する方法およびそれに用いる改良された測定容器に関するものである。
【0002】
当技術分野では、免疫測定を実行する技法が一般的に知られている。たとえば、従来型の酵素免疫測定(EIA)手順では、最初、生体試料中の測定対象物質を、対応する抗原試薬または抗体試薬と結合する、一連のステップが使用される。次いで、直接、あるいは、色原物質や蛍光源物質、化学発光を活性化するトリガー溶液など適当な試薬を添加した後に、検出することができる酵素またはその他の物質で標識された第2の抗原または抗体をサンプルに導入する。次いで、生成された信号を読み取り、生体試料中に抗原または抗体が存在するかどうかが示される。
【背景技術】
【0003】
免疫測定において、近年、測定容器に収納された不溶性担体上で試料や試薬を順次滴下させて反応を行わせ、試料中の測定対象物質を検出する方法が用いられている。この方法の一つに、不溶性担体に近接して吸収要素を配置することで、不溶性担体上のB/F分離を行ない、かつ使用された試料や試薬廃液を封じ込めることが可能な測定容器がある。こういった測定容器を用いた方法での測定では、不溶性担体を使用するが故に生じる現象により、しばしば測定精度の低下が問題となる。これが「マトリックス効果」である。マトリックス効果とは、診断薬分野において、測定すべき試料中の測定する対象物以外の物質(Matrix)が測定に際して測定法に干渉し、影響を及ぼすこと、と定義されている。このマトリックス効果は溶液状の試薬を用いる測定方法においても発生しうるが、不溶性担体を使用する方法では発生頻度が高く、また測定結果への影響も大きいことが知られている。
【特許文献1】特許第2880801号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在、生体試料の分析における免疫測定の重要性は高まってきており、そのような状況下で、さらにレベルの高い測定精度を望む声は多い。本願発明は、生体試料中の測定対象物質を検出する方法において、測定項目に関わりなく汎用的に、測定精度を向上させる手段を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者は、生体試料中の測定対象物質を検出する方法において、測定精度を向上させる方法について鋭意検討した。
例えば特許文献1には繊維マトリックスを使用した発光免疫測定法において、不溶性担体上で起こる非特異反応、例えば発光のバックグラウンドを低減させるために「吸収パッドから発せられる化学発光を低減させるために吸収パッドに結合された要素」を用いることが開示されており、微粒子捕獲分離技法およびイオン捕獲分離技法を使用して反応生成物を繊維マトリックス上に捕捉することが記載されている。
しかし、この方法では「吸収パッドに結合させた要素」が繊維との結合が乖離し、毛細管現象で不溶性担体に浮き出てくることで逆に非特異反応が生じる危険性があると考えられた。
発明者がさらに鋭意検討を行った結果、生体試料中の測定対象物質を検出する方法に用いる測定容器であって、開口部を有し、開口部に近接して位置する吸収要素と、開口部と吸収要素の間に配置した、液体を透過することができる構造である不溶性担体を備え、該不溶性担体には、測定対象物質を、直接あるいは結合対複合体を形成する物質を介して、捕捉することができる結合性の生理活性物質があらかじめ固定化されており、該測定容器を改変することなく、多項目の測定対象物質が測定可能であり、該不溶性担体は、乾燥された状態で提供され、かつ乾燥された状態ならば長期的保存が可能であり、測定をする前に、該不溶性担体に一定量以上の水分を滴下することで直ちに測定可能な状態に復帰できる測定容器において、該生理活性物質を固定化する前、あるいは固定化と同時に、該不溶性担体にプロトン濃度1×10-6M以上の水溶液を滴下することで、該不溶性担体におけるマトリックス効果が低減できることを見出し、本願発明を完成した。
【0006】
すなわち本願発明の要旨は、以下の通りである。
[項1]生体試料中の測定対象物質を検出する方法に用いる測定容器であって、
(1)開口部を有し、
(2)開口部に近接して位置する吸収要素と、
(3)開口部と吸収要素の間に配置した、液体を透過することができる構造である不溶性担体を備え、
(4)該不溶性担体には、測定対象物質を、直接あるいは結合対複合体を形成する物質を介して、捕捉することができる結合性の生理活性物質があらかじめ固定化されており、
(5)測定容器を改変することなく、多項目の測定対象物質が測定可能であり、
(6)該不溶性担体は、乾燥された状態で提供され、
(7)測定をする前に、該不溶性担体に一定量以上の水分を滴下する、
測定容器において、
(8)該生理活性物質を固定化する前、あるいは固定化と同時に、該不溶性担体にプロトン濃度1×10-6M以上の水溶液を滴下する工程を含む、
生体試料中の測定対象物質を検出する方法における該不溶性担体におけるマトリックス効果の低減方法。
[項2]該吸収要素が、セルロースもしくはセルロース誘導体である項1記載の測定方法。
[項3]該不溶性担体が繊維マトリックスである項1記載の測定方法。
[項4]該繊維マトリックスがガラス繊維である項3記載の測定方法。
[項5]該生理活性物質はIgGである項1記載の測定方法。
[項6]生体試料中の測定対象物質を検出する方法に用いる測定容器であって、
(1)開口部を有し、
(2)開口部に近接して位置する吸収要素と、
(3)開口部と吸収要素の間に配置した、液体を透過することができる構造である不溶性担体を備え、
(4)該不溶性担体には、測定対象物質を、直接あるいは結合対複合体を形成する物質を介して、捕捉することができる結合性の生理活性物質があらかじめ固定化されており、
(5)測定容器を改変することなく、多項目の測定対象物質が測定可能であり、
(6)該不溶性担体は、乾燥された状態で提供され、
(7)測定をする前に、該不溶性担体に一定量以上の水分を滴下する、
測定容器において、
(8)該生理活性物質を固定化する前、あるいは固定化と同時に、該不溶性担体にプロトン濃度1×10-6M以上の水溶液を滴下する工程を含む、
生体試料中の測定対象物質を検出する方法における該不溶性担体におけるマトリックス効果が低減した測定容器の製造方法。
[項7]生体試料中の測定対象物質を検出する方法に用いる測定容器であって、
(1)開口部を有し、
(2)開口部に近接して位置する吸収要素と、
(3)開口部と吸収要素の間に配置した、液体を透過することができる構造である不溶性担体を備え、
(4)該不溶性担体には、測定対象物質を、直接あるいは結合対複合体を形成する物質を介して、捕捉することができる結合性の生理活性物質があらかじめ固定化されており、
(5)測定容器を改変することなく、多項目の測定対象物質が測定可能であり、
(6)該不溶性担体は、乾燥された状態で提供され、
(7)測定をする前に、該不溶性担体に一定量以上の水分を滴下し、
測定容器において、
(8)該生理活性物質を固定化する前、あるいは固定化と同時に、該不溶性担体にプロトン濃度1×10-6M以上の水溶液を滴下する工程を含む方法により得られた、
生体試料中の測定対象物質を検出する方法における該不溶性担体におけるマトリックス効果が低減した測定容器。
該不溶性担体におけるマトリックス効果が低減した測定容器。
[項8]項7に記載の測定容器を用いて測定を実施する、生体試料中の測定対象物質を検出するための測定システム。
[項9]項7に記載の測定容器を含む、生体試料中の測定対象物質を検出するための測定に用いるためのキット。
【発明の効果】
【0007】
本願発明は、不溶性担体を備えることを特徴とする測定容器において、測定項目に関わりなく汎用的に、マトリックス効果を低減させ、測定精度を向上させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本願発明は、生体試料中の核酸、抗原、抗体あるいはホルモン等の測定対象物質を不溶性担体3上で検出する方法における非特異反応が抑制されるように改良された測定容器に関するものである。本願発明における測定対象物質とは例えば、DNA、RNA、プラスミド、アルブミン、アルカリフォスファターゼ、コリンエステラーゼ、γ−GTP、LDH、酸性フォスファターゼ、コレステロール、アミラーゼ、LAP、CPK、アルドラーゼ、HDLコレステロール、GOT、GPT、LDLコレステロール、RLPコレステロール、カイロミクロン、モノアミンオキシダーゼ、シアル酸、リパーゼ、フルクトサミン、G−6−Pase、G−6−PDH、アデノシンデアミナーゼ、リポタンパク、グアナーゼ、カタラーゼ、フェリチン、H−FABP、ACE、ヘモグロビンA1C、アンチトリプシン、D−Dダイマー、マクログロブリン、アンチプラスミン、フォン・ウィルブランド因子、PIVKA−II、血液凝固因子、tPA、プロテインC、グリコアルブミン、1,5−AGグリココール酸、セルロプラスミン、トロポニンI、トロポニンT、ミオグロビン、マイクログロブリン、I型コラーゲン架橋N−テロペプチド(NTx)、I型コラーゲン架橋C−テロペプチド(CTx)、オステオカルシン、デオキシピリジノリン、IGFBP、シスタチンC、ビタミンB12、トリプシン、ヒアルロン酸、ビタミンB2、レムナント様リポタンパクコレステロール、フィブロネクチン、HGF、ビタミンB1、ビタミンC、1,25−ジヒドロビタミンD3、HCG、HVA、VMA、プロラクチン、T3、FT3、TSH、T4、FT4、ガストリン、ANP、BNP、CK−MB、インスリン、GH、LH、FSH、PTH、ハイドロキシコルチコステロイド、エストロゲン、ACTH、セクレチン、抗GAD抗体、コルチゾール、アルドステロン、テストステロン、サイログロブリン、ラクトーゲン、グルカゴン、カルシトニン、プロジェステロン、c−AMP、プレグナンジオール、エリスロポエチン、アルギニンバゾプレッシン、ソマトメジン、AFP、CEA、DUPAN−2、NCC−ST−439、CA15−3、エラスターゼ1、PSA、BFP、CA19−9、CA72−4、CA−50、SPan−1抗原、シアリルTn抗原、エノラーゼ、シアリルLex−i抗原、シアリルLex抗原、CA125、BCA225、CA602、CA130、サイトケラチン、ProGRP、CA54/61、GAT、POA、γ−セミノプロテイン、HER、抗ストレプトリジンO、トキソプラズマ抗体、抗ストレプトキナーゼ、マイコプラズマ抗体、抗連鎖球菌多糖体抗体、梅毒抗体、ツツガムシ抗体、ハウスダストや花粉等の外因性アレルゲン、ヘリコバクター・ピロリ抗体、クラミジア抗体、百日咳菌抗体、HTLV−I抗体、抗抗酸菌抗体、赤痢アメーバ抗体、抗DNaseB、抗溶連菌エステラーゼ抗体、HIV、大腸菌O157 LPS抗原、RSウイルス抗原、腸炎ビブリオ菌耐熱性溶血毒、インフルエンザ抗原、ノイラミニダーゼ、カンジダ抗原、クラミジア抗原、アスペルギルス抗原、レジオネラ抗原、大腸菌抗原、抗アニサキス抗体、クリプトコックス・ネオフォルマンス抗原、水痘ウイルス抗原、レプトスピラ抗体、グルカン、サイトメガロウイルス抗体、結核菌群抗原、抗アセチルコリンレセプター抗体、HBs抗原、HBs抗体、HBe抗原、HBe抗体、HCV抗体、HBc抗体、デルタ肝炎ウイルス抗体、リウマチ因子、抗ガラクトース欠損IgG抗体、甲状腺自己抗体、抗DNA抗体、抗核抗体、インスリン抗体、MMP−3、抗SS−A/Ro抗体、抗SS−B/La抗体、抗Scl−70抗体、抗Jo−1抗体、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体、抗RNP抗体、抗Sm抗体、抗セントロメア抗体、抗ミトコンドリア抗体、抗カルジオリピンβ2グリコプロテインI複合体抗体、抗LKM−1抗体、抗カルジオリピン抗体、TSHレセプター抗体、抗デスモグレイン抗体、抗好中球細胞質抗体、抗好中球細胞質ミエロペルオキシダーゼ、抗糸球体基底膜抗体、TSH刺激性レセプター抗体、CRP、免疫グロブリン、血清アミロイドA、トランスフェリン、C3、C4、アポリポタンパク、総IgE、特異的IgE、プレアルブミン、レチノール結合タンパク、第VIII因子様抗原、遊離ヒスタミン、等を挙げることができ、測定対象物質は何ら限定されうるものではない。
【0009】
本願発明における生体試料とは、全血液、脊髄液、前立腺液、尿、腹水、関節液、涙液、唾液、血清、血漿など生体流体が含まれる。この改良された測定容器を使用して非生物学的性質の他の流体試料を分析することも可能である。
【0010】
本願発明の測定容器の一実施態様を図1および図2に示す。なお、本明細書において例えば「開口部2」と表記される場合それは図面の番号と対応していることを示す。
【0011】
本願発明は、生体試料中の測定対象物質を検出する方法に用いる、以下のような測定容器に対して好ましく適用される。
(1)開口部2を有し、(2)開口部2に近接して位置する吸収要素4と、(3)開口部2と吸収要素4の間に配置した、液体を透過することができる構造である不溶性担体3を備え、(4)該不溶性担体3には、測定対象物質を、直接あるいは結合対複合体を形成する物質を介して、捕捉することができる結合性の生理活性物質があらかじめ固定化され、(5)測定容器を改変することなく、多項目の測定対象物質が測定可能であり、
(6)該不溶性担体3は、乾燥された状態で提供され、
(7)測定をする前に、該不溶性担体に一定量以上の水分を滴下する測定容器。
【0012】
本願発明の好ましい一実施態様は、上記測定容器において、(8)該生理活性物質を固定化する前、あるいは固定化と同時に、該不溶性担体にプロトン濃度1×10-6M以上の水溶液を滴下する、該不溶性担体におけるマトリックス効果が低減した測定容器であり、また、そのマトリックス効果の低減方法である。
【0013】
外郭部1は、不溶性担体3および吸収要素4をその内部に挿入できるように、キャップ(ふた)7とカップ5(うつわ)との組み合わせ構造にすることが出来る。
【0014】
本願発明の、測定容器、および、それを用いて生体試料中の測定対象物質を検出する方法は、化学発光、蛍光、発色、電気信号など様々な検出系の不溶性担体を用いた診断検定に使用でき、検出方法は限定されない。
【0015】
本願発明の測定容器は、少なくとも一つの試料添加と測定対象物質の検出を行う開口部2を有し、この開口部2から必要に応じ逐次試薬を投入することで、測定対象物質を、直接あるいは結合対複合体を形成する物質を介して、捕捉することができる結合性の生理活性物質があらかじめ固定化されている不溶性担体3に到達させ、不溶性担体3に特定の結合対複合体を介して保持される。この保持・固定化されている特定の結合対複合体を検出することで測定を行う。
【0016】
本願発明の好ましい一実施態様は、上記測定容器において、該結合性の生理活性物質に抗原あるいは抗体を使用する。抗体はポリクローナル抗体、モノクローナル抗体どちらも限定されず、また、完全長、Fab、Fab’、F(ab)’2、Fab2のどの形態でもよい。好ましくは1種類で使用され、より好ましくは、モノクローナル抗体は抗ビオチン抗体、抗ジニトロフェノール抗体、抗ジゴキシゲニン抗体のうち、1つから選ばれ、より好ましくはIgGクラスの抗体である。
【0017】
プロトン濃度1×10-6M以上の水溶液とは、水溶液中にプロトンが1×10-6M以上存在する水溶液のことであり緩衝能の有無は限定されない。好ましくは、プロトン濃度1×10-4M以上1×10-1M以下の水溶液であり、より好ましくは、Bronsted定義による弱酸からプロトンが供給される水溶液であり、より好ましくは、使用するBronsted定義による弱酸の第一酸乖離定数(pKa1)付近のプロトン濃度である水溶液である。また、プロトン濃度は、一般的に塩基性物質を添加することで酸性物質からの供給を調整し、この塩基性物質は、好ましくは、Bronsted定義による強塩基性水溶液であり、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化バリウム水溶液などが挙げられる。また、共存する塩の種類、濃度は限定されないが、塩の種類は、好ましくは、クエン酸、酢酸、グリシン、コハク酸、フタル酸のうちから一つ選ばれ、塩濃度は、好ましくは5〜500mMであり、より好ましくは5〜100mMである。
【0018】
プロトン濃度の測定は、例えば、AHという物質が水溶液中で電離平衡に達し、プロトンを次式(1)のように供給した場合、
AH→A-+H+ ・・・(1)
次式(2)で求められる。
[H+]=Ka・[AH]/[A-] ・・・(2)
(このとき、Kaは酸乖離定数でプロトン供給する物質に固有の値であり、[AH]は電離平衡状態の水溶液中の弱酸濃度、[A-]はイオン化した弱酸の濃度を表す。)
Bronsted定義による強塩基により調整されたBronsted定義による弱酸からプロトンが供給される水溶液の一般的かつ簡易的なプロトン濃度の測定方法は、[AH]は電離平衡に達する前、すなわち、水溶液中に添加した弱酸濃度と近似し、[A-]は添加した強塩基の濃度と近似されることから、次式(3)で近似的に求める。
[H+]=Ka・[弱酸濃度]/[強塩基濃度] ・・・(3)
また、ガラス電極法を用いてプロトン濃度を測定する方法もある。ガラス電極法とはガラスの薄膜(電極膜)を有するガラス電極と標準電極の2本の電極を用い、この2本の電極間に生じた電圧(電位差)を知ることで、溶液のプロトン濃度を測定する方法である。この原理は、ガラス薄膜の内側・外側にプロトン濃度の異なる溶液があると、薄膜部分にプロトン濃度差に比例した起電力が生じることを利用し、ガラス薄膜の内側に濃度既知のプロトン溶液を用いることで、電極膜に生じた起電力から相対的にプロトン濃度を測定する方法である。
【0019】
不溶性担体として用いる繊維マトリックスには、目詰まりが起きることが少ないガラス繊維フィルターを用いることが多いが、ガラスが負の電荷を持っているため、ガラス繊維の製造時や本該反応容器の製造時に、空気中やガラス繊維に接触する物質に存在する物質がイオン結合により非特異的に結合しやすい。よって、生理活性物質を固定化する工程で、このようなすでに付着してしまっている非特異物質まで固定化してしまい、測定系の妨害、すなわちマトリックス効果が引き起こされていると考える。
そこで、生理活性物質を固定化する工程の前、あるいは同時にプロトン濃度1×10-6M以上の高プロトン濃度の水溶液を滴下することで、イオン結合を介して非特異物質が吸着している不溶性担体上で、大量のプロトンが不溶性担体の負電荷と接触し、非特異物質がイオン交換現象によりプロトンと置換され、遊離することで除去することが可能となり、次に目的とする生理活性物質を固定化する際は不溶性担体上に非特異物質が存在しない状態で固定化できるようになるため、マトリックス効果のうち測定に最も影響を及ぼす非特異物質による測定値の変動を低減させ、測定精度の向上をもたらすと考えられる。また、この低減効果は、生理活性物質を固定化する工程と同時でも効果はあるが、生理活性物質を固定化する工程の前にも実施することで、より一層の効果を得られる。これは、生理活性物質を固定化する工程と同時にのみ実施した場合は、非特異物質とプロトンのイオン交換が起こるのと同じく、固定化しようとしている目的の生理活性物質と非特異物質のイオン交換も起こってしまうためであり、まず、非特異物質をプロトンに交換した後にプロトンと目的の生理活性物質を交換する方が、非特異物質の除去効果が大きいためである。
【0020】
本願発明においては、生理活性物質を固定化する工程の前、あるいは同時にプロトン濃度1×10-6M以上の水溶液を滴下することが重要であるが、さらに本願発明に好ましい条件を例示することができる。
【0021】
例えば、不溶性担体3は、均一な厚さを持つシート状が好ましい。厚さは特に限定されないが、反応の結果生じる変化を上面から検出することから、担体としての強度を維持できる範囲でできるだけ薄いほうが好ましい。好ましくは0.3〜2.0mmである。シートの面積は、吸収要素4の断面より小さくても大きくても良いが、開口部2の範囲を全てカバーする大きさおよび形状でなければならない。好ましくは開口部2の面積と比較して100%〜400%の大きさである。
【0022】
吸収要素4は、生体試料および測定反応混合物の不溶性担体3中の通過を強化するために不溶性担体3の下方に流体除去手段として配置されている。その働きは、不溶性担体3を通過した液が毛管現象により多孔性の材料に吸収されることによる。そのため、不溶性担体3と接する面が平らになっていることが好ましく、反応液を吸収するのに十分な容量を持つ柱状が好ましい。柱の長さは通常、不溶性担体3の厚さより大きく、好ましくは柱の長さは不溶性担体3の厚さの5〜30倍である。柱の断面はどのような形であっても良いが、好ましくは円柱である。また、不溶性担体3と接する面は円柱に対して直角が好ましい。円柱の反対面はどのようであっても良いが、外郭部1に接する圧力を均一に受け、それを不溶性担体3と接する面に均一に伝えられるよう、直角で平らな面が好ましい。また、吸収要素4は外郭部1の内壁の間にぴったり嵌まり込むように成形されていることが好ましいが、吸収要素4の外壁部分と外郭部1の内壁との距離は全ての部位で同じである必要はない。嵌り具合には多少の遊びがあっても良いがその動き幅は吸収要素4の最大径の10%を超えないことが好ましい。円柱の場合、外径は外郭部1の内径の90%以上が好ましい。
【0023】
また、必要により、開口部2と不溶性担体3または不溶性担体3と吸収要素4の間に、本願発明の効果を妨げない範囲内で別の構造体を挿入しても良い。
【0024】
外郭部1は、キャップ7上部に添加した反応液や試薬が漏れず、その内部が不溶性担体3と吸収要素4を適切に保持できるような構造になっていれば、その外側の形状については特に限定されない。上から見た形が円や正多角形あるいはそれらに近い形状であってもよいし、反応が行われる以外の部分に関係ないところに図2の6のようなつばが出ていてもよい。また、液相での反応を行うための容器や反応に必要な試薬を入れる容器などが一体となっていてもよい。その他、外郭部1には、流体の吸収速度を上げるために、測定前に測定容器内に含まれる空気が、添加された反応混合物および試薬によって置き換えられ排出されるように、通気孔が1つ以上あることがより好ましい。
【0025】
キャップ7は、開口部2を有し、装着時、外郭部1にしっかり固定され、かつ不溶性担体3とキャップ7の一部と接触し、不溶性担体3を押さえつけ、移動しないようにできれば、その形状については特に限定されない。開口部2は、上から見た形が円や正多角形あるいはそれらに近い形状であっても良い。好ましくは、添加した反応液や試薬が開口部以外に漏出しないように開口部を中心軸にした漏斗状構造であることである。
【0026】
本願発明においては、その大きさ、形状、材質等については特に制限されるものではない。好ましくは、全ての試薬が、不溶性担体3の開口部2から見えている範囲に、必要かつ十分に吸収されうる程度であれば差し支えない。
【0027】
具体的には、外郭部1については、生体試料、測定に必要な試薬を漏出することなく、吸収できうる大きさであれば、限定されないが、好ましくは自動分析装置での取扱に適当な大きさとして、10〜25mmであることが望まれる。また、形状は円筒状であることが好ましく、内径が5.0〜20mmであることがより好ましい。材質は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン・ターポリマー(ABS)、ポリカーボネート、ポリアクリレート、HIPS、または測定成分に不活性な他の何らかの成形可能な材料で成形されるならば、限定されない。
【0028】
キャップ7は、開口部2を有していれば大きさは限定されないが、好ましくは、外郭部1をすべて覆うことが可能な10〜25mmである。材質は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン・ターポリマー(ABS)、ポリカーボネート、ポリアクリレート、HIPS、または測定成分に不活性な他の何らかの成形可能な材料で成形されるならば、限定されない。水を通さず、自然乾燥、風乾、真空乾燥、減圧乾燥、凍結真空乾燥、赤外線や遠赤外線による乾燥、またマイクロウェーブなどの高周波を利用した乾燥等に耐えるものが好ましい。
【0029】
開口部2は、測定に必要なシグナルが検出できうる大きさの不溶性担体3が露出し、かつ添加した試薬や試料を10秒以内に吸収させることが可能な大きさなら限定されないが、好ましくは2.0〜10mmの円形であり、より好ましくは2.0〜6.0mmである。
【0030】
不溶性担体3については、流体を透過することができる構造であれば特に限定されない。様々な多孔性構造の材料から選択することができるが、好ましくは、紙、ガラス、セルロース、ナイロン、その他の天然繊維材料または合成繊維材料等でできたフィルターなどの繊維マトリックスである。さらに好ましくはバインダレス繊維である。より好ましくは安価であり、タンパク質の非特異的な吸着が少ないことで知られているガラス繊維のバインダレス繊維フィルターである。また、重量が比較的大きくかつ比較的厚い、具体的には重量が1平方メートル当たり80〜220gかつ厚さが0.3〜2.0mmの直径4〜10mmの円状に切り抜いたガラス繊維フィルターを用いることがより好ましい。これらは市販品などを用いることができる。
【0031】
吸収要素4については、流体を一定量保持できるものであれば、特に限定されない。好ましくは、紙、ガラス、セルロース、セルロース誘導体、ナイロン、その他の天然繊維材料または合成繊維材料などであり、より好ましくは流体の液性による化学変化の起こりにくい酢酸セルロース誘導体である。また、吸収要素4の構造は、流体を保持しうる繊維の表面積を多くするため、多孔性構造であることが好ましい。これは、市販のタバコフィルターを用いることもできる。また、大きさは、外郭部1の内径が5.0〜20mm、高さ10〜25mmならば、吸収要素4も内径が5.0〜20mm、高さ10〜25mmで隙間の空かない形状であることがより好ましい。
【0032】
本願発明の、生体試料中の測定対象物質を検出するための測定システムとは、例えば、本願発明の測定容器を用いた反応により生じた種々の物理化学的変化を、検出系に応じて従来公知の検出方法(測定機器)を用いることにより実施することができる。
【0033】
また、本願発明の、生体試料中の測定対象物質を検出するための測定に用いるためのキットは、例えば、本願発明の反応容器(全体)および必要に応じ、測定対象物質と結合対複合体を形成する物質を含む試薬、検出可能なシグナルを生じさせる基質を含む試薬、ブロック液、洗浄液などを含む。
【0034】
本願発明の測定容器においては、測定対象物質を「直接」あるいは「結合対複合体を形成する物質を介して」捕捉することができる、不溶性担体3に結合性の生理活性物質が、あらかじめ固定化された状態で提供される。より好ましくは、「測定対象物質に非依存的な汎用性の高い測定容器にすることができる結合対複合体」を形成する物質を介して捕捉することができる結合性の生理活性物質が、あらかじめ固定化された状態である。
【0035】
結合対複合体とは、本明細書では、「化学的もしくは物理的な方法により、測定対象物質と特異的に結合する第一の物質」に結合した低分子化合物と、その化合物を特異的に認識する分子との複合体を意味する。そのような複合体を形成できうる組み合わせならば限定されるものではないが、代表的なものにハプテン−アンチハプテン複合体が含まれ、例えばビオチン−アンチビオチン、アビジン−ビオチン、炭水化物−レクチン、相補ヌクレオチド配列、エフェクタ−レセプター、酵素共同因子−酵素、酵素阻害物質−酵素などが挙げられる。
【0036】
また、この測定容器をあらかじめ固定化された生理活性物質を使用せずに測定に使用することも可能である。たとえば、ラテックスビーズなど免疫測定を液相で行った後、本願発明の測定容器に添加し、B/F分離を不溶性担体3上で行うといった応用的使用法も可能であり、使用用途は多岐に渡る。
【0037】
不溶性担体3に生理活性物質を固定化するには一般的に知られているような、例えば物理的に吸着させる方法または化学的に結合させる方法を用いればよい。その際、該生理活性物質を不溶性担体に直接固定化してもよいし、該生理活性物質に特異的に結合する抗体や受容体などの物質を不溶性担体に固定化し、該物質を介して該生理活性物質を固定化してもよい。また、固定化した不溶性担体を切り出して測定容器に装着してもよいし、未固相の不溶性担体を測定容器に装着した後に固定化を実施してもよい。
【0038】
「(5)測定容器を改変することなく、多項目の測定対象物質が測定可能であり、」とあるが、これは、様々な測定項目ごとにそれぞれを特異的に検出、測定するための専用の測定容器は必要がなく、この測定容器は測定項目に非依存的に共通使用できることを意味する。
【0039】
「(6)該不溶性担体は、乾燥された状態で提供され、」とあるが、これは保存時や輸送時の安定性等を考慮し、測定容器は生理活性物質を固定化した後に乾燥した状態で提供されることを意味している。その上、水分を遮断する気密容器中に測定容器を保存すれば、1年程度の長期保存が可能となる。乾燥の方法としては自然乾燥、風乾、真空乾燥、減圧乾燥、凍結真空乾燥、赤外線や遠赤外線による乾燥、またマイクロウェーブなどの高周波を利用した乾燥等が挙げられる。
【0040】
「(7)測定をする前に、該不溶性担体に一定量以上の水分を滴下し、」とあるが、この工程を行なうことで、直ちに測定可能な状態に復帰できる。この際の水分量としては、好ましくは開口部2から露出している、測定に必要なシグナルが検出できうる大きさの不溶性担体3が十分に湿潤する量の水分を滴下し、少なくとも30秒後に測定することで、より好ましくは50〜100μlの水分を滴下し、1〜5分後に測定対象物質が含まれる生体試料を滴下し、測定開始することである。
【0041】
「(8)該生理活性物質を固定化する前、」とあるが、これは抗体を固定化する工程の際に、不溶性担体3が湿潤している状態で行なえるのであれば、直前でなくてもよい。好ましくは、抗体の固定化工程が30分以内に行なわれることである。
【実施例】
【0042】
[実施例1](PSAの測定)
(1)吸収要素の作製
市販のタバコフィルターを11.5mmずつ切断した。
(2)測定容器の作製
直径9.0mm、厚さ1.0mmのガラス繊維濾紙(アドバンテック東洋社製)を円形にくりぬき、上記(1)で製した吸収要素に積層し、図1に示すような、ポリエチレン製の液体不透過性容器内に収納した。今回使用した液体不透過性容器は内径9.0mm、測定容器の長さが15mmのものを使用した。
(3)抗体の固定化
上記(2)で製した測定容器の開口部より、(a)100mMクエン酸緩衝液( [H+]=1.0×10-4M含有)(b)マウス抗ビオチンモノクローナル抗体47μ g/mL(100mMクエン酸緩衝液([H+]=1.0×10-4M含有))を50μ l、(c)5%グリセロール・1%カゼイン溶液(10mMリン酸塩−生理食塩水緩衝 液:pH7.4)を100μl、直前に供給された液が吸引されるのを待って順次供給 した後、凍結乾燥した。
(4)HRP標識抗PSA抗体液の調製
抗PSA抗体10mgと西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼを用い、ナカネ法に従い、結合させ、2.0μg/mLになるように調製し、第1抗体液とした。
(5)ビオチン標識抗PSA抗体液の調製
抗PSA抗体10mgとビオチンアミドカプロン酸−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを25℃で4時間反応させ、NAP−5(アマシャムバイオサイエンス社製)を用いて分画し、8.0μg/mLになるように調製し、第2抗体液とした。
(6)測定の実施
生体試料40μlと第1抗体液20μl、第2抗体液20μlを混和し反応溶液を調製し、40℃で5分間インキュベーションした。(3)で作製した反応容器に50μlの生理食塩水を添加し、5分後に反応溶液50μlを添加し40℃でインキュベーションし。2分後に、0.05% Tween20を含む生理食塩水を80μlずつ2回添加し、さらに2分後、発色基質として3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンを30μl添加した。発色基質添加1分後に、670nmの反射吸光度を読み取った。
【0043】
[実施例2](PSAの測定)
(1)吸収要素の作製
市販のタバコフィルターを11.5mmずつ切断した。
(2)測定容器の作製
直径9.0mm、厚さ1.0mmのガラス繊維濾紙(アドバンテック東洋社製)に円形にくりぬき、上記(1)で製した吸収要素に積層し、図1に示すような、ポリエチレン製の液体不透過性容器内に収納した。今回使用した液体不透過性容器は内径9.0mm、測定容器の長さが15mmのものを使用した。
(3)抗体の固定化
上記(2)で製した測定容器の開口部より、(a)マウス抗ビオチンモノクローナル抗体47μg/mL(100mMクエン酸緩衝液([H+]=1.0×10-4M含有))を50μl、(b)5%グリセロール・1%カゼイン溶液(10mMリン酸塩−生理食塩水緩衝液:pH7.4)を100μl、直前に供給された液が吸引されるのを待って順次供給した後、凍結乾燥した。
(4)HRP標識抗PSA抗体液の調製
抗PSA抗体10mgと西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼを用い、ナカネ法に従い、結合させ、2.0μg/mLになるように調製し、第1抗体液とした。
(5)ビオチン標識抗PSA抗体液の調製
抗PSA抗体10mgとビオチンアミドカプロン酸−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを25℃で4時間反応させ、NAP−5(アマシャムバイオサイエンス社製)を用いて分画し、8.0μg/mLになるように調製し、第2抗体液とした。
(6)測定の実施
生体試料40μlと第1抗体液20μl、第2抗体液20μlを混和し反応溶液を調製し、40℃で5分間インキュベーションした。(3)で作製した反応容器に50μlの生理食塩水を添加し、5分後に反応溶液50μlを添加し40℃でインキュベーションした。2分後に、0.05% Tween20を含む生理食塩水を80μlずつ2回添加し、さらに2分後、発色基質として3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンを30μl添加した。発色基質添加1分後に、670nmの反射吸光度を読み取った。
[比較例]
実施例2の(3)の工程で、100mMクエン酸緩衝液([H+]=1.0×10-4M含有)を100mMリン酸緩衝液([H+]=1.0×10-7M含有)にしたこと以外は実施例と同様に測定容器を製し、PSAの測定を実施した。
【0044】
実施例1、実施例2および比較例で標準PSA試薬(2.5ng/mL)を5重測定し、反射率変化量(K/S)の平均値(Mean)、CV%を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
比較例では、K/S値も小さく、またCV%も大きくなっている。これは、不溶性担体上に付着してしまっている非特異物質が生理活性物質の固定化を物理的に妨げたため感度の低下が起こった上、その非特異物質による非特異的な測定対象物質の吸着が起こり、測定値への干渉が起こったためCV%が大きくなったと思われる。
【0047】
実施例2では、生理活性物質の固定化と同時に高プロトン濃度の水溶液を滴下したことで、イオン結合を介して非特異物質が吸着している不溶性担体上で、大量のプロトンが不溶性担体の負電荷と接触し、非特異物質がイオン交換現象によりプロトンと置換され、遊離することで除去することが可能となり、目的とする生理活性物質を固定化する際は不溶性担体上に非特異物質が低減した状態で固定化できるようになるため、マトリックス効果のうち測定に最も影響を及ぼす非特異物質による測定値の変動を低減させ、感度およびCV%の向上が図られ、測定精度の向上をもたらしたと考えられる。
【0048】
実施例1では、生理活性物質を固定化する工程の前にも実施することで、より一層の効果が得られている。これは、生理活性物質を固定化する工程と同時にのみ実施した場合は、非特異物質とプロトンのイオン交換が起こるのと同じく、固定化しようとしている目的の生理活性物質と非特異物質のイオン交換も起こってしまうためであり、まず、非特異物質をプロトンに交換した後にプロトンと目的の生理活性物質を交換する方が、非特異物質の除去効果が大きいためである。そのため、感度およびCV%の向上は実施例2よりも顕著である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
このように、本願発明の測定容器を使用することで、測定機器の設定を変更することなく、測定項目に関わりなく汎用的に、マトリックス効果を低減させ、測定精度を向上させることが可能となることから、これまで培われた製造ノウハウを無駄にすることなく、体外診断用医薬品などの各種分析用途に利用することができ、産業界に寄与することが大である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本願発明の反応容器の一実施例における斜視図
【図2】図1に記載の反応容器の断面図
【符号の説明】
【0051】
1:外郭部
2:開口部
3:不溶性担体
4:吸収要素
5:カップ
6:つば
7:キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料中の測定対象物質を検出する方法に用いる測定容器であって、
(1)開口部を有し、
(2)開口部に近接して位置する吸収要素と、
(3)開口部と吸収要素の間に配置した、液体を透過することができる構造である不溶性担体を備え、
(4)該不溶性担体には、測定対象物質を、直接あるいは結合対複合体を形成する物質を介して、捕捉することができる結合性の生理活性物質があらかじめ固定化されており、
(5)測定容器を改変することなく、多項目の測定対象物質が測定可能であり、
(6)該不溶性担体は、乾燥された状態で提供され、
(7)測定をする前に、該不溶性担体に一定量以上の水分を滴下する、
測定容器において、
(8)該生理活性物質を固定化する前、あるいは固定化と同時に、該不溶性担体にプロトン濃度1×10-6M以上の水溶液を滴下する工程を含む、
生体試料中の測定対象物質を検出する方法における該不溶性担体におけるマトリックス効果の低減方法。
【請求項2】
該吸収要素が、セルロースもしくはセルロース誘導体である請求項1記載の測定方法。
【請求項3】
該不溶性担体が繊維マトリックスである請求項1記載の測定方法。
【請求項4】
該繊維マトリックスがガラス繊維である請求項3記載の測定方法。
【請求項5】
該生理活性物質はIgGである請求項1記載の測定方法。
【請求項6】
生体試料中の測定対象物質を検出する方法に用いる測定容器であって、
(1)開口部を有し、
(2)開口部に近接して位置する吸収要素と、
(3)開口部と吸収要素の間に配置した、液体を透過することができる構造である不溶性担体を備え、
(4)該不溶性担体には、測定対象物質を、直接あるいは結合対複合体を形成する物質を介して、捕捉することができる結合性の生理活性物質があらかじめ固定化されており、
(5)測定容器を改変することなく、多項目の測定対象物質が測定可能であり、
(6)該不溶性担体は、乾燥された状態で提供され、
(7)測定をする前に、該不溶性担体に一定量以上の水分を滴下する、
測定容器において、
(8)該生理活性物質を固定化する前、あるいは固定化と同時に、該不溶性担体にプロトン濃度1×10-6M以上の水溶液を滴下する工程を含む、
生体試料中の測定対象物質を検出する方法における該不溶性担体におけるマトリックス効果が低減した測定容器の製造方法。
【請求項7】
生体試料中の測定対象物質を検出する方法に用いる測定容器であって、
(1)開口部を有し、
(2)開口部に近接して位置する吸収要素と、
(3)開口部と吸収要素の間に配置した、液体を透過することができる構造である不溶性担体を備え、
(4)該不溶性担体には、測定対象物質を、直接あるいは結合対複合体を形成する物質を介して、捕捉することができる結合性の生理活性物質があらかじめ固定化されており、
(5)測定容器を改変することなく、多項目の測定対象物質が測定可能であり、
(6)該不溶性担体は、乾燥された状態で提供され、
(7)測定をする前に、該不溶性担体に一定量以上の水分を滴下し、
測定容器において、
(8)該生理活性物質を固定化する前、あるいは固定化と同時に、該不溶性担体にプロトン濃度1×10-6M以上の水溶液を滴下する工程を含む方法により得られた、
生体試料中の測定対象物質を検出する方法における該不溶性担体におけるマトリックス効果が低減した測定容器。
【請求項8】
請求項7に記載の測定容器を用いて測定を実施する、生体試料中の測定対象物質を検出するための測定システム。
【請求項9】
請求項7に記載の測定容器を含む、生体試料中の測定対象物質を検出するための測定に用いるためのキット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−178316(P2007−178316A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−378310(P2005−378310)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】