説明

マラリア原虫疾患予防又は治療用の5−ヘテロ環置換イミノ−9−ジアルキルアミノベンゾ[a]フェノキサチン化合物又はその塩とアーテミシニン誘導体との組み合わせ

【課題】マラリア原虫感染症に対して高い治療効果と選択毒性を有し、且つ活性成分を単剤療法で投与した場合に比較して耐性マラリア原虫の出現を抑制できる新たなマラリア原虫疾患予防又は治療用を提供すること。
【解決手段】
活性成分として、下記一般式(I)で示される5−ヘテロ環置換イミノ−9−ジアルキルアミノベンゾ[a]フェノキサチン化合物又はその塩と、アーテミシニン誘導体とを組み合わせる。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マラリア原虫疾患予防又は治療用の活性成分として5−ヘテロ環置換イミノ−9−ジアルキルアミノベンゾ[a]フェノキサチン化物又はその塩とアーテミシニン誘導体との新規な組み合わせ、及びそれらを含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
マラリア原虫感染によって引き起こされるマラリアは、人類の歴史で最も深刻な寄生虫感染症である。マラリアの起因病原体は、プラスモジウム(Plasmodium)属に属する原虫であり、例えば、アフリカ、アジア、ラテンアメリカの熱帯地域全体に分布する熱帯熱マラリア原虫(P.falsiparum)、世界各地の熱帯と温帯の一部に分布する三日熱マラリア原虫(P.vivax)、主として熱帯西アフリカに分布する卵型マラリア原虫(P.ovale)、及び世界各地に分布する四日熱マラリア原虫(P.malariae)などの原虫がハマダラ蚊を媒介としてヒトに感染する。マラリアに感染している人は世界で毎年新たに3億人程度おり、免疫力の弱い幼児を主体に毎年100万人以上が亡くなっている。その死亡者の90%はサブ・サハラ・アフリカ(サハラ砂漠より南の地域)の5歳以下の子供である。マラリアはサブ・サハラ・アフリカ地域の経済に大きな影響を与えており、その経済的損失は毎年1兆円以上と言われている。また、地球温暖化に伴ってこれを媒介するハマダラ蚊の生息域が確実に広がっており、マラリア原虫疾患予防又は治療用の開発は、将来の日本人の安全・安心の観点からも留意すべき課題と考えられる。
【0003】
マラリアの特効薬として多用されてきたクロロキンに対する耐性を持つマラリア原虫が出現したのと同様に、メフロキン、アトバコン、ピリメサミンなどの医薬品に対しても耐性を持つマラリア原虫が出現している。現在、最も有効なマラリア治療薬はアーテミシニン誘導体である。アーテミシニンはArtemisia annua(青蒿)からの抽出薬剤で、少なくとも紀元前2世紀から抗マラリア薬としての利用が認められていた。アーテミシニンとその誘導体は、1970年代から中国を中心にマラリアの治療薬として使われ始め、現在では薬剤耐性を持つマラリア原虫による疾患に対し脚光を浴びている。
【0004】
世界保健機構(WHO)によれば、クロロキンなどのマラリア治療薬に対する耐性原虫の出現は単独療法(monotherapy)が原因と考え薬剤耐性のリスクを軽減するためにマラリア治療薬の併用療法(combination therapy)を薦めている。特に、アーテミシニン誘導体と別の有効なマラリア治療薬の組み合わせはアーテミシニンを基にする併用療法(Artemisinin−based combination therapies)と呼ばれ現在最も有効なマラリア治療薬となっている(非特許文献1)。販売されている併用療法の治療薬の例としては、アーテミシニンアーテスネートとアモジアキンとの合剤、アーテメータとルメファントリンとの合剤などがある。
【0005】
一方、クロロキンとアーテスネートとの組み合わせは良好な治療効果を示さず耐性株、特にクロロキン耐性株の出現を誘発すると思われる。クロロキン、メフロキン、アトバコン、ピリメサミンなどの医薬品に対しても耐性を持つマラリア原虫が出現し大きな脅威となっている現状を考えるとき、新たな医薬品の開発が急務となっている(非特許文献2)。
【0006】
本発明者の一人である井原正隆等は、これまでに、フェノキサニジウム化合物を活性成分とする原虫疾患予防又は治療用医薬組成物(特許文献1)、及びアザロダシアニン化合物を活性成分とする原虫疾患予防又は治療用医薬組成物(特許文献2)を研究開発した。
【0007】
これまでに、ベンゾ[a]フェノキチンおよびその酸との塩であるベンゾ[a]フェノキサゾニウム化合物が多数合成されておりこれらについて抗腫瘍性が報告されており(非特許文献3〜7)、また、本発明の組み合わせに用いる一般式(I)で表わされる5−ヘテロ環置換イミノ−9−ジアルキルアミノベンゾ[a]フェノキチン化合物には属さないRが水素原子又はエチル基の例が記載されている。これらの化合物については、マラリア等の熱帯病の原因となる原虫に対する生育阻害活性の報告があるもののそのin vitro、及びin vivo活性は低いものである(非特許文献8、及び9)。
【先行技術文献】
【0008】
【特許文献】
【特許文献1】国際公開公報WO2006/087935号パンフレット
【特許文献2】国際公開公報WO2006/137258号パンフレット
【非特許文献】
【非特許文献1】WHO briefing on Malaria Treatment Guidelines and artemisinin monotherapies,Geneva,19 April 2006
【非特許文献2】日薬理誌132, 288−291(2008)
【非特許文献3】M.L.Crossley,P.F.Dreisbach,C.M.L.C.Hofman,R.P.Parker,J.Am.Chem.Soc.,74,573−578(1952)
【非特許文献4】M.L.Crossley,R.J.Turner,C.M.Hofmann,P.F.Dreisbach,R.P Parker,J.Am.Chem.Soc.,74,578−584(1952)
【非特許文献5】M.L.Crossley,C.M.Hofmann,P.F.Dreisbach,J.Am.Chem.Soc.,74,584−586(1952)
【非特許文献6】N.Motohashi,Yakugaku Zasshi,102,646−650(1982)
【非特許文献7】N.Motohashi,Medicinal Research Reviews,11,239−294(1991)
【非特許文献8】K.Takasu,T.Shimogama,C.Satoh,M.Ihara,J.Med.Chem.,50,2281−2284(2007)
【非特許文献9】J.L.Vennerstrom,M.T.Makler,C.K.Angerhofer,J.A.Williams,Antimicrob.AgentsJ.Chemother.,39,2671−2677(1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、寄生性のマラリア原虫感染症に対して高い治療効果と選択毒性を有し、且つ活性成分を単剤療法で投与した場合に比較して耐性マラリア原虫の出現を抑制できる新たな治療用及び/又は予防用の医薬品の組み合わせ、及びそれらを含有する医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは前記課題を解決するために、以下に示す一般式(I)で表わされる5−ヘテロ環置換イミノ−9−ジアルキルアミノベンゾ[a]フェノキサチン化合物又はその塩とアーテミシニン誘導体との組み合わせについて、宿主モデルとしてマラリア感染マウスを用いて、任意の量もしくは形態で投与しその治療効果を評価した結果、原虫疾患予防又は治療用に有用であり、またこれら活性成分を単剤療法で投与した場合に比較して耐性原虫の出現を未然に防ぎ、或いは出現を遅らせることができることを見出し、これらの知見に基づき本発明を完成した。
【0011】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1> マラリア原虫疾患予防又は治療用の活性成分として、下記一般式(I)で示される5−ヘテロ環置換イミノ−9−ジアルキルアミノベンゾ[a]フェノキサチン化合物又はその塩と、アーテミシニン誘導体との組み合わせである。
【化1】

(式中、R及びRはそれぞれ独立にメチル基、エチル基、プロピル基、2−ヒドロキシエチル基、又は2−メタンスルホンアミドエチル基であり、Rは2−ピリジル基又は4−ピリジル基を表し、Rはフッ素原子、塩素原子、メトキシ基、又はメチル基を表し、Rはフッ素原子、塩素原子、メトキシ基又はメチル基を表し、mは0又は1の整数、nは0又は1の整数を表し、Xで表わされる陰イオンが、塩素原子、臭素原子、硝酸イオン、硫酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン又はシュウ酸イオンを表す。)
<2> 前記アーテミシニン誘導体がアーテスネート、アーテエター、アーテメター又はジヒドロアーテミシニンから成ることを特徴とする前記<1>項に記載の組み合わせである。
<3> 一般式(I)で表わされる5−ヘテロ環置換イミノ−9−ジアルキルアミノベンゾ[a]フェノキサチン化合物又はその塩の投与量が1〜5,000mg/日/体重70kg、アーテミシニン誘導体の投与量が1〜700mg/日/体重70kgであることを特徴とする前記<1>項又は<2>項に記載の組み合わせである。
<4> マラリア原虫疾患予防又は治療用の活性成分として、以下の構造式1A〜1Qのいずれかで示される化合物又はその塩と、アーテミシニン誘導体との組み合わせである。
【化2】

【化3】

<5> 活性成分のそれぞれを同時又は逐次的に投与することを特徴とする前記<1>〜<4>のいずれか1項に記載の組み合わせである。
<6> 前記<1>〜<4>のいずれか1項に記載の組み合わせであることを特徴とするマラリア原虫疾患予防又は治療用医薬組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一般式(I)で示される5−ヘテロ環置換イミノ−9−ジアルキルアミノベンゾ[a]フェノキサチン化合物又はその塩とアーテミシニン誘導体とを組み合わせることにより、寄生性のマラリア原虫感染症に罹患した生体に対して低毒性で、投与することにより有意な治癒効果を示す新たな治療用及び/又は予防用の医薬品の組み合わせ又はその組成物を提供することができる。また、これら活性成分を単剤療法で投与した場合に比較して耐性原虫の出現を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明による組み合わせ、およびこれらを含む医薬組成物について具体的に説明する。以下に本発明の組み合わせに用いる一般式(I)で表わされる5−ヘテロ環置換イミノ−9−ジアルキルアミノベンゾ[a]フェノキサチン化合物又はその塩の具体例及び好適な例を挙げるが、これらの範囲に限定されるものではない。
【0014】
本発明の組み合わせに用いる一般式(I)で表わされる化合物において、R及びRはそれぞれ独立にメチル基、エチル基、プロピル基、2−ヒドロキシエチル基、又は2−メタンスルホンアミドエチル基であり、Rは置換又は無置換のピリジル基を表し、Rはフッ素原子、塩素原子、メトキシ基、又はメチル基を表し、Rはフッ素原子、塩素原子、メトキシ基又はメチル基を表し、mは0又は1の整数、nは0又は1の整数を表し、Xで表わされる陰イオンが、塩素原子、臭素原子、硝酸イオン、硫酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン又はシュウ酸イオンを表す。更に好ましい例としては構造式1A〜1Qのいずれかで示される化合物があげられる。また特に好ましいRのピリジル基の例としては、2−ピリジル基又は4−ピリジル基が挙げられる。
【0015】
本発明の組み合わせに用いるアーテミシニンは下記構造2Aで表わされる。アーテミシニン誘導体の好ましい例として、アーテミシニンの還元体であるジヒドロアーテミシニン(下記構造式2B)、並びにジヒドロアーテミシニンのヘミサクシネートエステル体であるアルテスネート(下記構造式2C)、メチルエーテル体であるアーテメター(下記構造式2D)及びエチルエーテル体であるのアーティエター(下記構造式2E)が挙げられる。
【化4】

【0016】
本発明の医薬組成物は、一般式(I)の5−ヘテロ環置換イミノ−9−ジアルキルアミノベンゾ[a]フェノキサチン化合物又はその塩とアーテミシニン誘導体との組合せを含む組成物である。本発明の医薬組成物に用いることのできる医薬キャリア−又は希釈剤の好適な例としては塩化ナトリウム;塩化マグネシウム;塩化亜鉛、グルコ−ス;サッカロ−ス;ラクト−ス;エチルアルコ−ル;グリセリン;マンニト−ル;ソルビト−ル;ペンタエリスリト−ル;ジエチレングリコ−ル、プロピレングリコ−ル、ジプロピレングリコ−ル、ポリエチレングリコ−ル400、他のポリエチレングリコール;トリラウリン酸グリセリル、及びジステアリン酸グリセリルの如き脂肪酸のモノ、ジ及びトリグリセリド;ペクチン;でんぷん;アルギニン酸;キシロ−ス;タルク;石松子;オリ−ブ油、ピ−ナツ油、ヒマシ油、コ−ン油、紅花油、小麦麦芽油、ゴマ油、棉実油、ヒマワリ油及びタラ肝油の如きオイル及び油脂;ゼラチン;レシチン;シリカ;セルロ−ス;メチルヒドロキシプロピルセルロ−ス、メチルセルロ−ス、ヒドロキシエチルセルロ−スの如きセルロ−ス誘導体;ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸カルシウム、オレイン酸マグレシウム、パルミチン酸カルシウム、ベヘン酸カルシウム及びステアリン酸マグネシウム等の12〜22の炭素原子を有する脂肪酸の塩;シクロデキストリン類(例えば、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、ヒドロキシエチル−β−シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、ジヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、カルボキシメチルエチル−β−シクロデキストリン、シクロアワオドリン、及びジメチル−β−シクロデキストリン等);乳化剤(例えば、2〜22の炭素原子,特に10〜18の炭素原子を有する飽和及び不飽和の脂肪酸とグリコ−ル、グリセリン、ジエチレングリコ−ル、ペンタエリスリト−ル、エチルアルコ−ル、ブチルアルコ−ル、オクタデシルアルコ−ルの如き1〜20の炭素原子を有する一価の脂肪族アルコ−ル又は多価アルコ−ルとのエステル;及びジメチルポリシロキサンの如きシリコ−ン等が挙げられる。更に、医薬組成物に従来から用いられてきた当業者に公知の任意の追加のキャリア−も本発明の医薬組成物に使用することが出来る。
【0017】
本発明の組み合わせに用いる化合物の薬学的な有効量及び投与方法又は投与手段は、感染症の原因となるマラリア寄生原虫の種類、病状の重さ、治療方針、患者の年齢、体重、性別、全般的な健康状態、及び患者の(遺伝的)人種的背景に応じて、当業者が適宜選択することができる。一般的には、本発明の5−ヘテロ環置換イミノ−9−ジアルキルアミノベンゾ[a]フェノキサチン化合物又はその塩の投与量は1〜5,000mg/日/体重70kg、より一般的には25〜1000mg/日/体重70kgであり、組み合わせるもう一方のアーテミシニン誘導体の投与量は1〜700mg/日/体重70kg、より一般的には70〜400mg/日/体重70kgである。
【0018】
本発明による組み合わせにおいては、ふたつの活性成分のそれぞれを1日1回又はそれ以上、好ましくは1日3日間連続して投与することが望ましい。投与期間を限定することにより、アーテミシニン誘導体を用いる単独療法で推奨されている7日間と比較して、マラリア原虫の耐性獲得の誘発を防ぐことができる。
【0019】
本発明医薬組成物は投与方法・投与経路等に応じて当業者に公知の任意の形状とすることが出来る。それらは適当な方法で投与することが出来る。例えば、形状が、液体状、錠剤状、コロイド状のものを、液状の場合、5%グルコ−ス水溶液に溶かした形で或いは上記のキャリア−又は希釈剤を伴った形で、静脈内、腹腔内、皮下に注射する方法が挙げられる。錠剤状の場合では経口から服用が挙げられ、コロイド状の場合は皮膚に塗布する等の方法が挙げられる。尚、本発明の組み合わせに用いる一般式(I)で示される化合物、及びアーテミシニン誘導体はその使用目的、対象、及び形状等に応じて、適当な量で含有されることが出来るが、通常、1mg〜10,000mg程度、好ましくは、10mg〜3,000mg程度含有されている。
【0020】
以下に、本発明の組み合わせに用いる一般式(I)で示される5−ヘテロ環置換イミノ−9−ジアルキルアミノベンゾ[a]フェノキサチン化合物又はその塩の合成方法を示す。
一般式(I)で表される5−ヘテロ環置換イミノ−9−ジアルキルアミノベンゾ[a]フェノキサチン化合物およびその塩は、一般式3で示される4−ニトロソアニリン誘導体又は5で示されるp−フェニレンジアミン類と一般式4で示される2−ナフトール誘導体をHNO等の酸化剤の存在下に反応させることにより2を得た後、第一級アミンと酸素を含む酸化剤の存在下にエタノール中で反応させると一般式(I)で示される5−ヘテロ環置換イミノ−9−ジアルキルアミノベンゾ[a]フェノキサチン化合物が、遊離塩基として安定な物質として得られる。また、これらは塩酸塩としても精製が可能である。
【0021】
【化5】

【実施例】
【0022】
これら化合物及びその医薬組成物の有効性を明らかにするために、マラリア感染マウスを用いるin vivoによる抑制効果を試験し評価した。尚、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0023】
[マラリア感染マウスの経口投与での薬剤投与時の抑制率評価(in vivo)]
本実験においては、ローデントマラリア原虫(Plasmodium bergheiNK65株)を用いた。感染血液はICR系雌性SPFマウス4〜6週齢(20%−26%)に腹腔内または尾静脈投与で感染させ継体したものを使用している。マラリア感染マウスの尾静脈から採血し感染率を求め適度に感染(10−20%の感染率)しているのを確認した後、マウス心臓からヘパリン入り注射器でマラリア感染血液を採血した。その後、赤血球数(cells/ml)と原虫感染率から、投与量1mlあたり5.0×10−6のマラリア原虫となるように血液を生理食塩水にて希釈した。これを未感染マウス(ICR系雌性5週齢)の体重20gあたり0.2mlずつ尾静脈より感染させた。試験に用いる化合物はTween80を7ml、エチルアルコールを3ml、水90mlの混合溶液に溶解した。
【0024】
マウスは1群3匹とし、マラリア感染24時間(1日)後に化合物をマウスの体重1kgあたり化合物1Bは10mg、アーテメターは5mg、化合物1Bとアーテメターの組み合わせでは化合物1Bを10mgとアーテメター5mgとを混合したものを経口投与し、マラリア感染24時間(1日)後、48時間(2日)後、72時間(3日後)の合計3回、経口投与を行った。
【0025】
マラリア感染96時間(4日)後と144時間後(6日後)にマウスの尾より血液を採取し、薄層塗抹標本を作成し、顕微鏡下で化合物投与群とコントロール(化合物非投与)群のマラリア原虫感染数を計測し、マラリア原虫感染率(Parasitemia)を算出した。
【0026】
上記で求めたマラリア原虫感染率から次式によって、薬剤投与時の抑制率(Suppression)を算出した。
抑制率(%)=(B−A)/B×100
A:本試験化合物を投与したマウスの原虫感染率
B:コントロール(化合物非投与)マウスの原虫感染率
【0027】
更に、マウスの体重変化、下痢症状、色つや等を観察し、化合物投与による急性毒性等の有無を調べた。
【0028】
【表1】

【0029】
表1から分かるように、本発明の組み合わせである化合物1Bとアーテメターとの組み合わせによる投与(投与量が1B10mg/kg、アーテメター5mg/kg)は、各々の単独投与で抑制率97%以上とするために必要な投与量(1Bでは30mg/kg、アーテメターでは5mg/kg)より少ない量において薬剤投与後の抑制率を著しく増加させることができる。また、上記の組み合わせにおいて下痢や体重の急減などの急性毒性は見られなかった。
本発明おいては、一般式(I)で表わされる5−ヘテロ環置換イミノ−9−ジアルキルアミノベンゾ[a]フェノキサチン化合物およびその塩とアーテミシン誘導体との組み合わせにより、各々の単独投与に比較してそれぞれの大幅な投与量の削減が期待できるとともに、これら活性成分を単剤療法で投与した場合に比較して耐性原虫の出現を抑制することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マラリア原虫疾患予防又は治療用の活性成分として、下記一般式(I)で示される5−ヘテロ環置換イミノ−9−ジアルキルアミノベンゾ[a]フェノキサチン化合物又はその塩とアーテミシニン誘導体との組み合わせ。
【化1】

(式中、R及びRはそれぞれ独立にメチル基、エチル基、プロピル基、2−ヒドロキシエチル基、又は2−メタンスルホンアミドエチル基であり、Rは2−ピリジル基又は4−ピリジル基を表し、Rはフッ素原子、塩素原子、メトキシ基、又はメチル基を表し、Rはフッ素原子、塩素原子、メトキシ基又はメチル基を表し、mは0又は1の整数、nは0又は1の整数を表し、Xで表わされる陰イオンが、塩素原子、臭素原子、硝酸イオン、硫酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン又はシュウ酸イオンを表す。)
【請求項2】
アーテミシニン誘導体がアーテスネート、アーテエター、アーテメター、又はジヒドロアーテミシニンからなることを特徴とする請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項3】
一般式(I)で表わされる5−ヘテロ環置換イミノ−9−ジアルキルアミノベンゾ[a]フェノキサチン化合物又はその塩の投与量が1〜5,000mg/日/体重70kg、アーテミシニン誘導体の投与量が1〜700mg/日/体重70kgからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の組み合わせ。
【請求項4】
活性成分のそれぞれを同時又は逐次的に投与することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の組み合わせ。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の組み合わせを含むマラリア原虫疾患予防又は治療用医薬組成物。

【公開番号】特開2011−37814(P2011−37814A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204090(P2009−204090)
【出願日】平成21年8月14日(2009.8.14)
【出願人】(508075834)株式会社 シンスター・ジャパン (4)
【Fターム(参考)】