説明

マルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置

【課題】 第一カラムのみを通過した試料と、第一カラムと第二カラムとの両方を通過した試料とを質量分析計によって短時間で正確に分析することができるマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置の提供。
【解決手段】 第一カラム5と、第二カラム6と、分岐路8と、質量分析計7と、第一カラム5の出口端と第二カラム6の入口端とを流通するように連結するか、或いは、第一カラム5の出口端と分岐路8の入口端とを流通するように連結するかのいずれかとなるように切替可能とする流路変更用接続機構40と、第一オーブン3と、第二オーブン4とを備えるマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置1であって、第二カラム6の主要部分6bは、第二オーブン4の内部に配置されるとともに、第一カラム5と分岐路8と第二カラム6の後段部分とは、第一オーブン3の内部に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本のカラムを用いるマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
環境分析、石油化学分析、香料分析等の分野では、多種類の微量成分が含まれる複雑な組成の試料中の各成分を分離して高い感度で定量分析する必要がある。しかしながら、一般的なガスクロマトグラフ装置(以下、GCと呼ぶ)では、一本のカラムで複数の成分に完全には分離できず、充分な定量分析ができない場合も多い。そこで、こうした場合に、分離特性の相違する複数本(例えば、2本)のカラムを組み合わせたマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置(以下、マルチディメンジョナルGCと呼ぶ)が非常に有用である。
【0003】
ここで、従来のマルチディメンジョナルGCの一例について説明する(例えば、特許文献1参照)。図5は、従来のマルチディメンジョナルGCの一例を示す概略構成図である。
マルチディメンジョナルGC101は、試料ガス(例えば、農薬成分を含む試料等)とキャリアガスとが導入される試料気化室2と、第一カラム5と、第二カラム106と、分岐路108と、水素炎イオン化検出器(FID)50と、MS検出器(質量分析計)7と、流路変更用接続機構40と、第一カラム5の温度と分岐路108の温度とを制御する第一オーブン3と、第二カラム106の温度を制御する第二オーブン4と、第一オーブン3と第二オーブン4とを連結する連結部9と、MS検出器7と第二オーブン4とを連結する連結部15と、マルチディメンジョナルGC101全体を制御するコンピュータ(制御部)110とを備える。
【0004】
第一カラム5は、例えば内径0.25mmの管状であり、その長さは60mである。そして、第一カラム5の内部には、固定相(例えば、5重量%フェニルジメチルポリシロキサン等)が塗布されており、試料ガスが第一カラム5を通過する際には、各成分の分配係数若しくは溶解度に応じた速度で各成分が移動していき、出口端から成分を順次排出するようになっている。
さらに、第一カラム5は第一オーブン3内に配置され、分析中に第一オーブン3のヒータ3aにより適宜のレートで昇温制御される。この昇温制御によっても、試料ガスが第一カラム5を通過する際には、各成分の分配係数若しくは溶解度に応じた速度で各成分が移動していくようになっている。例えば、コンピュータ110は、第一カラム5の温度を、ヒータ3aにより50℃(2分)−20℃/分−180℃−5℃/分−280℃(30分)と制御する。ここで、括弧内はその温度に保持する時間である。(以降同様に記載する。)
【0005】
第二カラム106は、例えば内径0.32mmの管状であり、その長さは30mである。そして、第二カラム6の内部には、第一カラム5と異なる固定相(例えば、トリフルオロプロピルメチルポリシロキサン等)が塗布されており、試料ガスが第二カラム106を通過する際には、各成分の分配係数若しくは溶解度に応じた速度で各成分が移動していき、出口端から成分を順次排出するようになっている。
さらに、第二カラム106は第二オーブン4内に配置され、分析中に第二オーブン4のヒータ4aにより適宜のレートで昇温制御される。この昇温制御によっても、試料ガスが第二カラム106を通過する際には、各成分の分配係数若しくは溶解度に応じた速度で各成分が移動していくようになっている。例えば、コンピュータ110は、第二カラム106の温度を、ヒータ4aにより40℃(21分)−5℃/分−250℃(5分)と制御する。
【0006】
分岐路108は、例えば内径0.15mmの管状であり、その長さは0.5mである。そして、分岐路108の内部には、固定相は塗布されておらず、試料ガスが分岐路108を通過する際には、入口端から入ってきた順番で各成分が移動していき、出口端から成分を順次排出するようになっている。
なお、分岐路108も、第一カラム5と同様に第一オーブン3内に配置されているため、分析中に第一オーブン3のヒータ3aにより適宜のレートで昇温制御されることになるので、例えば、分岐路108の温度は、ヒータ3aにより50℃(2分)−20℃/分−180℃−5℃/分−280℃(30分)と制御されることになる。
【0007】
流路変更用接続機構40としては、ディーンズ(Deans)方式と呼ばれる構造の流路切換え手段が一般に利用されている(例えば、特許文献2参照)。
流路変更用接続機構40には、第一カラム5の出口端と、第二カラム106の入口端と、分岐路108の入口端とが接続されている。そして、第一カラム5の出口端と第二カラム106の入口端とを流通するように連結するか、或いは、第一カラム5の出口端と分岐路108の入口端とを流通するように連結するかのいずれかとなるように切替可能となっている。
【0008】
水素炎イオン化検出器(FID)50は、化合物を水素炎中で燃焼することによって発生するイオンを検知するものである。C−H結合を有する化合物に対して感度を有するため、一般の有機物に対する感度は高いが、水や二酸化炭素等の小分子ガスは感知できないのが欠点となっている。
MS検出器7は、高電圧をかけた真空中で化合物をイオン化すると、静電力によってイオンはMS検出器7内を飛行し、飛行しているイオンを電気的・磁気的な作用等により質量電荷比に応じて分離し、その後それぞれを検出することで、質量電荷比を横軸とし、検出強度を縦軸とするマススペクトルを得ることができる。マススペクトルには、様々な情報が含まれるため、既知物質の同定や未知物質の構造決定にはきわめて強力な手段となる。しかし、MS検出器7は、大型かつ高価であるため、一般的に1台のマルチディメンジョナルGC101に1台のMS検出器7しか配置できないことが欠点となっている。
コンピュータ110は、CPU11を備え、さらにメモリ12と、入力装置(図示せず)であるキーボードやマウスと、モニタ画面等を有する表示装置(図示せず)とが連結されている。
【0009】
このようなマルチディメンジョナルGC101では、試料気化室2内で気化させた試料ガスを第一カラム5に流して試料ガスを分離した後の流路を、分岐路108を介しての水素炎イオン化検出器3側への流路と、第二カラム106を介してのMS検出器7側への流路との2つの流路に分岐している。そして、通常は第一カラム5から流出した試料ガスを分岐路108を介して水素炎イオン化検出器3に導入して試料成分を検出し、第一カラム5では充分に分離できない目的成分が含まれる試料ガスが通過するタイミングで以て試料ガスを選択的に第二カラム106に導入し、第二カラム106を通して分離特性を改善した後にMS検出器7に導入して検出を行っている。
【0010】
しかしながら、水素炎イオン化検出器50は、MS検出器7と比較して、既知物質の同定や未知物質の構造決定に関する分析ができない。そのため、第一カラム5のみを通過した試料もMS検出器7で検出することが望まれていた。
そこで、第一カラム5のみを通過した試料もMS検出器7に導く、ダブルホールベスペルフェルールを使用したマルチディメンジョナルGCが開発されている。図6は、マルチディメンジョナルGCの他の一例を示す概略構成図である。なお、上述したマルチディメンジョナルGC101と同様のものについては、同じ符号を付している。
マルチディメンジョナルGC151は、試料ガスとキャリアガスとが導入される試料気化室2と、第一カラム5と、第二カラム106と、分岐路158と、MS検出器7と、流路変更用接続機構40と、第一カラム5の温度を制御する第一オーブン3と、第二カラム106の温度と分岐路158の温度とを制御する第二オーブン4と、第一オーブン3と第二オーブン4とを連結する連結部9と、MS検出器7と第二オーブン4とを連結する連結部15と、マルチディメンジョナルGC151全体を制御するコンピュータ(制御部)160とを備える。連結部9がダブルホールベスペルフェルールであり、第二カラム106と分岐路158の2本の流路を貫通することができる。
【0011】
分岐路158は、例えば内径0.15mmの管状であり、その長さは1mである。そして、分岐路158の内部には、固定相は塗布されておらず、試料ガスが分岐路158を通過する際には、入口端から入ってきた順番で各成分が移動していき、出口端から成分を順次排出するようになっている。
なお、分岐路158は、第二カラム106と同様に第二オーブン4内に配置されているため、分析中に第二オーブン4のヒータ4aにより適宜のレートで昇温制御されることになるので、例えば、分岐路158の温度は、40℃(21分)−5℃/分−250℃(5分)と制御されることになる。
【0012】
このようなマルチディメンジョナルGC151では、試料気化室2内で気化させた試料ガスを第一カラム5に流して試料ガスを分離した後の流路を、第二カラム6を介さずのMS検出器7側への流路と、第二カラム6を介してのMS検出器7側への流路との2つの流路に分岐している。そして、通常は第一カラム5から流出した試料ガスを分岐路158を介してMS検出器7に導入して試料成分を検出し、第一カラム5では充分に分離できない目的成分が含まれる試料ガスが通過するタイミングで以て試料ガスを選択的に第二カラム106に導入し、第二カラム106を通して分離特性を改善した後にMS検出器7に導入して検出を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2006−226678号公報
【特許文献2】特開2006−064646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このようなマルチディメンジョナルGC151では、第二カラム106に導入された試料ガスが第二カラム106を通過しながらMS検出器7に導入されるとともに、第二カラム106に導入されなかった試料ガスが分岐路158を通過しながらMS検出器7に導入されることになる。このとき、第二カラム106を通過する試料ガスと、分岐路158を通過する試料ガスとが、同時にMS検出器7に導入されないようにする必要がある。
ところが、第二カラム106は、分析中に第二オーブン4のヒータ4aにより適宜のレートで昇温制御されるが、分岐路158もヒータ4aにより同様な昇温制御されることになる。つまり、第二カラム106の温度と分岐路158の温度とが同様な昇温制御されることになる。よって、第二カラム106を、40℃(21分)−5℃/分−250℃(5分)と昇温制御した場合には、試料ガスが分岐路158の入口端に到達した際には分岐路158の温度が40℃と低いので、第一カラム5から分岐路158に導入された試料成分が分岐路158の内部で凝集されることにより、分岐路158からMS検出器7に到達せず、その結果、試料成分を分析できないことがあった。この凝集成分は、一般的にコールドスポットと呼ばれ、分析精度を下げる原因となる。
【0015】
一方、試料ガスが分岐路158の入口端に到達した際に分岐路158の温度を高く設定すると、分岐路158の内部におけるコールドスポットの発生を防ぐことも可能となるが、この場合には、第二カラム106での分離条件(初期温度等)に多くの制約が発生し、その結果、第二カラム106における分離の精度を上げることが困難となったり、分離の精度を上げるために分析時間が長くなったりした。
そこで、本発明は、第一カラムのみを通過した試料と、第一カラムと第二カラムとの両方を通過した試料とを質量分析計によって短時間で正確に分析することができるマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するためになされた本発明のマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置は、入口端から試料が内部に導入されることにより、当該試料を当該試料に含まれる各成分に分離していき、出口端から成分を順次排出する第一カラムと、入口端から試料が内部に導入されることにより、当該試料を当該試料に含まれる各成分に分離していき、出口端から成分を順次排出し、入口端から出口端に向かって前段部分、主要部分及び後段部分からなる第二カラムと、入口端から試料が内部に導入されることにより、出口端から当該試料に含まれる成分を順次排出する分岐路と、前記分岐路の出口端と接続されるとともに、前記第二カラムの出口端と接続される質量分析計と、前記第一カラムの出口端と第二カラムの入口端とを流通するように連結するか、或いは、前記第一カラムの出口端と分岐路の入口端とを流通するように連結するかのいずれかとなるように切替可能とする流路変更用接続機構と、第一オーブンと、第二オーブンとを備えるマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置であって、前記第一カラムと分岐路と流路変更用接続機構と第二カラムの前段部分及び後段部分とは、前記第一オーブンの内部に配置されるとともに、前記第二カラムの主要部分は、前記第二オーブンの内部に配置されるようにしている。
【0017】
ここで、第二カラムの「前段部分」とは、第二カラムの入口端から任意の距離までの第二カラムの一部分のことであり、例えば、任意の距離は第二カラムの全部の1%以上10%以下となる。そして、本発明において前段部分の全部(100%)が、第一オーブンの内部に配置される必要はなく、例えば、前段部分の50%が第一オーブンの内部に配置され、かつ、前段部分の50%が第一オーブンと第二オーブンとの間(例えば、連結部)に配置されてもよい。
第二カラムの「主要部分」とは、前段部分と後段部分に挟まれた部分である。
第二カラムの「後段部分」とは、第二カラムの出口端から任意の距離までの第二カラムの一部分のことであり、例えば、任意の距離は第二カラムの全部の1%以上10%以下となる。そして、本発明において後段部分の全部(100%)が、第一オーブンの内部に配置される必要はなく、少なくとも一部分が第一オーブンの内部に配置されればよく、例えば、後段部分の90%が第一オーブンの内部に配置され、後段部分の5%が第一オーブンと第二オーブンとの間(例えば、連結部)に配置され、かつ、後段部分の5%が第一オーブンと質量分析計との間(例えば、連結部)に配置されてもよい。
前段部分及び/又は後段部分には、試料を各成分に分離していく機能があってもよく、試料を各成分に分離していく機能がなくてもよい。
【0018】
本発明のマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置によれば、第二カラムの主要部分は、第二オーブンの内部に配置されるが、分岐路は、第二オーブンの内部に配置されない。これにより、第二カラムの主要部分を通過する試料は、第二オーブンにより適宜のレートで昇温制御されることになる。このとき、第二オーブンでは、分岐路は、第二オーブンの内部に配置されないため、分岐路の内部におけるコールドスポットの発生を考慮する必要はない。
一方、分岐路と第二カラムの後段部分とは、第一オーブンの内部に配置される。これにより、分岐路を通過する試料は、第一オーブンの温度に影響を受けることになるが、第一カラムを通過した際に第一オーブンの温度は適宜のレートで昇温制御された後になるので、第一オーブンの温度はすでに比較的高温になっているため、分岐路の内部におけるコールドスポットの発生を防ぐことができ、その結果、質量分析計に到達する。
よって、本発明のマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置では、分岐路を通過する試料が質量分析計に導入されている間には、第二カラムの主要部分の温度を低温にすることで、第二カラムに到達した試料を第二カラムの内部で保持することができる。そして、分岐路を通過する試料が質量分析計に導入された後か、若しくは、質量分析計に導入され終わる直前になったときに、第二オーブンにより適宜のレートで第二カラムの主要部分を昇温制御することで、第二カラム内に保持されていた試料を分離、排出することができる。その結果、第二カラムを通過する試料と、分岐路を通過する試料とが、同時に質量分析計に導入されることをなくすことができ、かつ、試料を分離するために第二カラムを第二オーブンにより適宜のレートで昇温制御することができる。
なお、第二カラムの前段部分及び主要部分を通過した試料は、第二カラムの後段部分を通過する際に第一オーブンの温度に影響を受けることになるが、第一カラムを通過した際に第一オーブンの温度は適宜のレートで昇温制御された後になるので、第一オーブンの温度はすでに比較的高温になっているため、第二カラムの後段部分の内部におけるコールドスポットの発生を防ぐことができ、その結果、質量分析計に到達する。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明のマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置によれば、第一カラムのみを通過した試料と、第一カラムと第二カラムとの両方を通過した試料とを質量分析計によって短時間で正確に分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態に係るマルチディメンジョナルGCの一例を示す概略構成図である。
【図2】全ての試料が第一カラムのみを通過した際のトータルイオンクロマトグラムの一例である。
【図3】第一カラムのみを通過した試料のトータルイオンクロマトグラムの一例である。
【図4】第一カラムと第二カラムとの両方を通過した試料のトータルイオンクロマトグラムの一例である。
【図5】従来のマルチディメンジョナルGCの一例を示す概略構成図である。
【図6】従来のマルチディメンジョナルGCの他の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0022】
図1は、実施形態に係るマルチディメンジョナルGCの一例を示す概略構成図である。なお、上述したマルチディメンジョナルGC151と同様のものについては、同じ符号を付している。
マルチディメンジョナルGC1は、試料ガスとキャリアガスとが導入される試料気化室2と、第一カラム5と、前段部分6aと主要部分6bと後段部分6cとからなる第二カラム6と、分岐路8と、MS検出器7と、流路変更用接続機構40と、第一カラム5と分岐路8と第二カラム6の前段部分6a及び後段部分6cとの温度を制御する第一オーブン3と、第二カラム6の主要部分6bの温度を制御する第二オーブン4と、第一オーブン3と第二オーブン4とを連結する連結部9と、MS検出器7と第一オーブン4とを連結する連結部14と、マルチディメンジョナルGC1全体を制御するコンピュータ(制御部)10とを備える。
【0023】
連結部9は、保温機構を有する円筒形状(例えば、内径7mm、高さ250mm)であり、一端部から他端部まで内部が貫通している。これにより、第二カラム6の前段部分6aと、第二カラム6の後段部分6cとの2本の流路を貫通することができるようになっている。
連結部14は、保温機構を有する円筒形状(例えば、内径1mm、高さ150mm)であり、一端部から他端部まで内部が貫通している。これにより、分岐路8と、第二カラム6の後段部分6cとの2本の流路を貫通することができるようになっている。
【0024】
分岐路8は、例えば内径0.15mmの管状であり、その長さは0.5mである。そして、分岐路8の内部には、固定相は塗布されておらず、試料ガスが分岐路8を通過する際には、入口端から入ってきた順番で各成分が移動していき、出口端から成分を順次排出するようになっている。
このとき、分岐路8の前半部分(例えば、90%である0.45m)は、第一オーブン3の内部に配置される。これにより、分岐路8を通過する試料ガスは、第一オーブン3の温度に影響を受けることになるが、試料ガスが第一カラム5を通過した際に第一オーブン3のヒータ3aは適宜のレートで昇温制御された後になるので、第一オーブン3の温度は比較的高温になっているため、分岐路8の内部におけるコールドスポットの発生を防ぐことができる。
なお、分岐路8の後半部分(例えば、10%である0.05m)は、連結部14の内部に配置されることになる。
【0025】
第二カラム6は、例えば内径0.32mmの管状であり、その長さは30mである。そして、第二カラム6の内部には、第一カラム5と異なる固定相(例えば、トリフルオロプロピルメチルポリシロキサン等)が塗布されており、試料ガスが第二カラム6を通過する際には、各成分の分配係数若しくは溶解度に応じた速度で各成分が移動していき、出口端から成分を順次排出するようになっている。
このとき、第二カラム6の主要部分(例えば、29m等)6bは、第二オーブン4内に配置され、分析中に第二オーブン4のヒータ4aにより適宜のレートで昇温制御される。この昇温制御によっても、試料ガスが第二カラム6を通過する際には、各成分の分配係数若しくは溶解度に応じた速度で各成分が移動していくようになっている。
なお、第二カラム6の前段部分6a(例えば、0.1m)の前半部分(例えば、50%である0.05m)は、第一オーブン3の内部に配置され、かつ、第二カラム6の前段部分6aの後半部分(例えば、50%である0.05m)は、連結部9の内部に配置されることになる。
また、第二カラム6の後段部分6c(例えば、0.9m)の前半部分(例えば、5%である0.05m)は、連結部9の内部に配置され、第二カラム6の後段部分6cの中央部分(例えば、90%である0.8m)は、第一オーブン3の内部に配置され、かつ、第二カラム6の後段部分6cの後半部分(例えば、5%である0.05m)は、連結部14の内部に配置されることになる。
【0026】
温度制御プログラムに基づいてコンピュータ10は、第一オーブン内に配置される、第一カラム5と分岐路8の前半部分と第二カラム6の前段部分6aの前半部分及び後段部分6cの中央部分との温度を、ヒータ3aにより、例えば、50℃(2分)−20℃/分−180℃−5℃/分−280℃(30分)と制御する。また、第二カラム6の主要部分6bの温度を、ヒータ4aにより、例えば、40℃(21分)−5℃/分−250℃(5分)と制御する。このように、温度制御プログラムは、第一カラム5のみを通過させる試料が、第一カラム5及び分岐路8を通過し、MS検出器7に導入されている間には、第二カラム6の主要部分6bの温度を、40℃といった低温で保持する。これにより、第一カラム5を通過し第二カラム6の主要部分6bに到達した試料ガスを、第二カラム6の主要部分6b入口付近に保持することができる。第一カラム5及び分岐路8を通過する試料が、MS検出器7に導入された後には、ヒータ4aを適宜のレートで昇温制御する。これにより、第二カラム6の主要部分6b入口付近に保持されていた試料を第二カラム6内を通過させ、MS検出器7に導入することができる。
なお、第二カラム6の後段部分6cの中央部分は、第一オーブン4内に配置されるが、試料ガスが第一カラム5を通過した際に第一オーブン3のヒータ3aは適宜のレートで昇温制御された後になるので、第一オーブン3の温度は280℃といった高温になっているため、第二カラム6の後段部分6cを通過する試料ガスはMS検出器7に到達することになる。
【0027】
コンピュータ10は、CPU(制御部)11を備え、さらにメモリ(記憶部)12と、入力装置(図示せず)であるキーボードやマウスと、モニタ画面等を有する表示装置(図示せず)とが連結されている。
CPU11が処理する機能をブロック化して説明すると、流路変更用接続機構40を制御する接続機構制御部21と、MS検出器7を制御するMS検出器制御部23と、測定部24とを有する。
【0028】
接続機構制御部21は、流路変更プログラムと温度プログラムとに基づいて、流路変更用接続機構40とヒータ3aとヒータ4aとを制御する。
ここで、農薬混合試料中の各農薬成分を定量分析する場合について説明する。図2は、全ての試料が第一カラムのみを通過した際のトータルイオンクロマトグラムの一例である。また、図3は、第一カラムのみを通過した試料のトータルイオンクロマトグラムの一例であり、図4は、第一カラムと第二カラムとの両方を通過した試料のトータルイオンクロマトグラムの一例である。図2から図4において、縦軸はイオン強度、横軸は測定開始からの検出時間(分)を示す。
温度制御プログラムは、上述した制御プログラムを採用し、第一オーブンについては50℃(2分)−20℃/分−180℃−5℃/分−280℃(30分)、第二オーブンについては40℃(21分)−5℃/分−250℃(5分)と制御した。
例えば、まず、測定開始時間T1(0.0分)には、第一カラム5の出口端と分岐路8の入口端とを流通するように連結する。つまり、試料ガスは、第一カラム5と分岐路8とを通過して、MS検出器7に導入されることになる。
【0029】
その後、第一設定開始時間T2(18.0分)になると、第一カラム5の出口端と第二カラム6の入口端とを流通するように連結する。つまり、試料ガスは、第一カラム5と第二カラム6とを通過することになる。このとき、第二カラム6に入った試料ガスは、第二カラム6の主要部分6bの温度が40℃の温度で制御されているため、主要部分6b入口付近で狭いバンド幅に凝集されて保持されることになる。一方、測定開始時間T1から第一設定開始時間T2の間に分岐路8に入った試料ガスは、各成分がある速度で移動していき、MS検出器7に導入されるようになっている。
そして、第一設定終了時間T3(例えば、18.5分)になると、第一カラム5の出口端と分岐路8の入口端とを流通するように連結する。つまり、試料ガスは、第一カラム5と分岐路8とを再び通過することになる。このとき、分岐路8に入った試料ガスは、各成分がある速度で移動していき、MS検出器7に導入されるようになっている。
【0030】
その後、第二設定開始時間T4(19.8分)になると、第一カラム5の出口端と第二カラム6の入口端とを流通するように連結する。つまり、試料ガスは、第一カラム5と第二カラム6とを通過することになる。このとき、第二カラム6に入った試料ガスは、第二カラム6の主要部分6bの温度が40℃の温度で制御されているため、第一設定開始時間T2から第一設定終了時間T3の間に第二カラム6内に入り保持されている試料ガスに続いて、第二カラムの主要部分6b入口付近に狭いバンド幅に凝集されて保持されることになる。一方、第一設定終了時間T3から第二設定開始時間T4の間に分岐路8に入った試料ガスは、各成分がある速度で移動していき、MS検出器7に導入されるようになっている。
そして、第二設定終了時間T5(20.3分)になると、第一カラム5の出口端と分岐路8の入口端とを流通するように連結する。つまり、試料ガスは、第一カラム5と分岐路8とを再び通過することになる。このとき、分岐路8に入った試料ガスは、各成分がある速度で移動していき、MS検出器7に導入されるようになっている。
【0031】
その後、分岐路8に入ったほぼ全ての試料ガスが、MS検出器7に導入される時間(21.0分)になると、第一設定時間T2〜T3内及び第二設定時間T4〜T5内に第二カラム6の主要部分6bの入口付近の内部に凝集された試料成分は、第二カラム6の主要部分6bの温度が昇温制御されることにより、各成分がある速度で移動していき、MS検出器7に導入されるようになっている。このとき、第二カラム6の後段部分6cに入った試料ガスは、第二カラム6の後段部分6cの中央部分の温度が180℃以上といった高い温度に制御されているため、各成分がある速度で移動していきながら、MS検出器7に導入されるようになっている。
なお、測定開始時間T1、設定開始時間T2、T4、設定終了時間T3、T5は、試料ガスが第一カラム5の出口端から排出される時間を予め確認することで決定されることにより、予めメモリ12等に記憶されたものである(図2参照)。本実施例の場合は、図2のトータルイオンクロマトグラフにおける、丸印を付した2つの、農薬成分が重なっている、重複ピーク(18.3分付近、及び、20.0分付近)を構成する成分を第二カラム6による分離を実行するために、各設定時間を選択した。このように、第二カラム6での分離を実行したい成分の検出時間を少なくとも含む時間帯を、第一カラム5の出口端と第二カラム6の入口端とを接続する時間として設定すればよい。
また、設定時間は上述の2回に限らず、第二カラム6での分離を実行したい試料ガスの成分の数に応じて設定すればよい。この場合、第二カラム6の主要部分6bの温度制御は、全設定時間が終了し、分岐路8内に入った試料ガスがMS検出器7に導入された後、第二カラム6の昇温制御が開始されるように設定すればよい。
【0032】
MS検出器制御部23は、MS検出器7で検出されたイオン強度信号に基づいて、時間t対イオン強度Iであるクロマトグラムを作成する制御を行う。
測定部24は、MS検出器制御部23で作成されたクロマトグラムに基づいて、各成分の濃度を算出する制御を行う。
【0033】
以上のように、本発明のマルチディメンジョナルGC1によれば、第一カラム5のみを通過した試料と、第一カラム5と第二カラム6との両方を通過した試料とをMS検出器7によって短時間で正確に分析することができる。
【0034】
(他の実施形態)
上述したマルチディメンジョナルGC1では、第二カラム6の後段部分6cには、固定相(例えば、トリフルオロプロピルメチルポリシロキサン等)が塗布されている構成を示したが、固定相(例えば、トリフルオロプロピルメチルポリシロキサン等)が塗布されていないような構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、複数本のカラムを用いるマルチディメンジョナルGC等に利用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1、101、151 マルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置
3 第一オーブン
4 第二オーブン
5 第一カラム
6 第二カラム
7 MS検出器(質量分析計)
8、108、158 分岐路
10、110、160 コンピュータ(制御部)
24 測定部
40 流路変更用接続機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口端から試料が内部に導入されることにより、当該試料を当該試料に含まれる各成分に分離していき、出口端から成分を順次排出する第一カラムと、
入口端から試料が内部に導入されることにより、当該試料を当該試料に含まれる各成分に分離していき、出口端から成分を順次排出し、入口端から出口端に向かって前段部分、主要部分及び後段部分からなる第二カラムと、
入口端から試料が内部に導入されることにより、出口端から当該試料に含まれる成分を順次排出する分岐路と、
前記分岐路の出口端と接続されるとともに、前記第二カラムの出口端と接続される質量分析計と、
前記第一カラムの出口端と第二カラムの入口端とを流通するように連結するか、或いは、前記第一カラムの出口端と分岐路の入口端とを流通するように連結するかのいずれかとなるように切替可能とする流路変更用接続機構と、
第一オーブンと、
第二オーブンとを備えるマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置であって、
前記第一カラムと分岐路と第二カラムの前段部分及び後段部分と流路変更用接続機構とは、前記第一オーブンの内部に配置されるとともに、
前記第二カラムの主要部分は、前記第二オーブンの内部に配置されることを特徴とするマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−112603(P2011−112603A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271535(P2009−271535)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)