説明

マルチトラックレコーダ、及び複数台のマルチトラックレコーダによる同期録音方法

【課題】2台のマルチトラックレコーダを使用した同期録音に際して、1本の信号線を相互に接続するだけでクロック及びコントロールメッセージを授受可能なマルチトラックレコーダ及び同期録音方法を提供する。
【解決手段】2台のマルチトラックレコーダ(マスタ側MTR10とスレーブ側MTR20)との間で、双方向シリアル通信方式であるUSB通信によりパケット化されたコントロールメッセージを送受信して同期録音可能なマルチトラックレコーダは、送信データ又は受信データに所定の周期で含まれるSOFパケットを検出するSOFパケット部14、24と、SOFパケット検出部14、24により検出したSOFパケットに同期するオーディオクロックを生成し、マルチトラックレコーダの動作を制御する制御手段に出力するオーディオクロック生成部16、26手段とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音楽のレコーディング、ミキシングやマスタリングのために複数のトラックを備えたマルチトラックレコーダに関し、特に複数台のマルチトラックレコーダを使用して同期録音可能なマルチトラックレコーダ及び同期録音方法に関する。
【背景技術】
【0002】
音楽のレコーディング、ミキシングやマスタリングのために複数のトラックを備えたマルチトラックレコーダ(MTR)が実用されている。マルチトラックレコーダには、大規模なプロ向け機器と、比較的小型で安価な一般的向け機器があり、前者は例えば64以上のトラックを有し、後者は通常8あるいは16のトラックを有している。一般向け機器により、マルチトラックレコーダに備えられたトラック数以上のトラックを用いてミキシング等を行う場合には、2台のMTRを接続することが行われているが、2台のMTRの間ではオーディオデータの他に、クロック及びコントロールメッセージを授受する必要がある。図8は従来の複数台のMTRによる同時録音の方法を表す模式図である。マスタ側MTR100とスレーブ側MTR200との間は、2本のMIDIのような単方向シリアルデータ伝送線(UART OUT及びUART IN)がコントロールメッセージ用として、AUDIO CLKがオーディオクロック用として接続されており、2台のMTRの間の動作の同期を図っている。同期録音時には、マスタ側MTR100からLOCATEコマンドが送信され、スレーブ側MTR200がロケートを行い、マスタ側MTR100からPLAYコマンドが送信され、マスタ側MTR100が再生を開始し、スレーブ側MTR200が再生を開始する。このとき、クロックが同期しているので、以後ずれが生じることはない。
【0003】
従来の同期録音方法によると、マスタ側MTR100とスレーブ側MTR200とは3本の信号線を接続しなければならず、煩雑であった。また2台のMTRの機種が異なるとオーディオクロックの周波数も異なる場合があり、同期録音が不能だったり、周波数を一致させる操作が必要となったり、同期がずれてしまう可能性があった。タイムコードや記憶媒体の絶対番地情報を利用したり(例えば特開2007−265522)、オーディオデータに特殊な加工処理を施せば(例えば特開平8−153384)多少のずれは修正可能だが、音質に悪影響があり、好ましくなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−153384公開公報
【特許文献2】特開2007−265522公開公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
よって本発明の目的は、2台のマルチトラックレコーダを使用した同期録音に際して、1本の信号線を相互に接続するだけでクロック及びコントロールメッセージを授受可能なマルチトラックレコーダ及び同期録音方法を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、音質に優れた同期録音を実現可能なマルチトラックレコーダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、他のマルチトラックレコーダとの間で、双方向シリアル通信方式によりパケット化されたコントロールメッセージを送受信して同期録音可能なマルチトラックレコーダにおいて、送信データ又は受信データに所定の周期で含まれる特定のパケットを検出する周期パケット検出手段と、周期パケット検出手段により検出したパケットに同期するオーディオクロックを生成し、マルチトラックレコーダの動作を制御する制御手段に出力するオーディオクロック生成手段とを含んでマルチトラックレコーダを構成した。
【0008】
本発明に係るマルチトラックレコーダによると、マルチトラックレコーダは他のマルチトラックレコーダとの間で双方向シリアル通信によりコントロールメッセージの送受信を行う。パケット化されたコントロールメッセージを送信し、または受信した際に、周期パケット検出手段は、送信データ又は受信データに所定の周期で含まれる特定のパケットを検出する。すなわちマルチトラックレコーダがマスタ側であれば送信データ、スレーブ側であれば受信データから特定のパケットを検出する。オーディオクロック生成手段は、周期パケット検出手段により検出したパケットに同期するオーディオクロックを生成し、マルチトラックレコーダの動作を制御する制御手段に出力する。
【0009】
従って、相互に双方向シリアル通信路で接続された2台のマルチトラックレコーダは、マスタ側からの送信データ=スレーブ側の受信データに基づいたオーディオクロックを用いて再生及び録音に関する各動作を行う。なおオーディオデータは、コントロールメッセージとともに多重化して双方向シリアル通信により送受信することもできる。
【0010】
オーディオクロック生成手段は、予め定められたオーディオクロックの周波数の目標値と、オーディオクロック生成手段が出力するオーディオクロックの周波数の出力値との間の偏差を算出して、オーディオクロックを追従させるようにマルチトラックレコーダを構成することができる。SOFパケットは、例えばUSB(ユニバーサル・シリアル・バス)のような双方向シリアル通信方式に準拠したフレームに含まれており、USBにより2台の機器を接続すると、サスペンドステートを除けば、恒常的にフレームが0.125msec(USB2.0、USB1.1の場合は1msec)周期で転送されている。従ってUSBにおいては、SOFの周期は0.125msec(又は1msec)である。
【0011】
オーディオクロック生成手段は、小さな偏差に対応するVCXO(電圧制御水晶発振器)と大きな偏差に対応するPLL(フェーズロックループ回路)とを含み、VCXOとPLLとのいずれが対応するかの閾値Tは、測定/制御の間隔Iに対して
I<(2・Fs)-1/T
(ここでFsはサンプリング周波数)の関係に設計することができる。
【0012】
またVCXOは、
比例ゲインP −0.6〜−0.1
積分ゲインI 0〜0.2
微分ゲインD −1〜1
の各係数からなるPID制御を行うようにしてもよい。
【0013】
また上記目的を達成するために本発明は、スレーブ側マルチトラックレコーダが双方向シリアル通信方式によりパケット化されたコントロールメッセージを受信して、マスタ側マルチトラックレコーダが同期録音を行う方法において、マスタ側マルチトラックレコーダがスレーブ側マルチトラックレコーダに送信する送信データ、及びスレーブ側マルチトラックレコーダがマスタ側マルチトラックレコーダから受信した受信データに所定の周期で含まれる特定のパケットを、マスタ側マルチトラックレコーダとスレーブ側マルチトラックレコーダとがそれぞれ検出する周期パケット検出過程と、マスタ側マルチトラックレコーダとスレーブ側マルチトラックレコーダが、それぞれ周期パケット検出過程において検出したパケットに同期するオーディオクロックを生成し、各マルチトラックレコーダ自身の動作を制御する制御手段に出力するオーディオクロック生成過程とを含んで複数台のマルチトラックレコーダによる同期録音方法を構成した。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るマルチトラックレコーダ、及び複数台のマルチトラックレコーダによる同期録音方法によると、2台のマルチトラックレコーダを使用した同期録音に際して、1本の信号線を相互に接続するだけでクロック及びコントロールメッセージを授受することができる。よって、マルチトラックレコーダ間を接続する信号線の数を減少させることができる。また周期パケット検出手段が検出したSOFパケットの周期と、オーディオクロック生成手段が出力するオーディオクロックの周期との間の偏差を算出してSOFパケットにオーディオクロックを追従させるように構成したので、SOFのジッタが音質に与える悪影響を抑止することができる。さらに、オーディオクロック生成手段はVCXOとPLLとを含み、どちらが対応するかの閾値T、及びVCXOのPID制御の各ゲイン値を限定することにより、音質への悪影響を最小限に抑えて同期録音を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明に係るマルチトラックレコーダの一つの実施の形態を同期録音のために2台接続した状態の構成を示す回路ブロック図である。
【図2】図2は、USBの通信プロトコルに準拠した転送データの構成を示す図である。
【図3】図3は、図1に示したマルチトラックレコーダのオーディオクロック生成部のより詳細な構成を示す図である。
【図4】図4は、図3のオーディオクロック生成部におけるPLLとVCXOとの対応について説明する図である。
【図5】図5は、図3のオーディオクロック生成部におけるPLLとVCXOとの対応の状態を表す図である。
【図6】図6は、図3のPLLの設定ステートの流れを表すフローチャートである。
【図7】図7は、図3のVCXOの設定ステートの流れを表すフローチャートである。
【図8】図8は、従来のマルチトラックレコーダを同期録音のために2台接続した状態の構成を示す回路ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るマルチトラックレコーダ及び複数台のマルチトラックレコーダによる同期録音方法の一つの実施の形態について説明する。なお、以下の説明は発明をより深く理解するためのものであって、特許請求の範囲を限定するためのものではない。
【0017】
図1は本発明に係るマルチトラックレコーダの一つの実施の形態の主要な構成を示しており、本発明に直接関係のない部分は省略してある。同図において、2台のマルチトラックレコーダは同一のものであって、マスタ側MTR10及びスレーブ側MTR20は、それぞれUSBインターフェース12・22、SOF検出部14・24、オーディオクロック生成部16・26及び制御部18・28からなる。以下、マスタ側MTR10とスレーブ側MTR20の各機能及び動作について説明するが、両者は同一のものであるから、マスタとスレーブの立場は互換的であることに留意されたい。
【0018】
USBインターフェース12は、MTRの動作を制御する制御部18からデータを受け取って、USB通信プロトコル2.0に適合したフォーマットの送信データに変換し、USBケーブルを介して他の機器に送信するとともに、USBケーブルを介して送信されてきたUSB通信プロトコルに適合した受信データを制御部18に適合するフォーマットに変換して制御部18に送出することにより、USB通信プロトコル2.0に準拠した双方向シリアル通信を行う。但しマスタ側MTR10を接続するスレーブ側のマルチトラックレコーダがUSB2.0に対応していない場合には、USB1.0に準拠した双方向シリアル通信も可能である。その場合、以下に説明するSOFパケットの周期は1msecである。同期録音の際には、マスタ側MTR10のUSBインターフェース12は制御部18からコントロールメッセージを受け取ってUSB通信プロトコルに適合するようにパケット化して送信データを生成する。逆にスレーブ側MTR20のUSBインターフェース22は、受信データからパケット化されたコントロールメッセージを検出して制御部28に送出する。コントロールメッセージは、例えばPLAY(再生)、STOP(停止)、PAUSE(一時停止)、LOCATE(指定時間まで移動)などである。
【0019】
マスタ側MTR10のSOF検出部14は、USBインターフェース12が送信する送信データが入力され、送信データに所定の周期で含まれる特定のパケットを検出する。一方、スレーブ側MTR20のSOF検出部24は、USBインターフェース22が受信した受信データに所定の周期で含まれる特定のパケットを検出する。所定の周期で含まれる特定のパケットは、USB通信プロトコルにおいて、フレーム単位で送受信されるデータの始まりを表示するSOF(スタートオブフレーム)パケットである。
【0020】
図2に示すように、データはSOFパケットとデータとからなるフレーム単位で送受信されており、各フレームの周期は0.125msecである。各フレームはSOFパケットで始まるのでSOFパケットは0.125msec周期で送信データ及び受信データに含まれる。SOFパケットは同期を取るためのSYNCデータ、パケットの種別を表すPIDデータ、Frame#データ、チェックコードデータ及びエンドオブパケットデータからなり、SOFパケットのPIDは「0101」と定義されている。SOF検出部14はSOFを検出する0.125msecごとに割り込みを出力する。
【0021】
オーディオクロック生成部16は、SOF検出部14から入力された割り込みに基づいて、オーディオクロックを生成する。すなわちオーディオクロック生成部16は、0.125msecごとに入力される割り込みのタイミングに同期して、予め定められた周波数のオーディオクロックを生成し、マルチトラックレコーダの動作を制御する制御部18に送出する。本実施の形態に係るマルチトラックレコーダのオーディオクロックの周波数は、22.5792MHz/24.576MHz/12MHz/24MHzである。
【0022】
以上のように本実施の形態に係るマルチトラックレコーダは、相互に双方向シリアル通信路で接続され、マスタ側MTR10からの送信データ=スレーブ側MTR20の受信データに基づいたオーディオクロックを用いて再生及び録音に関する各動作を行う。これにより、クロック及びコントロールメッセージを多重化して1本の送信路で送受信することができ、マルチトラックレコーダ間を接続する信号線の数を減少させることができる。本実施の形態に係るマルチトラックレコーダにおいてはオーディオデータは他の信号線を利用して送受信されるので、2本の信号線で接続すれば同期録音が可能となる。他の実施の形態においては、オーディオデータもコントロールメッセージとともに多重化して双方向シリアル通信により送受信されるので、マルチトラックレコーダの間は一本の信号線を接続すれば足りる。
【0023】
図1の実施の形態においては、オーディオクロック生成部16は、予め定められたオーディオクロックの周波数の目標値と、オーディオクロック生成手段が出力するオーディオクロックの周波数の出力値との間の偏差を算出してSOFパケットにオーディオクロックを追従させるように構成されている。
【0024】
図3において、オーディオクロック生成部16は偏差検出制御処理部161、VCXO162、PLL163、分周器164、8分周器165及びカウンタ166からなる。
【0025】
偏差検出制御処理部161は、SOF検出部14から入力した割り込みのタイミングで、予め定められたオーディオクロックの周波数の目標値により定まる理論カウント値と、カウンタ166により測定された測定カウント値との偏差eを検出し、偏差eの大きさに応じて、VCXO162又はPLL163の設定を変更する。VCXO162及びPLL163は、偏差検出制御処理部161からの信号により調整された周波数のクロックを出力する。分周器164はPLL163から出力されたクロックを分周して、予め定められた周波数のオーディオクロックを生成し、制御部18へ出力する。8分周器165は分周器164の出力するオーディオクロックを適当な周波数に分周し、カウンタ166は8分周器165の出力するクロックを測定して測定カウント値を偏差検出制御処理部161にフィードバックする。
【0026】
このようにオーディオクロックの周波数をフィードバック制御により目標値に追従させることにより、SOFのジッタが音質に与える悪影響を抑止することができる。
【0027】
さらに本実施の形態に係るマルチトラックレコーダにおいては、VCXO162とPLL163とを併用してクロックの補正を行うことにより、さらに優れた音質を得られるようにしている。
【0028】
VCXO162とPLL163とは、偏差の大きさにより使い分けられている。すなわち小さな偏差にはVCXO162で対応し、大きな偏差にはPLL163で対応するようにしている。SOFのジッタはUSBの規定により±500ppmと定められている。このため少なくとも±1000ppm程度の変化に対して追従できる必要がある。また、一般的なVCXOの変化幅は±100ppm程度とPLLに比較して狭く、一方PLLが出力できる周波数の分解能は広い。そこで、図4に示すように大きな変更が必要な場合にはPLL163の設定を変更することで対応し、小さな変更はVCXO162を用いて対応する構成とした。
【0029】
図4において、縦軸は周波数(Hz)であり、横軸は偏差検出制御処理部161に予め記憶されたPLL163の発振/分周比テーブルのインデックスである。PLL163は周波数の分解能が比較的広いので、テーブルのインデックスに応じて、グラフでは階段状に表される所定の周波数を発振する。図5はオーディオクロック生成部16によりSOFパケットとオーディオクロックとの同期をとるための3つのステートを表している。すなわちUSBケーブル未挿入ステート、PLL設定ステート及びVCXO設定ステートの3つである。
【0030】
USBの通信プロトコルによると、電源がオンの2つの機器がUSBケーブルにより接続されると直ちに交信が開始される。従って、マスタ側MTR10とスレーブ側MTR20との間にUSBケーブルが挿入されれば、各MTRの作動状態に関わらず、データの授受が行われ、オーディオクロックが生成可能な状態となる。
【0031】
VCXO162とPLL163とのいずれが対応するかの閾値Tは、図4に示すようにPLL163の分解能により定まり、理論上はPLLの分解能の2分の1を下限となるが、PLL163の分解能をそのまま閾値Tとしてもよい。閾値Tは、測定/制御の間隔Iに対して、
I<(2・Fs)-1/T
(ここでFsはサンプリング周波数)の関係になるようにPLL163は設計されており、偏差検出制御処理部161に閾値Tが設定されている。これは、「同期が取れていないこと」を「オーディオ1サンプルが不足していること」と仮定し、VCXO制御中で想定するジッタが測定/制御間隔で補えれば足りるという考えに基づいている。このように考えることにより、測定/制御間隔を長く捉えることが可能となり、制御量、及びジッタの幅が狭くなるというメリットがある。本実施の形態では、測定/制御の間隔を100msec、閾値Tを16ppmに設定している。
【0032】
図4及び5に示すように、USBケーブルが挿入されると直ちにPLL設定ステートが開始され、オーディオクロックの処理前の周波数とSOFの周波数との偏差が閾値T以下になるまでPLLの設定が繰り返され、閾値T以下になるとVCXO設定ステートが開始され、偏差の微調整が行われる。
【0033】
図6はPLL設定ステートの処理の流れを示す。SOF割込処理が開始されると、偏差検出制御処理部161はSOF検出部14から入力したSOFの間隔中のカウンタ166によるカウント値を測定する(ステップS61)。次に偏差検出制御処理部161は予め定められたオーディオクロックの周波数に基づく理論カウント値と、カウンタ166から入力した測定カウント値との偏差eを求め(ステップS62)、偏差eと閾値Tとを比較する(ステップS63)。偏差eが閾値T以下であれば、図7のVCXO設定ステートに移行し(ステップS64)、偏差eが閾値Tよりも大きければ、偏差eに該当するPLL発振/分周比テーブルを参照しPLLを再設定する(ステップS65)。すなわち図4に示すように、オーディオクロックの処理前の周波数ではPLL発振/分周比テーブルの設定がNのインデックスだったが、PLLによる調整により、N+iのインデックスに再設定され、オーディオクロックの処理前の周波数は、オーディオクロックがSOFパケットに同期した場合の理想的なSOF周波数により接近する。測定したカウント値は保存される(ステップS66)。
【0034】
図7はVCXO設定ステートの処理の流れを示す。図5に示すように、偏差eが閾値T以下の場合、PLL設定ステートからVCXO設定ステートに移行する。VCXO162は、偏差検出制御処理部161により、PID制御される。すなわち偏差eを入力とすると、「出力=Px入力+IxΣ入力+Dx傾き」で算出される(ステップS71)。本実施の形態においては比例ゲインP=−0.4、積分ゲインI=0.01、微分ゲインD=0.05と各係数が定められている。各係数は、比例ゲインP=−0.6〜−0.1、積分ゲインI=0〜0.2、微分ゲインD=−1〜1の範囲で定められるのがジッタの影響を最小限にするために好ましい。算出された出力には重み係数が乗され、現在のVCXO162へのPWM出力に加算されて、偏差検出制御処理部161からVCXO162へPWM出力される(ステップS72)。VCXO162はPWMに応じて再設定され、オーディオクロックの周波数が微調整される。
【0035】
以上のような手順が100msecごとに行われるにより、図4のオーディオクロックの処理前の周波数は理想的なSOF周波数に接近し、SOFパケットのジッタの悪影響をなくし、または最小限に抑えることができる。上記の測定/制御間隔、閾値T及びPID制御の係数を使用してフィードバック制御を行うことにより、出力される実際のオーディオクロックの周波数と予め定められたオーディオクロックの周波数との間に偏差が生じても、急激に出力が変化することなく収束させるようにすることができる。収束するまでの時間は長くなっても、変化量を小さく抑えた方が、特に顕著には周波数特性が良好であることが実験的に判明している。
【0036】
以上のように、本実施の形態に係るマルチトラックレコーダ、及び複数台のマルチトラックレコーダによる同期録音方法によると、2台のマルチトラックレコーダを使用した同期録音に際して、1本の信号線を相互に接続するだけでクロック及びコントロールメッセージを授受することができる。よって、マルチトラックレコーダ間を接続する信号線の数を減少させることができる。
【0037】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態によって限定されることはなく、本発明の要旨の範囲内において、適宜変形実施が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0038】
10…マスタ側MTR
12、22…USBインターフェース
14、24…SOF検出部
16、26…オーディオクロック生成部
18、28…制御部
20…スレーブ側MTR

【特許請求の範囲】
【請求項1】
他のマルチトラックレコーダとの間で、双方向シリアル通信方式によりパケット化されたコントロールメッセージを送受信して同期録音可能なマルチトラックレコーダにおいて、
送信データ又は受信データに所定の周期で含まれる特定のパケットを検出する周期パケット検出手段と、
周期パケット検出手段により検出したパケットに同期するオーディオクロックを生成し、マルチトラックレコーダの動作を制御する制御手段に出力するオーディオクロック生成手段とを含むことを特徴とするマルチトラックレコーダ。
【請求項2】
オーディオクロック生成手段は、予め定められたオーディオクロックの周波数の目標値と、オーディオクロック生成手段が出力するオーディオクロックの周波数の出力値との間の偏差を算出してオーディオクロックを追従させる請求項1に記載のマルチトラックレコーダ。
【請求項3】
オーディオクロック生成手段は、小さな偏差に対応するVCXO(電圧制御水晶発振器)と大きな偏差に対応するPLL(フェーズロックループ回路)とを含み、
VCXOとPLLとのいずれが対応するかの閾値Tは、測定/制御の間隔Iに対して
I<(2・Fs)-1/T
(ここでFsはサンプリング周波数)
の関係にある請求項2に記載のマルチトラックレコーダ。
【請求項4】
VCXOは、
比例ゲインP −0.6〜−0.1
積分ゲインI 0〜0.2
微分ゲインD −1〜1
の各係数からなるPID制御を行う請求項3に記載のマルチトラックレコーダ。
【請求項5】
スレーブ側マルチトラックレコーダが双方向シリアル通信方式によりパケット化されたコントロールメッセージを受信して、マスタ側マルチトラックレコーダが同期録音を行う方法において、
マスタ側マルチトラックレコーダがスレーブ側マルチトラックレコーダに送信する送信データ、及びスレーブ側マルチトラックレコーダがマスタ側マルチトラックレコーダから受信した受信データに所定の周期で含まれる特定のパケットを、マスタ側マルチトラックレコーダとスレーブ側マルチトラックレコーダとがそれぞれ検出する周期パケット検出過程と、
マスタ側マルチトラックレコーダとスレーブ側マルチトラックレコーダが、それぞれ周期パケット検出過程において検出したパケットに同期するオーディオクロックを生成し、各マルチトラックレコーダ自身の動作を制御する制御手段に出力するオーディオクロック生成過程とを含むことを特徴とする複数台のマルチトラックレコーダによる同期録音方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−165403(P2010−165403A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6149(P2009−6149)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(302022382)株式会社ズーム (2)
【Fターム(参考)】