マルチバンドアンテナ
【課題】 小型でありながら、少なくともDCS帯、PCS帯、及びUMTS Band1帯においてVSWR帯を高帯域化することが出来、もって複数の送受信系に対応可能なマルチバンドアンテナを提供する。
【解決手段】 逆Fアンテナの放射電極と短絡線との接続点から給電点までの間に並列共振回路の一端を接続し他端を接地し、前記並列共振回路のリアクタンス要素は、少なくとも一部が前記短絡線により形成されたマルチバンドアンテナ。
【解決手段】 逆Fアンテナの放射電極と短絡線との接続点から給電点までの間に並列共振回路の一端を接続し他端を接地し、前記並列共振回路のリアクタンス要素は、少なくとも一部が前記短絡線により形成されたマルチバンドアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線装置に用いられるアンテナ回路に関し、特には異なる周波数帯において利用可能なマルチバンドアンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の無線通信装置の急速な普及に応じて通信システムが使用する周波数帯域も多岐に亘るようになり、特に最近では、デュアルバンド方式、トリプルバンド方式、クワッドバンド方式のように複数の送受信帯域に対応した携帯電話が多くなってきた。例えば、GSM850/900帯、DCS帯、PCS帯、UMTS帯の通信システムに対応した携帯電話では、GSM850/900帯が824〜960MHz、DCS帯が1710〜1850MHz、PCS帯が1850〜1990MHz、及びUMTS帯が1920〜2170MHz帯の周波数帯を使用するので、これらの複数の周波数帯域に対応可能なアンテナ(マルチバンドアンテナ)が必要である。
【0003】
アンテナを構成するアンテナ要素[放射素子、放射電極、放射線路(単に線路とも呼ばれる)]は、通常、基本周波数での共振(基本共振モード)と、高次の周波数での共振(高次共振モード)とを有する。例えば、直列共振で動作するアンテナでは、基本共振モードは1/4波長で共振し、高次共振モードは3/4波長での共振である。また、並列共振で動作するアンテナでは基本共振モードは1/2波長での共振であり、高次共振モードは3/2波長での共振である。
一つの給電回路に接続された一つのアンテナ要素でマルチバンドアンテナを構成する場合、直列共振による基本共振モードを例えばGSM850/900帯で得るとすると、DCS帯等は高次モードの共振で対応することになる。しかし、DCS帯、PCS帯及びUMTS帯はGSM帯の約2〜2.5倍の周波数であり、GSM帯に対して複数の周波数帯域が1:3の関係にないので、単純には高次共振モードでは対応できない。並列共振による場合もまた高次共振モードの共振で対応するのは難しい。
【0004】
GSM850/900帯の周波数帯域(以下第1の周波数帯fb1とする)の幅は136MHzであり、中心周波数は892MHzであるので、比帯域幅は約15.3%〔136MHz/892MHz〕である。またDCS帯、PCS帯、及びUMTS Band1帯の周波数帯域(以下第2の周波数帯fb2とする)の幅は460MHzであり、中心周波数は1940MHzであるので、比帯域幅は約23.7%〔460MHz/1940MHz〕である。このような第2の周波数帯fb2では、一つのアンテナ要素による共振によりインピーダンス整合を得るのは困難であり、所定のVSWR(電圧定在波比)が得られる帯域幅(以下VSWR幅と呼ぶ)は狭く、十分に確保できない。
【0005】
このような問題に対して、特許文献1では複数の放射電極102、103を備えたアンテナが提案されている。その構成を斜視図として図21に示す。
このアンテナは、接地導体GNDから離れて配置された平面状の放射板と、前記放射板を接地導体GNDに接続する短絡線105と、前記放射板に接地導体GNDを貫通して高周波電力を供給する給電線104とを備えた逆F型アンテナである。図中矢印は放射板に流れる電流を示し、前記放射板にはスリットが設けられて2つの放射電極102、103が形成され、それぞれに共振電流が流れて異なる周波数で共振する複共振のアンテナとなり、放射電極103を基本共振モードで第1の周波数帯fb1にて共振させ、放射電極102を基本共振モードで第2の周波数帯fb2にて共振させることが出来る。
【0006】
特許文献1のアンテナは、給電線104と短絡線105との間隔を調整することでインピーダンスを変化させて給電回路との整合を得るが、間隔を広げようとすると放射板を大きくすることが必要であり、アンテナが大型化する問題があった。また、第2の周波数帯fb2においてはVSWR帯が十分に得られず、その帯域の一部の周波数しか対応出来ない。放射板を小さく構成するとVSWR帯の狭帯域化の傾向は一層顕著となる。
【0007】
この様な問題に対して、特許文献2には、給電線と短絡線との間隔を広げる事無くインピーダンス整合を行なうことが提案されている。その構成を斜視図として図22に示す。
基本的な構成は引用文献1のアンテナと同じであるが、複共振のアンテナの短絡線104に直列にインダクタLsを接続する。インダクタンスLsによって、短絡線104から接地までの電気的な長さが長くなってインピーダンスが変化し、VSWR帯の帯域を広くする。しかしながら、この場合であっても、第2の周波数帯fb2を満足するVSWR帯は得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−093332号
【特許文献2】特開2005−109636号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般に直列共振モードでの動作するアンテナでは、放射電極からだけではなくグランド面からも放射する様に設計される。この場合では、開放端側で電流が最小となるような直列共振モードの電流分布となる。そのインピーダンスは共振周波数を境にして、低周波数側ではキャパシティブであり、高周波側ではインダクティブとなる。この様なアンテナの広帯域化の手法としてサセプタンス補償法が知られている。
この方法では、アンテナと同一の周波数で共振する並列共振回路を用いる。そのインピーダンスは共振周波数より低い周波数側ではインダクティブに、高い周波数側ではキャパシティブとなる為、アンテナと接地との間に給電点と並列に前記並列共振回路を接続することで、リアクタンス成分が打ち消されて高周波数帯で低い値となり、アンテナのVSWR帯が広帯域化される。
【0010】
単純に基本モードの共振においてサセプタンス補償法を適用すれば、VSWR帯は広帯域化されるが、それでも第2の周波数帯fb2においてはVSWR帯が十分では無く、その帯域の一部の周波数しか対応出来ないことに変わり無かった。
【0011】
放射電極を増やすことで、対応する周波数帯を広げることも可能であるが、アンテナは通常限定された空間、例えば携帯電話の筐体内の一部という限られた空間に配置されるため、更なる放射電極の付加が困難な場合がある。また、放射電極を増加させると、給電回路とのインピーダンスの整合を取りづらくなってしまうと言う問題もあった。
【0012】
更に最近では、アンテナが対応すべき周波数帯はLTE帯にも広がっている。例えば、LTE Band17帯は704〜746MHz、LTE Band7帯は2500〜2690MHz帯の周波数帯を使用する。アンテナに要求される対応周波数帯域は広がる一方である。なおLTE、GSMは商標あるいは登録商標である。
【0013】
そこで本発明では、小型でありながら、少なくともDCS帯、PCS帯、及びUMTS Band1帯においてVSWR帯を高帯域化することが出来、もって複数の送受信系に対応可能なマルチバンドアンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の発明は、放射電極として、一端側が給電点に接続され他端側が開放端の第1の素子と、一端側が前記給電点と接続し他端側が開放端であり、前記第1の素子よりも素子長さが長く形成された第2の素子と、前記放射電極を接地する短絡線を備え、第1の素子は第1の周波数f1で直列共振する第1の放射電極を構成し、第2の素子は前記第1の周波数f1よりも低周波数の第2の周波数f2と、前記第1の周波数f1よりも高周波数の第3の周波数f3で直列共振する第2の放射電極を構成し、前記放射電極と前記短絡線との接続点から給電点までの間に接続された並列共振回路が接地され、前記並列共振回路のリアクタンス要素は、少なくとも一部が前記短絡線により形成され、前記並列共振回路により前記第3の周波数f3を調整することを特徴とするマルチバンドアンテナである。
【0015】
本発明においは、並列共振回路のリアクタンス要素の少なくとも一部を短絡線により形成する。短絡線より形成される寄生インダクタスや寄生キャパシタンスを利用するとともに、更に短絡線にインダクタンス素子を直列接続したり、放射電極と短絡線との接続点から給電点までの間にキャパシタンス素子を接続したりしても良い。
前記短絡線の経路のインダクタンスによって、第2の放射電極に基本共振モードでの第1の周波数f1におけるインピーダンスを調整する。アンテナの動作周波数が高周波となり、インダクタンスが大きくなる程、高周波的に接地との間が高インピーダンスとなる為に、第1の放射電極による第1の周波数f1での基本共振モードや、第2の放射電極による第3の周波数f3での高次共振モードへの影響は少ない。
【0016】
一方で動作周波数が高周波となれば、放射電極と短絡線との接続点から給電点までの間に接続されたキャパシタンスは低インピーダンスに見える。この為、前記キャパシタンスによって第2の放射電極による第3の周波数f3での高次共振モードでのインピーダンスを調整し、第3の周波数f3を第2の周波数f2の3倍よりも低周波数とすることが出来る。
また、前記インダクタンス、前記キャパシタンスの定数の選択や、放射電極と短絡線との接続点の位置などによって、第1の放射電極をモノポールアンテナとして動作させることが出来る。この様な構成によれば、第1の放射電極における基本共振モードにおいては前記キャパシタンスの影響が少なくて済み、第3の周波数f3を大きく低周波側へ調整しても第1に周波数f1に与える影響は軽微なもとなる。
2つの共振が近接した周波数にあるとVSWR帯域は広帯域となるが、極端に近接させれば影響は現れ、また帯域も減少するので、周波数の関係は1.05×f1<f3<3×f2とするのが好ましい。
【0017】
寄生キャパシタンスは、第1の素子と短絡線との間に形成されたキャパシタンス、短絡線と接地との間に形成されたキャパシタンス、又は短絡線の線間に形成されたキャパシタンスのいずれかを含む。
【0018】
また、前記短絡線と並列に可変キャパシタンス素子を接続しても良い。ここで可変キャパシタンス素子としては、逆バイアス電圧を印加することで内部の空乏層の幅が変化し、これにより静電容量を連続的に変化して、逆方向電圧が大きくなれば静電容量値が減少する挙動を示すバリキャップダイオードやMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、デジタル可変容量素子など公知のものを用いればよい。容量値を変化させることで第3の周波数f3を必要な周波数に併せて調整することが出来るので好ましい。
【0019】
本発明において、前記第1及び第2の素子と短絡線は基体に支持された帯状導体で形成されるのが好ましい。
【0020】
前記基体を搭載する実装基板に前記共振回路を構成するリアクタンス素子を実装し、前記リアクタンス素子は少なくとも、前記放射電極と前記短絡線との接続点から給電点までの間に接続され接地されたキャパシタンスを有するように構成しても良い。
【0021】
また、前記基体に誘電体素子を配置する窪みを設けて、前記誘電体素子によって、前記放射電極と前記短絡線との接続点から給電点までの間に接続され接地されたキャパシタンスを構成するのも好ましい。
【0022】
また、前記短絡線を複数箇所で折れ曲げて形成し、前記放射電極と前記短絡線との接続点から給電点までの間に接続され接地されたキャパシタンスとインダクタンスを構成しても良い。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、小型でありながら、少なくともDCS帯、PCS帯、及びUMTS Band1帯においてVSWR帯を高帯域化することが出来、もって複数の送受信系に対応可能なマルチバンドアンテナを提供するが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のマルチバンドアンテナの一構成例を説明する為の図である。
【図2】本発明のマルチバンドアンテナの一構成例を説明する為の斜視図である。
【図3】本発明のマルチバンドアンテナにおける並列共振回路Prの構成例を示す等価回路である。
【図4】本発明のマルチバンドアンテナにおけるVSWR特性を説明する為の図である。
【図5】本発明のマルチバンドアンテナにおける並列共振回路Prの構成例を説明する為の図である。
【図6】本発明のマルチバンドアンテナにおける並列共振回路Prの他の構成例を説明する為の図である。
【図7】本発明のマルチバンドアンテナにおける並列共振回路Prの他の構成例を示す等価回路である。
【図8】本発明のマルチバンドアンテナにおける並列共振回路Prの他の構成例を示す等価回路である。
【図9】本発明のマルチバンドアンテナにおける並列共振回路Prの他の構成例を示す等価回路である。
【図10】本発明のマルチバンドアンテナの他の構成例を説明する為の図である。
【図11】本発明のマルチバンドアンテナの他の構成例を説明する為の斜視図である。
【図12】本発明のマルチバンドアンテナのVSWR特性を示す図である。
【図13】本発明のマルチバンドアンテナの他の構成例を説明する為の斜視図である。
【図14】本発明のマルチバンドアンテナの他の構成例を説明する為の斜視図である。
【図15】本発明のマルチバンドアンテナの短絡線による並列共振回路の構成例を示す図である。
【図16】本発明のマルチバンドアンテナの短絡線による並列共振回路の他の構成例を示す図である。
【図17】本発明のマルチバンドアンテナの支持体の一構成例を示す図である。
【図18】(a)は本発明のマルチバンドアンテナに用いる誘電体素子の構成例を説明する為の外観斜視図であり、(b)は本発明のマルチバンドアンテナに用いる誘電体素子の構成例を説明する為の外観斜視図である。
【図19】本発明のマルチバンドアンテナの短絡線による並列共振回路の他の構成例を示す図である。
【図20】本発明のマルチバンドアンテナにおけるVSWR特性を説明する為の図である。
【図21】従来のマルチバンドアンテナの構成を説明する為の図である。
【図22】従来のマルチバンドアンテナの構成を説明する為の図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のマルチバンドアンテナの基本構造を、図1及び図2を用いて説明する。図1は本発明の一実施形態によるマルチバンドアンテナを説明する為の図であり、図2はその構造一例を示す斜視図である。
このマルチバンドアンテナ1は、第1の素子el1と第2の素子el2とを備え、各素子は給電点Aに接続された共通の給電回路200からの給電により励振され、少なくとも第1〜第3の共振を生じて、複数の送受信系に対応可能なものである。前記第1の素子及び前記第2の素子と接地との間には短絡線esを備え、前記短絡線esと並列にキャパシタンスCpが接続される。
【0026】
第1の素子el1は基本共振モードにおいて、第1の周波数f1(第1の共振)で共振する第1の放射電極として機能し、第2の素子el2は基本共振モードにおいて第2の共振周波数f2(第2の共振)で共振するとともに、高次共振モードで第3の周波数f3(第3の共振)で動作する第2の放射電極として機能する。なお、各共振の周波数は、f2<f1<f3の順に高周波数である。
【0027】
マルチバンドアンテナの広帯域化の方法としてサセプタンス補償法がることは既に説明したが、単純に基本共振モードにおいてサセプタンス補償法を適用すれば、そのVSWRは広帯域化されるが、それでもなお十分でない。
そこで本発明者等は、第2の放射電極の高次共振モード動作に着目して検討を重ねた結果、放射電極と短絡線esとの接続点Cから給電点Aまでの間に並列共振回路を設け、前記並列共振回路を接地することで、第1の放射電極の基本共振モード、第2の放射電極による基本共振モードに与える影響を小さくしながら、第2の周波数帯fb2におけるVSWRを広帯域化することが出来ることを見出した。
【0028】
第1の素子el1(第1の放射電極)は要素a、g、fで構成される。また第2の素子el2(第2の放射電極)は要素b、e、f、gで構成される。要素f、gは、第1の素子el1と第2の素子el2とで共通し、接続点Bから2方向に分岐する。なお要素hは短絡線esを構成する。
【0029】
第1の放射電極は第1の周波数f1で共振するように、波長λ1の略1/4の長さに形成されている。なお放射電極の実長は、支持される基体の誘電率による波長短縮や、寄生リアクタンスによって変化するので、実際に目的とする動作周波数となるような長さに適宜調整して形成することを意味する。
第1の放射電極は、開放端側で電流が最小となるような直列共振モードの電流分布となる。理想状態では第2の素子el2は高インピーダンスであり、給電側からは見えない。
【0030】
第2の放射電極は第2の周波数f2で共振するように、波長λ2の略1/4の長さに形成されている。基本共振モードでは、開放端側で電流が最小となるような直列共振モードの電流分布となる。理想状態では第1の素子el1は高インピーダンスであり、給電側からは見えない。
【0031】
第2の放射電極の高次共振モードにおける第3の共振周波数f3は、短絡線esとキャパシタンスCpによる並列共振回路Prによって制御することができる。図3は短絡線esとキャパシタンスCpによる並列共振回路Prの等価回路である。
図4は各放射電極によって得られる共振の周波数特性を説明する為の図である。第3周波数f3は第1の周波数f1の高周波側にあり、少なくとも100MHz程度離して設定される。
【0032】
第2の放射電極の高次共振モードでの第3の周波数f3は、キャパシタンスCpの容量値が大きいとはf3cからf3aへと低周波側に移動する。キャパシタンスCpは、短絡線esの寄生キャパシタンスにより形成する場合や、チップコンデンサ等を用いて形成する場合もある。
第3の周波数f3を第1の周波数f1の近傍に形成すれば、第2の周波数帯fb2におけるVSWRを広帯域化することが出来る。また、キャパシタンスCpによって他の共振への与える影響を少なく第3の周波数f3を調整することが出来るので、所望の周波数に第3の周波数f3を設定することも容易である。
【0033】
第1の素子el1と第2の素子el2とが同じ方向に伸張することで、アンテナの大型化を防ぐことが出来る。この場合、第1の素子el1と第2の素子el2とは、極力干渉を抑えるように構成するが好ましいが、開放端部側は近接させて構成しても良い。第1の素子el1と第2の素子el2とが容量結合してループ状線路を構成し、第1の周波数帯におけるVSWRを広帯域化することが出来る。なお、アンテナを確保する空間が動作周波数に対して十分にあれば、各素子を異なる方向に伸張させて互いの干渉を減じるように構成しても良い。
【0034】
短絡線esと放射電極との接続点cの位置や要素hの長さによって、第2の共振におけるインピーダンスを調整することが出来る。図5においては短絡線esが折り返し線路として構成される。この構成によれば寄生するリアクタンスを大きく出来、要素hの長さを長くすればインダクタンスを大きく出来、要素hを隣り合う間隔を狭めて折り返して形成すれキャパシタンスを大きく形成することが出来る。
【0035】
短絡線esだけでは十分なリアクタンス要素が得られない場合には、図6に示す様に要素hと直列にインダクタンス素子Lsを装荷しても良い。図7はインダクタンス素子Lsを装荷した場合の並列共振回路Prの等価回路である。インダクタンス素子Lsはチップインダクタ、空芯コイルや実装基板に形成されたコイルパターンで形成され得る。
キャパシタンスCpは短絡線esの寄生キャパシタンスのみで構成しても良いし、更にキャパシタンス素子Csを接続しても良い。図8はキャパシタンス素子Csとして容量値が固定の固定キャパシタンスを接続して構成した合の並列共振回路Prの等価回路である。固定キャパシタンスは、チップコンデンサや実装基板に形成されたコンデンサパターンで形成され得る。
図9はキャパシタンス素子Csとして容量値が可変の可変キャパシタンスを接続して構成した合の並列共振回路Prの等価回路である。可変キャパシタンスCsとしては、バリキャップダイオード、MEMS、デジタルチューナブルコンデンサなどの可変容量素子が用いられる。並列共振回路Prを可変容量素子によって変更可能とすれば、対応可能な周波数帯を増加させることが出来て好ましい。可変容量素子の制御回路等は実装基板に形成すれば良い。
【0036】
図10及び図11は、マルチバンドアンテナの他の構成例を説明する為の図である。基本的な構成は図1を基にするが、第1の周波数帯fb1に対応する第3の素子el3を有する点と共に、直列共振モードと並列共振モードで動作する点が相違する。
第3の素子el3は要素c、i、e、f、gで構成され、他の素子el1、el2と同じ方向に、並んで伸張する。またその長さは第2の素子el2よりも僅かに長く構成されている。そして、第2の素子el2と第3の素子el3とは互いに干渉し易いように、第1素子el1と第2素子el2との間隔よりも近づけて配置される。
【0037】
給電回路200に僅かに長さの異なる2つの素子が接続する場合、その長さに応じた周波数において直列共振するとともに、2周波数間の周波数において並列共振が発生することが知られている。そして、長さの異なる素子を近接して互いに干渉する様に配置すると、一方の素子には直列共振に基づく共振電流が誘起されず、相対的に低周波数側の直列共振が発現しなくなる。そして、この様な状態においては、容易に直列共振の周波数と並列共振の周波数を調整することが可能であるとともに、素子間に形成される寄生容量によって共振に必要な要素の長さを短く出来る。
【0038】
第2の素子el2と第3の素子el3とが近接して配置されることで、要素b、i、cによって第3の放射電極が構成されて、基本共振モードで第4の周波数f4で並列共振(第4の共振)する。
第3の放射電極の合計長さは、実質的に第4の周波数f4の波長λ4の略1/2となっている。第4の周波数f4は第2の周波数f2よりも低周波側に現れ、第1の周波数帯fb1のVSWRの帯域を広げることができる。
また、第2の素子el2と第3の素子el3との間隔を近づけ結合を強めると、第4の周波数におけるVSWRの帯域が狭くなり、第2の周波数f2のVSWRの帯域が広がる。
【0039】
第3の放射電極が並列共振する時の電流分布は、その両端で0(零)となり、中央部で最大となる。従って第1の放射電極の中央部では、実質的に電圧が0(零)となり、インピーダンスはショート状態となる。共振回路Prは、給電時に電圧が0(零)となる部位に接続するので第3の放射電極による共振に与える影響は僅かである。
【0040】
なお各実施態様では、第1の素子el1、第2の素子el2、第3の素子el3は直線状であり、同方向に伸長するが、曲線や蛇行させて構成することが出来る。また屈曲させて、先端側を同じ方向に伸長する様に折り返しても良い。更に折り返された第2の素子el2の先端側を第3の素子el3と結合可能なように対向させても良い。
このような構成によれば、マルチバンドアンテナを小型に構成することが出来る。また、第2の素子el2と第3の素子el3の経路での共振を利用して、広帯域のマルチバンドアンテナとすることが出来る。
【0041】
各素子を構成する要素は、FR4(ガラスエポキシ樹脂基板)などのプリント基板(実装基板)に、エッチングなどの公知の手法によって低抵抗のCu薄板で形成する場合や、アルミナや他の誘電体セラミクス材料から成るセラミック基板に、印刷やエッチングなどの公知の手法によってAu,Ag,Cu等の良導体で形成することも出来る。また、洋白、Cuやリン青銅からなる導体薄板で構成しても良い。
また、ポリカーボネート等のエンジニアリング樹脂基体の表面にスパッタリング、めっき等で導体を形成し放射導体としても良いし、FPC等を使用しても良い。このとき、基体は通常通り単独のアンテナ用基体としても良いが、端末の筐体内壁を基体として利用することにより、省スペース化を図ることもできる。
【0042】
加工は容易だが外力に対して容易に変形し難いリン青銅などの合金で要素を形成すれば、支持体に依らず自由な形状に形成することが可能となり好ましい。
またプリント基板やセラミック素体に形成した要素を、グランド面を有する他のプリント基板に実装して構成しても良いし、導体薄板と組み合わせて構成しても良い。
【実施例】
【0043】
(第1の実施の形態)
以下本発明に係るマルチバンドアンテナの第1の実施の形態について説明する。
本実施例のマルチバンドアンテナの主な構造は図1、図2で示したものとほぼ同じであるので、重複する点については説明を省く。実装基板(図示せず)に立設する厚みが0.3mmで帯状のリン青銅を用いて放射電極と短絡線を一体形成している。
放射電極の給電側は、実装基板に形成された給電回路200と接続する第1経路と接続する。本実施例では、第1経路には並列共振回路Prのキャパシタンスの一部となるチップコンデンサが接続され実装基板には実装されている。放射電極に接続する短絡線esは、放射電極と一体に形成された要素hを含み、本実施例では実装基板に形成された第2経路とで構成される。要素hと第2経路の合計長さを13.5mmとしている。
【0044】
第1の放射電極を構成する第1の素子el1は、約1760MHzで共振が得られる長さに構成され、第2の放射電極を構成する第2の素子el2は、約940MHzで共振が得られる様に構成されている。
放射電極と短絡線との接続点Cを実装基板から約0.8mmの位置とし、約2mmの位置を第1の素子el1との接続点Bとしている。第1の放射電極を構成する第1の素子el1は幅が1.0mmであり幅広面が実装面に対して対向しない構成となっている。また、第2の放射電極を構成する第2の素子el2もまた幅が1.0mmであり、第1の素子el1とは約1.7mmの間隔をもって並行に伸び、幅広面が実装面に対して対向するように構成されている。第2の素子el2と実装基板との間隔は約4.2mmとした。
【0045】
得られたマルチバンドアンテナについて、チップコンデンサの容量値を0〜1.5pFに変えた試料を作成し、50Ωの同軸ケーブルを介してネットワークアナライザに接続し、VSWR特性を測定した。第1の放射電極による第1の共振の第1の周波数と、第2の放射電極による第2の共振の第2の周波数、第3の共振の第3の周波数を、VSWRが極値を示す周波数として表1に示す。
また、第1〜第3の共振におけるVSWRが4以下となる周波数帯を表2に示す。
また図12にチップコンデンサの容量値を0.8pFとした場合のVSWR特性を示す。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
共振周波数は、試料No.5,6の場合に第3の周波数f3がVSWRの極値として明確に現れなかった。試料No.1,2では第3の周波数f3が計測した周波数の上限を越えていた。
また容量値が増加するに従い、第1の放射電極による第1の周波数f1(第1の共振)は増加する傾向を示したが、その変化量は僅かでありアンテナ特性に大きく影響するものでは無い。一方、第2の放射電極による第2の周波数f2(第2の共振)は変化無く、第3の周波数f3(第3の共振)は低周波側に移動した。
【0049】
表2の試料No.3,4の場合において括弧を付して示した数値は、第1の共振と第3の共振が重なった状態でのVSWR帯域を示している。試料No.5,6の場合もまた、VSWR波形が重なり合っていると思われるが、VSWRの極が明確でないため、第1の共振のVSWR帯として示した。
VSWR帯域は、容量値を増やすことで、第2の放射電極による第2の周波数f2(第2の共振)では帯域が僅かに増加した。図12に示す様に、第3の共振が第1の共振の近くにあるとVSWR波形が重なり合ってVSWR帯域を広げる。この為、第1の放射電極による第1の周波数f1(第1の共振)と第2の放射電極による第3の周波数f3(第3の共振)のVSWR帯域は0.8pFまでは増加したが、それを超えるとVSWR帯域は減少した。
【0050】
(第2の実施の形態)
図13及び図14はマルチバンドアンテナの構成例を説明する為の図であり、異なる面側から見た場合の斜視図である。このマルチバンドアンテナはポリカーボネート樹脂の支持体bsにより支持された洋白(Cu−27Zn−18Ni合金)の厚み0.1mmの薄板で構成されている。基本的な構成は図10及び図11に示したマルチバンドアンテナと同様であって、直列共振モードと並列共振モードで動作する。
前記薄板は、第1の素子el1と、第2の素子el2と、第3の素子el3と、短絡線esを構成する。外形寸法は幅を46mm、長さを8mm、高さを6mmである。長手方向の端部2箇所には、マルチバンドアンテナを実装基板に固定する為の孔Th1,Th2が2箇所設けられている。
【0051】
給電点Aから接続点Bまでの経路は各素子が共通であり、接続点Bから各要素に別れる。第2の素子el2と第3の素子el3とは同じ方向に伸び、複数箇所で折り曲げられた後、端部は給電点A側に向う。その長さは、第2の素子el2が70mm、第3の素子el3が79mmである。本実施例においては端部側に近接部が設けられ素子間の間隔は1mmとなっている。また他の部位では2mmの間隔をもって形成している。
【0052】
第2の素子el2と第3の素子el3の端部側に向かって第1の素子el1が形成される。その長さは25mmである。端部側は第2の素子el2に3方囲まれた領域にあり、隣り合う第2の素子el2との間隔を約1mmとした。
分岐点である接続点Bと短絡線esが接続する接続点Cとの間の長さは6mmである。また短絡線esは要素hs0〜hs4で折り返し線路として形成され、その長さは27mmである。
【0053】
図15は短絡線esに寄生するキャパシタンスを説明するための図である。
短絡線esを折り返し線路として構成することで、寄生するリアクタンス要素を大きくすることが出来る。短絡線esが長くなることでインダクタンスLpを大きくすることが出来る。また要素h1と要素h3との線間にキャパシタンスCp2が形成され、要素h1を要素aと並行に、かつ近接して形成することで線間にはキャパシタンスCp1が形成され、要素h3を接地に近接して形成することで線間にはキャパシタンスCp3が形成される。
短絡線esに寄生するリアクタンス要素を利用することで、補助的なチップコンデンサを必要とせずに並列共振回路Prを構成することが出来る。
【0054】
なお、大きなキャパシタンスが必要な場合には、要素aと要素h1との間に誘電体素子ch1を配置して並列共振回路Prのキャパシタンスの一部を形成しても良い。図16及び図17はその構成を説明する為の図である。素子aと要素h1との間において、支持体bsに窪みHLを形成し、そこに誘電体素子ch1を配置する。誘電体素子ch1は矩形の誘電体セラミックであり支持体bsよりも高誘電率のセラミック材料を用いれば、要素h1を要素aと並行に、かつ近接して形成することで素子aと要素h1との間におけるキャパシタンスCp1を大きく形成することが出来る。また、誘電体素子ch1を要素h1と要素h3との間や、要素h3と接地との間に配置すれば、それらの間でのキャパシタンスCp2、Cp3を大きく形成することが出来る。
【0055】
図18(a)(b)に誘電体素子ch1の構成例を示す。矩形の誘電体セラミックの一側面と底面に電極パターンが形成され、側面の電極パターンed1と底面の電極パターンed2は繋がっており、電極パターンed1は短絡線と接続される。また、図19に示す様に誘電体素子ch1として対向する2側面に電極パターンed0、ed1が形成された市販のチップコンデンサを用いても良い。誘電体素子ch1は支持体bsにホットメルト接着剤Ss1、Ss2などで固定すれば良い。
【0056】
本実施例のマルチバンドアンテナは、第1の素子el1(要素a、g、f)で構成される第1の放射電極による第1の周波数f1(第1の共振)を1780MHz、第2の素子el2(要素b、g、f)で構成される第2の放射電極による第2の周波数f2(第2の共振)を890MHz、第3の周波数f3(第3の共振)を2120MHz、第1の素子と第2の素子(要素b、c、i)で構成される第3の放射電極による第4の周波数f4(第4の共振)を730MHzとしている。
この様な構成により、第4の共振をLTE Band17帯に、第2の共振をGSM850/900帯に、第1の共振をDCS/PCS帯に、第3の共振をUMTS帯に有するマルチバンドアンテナとした。
【0057】
得られたマルチバンドアンテナを50Ωの同軸ケーブルを介してネットワークアナライザに接続し、VSWR特性を測定した。
図20に600MHz〜2700MHzにおけるVSWR特性を示す。VSWR特性図中において、点線はVSWR値が4であることを示している。
本発明のマルチバンドアンテナによれば、各共振が各送受信系の帯域内において発現し、かつVSWR値が4以下である周波数帯域は、各送受信系の帯域をカバーする。
【符号の説明】
【0058】
1 マルチバンドアンテナ
200 給電回路
el1 第1の素子
el2 第2の素子
el3 第3の素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線装置に用いられるアンテナ回路に関し、特には異なる周波数帯において利用可能なマルチバンドアンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の無線通信装置の急速な普及に応じて通信システムが使用する周波数帯域も多岐に亘るようになり、特に最近では、デュアルバンド方式、トリプルバンド方式、クワッドバンド方式のように複数の送受信帯域に対応した携帯電話が多くなってきた。例えば、GSM850/900帯、DCS帯、PCS帯、UMTS帯の通信システムに対応した携帯電話では、GSM850/900帯が824〜960MHz、DCS帯が1710〜1850MHz、PCS帯が1850〜1990MHz、及びUMTS帯が1920〜2170MHz帯の周波数帯を使用するので、これらの複数の周波数帯域に対応可能なアンテナ(マルチバンドアンテナ)が必要である。
【0003】
アンテナを構成するアンテナ要素[放射素子、放射電極、放射線路(単に線路とも呼ばれる)]は、通常、基本周波数での共振(基本共振モード)と、高次の周波数での共振(高次共振モード)とを有する。例えば、直列共振で動作するアンテナでは、基本共振モードは1/4波長で共振し、高次共振モードは3/4波長での共振である。また、並列共振で動作するアンテナでは基本共振モードは1/2波長での共振であり、高次共振モードは3/2波長での共振である。
一つの給電回路に接続された一つのアンテナ要素でマルチバンドアンテナを構成する場合、直列共振による基本共振モードを例えばGSM850/900帯で得るとすると、DCS帯等は高次モードの共振で対応することになる。しかし、DCS帯、PCS帯及びUMTS帯はGSM帯の約2〜2.5倍の周波数であり、GSM帯に対して複数の周波数帯域が1:3の関係にないので、単純には高次共振モードでは対応できない。並列共振による場合もまた高次共振モードの共振で対応するのは難しい。
【0004】
GSM850/900帯の周波数帯域(以下第1の周波数帯fb1とする)の幅は136MHzであり、中心周波数は892MHzであるので、比帯域幅は約15.3%〔136MHz/892MHz〕である。またDCS帯、PCS帯、及びUMTS Band1帯の周波数帯域(以下第2の周波数帯fb2とする)の幅は460MHzであり、中心周波数は1940MHzであるので、比帯域幅は約23.7%〔460MHz/1940MHz〕である。このような第2の周波数帯fb2では、一つのアンテナ要素による共振によりインピーダンス整合を得るのは困難であり、所定のVSWR(電圧定在波比)が得られる帯域幅(以下VSWR幅と呼ぶ)は狭く、十分に確保できない。
【0005】
このような問題に対して、特許文献1では複数の放射電極102、103を備えたアンテナが提案されている。その構成を斜視図として図21に示す。
このアンテナは、接地導体GNDから離れて配置された平面状の放射板と、前記放射板を接地導体GNDに接続する短絡線105と、前記放射板に接地導体GNDを貫通して高周波電力を供給する給電線104とを備えた逆F型アンテナである。図中矢印は放射板に流れる電流を示し、前記放射板にはスリットが設けられて2つの放射電極102、103が形成され、それぞれに共振電流が流れて異なる周波数で共振する複共振のアンテナとなり、放射電極103を基本共振モードで第1の周波数帯fb1にて共振させ、放射電極102を基本共振モードで第2の周波数帯fb2にて共振させることが出来る。
【0006】
特許文献1のアンテナは、給電線104と短絡線105との間隔を調整することでインピーダンスを変化させて給電回路との整合を得るが、間隔を広げようとすると放射板を大きくすることが必要であり、アンテナが大型化する問題があった。また、第2の周波数帯fb2においてはVSWR帯が十分に得られず、その帯域の一部の周波数しか対応出来ない。放射板を小さく構成するとVSWR帯の狭帯域化の傾向は一層顕著となる。
【0007】
この様な問題に対して、特許文献2には、給電線と短絡線との間隔を広げる事無くインピーダンス整合を行なうことが提案されている。その構成を斜視図として図22に示す。
基本的な構成は引用文献1のアンテナと同じであるが、複共振のアンテナの短絡線104に直列にインダクタLsを接続する。インダクタンスLsによって、短絡線104から接地までの電気的な長さが長くなってインピーダンスが変化し、VSWR帯の帯域を広くする。しかしながら、この場合であっても、第2の周波数帯fb2を満足するVSWR帯は得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−093332号
【特許文献2】特開2005−109636号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般に直列共振モードでの動作するアンテナでは、放射電極からだけではなくグランド面からも放射する様に設計される。この場合では、開放端側で電流が最小となるような直列共振モードの電流分布となる。そのインピーダンスは共振周波数を境にして、低周波数側ではキャパシティブであり、高周波側ではインダクティブとなる。この様なアンテナの広帯域化の手法としてサセプタンス補償法が知られている。
この方法では、アンテナと同一の周波数で共振する並列共振回路を用いる。そのインピーダンスは共振周波数より低い周波数側ではインダクティブに、高い周波数側ではキャパシティブとなる為、アンテナと接地との間に給電点と並列に前記並列共振回路を接続することで、リアクタンス成分が打ち消されて高周波数帯で低い値となり、アンテナのVSWR帯が広帯域化される。
【0010】
単純に基本モードの共振においてサセプタンス補償法を適用すれば、VSWR帯は広帯域化されるが、それでも第2の周波数帯fb2においてはVSWR帯が十分では無く、その帯域の一部の周波数しか対応出来ないことに変わり無かった。
【0011】
放射電極を増やすことで、対応する周波数帯を広げることも可能であるが、アンテナは通常限定された空間、例えば携帯電話の筐体内の一部という限られた空間に配置されるため、更なる放射電極の付加が困難な場合がある。また、放射電極を増加させると、給電回路とのインピーダンスの整合を取りづらくなってしまうと言う問題もあった。
【0012】
更に最近では、アンテナが対応すべき周波数帯はLTE帯にも広がっている。例えば、LTE Band17帯は704〜746MHz、LTE Band7帯は2500〜2690MHz帯の周波数帯を使用する。アンテナに要求される対応周波数帯域は広がる一方である。なおLTE、GSMは商標あるいは登録商標である。
【0013】
そこで本発明では、小型でありながら、少なくともDCS帯、PCS帯、及びUMTS Band1帯においてVSWR帯を高帯域化することが出来、もって複数の送受信系に対応可能なマルチバンドアンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の発明は、放射電極として、一端側が給電点に接続され他端側が開放端の第1の素子と、一端側が前記給電点と接続し他端側が開放端であり、前記第1の素子よりも素子長さが長く形成された第2の素子と、前記放射電極を接地する短絡線を備え、第1の素子は第1の周波数f1で直列共振する第1の放射電極を構成し、第2の素子は前記第1の周波数f1よりも低周波数の第2の周波数f2と、前記第1の周波数f1よりも高周波数の第3の周波数f3で直列共振する第2の放射電極を構成し、前記放射電極と前記短絡線との接続点から給電点までの間に接続された並列共振回路が接地され、前記並列共振回路のリアクタンス要素は、少なくとも一部が前記短絡線により形成され、前記並列共振回路により前記第3の周波数f3を調整することを特徴とするマルチバンドアンテナである。
【0015】
本発明においは、並列共振回路のリアクタンス要素の少なくとも一部を短絡線により形成する。短絡線より形成される寄生インダクタスや寄生キャパシタンスを利用するとともに、更に短絡線にインダクタンス素子を直列接続したり、放射電極と短絡線との接続点から給電点までの間にキャパシタンス素子を接続したりしても良い。
前記短絡線の経路のインダクタンスによって、第2の放射電極に基本共振モードでの第1の周波数f1におけるインピーダンスを調整する。アンテナの動作周波数が高周波となり、インダクタンスが大きくなる程、高周波的に接地との間が高インピーダンスとなる為に、第1の放射電極による第1の周波数f1での基本共振モードや、第2の放射電極による第3の周波数f3での高次共振モードへの影響は少ない。
【0016】
一方で動作周波数が高周波となれば、放射電極と短絡線との接続点から給電点までの間に接続されたキャパシタンスは低インピーダンスに見える。この為、前記キャパシタンスによって第2の放射電極による第3の周波数f3での高次共振モードでのインピーダンスを調整し、第3の周波数f3を第2の周波数f2の3倍よりも低周波数とすることが出来る。
また、前記インダクタンス、前記キャパシタンスの定数の選択や、放射電極と短絡線との接続点の位置などによって、第1の放射電極をモノポールアンテナとして動作させることが出来る。この様な構成によれば、第1の放射電極における基本共振モードにおいては前記キャパシタンスの影響が少なくて済み、第3の周波数f3を大きく低周波側へ調整しても第1に周波数f1に与える影響は軽微なもとなる。
2つの共振が近接した周波数にあるとVSWR帯域は広帯域となるが、極端に近接させれば影響は現れ、また帯域も減少するので、周波数の関係は1.05×f1<f3<3×f2とするのが好ましい。
【0017】
寄生キャパシタンスは、第1の素子と短絡線との間に形成されたキャパシタンス、短絡線と接地との間に形成されたキャパシタンス、又は短絡線の線間に形成されたキャパシタンスのいずれかを含む。
【0018】
また、前記短絡線と並列に可変キャパシタンス素子を接続しても良い。ここで可変キャパシタンス素子としては、逆バイアス電圧を印加することで内部の空乏層の幅が変化し、これにより静電容量を連続的に変化して、逆方向電圧が大きくなれば静電容量値が減少する挙動を示すバリキャップダイオードやMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、デジタル可変容量素子など公知のものを用いればよい。容量値を変化させることで第3の周波数f3を必要な周波数に併せて調整することが出来るので好ましい。
【0019】
本発明において、前記第1及び第2の素子と短絡線は基体に支持された帯状導体で形成されるのが好ましい。
【0020】
前記基体を搭載する実装基板に前記共振回路を構成するリアクタンス素子を実装し、前記リアクタンス素子は少なくとも、前記放射電極と前記短絡線との接続点から給電点までの間に接続され接地されたキャパシタンスを有するように構成しても良い。
【0021】
また、前記基体に誘電体素子を配置する窪みを設けて、前記誘電体素子によって、前記放射電極と前記短絡線との接続点から給電点までの間に接続され接地されたキャパシタンスを構成するのも好ましい。
【0022】
また、前記短絡線を複数箇所で折れ曲げて形成し、前記放射電極と前記短絡線との接続点から給電点までの間に接続され接地されたキャパシタンスとインダクタンスを構成しても良い。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、小型でありながら、少なくともDCS帯、PCS帯、及びUMTS Band1帯においてVSWR帯を高帯域化することが出来、もって複数の送受信系に対応可能なマルチバンドアンテナを提供するが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のマルチバンドアンテナの一構成例を説明する為の図である。
【図2】本発明のマルチバンドアンテナの一構成例を説明する為の斜視図である。
【図3】本発明のマルチバンドアンテナにおける並列共振回路Prの構成例を示す等価回路である。
【図4】本発明のマルチバンドアンテナにおけるVSWR特性を説明する為の図である。
【図5】本発明のマルチバンドアンテナにおける並列共振回路Prの構成例を説明する為の図である。
【図6】本発明のマルチバンドアンテナにおける並列共振回路Prの他の構成例を説明する為の図である。
【図7】本発明のマルチバンドアンテナにおける並列共振回路Prの他の構成例を示す等価回路である。
【図8】本発明のマルチバンドアンテナにおける並列共振回路Prの他の構成例を示す等価回路である。
【図9】本発明のマルチバンドアンテナにおける並列共振回路Prの他の構成例を示す等価回路である。
【図10】本発明のマルチバンドアンテナの他の構成例を説明する為の図である。
【図11】本発明のマルチバンドアンテナの他の構成例を説明する為の斜視図である。
【図12】本発明のマルチバンドアンテナのVSWR特性を示す図である。
【図13】本発明のマルチバンドアンテナの他の構成例を説明する為の斜視図である。
【図14】本発明のマルチバンドアンテナの他の構成例を説明する為の斜視図である。
【図15】本発明のマルチバンドアンテナの短絡線による並列共振回路の構成例を示す図である。
【図16】本発明のマルチバンドアンテナの短絡線による並列共振回路の他の構成例を示す図である。
【図17】本発明のマルチバンドアンテナの支持体の一構成例を示す図である。
【図18】(a)は本発明のマルチバンドアンテナに用いる誘電体素子の構成例を説明する為の外観斜視図であり、(b)は本発明のマルチバンドアンテナに用いる誘電体素子の構成例を説明する為の外観斜視図である。
【図19】本発明のマルチバンドアンテナの短絡線による並列共振回路の他の構成例を示す図である。
【図20】本発明のマルチバンドアンテナにおけるVSWR特性を説明する為の図である。
【図21】従来のマルチバンドアンテナの構成を説明する為の図である。
【図22】従来のマルチバンドアンテナの構成を説明する為の図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のマルチバンドアンテナの基本構造を、図1及び図2を用いて説明する。図1は本発明の一実施形態によるマルチバンドアンテナを説明する為の図であり、図2はその構造一例を示す斜視図である。
このマルチバンドアンテナ1は、第1の素子el1と第2の素子el2とを備え、各素子は給電点Aに接続された共通の給電回路200からの給電により励振され、少なくとも第1〜第3の共振を生じて、複数の送受信系に対応可能なものである。前記第1の素子及び前記第2の素子と接地との間には短絡線esを備え、前記短絡線esと並列にキャパシタンスCpが接続される。
【0026】
第1の素子el1は基本共振モードにおいて、第1の周波数f1(第1の共振)で共振する第1の放射電極として機能し、第2の素子el2は基本共振モードにおいて第2の共振周波数f2(第2の共振)で共振するとともに、高次共振モードで第3の周波数f3(第3の共振)で動作する第2の放射電極として機能する。なお、各共振の周波数は、f2<f1<f3の順に高周波数である。
【0027】
マルチバンドアンテナの広帯域化の方法としてサセプタンス補償法がることは既に説明したが、単純に基本共振モードにおいてサセプタンス補償法を適用すれば、そのVSWRは広帯域化されるが、それでもなお十分でない。
そこで本発明者等は、第2の放射電極の高次共振モード動作に着目して検討を重ねた結果、放射電極と短絡線esとの接続点Cから給電点Aまでの間に並列共振回路を設け、前記並列共振回路を接地することで、第1の放射電極の基本共振モード、第2の放射電極による基本共振モードに与える影響を小さくしながら、第2の周波数帯fb2におけるVSWRを広帯域化することが出来ることを見出した。
【0028】
第1の素子el1(第1の放射電極)は要素a、g、fで構成される。また第2の素子el2(第2の放射電極)は要素b、e、f、gで構成される。要素f、gは、第1の素子el1と第2の素子el2とで共通し、接続点Bから2方向に分岐する。なお要素hは短絡線esを構成する。
【0029】
第1の放射電極は第1の周波数f1で共振するように、波長λ1の略1/4の長さに形成されている。なお放射電極の実長は、支持される基体の誘電率による波長短縮や、寄生リアクタンスによって変化するので、実際に目的とする動作周波数となるような長さに適宜調整して形成することを意味する。
第1の放射電極は、開放端側で電流が最小となるような直列共振モードの電流分布となる。理想状態では第2の素子el2は高インピーダンスであり、給電側からは見えない。
【0030】
第2の放射電極は第2の周波数f2で共振するように、波長λ2の略1/4の長さに形成されている。基本共振モードでは、開放端側で電流が最小となるような直列共振モードの電流分布となる。理想状態では第1の素子el1は高インピーダンスであり、給電側からは見えない。
【0031】
第2の放射電極の高次共振モードにおける第3の共振周波数f3は、短絡線esとキャパシタンスCpによる並列共振回路Prによって制御することができる。図3は短絡線esとキャパシタンスCpによる並列共振回路Prの等価回路である。
図4は各放射電極によって得られる共振の周波数特性を説明する為の図である。第3周波数f3は第1の周波数f1の高周波側にあり、少なくとも100MHz程度離して設定される。
【0032】
第2の放射電極の高次共振モードでの第3の周波数f3は、キャパシタンスCpの容量値が大きいとはf3cからf3aへと低周波側に移動する。キャパシタンスCpは、短絡線esの寄生キャパシタンスにより形成する場合や、チップコンデンサ等を用いて形成する場合もある。
第3の周波数f3を第1の周波数f1の近傍に形成すれば、第2の周波数帯fb2におけるVSWRを広帯域化することが出来る。また、キャパシタンスCpによって他の共振への与える影響を少なく第3の周波数f3を調整することが出来るので、所望の周波数に第3の周波数f3を設定することも容易である。
【0033】
第1の素子el1と第2の素子el2とが同じ方向に伸張することで、アンテナの大型化を防ぐことが出来る。この場合、第1の素子el1と第2の素子el2とは、極力干渉を抑えるように構成するが好ましいが、開放端部側は近接させて構成しても良い。第1の素子el1と第2の素子el2とが容量結合してループ状線路を構成し、第1の周波数帯におけるVSWRを広帯域化することが出来る。なお、アンテナを確保する空間が動作周波数に対して十分にあれば、各素子を異なる方向に伸張させて互いの干渉を減じるように構成しても良い。
【0034】
短絡線esと放射電極との接続点cの位置や要素hの長さによって、第2の共振におけるインピーダンスを調整することが出来る。図5においては短絡線esが折り返し線路として構成される。この構成によれば寄生するリアクタンスを大きく出来、要素hの長さを長くすればインダクタンスを大きく出来、要素hを隣り合う間隔を狭めて折り返して形成すれキャパシタンスを大きく形成することが出来る。
【0035】
短絡線esだけでは十分なリアクタンス要素が得られない場合には、図6に示す様に要素hと直列にインダクタンス素子Lsを装荷しても良い。図7はインダクタンス素子Lsを装荷した場合の並列共振回路Prの等価回路である。インダクタンス素子Lsはチップインダクタ、空芯コイルや実装基板に形成されたコイルパターンで形成され得る。
キャパシタンスCpは短絡線esの寄生キャパシタンスのみで構成しても良いし、更にキャパシタンス素子Csを接続しても良い。図8はキャパシタンス素子Csとして容量値が固定の固定キャパシタンスを接続して構成した合の並列共振回路Prの等価回路である。固定キャパシタンスは、チップコンデンサや実装基板に形成されたコンデンサパターンで形成され得る。
図9はキャパシタンス素子Csとして容量値が可変の可変キャパシタンスを接続して構成した合の並列共振回路Prの等価回路である。可変キャパシタンスCsとしては、バリキャップダイオード、MEMS、デジタルチューナブルコンデンサなどの可変容量素子が用いられる。並列共振回路Prを可変容量素子によって変更可能とすれば、対応可能な周波数帯を増加させることが出来て好ましい。可変容量素子の制御回路等は実装基板に形成すれば良い。
【0036】
図10及び図11は、マルチバンドアンテナの他の構成例を説明する為の図である。基本的な構成は図1を基にするが、第1の周波数帯fb1に対応する第3の素子el3を有する点と共に、直列共振モードと並列共振モードで動作する点が相違する。
第3の素子el3は要素c、i、e、f、gで構成され、他の素子el1、el2と同じ方向に、並んで伸張する。またその長さは第2の素子el2よりも僅かに長く構成されている。そして、第2の素子el2と第3の素子el3とは互いに干渉し易いように、第1素子el1と第2素子el2との間隔よりも近づけて配置される。
【0037】
給電回路200に僅かに長さの異なる2つの素子が接続する場合、その長さに応じた周波数において直列共振するとともに、2周波数間の周波数において並列共振が発生することが知られている。そして、長さの異なる素子を近接して互いに干渉する様に配置すると、一方の素子には直列共振に基づく共振電流が誘起されず、相対的に低周波数側の直列共振が発現しなくなる。そして、この様な状態においては、容易に直列共振の周波数と並列共振の周波数を調整することが可能であるとともに、素子間に形成される寄生容量によって共振に必要な要素の長さを短く出来る。
【0038】
第2の素子el2と第3の素子el3とが近接して配置されることで、要素b、i、cによって第3の放射電極が構成されて、基本共振モードで第4の周波数f4で並列共振(第4の共振)する。
第3の放射電極の合計長さは、実質的に第4の周波数f4の波長λ4の略1/2となっている。第4の周波数f4は第2の周波数f2よりも低周波側に現れ、第1の周波数帯fb1のVSWRの帯域を広げることができる。
また、第2の素子el2と第3の素子el3との間隔を近づけ結合を強めると、第4の周波数におけるVSWRの帯域が狭くなり、第2の周波数f2のVSWRの帯域が広がる。
【0039】
第3の放射電極が並列共振する時の電流分布は、その両端で0(零)となり、中央部で最大となる。従って第1の放射電極の中央部では、実質的に電圧が0(零)となり、インピーダンスはショート状態となる。共振回路Prは、給電時に電圧が0(零)となる部位に接続するので第3の放射電極による共振に与える影響は僅かである。
【0040】
なお各実施態様では、第1の素子el1、第2の素子el2、第3の素子el3は直線状であり、同方向に伸長するが、曲線や蛇行させて構成することが出来る。また屈曲させて、先端側を同じ方向に伸長する様に折り返しても良い。更に折り返された第2の素子el2の先端側を第3の素子el3と結合可能なように対向させても良い。
このような構成によれば、マルチバンドアンテナを小型に構成することが出来る。また、第2の素子el2と第3の素子el3の経路での共振を利用して、広帯域のマルチバンドアンテナとすることが出来る。
【0041】
各素子を構成する要素は、FR4(ガラスエポキシ樹脂基板)などのプリント基板(実装基板)に、エッチングなどの公知の手法によって低抵抗のCu薄板で形成する場合や、アルミナや他の誘電体セラミクス材料から成るセラミック基板に、印刷やエッチングなどの公知の手法によってAu,Ag,Cu等の良導体で形成することも出来る。また、洋白、Cuやリン青銅からなる導体薄板で構成しても良い。
また、ポリカーボネート等のエンジニアリング樹脂基体の表面にスパッタリング、めっき等で導体を形成し放射導体としても良いし、FPC等を使用しても良い。このとき、基体は通常通り単独のアンテナ用基体としても良いが、端末の筐体内壁を基体として利用することにより、省スペース化を図ることもできる。
【0042】
加工は容易だが外力に対して容易に変形し難いリン青銅などの合金で要素を形成すれば、支持体に依らず自由な形状に形成することが可能となり好ましい。
またプリント基板やセラミック素体に形成した要素を、グランド面を有する他のプリント基板に実装して構成しても良いし、導体薄板と組み合わせて構成しても良い。
【実施例】
【0043】
(第1の実施の形態)
以下本発明に係るマルチバンドアンテナの第1の実施の形態について説明する。
本実施例のマルチバンドアンテナの主な構造は図1、図2で示したものとほぼ同じであるので、重複する点については説明を省く。実装基板(図示せず)に立設する厚みが0.3mmで帯状のリン青銅を用いて放射電極と短絡線を一体形成している。
放射電極の給電側は、実装基板に形成された給電回路200と接続する第1経路と接続する。本実施例では、第1経路には並列共振回路Prのキャパシタンスの一部となるチップコンデンサが接続され実装基板には実装されている。放射電極に接続する短絡線esは、放射電極と一体に形成された要素hを含み、本実施例では実装基板に形成された第2経路とで構成される。要素hと第2経路の合計長さを13.5mmとしている。
【0044】
第1の放射電極を構成する第1の素子el1は、約1760MHzで共振が得られる長さに構成され、第2の放射電極を構成する第2の素子el2は、約940MHzで共振が得られる様に構成されている。
放射電極と短絡線との接続点Cを実装基板から約0.8mmの位置とし、約2mmの位置を第1の素子el1との接続点Bとしている。第1の放射電極を構成する第1の素子el1は幅が1.0mmであり幅広面が実装面に対して対向しない構成となっている。また、第2の放射電極を構成する第2の素子el2もまた幅が1.0mmであり、第1の素子el1とは約1.7mmの間隔をもって並行に伸び、幅広面が実装面に対して対向するように構成されている。第2の素子el2と実装基板との間隔は約4.2mmとした。
【0045】
得られたマルチバンドアンテナについて、チップコンデンサの容量値を0〜1.5pFに変えた試料を作成し、50Ωの同軸ケーブルを介してネットワークアナライザに接続し、VSWR特性を測定した。第1の放射電極による第1の共振の第1の周波数と、第2の放射電極による第2の共振の第2の周波数、第3の共振の第3の周波数を、VSWRが極値を示す周波数として表1に示す。
また、第1〜第3の共振におけるVSWRが4以下となる周波数帯を表2に示す。
また図12にチップコンデンサの容量値を0.8pFとした場合のVSWR特性を示す。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
共振周波数は、試料No.5,6の場合に第3の周波数f3がVSWRの極値として明確に現れなかった。試料No.1,2では第3の周波数f3が計測した周波数の上限を越えていた。
また容量値が増加するに従い、第1の放射電極による第1の周波数f1(第1の共振)は増加する傾向を示したが、その変化量は僅かでありアンテナ特性に大きく影響するものでは無い。一方、第2の放射電極による第2の周波数f2(第2の共振)は変化無く、第3の周波数f3(第3の共振)は低周波側に移動した。
【0049】
表2の試料No.3,4の場合において括弧を付して示した数値は、第1の共振と第3の共振が重なった状態でのVSWR帯域を示している。試料No.5,6の場合もまた、VSWR波形が重なり合っていると思われるが、VSWRの極が明確でないため、第1の共振のVSWR帯として示した。
VSWR帯域は、容量値を増やすことで、第2の放射電極による第2の周波数f2(第2の共振)では帯域が僅かに増加した。図12に示す様に、第3の共振が第1の共振の近くにあるとVSWR波形が重なり合ってVSWR帯域を広げる。この為、第1の放射電極による第1の周波数f1(第1の共振)と第2の放射電極による第3の周波数f3(第3の共振)のVSWR帯域は0.8pFまでは増加したが、それを超えるとVSWR帯域は減少した。
【0050】
(第2の実施の形態)
図13及び図14はマルチバンドアンテナの構成例を説明する為の図であり、異なる面側から見た場合の斜視図である。このマルチバンドアンテナはポリカーボネート樹脂の支持体bsにより支持された洋白(Cu−27Zn−18Ni合金)の厚み0.1mmの薄板で構成されている。基本的な構成は図10及び図11に示したマルチバンドアンテナと同様であって、直列共振モードと並列共振モードで動作する。
前記薄板は、第1の素子el1と、第2の素子el2と、第3の素子el3と、短絡線esを構成する。外形寸法は幅を46mm、長さを8mm、高さを6mmである。長手方向の端部2箇所には、マルチバンドアンテナを実装基板に固定する為の孔Th1,Th2が2箇所設けられている。
【0051】
給電点Aから接続点Bまでの経路は各素子が共通であり、接続点Bから各要素に別れる。第2の素子el2と第3の素子el3とは同じ方向に伸び、複数箇所で折り曲げられた後、端部は給電点A側に向う。その長さは、第2の素子el2が70mm、第3の素子el3が79mmである。本実施例においては端部側に近接部が設けられ素子間の間隔は1mmとなっている。また他の部位では2mmの間隔をもって形成している。
【0052】
第2の素子el2と第3の素子el3の端部側に向かって第1の素子el1が形成される。その長さは25mmである。端部側は第2の素子el2に3方囲まれた領域にあり、隣り合う第2の素子el2との間隔を約1mmとした。
分岐点である接続点Bと短絡線esが接続する接続点Cとの間の長さは6mmである。また短絡線esは要素hs0〜hs4で折り返し線路として形成され、その長さは27mmである。
【0053】
図15は短絡線esに寄生するキャパシタンスを説明するための図である。
短絡線esを折り返し線路として構成することで、寄生するリアクタンス要素を大きくすることが出来る。短絡線esが長くなることでインダクタンスLpを大きくすることが出来る。また要素h1と要素h3との線間にキャパシタンスCp2が形成され、要素h1を要素aと並行に、かつ近接して形成することで線間にはキャパシタンスCp1が形成され、要素h3を接地に近接して形成することで線間にはキャパシタンスCp3が形成される。
短絡線esに寄生するリアクタンス要素を利用することで、補助的なチップコンデンサを必要とせずに並列共振回路Prを構成することが出来る。
【0054】
なお、大きなキャパシタンスが必要な場合には、要素aと要素h1との間に誘電体素子ch1を配置して並列共振回路Prのキャパシタンスの一部を形成しても良い。図16及び図17はその構成を説明する為の図である。素子aと要素h1との間において、支持体bsに窪みHLを形成し、そこに誘電体素子ch1を配置する。誘電体素子ch1は矩形の誘電体セラミックであり支持体bsよりも高誘電率のセラミック材料を用いれば、要素h1を要素aと並行に、かつ近接して形成することで素子aと要素h1との間におけるキャパシタンスCp1を大きく形成することが出来る。また、誘電体素子ch1を要素h1と要素h3との間や、要素h3と接地との間に配置すれば、それらの間でのキャパシタンスCp2、Cp3を大きく形成することが出来る。
【0055】
図18(a)(b)に誘電体素子ch1の構成例を示す。矩形の誘電体セラミックの一側面と底面に電極パターンが形成され、側面の電極パターンed1と底面の電極パターンed2は繋がっており、電極パターンed1は短絡線と接続される。また、図19に示す様に誘電体素子ch1として対向する2側面に電極パターンed0、ed1が形成された市販のチップコンデンサを用いても良い。誘電体素子ch1は支持体bsにホットメルト接着剤Ss1、Ss2などで固定すれば良い。
【0056】
本実施例のマルチバンドアンテナは、第1の素子el1(要素a、g、f)で構成される第1の放射電極による第1の周波数f1(第1の共振)を1780MHz、第2の素子el2(要素b、g、f)で構成される第2の放射電極による第2の周波数f2(第2の共振)を890MHz、第3の周波数f3(第3の共振)を2120MHz、第1の素子と第2の素子(要素b、c、i)で構成される第3の放射電極による第4の周波数f4(第4の共振)を730MHzとしている。
この様な構成により、第4の共振をLTE Band17帯に、第2の共振をGSM850/900帯に、第1の共振をDCS/PCS帯に、第3の共振をUMTS帯に有するマルチバンドアンテナとした。
【0057】
得られたマルチバンドアンテナを50Ωの同軸ケーブルを介してネットワークアナライザに接続し、VSWR特性を測定した。
図20に600MHz〜2700MHzにおけるVSWR特性を示す。VSWR特性図中において、点線はVSWR値が4であることを示している。
本発明のマルチバンドアンテナによれば、各共振が各送受信系の帯域内において発現し、かつVSWR値が4以下である周波数帯域は、各送受信系の帯域をカバーする。
【符号の説明】
【0058】
1 マルチバンドアンテナ
200 給電回路
el1 第1の素子
el2 第2の素子
el3 第3の素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射電極として、一端側が給電点に接続され他端側が開放端の第1の素子と、一端側が前記給電点と接続し他端側が開放端であり、前記第1の素子よりも素子長さが長く形成された第2の素子と、前記放射電極を接地する短絡線を備え、
第1の素子は第1の周波数f1で直列共振する第1の放射電極を構成し、第2の素子は前記第1の周波数f1よりも低周波数の第2の周波数f2と、前記第1の周波数f1よりも高周波数の第3の周波数f3で直列共振する第2の放射電極を構成し、
前記放射電極と前記短絡線との接続点から給電点までの間に接続された並列共振回路が接地され、
前記並列共振回路のリアクタンス要素は、少なくとも一部が前記短絡線により形成され、前記並列共振回路により前記第3の周波数f3を調整することを特徴とするマルチバンドアンテナ。
【請求項2】
放射電極として、一端側が給電点に接続され他端側が開放端の第1の素子と、一端側が前記給電点と接続し他端側が開放端であり、前記第1の素子よりも素子長さが長く形成された第2の素子と、前記放射電極を接地する短絡線を備え、
前記放射電極と前記短絡線との接続点から給電点までの間に接続されたキャパシタンスを接地し、前記キャパシタンスの一部には、第1の素子と短絡線との間に形成されたキャパシタンス、短絡線と接地との間に形成されたキャパシタンス、又は短絡線の線間に形成されたキャパシタンスのいずれかを含み、
前記マルチバンドアンテナは、第1の素子を第1の放射電極として、第1の周波数f1で直列共振し、第2の素子を第2の放射電極として、前記第1の周波数f1よりも低周波数の第2の周波数f2と、前記第1の周波数f1よりも高周波数の第3の周波数f3で直列共振し、
前記第1の周波数f1〜前記第3の周波数f3は、f2<f1<1.05×f1<f3<3×f2の関係にあることを特徴とするマルチバンドアンテナ。
【請求項3】
前記短絡線と直列にインダクタンスが接続されたことを特徴とする請求項1又2に記載のマルチバンドアンテナ。
【請求項4】
前記短絡線と並列に可変キャパシタンス素子が接続されたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のマルチバンドアンテナ。
【請求項5】
放射電極として、一端側が給電点に接続され他端側が開放端の第1の素子と、一端側が前記給電点と接続し他端側が開放端であり、前記第1の素子よりも素子長さが長く形成された第2の素子と、前記放射電極を接地する短絡線を備え、
前記第1及び第2の素子と短絡線は基体に支持された帯状導体で形成され、
前記基体を搭載する実装基板にリアクタンス素子が実装され、前記リアクタンス素子は少なくとも、前記放射電極と前記短絡線との接続点から給電点までの間に接続され接地されたキャパシタンスを有することを特徴とするマルチバンドアンテナ。
【請求項6】
放射電極として、一端側が給電点に接続され他端側が開放端の第1の素子と、一端側が前記給電点と接続し他端側が開放端であり、前記第1の素子よりも素子長さが長く形成された第2の素子と、前記放射電極を接地する短絡線を備え、
前記第1及び第2の素子と短絡線は基体に支持された帯状導体で形成され、
前記基体には誘電体素子を配置する窪みが設けられ、前記誘電体素子は、前記放射電極と前記短絡線との接続点から給電点までの間に接続され接地されたキャパシタンスを構成することを特徴とするマルチバンドアンテナ。
【請求項7】
放射電極として、一端側が給電点に接続され他端側が開放端の第1の素子と、一端側が前記給電点と接続し他端側が開放端であり、前記第1の素子よりも素子長さが長く形成された第2の素子と、前記放射電極を接地する短絡線を備え、
前記第1及び第2の素子と短絡線は基体に支持された帯状導体で形成され、
前記短絡線を複数箇所で折れ曲がって形成して、前記放射電極と前記短絡線との接続点から給電点までの間に接続され接地されたキャパシタンスとインダクタンスを構成することを特徴とするマルチバンドアンテナ。
【請求項1】
放射電極として、一端側が給電点に接続され他端側が開放端の第1の素子と、一端側が前記給電点と接続し他端側が開放端であり、前記第1の素子よりも素子長さが長く形成された第2の素子と、前記放射電極を接地する短絡線を備え、
第1の素子は第1の周波数f1で直列共振する第1の放射電極を構成し、第2の素子は前記第1の周波数f1よりも低周波数の第2の周波数f2と、前記第1の周波数f1よりも高周波数の第3の周波数f3で直列共振する第2の放射電極を構成し、
前記放射電極と前記短絡線との接続点から給電点までの間に接続された並列共振回路が接地され、
前記並列共振回路のリアクタンス要素は、少なくとも一部が前記短絡線により形成され、前記並列共振回路により前記第3の周波数f3を調整することを特徴とするマルチバンドアンテナ。
【請求項2】
放射電極として、一端側が給電点に接続され他端側が開放端の第1の素子と、一端側が前記給電点と接続し他端側が開放端であり、前記第1の素子よりも素子長さが長く形成された第2の素子と、前記放射電極を接地する短絡線を備え、
前記放射電極と前記短絡線との接続点から給電点までの間に接続されたキャパシタンスを接地し、前記キャパシタンスの一部には、第1の素子と短絡線との間に形成されたキャパシタンス、短絡線と接地との間に形成されたキャパシタンス、又は短絡線の線間に形成されたキャパシタンスのいずれかを含み、
前記マルチバンドアンテナは、第1の素子を第1の放射電極として、第1の周波数f1で直列共振し、第2の素子を第2の放射電極として、前記第1の周波数f1よりも低周波数の第2の周波数f2と、前記第1の周波数f1よりも高周波数の第3の周波数f3で直列共振し、
前記第1の周波数f1〜前記第3の周波数f3は、f2<f1<1.05×f1<f3<3×f2の関係にあることを特徴とするマルチバンドアンテナ。
【請求項3】
前記短絡線と直列にインダクタンスが接続されたことを特徴とする請求項1又2に記載のマルチバンドアンテナ。
【請求項4】
前記短絡線と並列に可変キャパシタンス素子が接続されたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のマルチバンドアンテナ。
【請求項5】
放射電極として、一端側が給電点に接続され他端側が開放端の第1の素子と、一端側が前記給電点と接続し他端側が開放端であり、前記第1の素子よりも素子長さが長く形成された第2の素子と、前記放射電極を接地する短絡線を備え、
前記第1及び第2の素子と短絡線は基体に支持された帯状導体で形成され、
前記基体を搭載する実装基板にリアクタンス素子が実装され、前記リアクタンス素子は少なくとも、前記放射電極と前記短絡線との接続点から給電点までの間に接続され接地されたキャパシタンスを有することを特徴とするマルチバンドアンテナ。
【請求項6】
放射電極として、一端側が給電点に接続され他端側が開放端の第1の素子と、一端側が前記給電点と接続し他端側が開放端であり、前記第1の素子よりも素子長さが長く形成された第2の素子と、前記放射電極を接地する短絡線を備え、
前記第1及び第2の素子と短絡線は基体に支持された帯状導体で形成され、
前記基体には誘電体素子を配置する窪みが設けられ、前記誘電体素子は、前記放射電極と前記短絡線との接続点から給電点までの間に接続され接地されたキャパシタンスを構成することを特徴とするマルチバンドアンテナ。
【請求項7】
放射電極として、一端側が給電点に接続され他端側が開放端の第1の素子と、一端側が前記給電点と接続し他端側が開放端であり、前記第1の素子よりも素子長さが長く形成された第2の素子と、前記放射電極を接地する短絡線を備え、
前記第1及び第2の素子と短絡線は基体に支持された帯状導体で形成され、
前記短絡線を複数箇所で折れ曲がって形成して、前記放射電極と前記短絡線との接続点から給電点までの間に接続され接地されたキャパシタンスとインダクタンスを構成することを特徴とするマルチバンドアンテナ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2012−182632(P2012−182632A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43807(P2011−43807)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]