説明

マルチパス検出方法、マルチパス検出プログラム、マルチパス検出装置、およびGNSS受信装置

【課題】直接波信号とマルチパス波信号とのコード位相差が小さくても確実にマルチパスを検出する。
【解決手段】マルチパス検出部54のPe相関部31には、Promptレプリカ信号に対して、1chip遅延の第1レプリカ信号と(1+x)chip遅延の第2レプリカ信号が与えられる。Pe相関部31は、ベースバンド信号と第1レプリカ信号および第2レプリカ信号との相関処理を行い、ベースバンド信号と第1レプリカ信号との相関結果から、ベースバンド信号と第2レプリカ信号との相関結果を差分演算する。この差分演算結果は、直接波信号のみであれば理論的に零となり、マルチパス波信号が含まれると零でない所定値となる。したがって、マルチパス判定部32は、零でない閾値Thを設定し、差分演算結果と閾値Thを比較することでマルチパスの有無の判定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、間接受信信号であるマルチパス信号の有無を検出するマルチパス検出方法、特に、GNSS信号におけるマルチパス信号の有無を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GPS信号等のGNSS信号を受信して追尾するGNSS受信装置では、追尾精度の劣化する要因の一つとして、マルチパスが問題となっている。マルチパスとは、受信機周囲の高層建築物等に反射してから受信機に到達するGNSS信号であるマルチパス信号を、直接到来したGNSS信号とともに受信することで生じる。
【0003】
そして、従来から、特許文献1に示すように、マルチパスを検出する方法および装置が各種考案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−159261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法を含む従来のマルチパス検出方法では、直接波信号とマルチパス信号とのコード位相差が比較的大きくなければ、マルチパスを検出することができなかった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、直接波信号とマルチパス信号とのコード位相差が小さくても確実にマルチパスを検出することができるマルチパス検出方法およびマルチパス検出装置を提供することにある。また、このマルチパス検出方法およびマルチパス検出装置を用いたGNSS受信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、直接波信号とマルチパス波信号とを受信することで生じるマルチパスを検出するマルチパス検出方法に関する。このマルチパス検出方法では、相関処理工程およびマルチパス判定工程を有する。相関処理工程では、受信信号に対する相関値が最大となる基準タイミングに対して受信信号に対する相関値が略0になるタイミング分だけ位相シフトした第1タイミングの第1レプリカ信号と受信信号との相関処理を行う第1相関処理を実行する。さらに、相関処理工程では、基準タイミングから第1タイミングと同じ位相シフトの方向に第1タイミングよりも大きく位相シフトした第2タイミングの第2レプリカ信号と受信信号との相関処理を行う第2相関処理を実行する。マルチパス判定工程では、第1相関処理結果と第2相関処理結果とに基づいて、マルチパス波の有無の判定を行う。
【0008】
この方法を用いることで、受信信号が直接波信号のみであれば第1タイミングおよび第2タイミングでの相関結果が零となり、マルチパス波信号を含んでいれば第1タイミングおよび第2タイミングでの相関結果が正値となる。したがって、このような相関結果の相違を検出することで、マルチパスの有無を検出できる。特に、この方法の場合、直接波信号に対する相関結果が零になる位相の近傍のタイミングをマルチパス判定用の第1タイミングおよび第2タイミングとしているので、直接波信号とマルチパス波信号とのコード位相差が大きくなくてもマルチパスの有無が検出できる。
【0009】
また、この発明のマルチパス検出方法では、第1相関処理の結果と第2相関処理の結果とを差分演算する差分演算工程を有する。マルチパス判定工程は、差分演算値が所定の閾値以上である場合にマルチパス有りと判定する。
【0010】
この方法では、具体的なマルチパス判定用データの生成方法を示している。上述のように、マルチパス波信号がある場合、第1レプリカ信号および第2レプリカ信号で相関結果を取得する第1タイミングおよび第2タイミングでの相関結果は異なる。したがって、これら相関結果の差分を算出すれば、零にはならない。一方、直接波信号のみの場合には第1タイミング、第2タイミングともに相関結果が零になり、差分結果も零になる。これを利用することで、マルチパスの有無を検出できる。
【0011】
また、この発明のマルチパス検出方法では、差分演算値のパワー値を算出するパワー算出工程を有する。マルチパス判定工程は、差分演算値のパワー値と所定の閾値とでマルチパス判定を行う。
【0012】
この方法では、差分演算値をパワー値にしてマルチパスの判定に利用する場合を示している。
【0013】
また、この発明のマルチパス検出方法では、パワー値を所定区間分積算する積算工程を有する。マルチパス判定工程は、積算値と所定の閾値とでマルチパル判定を行う。
【0014】
この方法では、上述のパワー値を積算することで、よりマルチパスの有無での相違が明確になる。したがって、より確実にマルチパスを検出できる。
【0015】
また、この発明のマルチパス検出方法では、マルチパス判定工程は、受信信号の信号レベルに応じた閾値を設定する。
【0016】
この方法では、受信信号の信号レベルに応じて閾値が変化するので、より正確にマルチパスを検出できる。
【0017】
また、この発明のマルチパス検出方法では、受信信号に対する相関結果に基づいて第1レプリカ信号と第2レプリカ信号とを生成するレプリカ信号生成工程を有する。当該レプリカ信号生成工程では、基準タイミングから位相遅延したレプリカ信号を、第1レプリカ信号および第2レプリカ信号に用いる。
【0018】
この方法では、マルチパス検出用の第1レプリカ信号および第2レプリカ信号の具体的生成方法を示している。マルチパス波信号は、通常、直接波信号よりも遅延するので、第1レプリカ信号および第2レプリカ信号を基準タイミングに対して位相遅延させることで、より確実にマルチパスを検出できる。
【0019】
また、この発明は、GNSS信号受信方法に関し、上述のマルチパス検出方法を含み、受信信号の追尾結果とマルチパス検出結果とに基づいて、測位演算を行う測位演算工程を、有する。
【0020】
この方法では、上述のマルチパス検出方法を含むGNSS信号受信方法を示している。
【0021】
また、この発明のGNSS信号受信方法では、マルチパス検出結果に基づいて、追尾用のレプリカ信号の生成タイミングを調整する、GNSS信号受信方法。
【0022】
この方法では、上述のマルチパス検出概念を追尾にも利用する。すなわち、追尾開始時期等では、基準タイミングで生成されるPromptレプリカ信号と受信信号との間に、或程度のコード位相差が生じる。この場合も、上述のマルチパス検出概念と同様に、相関結果が零となるべきコード位相範囲に、零でない相関結果が現れる。これを検出することで、Promptレプリカ信号のコード位相のズレを検出することができ、これをPromptレプリカ信号のコード位相の調整に利用することができる。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、直接波信号とマルチパス信号とのコード位相差が短くても、確実にマルチパスを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のマルチパス検出概念を説明するための図である。
【図2】本発明の実施形態のGNSS信号受信装置の主要構成図である。
【図3】本発明の実施形態のPe相関部31の具体的構成を示す構成図である。
【図4】直接波信号とマルチパス波信号との位相差と、マルチパス判定用演算値Pdcの積算値との関係を示す実験結果である。
【図5】閾値設定概念を説明するための図であり、受信信号レベルとマルチパス判定用演算値Pdcの積算値との相関図である。
【図6】マルチパス有無の判定処理フローを示すフローチャートである。
【図7】マルチパス波信号の信号レベルが直接波信号の信号レベルよりも大きな場合のマルチパスの検出概念を説明するための図である。
【図8】基準タイミングに対して位相が進んだ第1レプリカ信号SR’M1および第2レプリカ信号SR’M2を用いた場合のPe相関部31への各レプリカ信号の与え方を示すための構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態に係るマルチパス検出方法、マルチパス検出プログラムおよびマルチパス検出装置について説明する。なお、本実施形態では、GNSS信号受信方法およびGNSS信号受信装置におけるマルチパス検出方法およびマルチパス検出装置を例に示している。また、本実施形態では、GNSS信号としてGPS信号を用いた場合を示している。
【0026】
図1は本実施形態のマルチパスの検出概念を説明するための図である。図1において太実線は直接波信号の相関特性を示し、破線はマルチパス波信号の相関特性を示し、細実線は合成波信号(受信信号)の相関特性を示す。図1(A)はPromptレプリカ信号による直接波信号、マルチパス波信号および合成波の相関特性を示す相関カーブである。図1(B)は直接波信号に対するマルチパス波信号の遅延量に応じた、第1レプリカ信号と受信信号(直接波信号+マルチパス波信号)とのI相相関レベルと、第2レプリカ信号と受信信号(直接波信号+マルチパス波信号)とのI相相関レベルとの差分値の変化特性を示した図である。ここで、第1レプリカ信号は、Promptレプリカ信号に対してコード位相を1[chip]分遅延させた信号である。第2レプリカ信号は、Promptレプリカ信号に対して、コード位相を1+x[chip]分遅延させた信号である。なお、xは、図1(B)に示すように、1.0[chip]よりも小さく、例えば、0.05[chip]から0.1[chip]程度の値である。
【0027】
直接波信号は、GNSS信号受信装置のアンテナで直接受信したGPS衛星からのGPS信号を意味する。マルチパス波信号は、GNSS信号受信装置のアンテナで間接的に受信した、すなわちGPS衛星から放送された後に、高層ビル等に反射した後に受信したGPS信号を意味する。Promptレプリカ信号は、既知の衛星追尾用のDLL処理で設定される目的とする追尾点のコード位相タイミングに準じて生成されるGPS信号のレプリカ信号である。
【0028】
図1(A)に示すように、直接波信号の場合(図1(A)の太実線参照)、Promptレプリカ信号とコード位相差が0.0[chip]のタイミングで、相関値は最大値(理論上1.0)となる。直接波信号とPromptレプリカ信号とのコード位相差が0.0[chip]から±1.0[chip]へ離れるにしたがって徐々に相関値は低下する。直接波信号とPromptレプリカ信号とのコード位相差が+1.0[chip]以上もしくは−1.0[chip]以下では、相関値は常に0.0となる。これは、GPS信号のコードが1.0[chip]以上のコード位相ズレで自己相関しても相関値が0になるように、設定されているからである。
【0029】
マルチパス波信号は、通常、直接波信号に対してコード位相が遅延し、振幅が小さい信号である。したがって、マルチパス波信号(図1(A)の太波線参照)は、直接波信号に対する遅延時間分だけコード位相が遅延したコード位相y[chip]タイミングで、相関値が最大値となる。マルチパス波信号は、このコード位相y[chip]を中心として、直接波信号とPromptレプリカ信号とのコード位相差がy±1.0[chip]まで離れる間は、徐々に相関値が低下する。マルチパス波信号とPromptレプリカ信号とのコード位相差がy+1.0[chip]以上もしくはy−1.0[chip]以下では、相関値は常に0.0となる。
【0030】
このため、直接波信号とマルチパス波信号による合成波の相関特性は、図1(A)の細実線に示すように、コード位相の進む側と遅れる側とでスロープ形状が異なり、遅れる側では、+1.0[chip]以上であっても、0でない相関値が得られる。
【0031】
この特性を利用し、+1.0[chip]のコード位相での相関値と、+1.0+x(x<y<1.0)[chip]のコード位相での相関値とに着目する。直接波信号の場合、+1.0[chip]のコード位相でも+1.0+x[chip]のコード位相でも相関値は0である。したがって、これらの差分値も0となる。マルチパス波信号が存在する場合、+1.0[chip]のコード位相と+1.0+x[chip]のコード位相で、それぞれに、ともに0でなく、異なる相関値となる。この際、+1.0[chip]のコード位相の相関値が+1.0+x[chip]のコード位相の相関値よりも大きくなる。したがって、+1.0[chip]のコード位相の相関値から+1.0+x[chip]のコード位相の相関値を差分すると、0でない正値となる。
【0032】
このような+1.0[chip]のコード位相の相関値から+1.0+x[chip]のコード位相の相関値を差分した差分値は、直接波信号に対するマルチパス波信号の遅延量に応じて、図1(B)に示すように変化する。なお、図1(B)はI相相関値間の差分値である。このように、マルチパス波信号が存在すれば、その遅延量が2.0+x[chip]以下の範囲内(正確には、1.0+x/2[chip]を除く)で、相関値が0でなくなる。したがって、このように相関値が0でないことを検出すれば、遅延量が例えば0.05等と少なくても、マルチパスを確実に検出することができる。なお、特異点である1.0+x/2[chip]では、相関値が0になってしまうが、連続的に相関値を算出し続ければ、外部環境の影響を受けやすいマルチパス波信号は長時間一定のコード位相で受信することは殆ど無いため、マルチパスを検出することができる。特に移動体にGNSS信号受信装置を搭載した場合には、マルチパス波信号のコード位相は変化しやすいので、より確実にマルチパスを検出できる。
【0033】
次に、上述のマルチパス検出方法を実現するGNSS信号受信装置の構成について説明する。図2は本実施形態のGNSS信号受信装置1の主要構成図である。
【0034】
GNSS信号受信装置1は、アンテナ50、RF処理部51、ベースバンド変換部52、キャリア相関部53、コード追尾部54、および測位演算部56を備える。
【0035】
アンテナ50は、各GPS衛星から放送されたGPS信号を受信して、受信信号をRF処理部51へ出力する。RF処理部51は、受信したGPS信号をダウンコンバートして、中間周波数信号(IF信号)を生成し、ベースバンド変換部52およびキャリア相関部53へ出力する。
【0036】
キャリア相関部53は、IF信号とキャリア周波数信号とを乗算して、キャリア位相差を算出する。出力されたキャリア位相差は、所定時定数のループフィルタを介してキャリアNCOへフィードバックされる。キャリアNCOは、フィードバックされたキャリア位相に基づいてキャリア周波数信号を生成する。なお、検出したキャリア位相差は、測位演算部56へも出力される。
【0037】
ベースバンド変換部52は、IF信号にキャリア周波数信号を乗算することで、ベースバンド信号Sを生成する。ベースバンド信号Sはコード追尾部54へ出力される。
【0038】
コード追尾部54は、ベースバンド信号Sの追尾処理を行うとともに、マルチパス有無の判定を行う。コード追尾部54の詳細は後述するが、コード追尾部54は、P相関部11によるPrompt相関値、ループフィルタ15によるE−L相関値の積算値、マルチパス検出結果を、測位演算部56へ出力する。
【0039】
測位演算部56は、Prompt相関値から航法メッセージを解読する。測位演算部56は、E−L相関値の積算値から疑似距離を算出する。測位演算部56は、航法メッセージと疑似距離とを用いて、既知の方法で測位演算を行う。この際、測位演算部56は、キャリア位相を用いることで、より高精度な測位演算を行うこともできる。また、測位演算部56は、マルチパス検出結果に基づいて、航法方程式のパラメータを適宜設定することで、より確実且つ正確に測位演算を行うことができる。
【0040】
次に、コード追尾部54の具体的構成および処理について説明する。コード追尾部54は、P相関部11、E相関部12、L相関部13、加減算器14、ループフィルタ15、コードNCO21、シフトレジスタ22、Pe相関部31、マルチパス判定部32を備える。このコードNCO21、シフトレジスタ22、Pe相関部31、マルチパス判定部32によりマルチパス検出部55が構成される。コード追尾部54は、所謂Early−Late相関を行うことで、コード追尾を行う相関部である。
【0041】
ベースバンド信号Sは、P相関部11、E相関部12、L相関部13、Pe相関部31へ入力される。
【0042】
P相関部11は、Promptレプリカ信号SRとベースバンド信号Sとを乗算してPrompt相関値を出力する。Prompt相関値は測位演算部56へ入力される。
【0043】
E相関部12は、Promptレプリカ信号SRに対してコード位相が1/2chip分進むEarlyレプリカ信号SRとベースバンド信号Sとを乗算してEarly相関値を出力する。L相関器13は、Promptレプリカ信号SRに対してコード位相が1/2chip分遅れるLateレプリカ信号SRとベースバンド信号Sとを乗算してLate相関値を出力する。なお、本実施形態では、Early,Prompt,Lateの各位相差を1/2chipとしているが、位相差(所謂スペーシング)は状況に応じて適宜設定すればよい。また、本実施形態では、単に各レプリカ信号とベースバンド信号Sとを相関処理するように記載したが、実際には、I相レプリカ信号とQ相レプリカ信号とによりベースバンド信号Sとの相関処理を行い、各相関値を算出している。
【0044】
加減算器14は、Early相関値からLate相関値を差分することで、E−L相関値を生成する。E−L相関値は、ループフィルタ15を介してコードNCO21へフィードバックされるとともに測位演算部56へも出力される。
【0045】
コードNCO21は、E−L相関値に基づいてレプリカ信号を生成し、シフトレジスタ22へ出力する。
【0046】
シフトレジスタ22は、コードNCO21からのレプリカ信号に基づいて、互いにコード位相が1/2[chip]分ずつ異なるEarlyレプリカ信号SR、Promptレプリカ信号SR、およびLateレプリカ信号SRを生成する。Promptレプリカ信号はP相関部11へ、Earlyレプリカ信号はE相関部12へ、Lateレプリカ信号はL相関部13へ同期して出力される。
【0047】
以上のようなフィードバックループの構成および処理により、コード追尾処理が行われる。
【0048】
本実施形態のGNSS信号受信装置1では、さらに次の構成および処理により、マルチパスの検出が行われる。
【0049】
シフトレジスタ22は、Promptレプリカ信号に対してコード位相が1.0[chip]遅延した第1タイミングでマルチパス検出用の第1レプリカ信号SRM1を生成する。シフトレジスタ22は、Promptレプリカ信号に対してコード位相が1.0+x[chip]遅延した第2タイミングでマルチパス検出用の第2レプリカ信号SRM2を生成する。なお、ここで、xは、1.0よりも小さい所定値であり、例えば0.05[chip]から0.1[chip]程度を選択するとよい。
【0050】
第1レプリカ信号SRM1および第2レプリカ信号SRM2は、Pe相関部31へ入力される。図3はPe相関部31の具体的構成を示す構成図である。
【0051】
Pe相関部31は、位相反転器310A,310B、I1相関器311、I2相関器312、Q1相関器313、Q2相関器314、加減算器315A,315B,317、パワー算出部316A,316B、積算部318を備える。
【0052】
位相反転器310Aは、第1レプリカ信号SRM1を位相反転して第1Q相レプリカ信号を生成する。位相反転器310Bは、第2レプリカ信号SRM2を位相反転して第2Q相レプリカ信号を生成する。
【0053】
I1相関器311は、第1レプリカ信号SRM1すなわち第1I相レプリカ信号と、ベースバンド信号とを乗算して第1I相相関値L1iを出力する。これにより、Promptレプリカ信号のコード位相基準タイミングから1[chip]遅延したコード位相でのI相相関値が得られる。
【0054】
I2相関器312は、第2レプリカ信号SRM2すなわち第2I相レプリカ信号と、ベースバンド信号とを乗算して第2I相相関値L1ixを出力する。これにより、Promptレプリカ信号のコード位相基準タイミングから1+x[chip]遅延したコード位相でのI相相関値が得られる。
【0055】
加減算器315Aは、第1I相相関値L1iから第2I相相関値L1ixを差分し、すなわち、(L1i−L1ix)の演算を行い、I相差分値を算出する。パワー算出部316Aは、I相差分値を二乗し、すなわち(L1i−L1ix)の演算を行い、I相差分値のパワー値PIを算出する。
【0056】
Q1相関器313は、第1Q相レプリカ信号とベースバンド信号とを乗算して第1Q相相関値L1qを出力する。これにより、Promptレプリカ信号のコード位相基準タイミングから1[chip]遅延したコード位相でのQ相相関値が得られる。
【0057】
Q2相関器312は、第2Q相レプリカ信号と、ベースバンド信号とを乗算して第2Q相相関値L1qxを出力する。これにより、Promptレプリカ信号のコード位相基準タイミングから1+x[chip]遅延したコード位相でのQ相相関値が得られる。
【0058】
加減算器315Bは、第1Q相相関値L1qから第2Q相相関値L1qxを差分し、すなわち、(L1q−L1qx)の演算を行い、Q相差分値を算出する。パワー算出部316Bは、Q相差分値を二乗し、すなわち(L1q−L1qx)の演算を行い、Q相差分値のパワー値PQを算出する。
【0059】
加減算器317は、I相差分値のパワー値PIとQ相差分値のパワー値PQとを加算してマルチパス判定用演算値Pdcを生成する。したがって、マルチパス判定用演算値Pdcは次式で表される。
【0060】
Pdc=(L1i−L1ix)+(L1q−L1qx) −(式1)
このマルチパス判定用演算値Pdcは、式1からもわかるように、Promptレプリカ信号に対してコード位相が1.0[chip]遅延したタイミングの相関値と、Promptレプリカ信号に対してコード位相が1.0+x[chip]遅延したタイミングの相関値との差分値に依存する。したがって、上述の発明概念に示したように、マルチパスが存在しなければ理論的に0となり、マルチパスが存在すれば0でない所定値となる。そして、特にパワー値に変換することで、その差を、より大きくすることができる。
【0061】
積算部318は、マルチパス判定用演算値Pdcを所定時間長に亘り積算する。例えば、積算部318は、マルチパス判定用演算値Pdcは、GPS信号のコードチップ長に応じて20msec.の期間でコヒーレント積算する。積算部318は、マルチパス判定用演算値Pdcの積算値をマルチパス判定部32へ出力する。
【0062】
マルチパス判定部32は、積算値を予め設定した「0」でない閾値Thと比較して、マルチパスの有無を判定する。具体的には、マルチパス判定部32は、積算値が閾値Thよりも大きければマルチパス有りと判定し、積算値が閾値Th以下であればマルチパス無しと判定する。マルチパスの有無の判定結果(マルチパス検出結果)は、測位演算部56へ出力される。
【0063】
この際、マルチパス判定部32は、マルチパス判定用演算値Pdcの積算値を記憶する記憶部を備えておき、複数回(例えば、50回)分の積算値を、ノンコヒーレント積算して、このノンコヒーレント積算値に基づいてマルチパスの有無の判定を行ってよい。そして、このようにサンプル数を増加させることで、より正確にマルチパスの有無を判定することができる。
【0064】
また、閾値Thは、実験的に、マルチパスが無い状態でのマルチパス判定用演算値Pdcの積算値を複数回サンプリングしておき、当該積算値の平均値に、当該積算値の標準偏差σの4〜5倍程度(4σ〜5σ程度)を加算した値に設定している。このような値に設定することで、観測ノイズ等の影響を受けても、確実にマルチパスの有無の判定を行うようにすることができる。
【0065】
このように、本実施形態の構成および処理を用いることで、マルチパスの有無を確実に検出することができる。
【0066】
図4は、直接波信号とマルチパス波信号との位相差と、マルチパス判定用演算値Pdcの積算値との関係を示す実験結果である。図4(A)は、xとして0.05[chip]を設定した場合を示し、図4(B)は、xとして0.075[chip]を設定した場合を示す。図4に示すように、本実施形態の構成および処理を用いることで、直接波信号とマルチパス波信号との位相差が0.03[chip]程度の近接マルチパスであっても、マルチパスの発生を確実に検出することができる。
【0067】
なお、上述の説明では、閾値Thを単にマルチパスが無い条件でのマルチパス判定用演算値Pdcの積算値から設定したが、ベースバンド信号レベルすなわち受信信号レベルに応じて閾値Thを可変にしてもよい。図5は、閾値設定概念を説明するための図であり、受信信号レベルとマルチパス判定用演算値Pdcの積算値との相関図である。図中の太実線が、可変型の閾値fThを示す。
【0068】
図5に示すように、マルチパス判定用演算値Pdcおよび積算値は、受信信号レベルが高くなるとほぼ比例して高くなる。したがって、可変型の閾値fThも受信信号レベルに応じて線形に変化させる。これにより、受信信号レベルに適した閾値に設定されるので、より正確にマルチパス有無の判定を行うことができる。
【0069】
また、上述の説明では、GNSS信号受信装置の各回路構成部を個別のブロックで示したが、これらのブロックで行う処理をプログラム化して記憶しておき、CPUの演算処理デバイスで実行するようにしてもよい。以下では、マルチパス有無の判定に関する処理のみをプログラム化した場合の処理フローについて説明する。図6は、マルチパス有無の判定処理フローを示すフローチャートである。なお、詳細な処理の説明は、上述の説明に記載したので、ここでは処理の流れを概略的に説明する。
【0070】
まず、ベースバンド信号に対して、第1I相レプリカ信号、第2I相レプリカ信号、第1Q相レプリカ信号、第2Q相レプリカ信号をそれぞれ乗算し、第1I相相関値L1i、第2I相相関値L1ix、第1Q相相関値L1q、第2Q相相関値L1qxを取得する(S101)。
【0071】
次に、I相差分値(L1i−L1ix)およびQ相差分値(L1q−L1qx)を算出する(S102)。
【0072】
次に、I相差分値のパワー値PIを(L1i−L1ix)の演算で算出するとともに、Q相差分値のパワー値PQを(L1q−L1qx)の演算で算出する(S103)。
【0073】
次に、マルチパス判定用演算値Pdcを、上述の(式1)の計算を用いて算出する(S104)。
【0074】
次に、マルチパス判定演算値Pdcを積算し、積算値を得る(S105)。
【0075】
次に、積算値と閾値Thを比較し、積算値が閾値Thよりも大きければ、マルチパス有りと判定する(S106:Yes,S107)。積算値が閾値Th以下であれば、マルチパス無しと判定する(S106:No,S108)。
【0076】
このような一連の処理を行っても、上述のようにマルチパスの発生を確実且つ正確に検出することができる。
【0077】
なお、上述の説明では、第1レプリカ信号および第2レプリカ信号を、Promptレプリカ信号よりもコード位相が遅れた信号に設定したが、Promptレプリカ信号よりもコード位相が進んだ信号に設定してもよい。このように、進んだレプリカ信号を用いれば、マルチパス波信号の信号レベルが直接波信号の信号レベルよりも大きな場合でも、マルチパスの有無を判定することができる。
【0078】
具体的には、図7に示すような受信環境の場合に有効である。図7は、マルチパス波信号の信号レベルが直接波信号の信号レベルよりも大きな場合のマルチパスの検出概念を説明するための図である。図7においても、太実線は直接波信号の相関特性を示し、破線はマルチパス波信号の相関特性を示し、細実線は合成波信号(受信信号)の相関特性を示す。
【0079】
図7に示すように、マルチパス波信号の信号レベルが直接波信号の信号レベルよりも高い場合、マルチパス波信号と直接波信号とが合成された合成波信号(受信信号)の相関カーブは、マルチパス波信号の相関最大の位相で最大となる。このため、レプリカ信号はマルチパス波信号に対する相関結果に基づいて基準タイミング(図7の位相0.0のタイミング)が設定されてしまう。
【0080】
基準タイミングがマルチパス波信号に追随することで、直接波信号は、図7の太実線に示すように、基準タイミングから遅れた位相タイミングで相関レベルが最大になる相関特性となる。
【0081】
したがって、マルチパス波信号に対する相関値は、基準タイミングから位相の進む方向へ1.0[chip]以上となるタイミング(図7の−1.0[chip]のタイミング)で0.0となる。
【0082】
また、直接波信号とマルチパス波信号との位相差をyとすると、直接波信号に対する相関値は、基準タイミングから位相の進む方向へ1.0+y[chip]以上となるタイミング(図7の−1.0−y[chip]のタイミング)で0.0となる。
【0083】
すなわち、基準タイミングに対して、−1.0−y[chip]のタイミングから−1.0[chip]のタイミングの間は、マルチパス波信号に対する相関値が0.0で直接波信号に対する相関値が正値となる。したがって、
−1.0−y[chip]<−1.0−x[chip]<−1.0[chip]
となる、−1.0−x[chip]のタイミングで、マルチパス波信号に対する相関値と直接波信号に対する相関値との差分の絶対値を取れば、必ず正値となる。
【0084】
このような概念を用い、上述の第1タイミングとして−1.0[chip]のタイミングで第1レプリカ信号SR’M1を生成し、上述の第2タイミングとして−1.0−x[chip]のタイミングで第2レプリカ信号SR’M2を生成する。そして、これら第1レプリカ信号SR’M1および第2レプリカ信号SR’M2を、図8に示すように、Pe相関部31に与える。図8は基準タイミングに対して位相が進んだ第1レプリカ信号SR’M1および第2レプリカ信号SR’M2を用いた場合のPe相関部31への各レプリカ信号の与え方を示すための構成図である。
【0085】
このように、基準タイミングに対して位相が進んだ第1レプリカ信号SR’M1および第2レプリカ信号SR’M2の設定を行っても、上述の基準タイミングに対して位相が遅れた第1レプリカ信号SRM1および第2レプリカ信号SRM2を用いる構成および処理と同様にマルチパスの有無を検出することができる。
【0086】
また、さらに、位相が遅れる側と位相が進む側の両方にマルチパス検出用のレプリカ信号を設けてもよい。これにより、直接波信号とマルチパス波信号とのコード位相関係や、直接波信号とマルチパス波信号との振幅の大小関係に影響されることなく、確実にマルチパスの有無を判定することができる。
【0087】
また、上述の処理を利用することで、コード追尾初期のコード追尾タイミングの調整に利用することもできる。コード追尾初期には、受信信号が直接波信号のみであったとしても、Promptレプリカ信号のコード位相が受信信号のコード位相と必ずしも完全に一致するわけではない。この場合、上述のように、Promptレプリカ信号のコード位相と受信信号のコード位相との位相差に応じて、第1レプリカ信号および第2レプリカ信号と受信信号との相関結果が零でない値になる。この現象を利用することで、コード追尾初期のPromptレプリカ信号と受信信号とのコード位相のズレを、上述のマルチパス判定用演算値Pdcから検出することができる。さらに、上述のように、Promptレプリカ信号に対して位相が遅れる側と位相が進む側の両方に第1レプリカ信号、第2レプリカ信号を形成し相関処理すれば、コード位相のズレが遅れる側で生じているか進む側で生じているかも検出することができる。
【0088】
また、上述の説明では、GPS信号を用いており、1[chip]以上のコード位相差で相関値が零になる場合を示した。しかしながら、他のコード変調通信信号を用いた場合で、L[chip]以上のコード位相差で相関値が零になる場合には、L[chip]のコード位相とL+x[chip]のコード位相をマルチパス判定用に用いればよい。
【0089】
また、上述の説明では相関値が零なるタイミングを用いたが、相関値が零となる側すなわちコード位相が離れる側であれば、相関値が零となるタイミングよりも或程度間隔を置いたタイミングを用いることもできる。
【符号の説明】
【0090】
1−GNSS信号受信装置、50−アンテナ、51−RF処理部、52−ベースバンド変換部、53−キャリア相関部、54−コード追尾部、55−マルチパス検出部、56−測位演算部、11−P相関部、12−E相関部、13−L相関部、14−加減算器、15−ループフィルタ、21−コードNCO、22−シフトレジスタ、31−Pe相関部、32−マルチパス判定部、
310A,310B−位相反転器、311−I1相関器、312−I2相関器、313−Q1相関器、314−Q2相関器、315A,315B,317−加減算器、316A,316B−パワー算出部、318−積算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直接波信号とマルチパス波信号とを受信することで生じるマルチパスを検出するマルチパス検出方法であって、
前記受信信号に対する相関値が最大となる基準タイミングに対して前記受信信号に対する相関値が略0になるタイミング分だけ位相シフトした第1タイミングの第1レプリカ信号と前記受信信号との相関処理を行う第1相関処理、および前記基準タイミングから前記第1タイミングと同じ位相シフトの方向に前記第1タイミングよりも大きく位相シフトした第2タイミングの第2レプリカ信号と前記受信信号との相関処理を行う第2相関処理を実行する相関処理工程と、
前記第1相関処理結果と前記第2相関処理結果とに基づいて、マルチパス波の有無の判定を行うマルチパス判定工程と、を有するマルチパス検出方法。
【請求項2】
請求項1に記載のマルチパス検出方法であって、
前記第1相関処理結果と前記第2相関処理結果とを差分演算する差分演算工程を有し、
前記マルチパス判定工程は、
前記差分演算値が所定の閾値以上である場合にマルチパス有りと判定する、マルチパス検出方法。
【請求項3】
請求項2に記載のマルチパス検出方法であって、
前記差分演算値のパワー値を算出するパワー算出工程を有し、
前記マルチパス判定工程は、
前記差分演算値のパワー値と前記所定の閾値とでマルチパス判定を行う、マルチパス検出方法。
【請求項4】
請求項3に記載のマルチパス検出方法であって、
前記パワー値を所定区間分積算する積算工程を有し、
前記マルチパス判定工程は、
前記積算値と前記所定の閾値とでマルチパル判定を行う、マルチパス検出方法。
【請求項5】
請求項2乃至請求項4のいずれかに記載のマルチパス検出方法であって、
前記マルチパス判定工程は、
前記受信信号の信号レベルに応じた前記閾値を設定する、マルチパス検出方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のマルチパス検出方法であって、
前記受信信号に対する相関結果に基づいて前記第1レプリカ信号と前記第2レプリカ信号とを生成するレプリカ信号生成工程を有し、
該レプリカ信号生成工程は、
前記基準タイミングから位相遅延したレプリカ信号を、前記第1レプリカ信号および前記第2レプリカ信号に用いる、マルチパス検出方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のマルチパス検出方法を含み、
前記受信信号の追尾結果と、前記マルチパス検出結果とに基づいて、測位演算を行う測位演算工程を、有するGNSS信号受信方法。
【請求項8】
請求項7に記載のGNSS信号受信方法であって、
前記マルチパス検出結果に基づいて、追尾用のレプリカ信号の生成タイミングを調整する、GNSS信号受信方法。
【請求項9】
直接波信号とマルチパス波信号とを受信することで生じるマルチパスを検出するためのマルチパス検出プログラムであって、
前記受信信号に対する相関値が最大となる基準タイミングに対して前記受信信号に対する相関値が略0になるタイミング分だけ位相シフトした第1タイミングの第1レプリカ信号と前記受信信号との相関処理を行う第1相関処理、および前記基準タイミングから前記第1タイミングと同じ位相シフトの方向に前記第1タイミングよりも大きく位相シフトした第2タイミングの第2レプリカ信号と前記受信信号との相関処理を行う第2相関処理を含む相関処理と、
前記第1相関処理結果と前記第2相関処理結果とに基づいて、マルチパス波の有無の判定を行うマルチパス判定処理と、を有するマルチパス検出プログラム。
【請求項10】
直接波信号とマルチパス波信号とを受信することで生じるマルチパスを検出するマルチパス検出装置であって、
前記受信信号に対する相関値が最大となる基準タイミングに対して前記受信信号に対する相関値が略0になるタイミング分だけ位相シフトした第1タイミングの第1レプリカ信号と前記受信信号との相関処理を行う第1相関処理、および前記基準タイミングから前記第1タイミングと同じ位相シフトの方向に前記第1タイミングよりも大きく位相シフトした第2タイミングの第2レプリカ信号と前記受信信号との相関処理を行う第2相関処理を実行する相関処理部と、
前記第1相関処理結果と前記第2相関処理結果とに基づいて、マルチパス波の有無の判定を行うマルチパス判定部と、を備えるマルチパス検出装置。
【請求項11】
請求項10に記載のマルチパス検出装置を備え、
前記受信信号の追尾結果と、前記マルチパス検出結果とに基づいて、測位演算を行う測位演算部を、備えたGNSS信号受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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