説明

マルチワイヤ配線板用絶縁電線およびこの絶縁電線を用いたマルチワイヤ配線板

【目的】高密度布線が可能なワイヤ及び耐熱性に優れた高密度なマルチワイヤ配線板を提供すること。
【構成】芯線と絶縁層から成る絶縁電線の絶縁層表面にBステージ状態で軟化点が35〜85℃の範囲に接着層を塗工した絶縁電線であり、かつ、この接着層の硬化物の軟化点が110℃以上であること。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、絶縁被覆された金属電線を回路導体に用いたマルチワイヤ配線板に用いる絶縁電線及びこの絶縁電線を用いたマルチワイヤ配線板に関する。
【0002】
【従来の技術】マルチワイヤ配線板は、内層回路を形成した絶縁基板上に接着剤塗膜を設け、数値制御布線機により導体回路形成のための絶縁電線を這わせると同時に超音波振動により加熱溶融することにより接着(以下布線と略)した後、プリプレグをラミネートして固定し、スルーホールによって層間を接続したものである。これに用いる従来の絶縁電線(以下ワイヤと略)は、直径0.10〜0.16mmの銅線にポリイミド樹脂を被服した後、布線時の接着力を高めるための接着層としてナイロン系の樹脂を塗布した2重構造になっている。
【発明が解決しようとする課題】
【0003】近年、ますます高密度化している電子機器にマルチワイヤ配線板を適用するためには従来より高密度の配線を行う必要が出てきた。上記ナイロン系接着層を持つワイヤを高密度に布線した場合、後から布線されるワイヤは基板上に形成された接着剤塗膜との接触面積が減少するため剥がれ易くなり、配線不良(以下、布線性が悪いと表現する)になりやすいことがわかっている。
【0004】また、高密度に布線したマルチワイヤ配線板は、従来の配線密度のものと比較して、水分を吸湿させた時の耐熱性が低下することがわかってきた。これは、乾燥して水分を除去した状態では問題ないが、高湿度雰囲気下で長期放置した後はんだフロート試験を行うと基板にふくれが生じる現象である。ふくれ部分を詳細に観察した結果、高密度に布線されたワイヤ交差部分で密集しているワイヤの接着層部分が起点となっていることがわかった。このため、ふくれの原因はワイヤの接着層が吸湿により脆弱となったためと推察する。本発明は、以上の様な欠点を解決し高密度布線が可能なワイヤ及び耐熱性に優れた高密度なマルチワイヤ配線板を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】本発明は、芯線と絶縁層から成る絶縁電線の絶縁層表面にBステージ状態で軟化点が35〜85℃の範囲に接着層を塗工した絶縁電線であり、かつ、この接着層の硬化物の軟化点が110℃以上であることに特徴がある。Bステージ状態で軟化点の範囲を規定した理由は、85℃より高い場合、ワイヤを布線すると剥がれによる配線不良が発生するためであり、35℃より低い場合、ボビン等に巻き付けたワイヤ同志がくっつきあって使用できなくなるからである。さらに、この接着層の硬化物の軟化点が110℃以上であることにより、このワイヤを用いて作製したマルチワイヤ配線板の水分を吸湿させた時の耐熱性が向上する。
【0006】また、本発明は、上記接着層が(ア)光散乱法による平均分子量が30000以上であり、かつ、希薄溶液の還元粘度が0.3dl/g以上である高分子量エポキシ重合体と、(イ)架橋剤とから成ることに特徴がある。
【0007】(ア)の光散乱法による平均分子量が30000以上であり、かつ、希薄溶液の還元粘度が0.3dl/g以上である高分子量エポキシ重合体としては、特開平4−120124号公報、特開平4−122714号公報、特開平4−339852号公報等に記載のあるものであり、現在市販されているフェノキシ樹脂等とは異なる。具体的に言えば2官能エポキシ樹脂と2官能フェノール類をケトン系、アミド系等の溶剤中でアルカリ金属触媒の存在下で直鎖状に高分子量化したものであり、フェノキシ樹脂では不可能である100μm以下の膜厚でフィルム形成可能な重合体である。このため、線形が細いワイヤの表面に均一にコーティングでき、また、ワイヤを布線するときに接着層が剥がれ落ちたりすることもない。
【0008】(イ)の高分子量エポキシ重合体の架橋剤としては、ブロックイソシアネート、アルキル化メラミン樹脂等がある。ブロックイソシアネートとしては、コロネート2503、コロネート2507、コロネート2515(日本ポリウレタン工業株式会社、商品名)、デスモジュールAPステーブル、デスモジュールBL1265、デスモジュールBL3175(住友バイエルウレタン株式会社、商品名)等がある。また、アルキル化メラミン樹脂としては、メラン20、22、25、X65、520、521、522、523(日立化成工業株式会社、商品名)等がある。
【0009】また、本発明は、上記接着層が(ア)光散乱法による平均分子量が30000以上であり、かつ、希薄溶液の還元粘度が0.3dl/g以上である高分子量エポキシ重合体と、(ウ)室温で液状のエポキシ樹脂を前記(ア)100重量部に対し50重量部以下と、(エ)前記(ウ)のエポキシ樹脂硬化剤とから成ることに特徴がある。ここで、成分(ア)は、上述と同じである。
【0010】(ウ)の室温で液状のエポキシ樹脂を50重量部以下とした理由は、このエポキシ樹脂を添加することによりBステージの軟化点の制御が容易になり、かつ、硬化することができるため硬化物の軟化点を高く維持できるためである。また、添加量を50重量部以下とした理由は、これ以上添加した場合ワイヤへ塗工すると、膜厚が布均一となるためである。このような室温で液状のエポキシ樹脂としては、エピコート828、エピコート827、エピコート825(油化シェルエポキシ株式会社製、商品名)、などのビスフェノールA型エポキシ樹脂や、これに、さらに反応性希釈剤を加えたエピコート801、エピコート802、エピコート815(油化シェルエポキシ株式会社製、商品名)などが使用できる。また、エピコート807(油化シェルエポキシ株式会社製、商品名)、YDF170(東都化成株式会社製、商品名)などのビスフェノールF型エポキシ樹脂や、エピコート152(油化シェルエポキシ株式会社、商品名)、DEN431DEN438(ダウケミカル社、商品名)等ノボラック型エポキシ樹脂やデナコールEX-821EX-512EX-313(ナガセ化成株式会社、商品名)、などが使用できる。
【0011】(エ)のエポキシ樹脂硬化剤としては、アミン類、イミダゾール類、フェノール類、酸無水物等が使用できる。アミン類としては、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン、グアニル尿素等があり、イミダゾール類としては、アルキル基置換イミダゾール、ベンズイミダゾール等があり、フェノール類としては、ヒドロキノン、レゾルシノール、ビスフェノールAおよびそのハロゲン化物、さらにこれらとアルデヒドとの縮合物であるノボラック、レゾール樹脂等があり、酸無水物としては、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸等がある。
【0012】また、本発明は、上記接着層が(ア)光散乱法による平均分子量が30000以上であり、かつ、希薄溶液の還元粘度が0.3dl/g以上である高分子量エポキシ重合体と、(イ)前記(ア)の高分子量エポキシ重合体の架橋剤と、(ウ)室温で液状のエポキシ樹脂が前記(ア)100重量部に対し50重量部以下と、(エ)前記(ウ)のエポキシ樹脂硬化剤と、から成ることを特徴とする。
【0013】ここで(ア)の高分子量エポキシ重合体は、上述と同じものであり、(ウ)の室温で液状のエポキシ樹脂を共に硬化させることにより、硬化物の軟化点を高くできる。
【0014】さらに、多官能フェノール類、イミダゾール類等でブロック化したブロックイソシアネートを(イ)、すなわち、前記(ア)の高分子量エポキシ重合体の架橋剤として選択することにより、架橋反応時に解離したブロック化剤を(エ)のエポキシ硬化剤として消費させることができる。このような、ブロックイソシアネートは既に公知のものであり、その合成法も良く知られている。
【0015】この他に、必要に応じてスルーホール内壁等のめっき密着性を上げること、および、アディティブ法で配線板を製造するために無電解めっき用触媒を加えることができる。
【0016】本発明ではこれらの組成物を有機溶剤中で混合して接着剤ワニスとする。有機溶剤としては、シクロヘキサノン等のケトン系、あるいはジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルフォルムアミド等のアミド系溶剤の内から選ばれたものおよびそれらの組み合せたものを用いる。
【0017】この、有機溶剤中で混合されたワニスを絶縁電線に被覆しマルチワイヤ配線板用のワイヤとするのであるが、ここで用いることのできる絶縁電線としては、銅または銅の表面に錫、銀、ニッケル等で被覆した直径0.06〜0.16mmの電線に絶縁層としてポリイミド樹脂をコーティングしたものであるが、この絶縁層は特に限定するものではない。また、本発明は、上記に述べた接着層を持つワイヤを用いたマルチワイヤ配線板であるところに特徴がある。本発明によるワイヤを用いたマルチワイヤ配線板は水分を吸湿させた時の耐熱性が従来の物に比較して良好である。
【0018】
【作用】ワイヤの接着層が、Bステージ状態で軟化点が35〜85℃とすることで、高密度に布線する時のワイヤと基板上に設けた接着剤塗膜間及びワイヤとワイヤ間の接着力を保持できるため布線性が良好で、かつ、保存性(ボビン等に巻かれた状態でワイヤ同志がくっつかない)も良好とすることができる。詳細な原因は不明であるが、ワイヤの接着層が硬化したときの軟化点を110℃以上とすることで、このワイヤを用いたマルチワイヤ配線板の吸湿状態での耐熱性が向上する。ワイヤの接着層に前記(ア)の光散乱法による平均分子量が30000以上であり、かつ、希薄溶液の還元粘度が0.3dl/g以上である高分子量エポキシ重合体を用いることで、布線性、耐熱性共に良好なマルチワイヤ配線板を作製できる。ワイヤの接着層に前記(ア)の光散乱法による平均分子量が30000以上であり、かつ、希薄溶液の還元粘度が0.3dl/g以上である高分子量エポキシ重合体100重量部に対し(イ)の室温で液状のエポキシ樹脂が50重量部以下と、(ウ)のエポキシ樹脂硬化剤より成る組成物を用いることで、上記(ウ)の室温で液状のエポキシ樹脂が可塑剤と同様の効果を発揮し、接着層のBステージ状態の軟化点を容易に制御可能とすることができ、かつ、硬化後の接着層の軟化点を110℃以上とすることができる。また、上記の(ア)(イ)(ウ)からなる組成に加え、さらに(エ)の高分子量エポキシ重合体の架橋剤を含む組成物を上記接着層として用いることで、さらに軟化点を向上することができる。
【0019】
【実施例】次に、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例1(ワイヤ接着層用ワニス)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量:171.5)171.5gすなわち1当量と、テトラブロムビスフェノールA(水酸基当量:271.9)271.9gすなわち1当量、および水酸化ナトリウム1.20gをN、N−ジメチルアセトアミド1037gに溶解させ、撹拌しながら温度を120℃に保ち、6時間保持した。その結果、光散乱法による分子量が121000、希薄溶液の還元粘度が0.89dl/gの高分子量エポキシ重合体溶液が得られた。これに、架橋剤として、イソシアネート基1.0当量に対し、1.2当量のフェノールでブロックしたトリエチレンジイソシアネートを高分子量エポキシ重合体中のアルコール性水酸基0.3当量となるように配合し、ワイヤ接着層用ワニスを得た。
(絶縁電線)直径0.10mmの電気用軟銅線にトレニース#2000(東レ株式会社、商品名)を炉長3mの焼付け炉で、炉温300℃、焼付け速度20m/分、焼付け回数11回で約10μmの厚さに塗布した。さらに、この絶縁電線に炉長1mの焼付け炉でワイヤ接着層用ワニスを、炉温140℃、焼付け速度5m/分の条件で、焼付け回数11回で約10μmの厚さに塗布した。作製したワイヤを熱機械分析機(TMA)を用いて圧縮モードで軟化点を測定した結果、57℃であった。この絶縁層をさらに170℃で1時間加熱硬化させると、その軟化点は123℃であった。
【0020】上記の半硬化した接着剤層を有するワイヤを用いて以下に示す方法で、マルチワイヤ配線板を作製した。
(接着剤塗膜付き基板)ガラス布エポキシ樹脂両面銅張積層板MCL−E−168(日立化成工業株式会社会製、商品名)に通常のエッチング法により回路を形成した。次いで、ガラス布エポキシ樹脂プリプレグGEA−168(日立化成工業株式会社製、商品名)を該基板の両面にプレス、硬化してアンダーレイ層を形成した。次いで、接着剤塗膜として、合成ゴム系のシートであるGEA−05N AS150(日立化成工業株式会社、商品名)を該基板の両面にプレスによりラミネートした。
(布線)続いて、該基板に4)で作製したワイヤを布線機により超音波加熱を加えながら布線した。
(オーバーレイ層形成)次にガラス布エポキシ樹脂プリプレグ(日立化成工業株式会社製、GEA−168)を両面に適用し、プレス、硬化させてオーバーレイ層を形成した。
(穴あけ/スルーホール形成)続いて、オーバーレイ層表面にポリエチレンフィルムをラミネートして、必要箇所に穴をあけ後、ホールクリーニングなとの前処理を行い、さらに、無電解銅めっき液に浸漬し、30μmの厚さにスルーホールめっきを行った後、上記ポリエチレンフィルムを剥離し、マルチワイヤ配線板を製造した。
(強制吸湿耐熱性試験)上記マルチワイヤ配線板を130℃で2時間乾燥して水分を除去した後、85℃、85%湿度下で32時間吸湿させた。その直後に、260℃のはんだ浴上に20秒浮かべた後、観察した。その結果、試料は異常なく良好な耐熱性を示した。
【0021】実施例2(ワイヤ接着層用ワニス)ビスフェノールA型エポキシ樹脂1当量と、2、7−ナフタレンジオール1当量を原料とし、光散乱法による分子量が239000、希薄溶液の還元粘度が1.41dl/gの高分子量エポキシ重合体のシクロヘキサン溶液を作製した。これに、架橋剤として、イソシアネート基1.0当量に対し、1.0当量のクレゾールでブロックしたトリレンジイソシアネートを、高分子量エポキシ重合体中のアルコール性水酸基に対し0.3当量となるように配合し、ワイヤ接着層用ワニスを得た。
(絶縁電線)接着剤に用いたワイヤ接着層用ワニスに上記のものを使用した他は、実施例1と同様に行った。その結果、軟化点は60℃であり、布線性は良好であった。また、接着層を硬化させたときの軟化点は131℃となった。さらに、この絶縁電線を用いたマルチワイヤ配線板は、実施例1と同様、耐熱性が良好であった。
【0022】実施例3(ワイヤ接着層用ワニス)ビスフェノールA型エポキシ樹脂1当量と、テトラブロムビスフェノールA1当量を原料とし、光散乱法による分子量が121000、希薄溶液の還元粘度が0.89dl/gの高分子量エポキシ重合体のN、N−ジメチルアセトアミド溶液を作製した。この溶液の樹脂分100重量部に対し、液状エポキシ樹脂として、エピコート828(油化シェルエポキシ株式会社製、商品名)を30重量部、エポキシ硬化剤としてイミダゾール2重量部混合し、ワイヤ接着層用ワニスを得た。
(絶縁電線)接着剤に用いたワイヤ接着層用ワニスに上記のものを使用した他は、実施例1と同様に行った。その結果、軟化点は51℃であり、布線性は良好であった。また、接着層を硬化させたときの軟化点は121℃となった。さらに、この絶縁電線を用いたマルチワイヤ配線板は、実施例1と同様、耐熱性が良好であった。
【0023】実施例4ワイヤ接着層用ワニスを塗布するときの条件を、炉温165℃とした以外は実施例3と同様に行った。その結果、軟化点は68℃であり、布線性は良好であった。また、接着層を硬化させたときの軟化点は121℃となった。さらに、この絶縁電線を用いたマルチワイヤ配線板は、実施例1と同様、耐熱性が良好であった。
【0024】実施例5(ワイヤ接着層用ワニス)ビスフェノールA型エポキシ樹脂1当量と、テトラブロムビスフェノールA1当量を原料とし、光散乱法による分子量が45000、希薄溶液の還元粘度が0.37dl/gの高分子量エポキシ重合体のシクロヘキサン溶液を作製した。この溶液の樹脂分100重量部に対し、液状エポキシ樹脂として、エピコート828(油化シェルエポキシ株式会社製、商品名)を30重量部、架僑剤兼エポキシ硬化剤として、イソシアネート基1.0当量に対しフェノールノボラック樹脂2.0当量でブロックしたトリレンジイソシアネートを高分子量エポキシ重合体中のアルコール性水酸基に対し0.3当量となるように配合し、ワイヤ接着層用ワニスを得た。
(絶縁電線)接着剤に用いたワイヤ接着層用ワニスに上記のものを使用した他は、実施例4と同様に行った。その結果、軟化点は65℃であり、布線性は良好であった。また、接着層を硬化させたときの軟化点は120℃となった。さらに、この絶縁電線を用いたマルチワイヤ配線板は、実施例1と同様、耐熱性が良好であった。
【0025】実施例6(ワイヤ接着層用ワニス)ビスフェノールA型エポキシ樹脂1当量と、ビスフェノールA1当量を原料とし、光散乱法による分子量が174000、希薄溶液の還元粘度が1.22dl/gの高分子量エポキシ重合体のN、N−ジメチルアセトアミド溶液を作製した。この溶液の樹脂分100重量部に対し、液状エポキシ樹脂として、エピコート828(油化シェルエポキシ株式会社製、商品名)を30重量部、架僑剤兼エポキシ硬化剤として、イソシアネート基1.0当量に対しイミダゾール1.1当量でブロックしたヘキサメチレンジイソシアネートを高分子量エポキシ重合体中のアルコール性水酸基に対し0.5当量となるように配合し、ワイヤ接着層用ワニスを得た。
(絶縁電線)接着剤に用いたワイヤ接着層用ワニスに上記のものを使用した他は、実施例1と同様に行った。その結果、軟化点は45℃であり、布線性は良好であった。また、接着層を硬化させたときの軟化点は118℃となった。さらに、この絶縁電線を用いたマルチワイヤ配線板は、実施例1と同様、耐熱性が良好であった。
【0026】実施例7ワイヤ接着層用ワニスを塗布するときの条件を、炉温165℃とした以外は実施例6と同様に行った。その結果、軟化点は60℃であり、布線性は良好であった。また、接着層を硬化させたときの軟化点は118℃となった。さらに、この絶縁電線を用いたマルチワイヤ配線板は、実施例1と同様、耐熱性が良好であった。
【0027】比較例1ワイヤ接着層用ワニスを塗布するときの条件を、炉温165℃とした以外は実施例6と同様に行った。その結果、軟化点は86℃となった。この絶縁電線を布線した結果、高密度な布線部分でワイヤが剥がれてしまった。
【0028】比較例2(ワイヤ接着層用ワニス)ビスフェノールA型エポキシ樹脂を1当量と、テトラブロムビスフェノールAを1当量を原料とし、光散乱法による分子量が121000、希薄溶液の還元粘度が0.89dl/gの高分子量エポキシ重合体のN、N−ジメチルアセトアミド溶液を作製した。この溶液の樹脂分100重量部に対し、液状エポキシ樹脂として、エピコート828(油化シェルエポキシ株式会社製、商品名)を60重量部、エポキシ硬化剤としてイミダゾール4重量部混合し、ワイヤ接着層用ワニスを得た。
(絶縁電線)接着剤に用いたワイヤ接着層用ワニスに上記のものを使用した以外は実施例1と同様に行った。その結果、実施例1と同じ条件で塗布したときには、軟化点は34℃となり、電線を巻いたボビンから巻き戻しができなかった。また、実施例4と同じ条件で塗布したときには、軟化点は40℃であるが、塗布にむらが生じ、ワイヤが布線機内のワイヤの経路途中で詰ったため布線ができなかった。
【0029】比較例3(ワイヤ接着層用ワニス)フェノキシ樹脂であるYP−50(東都化成株式会社製、商品名)のシクロヘキサノン溶液に、架橋剤として、イソシアネート基1.0当量に対し、1.2当量のフェノールでブロックしたヘキサメチレンジイソシアネートをフェノキシ樹脂中のアルコール性水酸基に対し0.3当量となるように配合し、ワイヤ接着層用ワニスを得た。
(絶縁電線)接着剤に用いたワイヤ接着層用ワニスに上記のものを使用した他は、実施例4と同様に行った。その結果、軟化点は57℃であり布線性は良好であり、接着層の硬化物の軟化点は95℃であった。この絶縁電線を用いたマルチワイヤ配線板は、耐熱性が低下してしまった。
【0030】比較例4(ワイヤ接着層用ワニス)フェノキシ樹脂であるYP−50(東都化成株式会社製、商品名)のシクロヘキサノン溶液に、架橋剤として、イソシアネート基1.0当量に対し、1.2当量のイミダゾールでブロックしたヘキサメチレンジイソシアネートをフェノキシ樹脂中のアルコール性水酸基0.3当量となるように配合し、ワイヤ接着層用ワニスを得た。これに、フェノキシ樹脂100重量部に対し、液状エポキシ樹脂として、エピコート828(油化シェルエポキシ株式会社製、商品名)を30重量部混入し、ワイヤ接着層用ワニスを得た。
(絶縁電線)接着剤に用いたワイヤ接着層用ワニスに上記のものを使用した他は、実施例2と同様に行った。その結果、実施例4と同じ条件で塗布したときには、軟化点は45℃であり布線性は良好であった。また、接着層の硬化物の軟化点は100℃であった。この絶縁電線を用いたマルチワイヤ配線板は、耐熱性が低下してしまった。
【0031】
【発明の効果】以上に説明したように、本発明によって、高密度布線が可能なワイヤ及び耐熱性に優れた高密度なマルチワイヤ配線板を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】芯線と絶縁層から成る絶縁電線の絶縁層表面にBステージ状態で軟化点が35〜85℃の範囲に接着層を塗工した絶縁電線であり、かつ、この接着層の硬化物の軟化点が110℃以上であることを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】絶縁電線の絶縁層表面に形成する接着層が(ア)光散乱法による平均分子量が30000以上であり、かつ、希薄溶液の還元粘度が0.3dl/g以上である高分子量エポキシ重合体と、(イ)前記(ア)の高分子量エポキシ重合体の架橋剤とから成ることを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】絶縁電線の絶縁層表面に形成する接着層が(ア)光散乱法による平均分子量が30000以上であり、かつ、希薄溶液の還元粘度が0.3dl/g以上である高分子量エポキシ重合体と、(ウ)室温で液状のエポキシ樹脂を前記(ア)100重量部に対し50重量部以下と、(エ)前記(ウ)のエポキシ樹脂硬化剤とから成ることを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項4】絶縁電線の絶縁層表面に形成する接着層が(ア)光散乱法による平均分子量が30000以上であり、かつ、希薄溶液の還元粘度が0.3dl/g以上である高分子量エポキシ重合体と、(イ)前記(ア)の高分子量エポキシ重合体の架橋剤と、(ウ)室温で液状のエポキシ樹脂を前記(ア)100重量部に対し50重量部以下と、(エ)前記(ウ)のエポキシ樹脂硬化剤とから成ることを特徴とする請求項1または3に記載の絶縁電線。
【請求項5】予め導体回路を形成した基板もしくは絶縁基板と、その表面上に設けた接着層と、その接着層により固定された絶縁被覆ワイヤと、接続の必要な箇所に設けたスルーホールと、必要な場合にその表面に設けられた導体回路からなるマルチワイヤ配線板において、前記絶縁電線が、芯線と絶縁層から成る絶縁電線の絶縁層表面にBステージ状態で軟化点が35〜85℃の範囲に接着層を塗工した絶縁電線であり、かつ、この接着層の硬化物の軟化点が110℃以上であることを特徴とするマルチワイヤ配線板。

【公開番号】特開平6−309936
【公開日】平成6年(1994)11月4日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−97729
【出願日】平成5年(1993)4月23日
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)