説明

マルチ栽培用シート

【課題】遮水性、透湿性および通気性を備え、拡散反射率が高く耐久性がある農業用反射シートを提供する。
【解決手段】織布の両面を防水性のフィルムでラミネートした多層構造のシートを用いて、両面または片面から針によって微細な穴を開けて透湿性と通気性を付与すると同時に、これらの工程を経ることによって生じるところのこれらの穴を覆うように斜立した微細な構造物(裂片)によって遮水性を付与する。また、織布をラミネートすることによって耐久性を持たせると同時に織布構造と穿孔作用によってエンボス効果を生じさせ、光や熱に対する拡散反射率を高めるとともに、シート上での作業時の滑り防止効果をも持たせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマルチ栽培用シートに関し、詳しくは、農業分野において光環境および土壌環境の調節のために用いるシートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
1950年代から農作物の栽培環境を制御するために、種々のマルチ栽培用のフィルム(マルチフィルム)が用いられるようになってきた。その後、1970年代に至って反射マルチフィルムの開発が始まった。
【0003】
例えば、果樹の栽培において、果実の糖度を向上させるためには、雨水の土壌への浸透を防ぐと共に、土壌中の水分を蒸散させて、土壌を適度な乾燥状態に保つことが重要であり、また、樹勢の低下を防ぐためには、土壌中の炭酸ガスを外気中に放出することが重要であり、さらに、果実の着色の促進のためには、太陽光線を地上で拡散反射させてこれを果樹に照射することが重要である。マルチフィルムはこのような種々の要請を満たそうとするものである。そのようなところから、遮水性、透湿性、通気性とを有し、併せて太陽光線を拡散反射することを可能とするフィルムないしシートを樹木周囲の地表に敷いて、遮水性、透湿性、反射性を制御しようとするものである。これに用いられるのがマルチフィルムないしマルチシートである。
【0004】
今日用いられている反射シートは、白色の防水性シート、防水性シルバーポリフィルム、白色の遮水性・透湿性不織布シート、防水性アルミ蒸着シート等がある。
【0005】
これらの中の不織布シートは針によって穴を開けたものではなく、不織布における繊維間の間隙を利用したものである。したがって、遮水性や透湿性を正確に制御することが困難である。また、不織布であるために物理的強度が劣る。このためにこのシート上で作業したり、農業機械が走行すると、シートの強度が低いために耐用年数が短くなる問題がある。
【0006】
その他の防水性シートは透湿性と通気性がないために土壌中の水分含量を高く保ち、収穫期の土壌の乾燥を抑制し、とくに果樹類の品質低下を促す危険性がある。
【特許文献1】特開平3−280816号公報
【特許文献2】特開平4−166022号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高い反射機能を有し、耐用年数が長く、雨水の浸透を防ぐ遮水性と土壌水分の蒸発散を促す透湿性と通気性の機能を備えた反射シートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のマルチシートは、織布の少なくとも一面を防水性のフィルムでラミネートして多層構造にしたシートの少なくとも片面から針によって微細な穴を多数開けて、当該穴を覆うように斜立した微細な裂片を形成し、透湿性と通気性を有すると共に、前記の裂片により遮水性を維持したものである。
【0009】
本発明のマルチシートによれば、織布を防水性フイルムでラミネートしたものであるので、強度が大きく、シート上を人や車両が通過して、フィルムの一部(特に、前記の穴の周縁)に亀裂が生じても、これが拡大することがなく、耐久性に勝れている。
【0010】
また、微細な穴を多数設けたので、透湿性と通気性とに富む。さらに、当該穴の周縁にある斜立した裂片があたかも穴に対する庇として作用し、雨水がこの穴を通過しにくく、防水性にも勝れている。
【0011】
さらに、織布は、これを構成する上下に交錯する縦糸及び横糸の作用により、凹凸構造を有するものであるところ、これにフィルムをラミネートしてなる本発明のシートも、前記織布構造に影響されて、凹凸を有するものである。加えて、このシート表面は、前記の穿孔作用によってエンボス効果を有している。この二つの要因により、このシートは、光や熱に対する拡散反射率を高め、これにより、果実の着色促進につながるとともに、シート上での作業時の滑り防止効果をも有するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のマルチシートは、高い反射機能を有し、耐用年数が長く、雨水の浸透を防ぐ遮水性と土壌水分の蒸発散を促す透湿性と通気性の機能を備えたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において用いられる織布としては、耐用年数を長くするために、UVカット剤(耐光剤)を3%以上混入した白色の耐光性強化ポリエチレンを使用した。この織布はフラットヤーン(700〜1000デニール)を縦、横それぞれ7〜12本/インチの打ち込み本数で織ったものである。この織布の両面をさらに同様の耐光性強化ポリエチレンフィルム(30〜60ミクロン)でラミネートして多層構造ラミネートクロスを得る。このラミネートクロスは不織布からなるシートに比べ強度が強く、耐用年数が長くなり、本発明の目的を達成するために効果的である。
【0014】
本発明で用いる穿孔方法は、特に限定されないが、例えば、先端部の近くに10〜20ミクロンの返しの付いた針が160〜250本/inch2の密度で植えられたニードルローラーを2個備えた加工機を用いることができる。
【0015】
ニードルローラは、周方向及び軸方向に整列した多数の針をローラの周面において直径方向に植設したものである。ニードルローラは、表面にゴムを張設された大径ドラムと接触しつつ強制回転させられる。シートはニードルローラとドラムとの間に進入する。このとき、ニードルローラとドラムとの相互の回転により、互いの周面の対応箇所が接近し、これにより針がシートを通過して、その先端がゴム層内に進入し、シートに穴が開けられる。ニードルローラとドラムとのさらなる回転により、そのあと、互いの周面の前記対応箇所が離反し、これにより針が後退する。この針の後退の際、返しにより穴周縁の裂片が手前側に引き出される。ニードルローラは1個ないし複数個設けることができる。また、1つのニードルローラの表面を通過したシートが、表裏を反転した状態で、他のニードルローラの表面に進入することにより、シートの表裏両面より針を挿通することができる。この場合には、返しはシートの表裏両面に発生する。
【0016】
本発明の加工条件としては、ニードルローラーの圧力を7〜9kg/cm、加工速度を50〜60m/分とし、ラミネートクロス生地がだぶつかない程度に一定のテンションをかけるのが好ましい。
【0017】
加工によって得られる性能は、ラミネートクロスの仕様、針の密度、ニードルローラーの圧力、加工速度および加工回数に影響される。
【0018】
ここでは、「通常規格品」、「強耐水タイプ」、「高通気タイプ」について説明する。
【0019】
まず、通常規格品はつぎのように製造される。ともに900デニールのフラットヤーンである経糸と緯糸を1インチ四方に10本ずつ配して織布を織る。この織布の両面に、厚みが40ミクロンのポリエチレンフィルムをラミネートする。このようなラミネートクロスを、針の密度が200本/inch2のニードルローラーを2本装着した加工機中走行させて、ラミネートクロスの両面から針を挿通する。このとき、ニードルローラーの圧力を8〜8.5kg/cm、加工速度を50〜55m/分とし、表裏各3回(両面合わせて6回)ニードルを挿通する。
【0020】
つぎに、強耐水タイプと高通気タイプとは、通常規格品とその他の加工条件は同一で、ただ、加工回数を変えて穴の数を増減させた。すなわち、強耐水タイプでは、表裏各1回ずつ針を挿通し、高通気タイプでは、表裏各10回ずつ針を挿通した。
【0021】
通常規格品、強耐水タイプ、高通気タイプにおける穴の数の多少と、透湿度、耐水度との関係はつぎのとおりとなる。
【0022】
通常規格品では、穴の数が350〜400個/cmであり、24時間当たりの透湿度は1000〜1300g/m、耐水度は250〜350mmである。強耐水タイプは、穴の数が60〜70個/cmであり、24時間当たりの透湿度は400〜500g/m、耐水度は300〜500mmである。高通気タイプは、穴の数が1200〜1300個/cmであり、透湿度は3500〜4000g/m、耐水度は50〜100mmである。(透湿度の測定はJIS−A−1324に、また、耐水度の測定は、JIS−A−1092によった。)
この場合に、加工速度が45m/分以下、あるいは60m/分以上になると、加工回数によって透湿度と耐水度のバランスを制御することが困難になる。
【0023】
通常規格品について、拡散反射率、すなわち光源から照射された光線と対象物から様々な方向に反射された光線の総量の比率はつぎのとおりである。(試験機として、島津製作所のUV−3150紫外・可視・近赤外分光光度計を用い、試験方法として、JIS−K−7105:1981(プラスチックの光学的特性試験方法)によった。)
赤外線 65〜85%
可視光線 75〜95%
紫外線 5〜10%
また、通常規格品の引張強度、引裂強度等の物性はつぎのとおりである。(引張強度及び引裂強度の測定はJIS−P−8112によった。)
引張強度(N/5cm) 400以上(縦方向、横方向とも)
引裂強度(N) 60以上(縦方向、横方向とも)
伸度 (%) 15以上(縦方向、横方向とも
破裂強度(Kpa) 250以上
このようにして、本発明のマルチ栽培用シート10は、図1に示すように、織布11の一面にポリエチレンフィルム12をラミネートしたものであり、その表面には多数の微小な穴14が設けられている。図1の実施例においては、ポリエチレンフィルム12は織布11の片面にのみラミネートしたが、これに代えて、織布11の両面にポリエチレンフィルム12,12をラミネートしてもよい。
【0024】
図2は、本発明において用いる針の形状を示す。針60は全体に細長い四角錐状をなし、その先端62は尖っている。四角錐の一側面においては、四角錐状の突部(返し)66,68が針60の軸芯に対しほぼ垂直に突出している。2つの返し66,68のうち、針60の基部64側の返し68が若干長い。針60の全長は約2mmであり、基部64における一辺の長さは約0.2mm、基部64側の返し68の突出量は約0.1mmである。また、先端62側の返し66の突出量は0.08mmである。
【0025】
このようにして形成される穴14は不整形な三角形でその内部は3裂片し、その中の1裂片が著しく斜立した(すなわち、他の裂片より起立角度が大きい)構造となる。
【0026】
すなわち、シート10に対して、図2に示す針60は、図2に示す状態とは逆に、転倒した状態で、図4の上方から突き刺さり、基部64側の返し68がシートを通過したあと、上方に引き戻される。このように、針60をシート10に挿入することにより、シート10に穴14が形成される。すなわち、三角形の穴14の三辺20,22,24に隣接する三角形状の裂片26,28,30が裂け目32を間にして引き裂かれる。そして、針60が後退する(図4の上方に)際に、列片26,28,30は引き戻されて、図4に示す状態となる。
【0027】
針60と図3に示す三角形状の穴14との位置関係は、針60の四角形の基部64が三角形の穴14の底辺24の近傍に位置し、返し68の先端69が三角形の穴の図3における上端15の近傍に位置する。
【0028】
このような位置関係に起因して、正確な理由は不明であるが、図3における右側の裂片26の起立の程度は大きく、傾斜角度は大である。これに対して、その他の裂片28,30の起立の程度は少なく、したがって、傾斜角度は小である。
【0029】
この発明のマルチシートにおいては、穴14のこのような形状のゆえに、空気は透過するが、雨水は透過しにくい。すなわち、まず穴14は前記した寸法の針60によって形成されるので、穴14はきわめて微小であり、それに加えて、裂片26,28,30の側縁同士が近接することにより、この側縁同士の間において、雨水が表面張力により膜を形成するので、雨水のさらなる通過を阻止するからである。
【0030】
穴14は不定形であるため、その寸法を示すことは困難である。しかし、図3に示すように、穴14はほぼ二等辺三角形であると見た場合、おおよそ、その底辺(短辺)24が0.1mm、その他の2辺(長辺)20,22が約0.2mmである。
【0031】
この発明において、マルチシート10に対してその一方側からのみ針を挿通するようにしてもよいが、表裏両面から交互に針を挿通することも可能である。そして、このようにする場合には独自の作用効果を奏する。特に、マルチシート10上を作業者や作業車両が通過することにより、シートが上下することに起因して、独自の作用効果を奏する。
【0032】
すなわち、図5に示すように、針を表裏両面から挿通した結果として、裂片は表裏双方側に表れている。すなわち、図5における上図及び下図においては、図における右側の裂片24,26はシート10の上方に起立し、左側の裂片24,26はシート10の下方側に起立(垂下)している。
【0033】
図5の上図は、矢線Aにより示すように、シート10が上方に移動する場合である。この場合において、シート10より上方にある空気の圧力により、右側の裂片24,26は、水平に近い状態になり、穴14を防ぐので、シートの下方にある空気が上方に移動しない。これに対し、左側の裂片24,26は穴14の近傍にある空気の圧力を受けて下方に傾斜する。すなわち起立の程度が高くなり、穴14をより大きく開放する。この結果、矢線Cに示すように、シート10の上方側(外気側)の空気が、矢線Cに示すように、シート10の下方側すなわち土壌側に移行する。
【0034】
これに対して、図5の下図はシート10が矢線Bに示すように、下降する場合を示している。この場合には、右側の裂片24,26は穴16の近傍に存在する空気により押圧されて、その起立の程度を増す。すなわち、穴14は上方に充分に開口し、それにより、シート10の下方側すなわち土壌側にある空気は矢線10Dに示すように容易に上方に抜け出る。これに対して、図における左側においては、裂片24、26はシート10より下方にある空気により押圧されて、その傾斜角度を緩やかにする。すなわち、閉じようとする。これにより、シート10より上方の空気が下方に移動することはない。
【0035】
このようにして、両面側から針を挿通したマルチシートにおいては、シートが昇降した際に、土壌側の気体が上方側(外気側)に抜けるとともに、外気側の空気が土壌側にもたらされるなど、常に、シートの上下間において空気の流通が円滑に行われる。
【0036】
以上に説明した場合とは異なり、マルチシート10が風により上下する場合には、つぎのとおりである。すなわち、風によりシートが下から押し上げられて上昇する場合には、空気もまたシートの下方より上方に抜ける。これに対して、何らかの理由により地面より若干上方に位置しているシートないしシートの一部が風により押し下げられて下降する場合には、空気もまたシートの上方より下方に抜ける。
【0037】
すなわち、常に土壌側の炭酸ガスが外気側に抜け出ることが可能であり、また、外気側の新鮮な空気が外気側にもたらされるなど効果が大きい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の反射シートを用いれば、高い拡散反射率によって地上部の光環境を改善し、農作物全般に渡り生育促進が期待できる。とくに果実の着色促進や糖度を高め、熟期を早める。また、害虫に対する忌避効果がある。遮水性、透湿性および通気性とによって土壌環境を通して根域の環境を改善し、光環境と同様に果実の着色促進や糖度を高め、熟期を早める。また、農作物全般に渡り、土壌環境の安定化をもたらして生産の安定化に寄与する。光による劣化や機械的な破損(特に台風などの風害による)に対する強度に優れ、シート上での作業の効率化を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明のマルチシートの一例の一部欠截外観図
【図2】前記マルチシートの穿孔に用いる針を示す斜視図
【図3】前記マルチシートの穴を示す平面図
【図4】前記穴の周縁において裂片が斜立している状態を示す側面図
【図5】表裏両面から穴を開けたシートの作用を示す概略側面図
【符号の説明】
【0040】
10……マルチ栽培用シート
11……織布
12……防水性フィルム
14……穴
26……裂片
28……裂片
30……裂片
60……針

【特許請求の範囲】
【請求項1】
織布の少なくとも一面を防水性のフィルムでラミネートして多層構造にしたシートの少なくとも片面から針によって微細な穴を多数開けて、当該穴を覆うように斜立した微細な裂片を形成し、透湿性と通気性を有すると共に、前記の裂片により遮水性を維持したマルチ栽培用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−217874(P2006−217874A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−35320(P2005−35320)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(591246447)谷口産業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】