説明

マルトトリイトールを有効成分とする血糖値上昇抑制剤及び血糖値上昇抑制食品

【課題】澱粉含有食品の食後血糖値の上昇を抑制させることができ、甘味度の高さや嫌な味などにより用途が限定されないなどの優れた性質を備えた新規素材を用いて、血糖値上昇抑制剤および血糖値上昇抑制食品を提供する。
【解決手段】澱粉含有食品の摂取と同時またはその前後に、有効成分として、マルトトリイトールを摂取することにより、血糖値の急激な上昇を抑制することを特徴とする、血糖値上昇抑制剤および血糖値上昇抑制食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルトトリイトールを有効成分とする、澱粉含有食品の血糖値上昇抑制剤、及び澱粉とマルトトリイトールを含有する血糖値上昇抑制食品に関する。
【背景技術】
【0002】
食品等の過剰摂取に伴う高血糖や急激な血糖上昇が、重度の肥満、高脂血症、糖尿病等の疾患を引き起こす要因のひとつと考えられており、これらの疾患はまた、心臓病などのほかの成人病とも深く関わっていると考えられているので、その治療や予防は社会の重要な課題となっている。
【0003】
糖尿病患者の食事療法は、食品中の糖質や澱粉など、炭水化物の量を少なくすることが主流である。しかし、穀類などの澱粉含有食品を主食とする食習慣の人々は多く、それらの人々にとって澱粉の摂取制限はそれまでの嗜好を犠牲にして生活習慣を大きく変更せざるを得ないので、困難を伴うものになっている。従って、澱粉や澱粉含有食品を摂取した場合でも血糖値の急激な上昇を抑制できるような素材や食品の開発が望まれていたのである。
【0004】
高血糖障害の症状を軽減したり、発症を防いだりするための手法として、過去に様々な方法が考案されているが、それらの中でも主なものは以下のような方法であった。
【0005】
例えば、特開2003−206231号公報に記載されているように、タピオカデキストリンを含有する血糖上昇抑制剤が報告されている。
【0006】
また、特開2004−043361号公報に記載されているように、エリスリトールを有効成分とする血糖低下剤も報告されている。
【0007】
また、特開2004−315499号公報に記載されているように、パラチノースを有効成分とし、構成糖同士の結合全体に対するα−1,6−グルコシル結合の割合が0%以上50%未満である炭水化物の摂取と同時またはその前後に摂取させ、当該炭水化物の摂取に起因する血糖値上昇を抑制するための血糖値上昇抑制剤が報告されている。
【0008】
また、特開2005−289847号公報に記載されているように、難消化性デキストリンとL−アラビノースを含有することを特徴とする血糖値上昇抑制剤が報告されている。
【特許文献1】特開2003−206231号公報
【特許文献2】特開2004−043361号公報
【特許文献3】特開2004−315499号公報
【特許文献4】特開2005−289847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の血糖値上昇抑制剤は、甘味が強すぎたり、苦味やエグ味があったりするなどの理由で用途が限定され易いこと、また摂取した時の服用感が好ましくないなどの理由や、消費者の嗜好や多様な食文化を考えると、上述の血糖上昇抑制素材だけでは必ずしも十分とはいえなかった。
【0010】
例えば、特許文献1の方法は、ブドウ糖やショ糖による血糖上昇をタピオカデキストリンの摂取により抑制しようとするものである。しかし、残念なことに、この方法は多くの人々が主食とする澱粉そのものによる血糖上昇を抑制するものではなく、澱粉由来のタピオカデキストリンにより血糖が生成してしまうという問題点があった。
【0011】
また、特許文献2の方法はエリスリトールを用いたラットでの実験結果を基に、糖尿病の血糖値を低下させる作用を確認し、エリスリトールにはαグルコシダーゼ阻害効果があることも知られているので、糖尿病を積極的に治療できると推定したものである。しかし、エリスリトールの甘味度は比較的高く、それ故、用途や使用量が限定されるという問題点があった。
【0012】
特許文献3の方法はパラチノースを有効成分とする血糖値上昇抑制剤を紹介したものであるが、このものも比較的高い甘味を有するので、用途や使用量が限定されることが課題であった。
【0013】
特許文献4の方法は、難消化性デキストリンが食後血糖値上昇抑制効果を示すこと、更に脂質代謝に影響を与えることおよび、Lアラビノースが小腸スクラーゼ活性を特異的に阻害することに着目したものである。しかし、用いられている成分は従来の食習慣になじんだものではなく、体内で消化されにくく、多量に摂取すると下痢を起こすことがあり、また、ショ糖を同時に摂取するとそれが分解されずに大腸にまで到達することが指摘されている。
【0014】
これらの背景から、更に澱粉摂取による急激な血糖の上昇を抑制する素材でありながら、安全で、且つ用途の限定要素にならない程度まで甘味度が低いなど、さまざまな嗜好に適応し得る血糖上昇抑制剤の開発が要望されている。
【0015】
本発明の目的は、澱粉含有食品の食後血糖値の上昇を抑制させることができ、甘味度の高さや嫌な味などにより用途が限定されないなどの優れた性質を備えた新規素材を用いて、血糖値上昇抑制剤および血糖値上昇抑制食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは鋭意検討の結果、本発明者らは純度の高いマルトトリイトールを調製し、性質を詳細に調べていた中で、澱粉含有食品の摂取時、またはその前後にマルトトリイトールを摂取した場合に、単に澱粉含有食品を摂取した場合よりも血糖値の上昇を抑制することができることを初めて確認し、マルトトリイトールを有効成分とする澱粉含有食品の血糖値上昇抑制剤を得て、本発明を完成するに至った。
【0017】
従来、マルトトリイトールは還元澱粉糖化物やマルチトールシロップなどに含まれる微量成分としてその存在は知られていたが、純度の高いマルトトリイトールは、商業的規模で得られなかったので、マルトトリイトールの性質はあまり知られていなかった。また、マルトトリイトールはヒトの体内では他の糖アルコール類に比較するとエネルギーとして利用されやすいと考えられており、日本ではそのカロリー係数が3とみなされている。
【0018】
マルトトリイトールに澱粉含有食品によるヒトの血糖値上昇を抑制する効果があることは本発明者により初めて見出されたことであり、従来は澱粉含有食品と同様に、摂取後は単に血糖値が上昇するだけと考えられていたマルトトリイトールによりこのような効果が得られることは予想に反することであった。
【0019】
近年、食後経過時間と血糖値の両方を加味した観点から、グリセミックインデックス(GI)と呼ばれる指標が提唱されている。これは、同じ重量の炭水化物を含有する食品であっても、低GIの食品を選択すれば、グラフに描いた食後の時間と血糖値上昇部分の面積に相当する値が少ないため、高血糖障害患者やその恐れがある人の食事療法に有用と考えられている。
【0020】
GIは、グルコースもしくは白パンの摂取によって得られる血糖値上昇の程度を基準として、各食品の血糖値上昇の程度を相対比較して求められる数値であり、具体的には以下の方法で求められる。
【0021】
初めに、空腹状態で、基準食としてグルコース50gもしくは乾燥炭水化物重量換算で50g分を含有する白パンの何れか一つを被験者に摂取させ、食後2時間経過時までの血糖値を逐次測定し、得られた結果から血糖値上昇下面積(IAUC)を求め、その面積値を100とする。
【0022】
次に、同じ被験者に基準食摂取時と同じ条件で、乾燥炭水化物重量換算で50g分を含有する対象食品を摂取させ、基準食摂取時と同じ条件で血糖値を測定してIAUCを求め、基準食で得たIAUCとの相対値を対象食品のGIとする。なお、IAUCの算出に際し、食後2時間を経過するまでに血糖値が食前の水準以下に下がった場合、その部分に基づいて求められる面積は、血糖上昇下面積から除外する。
【0023】
血糖上昇下面積(IAUC)は、縦軸を血糖値、横軸を摂取後の経過時間としたグラフ上に測定結果をプロットし、食前の血糖値を底辺としてグラフ上で囲まれた範囲の面積から求められる。
【0024】
本発明で、食品の摂取後の血糖値を抑制することにより、食品摂取後の経過時間と血糖値から求められる上述のGIも有意に減少する。
【0025】
本発明の課題を解決する手段は以下の通りである。
【0026】
第一に、マルトトリイトールを有効成分とする澱粉含有食品の血糖値上昇抑制剤である。
【0027】
第二に、マルトトリイトールの純度が70重量%以上である、上記第一に記載の血糖値上昇抑制剤である。
【0028】
第三に、澱粉100重量部につき、マルトトリイトールを1〜30重量部の割合で含有する、血糖値上昇抑制食品である。
【0029】
第四に、澱粉100重量部につき、マルトトリイトールを5〜20重量部の割合で含有する、血糖値上昇抑制食品である。
【0030】
本発明で云う血糖値上昇抑制剤とは、特定の澱粉含有食品のみを一定量摂取した後に測定される血糖値を基準として、基準と同量の澱粉含有食品と共に一定量の血糖値上昇抑制剤を摂取した時に、基準で求められる血糖値と比較して、その値を有意に低下させることができる物質を指す。
【0031】
本発明で、血糖値上昇抑制剤によってもたらされる血糖値の抑制程度は、マルトトリイトールの摂取量や摂取するタイミングにより変動はあるが、澱粉乾燥重量の5〜10%のマルトトリイトールを食品と同時に摂取した場合には、基準の場合に求められる最高血糖値に対して、マイナス5%以上、最も好ましい実施態様ではマイナス10%以上である。
【0032】
本発明に係る血糖値上昇抑制は、澱粉含有食品と共に一定量の血糖値上昇抑制剤を摂取することでその効果が発現する。なお、澱粉含有食品と血糖値上昇抑制剤の摂取時期は、同一の時期に共に摂取することが好ましいが、血糖値上昇抑制剤としての作用が有効である範囲内において、血糖値上昇抑制剤の摂取時期が、澱粉含有食品の摂取時期と前後しても差し支えない。よって、澱粉含有食品と共に一定量の血糖値上昇抑制剤を摂取するとは、限定的に、両者を同一の時期に摂取することを意味するものではない。
【0033】
本発明に採用されるマルトトリイトールの量は、澱粉含有食品中の澱粉100重量部に対して1重量部より多くすること、更に好ましくは5重量部より多くすることが要求されるが、これは、澱粉100重量部に対してマルトトリイトールが1重量部以上の場合に本発明による血糖値上昇抑制効果が明らかに確認でき、5重量部以上の場合にはその効果が更に明瞭に確認できることによる。
【0034】
一方、澱粉100重量部に対してマルトトリイトールの量が20重量部を超えると、マルトトリイトールの量の増加により血糖値上昇抑制効果の増大はあるものの、増大の割合は鈍くなり、マルトトリイトールの量の増加と血糖値上昇抑制効果の一次的比例関係が期待し難くなり、また、マルトトリイトールの量が30重量部を超えた場合にはマルトトリイトールの量の増加と血糖値上昇抑制効果の一次的比例関係が期待できなくなり、マルトトリイトールそのものによる血糖値上昇も懸念される場合があるので、澱粉含有食品中の澱粉100重量部に対するマルトトリイトールの量は好ましくは1〜30重量部、更に好ましくは5〜20重量部である。
【0035】
本発明に係る血糖値の上昇が抑制された澱粉含有食品とは、澱粉含有食品に対して、血糖値の上昇抑制効果が認められる有効量の血糖値上昇抑制剤が配合された澱粉含有食品を指す。具体的には、澱粉含有食品中の乾燥炭水化物重量に対して、マルトトリイトール1〜30%、好ましくは5〜20%、特に好ましくは10%の配合割合が例示できる。
【0036】
本発明において「同時またはその前後に摂取するまたはさせる」とは、1回の食事または間食において、マルトトリイトールと澱粉含有食品を摂取することを意味し、両者を混合して摂取しても良いし別々に摂取することもできる。
【0037】
したがって、マルトトリイトールを含む飲食物を摂取し、この後血糖値を上昇させやすい澱粉含有食品を含む飲食品を摂取する場合も含まれるし、先に血糖値を上昇させやすい澱粉含有食品を含む飲食品を摂取し、その後にマルトトリイトールを含む飲食物を摂取することもできる。例えばショ糖とデンプンが含まれるケーキやクッキーを摂取し、このときマルトトリイトールを含む飲料を同時またはその前後に摂取した場合も本発明の「同時またはその前後に摂取する」という意味に含まれる。
【0038】
すなわち、「同時またはその前後に摂取する」とは、マルトトリイトールが消化管に滞留している状態で澱粉含有食品を摂取するか、若しくは、澱粉含有食品が消化管に滞留している状態でマルトトリイトールを摂取することによって、マルトトリイトールの血糖値上昇抑制効果が澱粉含有食品による血糖値上昇に影響を与え得る時間の範囲を意味している。
【0039】
なお、通常はこの時間が食前30分から食後30分以内であるが、個人差や、体調または摂取タイミングにより多少幅が広がる場合もある。
【0040】
本発明に用いるマルトトリイトールは、3分子のグルコースがα−1,4結合により結合したマルトトリオースを、公知の方法で水素化して得られ、砂糖の甘味度を100とした場合の相対甘味度は20〜40程度で、甘味質は穏和である。
【0041】
本発明に用いるマルトトリイトールの純度は、必ずしも極端な高純度の品である必要は無く、ソルビトールやマルチトールなど、他の成分と混在していても採用することはできるが、本発明の十分な効果を期待するためには少なくとも乾燥固形物中に70%以上含まれているものが好ましい。
【0042】
通常の製法により得られるマルトトリイトールの純度が70重量%未満の場合は、その他の成分としてソルビトールやマルチトールなどの低分子量糖アルコール、マルトテトライトールやマルトペンタイトールなどの高分子量糖アルコールが混在するので、これらマルトトリイトール以外の成分による血糖値上昇などの、本発明を損なう効果が発現することもあるので、本発明に採用するマルトトリイトールは、乾燥固形物中の純度が70重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることが更に好ましい。
【0043】
マルトトリオースは、澱粉を酵素処理、加熱、酸、アルカリなど、公知の加水分解処理を経て調製した澱粉加水分解物を更にクロマト分離、膜分離、結晶化などの公知の精製工程を経由させ、マルトトリオース高含有画分を調製するか、さらに必要に応じ、前述した公知の精製工程を加えることにより得られる。
【0044】
また、マルトトリイトールの調製方法として、澱粉加水分解物を水素化処理して還元澱粉加水分解物とした後、クロマト分離、膜分離、結晶化などの公知の精製工程を経てマルトトリイトールの高含有画分を調製するか、さらに必要に応じ、前述した公知の精製工程を加えることで高純度マルトトリイトールを調製することもできる。
【0045】
マルトトリイトールは、上述のとおり穏和な甘味質を有するので、食品によっては、甘味付目的で使用される甘味料を減量することもできる。
【0046】
また、マルトトリイトールは、甘味付を必要としない食品に対しても、強い甘味を賦与することが無いので、食品を調製した時の総合的な味わいに影響を与えることが少なく、血糖値の上昇が抑制された澱粉含有食品を調製する際に、澱粉含有食品の分野や種類に制限を受けずに、広い分野の澱粉含有食品に適用することができる。
【0047】
本発明は、上記マルトトリイトールを有効成分として用いることにより、澱粉含有食品によってもたらされる血糖値上昇を抑制することができるが、その効果は、マルトトリイトールを摂取しないで澱粉含有食品を摂取した場合との比較によって明らかになる。
【0048】
本発明は、上述の通り澱粉含有食品の血糖値上昇を抑制する際に有効であり、本発明で言う澱粉含有食品としては、米飯(白米、玄米)、ピラフ、チャーハン、お粥、雑炊、パエリア、もち、せんべい、あられ、おかき、米菓類、うどん、牛皮、餃子の皮、そば、焼ソバ、お好み焼き、チヂミ、たこ焼き、麺類、パン、ナン、トルティーヤ、ポテトフライ、マッシュポテト、茹で芋、ふかし芋、焼き芋、やまいも、スイートコーン、パスタ、コロッケ、ふすま、きんとん、シュー皮、まんじゅう、団子、オートミール、コーンフレーク、スポンジケーキ、カステラ、スナック菓子、クッキー、クラッカー、プレッツェル、ホットケーキ、パウンドケーキ、パンケーキ、蒸しパン、クレープ、ドーナツ、プリン、などの澱粉を原料に調理加工された、各種食品類や菓子類が挙げられるが、これらの中でも主食として用いられることの多い米飯やパンに対しては特に顕著な血糖上昇抑制効果を示す。
【0049】
本発明に適用できる澱粉は、上述の各種食品類や菓子類の製造が可能な澱粉であれば、その品質や由来に特別な制約は無く、コメ、小麦、大麦、えん麦、トウモロコシ、トウモロコシ、タピオカ、馬鈴薯、甘藷、サゴ、ヒシ、クズなど由来の各種澱粉類やこれらの混合物が例示できる。
【0050】
本発明において、マルトトリイトールが血糖値上昇抑制効果を示す仕組みについては、まだ完全に解明されてはいないが、マルトトリイトールにはαアミラーゼなど体内の澱粉消化酵素に対する活性阻害効果があり、澱粉含有食品と共に摂取した場合に、澱粉の消化吸収を穏やかに進行させることが、本発明に係る効果となっているものと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
マルトトリイトールを有効成分とする、本発明に係る血糖値上昇抑制効果およびGI値低下効果は、ヒトに対するin vivo試験およびin vitro系の両面で明らかにされる。その効果の詳細について実施例を揚げて説明するが、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0052】
(血糖値上昇抑制剤の調製)
還元澱粉加水分解物(東和化成工業株式会社製、PO−40)をカルシウム型陽イオン交換樹脂を充填したカラムを用いて分画し、マルトトリイトール含量95%の画分を得たのち、冷却結晶化により純度99.7%のマルトトリイトール結晶(残余の0.3%はマルトテトライトール)である本発明の血糖値上昇抑制剤を得た。
【実施例2】
【0053】
(澱粉含有食品の血糖値上昇抑制剤の調製)
実施例1で得たマルトトリイトールを水道水で濃度10%に調整し、本発明の血糖値上昇抑制剤を得た。本剤は、刺激がなく穏和な甘さで、服用感が良好であった。
【実施例3】
【0054】
(血糖値上昇抑制澱粉含有食品の調製)
市販の精白米(コシヒカリ)を用い、米に含まれる炭水化物重量に対して実施例1で得たマルトトリイトールを10%添加し、市販の炊飯器(サンヨーマイコンジャー炊飯器、ECJ−MU10T)を用いて炊飯して、本発明の血糖値上昇抑制澱粉食品を得た。米に含まれる炭水化物成分(37.1g/100gを澱粉として計算)は、五訂食品成分表(2004年版女子栄養大出版部)から求めた。
【0055】
また、市販の精白米(コシヒカリ)を用い、マルトトリイトールを添加しないほかは同様にして炊飯し、基準食用炊飯米を得た。
【実施例4】
【0056】
(澱粉含有食品の血糖値上昇抑制効果確認−1)
(発明区)
前日の激運動と飲酒を禁止し、12時間絶食し空腹状態の健常男女(20〜25歳、男性5名、女性5名)10人の被験者に対して、炭水化物重量として50g含有する白パン(ヤマザキ製パン株式会社製、超芳醇)とマルトトリイトール(東和化成工業株式会社製、実施例1で得た純度99.7%のマルトトリイトール結晶品)5gを同時に摂取させた。
【0057】
試験用血液は、食前、食後30分、食後60分、食後90分、食後120分のぞれぞれの時間に被験者全員の指先より血液20μlをピペットで採取し、5倍量のヘパリン入り生理食塩水(ナカライテスク株式会社製、ヘパリンナトリウム140IU/mgおよび塩化ナトリウム試薬特級)と混合し、5000rpmで10分遠心分離し、上清を血糖値測定試料とした。
【0058】
各試料の血糖値は、血漿グルコース濃度測定キット[グルコースCIIテストワコー(和光純薬工業、大阪)]、血漿インスリン濃度測定キット[Mercodia Insulin ELISA kit(フナコシ株式会社、東京)]、マイクロプレートリーダー(VERSA max, Molecular Devices, CA, USA)を用いて実施した。
【0059】
(対照区)
発明区で採用した被験者と同一の10人に対して、発明区で摂取させた白パンとマルトトリイトールに代えて、白パンのみを用いたほかは発明区と全て同様にして被験者全員の血糖値を測定した。
【0060】
(効果測定)
発明区および対照区で得た結果から10名の平均値を計算し、表1を得た。
【0061】
【表1】

【実施例5】
【0062】
(澱粉含有食品の血糖値上昇抑制効果確認−2)
(発明区)
空腹状態の被験者10人に対して炭水化物重量として50g含有する炊飯米とマルトトリイトール5gを同時に、摂取開始から5分以内に全量摂取させた。採血は、食前、食後30分、食後60分、食後90分、食後120分のぞれぞれの時間に行い、実施例5と同様にして被験者全員の血糖値を測定した。
【0063】
(対照区1)
発明区にて採用した被験者と同一の空腹状態の被験者10人に対して炭水化物重量として50g含有する炊飯米を摂取開始から5分以内に全量摂取させた。採血は、食前、食後30分、食後60分、食後90分、食後120分のぞれぞれの時間に行い、実施例5と同様にして被験者全員の血糖値を測定した。
【0064】
(対照区2)
発明区にて採用した被験者と同一の空腹状態の被験者10人に対して、発明区で摂取させた炊飯米とマルトトリイトール5gに代えて、グルコースを50g含有する経口糖認容試験用糖質液(トレーラン(登録商標)G50(味の素株式会社製))のみを用いたほかは発明区と全て同様にして被験者全員の血糖値を測定した。
【0065】
(効果測定)
発明区および対照区1と2で得た結果から10名の平均値を計算し表2を得た。
【0066】
【表2】

【0067】
実施例4では、表1に記載のように対照区で基準食の食後60分後および食後90分後の血糖値がそれぞれ135.1mg/dl、117.1mg/dlであったのに対し、白パンとマルトトリイトール結晶を共に摂取した発明区では、食後60分後および食後90分の血糖値がそれぞれ123.9mg/dl、104.8mg/dlとなった。これは、食後60分後、90分後の血糖値として、本発明区では基準食に対してそれぞれ8.3%、10.5%の血糖値低下が確認されたことを示す。
【0068】
また、グリセミックインデックス測定の基準となる50gの炭水化物摂取後の血糖値上昇曲線下面積を測定し、基準食の値を100として相対値(GI値)で表した場合は、白パンとマルトトリイトールを共に摂取した本発明実施品では82.3となり、17.7%の低下が確認された。
【0069】
表2に示されたように、実施例5では、対照区1で基準食の食後30分後の血糖値が118.4mg/dlであったのに対し、炊飯米入りマルトトリイトールを摂取した本発明の発明区では、食後30分後の血糖値が101.6mg/dlとなった。これは、本発明の実施による食後30分後の血糖値が、基準食に対して14.2%抑制されたことを意味する。
【0070】
また、実施例5の対照区2で実施した50gのグルコース摂取後の血糖値は、摂取後30分で132.4mg/dlであり、発明区での摂取後30分の血糖値が101.6mg/dlとなったことから、本発明の実施による食後30分後の血糖値が、グルコースを基準とした場合に較べて23.3%低いことを意味する。
【0071】
以上のことから、澱粉とマルトトリイトールを澱粉摂取と同時または澱粉摂取の前後に摂取した場合に、澱粉による血糖値にマルトトリイトール摂取による血糖値が加算されて現れるのではなく、逆に澱粉に起因する血糖値の上昇を抑制することが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルトトリイトールを有効成分とする澱粉含有食品の血糖値上昇抑制剤。
【請求項2】
マルトトリイトールの純度が70重量%以上である、請求項1に記載の血糖値上昇抑制剤。
【請求項3】
澱粉100重量部につき、マルトトリイトールを1〜30重量部の割合で含有する、血糖値上昇抑制食品。
【請求項4】
澱粉100重量部につき、マルトトリイトールを5〜20重量部の割合で含有する、血糖値上昇抑制食品。

【公開番号】特開2008−220231(P2008−220231A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61212(P2007−61212)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【出願人】(000223090)三菱商事フードテック株式会社 (25)
【Fターム(参考)】