説明

マンガン複合水酸化物粒子、非水系電解質二次電池用正極活物質、および非水系電解質二次電池と、それらの製造方法

【課題】 小粒径で均一な粒径を有し、中空構造を有するリチウムマンガン複合酸化物粒子およびかかるリチウムマンガン複合酸化物粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 晶析反応によって、マンガンを含有する金属化合物とアンモニウムイオン供給体とを含む核生成用水溶液を、液温25℃基準でpH値が12.0〜14.0となるように制御し大気雰囲気にて核生成を行う核生成工程と、該核生成工程において形成された核を含有する粒子成長用水溶液を、液温25℃基準でpH値が10.5〜12.0の範囲で核生成段階より低くなるように制御し、かつ雰囲気を粒子成長工程開始から全体時間の30%以内で不活性雰囲気に切り替えて前記核を成長させる粒子成長工程で得たマンガン複合水酸化物粒子とリチウム化合物を混合して焼成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンガン複合水酸化物粒子とその製造方法に関するもので、さらに、そのマンガン複合水酸化物粒子を用いる非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、および、その正極活物質を用いた非水系電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な非水系電解質二次電池の開発が強く望まれ、さらに、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の電池として高出力の二次電池の開発も強く望まれている。
このような要求を満たす二次電池としては、リチウムイオン二次電池があり、そのリチウムイオン二次電池は、負極および正極と電解液等で構成され、負極および正極の活物質として、リチウムを脱離および挿入することが可能な材料が用いられている。
【0003】
このリチウムイオン二次電池については、現在研究開発が盛んに行われているところで、中でも、層状またはスピネル型のリチウム金属複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるために高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進められている。
【0004】
かかるリチウムイオン二次電池の正極材料には、現在、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn)、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.5)などのリチウム複合酸化物が提案されている。
これらの中で、埋蔵量の少ないコバルトを用いずに熱安定性に優れたスピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物、さらにはリチウムマンガン複合酸化物のMnの一部をNiに置換して4.5V以上の作動電圧を実現しエネルギー密度の高い材料であるリチウムマンガンニッケル複合酸化物(LiMn1.5Ni0.5)が近年注目されている。
【0005】
そこで、リチウムイオン電池に用いる極が、良好な性能、すなわち、高サイクル特性、低抵抗、高出力などを得る条件として、正極材料には、均一で適度な粒径を有する粒子によって構成されていることが望まれている。
これは、粒径が大きいために比表面積が少ない材料を使用すると、電解液や電解質との反応面積が十分に確保できず、反応抵抗が上昇して高出力の電池が得られず、また粒度分布が広い材料では、電池容量が低下し、その反応抵抗が上昇するなどの不具合が生じるためである。なお、電池容量が低下するのは、電極内で粒子に印加される電圧が不均一となることで、充放電を繰り返すと微粒子が選択的に劣化するからである。
【0006】
さらに、電池の高出力化を目指すためには、リチウムイオンの正極負極間移動距離を短くすることが有効であることから、正極板を薄く製造することが望まれ、このためにも小粒径の正極活物質粒子は有用である。
したがって、正極材料の性能を向上させるためには、リチウムマンガン複合酸化物についても、小粒径で粒径が均一な粒子となるように製造することが必要となっている。
【0007】
特許文献1には、粒度分布曲線において、その累積頻度が50%の粒径を意味する平均粒径D50が3〜15μm、最小粒径が0.5μm以上、最大粒径が50μm以下の粒度分布を有する粒子であり、かつその累積頻度が10%のD10と90%のD90との関係において、D10/D50が0.60〜0.90、D10/D90が0.30〜0.70であるリチウム複合酸化物が開示されている。そして、このリチウム複合酸化物は、高い充填性を有し、充放電容量特性及び高出力特性に優れ、充放電負荷の大きい条件下であっても劣化しにくいので、このリチウム複合酸化物を用いれば、優れた出力特性を持ち、かつサイクル特性の劣化の少ないリチウムイオン非水電解液二次電池を得ることができると記載されている。
【0008】
したがって、リチウム複合酸化物の一つであるリチウムマンガン複合酸化物に関しても同様な特徴が要求される。そのリチウムマンガン複合酸化物は、通常、複合水酸化物から製造されるので、リチウムマンガン複合酸化物を小粒径で粒径が均一な粒子とする上では、その原料となる複合水酸化物についても小粒径で粒径の均一なものを使用することが望ましい。
つまり、正極材料の性能を向上させて、最終製品である高性能のリチウムイオン二次電池を製造する上では、正極材料を形成するリチウムマンガン複合酸化物の原料となる複合水酸化物として、小粒径で狭い粒度分布を有する粒子からなる複合水酸化物を使用することが必要である。
【0009】
このような非水電解質電池用正極活物質の製造法についても、様々な提案がなされている(例えば、特許文献2、3)。
特許文献2では、非水電解質電池用正極活物質の製造方法において、2種以上の遷移金属塩を含む水溶液または異なる遷移金属塩の2種以上の水溶液と、アルカリ溶液とを同時に反応槽に投入し、還元剤を共存させながらまたは不活性ガスを通気しながら共沈させることにより前駆体である水酸化物または酸化物を得る方法が提案されている。
【0010】
また、特許文献3では、溶液中でマンガン化合物と塩基性化合物とを反応させ、酸化してマンガン酸化物シードを得て、このマンガン酸化物シードが存在する溶液中でマンガン化合物と塩基性化合物とを反応させ、酸化してマンガン酸化物シードを粒子成長させてマンガン酸化物を得る方法を開示している。そして、このマンガン酸化物とリチウム化合物とを溶液中で反応させた後、加熱焼成して得られたマンガン酸リチウムは、結晶性が優れ粒子径が大きく粒度分布や粒子形状が均一であるとしている。
【0011】
しかしながら、特許文献1に開示されるリチウム複合酸化物は、平均粒径3〜15μmに対して最小粒径が0.5μm以上、最大粒径が50μm以下となっていることから微細粒子および粗大粒子が含まれており、上記D10/D50およびD10/D90で規定される粒度分布では粒径分布の範囲が狭いとは言えない。つまり、特許文献1のリチウム複合酸化物は、粒径均一性の高い粒子であるとは言えず、かかるリチウム複合酸化物を採用しても正極材料の性能向上は望めず、十分な性能を有するリチウムイオン非水電解液二次電池を得ることは難しい。
【0012】
一方、複合酸化物を製造する方法についても、特許文献2の技術は、生成した結晶を分級しながら回収するものであるため、均一な粒径の生成物を得るためには、製造条件を厳密に管理する必要があると考えられ、工業的規模の生産は難しい。しかも、大きな粒径の結晶粒子は得ることができても、小径の粒子を得ることは難しい。
【0013】
また、特許文献3では、粒子制御を溶液中に残存するマンガンイオン濃度の設定を制御因子として行っており、シードの生成と成長が十分に分離されない。また、形状や粒度分布の整った均一なものを得る望ましい媒液中に残存するマンガンイオン濃度は10〜40g/lとされているため、廃液に多量のマンガンイオンが含まれ、生産効率が低下するとともに廃液処理のコスト、環境負荷が増大することが予想される。
【0014】
さらに、電池を高出力化するためには、粒径を変えずに反応面積を大きくすることが効果的である。すなわち、粒子を多孔質あるいは粒子構造を中空化することで、電池反応に寄与する表面積を大きくすることができ、反応抵抗を低減することが可能となる。
特許文献4には、少なくとも層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する非水電解液二次電池用正極活物質であって、そのリチウム遷移金属複合酸化物は、外側の外殻部と、外殻部の内側の空間部とを有する中空粒子からなるリチウム遷移金属複合酸化物であることを特徴とする非水電解液二次電池用正極活物質が開示されている。そして、この非水電解液二次電池用正極活物質は、サイクル特性、出力特性及び熱安定性等の電池特性に優れ、リチウムイオン二次電池等に好適に用いられるとの記載もある。
【0015】
しかしながら、特許文献4に開示される正極活物質は、中空粒子であることから、中実粒子より比表面積の増加は期待されるものの粒径に関する記載はない。したがって、比表面積の増加による電解液との反応性の向上は期待できるが、微粒子化によるリチウムイオンの移動距離に対する効果は不明であり、十分な出力特性の改善は期待できない。さらに、粒度分布に関しては、従来の正極活物質と同等と考えられるため、電極内での印加電圧の不均一性による微粒子の選択的劣化が発生して電池容量が低下する可能性が高い。
【0016】
以上のように、リチウム二次電池の性能を十分に向上させ得る複合水酸化物も開発されておらず、また、複合水酸化物あるいは複合酸化物を製造する方法についても種々検討されているものの、現在のところ、工業的規模において、要求を満足する正極活物質を製造することができる方法は見出されていない。
したがって、小粒径で粒径均一性が高く、かつ反応面積が大きい正極活物質は開発されておらず、係る正極活物質と、その工業的な製造方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2008−147068号公報
【特許文献2】特開2003−86182号公報
【特許文献3】特開2001−240417号公報
【特許文献4】特開2004−253174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明はかかる問題点に鑑み、原料として用いると小粒径で粒径均一性が高く、中空構造により高比表面積のリチウムマンガン複合酸化物が得られるマンガン複合水酸化物粒子と、その複合水酸化物粒子の製造方法を提供することを目的とする。
また、電池に用いた場合に高容量でサイクル特性が良く、高出力が得られる非水系二次電池用正極活物質、およびその製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は、電池に用いた場合に優れた電池特性を発揮できるリチウムマンガン複合酸化物について鋭意検討した結果、原料となるマンガン複合酸化物を、粒度分布が制御し、微細一次粒子からなる中心部と中心部の外側に、その一次粒子よりも大きな一次粒子からなる外郭部分を有する構造とすることで、小粒径で粒径均一性が高く、中空構造を有したリチウムマンガン複合酸化物が得られることを見出した。
また、そのようなマンガン複合酸化物は、晶析時のpH制御により核生成工程と粒子成長工程に分離するとともに各工程の雰囲気を制御することで得られることを見出し、本発明を完成したものである。
【0020】
すなわち、本発明の第1の発明は、マンガン複合水酸化物粒子の製造方法は、晶析反応によって一般式1「Mn1−x−yNi(OH)2+α(0≦x≦0.27、0≦y≦0.05、0≦α≦0.5、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Ba、Sr、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)」で表されるマンガン複合水酸化物の製造方法であって、少なくともマンガンを含有する金属化合物とアンモニウムイオン供給体とを含む核生成用水溶液を、液温25℃基準におけるpH値が12.0〜14.0となるように制御して酸化性雰囲気中で核生成を行う核生成工程と、その核生成工程において形成された核を含有する粒子成長用水溶液を、液温25℃基準におけるpH値が10.5〜12.0の範囲で核生成段階より低くなるように制御するとともに、粒子成長工程開始時から粒子成長工程時間全体に対して0〜30%の範囲で、その酸化性雰囲気から酸素濃度1容量%以下の酸素と不活性ガスの混合雰囲気に切り替えて、生成した核を成長させる粒子成長工程とからなることを特徴とするものである。
【0021】
本発明の第2の発明は、第1の発明における一般式1において、xの範囲が、0.23≦x≦0.27であることを特徴とし、本発明の第3の発明は、第1及び第2の発明で用いる粒子成長用水溶液が、核生成工程が終了した核生成用水溶液のpH値を調整して形成されたもので、第4の発明は、用いる粒子成長用水溶液が、核生成工程において形成された核を含有する水溶液を、核を形成した核生成用水溶液とは異なる水溶液に添加したものであることを特徴とするものである。
【0022】
本発明の第5の発明は、第1から第4の発明において、核生成工程終了後に、粒子成長用水溶液の液体部の一部を排出した後、粒子成長工程を行うことを特徴とするものである。
【0023】
本発明の第6の発明は、第1〜第5の発明における核生成工程および粒子成長工程において、各水溶液の温度を、20℃以上に維持することを特徴とし、さらに第7の発明は、第1〜第6の発明における核生成工程および粒子成長工程において、各水溶液のアンモニア濃度を3〜25g/Lの範囲内に維持することを特徴とするものである。
【0024】
本発明の第8の発明は、第1〜第7の発明の粒子成長工程で得られたマンガン複合水酸化物を、一般式1のMで示される添加元素の1種以上を含む化合物で被覆することを特徴とするものである。
【0025】
本発明の第9の発明は、一般式1「Mn1−x−yNi(OH)2+α(0≦x≦0.27、0≦y≦0.05、0≦α≦0.5、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Ba、Sr、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)」で表され、複数の板状一次粒子が凝集して形成された略球状の二次粒子であることを特徴とし、さらに二次粒子は、平均粒径が3〜7μmであり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.55以下であり、微細一次粒子からなる中心部を有し、その中心部の外側に中心部の微細一次粒子よりも大きな板状一次粒子からなる外郭部を有することを特徴とするものである。
【0026】
さらに、第10の発明は、その中心部の微細一次粒子は、平均粒径0.01〜0.3μm、その微細一次粒子よりも大きな板状一次粒子は、平均粒径0.3〜3μmであること特徴とし、第11の発明では、外殻部の厚みが、二次粒子の粒径に対する比率で5〜45%であることを特徴とするものである。
【0027】
また、本発明の第12の発明は、第9〜第11の発明での一般式1におけるxの範囲が、0.23≦x≦0.27であることを特徴とするマンガン複合水酸化物粒子で、第13の発明は、その二次粒子が、一般式1のMで示される添加元素の1種以上が、その内部に均一に分布、或いはその表面を均一に被覆、若しくは、その内部に均一に分布し、その表面を均一に被覆していることのいずれかであることを特徴とする。
【0028】
さらに、第14の発明は、第9〜13の発明によるマンガン複合水酸化物粒子が、第1〜第8の発明におけるマンガン複合水酸化物粒子の製造方法によって生成されたものであることを特徴とする。
【0029】
本発明の第15の発明は、一般式2「Li1+tMn2−x−y−tNi(−0.05≦t≦0.1、0≦x≦0.55、0≦y≦0.1、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Ba、Sr、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)」で表され、スピネル構造を有する立方晶系のリチウムマンガン複合酸化物からなる正極活物質の製造方法であって、マンガン複合水酸化物粒子を熱処理する工程と、その熱処理後の粒子に対してリチウム化合物を混合して、リチウム混合物を形成する混合工程と、その混合工程で形成された混合物を、600℃〜950℃の温度で焼成する焼成工程とを有することを特徴とするものである。
【0030】
さらに、第16の発明は、第15の発明おけるマンガン複合水酸化物の熱処理は、500℃〜750℃の温度で施されることを特徴とし、また、第17の発明は、一般式2におけるxの範囲が、0.45≦x≦0.55の場合には、700℃〜1000℃の温度で、そのマンガン複合水酸合物の熱処理を施すことを特徴とするものである。
【0031】
さらに、本発明の第18の発明は、第15〜第17の発明における混合物は、その混合物に含まれるリチウム以外の金属の原子数の和と、リチウムの原子数との比が、2:0.95〜1.10となるように調整されていることを特徴とするものである。
【0032】
本発明の第19の発明は、一般式2「Li1+tMn2−x−y−tNi(−0.05≦t≦0.1、0≦x≦0.55、0≦y≦0.1、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Ba、Sr、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)」で表され、スピネル構造を有する立方晶系リチウム含有複合酸化物により構成されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子からなる正極活物質であって、平均粒径が2〜8μm、その粒度分布の広がりを示す指標〔(d90−d10)/平均粒径〕が、0.60以下であり、その粒子内部の中空部と、その外側の外郭部で構成される中空構造を有することを特徴と非水系電解質二次電池用正極活物質である。
【0033】
さらに、第20の発明は、その外殻部の厚みが、リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子の粒径に対する比率で5〜35%であることを特徴とし、また第21の発明は、一般式2におけるxの範囲が、0.45≦x≦0.55であることを特徴とするものである。
さらに、第22の発明は、第19〜21の発明による非水系電解質二次電池用正極活物質が、第15〜第18の発明による非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法によって生成されたものであることを特徴とするものである。
【0034】
本発明の第23の発明の非水系電解質二次電池は、本発明による非水系電解質二次電池用正極活物質からなる正極を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0035】
本発明により、小粒径で粒径均一性が高く、中空構造により高比表面積のリチウムマンガン複合酸化物を生成するマンガン複合水酸化物粒子を容易に得ることができる。
また、そのマンガン複合酸化物粒子を原料として得られるリチウムマンガン複合酸化物は、非水系二次電池に用いた場合に高容量でサイクル特性が良く、高出力を可能とするものであり、リチウムマンガン複合酸化物を含む正極で構成された非水系二次電池は、優れた電池特性を有したものとなる。
本発明が提供するマンガン複合水酸化物粒子およびリチウムマンガン複合酸化物の製造方法は、いずれも容易で大規模生産に適したものであり、工業上顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明のマンガン複合水酸化物を製造する工程の概略フローチャートである。
【図2】本発明のマンガン複合水酸化物を製造する他の工程の概略フローチャートである。
【図3】本発明のマンガン複合水酸化物からリチウムマンガン複合酸化物を製造する工程の概略フローチャートである。
【図4】本発明のマンガン複合水酸化物を製造してから、非水系電解質二次電池を製造するまでの概略フローチャートである。
【図5】本発明のマンガン複合水酸化物のSEM写真(観察倍率1000倍)である。
【図6】本発明のマンガン複合水酸化物の断面SEM写真(観察倍率10000倍)である。
【図7】本発明のリチウムマンガン複合酸化物のSEM写真(観察倍率1000倍)である。
【図8】本発明のリチウムマンガン複合酸化物の断面SEM写真(観察倍率10000倍)である。
【図9】電池評価に使用したコイン型電池Bの概略断面図である。
【図10】インピーダンス評価の測定例と解析に使用した等価回路の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、
1.非水系電解質二次電池用正極活物質の原料となるマンガン複合水酸化物粒子とその製造方法、
2.上記1記載のマンガン複合水酸化物粒子を用いた非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、
3.上記2記載の正極活物質を用いた非水系電解質二次電池、
に関するものである。
【0038】
非水系電解質二次電池の性能は、正極に採用される非水系電解質二次電池用正極活物質の影響が大きく、係る優れた電池特性が得られる非水系電解質二次電池用正極活物質を得るためには、その粉体特性が重要な要因となり、適正な粒子構造を有し、かつ適正な粒径と粒度分布に調整された正極活物質が好ましい。
そのためには、係るその原料であるマンガン複合水酸化物粒子を、適正な粒径と粒度分布を有し、かつ適正な構造を実現可能な粒子構造を有するものを使用する必要がある。
【0039】
以下、上記1から3の発明を詳細するが、本発明の最大の特徴である、マンガン複合水酸化物粒子とその製造方法(1)、について説明した後、そのマンガン複合水酸化物粒子を原料とした非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法(2)、最終製品である非水系電解質二次電池(3)について説明する。
【0040】
1−1.マンガン複合水酸化物粒子
本発明のマンガン複合水酸化物粒子(以下、単に本発明の複合水酸化物粒子という)は、一般式1:Mn1−x−yNi(OH)2+α(0≦x≦0.27、0≦y≦0.05、0≦α≦0.5、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Ba、Sr、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表され、複数の板状一次粒子が凝集して形成された略球状の二次粒子であり、その二次粒子は、平均粒径が3〜7μmで、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.55以下であり、微細一次粒子からなる中心部を有して、その中心部の外側に、その微細一次粒子よりも大きな板状一次粒子からなる外郭部分を有するものである。
そして、本発明の複合水酸化物粒子は、本発明の正極活物質の原料として特に適したものであるので、以下では、本発明の正極活物質の原料に使用することを前提として説明する。
【0041】
[粒子構造]
本発明の複合水酸化物粒子は、略球状の粒子、具体的には、複数の板状一次粒子が凝集して形成された略球状の二次粒子となるように調整されている。さらに、粒子内部は微細一次粒子からなる中心部を有し、中心部の外側に、その微細一次粒子よりも大きな板状一次粒子からなる外郭部を有する構造としたものである。
このような構造とすることにより、本発明の正極活物質を形成する焼結工程において、粒子内へのリチウムの拡散が十分に行われ、リチウムの分布が均一で良好な正極活物質が形成される。
【0042】
ここで、中心部は、微細な一次粒子が連なった隙間の多い構造であるため、より大きく厚みのある板状一次粒子からなる外郭部と比べると、焼成工程において焼結による収縮が低温から発生する。このため、焼成時に低温から焼結が進行して、粒子の中心から焼結の進行が遅い外郭部側に収縮して中心部に空間が生じる。また、中心部は低密度と考えられ、収縮率も大きいことから、中心部は十分な大きさを有する空間となる。これにより、焼成後に得られる正極活物質が中空構造となり粒径に対して比表面積を十分に大きくすることができることから、出力特性の優れた正極活物質が得られる。
なお、複合水酸化物粒子の中心部は、具体的には二次粒子を樹脂に包含し、断面加工した電子顕微鏡観察において白く見える二次粒子の外殻に対して二次粒子内部の灰色〜黒色に見える部位を指す。
【0043】
さらに、板状一次粒子がランダムな方向に凝集して二次粒子を形成したものであれば、より好ましい。
板状一次粒子がランダムな方向に凝集することで、一次粒子間にほぼ均一に空隙が生じて、リチウム化合物と混合して焼成するとき、溶融したリチウム化合物が二次粒子内へ行き渡り、リチウムの拡散が十分に行われる。さらには、ランダムな方向に凝集していることで、上記焼成工程における中心部の収縮も均等に生じることから、正極活物質内部に十分な大きさを有する空間を形成することができ、好ましい。
【0044】
このような焼成時の空間形成のため、微細一次粒子は、平均粒径0.01〜0.3μmで、この微細一次粒子よりも大きな板状一次粒子は、平均粒径0.3〜3μmとすることが好ましい。
微細一次粒子の平均粒径が0.01μm未満であると、複合水酸化物粒子において十分な大きさの中心部が形成されないことがあり、0.3μmを越えると、焼結開始の低温化および収縮が十分でなく、焼成後に十分な大きさの空間が得られないことがある。
【0045】
一方、外郭部分の板状一次粒子の平均粒径が、0.3μm未満であると、焼成時の焼結が低温化して焼成後に十分な大きさの空間が得られないことがあり、3μmを越えると、得られる正極活物質の結晶性を十分なのもとするために焼成温度を高くする必要があり、二次粒子間で焼結が発生して得られる正極活物質の粒径が、この範囲を超えることがある。
【0046】
さらに、微細一次粒子は、板状、針状、あるいは、その両者の形状であることが好ましい。微細一次粒子が、これらの形状となることで、中心部は十分に低密度となり、焼成によって大きな収縮が発生して十分な量の空間が生じる。
【0047】
また、二次粒子においては、外殻部の厚みは、その二次粒子の粒径に対する比率で5〜45%であることが好ましく、7〜35%であることがより好ましい。
複合水酸化物を原料として得られる正極活物質粒子は、中空構造を有し、その粒子径に対する外郭部厚みの比率は、複合水酸化物二次粒子の比率がほぼ維持される。したがって、二次粒子径に対する外郭部厚みの比率を、上記範囲とすることで、リチウムマンガン複合酸化物粒子に十分な中空部を形成することができる。一方、外殻部厚みが薄すぎる場合、正極活物質の製造時の焼成工程において、複合水酸化物粒子の収縮が大きく、リチウムマンガン複合酸化物粒子に焼結が生じて正極活物質の粒度分布が悪化することがある。
【0048】
なお、微細一次粒子および板状一次粒子の粒径、ならびに二次粒子径に対する外殻部厚みの比率は、マンガン複合水酸化物粒子の断面を走査型電子顕微鏡することによって測定できる。
例えば、複数のマンガン複合水酸化物粒子(二次粒子)を樹脂等に埋め込み、クロスセクションポリッシャー加工等により該粒子の断面観察が可能な状態とする。微細一次粒子および板状一次粒子の粒径は、二次粒子中の、好ましくは10個以上の一次粒子断面の最大径を粒径として測定し、平均値を計算することで求めることができる。
【0049】
また、外郭部厚みの二次粒子径に対する比率は、以下のように求めることができる。
樹脂中の二次粒子から、ほぼ粒子中心の断面が観察可能な粒子を選択して、3箇所以上の任意の箇所で外郭部の外周上と中心部側の内周上の距離が最短となる2点間の距離を測定して粒子毎の外郭部の平均厚みを求める。次に、二次粒子外周上で距離が最大となる任意の2点間の距離を二次粒子径として、その平均厚みを除することで、粒子毎の外郭部厚みの上記比率を求める。さらに、10個以上の粒子について求めた粒子毎の比率を平均することで、マンガン複合水酸化物粒子における二次粒子径に対する外郭部厚みの比率を求めることができる。
【0050】
[粒度分布]
本発明の複合水酸化物粒子は、その粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が、0.55以下となるように調整されている。
正極活物質の粒度分布は、原料である複合水酸化物粒子の影響を強く受けるため、複合水酸化物粒子に微粒子あるいは粗大粒子が混入していると、正極活物質にも同様の粒子が存在するようになる。すなわち、〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.55を超え、粒度分布が広い状態であると、正極活物質にも微粒子あるいは粗大粒子が存在するようになる。
【0051】
また、微粒子が多く存在する正極活物質を用いて正極を形成した場合には、微粒子の局所的な反応に起因して発熱する可能性があり、安全性が低下するとともに微粒子が選択的に劣化するのでサイクル特性が悪化してしまう。
一方、大径粒子が多く存在する正極活物質を用いて正極を形成した場合には、電解液と正極活物質との反応面積が十分に取れず反応抵抗の増加により電池出力が低下する。
【0052】
本発明の複合水酸化物粒子において、指標〔(d90−d10)/平均粒径〕が、0.55以下となるように調整しておけば、本発明の複合水酸化物粒子を原料として得られる正極活物質も粒度分布の範囲が狭くなり、粒子径を均一化することができる。
すなわち、得られる正極活物質の粒度分布を、指標〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.6以下とすることができる。これにより、本発明の複合水酸化物粒子を原料として得られた正極活物質によって形成された電極を有する電池を、良好なサイクル特性および出力を有するものとする。
【0053】
なお、粒度分布の広がりを示す指標〔(d90−d10)/平均粒径〕において、d10は、各粒径における粒子数を粒径の小さい側から累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の10%となる粒径を意味している。また、d90は、同様に粒子数を累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の90%となる粒径を意味している。
平均粒径や、d90、d10を求める方法は特に限定されないが、例えば、レーザー光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。
【0054】
[平均粒径]
本発明の複合水酸化物粒子は、その平均粒径が、3〜7μmに調整されている。
平均粒径を3〜7μmに制御することで、本発明の複合水酸化物粒子を原料として形成される正極活物質も、所定の平均粒径(2〜8μm)に調整することが可能となり、望みの正極活物質を形成することができる。
【0055】
ここで、複合水酸化物粒子の平均粒径が3μm未満であると、形成される正極活物質の平均粒径も小さくなり、正極の充填密度が低下して、容積あたりの電池容量が低下する。逆に、複合水酸化物粒子の平均粒径が7μmを超えると、正極活物質の比表面積が低下して電解液との界面が減少することにより、正極の抵抗が上昇して電池の出力特性の低下を誘引する。
【0056】
したがって、本発明の複合水酸化物粒子は、その平均粒径が3〜7μmに調整され、その調整された複合水酸化物粒子を原料として本発明の正極活物質を形成することができ、この正極活物質を用いた正極を電池に使用したときに、優れた電池特性を得ることができるものである。
【0057】
[粒子の組成]
本発明の複合水酸化物粒子は、その組成が、下記一般式1の(1)式で表されるように調整される。
係る組成とすることで、このマンガン複合水酸化物を原料として、リチウムマンガン複合酸化物を製造すれば、このリチウムマンガン複合酸化物を正極活物質とする電極を電池に用いた場合、測定される正極抵抗の値を低くでき、電池の出力特性を良好なものとすることができる。
【0058】
【化1】

【0059】
また、この複合水酸化物粒子を原料として正極活物質を得た場合、複合水酸化物粒子の組成比(Ni:Mn:M)は、正極活物質においても維持される。
したがって、本発明の複合水酸化物粒子の組成比は、得ようとする正極活物質と同様となるように調整しておく。
【0060】
1−2.マンガン複合水酸化物粒子の製造方法
上記特性を有する本発明の複合水酸化物粒子は、以下の方法により製造されるものである。
本発明の複合水酸化物粒子の製造方法は、晶析反応によってマンガン複合水酸化物粒子を製造する方法であって、
(a)核生成を行う核生成工程
と、
(b)核生成工程において生成された核を成長させる粒子成長工程
とから構成されている。
【0061】
すなわち、従来の連続晶析法は、核生成反応と粒子成長反応とが同じ槽内において同じ時期に進行するため、粒度分布が広範囲となる。一方、本発明の複合水酸化物粒子の製造方法は、主として核生成反応が生じる時間(核生成工程)と、主として粒子成長反応が生じる時間(粒子成長工程)とを明確に分離して狭い粒度分布を得るものである。
幅広い正規分布を有するマンガン水酸化物粒子を、分級して粒度分布の狭い複合水酸化物を得ることも考えられるが、本発明のマンガン水酸化物粒子のような平均粒径では、使用可能な目開きの篩自体がなく、篩いによる分級は困難である。また、湿式サイクロンのような装置を用いても十分に狭い粒度分布に分級することはできず、工業的な分級方法では、粒径が均一で粒度分布が狭い複合水酸化物を得ることは困難である。
さらに、晶析反応時の雰囲気を制御することにより、複合水酸化物粒子の粒子構造を、微粒一次粒子からなる中心部と中心部より大きな一次粒子からなる外郭部で構成されたものとすることに特徴を有している。
【0062】
最初に、本発明の複合水酸化物粒子の製造方法について概略を、図1に基づいて説明する。なお、図1および図2では、(A)が核生成工程に相当し、(B)が粒子成長工程に相当する。
【0063】
(A)核生成工程
図1に示すように、まず、マンガンを含有する複数の金属化合物を所定の割合で水に溶解させ、混合水溶液を作製するが、本発明の複合水酸化物粒子の製造方法では、得られる複合水酸化物粒子における各金属の組成比は、混合水溶液における各金属の組成比と同様となる。よって、混合水溶液中における各金属の組成比が、本発明の複合水酸化物粒子中における各金属の組成比と同じ組成比となるように、水に溶解させる金属化合物の割合を調節して、この混合水溶液を作製する。
【0064】
一方、反応槽には、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液、アンモニウムイオン供給体を含むアンモニア水溶液、および水を供給して混合して水溶液を形成する。
この水溶液(以下、反応前水溶液という)は、アルカリ水溶液の供給量を調整して、そのpH値が、液温25℃基準で、pH12.0〜14.0の範囲になるように調節する。合わせて、反応前水溶液中のアンモニウムイオンの濃度が3〜25g/Lとなるように調節する。さらに、反応前水溶液の温度が、20〜60℃となるように調節する。なお、反応槽内の水溶液のpH値、アンモニウムイオンの濃度は、それぞれ一般的なpH計、イオンメーターによって測定する。
【0065】
そして、反応前水溶液の温度およびpH値が調整されると、反応前水溶液を攪拌しながら混合水溶液を反応槽内に供給する。これにより、反応槽内には、反応前水溶液と混合水溶液とが混合した水溶液(以下、反応水溶液という)が形成され、その反応水溶液中に本発明の複合水酸化物の微細な核を生成させることができる。このとき、反応水溶液のpH値は上記範囲にあるので、生成した核はほとんど成長せず、核の生成が優先的に起こる。
なお、混合水溶液の供給による核生成に伴って、反応水溶液のpH値およびアンモニウムイオンの濃度が変化するので、反応水溶液には、混合水溶液とともに、アルカリ水溶液、アンモニア水溶液を供給して、反応水溶液のpH値およびアンモニウムイオンの濃度が所定の値を維持するように制御する。
【0066】
このように反応水溶液に対する混合水溶液、アルカリ水溶液およびアンモニア水溶液の供給により、反応水溶液中には、連続して新しい核の生成が継続される。そして、反応水溶液中に、所定量の核が生成されると、核生成工程を終了する。所定量の核が生成したか否かは、反応水溶液に添加した金属塩の量によって判断する。
【0067】
この反応水溶液、すなわち、混合水溶液、アルカリ水溶液およびアンモニア水溶液の混合された水溶液であって、pH12.0〜14.0の範囲になるように調節された反応水溶液が、特許請求の範囲における核生成用水溶液である。
【0068】
(B)粒子成長工程
核生成工程終了後、反応水溶液のpH値を、液温25℃基準でpH10.5〜12.0となるように調整する。具体的には、アルカリ水溶液の供給量を調整して、反応水溶液のpH値を制御する。
反応水溶液のpH値を上記範囲とすることにより、核の生成反応よりも核の成長反応の方が優先して生じるから、反応水溶液中には新たな核はほとんど生成さず、核が成長して所定の粒子径を有する本発明の複合水酸化物粒子が形成される。
その後、その複合水酸化物粒子が所定の粒径まで成長した時点で粒子成長工程を終了する。複合水酸化物粒子の粒径は、予備試験結果で核生成工程と粒子成長工程における反応水溶液への金属塩の添加量と得られる粒子の関係を求めておけば、各工程での金属塩の添加量から容易に判断できる。
【0069】
上記反応水溶液、すなわち、混合水溶液、アルカリ水溶液およびアンモニア水溶液の混合された水溶液であって、pH10.5〜12.0の範囲になるように調節された反応水溶液が、特許請求の範囲における粒子成長用水溶液である。
【0070】
以上のように、複合水酸化物粒子の製造方法の場合、核生成工程では核生成が優先して起こり核の成長はほとんど生じず、逆に、粒子成長工程では核成長のみが生じほとんど新しい核は生成されない。
このため、核生成工程では、粒度分布の範囲が狭く均質な核を形成させることができ、また、粒子成長工程では、均質に核を成長させることができる。したがって、複合水酸化物粒子の製造方法では、粒度分布の範囲が狭く均質なマンガン複合水酸化物粒子を得ることができる。
【0071】
なお、上記製造方法の場合、両工程において、金属イオンは核または複合水酸化物粒子となって晶出するので、反応水溶液中の金属成分に対する液体成分の割合が増加する。この液体成分が増加すると、見かけ上、供給する混合水溶液の濃度が低下したようになり、粒子成長工程において、複合水酸化物粒子が十分に成長しない可能性がある。
したがって、上記液体成分の増加を抑制するため、核生成工程終了後あるいは粒子成長工程の途中で、反応水溶液中の液体成分の一部を反応槽外に排出する必要がある。
具体的には、反応水溶液に対する混合水溶液等の供給および攪拌を停止して、核や複合水酸化物粒子を沈降させて、反応水溶液の上澄み液を排出する。
これにより、反応水溶液における混合水溶液の相対的な濃度を高めることができ、混合水溶液の相対的な濃度が高い状態で複合水酸化物粒子を成長させることができるので、複合水酸化物粒子の粒度分布をより狭めることができ、複合水酸化物粒子の二次粒子内密度も高めることができる。
【0072】
また、上記実施形態では、核生成工程が終了した核生成用水溶液のpH値を調整して粒子成長用水溶液を形成して、核生成工程から引き続いて粒子成長工程を行っているので、粒子成長工程への移行を迅速に行うことができるという利点がある。さらに、核生成工程から粒子成長工程への移行は、反応水溶液のpH値を調整するだけで移行でき、pH値の調整も一時的にアルカリ水溶液の供給を停止することで容易に行うことができるという利点がある。なお、反応水溶液のpH値は、金属化合物を構成する酸と同種の無機酸、例えは、硫酸塩の場合は硫酸を反応水溶液に添加することでも調整することができる。
【0073】
しかし、別実施形態として、図2に示すように、核生成用水溶液とは別に、核生成工程に適したpH値、アンモニウムイオン濃度に調整された成分調整水溶液を形成しておき、この成分調整水溶液に、別の反応槽で核生成工程を行って生成した核を含有する水溶液を添加して反応水溶液とし、この反応水溶液(つまり、粒子成長用水溶液)において粒子成長工程を行ってもよい。
この場合、核生成工程Aと粒子成長工程Bの分離をより確実に行うことができるので、各工程における反応水溶液の状態を、各工程に最適な条件とすることができる。とくに、粒子成長工程を開始する初期から、反応水溶液のpH値を最適な条件とすることができる。したがって、粒子成長工程で形成されるマンガン複合水酸化物粒子を、より粒度分布の範囲が狭くかつ均質なものとすることができる。
【0074】
[反応雰囲気]
本発明のマンガン複合水酸化物粒子が有する粒子構造は、核生成工程および粒子成長工程における反応槽内の雰囲気制御により形成される。
したがって、上記製造方法の各工程における上記雰囲気制御が重要な意義を持つ。晶析反応中の反応槽内の雰囲気によりマンガン複合水酸化物粒子を形成する一次粒子の形態及び成長が制御され、酸化性雰囲気では微細な酸化マンガンおよび水酸化ニッケルの一次粒子により形成された空隙が多い低密度の粒子が形成され、弱酸化性雰囲気から非酸化性雰囲気では水酸化マンガン、水酸化ニッケルが共晶析した、一次粒子が大きく緻密で高密度の粒子が形成される。
すなわち、核生成工程と粒子成長工程の初期の一部を酸化性雰囲気とすることで、微細一次粒子からなる中心部が形成され、その後に粒子成長工程を酸化性雰囲気から切り替えて弱酸化性から非酸化性の範囲の雰囲気とすることで、中心部の外側に微細一次粒子よりも大きな板状一次粒子からなる外郭部を有する粒子構造を形成することができる。
【0075】
上記雰囲気制御された晶析反応においては、通常、中心部の一次粒子は微細な板状、針状、板状および針状となり、外郭部の一次粒子は板状となる。しかしながら、マンガン複合水酸化物粒子の組成により、上記以外、例えば、直方体、楕円等の形状となることがある。
【0076】
この中心部を形成する酸化性雰囲気としては、反応槽内空間の酸素濃度が1容量%を超える雰囲気とすることが好ましく、特に制御が容易な大気雰囲気(酸素濃度21容量%)とすることがより好ましい。
酸素濃度が1容量%を超える雰囲気とすることで一次粒子の平均粒径を0.01〜0.3μmとすることができる。酸素濃度が1容量%以下では、中心部の一次粒子の平均粒径が0.3μmを超えることがある。この酸素濃度の上限は、特に限定されるものではないが、30容量%を超えても無駄であるとともに一次粒子が凝集して形成される二次粒子が十分に形成されないことがある。また、上記一次粒子の平均粒径が0.01μm未満となる場合がある。
【0077】
一方、外郭部を形成する弱酸化性から非酸化性の範囲の雰囲気としては、反応槽内空間を1容量%以下、好ましくは0.5容量%以下、より好ましくは0.2容量%以下の酸素と不活性ガスの混合雰囲気に制御する。反応槽内空間の酸素濃度を1容量%以下にして粒子成長させることで、粒子の不要な酸化を抑制し、一次粒子の成長を促して平均粒径0.3〜3μmの中心部より大きい一次粒子径で粒度の揃った緻密で高密度の二次粒子を得ることができる。このような雰囲気に反応槽内空間を保つための手段としては、窒素などの不活性ガスを反応槽内空間部へ流通させること、さらには反応液中に不活性ガスをバブリングさせることが挙げられる。
【0078】
上記粒子成長工程における酸化性雰囲気から酸素と不活性ガスの混合雰囲気への切り替えは、粒子成長工程開始時から粒子成長工程時間全体に対して0〜30%の範囲で行う。
粒子成長工程時間全体に対して30%を超える時点で、この切り替えを行うと、形成される中心部が大きくなり、二次粒子の粒径に対する外殻部の厚みが薄くなり過ぎる。
一方、粒子成長工程時間全体に対して0%未満の時点、すなわち、核生成工程中に、この切り替えを行うと、中心部が小さくなり、上記二次粒子の粒径に対する外殻部の厚みが厚くなり過ぎる。
【0079】
つぎに、各工程において使用する物質や溶液、反応条件について、詳細に説明する。
[pH値]
(核生成工程)
核生成工程においては、反応水溶液のpH値が、液温25℃基準で12.0〜14.0となるように制御されている。
pH値が14.0を超える場合、生成する核が微細になり過ぎ、反応水溶液がゲル化する問題がある。また、pH値が12.0未満では、核形成とともに核の成長反応が生じるので、形成される核の粒度分布の範囲が広くなり不均質なものとなってしまう。
したがって、核生成工程の反応水溶液のpH値は12.0〜14.0とすることが必要で、かかる範囲であれば、核生成工程では核の成長を抑制して、ほぼ核生成のみを起こすことができ、形成される核も均質かつ粒度分布の範囲が狭いものとすることができる。
【0080】
(粒子成長工程)
粒子成長工程においては、反応水溶液のpH値が、液温25℃基準で10.5〜12.0となるように制御されている。
pH値が12.0を超える場合、新たに生成される核が多く粒径分布が良好な水酸化物粒子が得られない。また、pH値が10.5未満では、アンモニアイオンによる溶解度が高く析出せずに液中に残る金属イオンが増えるため生産効率が悪化する。
したがって、粒子成長工程の反応水溶液のpH値は10.5〜12.0とすることが必要であり、かかる範囲であれば、核生成工程で生成した核の成長のみを優先的に起こさせ、新たな核形成を抑制することができ、得られるマンガン複合水酸化物粒子を均質かつ粒度分布の範囲が狭いものとすることができる。
【0081】
核生成工程および粒子成長工程のいずれにおいても、pH値の変動幅は、設定値の上下0.2以内とすることが好ましい。pH値の変動幅が大きい場合、核生成と粒子成長が一定とならず、粒度分布の範囲の狭い均一なマンガン複合水酸化物粒子が得られない場合がある。
【0082】
なお、pH値が12の場合は、核生成と核成長の境界条件であるため、反応水溶液中に存在する核の有無により、核生成工程もしくは粒子成長工程のいずれかの条件とすることができる。
すなわち、核生成工程のpH値を12より高くして多量に核生成させた後、粒子成長工程でpH値を12とすると、反応水溶液中に多量の核が存在するため、核の成長が優先して起こり、粒径分布が狭く比較的大きな粒径の前記水酸化物粒子が得られる。
【0083】
一方、反応水溶液中に核が存在しない状態、すなわち、核生成工程においてpH値を12とした場合、成長する核が存在しないため、核生成が優先して起こり、粒子成長工程のpH値を12より小さくすることで、生成した核が成長して良好な前記水酸化物粒子が得られる。
いずれの場合においても、粒子成長工程のpH値を核生成工程のpH値より低い値で制御すればよく、核生成と粒子成長を明確に分離するためには、粒子成長工程のpHを核生成工程のpHより0.5以上低くすることが好ましく、1.0以上低くすることがより好ましい。
【0084】
[核生成量]
核生成工程において生成する核の量は、特に限定されるものではないが、粒度分布の良好な複合水酸化物粒子を得るためには、全体量、つまり、複合水酸化物粒子を得るために供給する全金属塩の0.1%から2%とすることが好ましく、1.5%以下とすることがより好ましい。
【0085】
[複合水酸化物粒子の粒径制御]
上記複合水酸化物粒子の粒径は、粒子成長工程の時間により制御できるので、所望の粒径に成長するまで粒子成長工程を継続すれば、所望の粒径を有する複合水酸化物粒子を得ることができる。
また、複合水酸化物粒子の粒径は、粒子成長工程のみならず、核生成工程のpH値と核生成のために投入した原料量でも制御することができる。
【0086】
すなわち、核生成時のpH値を高pH値側とすることにより、あるいは核生成時間を長くすることにより投入する原料量を増やし、生成する核の数を多くする。これにより、粒子成長工程を同条件とした場合でも複合水酸化物粒子の粒径を小さくできる。
一方、核生成数が少なくするように制御すれば、得られる前記複合水酸化物粒子の粒径を大きくすることができる。
【0087】
以下、金属化合物、反応水溶液中アンモニア濃度、反応温度、雰囲気などの条件を説明するが、核生成工程と粒子成長工程との相違点は、反応水溶液のpH値および反応槽内の雰囲気を制御する範囲のみであり、金属化合物、反応液中アンモニア濃度、反応温度などの条件は、両工程において実質的に同様である。
【0088】
[金属化合物]
金属化合物としては、目的とする金属を含有する化合物を用いる。
用いる化合物は、水溶性の化合物を用いることが好ましく、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩等が挙げられる。例えば、硫酸マンガン、硫酸ニッケルが好ましく用いられる。
【0089】
[添加元素]
添加元素(Mg、Ca、Ba、Sr、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、Mo、Wから選ばれる1種以上の元素)は、水溶性の化合物を用いることが好ましく、例えば、硫酸チタン、ペルオキソチタン酸アンモニウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸バナジウム、バナジン酸アンモニウム、硫酸クロム、クロム酸カリウム、硫酸マンガン、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、シュウ酸ニオブ、モリブデン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウム等を用いることができる。
【0090】
かかる添加元素を複合水酸化物粒子の内部に均一に分散させる場合には、混合水溶液に、添加元素を含有する添加物を添加すればよく、複合水酸化物粒子の内部に添加元素を均一に分散させた状態で共沈させることできる。
【0091】
また、複合水酸化物粒子の表面を添加元素で被覆する場合には、例えば、添加元素を含んだ水溶液で、その複合水酸化物粒子をスラリー化し、晶析反応により添加元素を複合水酸化物粒子表面に析出させれば、その表面を添加元素で均一に被覆することができる。この場合、添加元素を含んだ水溶液に替えて添加元素のアルコキシド溶液を用いてもよい。
さらに、複合水酸化物粒子に対して、添加元素を含んだ水溶液、あるいはスラリーを吹き付けて乾燥させることによっても、複合水酸化物粒子の表面を添加元素で被覆することができる。
【0092】
なお、表面を添加元素で被覆する場合、混合水溶液中に存在する添加元素イオンの原子数比を被覆する量だけ少なくしておくことで、得られる複合水酸化物粒子の金属イオンの原子数比と一致させることができる。また、粒子の表面を添加元素で被覆する工程は、複合水酸化物粒子を加熱した後の粒子に対して行ってもよい。
【0093】
[混合水溶液の濃度]
混合水溶液の濃度は、金属化合物の合計で1〜2.6mol/Lとすることが好ましい。混合水溶液の濃度が1mol/L未満では、反応槽当たりの晶析物量が少なくなるために生産性が低下して好ましくない。
一方、混合水溶液の塩濃度が、2.6mol/Lを超えると、液温が下がったときに飽和濃度を超え、結晶が再析出して設備の配管を詰まらせるなどの危険がある。
【0094】
また、金属化合物は、必ずしも混合水溶液として反応槽に供給しなくてもよく、例えば、混合すると反応して化合物が生成される金属化合物を用いる場合、全金属化合物水溶液の合計の濃度が上記範囲となるように、個別に金属化合物水溶液を調製して、個々の金属化合物の水溶液として所定の割合で同時に反応槽内に供給してもよい。
さらに、混合水溶液等や個々の金属化合物の水溶液を反応槽に供給する量は、晶析反応を終えた時点での晶析物濃度が概ね30〜200g/Lとなるようにすることが望ましい。なぜなら、晶析物濃度が30g/L未満の場合は、一次粒子の凝集が不十分になることがあり、200g/Lを越える場合は、添加する混合水溶液の反応槽内での拡散が十分でなく粒子成長に偏りが生じることがあるからである。
【0095】
[アンモニア濃度]
反応水溶液中のアンモニア濃度は、好ましくは3〜25g/Lの範囲内で一定値に保持する。
アンモニアは錯化剤として作用するため、アンモニア濃度が3g/L未満であると、金属イオンの溶解度を一定に保持することができず、形状及び粒径が整った板状の水酸化物一次粒子が形成されず、ゲル状の核が生成しやすいため粒度分布も広がりやすい。
一方、このアンモニア濃度が25g/Lを越える濃度では、金属イオンの溶解度が大きくなり過ぎ、反応水溶液中に残存する金属イオン量が増えて、組成のずれなどが起きる。
【0096】
また、アンモニア濃度が変動すると、金属イオンの溶解度が変動し、均一な水酸化物粒子が形成されないため、一定値に保持することが好ましい。例えば、アンモニア濃度は、上限と下限の幅を5g/L程度として所望の濃度に保持することが好ましい。
なお、アンモニウムイオン供給体はとくに限定されないが、例えば、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、フッ化アンモニウムなどを使用することができる。
【0097】
[反応液温度]
反応槽内において、反応液の温度は、好ましくは20℃以上、特に好ましくは20〜60℃に設定する。
反応液の温度が20℃未満の場合、溶解度が低いため核発生が起こりやすく制御が難しくなる一方、60℃を越えると、アンモニアの揮発が促進されるため所定のアンモニア濃度を保つために過剰のアンモニウムイオン供給体を添加しなければならならず、コスト高となる。
【0098】
[アルカリ水溶液]
反応水溶液中のpH値を調整するアルカリ水溶液は、特に限定されるものではなく、例えば、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物水溶液を用いることができる。かかるアルカリ金属水酸化物の場合、直接、反応水溶液中に供給してもよいが、反応槽内における反応水溶液のpH値制御の容易さから、水溶液として反応槽内の反応水溶液に添加することが好ましい。
また、アルカリ水溶液を反応槽に添加する方法も特に限定されるものではなく、混合水溶液を十分に攪拌しながら、定量ポンプなど、流量制御が可能なポンプで、反応水溶液のpH値が所定の範囲に保持されるように添加すればよい。
【0099】
[製造設備]
本発明の複合水酸化物粒子の製造方法では、反応が完了するまで生成物を回収しない方式の装置を用いる。例えば、撹拌機が設置された通常に用いられるバッチ反応槽などである。かかる装置を採用すると、一般的なオーバーフローによって生成物を回収する連続晶析装置のように成長中の粒子がオーバーフロー液と同時に回収されるという問題が生じないため、粒度分布が狭く粒径の揃った粒子を得ることができる。
また、反応雰囲気を制御するため、密閉式の装置などの雰囲気制御可能な装置を用いる。このような装置を用いることで、得られる複合水酸化物粒子を上記構造のものとすることができるとともに、核生成反応や粒子成長反応をほぼ均一に進めることができ、粒径分布の優れた粒子(つまり、粒度分布の範囲の狭い粒子)を得ることができる。
【0100】
2−1.非水系電解質二次電池用正極活物質
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質(以下、本発明の正極活物質という)は、非水系電解質二次電池の正極の材料として適したものである。
本発明の正極活物質は、一般式2:Li1+tMn2−x−y−tNi(−0.05≦t≦0.1、0≦x≦0.55、0≦y≦0.1、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Ba、Sr、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子であって、スピネル構造を有する立方晶系の結晶構造を有するものであって、平均粒径が2〜8μmであり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.60以下であり、粒子内部の中空部とその外側の外郭部で構成される中空構造を有することを特徴とするものである。
【0101】
[粒度分布]
本発明の正極活物質は、その粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が、0.6以下である。
粒度分布が広範囲になっている場合、正極活物質に、平均粒径に対して粒径が非常に小さい微粒子や、平均粒径に対して非常に粒径の大きい粒子(粗大粒子)が多く存在することになる。
【0102】
この微粒子が多く存在する正極活物質を用いて正極を形成した場合には、微粒子の局所的な反応に起因して発熱する可能性があり安全性が低下するとともに、微粒子が選択的に劣化するのでサイクル特性が悪化してしまう。一方、粗大粒子が多く存在する正極活物質を用いて正極を形成した場合には、電解液と正極活物質との反応面積が十分に取れず反応抵抗の増加による電池出力が低下する。
したがって、正極活物質の粒度分布を前記指標〔(d90−d10)/平均粒径〕で0.6以下とすることで、微粒子や粗大粒子の割合が少ないため、この正極活物質を正極に用いた電池は、安全性に優れ、良好なサイクル特性および電池出力を有するものとなる。
【0103】
なお、粒度分布の広がりを示す指標〔(d90−d10)/平均粒径〕において、d10は、各粒径における粒子を小粒径側から累積したときにおいて、その累積体積が全粒子体積の10%となる粒径を意味している。また、d90は、各粒径における粒子を小粒径側から累積したときにおいて、その累積体積が全粒子体積の90%となる粒径を意味している。
平均粒径(d50)や、d90、d10を求める方法は特に限定されないが、例えば、レーザー光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。平均粒径としてd50を用いる場合には、d90と同様に累積体積が全粒子体積の50%となる粒径を用いればよい。
【0104】
[平均粒径]
本発明の正極活物質は、その平均粒径が2〜8μmである。平均粒径が2μm未満の場合には、正極を形成したときに粒子の充填密度が低下して正極の容積あたりの電池容量が低下する。一方、平均粒径が8μmを超えると、正極活物質の比表面積が低下して電池の電解液との界面が減少することにより、正極の抵抗が上昇して電池の出力特性が低下する。
したがって、本発明の正極活物質を、その平均粒径が2〜8μm、好ましくは3〜8μm、より好ましくは3〜6μmとなるように調整すれば、この正極活物質を正極に用いた電池では、容積あたりの電池容量を大きくすることができるとともに、高安全性、高出力等の優れた電池特性が得られる。
【0105】
[粒子構造]
本発明の正極活物質は、粒子内部の中空部とその外側の外郭部で構成される中空構造を有するものである。
中空構造とすることにより、反応表面積を大きくすることができ、かつ外郭分の一次粒子間の粒界あるいは空隙から電解液が浸入して、粒子内部の中空側の反応界面でもリチウムの挿脱入が行われるため、Liイオン、電子の移動が妨げられず、出力特性を高くすることができる。
【0106】
ここで、この外殻部の厚みは、リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子の粒径に対する比率において5〜35%であることが好ましい。外殻の厚みの比率が5%未満であると、中空部が大きくなり過ぎ、正極抵抗が高くなり、出力特性が低下してしまう。また、リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子の強度が低下するため、電池の正極とするときに粒子が破壊され微粒子が発生することがある。一方、外殻の厚みの比率が35%を超えると、粒子内部の中空部へ電解液が侵入可能な上記粒界あるいは空隙から電解液が少なくなり、電池反応に寄与する表面積が小さくなるため、正極抵抗が上がり、出力特性が低下してしまう。なお、リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子径に対する外殻の厚みの比率は、複合水酸化物粒子と同様にして求めることができる。
【0107】
[粒子の組成]
本発明の正極活物質は、下記一般式2の(2)式で表される組成を有するものである。
【0108】
【化2】

【0109】
本発明の正極活物質においては、リチウムの過剰量を示すtが上記範囲(−0.05≦t≦0.1)である。リチウムの過剰量が−0.05未満の場合、得られた正極活物質を用いた非水系電解質二次電池における正極の反応抵抗が大きくなるため、電池の出力が低くなってしまう。一方、リチウムの過剰量が0.1を超える場合、正極活物質の初期放電容量が低下するとともに、正極の反応抵抗も増加してしまう。
【0110】
一般式(2)におけるNiの添加量を示すxの範囲は、0≦x≦0.55であり、0≦x≦0.1、もしくは0.45≦x≦0.55とすることが好ましい。xが0.55を超えると、スピネル構造単相が得られなくなり、正極活物質として用いられた電池の出力特性が悪化する。一方で、xの範囲を0.45≦x≦0.55とすれば、この正極活物質を用いた正極を有する二次電池は、4.5V以上の高い作動電圧が得られる。また、xの範囲を0≦x≦0.1とすれば、正極活物質として用いられた電池の耐久特性や出力特性を向上させることができる。
【0111】
また、一般式(2)で表されるように、本発明の正極活物質は、リチウムマンガン複合酸化物粒子に添加元素が含有されていることがより好ましい。上記添加元素を含有させることで、正極活物質として用いられた電池の耐久特性や出力特性を向上させることができる。
特に、添加元素が粒子の表面または内部に均一に分布することで、粒子全体で上記効果を得ることができ、少量の添加で該効果が得られるとともに容量の低下を抑制できる。
さらに、より少ない添加量で効果を得るためには、粒子内部より粒子表面における添加元素の濃度を高めることが好ましい。
全原子に対する添加元素Mの原子比yが0.1を超えると、Redox反応に貢献する金属元素が減少するため、電池容量が低下するため好ましくない。したがって、添加元素は、上記原子比yで上記範囲とすることが好ましい。
【0112】
2−2.非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
本発明の正極活物質の製造方法は、上記平均粒径、粒度分布、粒子構造、および組成となるように正極活物質を製造できるのであれば、とくに限定されないが、以下の方法を採用すれば、前記正極活物質をより確実に製造できるので、好ましい。
【0113】
本発明の正極活物質の製造方法は、図3に示すように、
(a)上記製造方法で得られた本発明の正極活物質の原料となるマンガン複合水酸化物粒子の熱処理工程と、
(b)熱処理後の粒子に対してリチウム化合物を混合して混合物を形成する混合工程と、
(c)混合工程で形成された混合物を焼成する焼成工程、
を含むものである。
以下、各工程を説明する。
【0114】
(a)熱処理工程
熱処理工程は、マンガン複合水酸化物粒子(以下、単に複合水酸化物粒子という)を加熱して熱処理することにより複合水酸化物粒子に含まれる水分を除去する工程であり、熱処理の温度は500℃〜750℃とすることが好ましい。
特に、上記温度に加熱して熱処理することにより、水分除去とともに複合水酸化物粒子をマンガン複合酸化物粒子(以下、単に複合酸化物粒子という)に転換することができるので、得られる正極活物質中の金属の原子数やリチウムの原子数の割合がばらつくことを防ぐことができる。ただし、焼成工程前に厳密に分析を実施する、混合後に分析を実施し補正する等の処置をすることで、熱処理工程を省略するか、含有水分の除去を主な目的として100℃以上、500℃未満の温度で熱処理することもできる。
【0115】
熱処理工程において、加熱する温度が500℃未満の場合、複合水酸化物粒子が複合酸化物粒子に十分に転換されないことがあり、また、750℃を超えると粒子が焼結して均一な粒径の複合酸化物粒子が得られないことがある。
【0116】
一方、一般式(2)におけるxの範囲を0.45≦x≦0.55とした場合、上記熱処理は700℃〜1000℃の温度で行うことが好ましい。
熱処理温度が700℃未満の場合、マンガンとニッケルが十分に固溶した複合酸化物粒子が得られない場合がある。また、熱処理温度が1000℃を超えると、粒子間で焼結が生じて均一な粒径の複合酸化物粒子が得られない場合がある。
この温度範囲で熱処理すれば、マンガンとニッケルが十分に固溶した均一な粒径の複合酸化物粒子にすることができるため、より結晶性の高いリチウムマンガン複合酸化物を製造できる。
【0117】
熱処理を行う雰囲気は特に制限されるものではなく、非還元性雰囲気であればよいが、簡易的に行える空気気流中において行うことが好ましい。
また、熱処理時間は特に制限されないが、1時間未満では複合水酸化物粒子の複合酸化物粒子への転換が十分に行われない場合があるので、少なくとも1時間以上が好ましく、5〜15時間がより好ましい。
そして、熱処理に用いられる設備は、特に限定されるものではなく、複合水酸化物粒子を非還元性雰囲気中、好ましくは空気気流中で加熱できるものであれば良く、ガス発生がない電気炉等が好適に用いられる。
【0118】
(b)混合工程
混合工程は、上記熱処理工程において得られた複合酸化物粒子と、リチウムを含有する物質、例えば、リチウム化合物とを混合して、リチウム混合物を得る工程である。なお、混合工程における複合酸化物粒子には、熱処理工程において残留水分を除去されたマンガン複合水酸化物粒子が含まれてもよい。
【0119】
複合酸化物粒子とリチウムを含有する物質とは、前記リチウム混合物中のリチウム以外の金属の原子数(すなわち、マンガン、ニッケルおよび添加元素の原子数の和(Me))と、リチウムの原子数(Li)との比(Li/Me)が、0.475〜0.55(2:0.95〜1.10)となるように混合される。すなわち、焼成工程前後でLi/Meはほぼ変化せず、この混合工程で混合するLi/Meが正極活物質におけるLi/Meとなるため、リチウム混合物におけるLi/Meが、得ようとする正極活物質におけるLi/Meと同じになるように混合される。
【0120】
リチウム混合物を形成するために使用されるリチウムを含有する物質は、特に限定されるものではないが、リチウム化合物であればよい。例えば、水酸化リチウム、硝酸リチウムまたは炭酸リチウム、もしくはその混合物は、入手が容易であるという点で好ましい。特に、取り扱いの容易さ、品質の安定性を考慮すると、炭酸リチウムを用いることがより好ましい。
【0121】
なお、リチウム混合物は、焼成前に十分混合しておくことが好ましい。混合が十分でない場合には、個々の粒子間でLi/Meがばらつき、十分な電池特性が得られない等の問題が生じる可能性がある。
また、混合には、一般的な混合機を使用することができ、例えば、シェーカーミキサーやレーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダーなどを用いることができ、複合酸化物粒子等の形骸が破壊されない程度で、複合酸化物粒子とリチウムを含有する物質とが十分に混合されればよい。
【0122】
(c)焼成工程
焼成工程は、上記混合工程で得られたリチウム混合物を焼成して、リチウムマンガン複合酸化物を形成する工程である。焼成工程においてリチウム混合物を焼成すると、複合酸化物粒子にリチウムを含有する物質中のリチウムが拡散するので、リチウムマンガン複合酸化物が形成される。
【0123】
[焼成温度]
リチウム混合物の焼成は、600〜950℃の温度で行う。焼成温度が600℃未満であると、複合酸化物粒子中へのリチウムの拡散が十分に行われず、余剰のリチウムや未反応の粒子が残ったり、結晶構造が十分整わなくなり、十分な電池特性が得られないという問題が生じる。
また、焼成温度が950℃を超えると、複合酸化物粒子間で激しく焼結が生じるとともに、異常粒成長を生じる可能性があり、これにより、焼成後の粒子が粗大となって粒子形態(後述する球状二次粒子の形態)を保持できなくなる可能性がある。このような正極活物質は、比表面積が低下するため、電池に用いた場合、正極の抵抗が上昇して電池容量が低下するという問題が生じる。したがって、リチウム混合物の焼成は、600〜950℃で行うことが好ましい。
【0124】
[焼成時間]
焼成時間は、少なくとも3時間以上とすることが好ましく、より好ましくは、6〜24時間である。3時間未満では、リチウムマンガン複合酸化物の生成が十分に行われないことがある。
【0125】
[仮焼]
特に、リチウムを含有する物質として、水酸化リチウムや炭酸リチウム等を使用した場合には、焼成する前に、焼成温度より低く、かつ350〜750℃の温度で1〜10時間程度保持して仮焼することが好ましい。
つまり、水酸化リチウムや炭酸リチウムの融点あるいは反応温度において仮焼することが好ましい。この場合、水酸化リチウムや炭酸リチウムの融点付近あるいは反応温度付近で保持すれば、複合酸化物粒子へのリチウムの拡散が十分に行われ、均一なリチウムマンガン複合酸化物を得ることができるという利点が得られる。
【0126】
なお、リチウムマンガン複合酸化物粒子の表面の添加元素Mの濃度を高めたい場合には、原料である複合酸化物粒子として、添加元素によって粒子表面が均一に被覆されたものを用いればよい。かかる複合酸化物粒子を含むリチウム混合物を、適度な条件で焼成することで、前記複合酸化物粒子表面の添加元素の濃度を高めることができる。
【0127】
具体的には、添加元素によって被覆された複合酸化物粒子を含むリチウム混合物を、焼成温度を低く、かつ、焼成時間を短くして焼成すれば、粒子表面の添加元素Mの濃度を高めたリチウムマンガン複合酸化物粒子を得ることができる。
そして、添加元素によって被覆された複合酸化物粒子を含むリチウム混合物を焼成した場合であっても、焼成温度を高く、焼成時間を長くすると、添加元素が粒子内に均一に分布したリチウムマンガン複合酸化物粒子を得ることができる。つまり、原料とする複合酸化物粒子および焼成条件を調整すれば、目的とする濃度分布を有するリチウムマンガン複合酸化物粒子を得ることができるのである。
【0128】
[焼成雰囲気]
焼成時の雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18〜100容量%の雰囲気とすることがより好ましく、酸素と不活性ガスの混合雰囲気とすることが特に好ましい。
すなわち、焼成は、大気ないしは酸素気流中で行うことが好ましい。酸素濃度が18容量%未満であると、リチウムマンガン複合酸化物の結晶性が十分でない状態になる可能性がある。特に電池特性を考慮すると、酸素気流中で行うことが好ましい。
【0129】
なお、焼成に用いられる炉は、特に限定されるものではなく、大気ないしは酸素気流中でリチウム混合物を加熱できるものであればよいが、ガス発生がない電気炉が好ましく、バッチ式あるいは連続式の炉をいずれも用いることができる。
【0130】
[解砕]
焼成によって得られたリチウムマンガン複合酸化物粒子は、凝集もしくは軽度の焼結が生じている場合がある。この場合には、解砕してもよく、これにより、リチウムマンガン複合酸化物、つまり、本発明の正極活物質を得ることができる。
なお、解砕とは、焼成時に二次粒子間の焼結ネッキング等により生じた複数の二次粒子からなる凝集体に機械的エネルギーを投入して、二次粒子をほとんど破壊することなく二次粒子を分離させて凝集体をほぐす操作のことである。
【0131】
3.非水系電解質二次電池
本発明の非水系電解質二次電池は、図4に示す製造フローチャートに沿って、本発明に係るマンガン複合水酸化物粒子、その水酸化物粒子を用いたリチウムマンガン複合酸化物からなる非水系電解質二次電池用正極活物質を用いた正極を採用したものである。
【0132】
まず、本発明の非水系電解質二次電池の構造を説明する。
本発明の非水系電解質二次電池(以下、単に本発明の二次電池と称する場合もある。)は、正極の材料に本発明の正極活物質を用いた以外は、一般的な非水系電解質二次電池と実質同等の構造を有している。
【0133】
具体的には、本発明の二次電池は、ケースと、このケース内に収容された正極、負極、非水系電解液およびセパレータを備えた構造を有している。より具体的にいえば、セパレータを介して正極と負極とを積層させて電極体とし、得られた電極体に非水系電解液を含浸させ、正極の正極集電体と外部に通ずる正極端子との間および、負極の負極集電体と外部に通ずる負極端子との間をそれぞれ集電用リードなどを用いて接続し、ケースに密閉することによって、本発明の二次電池は形成されている。
なお、本発明の二次電池の構造は、上記例に限定されないのはいうまでもなく、また、その外形も筒形や積層形など、種々の形状を採用することができる。
以下に、本発明の二次電池を構成する各部を説明する。
【0134】
[正極]
まず、本発明の二次電池の特徴である正極について説明する。
正極は、シート状の部材であり、本発明の正極活物質を含有する正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布乾燥して形成されている。
【0135】
なお、正極は、使用する電池にあわせて適宜処理される。例えば、目的とする電池に応じて適当な大きさに形成する裁断処理や、電極密度を高めるためにロールプレスなどによる加圧圧縮処理等が行われる。
【0136】
[正極合材ペースト]
前記正極合材ペーストは、正極合材に、溶剤を添加して混練して形成されたものである。
正極合材は、粉末状になっている本発明の正極活物質と、導電材および結着剤とを混合して形成されたものである。
導電材は、電極に適当な導電性を与えるために添加されるものである。この導電材は、特に限定されないが、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料を用いることができる。
【0137】
結着剤は、正極活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすものである。
この正極合材に使用される結着剤は、特に限定されないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂およびポリアクリル酸を用いることができる。
なお、正極合材には、活性炭等を添加してもよく、活性炭等を添加することによって正極の電気二重層容量を増加させることができる。
【0138】
溶剤は、結着剤を溶解して、正極活物質、導電材および活性炭等を結着剤中に分散させるものである。この溶剤はとくに限定されないが、例えば、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0139】
また、正極合材ペースト中における各物質の混合比は、とくに限定されない。例えば、溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部とした場合、一般の非水系電解質二次電池の正極と同様、正極活物質の含有量を60〜95質量部、導電材の含有量を1〜20質量部、結着剤の含有量を1〜20質量部とすることができる。
【0140】
[負極]
負極は、銅などの金属箔集電体の表面に負極合材ペーストを塗布し、乾燥して形成されたシート状の部材である。この負極は、負極合材ペーストを構成する成分やその配合、集電体の素材などは異なるものの、実質的に前記正極と同様の方法によって形成され、正極と同様に、必要に応じて各種処理が行われる。
【0141】
負極合材ペーストは、負極活物質と結着剤とを混合した負極合材に、適当な溶剤を加えてペースト状にしたものである。
負極活物質は、例えば、金属リチウムやリチウム合金等のリチウムを含有する物質や、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる吸蔵物質を採用することができる。
吸蔵物質はとくに限定されないが、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。
かかる吸蔵物質を負極活物質に採用した場合には、正極同様に結着剤として、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、負極活物質を結着剤中に分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0142】
[セパレータ]
セパレータは、正極と負極との間に挟み込んで配置されるものであり、正極と負極とを分離し、電解質を保持する機能を有している。かかるセパレータは、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微細な孔を多数有する膜を用いることができるが、上記機能を有するものであれば、特に限定されない。
【0143】
[非水系電解液]
非水系電解液は、支持塩のリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0144】
LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiN(CFSO、およびそれらの複合塩などを支持塩に用いることができる。
なお、非水系電解液は、電池特性改善のため、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
【0145】
(非水系電解質二次電池の特性)
本発明の非水系電解質二次電池は、上記構成であり、本発明の正極活物質を用いているので、例えば2032型コインの場合、200mAh/g以上の高い初期放電容量、10Ω以下の低い正極抵抗が得られ、高容量で高出力となると共に、容量維持率が80%以上で耐久性にも優れたものである。しかも、従来のリチウムニッケル系酸化物の正極活物質との比較においても熱安定性が高く、安全性においても優れているといえる。
【0146】
(非水系電解質二次電池の用途)
本発明の非水系電解質二次電池は、上記の性質を有するので、常に高容量を要求される小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末など)の電源に好適である。
また、本発明の非水系電解質二次電池は、高出力が要求される電気自動車用電池にも好適である。電気自動車用の電池は、大型化すると安全性の確保が困難になり高価な保護回路が必要不可欠であるが、優れた安全性を有しているため、安全性の確保が容易になるばかりでなく、高価な保護回路を簡略化し、より低コストにできる。そして、小型化、高出力化が可能であることから、搭載スペースに制約を受ける電気自動車用電源として好適である。
なお、本発明の非水系電解質二次電池は、純粋に電気エネルギーで駆動する電気自動車用の電源のみならず、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃焼機関と併用するいわゆるハイブリッド車用の電源としても用いることができる。
【実施例】
【0147】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
実施例では、本発明の方法によって製造した複合水酸化物、この複合水酸化物を原料として本発明の方法によって製造した正極活物質について、その平均粒径および粒度分布を確認した。
また、本発明の方法によって製造した正極活物質を用いて製造した正極を有する二次電池について、その性能(初期放電容量、サイクル容量維持率、正極抵抗)を確認した。
本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0148】
実施例における「平均粒径の測定」、「粒度分布の測定」、「結晶構造の同定、確認」、「組成分析」および「二次電池の製造(評価を含む)」は、以下のとおり行った。
【0149】
[平均粒径および粒度分布の測定]
平均粒径および粒度分布(〔(d90−d10)/平均粒径〕値)は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)を用いて測定した体積積算値から算出した。
【0150】
[結晶構造の同定、確認]
結晶構造は、X線回折測定(パナリティカル社製「X‘Pert PRO」)により同定、確認した。
【0151】
[組成分析]
組成は、試料を溶解した後、ICP発光分光法により分析した。
【0152】
[二次電池の製造]
評価には、図9に示す2032型コイン電池(以下、コイン型電池Bという)を作製して用いた。
図9に示すように、コイン型電池Bは、ケース(正極缶5、負極缶6)と、このケース内に収容された電極(正極1、負極2)とから構成されている。
ケースは、中空かつ一端が開口された正極缶5と、この正極缶5の開口部に配置される負極缶6とからなり、負極缶6を正極缶5の開口部に配置すると、負極缶6と正極缶5との間に電極を収容する空間が形成されるように構成されている。
【0153】
電極は、正極1および負極2とからなり、正極1と負極2の間にはセパレータ3が挿入されて積層されており、正極1が正極缶5の内面に接触し、負極2が負極缶6の内面に接触するようにケースに収容されている。
なお、ケースはガスケット4を備えており、このガスケット4によって、正極缶5と負極缶6との間が電気的に絶縁状態を維持するように固定されている。また、ガスケット4は、正極缶5と負極缶6との隙間を密封してケース内と外部との間を気密および液密に遮断する機能も有している。
【0154】
上記コイン型電池Bは、以下のようにして製作した。
まず、非水系電解質二次電池用正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形して、正極1を作製した。次に作製した正極1を真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。
この正極1と、負極2、セパレータ3および電解液とを用いて、コイン型電池Bを、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
なお、負極2には、直径14mmの円盤状に打ち抜かれた平均粒径20μm程度の黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデンが銅箔に塗布された負極シートを用いた。また、セパレータ3には膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。
電解液には、1MのLiClOを支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。
【0155】
作製したコイン型電池Bの性能評価を、初期放電容量、サイクル容量維持率、正極抵抗について、以下のように定義した。
・初期放電容量は、コイン型電池Bを作製してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(open circuit voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cmとしてカットオフ電圧4.8Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧2.5Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。
・サイクル容量維持率は、正極に対する電流密度を2mA/cmとして、4.5Vまで充電して3.0Vまで放電を行うサイクルを200回繰り返し、充放電を繰り返した後の放電容量と初期の放電容量の比を計算して容量維持率とした。なお、この充放電容量の測定には,マルチチャンネル電圧/電流発生器(株式会社アドバンテスト製、R6741A)を用いた。
【0156】
正極抵抗は、コイン型電池Bを充電電位4.1Vで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製、1255B)を使用して交流インピーダンス法により測定して、図10に示すナイキストプロットを作成する。このナイキストプロットは、溶液抵抗、負極抵抗とその容量、および、正極抵抗とその容量を示す特性曲線の和として表しているため、このナイキストプロットに基づき等価回路を用いてフィッティング計算して、正極抵抗の値を算出した。
【0157】
なお、本実施例では、複合水酸化物製造、正極活物質および非水系電解質二次電池の作製には、和光純薬工業株式会社製試薬特級の各試料を使用した。
【実施例1】
【0158】
[複合水酸化物製造工程]
複合水酸化物は、以下のように作製した。
まず、反応槽(34L)内に水を半分の量まで入れて撹拌しながら、槽内温度を40℃に設定した。このときの反応槽内は大気雰囲気とした。
この反応槽内の水に、25質量%水酸化ナトリウム水溶液と25質量%アンモニア水を適量加えて、液温25℃基準で槽内の反応前水溶液のpH値が13.0となるように調整した。また、反応前水溶液中のアンモニア濃度は15g/Lに調節した。
【0159】
[核生成工程]
次に、硫酸ニッケルと硫酸マンガンを水に溶かして1.8mol/Lの混合水溶液を調製した。この混合水溶液では、各金属の元素モル比が、Ni:Mn=0.5:1.5となるように調整した。
その混合水溶液を、反応槽内の反応液に88ml/分で加えた。同時に、25質量%アンモニア水、および25質量%水酸化ナトリウム水溶液も反応槽内の反応水溶液に一定速度で加えていき、反応水溶液中のアンモニア濃度を上記値に保持した状態で、pH値を13.0(核生成pH値)に制御しながら、2分30秒間晶析させて核生成を行った。
【0160】
[粒子成長工程]
核生成後、反応水溶液のpH値が液温25℃基準でpH11.6(粒子成長pH値)になるまで、25質量%水酸化ナトリウム水溶液の供給のみを一時停止した。
反応水溶液のpH値が11.6に到達した後、再度、25質量%水酸化ナトリウム水溶液の供給を再開し、液温25℃基準でpH値を11.6に制御したまま、30分間の晶析を継続し粒子成長を行った後、全ての給液を一旦停止し、反応槽内空間の酸素濃度が0.2容量%以下となるまで窒素ガスを5L/minで流通させた。その後、給液を再開し、粒子成長開始からあわせて2時間晶析を行った。
【0161】
反応槽内が満液になったところで、晶析を停止するとともに撹拌を止めて静置することで、生成物の沈殿を促した。その後、反応槽から上澄み液を半量抜き出した後、晶析を再開し、2時間晶析を行った後(計4時間)、晶析を終了させた。そして、生成物を水洗、濾過、乾燥させて複合水酸化物粒子を得た。なお、上記大気雰囲気から窒素雰囲気への切り替えは、粒子成長工程開始時から粒子成長工程時間全体に対して12.5%の時点となる。
この晶析におけるpH値は、pHコントローラーにより水酸化ナトリウム水溶液の供給流量を調整することで制御して、その変動幅は設定値の上下0.2の範囲内であった。
【0162】
得られた複合水酸化物を化学分析したところ、その組成は、Ni0.25Mn0.75(OH)2+α(0≦α≦0.5)であった。
この複合水酸化物粒子の粒度分布を測定したところ、
・平均粒径は5.3μm、
・〔(d90−d10)/平均粒径〕値は0.49であった。
表1に平均粒径と〔(d90−d10)/平均粒径〕値を示す。
【0163】
得られた複合水酸化物粒子のSEM(株式会社日立ハイテクノロジース製走査電子顕微鏡S−4700)観察から、得られた複合水酸化物粒子は、略球状であり、粒径がほぼ均一に揃っていることを確認した。粒子断面のSEM観察結果を図5に示す。また、上記複合水酸化物粒子断面の高倍率のSEM観察結果を図6に示す。断面のSEM観察より求めた二次粒子径に対する外郭分の厚みは11%であった。
【0164】
[正極活物質製造工程]
次に、作製した複合水酸化物粒子を、空気(酸素:21容量%)気流中にて700℃で6時間の熱処理を行って、複合酸化物粒子に転換して回収した。
Li/Me=0.50となるように水酸化リチウムを秤量し、その複合酸化物粒子と混合してリチウム混合物を調製した。混合は、シェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて行った。
そのリチウム混合物を、大気中(酸素:21容量%)にて500℃で4時間仮焼した後、900℃で4時間焼成し、冷却した後、解砕して正極活物質を得た。
【0165】
得られた正極活物質の粒度分布を測定したところ、
・平均粒径は4.8μm、
・〔(d90−d10)/平均粒径〕値は0.49であった。
表1に平均粒径と〔(d90−d10)/平均粒径〕値を示す。
【0166】
また、複合水酸化物粒子と同様の方法で正極活物質をSEM観察したところ、得られた正極活物質は、略球状であり、粒径がほぼ均一に揃っていることが確認された。
正極活物質のSEM観察結果を図7に示す。さらに、正極活物質における該粒子径に対する外殻厚みの比率を、複合水酸化物粒子と同様にして求めたところ、21%であった。
断面のSEM観察結果を図8に示す。
また、得られた正極活物質をCu−Kα線による粉末X線回折で分析したところ、スピネル構造を持つリチウムニッケルマンガン複合酸化物単相であることを確認した。
さらに、正極活物質は、化学分析により、Liが3.9質量%、Niが16.3質量%、Mnが46.1質量%の組成で、Li1.003Ni0.5Mn1.5であることが確認した。
【0167】
[電池評価]
その正極活物質を用いて構成した正極を有するコイン型電池Bについて、電池評価を行ったところ、
・初期放電容量は、125.5mAh/g
・正極抵抗は、8.2Ω、
・200サイクル後の容量維持率は85%であった。
表1に電池評価の結果を示す。
【0168】
以下、実施例2〜10および比較例1〜6については、上記実施例1と変更した物質、条件のみを示す。また、実施例2〜10および比較例1〜6の各評価の結果は、表1に合わせて示した。
【実施例2】
【0169】
Li/Me=0.55となるように水酸化リチウムと複合酸化物粒子を混合したこと、焼成温度を950℃としたこと以外は実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
【実施例3】
【0170】
複合水酸化物製造工程における粒子成長工程において、大気雰囲気から窒素雰囲気への切り替えを粒子成長工程時間全体に対して6.25%の時点で行ったこと以外は実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
【実施例4】
【0171】
複合水酸化物製造工程において硫酸ニッケルと硫酸マンガンに加えてタングステン酸ナトリウムを水に溶かして1.8mol/Lの混合水溶液を形成したこと以外は実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。なお、この混合水溶液では、各金属の元素モル比が、Ni:Mn=0.5:1.5、かつW/(Ni+Mn+W)=0.005となるように調整した。
【実施例5】
【0172】
複合水酸化物製造工程において硫酸ニッケルと硫酸マンガンに加えて硫酸ジルコニウムを水に溶かして1.8mol/Lの混合水溶液を形成したこと以外は実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。なお、この混合水溶液では、各金属の元素モル比が、Ni:Mn=0.5:1.5、かつZr/(Ni+Mn+Zr)=0.005となるように調整した。
【実施例6】
【0173】
Li/Me=0.48となるように混合した以外は実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
【実施例7】
【0174】
複合水酸化物製造工程において、槽内温度を50℃、アンモニア濃度を20g/lとした以外は実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
【実施例8】
【0175】
複合水酸化物製造工程における粒子成長工程おいて、大気雰囲気から窒素雰囲気への切り替えを粒子成長工程時間全体に対して25%の時点で行ったこと以外は実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
【実施例9】
【0176】
複合水酸化物製造工程において硫酸マンガンのみを水に溶かして1.8mol/Lの混合水溶液を形成したこと以外は実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
【実施例10】
【0177】
複合水酸化物製造工程において粒子成長工程を液温25℃基準におけるpH値が10.8となるように制御したこと以外は実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
【0178】
(比較例1)
上部にオーバーフロー用配管を備えた連続晶析用の反応槽を用いて、槽内の雰囲気を窒素雰囲気とし、反抗水溶液のpH値を液温25℃基準で11.0の一定値(実施例と同様に設定値の上下0.2の範囲内)に保ちながら、実施例1と同様の混合水溶液とアンモニア水溶液および水酸化ナトリウム水溶液を一定流量で連続的に加えて、オーバーフローするスラリーを連続的に回収する一般的な方法により晶析を行った。
反応槽内の平均滞留時間を10時間として、連続槽内が平衡状態になってからスラリーを回収して固液分離して複合水酸化物を得たこと以外は、実施例1と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
【0179】
(比較例2)
核生成時と成長時のpH値を液温25℃基準で11.6の一定値に保持した以外は実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
【0180】
(比較例3)
核生成時と成長時のpH値を液温25℃基準で12.6の一定値に保持した以外は実施例1と同様にして、マンガン複合水酸化物を得た。
晶析反応全期間において新たな核が生成したために、粒度分布が広くゲル状の析出物を含む不定形の粒子となり、固液分離が困難であり処理を中止した。
【0181】
(比較例4)
焼成温度を1000℃とした以外は実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得たところ焼結が激しく評価は困難であった。
【0182】
(比較例5)
複合水酸化物製造工程における成長工程において大気雰囲気から窒素雰囲気への切り替えを粒子成長工程時間全体に対して37.5%としたこと以外は実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
【0183】
(比較例6)
比較例2で得られた複合水酸化物を湿式サイクロン(ハイドロサイクロン、日本化学機械製造(株)製、NHC−1)を用いて、供給圧力を上げて粗粉を除去した後、再度、供給圧力を下げて微粒を除去したこと以外は、実施例1と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
【0184】
【表1】

【0185】
(評価)
実施例1〜10の複合水酸化物粒子および正極活物質は、本発明に従って製造されたため、平均粒径および粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕値のいずれもが好ましい範囲にあり、粒径分布が良好で粒径が均一粒子となっている。
これらの正極活物質を用いたコイン型電池Bは、初期放電容量が高く、正極抵抗も低く、サイクル特性に優れたものとなっており、優れた特性を有した電池となっている。
【0186】
比較例1は、連続晶析法を用いたため、核生成と粒子成長の分離ができず、粒子成長時間が一定でないため、粒度分布が広いものとなっている。このため、コイン型電池Bは、初期放電容量は高いものの、サイクル特性、反応抵抗が悪くなっている。
【0187】
比較例2では、核成長時と粒子成長時のpH値をいずれもpH12以下としたため、核生成量が不足し、複合水酸化物粒子、正極活物質ともに大粒径になるとともに粒度分布も悪化している。このため、この正極活物質を用いたコイン型電池Bは、反応表面積が不足して高い正極抵抗となっている。
【0188】
比較例3では、核成長時と粒子成長時のpH値をいずれもpH12以上としたため、晶析反応全期間において新たな核が生成し、粒子が微細化して凝集したために、粒度分布が広くなり、正極活物質の製造も困難となった。
【0189】
比較例4は、正極活物質の製造工程における焼成温度が高すぎたため、良好な特性の正極活物質が得られなかった。
【0190】
比較例5は、粒子成長工程における大気雰囲気が長いために低密度の中心部が大きくなり過ぎ、焼成時に収縮して焼結し、正極活物質の粒度分布が悪化して特性が低下した。
【0191】
比較例6は、複合水酸化物を分級したものの正極活物質の粒度分布が十分狭くならず、サイクル特性、反応抵抗が十分でない結果となった。
【0192】
以上の結果より、本発明の製造方法を用いて、マンガン複合水酸化物粒子および正極活物質を製造すれば、この正極活物質を用いた非水系電解質二次電池は、初期放電容量が高く、サイクル特性に優れ、正極抵抗も低いものとなり、優れた特性を有した電池となることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0193】
本発明の非水系電解質二次電池は、常に高容量を要求される小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末など)の電源に好適であり、高出力が要求される電気自動車用電池にも好適である。
また、本発明の非水系電解質二次電池は、優れた安全性を有し、小型化、高出力化が可能であることから、搭載スペースに制約を受ける電気自動車用電源として好適である。
なお、本発明は、純粋に電気エネルギーで駆動する電気自動車用の電源のみならず、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃焼機関と併用するいわゆるハイブリッド車用の電源としても用いることができる。
【符号の説明】
【0194】
B コイン型電池
1 正極
2 負極
3 セパレータ
4 ガスケット
5 正極缶
6 負極缶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
晶析反応によって一般式1「Mn1−x−yNi(OH)2+α(0≦x≦0.27、0≦y≦0.05、0≦α≦0.5、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Ba、Sr、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)」で表されるマンガン複合水酸化物の製造方法であって、
少なくともマンガンを含有する金属化合物とアンモニウムイオン供給体とを含む核生成用水溶液を、液温25℃基準におけるpH値が12.0〜14.0となるように制御して酸化性雰囲気中で核生成を行う核生成工程と、
前記核生成工程において形成された核を含有する粒子成長用水溶液を、液温25℃基準におけるpH値が10.5〜12.0の範囲で核生成段階より低くなるように制御するとともに、
粒子成長工程開始時から粒子成長工程時間全体に対して0〜30%の範囲で上記酸化性雰囲気から酸素濃度1容量%以下の酸素と不活性ガスの混合雰囲気に切り替えて前記核を成長させる粒子成長工程、
とからなることを特徴とするマンガン複合水酸化物粒子の製造方法。
【請求項2】
前記一般式1におけるxの範囲が、0.23≦x≦0.27であることを特徴とする請求項1に記載のマンガン複合水酸化物粒子の製造方法。
【請求項3】
前記粒子成長用水溶液が、前記核生成工程が終了した核生成用水溶液のpH値を調整して形成されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のマンガン複合水酸化物粒子の製造方法。
【請求項4】
前記粒子成長用水溶液が、前記核生成工程において形成された核を含有する水溶液を、核を形成した核生成用水溶液とは異なる水溶液に添加したものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のマンガン複合水酸化物粒子の製造方法。
【請求項5】
前記核生成工程終了後に、前記粒子成長用水溶液の液体部の一部を排出した後、前記粒子成長工程を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のマンガン複合水酸化物粒子の製造方法。
【請求項6】
前記核生成工程および前記粒子成長工程において、
各水溶液の温度を、20℃以上に維持することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のマンガン複合水酸化物粒子の製造方法。
【請求項7】
前記核生成工程および前記粒子成長工程において、
各水溶液のアンモニア濃度を3〜25g/Lの範囲内に維持することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のマンガン複合水酸化物粒子の製造方法。
【請求項8】
前記粒子成長工程で得られたマンガン複合水酸化物に、1種以上の上記添加元素を含む化合物を被覆することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のマンガン複合水酸化物粒子の製造方法。
【請求項9】
一般式1「Mn1−x−yNi(OH)2+α(0≦x≦0.27、0≦y≦0.05、0≦α≦0.5、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Ba、Sr、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)」で表され、複数の板状一次粒子が凝集して形成された略球状の二次粒子であり、
前記二次粒子は、平均粒径が3〜7μmであり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.55以下で、微細一次粒子からなる中心部を有し、中心部の外側に前記微細一次粒子よりも大きな板状一次粒子からなる外郭部を有することを特徴とするマンガン複合水酸化物粒子。
【請求項10】
前記中心部の微細一次粒子は、平均粒径0.01〜0.3μmであり、前記中心部の微細一次粒子よりも大きな板状一次粒子は、平均粒径0.3〜3μmであることを特徴とする請求項9に記載のニッケル複合水酸化物粒子。
【請求項11】
前記外殻部の厚みが、前記二次粒子の粒径に対する比率で5〜45%であることを特徴とする請求項9または10に記載のマンガン複合水酸化物粒子。
【請求項12】
前記一般式1におけるxの範囲が、0.23≦x≦0.27であることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載のマンガン複合水酸化物粒子。
【請求項13】
前記二次粒子は、1種以上の前記添加元素が、その内部に均一に分布、或いはその表面を均一に被覆、若しくは、その内部に均一に分布し、その表面を均一に被覆していることのいずれかであることを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載のマンガン複合水酸化物粒子。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれかの製造方法によって生成されたものであることを特徴とする請求項9〜13のいずれかに記載のマンガン複合水酸化物粒子。
【請求項15】
一般式2「Li1+tMn2−x−y−tNi(−0.05≦t≦0.1、0≦x≦0.55、0≦y≦0.1、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Ba、Sr、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)」で表され、スピネル構造を有する立方晶系のリチウムマンガン複合酸化物からなる非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、
請求項10〜14のいずれかのマンガン複合水酸化物粒子を熱処理する工程と、
前記熱処理後の粒子に対してリチウム化合物を混合してリチウム混合物を形成する混合工程と、
前記混合工程で形成された前記混合物を、600℃〜950℃の温度で焼成する焼成工程と、
を有することを特徴とする。
【請求項16】
前記熱処理が、500℃〜750℃の温度で行うことを特徴とする請求項15に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項17】
前記一般式2におけるxの範囲が、0.45≦x≦0.55であり、上記熱処理を700℃〜1000℃の温度で行うことを特徴とする請求項15に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項18】
前記混合物は、該混合物に含まれるリチウム以外の金属の原子数の和とリチウムの原子数との比が、2:0.95〜1.10となるように調整されることを特徴とする請求項15〜17のいずれかに記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項19】
一般式2「Li1+tMn2−x−y−tNi(−0.05≦t≦0.1、0≦x≦0.55、0≦y≦0.1、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Ba、Sr、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)」で表され、スピネル構造を有する立方晶系リチウム含有複合酸化物により構成されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子からなる非水系電解質二次電池用正極活物質であって、
平均粒径が2〜8μmであり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.60以下であり、粒子内部の中空部とその外側の外郭部で構成される中空構造を有することを特徴とする。
【請求項20】
前記外殻部の厚みが、前記リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子の粒径に対する比率で5〜35%であることを特徴とする請求項19に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項21】
前記一般式2におけるxの範囲が、0.45≦x≦0.55であることを特徴とする請求項19又は20に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項22】
請求項15〜18のいずれかの製造方法によって生成されたものであることを特徴とする請求項19〜21のいずれかに記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項23】
請求項19〜22のいずれかの非水系電解質二次電池用正極活物質からなる正極を有することを特徴とする非水系電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図9】
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【図10】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−246199(P2012−246199A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121116(P2011−121116)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】