説明

マンガン錯体化合物と非マンガン錯体形態の同化合物の組み合わせを用いる医薬組成物及び治療方法

患者の病理状態を治療する医薬組成物は、第1成分として式(I)のマンガン錯体及び第2成分として式(I)の非マンガン錯体化合物を、場合により1つ以上の生理学的に許容される担体及び/又は賦形剤と一緒に含み、ここでX、R1、R2、R3及びR4は本明細書において定義されたとおりである。患者の病理状態、例えば酸素誘導フリーラジカルの存在により引き起こされる病理状態を治療する方法は、前記患者に第1成分及び第2成分を投与することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療剤として、第1成分のジピリドキシル化合物のマンガン錯体、例えばMnDPDP(マンガンN,N'-ビス-(ピリドキサール-5-ホスフェート)-エチレンジアミン-N,N'-二酢酸)又は式Iの別のマンガン錯体(以降、マンガンピリドキシルエチルジアミン誘導体若しくはMnPLED誘導体)と、第2成分の式Iのマンガン非含有化合物(以降、PLED誘導体と称する)、例えばDPDPとの組み合わせを用いる医薬組成物及び治療方法に関する。本発明の組成物及び方法は、治療効果のためにこのようなマンガン錯体を慣用的に用いる任意の治療方法に使用することができる。特定の実施形態において、該組成物は、体内における酸素誘導フリーラジカル、すなわち酸化ストレスの存在により引き起こされる病理状態の治療に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
ジピリドキシルに基づいたキレート剤及びこれらの金属キレート、並びに特定のマンガン含有化合物、特にマンガンキレートの、薬剤における使用が知られている。特定のキレート剤、特にジピリドキシル及びアミノポリカルボン酸に基づいたキレート剤、並びにこれらの金属キレートが、アントラサイクリン誘発心毒性、放射線誘発毒性、虚血再潅流誘発障害及びアテローム性動脈硬化、又はより一般的な観点からヒト及び動物における酸素誘導フリーラジカル、すなわち酸化ストレスの存在により引き起こされるあらゆる病理状態の治療又は予防に有効であることを開示する、例えばEP0910360、US6147094、EP0936915、US6258828、EP1054670、US6310051、EP1060174及びUS6391895を参照されたい。
【0003】
寿命が短いが反応性の高い酸素誘導フリーラジカルは、特に、癌患者における細胞毒性剤/細胞増殖抑制剤及び放射線療法による治療中の病理学的組織傷害(Towartら、Arch Pharmacol、1998年、358(付録2)、R626、Laurentら、Cancer Res、2005年、65、948〜956頁、Karlssonら、Cancer Res、2006年、66、598頁、Alexandreら、J Natl Cancer Inst、2006年、98、236〜244頁、Doroshow、J Natl Cancer Inst、2006年、98、223〜225頁)、アセトアミノフェン誘発肝不全(Beddaら、J Hepatol、2003年、39、765〜772頁、Karlsson、J Hepatol、2004年、40、872〜873頁)、虚血性心疾患(Cuzzocreaら、Pharmacol Rev、2001年、53、135〜159頁)、並びにアルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病及び多発性硬化症を含む多様な神経変性疾患(Knight、Ann Clin Lab Sci.、1997年、27、11〜25頁)に関与することが長い間知られてきた。酸素誘導フリーラジカルの過剰生成は、鉄過剰(Rachmilewitzら、Ann N Y Acad Sci.、2005年、1054、:118〜23頁)、例えばサラセミア、鎌状赤血球貧血及び輸血性ヘモジデリン沈着症の病理状態にも関与している。酸素誘導フリーラジカルは、肝炎誘発肝硬変(Farrellら、Anat Rec、2008年、291、684〜692頁)及び騒音性難聴(Wongら、Hear Res、2010年、260、81〜88頁)にも関与している。
【0004】
MnPLED誘導体の一つ、すなわちマンガン N,N'-ビス-(ピリドキサール-5-ホスフェート)-エチレンジアミン-N,N'-二酢酸(マンガンジピリドキシルジホスフェート;MnDPDP)は、ヒトにおける診断用MRI造影剤としての使用が認可されている。興味深いことに、MnDPDPは、幾つかの細胞毒性/細胞増殖抑制薬(ドキソルビシン、オキサリプラチン、5-フルオロウラシル及びパクリタセキル)の重篤な副作用から、これらの薬剤の抗癌効果に対して負の干渉なしにマウスを保護することも示されている(Towartら、1998年、Laurentら、2005年、Karlssonら、2006年、Alexandreら、2006年、Doroshow、2006年)。MnDPDPは、ホリナート(folinate)、5-フルオロウラシル及びオキサリプラチン(FOLFOX)の組み合わせによる緩和治療を受けている1人の結腸癌患者において試験されてきた(Yriら、Acta Oncol.、2009年、48、633〜635頁)。この単独の患者の前臨床データ及び結果が有望だったので、スウェーデンにおいて癌患者の臨床試験が開始された。最初の実現可能性研究が完了し、肯定的な結果がスウェーデン医薬品庁(Swedish Medical Agency)に報告された。
【0005】
MnDPDPは、マウスにおけるアセトアミノフェン誘発急性肝不全(ALF)に対してマウスを保護することも記載されている(Beddaら、2003年、Karlsson、2004年)。ALFは、グルタチオン涸渇、酸素誘導フリーラジカル及びミトコンドリア傷害により引き起こされる状態である大量肝細胞死により特徴付けられる。
【0006】
MnDPDPは、おそらく、インビボ条件下で細胞保護効果を発揮できる前に代謝されてN,N'-ジピリドキシルエチレンジアミン-N,N'-二酢酸(MnPLED)になる必要があるという意味において、プロドラッグである(例えば、Karlssonら、Acta Radiol、2001年、42、540〜547頁を参照すること)。
【0007】
マンガンは、潜在的のみならず本質的にも神経毒性金属である。高レベルのマンガンに慢性的に曝露された状態では、臨床的には異なる疾病であるがパーキンソン症候群に類似した錐体外路機能不全の症候群が頻繁に生じることが長年知られてきた(Scheuhammer & Cherian、Arch Environm Contam Toxicol、1982年、11、515〜520頁を参照すること)。MnDPDPのMR画像診断用量がヒトに静脈内注射される際、投与されたマンガンの約80%が放出される(Toftら、Acta Radiol、1997年、38、677〜689頁)。常磁性マンガンの放出は、実はMnDPDPのMR画像診断特性にとって前提条件である(Wendland、NMR Biomed、2004年、17、581〜594頁)。一方、MnDPDP、並びにその脱リン酸化対応物であるMnDPMP(N,N'-ジピリドキシルエチレンジアミン-N,N'-ジアセテート-5-ホスフェート)及びMnPLEDの治療効果は、無傷の金属錯体に依存している(Brurokら、Biochem Biophys Res Commun.、1999年、254、768-721頁、Karlssonら、2001年、42、540〜547頁)。
【0008】
PLED誘導体は、ミトコンドリア酵素マンガンスーパーオキシドジスムターゼ(MnSOD)を模倣する(Brurokら、1999年)。MnSODは、通常の好気条件下でかなり多量に生成される、酸素代謝の副産物であるスーパーオキシドラジカルから哺乳類細胞を保護し、機能的なMnSODなしでは哺乳類は生存しない。MnSODは、あらゆる既知の酵素のうちで最速の代謝回転数(その基質に対する反応速度)(>109M-1s-1)を有する(Fridovich、J Exp Biol.、1998年、201、1203〜1209頁)。低分子量のMnSOD模倣体は、天然のMnSODと近似の代謝回転速度を有する場合がある(Cuzzoreaら、2001年)。興味深いことに、マンガンのような遷移金属を含有する生理緩衝液は、同様に高い代謝回転数を有する場合がある(Culottaら、Biochim Biophys Acta.、2006年、1763、747〜758頁)。しかし、天然SOD酵素の重要性は、スーパーオキシド不均化用の遷移金属触媒を、そのような不均化の必要性が高い細胞の部分、例えばミトコンドリアに局在化させる手段を作り出す、生体に有利な選択過程と一致している。更に、麻酔をかけたブタにおける心筋虚血再灌流の結果は、マンガンそれ自体ではなく、無傷のMnPLEDが、梗塞サイズの低減として見られる、酸化ストレスに対する保護を行うことを必然的に示す(Karlssonら、2001年)。スーパーオキシドの有効な不活性化は、非常に破壊的なヒドロキシルラジカル及びペルオキシナイトライトの生成の防止に必須である(Cuzzocreaら、2001年)。病的な酸化ストレスの間、スーパーオキシドラジカルの形成は、多くの場合に不活性化の内在的能力を超える。更に、スーパーオキシドは、内在性SODをニトロ化するペルオキシナイトライトの生成を刺激する。いったんニトロ化されると、MnSOD及び/又はCuZn SODは酵素活性を失うが、これはスーパーオキシド及びスーパーオキシド推進障害の蓄積に好都合な事象である(Muscoliら、Br J Pharmacol、2003年、140、445〜460頁)。MnPLED誘導体の外因的添加は、そのような状況において、保護能を再確立することができる。加えてPLED誘導体は、EP1054670、US6310051及びRocklageら(Inorg Chem、1989年、28、477〜485頁)により記載されているように、強力な鉄結合剤であり、幾つかのMnPLED誘導体は、カタラーゼ及びグルタチオンレダクターゼの活性を有することができ(Laurentら、2005年)、このことは、これらの酸化防止能力を更に増加させることができる。
【0009】
画像診断使用及び他の散発的な使用では、MnDPDPからのマンガンの解離は、大きな毒物学的な問題がない。しかし、例えば治療方法におけるより頻繁な使用では、CNSへの取り込みのために、蓄積されたマンガン毒性が、重大な神経毒性学的問題を表す場合がある(Crossgrove & Zheng、NMR Biomed.、2004年、17、544〜53頁)。このように、より頻繁な治療的使用では、マンガンを容易に解離する化合物を回避するべきである。
【0010】
マンガンが血液から脳組織中へ分布するために、血液脳関門又は血液脳脊髄液関門のいずれかを超えなければならない。マンガンが脳に取り込まれる機構は、十分に理解されていない。しかし、幾つかの参考文献は、マンガンが遊離イオン(Mn2+/Mn3+)又はクエン酸マンガンとして取り込まれることを示唆し、マンガン輸送が能動的又は受動的機構のいずれかにより促進されるという仮説を支持する(Rabinら、J Neurochem.、1993年、61、509〜517頁、Yokel、Environ Health Perspect、2002年、110付録5、699〜704頁)。マンガンはまた、トランスフェリンに結合してCNSに中に輸送されうる。それにもかかわらず、MnDPDP及び脱リン酸化されたその対応物(他のMnPLED誘導体に加えて)の場合では、マンガンは、脳内に入るために、おそらく、対応するキレーターDPDP、DPMP又はPLED(又は他のPLED誘導体)から解離しなければならない。
【0011】
何日間もマンガンに予め全身曝露したラットを金属キレーターEDTAで処置すると、マンガンの尿排出量がかなり増加した(Scheuhammer & Cherian、1982年)。EDTAの同様の効果が、慢性中毒溶接工におけるマンガンの尿濃度においても見られた(Crossgrove & Zheng、2004年を参照すること)。塩化マンガン(II)(50mg/kg体重、腹腔内)による1日1回の1又は4日間のラットの処置は、大脳皮質、淡蒼球及び小脳のそれぞれにおいて232、523及び427%までマンガンレベルの増加をもたらした。これらの変化は、グリア形態における病理変化の発現を伴った。マンガンキレーターの1,2-シクロヘキシレンジニトリロ四酢酸(CDTA)と併用処置すると、この病態は完全に阻止された(Hazellら、Neurosci Lett.、2006年、396、167〜71頁を参照すること)が、この著者らは、このCTDAの効果が脳へのマンガン取り込みの直接的な阻害によるかどうかを報告しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】EP0910360
【特許文献2】US6147094
【特許文献3】EP0936915
【特許文献4】US6258828
【特許文献5】EP1054670
【特許文献6】US6310051
【特許文献7】EP1060174
【特許文献8】US6391895
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Towartら、Arch Pharmacol、1998年、358(付録2)、R626
【非特許文献2】Laurentら、Cancer Res、2005年、65、948〜956頁
【非特許文献3】Karlssonら、Cancer Res、2006年、66、598頁
【非特許文献4】Alexandreら、J Natl Cancer Inst、2006年、98、236〜244頁
【非特許文献5】Doroshow、J Natl Cancer Inst、2006年、98、223〜225頁
【非特許文献6】Beddaら、J Hepatol、2003年、39、765〜772頁
【非特許文献7】Karlsson、J Hepatol、2004年、40、872〜873頁
【非特許文献8】Cuzzocreaら、Pharmacol Rev、2001年、53、135〜159頁
【非特許文献9】Knight、Ann Clin Lab Sci.、1997年、27、11〜25頁
【非特許文献10】Rachmilewitzら、Ann N Y Acad Sci.、2005年、1054、118〜23頁
【非特許文献11】Farrellら、Anat Rec、2008年、291、684〜692頁
【非特許文献12】Wongら、Hear Res、2010年、260、81〜88頁
【非特許文献13】Yriら、Acta Oncol.、2009年、48、633〜635頁
【非特許文献14】Karlssonら、Acta Radiol、2001年、42、540〜547頁
【非特許文献15】Scheuhammer & Cherian、Arch Environm Contam Toxicol、1982年、11、515〜520頁
【非特許文献16】Toftら、Acta Radiol、1997年、38、677〜689頁
【非特許文献17】Wendland、NMR Biomed、2004年、17、581〜594頁
【非特許文献18】Brurokら、Biochem Biophys Res Commun.、1999年、254、768〜721頁
【非特許文献19】Fridovich、J Exp Biol.、1998年、201、1203〜1209頁
【非特許文献20】Culottaら、Biochim Biophys Acta.、2006年、1763、747〜758頁
【非特許文献21】Muscoliら、Br J Pharmacol、2003年、140、445〜460頁
【非特許文献22】Rocklageら、Inorg Chem、1989年、28、477〜485頁
【非特許文献23】Crossgrove & Zheng、NMR Biomed.、2004年、17、544〜53頁
【非特許文献24】Rabinら、J Neurochem.、1993年、61、509〜517頁
【非特許文献25】Yokel、Environ Health Perspect、2002年、110付録5、699〜704頁
【非特許文献26】Hazellら、Neurosci Lett.、2006年、396、167〜71頁
【非特許文献27】Southonら、Acta Radiol.、1997年、38、708〜716頁
【非特許文献28】Skjoldら、J.Magn.Reson.Imaging、2004年、20、948〜952頁
【非特許文献29】Hustvedtら、Acta Radiol.、1997年、38、690〜699頁
【非特許文献30】Folinら、BioMetals、1994年、7、75〜79頁
【非特許文献31】Kingら、J Nutr、2000年、130、1360S〜1366S頁
【非特許文献32】Schmidtら、J Biol Inorg Chem、2007年、7、241〜248頁
【非特許文献33】Larsen & Grant、Acta Radiol、1997年、38、770〜779頁
【非特許文献34】Alexandreら、JNCI、2006年、98、236〜244頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このように、マンガン錯体化合物は多様な治療において治療効果をもたらすことが知られているが、そのような治療効果を得る手段と同時に、そのような治療に伴う望ましくない副作用を低減する手段を開発する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、ヒト又は非ヒト患者における病理状態を治療する改善された医薬組成物及び治療方法を提供し、特に従来技術の多様な欠点を克服するそのような医薬組成物及び治療方法を提供する。医薬組成物及び治療方法は、本明細書に定義される式Iのマンガン錯体が有効である任意の治療環境に用いることができる。特定の実施形態において、医薬組成物及び方法は、酸素誘導フリーラジカル、すなわち酸化ストレスの存在により引き起こされる状態を治療する治療環境に用いることができる。
【0016】
一つの実施形態において、本発明は、第1化合物として式Iのマンガン錯体及び第2成分として式Iの非マンガン錯体化合物を、場合により1つ以上の生理学的に許容される担体及び/又は賦形剤と一緒に含む、患者の病理状態を治療する医薬組成物を対象とする。
【0017】
【化1】

【0018】
式中、
Xは、CH又はNを表し、
R1は、それぞれ独立して、水素又は-CH2COR5を表し;
R5は、ヒドロキシ、場合によりヒドロキシル化されているアルコキシ、アミノ又はアルキルアミドを表し;
R2は、それぞれ独立して、ZYR6を表し、ここでZは、結合又は場合によりR7で置換されているC1〜3アルキレン若しくはオキソアルキレン基を表し;
Yは、結合、酸素原子又はNR6を表し;
R6は、水素原子、COOR8、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリール又はアラルキルであり、これらの基は、COOR8、CONR82、NR82、OR8、=NR8、=O、OP(O)(OR8)R7及びOSO3Mから選択される1つ以上の基で場合により置換されており;R7は、ヒドロキシ、場合によりヒドロキシル化されている、場合によりアルコキシル化されているアルキル又はアミノアルキル基であり;
R8は、水素原子、又は場合によりヒドロキシル化されている、場合によりアルコキシル化されているアルキル基であり;
Mは、水素原子、又は生理学的に耐容されるカチオンの1当量であり;
R3は、R7で場合により置換されている、C1〜8アルキレン、1,2-シクロアルキレン又は1,2-アリーレン基を表し;
R4は、それぞれ独立して、水素又はC1〜3アルキルを表す。
【0019】
別の実施形態において、本発明は、酸素誘導フリーラジカルの存在により引き起こされる病理状態が含まれるが、これに限定されない、患者における病理状態の治療方法を対象とする。方法は、例えば本発明の医薬組成物により上記の第1成分及び第2成分を患者に投与することを含む。
【0020】
本発明の医薬組成物及び方法は、本明細書において開示及び実証されるように、驚くべき利点を有する。例えば、組成物及び方法は、第2マンガン非含有成分の不在下で第1マンガン錯体成分のみの投与により得られる効果と比較して、排出マンガンの量を増加すること、患者において遊離マンガンの量を低減すること及び/又はインビボで産生される治療代謝産物の量を増加することができる。本発明の医薬組成物及び方法の追加的な利点及び実施形態は、以下の詳細な記載を考慮することによってより完全に理解されよう。
【0021】
以下の発明を実施するための形態は、図面を考慮することによってより完全に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1A】μmol/kg体重で表した、MnDPDP単独又はMnDPDPとDPDPの組み合わせを注射したラットの0〜24時間の尿中のMn含有量;平均±標準誤差;各群n=7を示す図である。
【図1B】注射用量の率で表した、MnDPDP単独又はMnDPDPとDPDPの組み合わせを注射したラットの0〜24時間の尿中のMn含有量;平均±標準誤差;各群n=7を示す図である。
【図2】脳のMn/g w.w.の増加率として表した、MnDPDP単独又はMnDPDPとDPDPの組み合わせを注射したラットにおける脳のMn含有量;平均±標準誤差;各群n=4を示す図である。
【図3A】脳のMnのμg/g w.w.の増加として表した、MnDPDP単独又はMnDPDPとDPDPの組み合わせを注射したラットにおける脳のMn含有量;平均±標準誤差;各群n=5を示す図である。
【図3B】脳のMnの増加率として表した、MnDPDP単独又はMnDPDPとDPDPの組み合わせを注射したラットにおける脳のMn含有量;平均±標準誤差;各群n=5を示す図である。
【図3C】MnDPDP単独又はMnDPDPとDPDPの組み合わせを注射したラットにおける脳のZn含有量;平均±標準誤差;各群n=3を示す図である。
【図4A】増量用量のDPDPでのラットにおける0〜24時間のZn及びMn排出;平均±標準誤差(n=10)の用量反応曲線を示す図である。
【図4B】μmol/kg体重で表したMnDPDP単独又はMnDPDPとDPDPの組み合わせを注射した0〜24時間のZn排出;平均±標準誤差;各群n=2を示す図である。
【図5A】パクリタキセル単独又はMnDPDP±DPDPの組み合わせによる治療の後の血球数(白血球数(WBC));平均±標準誤差;各群n=3〜5を示す図である。
【図5B】パクリタキセル単独又はMnDPDP±DPDPの組み合わせによる治療の後の血球数(絶対好中球数(ANC));平均±標準誤差;各群n=3〜5を示す図である。
【図5C】パクリタキセル単独又はMnDPDP±DPDPの組み合わせによる治療の後の血球数(単球);平均±標準誤差;各群n=3〜5を示す図である。
【図5D】パクリタキセル単独又はMnDPDP±DPDPの組み合わせによる治療の後の血球数(リンパ球);平均±標準誤差;各群n=3〜5を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図面は、実施例を考慮することによってより完全に理解される。
【0024】
本発明は、第1成分の本明細書に記載されている式Iのマンガン錯体と、第2成分の式Iの非マンガン錯体化合物との組み合わせを用いる医薬組成物及び治療方法を対象とする。式Iの化合物は、ジピリドキシル化合物であり、本明細書においてPLED(ピリドキシルエチルジアミン)誘導体と呼ばれるが、該誘導体はインビボで代謝してPLEDを形成することができるので、PLEDのプロドラッグとしても作用することが認識される。金属錯体の形態のそのような化合物は、金属PLED誘導体、すなわちMnPLED誘導体、及び金属PLEDキレーターと呼ばれる。
【0025】
本発明の医薬組成物は、第1成分として、式Iのマンガン錯体及び第2成分として式Iの非マンガン錯体化合物を用いる。
【0026】
【化2】

【0027】
式中、
Xは、CH又はNを表し、
R1は、それぞれ独立して、水素又は-CH2COR5を表し;
R5は、ヒドロキシ、場合によりヒドロキシル化されているアルコキシ、アミノ又はアルキルアミドを表し;
R2は、それぞれ独立して、ZYR6を表し、ここでZは、結合又は場合によりR7で置換されているC1〜3アルキレン若しくはオキソアルキレン基を表し;
Yは、結合、酸素原子又はNR6を表し;
R6は、水素原子、COOR8、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリール又はアラルキルであり、これらの基は、COOR8、CONR82、NR82、OR8、=NR8、=O、OP(O)(OR8)R7及びOSO3Mから選択される1つ以上の基で場合により置換されており;R7は、ヒドロキシ、場合によりヒドロキシル化されている、場合によりアルコキシル化されているアルキル又はアミノアルキル基であり;
R8は、水素原子、又は場合によりヒドロキシル化されている、場合によりアルコキシル化されているアルキル基であり;
Mは、水素原子、又は生理学的に耐容されるカチオンの1当量であり;
R3は、R7で場合により置換されている、C1〜8アルキレン、1,2-シクロアルキレン又は1,2-アリーレン基を表し;
R4は、それぞれ独立して、水素又はC1〜3アルキルを表す。
【0028】
特定の実施形態において、R5は、ヒドロキシ、C1〜8アルコキシ、エチレングリコール、グリセロール、アミノ又はC1〜8アルキルアミドであり;Zは、結合又はCH2、(CH2)2、CO、CH2CO、CH2CH2CO及びCH2COCH2から選択される基であり;Yは結合であり;R6は、モノ-若しくはポリ(ヒドロキシ又はアルコキシル化)アルキル基又は式:OP(O)(OR8)R7のものであり;R7は、ヒドロキシ又は非置換アルキル若しくはアミノアルキル基である。更なる実施形態において、R3はエチレンであり、基R1は、それぞれ-CH2COR5を表し、ここでR5はヒドロキシである。なお更なる実施形態において、第1成分は、マンガンN,N'-ビス-(ピリドキサール-5-ホスフェート)-エチレンジアミン-N,N'-二酢酸(MnDPDP)又はその塩であり、第2成分は、N,N'-ビス-(ピリドキサール-5-ホスフェート)-エチレンジアミン-N,N'-二酢酸(DPDP)又はその塩若しくは非マンガン錯体である。より特定の実施形態において、第2成分はDPDP、カルシウムDPDP(CaDPDP)若しくはマグネシウムDPDP(MgDPDP)又はこれらの2つ以上の組み合わせである。
【0029】
本発明の追加的な実施形態において、第1成分は108〜1024の範囲のKa値を有する。更なる実施形態において、第2成分は、亜鉛(Zn2+)に対する対応するKa値よりも少なくとも10倍低いMn2+に対するKa値を有する。
【0030】
第1成分及び第2成分は、以下にて更に詳細に考察されるように、多様な量で用いることができる。マンガン含有化合物に加えて、マンガン非含有化合物、すなわち非錯化誘導体化合物の「過剰」の存在が必要に過ぎない。しかし、特定の実施形態において、第2成分は、第1成分に対して等モル以上の量で含まれる。別の実施形態において、第2成分は、第1成分に対してモル基準でそれを超える量で含まれる。より特定の実施形態において、第1成分及び第2成分は、約1:1〜1:20、1:1〜1:10又は1:1〜1:5の範囲の第1成分対第2成分のモル比で含まれる。さらにより特定の実施形態において、第1成分及び第2成分は、約1:2〜3:4の範囲の第1成分対第2成分のモル比で含まれる。特定の実施形態において、例えば癌治療では、第1成分、例えばMnDPDPの量は、10mMのMnDPDPとすることができ、第2成分、例えばDPDPの量は、50mMのDPDPとすることができ、モル比が1:5であると、0.2ml/kgは、2μmol/kg体重のMnDPDP+10μmol/kg体重のDPDPの用量をもたらす。追加的な実施形態において、MnDPDPなどのMn含有化合物の用量を下げることができる。MnDPDP用量が低下すると、1:5よりも小さい比を用いることができる。
【0031】
マンガンN,N'-ビス-(ピリドキサール-5-ホスフェート)-エチレンジアミン-N,N'-二酢酸(MnDPDP)を含めたMnPLED誘導体からのマンガンのインビボ放出は、体内における遊離又は易解離性亜鉛の存在によって左右される。亜鉛は、DPDP又はその脱リン酸化対応物に対してマンガンよりも1000倍高い親和性を有する(Rocklageら、1989年)。実験的研究は、MnDPDPの用量が画像診断用量の5〜10μmol/kgの約2〜4倍に増加すると、インビボにおけるマンガンの放出が飽和することを示唆する(Southonら、Acta Radiol.、1997年、38、708〜716頁)。健康な志願者におけるMnDPDPによる心臓及び肝臓画像化は、男性では10〜20μmol/kgで飽和用量を示す(Skjoldら、J.Magn.Reson.Imaging、2004年、20、948〜952頁、Toftら、1997年)。
【0032】
驚くべきことに、過剰のマンガン非含有PLED誘導体、例えばDPDPを、MnPLED誘導体治療、例えばMnDPDP治療に加えることは、MnDPDPからの神経毒性マンガンの放出を防止することが、本発明により発見された。脳へのマンガンの取り込みの背景にある機構は、完全には理解されていないが、上記において指摘されているように、MnDPDPなどのマンガン含有PLED誘導体と組み合わせて投与されるDPDPなどの過剰のマンガン非含有PLED誘導体は、脳へのマンガンの取り込みを有意に低減する。MnPLED誘導体のような低分子量マンガンキレート及びこれらのZn対応物は、糸球体濾過速度(GFR)によって制御される腎臓から容易に排出され、一方、低分子量キレーターに結合していないマンガンは、体内に相当な時間保持され、ゆっくりと主に胆管経路を通って排出される(Toftら、1997年)。理論に束縛されるものではないが、本発明による組み合わせは、MnPLEDキレーター形態を維持し、それによって、増加した量のキレートが排出に利用可能となり、脳に取り込まれる遊離Mnの量が低減されると考えられる。
【0033】
本発明の方法の一つの実施形態において、Mn排出、すなわち尿へのMn排出は、ジピリドキシル化合物のマンガン錯体、すなわち第1成分の投与を非マンガンジピリドキシル化合物、すなわち第2成分の投与と組み合わせることによって、少なくとも約100%増加される(以下の実施例1を参照すること)。実施例1は、尿へのマンガンの排出が1.41μmol/kgから2.73μmol/kgへ、すなわち約100%増加したことを示す。しかし、実施例4のより低い、おそらくより治療に適当な用量のMnDPDP(近年完了した、2μmol/kgを用いた癌患者におけるスウェーデンの実現可能性研究)では、相対的な増加は相当に高いことが予測される。追加的な実施形態において、Mn排出は、ジピリドキシル化合物のマンガン錯体、すなわち第1成分の投与を非マンガンジピリドキシル化合物、すなわち第2成分の投与と組み合わせることによって、全てモル基準で少なくとも約200%又は少なくとも300%増加する。更なる実施形態において、Mn排出は、ジピリドキシル化合物のマンガン錯体、すなわち第1成分の投与を非マンガンジピリドキシル化合物、すなわち第2成分の投与と組み合わせることによって、全てモル基準で少なくとも約400%又は少なくとも約500%増加する。したがって、特定の実施形態において、本発明は、過剰のDPDP又はその脱リン酸化対応物を製剤に添加することによって、より頻繁な使用中のMnDPDP又はその脱リン酸化対応物の神経毒学的問題を解決する。
【0034】
更なる利点は、治療キレーター形態が増加したレベルで維持されることによってもたらされ、これにより、低投与量のキレートを組み合わせて投与して、単独で投与される、すなわちマンガン非含有化合物の不在下で投与されるより多くの投与量のキレートと同じ治療効果を得ることができる。
【0035】
臨床用量のMnDPDPなどのMnPLED誘導体(すなわち、5〜50μmol/kg体重、静脈内投与)をMRI造影剤としてヒトに使用する場合、80%を超える、DPDPに結合したマンガンが亜鉛に代えられる(Toftら、1997年)。下記において考察するように、投与するMnDPDPの用量が減少するにつれ、解離するマンガンの比率(%)ははるかに大きくなろう。MnDPDPは、この観点においてラット及びイヌにおいて同様に挙動するが(Hustvedtら、Acta Radiol.、1997年、38、690〜699頁)、その化合物がブタに投与された場合、MnDPDPにおけるほぼ全てのマンガンは亜鉛に代わり、したがってブタにおいては細胞保護効果がない(Karlssonら、2001年)。上記において考察されたように、マンガンの置換は前提条件であり、したがってMRI造影剤として使用するのに望ましい。しかし、無傷のマンガン錯体であるMnPLED誘導体、例えばMnDPDP及びその脱リン酸化対応物は、例えば多様な形態の酸化ストレスに対する治療効果を得るために必要である(Brurokら、1999年、Karlssonら、2001年)。例えば、MnDPDPのインビボ投与は、多様な酸化ストレス、例えば虚血再潅流、細胞毒性/細胞増殖抑制薬及びアセトアミノフェン中毒に対して保護するが、虚血再潅流誘発心筋梗塞に対してブタの心臓を保護せず(Karlssonら、2001年)、このことから、MnDPDPのインビボ細胞保護効果は、無傷のマンガン錯体の固有特性であると結論付けることができる。
【0036】
したがって、マンガンの放出からMnDPDP又はその脱リン酸化対応物などのマンガン化合物を安定化させるための、DPDPなどの非マンガン錯体化合物の本発明による添加は、別の重要な利点、すなわち治療有効性の増加をもたらす。例えば、臨床的に適当な画像化用量のMnDPDP(5〜10μmol/kg)が静脈内注射される場合、DPDPに元々結合しているマンガンの80%超が放出され、画像化有効性に寄与する。したがって、20%未満がDPDP又はその脱リン酸化対応物に結合したままでおり、MnDPDPの治療活性に寄与する。本発明によると、実施例1により例示されているように、錯体から放出されるマンガンの量が、投与MnDPDPへのDPDPの添加により85%から70%に低減される場合、注射用量のMnDPDPの約30%が治療活性に寄与し、これによって、治療効果に利用可能なMnキレートの量が二倍になろう。マンガンの放出がこのように主に添加DPDPにより制御される場合、このことは、添加DPDPの存在下でMnDPDPの用量を、等力治療効果の50%に低減することができることを意味する。しかし、下記において考察されるように、より低い、特定の実施形態ではより治療に適当な用量のMnDPDPでは、添加DPDPの効果は、さらに一層強化されよう。次にこのことは、MnDPDPへのDPDPの添加がMnDPDPの毒性能に対して顕著な効果を及ぼすことを意味する。
【0037】
亜鉛は、全ての体組織及び体液に存在する。ヒトの体内亜鉛総含有量は、2〜3gであると推定されている(Folinら、BioMetals、1994年、7、75〜79頁)。血漿亜鉛は、体内亜鉛総含有量の約0.1%を占め、投与後にDPDP又はその脱リン酸化対応物、DPMP及びPLEDとの結合をマンガンと競争するのは、主にこのほんの僅かな亜鉛である。人体は、胃腸吸収及び排出における相乗的調整を介して亜鉛ホメオスタシスを維持する非常に高い能力を有する(Kingら、J Nutr 2000年;130:1360S〜1366S頁)。したがって、過剰DPDPを含有する臨床的に適当な用量のMnDPDPの反復注射は、亜鉛欠乏を誘発する危険性はないか、又は非常に低い。亜鉛欠乏の何らかの傾向がある場合、そのような問題は、MnDPDP投与の間の食事による亜鉛補充により容易に解決することができる。
【0038】
前臨床研究(Southonら、1997年)及び臨床研究(Skjoldら、2004年)から、体が、MnDPDPなどのMnPLED誘導体中のマンガンと容易に交換できる、10〜20μmol/kg体重(b.w.)の亜鉛を含有すると想定するのは妥当である。これは、血漿の亜鉛含有量に実質的に相当する(上記を参照すること)。DPDPなどのPLED誘導体は、マンガン/亜鉛のために分子1つあたり1つの結合部位を含有する。したがって、キレーターへの亜鉛の1000倍高い親和性を考慮すると、本発明の一つの実施形態において、1〜100μmol/kg b.w.の用量のDPDPなどのマンガン非含有化合物の、MnDPDP製剤などのMnPLED誘導体製剤への添加は、患者への投与後のマンガンの放出から保護する。
【0039】
前臨床研究は、1〜30μmol/kg b.w.の範囲のMnDPDPの静脈内投与用量が、マウスのドキソルビシン誘発心筋症、及びブタの心筋梗塞を低減することを実証している(EP0910360、US6147094、EP 0936915、US 6258828、Karlssonら、2001年、Towartら、1998年を参照すること)。他のMnPLED誘導体は、異なる用量レベルで効力を示し、前述の用量間隔よりも10〜100倍低い用量が、本発明の医薬組成物及び方法の範囲内に入る(EP0910360、US6147094)。種間の差、多様なMnPLED誘導体間の効力差、体表面の差及び多様な投与経路を考慮すると、本発明の特定の実施形態による第1成分の適切な用量は、患者に投与された場合、約0.01〜10μmol/kg b.w.の範囲となろう、また本発明の特定の実施形態による第2成分の適切な用量は約1〜100μmol/kg b.w.の範囲となろう。より特定の実施形態において、第2成分は、第1成分の等モル以上の量で投与され、約1〜20μmol/kg b.w.の範囲である。なお更に特定の実施形態において、第1成分は、約1〜2μmol/kg b.w.の量で投与される。
【0040】
医薬組成物は、第1成分すなわちMnPLED誘導体、及び第2成分すなわちPLED誘導体の両方を含有する直ぐに使用できる製剤でもよく、又は医薬組成物は、第1成分と第2成分を、組み合わせて投与するための別々ではあるが関連するパッケージに含んでもよい。この点に関して、第1成分及び第2成分を、組み合わせて又は別々に、同時に又は連続して投与することができる。
【0041】
場合により、本発明の医薬組成物は、1つ以上の生理学的に許容される担体及び/又は賦形剤を、当業者に周知の方法で含むことができる。一つの実施形態において、式Iの化合物は、場合により薬学的に許容される賦形剤を添加して、例えば水性媒質に懸濁又は溶解することができる。医薬組成物に適した賦形剤には、安定剤、酸化防止剤、浸透圧調整剤、緩衝剤、pH調整剤、結合剤、充填剤などが含まれるが、これらに限定されない医薬又は動物薬製剤用の任意の従来の賦形剤が含まれる。医薬組成物は、非経口又は経腸投与が含まれるが、これらに限定されない投与に適した形態でもよい。特定の実施形態において、組成物は、例えば注射又は注入に適した形態である。したがって、本発明の医薬組成物は、例えば錠剤、カプセル剤、散剤、液剤、懸濁剤、分散剤、シロップ剤、坐剤などの従来の医薬投与形態でもよい。
【0042】
本発明の医薬組成物を、多様な経路、例えば経口、経皮、直腸内、髄腔内、局所に投与する、又は吸入若しくは注射により、特に皮下、筋肉内、腹腔内若しくは血管内注射により投与することができる。鼓室内を含む他の投与経路を使用することもでき、製品の有効性、生物学的利用能又は耐容性を増加する経路が好ましい。最も適切な経路は、使用される特定の製剤に従って当業者により選択することができる。
【0043】
示したように、組成物は、患者における病理状態の治療処置のために、特にMn錯体の使用が知られている任意の方法において投与することができる。特定の実施形態において、組成物は、ヒトの患者又は別の哺乳動物における病理状態の治療処置のために投与することができる。別の特定の実施形態において、本発明の組成物は、酸素誘導フリーラジカル、すなわち酸化ストレスの存在により引き起こされる病理状態を治療するために投与される。一つの実施形態において、医薬組成物は、細胞毒性薬又は細胞増殖抑制薬の処置に用いられ、その場合MnPLED誘導体が、例えば癌患者を細胞毒性薬/細胞増殖抑制薬の不利な副作用から保護するために投与される。より特定の実施形態において、細胞毒性薬又は細胞増殖抑制薬は、ドキソルビシン、オキサリプラチン、5-フルオロウラシル又はパクリタセキルの少なくとも1つを含む。本発明の方法は、アセトアミノフェン誘発肝不全、虚血再潅流誘発障害又は心筋虚血再灌流誘発障害(共に急性に、並びに待機的な設定において)を含む虚血性心疾患、血栓溶解治療、心肺バイパス若しくは経皮的血管内血管形成術に伴う状態、又は心臓若しくは臓器移植の結果の状態、鉄過剰、例えばサラセミア、鎌状赤血球貧血若しくは輸血性ヘモジデリン沈着症、肝炎誘発肝硬変、例えば放射線療法から生じる放射線誘発障害、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病及び多発性硬化症を含む多様な神経変性疾患などの治療も含みうるが、これらに限定されない。
【0044】
本発明の医薬組成物及び治療方法の態様の多様な実施形態が以下の実施例により実証される。
【実施例1】
【0045】
この実施例は、MnDPDP単独を受ける動物とMnDPDP及びDPDPを受ける動物におけるMnの尿排出を測定する。
【0046】
方法
14匹の雄Wistarラット(およそ250g)に、0.25mlの10mM MnDPDP製剤(Teslascan(商標)、マンガホジピール、GE Healthcare)を、尾静脈の1本を介して静脈内注射した。これらのラットのうちの7匹は、MnDPDPのみ(MnDPDP)を受け、他の7匹のラットは、MnDPDPに加えて0.5mlの10mM DPDP製剤(MnDPDP+DPDP)を受けた。注射した後、ラットを尿採取のために直ぐに代謝ケージの中に0〜24時間にわたって入れた。尿におけるマンガン(Mn)の基礎含有量を得るために、2匹の追加の(対照)ラットを、尿採取のために代謝ケージの中に同じ時間にわたって入れた。次に尿試料をMn分析まで-80℃で保存した。分析する前に、試料を解凍し、十分に振とうして均質試料を得た。5mlの分量を各試料から取り出し、5mlの濃硝酸を加えた。次に試料を高周波レンジの中で溶解し、その後、蒸留水で希釈して最終容量の50mlにした。各試料のMn含有量を、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析法)により分析した。ラットに注射したMnDPDPと同一の試料(すなわち、0.5ml)を抜き取り、試験管に注入した。この試料を尿試料と同一の方法で試験して、そのMn含有量を分析した。結果を、0〜24時間尿の総Mn含有量(μmol/kg±標準誤差)及び注射用量に対する比率(%)(±標準誤差)として表す。尿へのマンガンの排出に関する、MnDPDP単独を受けた動物とMnDPDP及びDPDPを受けた動物との統計的な差を、独立スチューデントt検定により検定した。0.05未満のp値を統計的に有意な差と見なした。
【0047】
結果
結果を図1A及び1Bに提示する。注射したMnDPDP用量に等しい0.25mlのMnDPDP試料は、250gのラットにおける8.96μmol/kg b.w.の用量に相当する2.24μmolのMnを含有した。2匹の対照ラットからの0〜24時間の尿は、それぞれ0.495及び0.357μmol(Mn)/kg b.w.(平均=0.426μmol/kg b.w.)を含有していた。基礎レベル(0.426μmol/kg b.w.)を差し引いた、MnDPDP単独を注射されたラットの0〜24時間の尿は、1.41±0.10μmol/kg b.w.を含有し、一方、MnDPDPとDPDPを注射されたラットの尿は、有意に高い量のMn、2.73±0.18μmol/kg b.w.を含有していた(図1A)。これらの値は、0〜24時間の尿における15.7±1.1%及び30.5±2.0%の排出に相当する(図1B)。したがって、DPDPの添加は、尿へのMn排出を二倍にした。MnDPDP単独の静脈内注射から0〜24時間の尿へのMn排出率(%)は、以前にラット(Hustvedtら、Acta Radiol、1997年、38、690〜699頁)及びヒト(Toftら、1997年)において報告された数値と非常に良く合致する。本発明の結果は、DPDPの添加がインビボ条件下でのMnの放出からMnDPDPを安定化することを実証している。このことは、脳への取り込みに利用可能な遊離Mnの量が低減され、より多くの治療MnDPDPがインビボで利用可能であるので、MnDPDPの治療指数が増加するという点において、幾つかの有意な利点をもたらす。したがって、本発明の組成物及び方法は、MnPLED誘導体治療を顕著に低毒性などにする。
【0048】
実施例1は、DPDPの添加によりMn排出が約15%(の所定用量の10μmol/kg b.w.のMnDPDP)から約30%に増加することを示し、約100%の増加に相当する。より低用量のMnDPDP、例えば2μmol/kg b.w.では、より大きな率のMnがDPDPの不在下で代えられることが予測されるので、相対的な増加はより高いことが予測される。すなわち、静脈内投与用量の10μmol/kg b.w.では、DPDPに結合したマンガンの約80%が亜鉛に代えられる(Toftら、1997年)。1〜2μmol/kg b.w.などのより少ない用量のMnDPDPが投与される際には、血漿亜鉛が、DPDPに結合しているほぼ全てのMnをそのような低用量で「代える」のに十分に高い相対濃度で存在するので、解離するマンガンの率はさらに大きい。この解離を以下に例示する。
【0049】
【化3】

【0050】
したがって、DPDPの添加により得られるMn排出の相対的増加は、100%よりもはるかに高いことが予測される。低用量のMnDPDPでのそのような過剰DPDPの増強効果は、まさに有意であり、驚くべきことである。この利益は、他のMnPLED誘導体及びPLED誘導体の組み合わせによっても同様に実現される。
【実施例2】
【0051】
この実施例は、MnDPDP単独を受ける動物とMnDPDP及びDPDPを受ける動物におけるMnの脳含有量を測定する。
【0052】
方法
8匹の雄Wistarラット(およそ250g)に、0.25mlの10mM MnDPDP製剤(Teslascan(商標))を、尾静脈の1本を介して静脈内注射した。これらのラットのうちの4匹は、MnDPDPのみ(MnDPDP)を受け、他の4匹のラットは、MnDPDPに加えて0.5mlの10mM DPDP製剤(MnDPDP+DPDP)を受けた。ラット脳におけるマンガン(Mn)の基礎含有量を得るために、2匹の追加の(対照)ラットを並行して処置した。24時間後、ラットを殺処分し、脳を、切開して取り出し、Mn分析まで-80℃で保存した。分析の前に、各脳を高周波レンジの中で5mlの濃硝酸と3mlの蒸留水に溶解し、その後、蒸留水で希釈して最終容量の50mlにした。各試料のMn含有量をICP-MSで分析した。結果を、脳湿重量μg/g及びMnの脳含有量の増加率として表す。
【0053】
結果
結果を表2に提示する。2匹の対照ラットのMnの脳含有量は、それぞれ0.40及び0.39μg/gの脳湿重量であった。非補充MnDPDPを受けたラットにおける脳のMn含有量は25.0%増加し、一方、脳のMn含有量は、DPDP補充MnDPDPを受けたラットにおいて16.9%増加した(図2)。本発明によりもたらされる脳におけるMn取り込みの低減は、有意であり、驚くべきものである。
【実施例3】
【0054】
この実施例は、MnDPDP単独を受ける動物とMnDPDP及びDPDPを受ける動物におけるMn及びZnの脳含有量を測定する。
【0055】
方法
10匹の雄Wistarラット(およそ250g)に、0.25mlの10mM MnDPDP製剤(Teslascan(商標))を腹腔内(i.p.)注射した。これらのラットのうち5匹は、MnDPDPのみ(MnDPDP)を受け、他の5匹のラットは、MnDPDPに加えて0.5mlの10mM DPDP製剤(MnDPDP+DPDP)を受けた。ラット脳におけるマンガン(Mn)の基礎含有量を得るために、2匹の追加の(対照)ラットを、実施例2に記載された実験により並行して処置した。24時間後、ラットを殺処分し、脳を、切開して取り出し、Mn分析まで-80℃で保存した。MnDPDP単独を受けるラットのうちの3匹及びMnDPDPとDPDPを受けるラットの3匹において、脳のZn含有量も分析した。分析の前に、各脳を高周波レンジの中で5mlの濃硝酸と3mlの蒸留水に溶解し、その後、蒸留水で希釈して最終容量の50mlにした。各試料のMn及びZn含有量をICP-MSで分析した。結果を、脳湿重量μg/g±標準誤差及びMnの脳含有量における増加率として表す。脳のMn含有量の増加に関する、MnDPDP単独を受けた動物とMnDPDPとDPDPを受けた動物との統計的な差を、独立スチューデントt検定により検定した。0.05未満のp値を統計的に有意な差と見なした。
【0056】
結果
結果を図3A〜3Cに提示する。2匹の対照ラットのMnの脳含有量は、それぞれ0.40及び0.39μg/g w.w.(実施例2)であった。MnDPDP単独を受けたラットにおける脳のMn含有量は、0.094±0.024μg/g w.w.増加し、一方、含有量は、DPDP補充MnDPDPを受けたラットにおいて僅か0.022±0.01μg/g w.w.しか増加せず(図3A)、それぞれ23.5及び5.5%に相当した(図3B)。MnDPDP単独を受けたラット及びMnDPDP+DPDPを受けたラットにおけるZnの脳含有量は、同一であった(図3C)。本発明の結果は、過剰DPDPの添加が、脳へのMnの取り込みを、75%超低減することを実証している。
【実施例4】
【0057】
この実施例は、DPDPの増加していく用量を受ける動物及びMnDPDP単独又はDPDPとの組み合わせを受ける動物におけるMn及びZnの尿排出を測定する。
【0058】
方法
10匹のWistarラット(およそ250g)に、0、5、10、20及び30μmol/kg b.w.に相当する、0、0.125、0.250、0.500又は0.750mlの10mM DPDP製剤(Teslascan(商標))のいずれかを、尾静脈の1本を介して静脈内注射した。4匹の他のラットは、10μmol/kgに相当する0.250mlのMnDPDP(10mM)単独又は20μmol/kg b.w.に相当する0.500mlのDPDP(10mM)との組み合わせのいずれかを静脈内で受けた。注射した後、ラットを尿採取のために直ぐに代謝ケージの中に0〜24時間にわたって入れた。次に尿試料を、Zn及びMn分析まで-80℃で保存した。分析する前に、試料を解凍し、十分に振とうして均質試料を得た。5mlの分量を各試料から取り出し、5mlの濃硝酸を加えた。次に試料を高周波レンジの中で溶解し、その後、蒸留水で希釈して最終容量の50mlにした。各試料の亜鉛(Zn)及びマンガン(Mn)含有量をICP-MSで分析した。結果を、0〜24時間尿のZn及びMn総含有量として表した(μmol/kg b.w.±標準誤差として表した)。
【0059】
結果
結果を図4A及び4Bに提示する。0μmol/kg b.w.を受けた2匹のラットにおけるZnの基礎24時間排出は、それぞれ0.852及び0.771μmol/kg b.w.であることが見出された。0〜24時間のZn排出は、10μmol/kg b.w.のDPDPの用量により、およそ4μmol/kgのZnである程度飽和した(図4A)。増加していく用量のDPDPは、Mn排出に対して僅かな効果しかなかった(図4A)。Zn排出は、MnDPDP単独を受けた2匹のラットと比較して、MnDPDPとDPDPを受けた2匹のラットにおいて相当に増加した。Mnと比較して、DPDPに対するほぼ1000倍高いZnの親和性、並びにラット(Hustvedtら、Acta Radiol、1997年)及びヒト(Toftら、1997年)の両方における研究を考慮すると、Zn排出を飽和するのに必要なDPDPの量は、驚くほど低い。更に、Zn排出に対する10μmol/kg b.w.のMnDPDP単独の相対的に少ない効果も、驚くべき所見である。しかし、図4A及び4Bから明らかなように、DPDP単独又はMnDPDPとの組み合わせは、Zn排出を相当に増加させることができる、すなわち、約10μmol/kg b.w.に相当するDPDPの、MnDPDPへの添加は、インビボ条件下でのMnの放出からMnDPDPを安定化する。
【0060】
キレーター由来のマンガンの僅か20%以下が、10μmol/kg b.w.の用量レベルのMnDPDPの静脈内投与後に尿から現れるという事実は、ヒト(Toftら、1997年)及びラット(Hustvedtら、1997年)における両方の研究から良く知られている。キレーターが、主に脱リン酸化されてPLEDになった後、GFRに近い血漿クリアランスで腎臓排泄を介して体から急速に、実質的に完全に排除されることも知られている(ラット及びイヌにおける14C標識DPDPにより示されている;Hustvedtら、1997年)。更に、いわゆる金属交換反応プロセス(Toftら、1997年)、この場合はマンガンと亜鉛の交換を支配するのが主に血漿亜鉛であることが推定される。したがって理想的には、MnDPDPの所定用量の80%近く(10μmol/kg b.w.の用量レベルに基づいて約8μmol/kg b.w.)が、亜鉛代謝産物の形態で、主にZnPLEDとして尿に現れるはずであることが予想されよう。しかし、実施例4に示されているように、10μmol/kg b.w.のMnDPDPの投与の24時間後までの尿中の亜鉛の量は、僅か約2μmol/kg b.w.に相当する、すなわち、80%よりはるかに少ない量が亜鉛代謝産物として尿に現れる。Toft及び共同研究者により表されたヒト薬物動態データ(Toftら、1997年の図8)のおおまかな検算は、10μmol/kg b.w.の投与後のヒトの腎臓亜鉛排泄では、多少高いが同様に低い数値(およそ3μmol/kg b.w.)を示す、すなわち、母基質MnDPDP由来のキレーターの約半分が腎臓排泄により非亜鉛形態であるが不明の形態で排出される必要がある。Toftらは、「不明の」形態について考察していないが、用量が5から10μmol/kg b.w.に増加した場合に、相対的に少ない亜鉛及び相対的に多いマンガンが腎臓により排出されるという事実は、血漿における遊離又はゆるく結合した亜鉛の利用度が限定されていることにより説明される。インビボ条件下での金属交換反応は、亜鉛及びマンガンと低及び高分子量の両方のキレーターとの間に幾つかの平衡が関与しうる複雑なプロセスの可能性がある(Toftら、1997年)ことを強調すべきである。しかし、亜鉛がDPDP又はその代謝産物PLEDに対して1000倍を超える高い親和性を有すること及び大部分のマンガン(10μmol/kg b.w.のMnDPDPの用量で80%を超える)がキレーターから解離することを考慮すると、10μmol/kg b.w.のDPDPの投与が同じ用量のMnDPDと比較して亜鉛排出を二倍にするという図4Bに示す実施例4の本知見は、予想外の知見である。
【0061】
インビトロESR実験(Schmidtら、J Biol Inorg Chem、2007年、7、241〜248頁)は、「不明の」形態が、CaPLED及び程度は低いがMgPLEDであることを示唆しうる。Schmidtらは、DPDPとカルシウムとの安定度定数がおよそ109であることも報告しており、マンガンとDPDPとの対応する安定度定数は多少低いと、この論文から間接的に結論付けることができる。不明の形態がCaPLED及びMgPLEDである場合、過剰DPDPを組成物に、Ca/MgDPDPの形態で部分的又は完全に添加することも考えられよう。そのような手法は、高用量の急速な投与の際にカルシウム及びマグネシウムの急激な涸渇を潜在的に避けることができ、このことは例えば心臓血管の安全性を増加しうる。添加されたCa/MgDPDPが、DPDP単独と比較して、MnDPDPの安定性に大きな悪影響を及ぼしうるかを理解することは、更に困難である。しかし、CaPLED及びMgPLEDがMnDPDPの投与後に腎臓によって実際に排出されるかは、今のところ示されていない。不明の形態の別の候補は、鉄がDPDPとPLEDの両方に非常に高い親和性を有するので、鉄結合形態の可能性もあろう。しかし、ラット、イヌ又はサルのいずれにおいても反復用量毒性の後でヘモグロビンに対する効果が報告されておらず(Larsen & Grant、Acta Radiol、1997年、38、770〜779頁)、このことはそのような候補を間接的に否定する。
【実施例5】
【0062】
この実施例は、細胞毒性薬(パクリタセキル)と組み合わせた、MnDPDP及びDPDPの組み合わせの治療効率を試験する。
【0063】
方法
治療効果を試験するために、最初の実験は、Alexandreら、JNCI、2006年、98、236〜244頁に記載されているように、BALB/c雌マウス(15〜20g)で実施した。簡潔には、マウスに、ビヒクル単独(PBS;第1群);パクリタセキル単独(第2群);MnDPDP(Teslascan(商標))単独又は過剰DPDPとの組み合わせ(第3〜5群)を以下のようにして腹腔内に注射した。
1.PBS(対照)
2.パクリタセキル(20mg/kg b.w.)
3.パクリタセキル(20mg/kg b.w.)+MnDPDP(1mg/kg b.w.)
4.パクリタセキル(20mg/kg b.w.)+MnDPDP(1mg/kg b.w.)+DPDP(10mg/kg b.w.)
5.パクリタセキル(20mg/kg b.w.)+MnDPDP(5mg/kg b.w.)
【0064】
5匹のマウスを各群において処置した。パクリタセキルを0、2及び4日目に投与した。0、2、4及び7日目には、マウスにMnDPDP±DPDPを投与した。最初の注射の10日後、マウスに麻酔をかけ、血液試料を、心臓穿刺によりEDTAチューブへ抜き取り、血球計数(白血球数(WBC)、絶対好中球数(ANC)、単球及びリンパ球数を含む)を、血液試料を1:1に希釈した後でCELL-DYN Sapphire分析器により実施した。幾つかの試料を凝固したために廃棄する必要があったが、全ての群は、少なくとも3匹の動物の血液を含んでいた。
【0065】
結果
結果を図5A〜5Dに提示する。パクリタセキルは、多様な白血球をほぼ50%低減し、10mg/kg b.w.のDPDPと組み合わせた1mg/kg b.w.のMnDPDP(およそ1.5μmol/kg b.w.に相当する)は、多様な白血球を回復するために5mg/kg b.w.のMnDPDP単独と同様に効果的であると思われる(図5A)。本結果は、過剰DPDP(この場合、およそ15μmol/kg b.w.)は、MnDPDPを驚くほど効果的にすることを示している。
【0066】
骨髄抑制、特に白血球減少は、とりわけパクリタセキルを含む細胞増殖抑制薬/細胞毒性薬による癌治療の際の一般的な重篤で有害な用量制限事象である。Alexanderら(2006年)は、近年、10mg/kg b.w.のMnDPDP(Teslascan(商標))がパクリタセキル誘発白血球減少に対してマウスを有効に保護することを示した。Alexanderらと同じ骨髄抑制マウスモデルを利用して、実施例5は、10mg/kg b.w.のDPDP(約15μmol/kg b.w.に相当する)と組み合わせた1mg/kg b.w.のMnDPDP(約1.5μmol/kg b.w.に相当する)が、5mg/kg b.w.のMnDPDP単独と同様に効果的であることを示す。重要なことに、MnDPDPのこの改善された治療効果は、MnDPDP又はその代謝産物MnPLEDが効果を示すことができる全ての適応症、例えば、とりわけ、パクリタセキル以外の細胞増殖抑制/細胞毒性治療、放射線療法及び急性心筋虚血再潅流損傷に適用可能である。
【0067】
まとめると、本発明は、相対的に少量の添加DPDPがどのようにMnDPDPを治療的にはるかにより効果的にし、神経毒性を少なくするかを示す。必要なDPDPの量(約10μmol/kg b.w.に相当する)は、文献に記録されている画像化用量の5〜10μmol/kg b.w.のMnDPDPとより相互関係がある。したがって、治療効果の増加及び神経毒性の減少に関して改善された組成物は、不足量の金属を含有する金属キレーター錯体として見なすことができる。
【0068】
実施例1から、DPDPの添加は、10μmol/kg b.w.の用量レベルでMnDPDP/MnPLEDのインビボでの安定性を二倍にすると結論付けることができる。しかし、本実施例及びMnDPDP/MnPLEDの亜鉛推進金属交換反応についての上記の考察は、MnDPDPのインビボでの不安定性がMnDPDPの用量と反比例の相関をすること、すなわち相対的に多くのマンガンが低用量レベルで亜鉛と交換することを示唆している。したがって、添加された過剰DPDPは、実施例1が示唆するよりもはるかにMnDPDPを効果的にすると結論付けられる。他に記述されているように、MnDPDPは、おそらく、細胞保護効果を発揮することができる前に、代謝されてMnPLEDになる必要がある。以前のデータ(例えば、Karlssonら、2001年、EP0910360、US6147094)は、Toftら、1997年が示唆するように、約1/3のMnDPDPが代謝されてMnPLEDになると予想する代謝修正を考慮した後でも、MnPLEDがMnDPDPよりもはるかにより効果的であることを実証している。この予想は、10μmol/kg b.w.のMnDPDPの用量レベルでの薬物動態データによって行われている。一方、より低い用量レベルでは、十分な亜鉛が、マンガンの多少とも完全な交換におそらく利用可能になり、MnPLEDがほとんどないか全くなくなるであろう。次にこのことは、添加された過剰DPDPが、MnDPDPの治療効果を実施例1が示唆するよりもはるかにより増加させる理由を説明することができる。
【0069】
本明細書に記載されている実施例及び特定の実施形態は、本質的に例示に過ぎず、以下の特許請求の範囲により規定される本発明の範囲を制限するものと判断すべきではない。本発明の追加的な特定の実施形態及び利点は、本発明の開示により明らかであろうが、それらも本発明の請求の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1成分として式Iのマンガン錯体及び第2成分として式Iの非マンガン錯体化合物を、場合により1つ以上の生理学的に許容される担体及び/又は賦形剤と一緒に含む、患者の病理状態を治療するための医薬組成物
【化1】

[式中、
Xは、CH又はNを表し、
R1は、それぞれ独立して、水素又は-CH2COR5を表し;
R5は、ヒドロキシ、場合によりヒドロキシル化されているアルコキシ、アミノ又はアルキルアミドを表し;
R2は、それぞれ独立して、ZYR6を表し、ここでZは、結合又は場合によりR7で置換されているC1〜3アルキレン若しくはオキソアルキレン基を表し;
Yは、結合、酸素原子又はNR6を表し;
R6は、水素原子、COOR8、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリール又はアラルキルであり、これらの基は、COOR8、CONR82、NR82、OR8、=NR8、=O、OP(O)(OR8)R7及びOSO3Mから選択される1つ以上の基で場合により置換されており;R7は、ヒドロキシ、場合によりヒドロキシル化されている、場合によりアルコキシル化されているアルキル又はアミノアルキル基であり;
R8は、水素原子、又は場合によりヒドロキシル化されている、場合によりアルコキシル化されているアルキル基であり;
Mは、水素原子、又は生理学的に耐容されるカチオンの1当量であり;
R3は、R7で場合により置換されている、C1〜8アルキレン、1,2-シクロアルキレン又は1,2-アリーレン基を表し;
R4は、それぞれ独立して、水素又はC1〜3アルキルを表す]。
【請求項2】
R5が、ヒドロキシ、C1〜8アルコキシ、エチレングリコール、グリセロール、アミノ又はC1〜8アルキルアミドであり;Zが、結合又はCH2、(CH2)2、CO、CH2CO、CH2CH2CO及びCH2COCH2から選択される基であり;Yが結合であり;R6が、モノ-若しくはポリ(ヒドロキシ又はアルコキシル化)アルキル基又は式OP(O)(OR8)R7のものであり;R7が、ヒドロキシ又は非置換アルキル若しくはアミノアルキル基である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
R3がエチレンであり、基R1が、それぞれ-CH2COR5を表し、ここでR5がヒドロキシである、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
第1成分が108〜1024の範囲のKa値を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
第2成分が、亜鉛(Zn2+)に対する対応するKa値よりも少なくとも10倍低いMn2+に対するKa値を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
第2成分が、第1成分に対して等モル以上の量で含まれる、請求項1から5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
第1成分及び第2成分が、約1:1〜1:20、1:1〜1:10又は1:1〜1:5の範囲の第1成分対第2成分のモル比で含まれる、請求項1から5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
第1成分及び第2成分が、約1:2〜3:4の範囲の第1成分対第2成分のモル比で含まれる、請求項1から5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
第1成分が、マンガンN,N'-ビス-(ピリドキサール-5-ホスフェート)-エチレンジアミン-N,N'-二酢酸(MnDPDP)又はその塩であり、第2成分が、N,N'-ビス-(ピリドキサール-5-ホスフェート)-エチレンジアミン-N,N'-二酢酸(DPDP)又はその塩若しくは非マンガン錯体である、請求項1から8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
第2成分が、DPDP、カルシウムDPDP若しくはマグネシウムDPDP又はこれらの2つ以上の組み合わせである、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
患者の病理状態を治療する方法であって、第1成分として式Iのマンガン錯体及び第2成分として式Iの非マンガン錯体化合物を、場合により1つ以上の生理学的に許容される担体及び/又は賦形剤と一緒に、前記患者に投与する段階を含む方法
【化2】

[式中、
Xは、CH又はNを表し、
R1は、それぞれ独立して、水素又は-CH2COR5を表し;
R5は、ヒドロキシ、場合によりヒドロキシル化されているアルコキシ、アミノ又はアルキルアミドを表し;
R2は、それぞれ独立して、ZYR6を表し、ここでZは、結合又は場合によりR7で置換されているC1〜3アルキレン若しくはオキソアルキレン基を表し;
Yは、結合、酸素原子又はNR6を表し;
R6は、水素原子、COOR8、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリール又はアラルキルであり、これらの基は、COOR8、CONR82、NR82、OR8、=NR8、=O、OP(O)(OR8)R7及びOSO3Mから選択される1つ以上の基で場合により置換されており;R7は、ヒドロキシ、場合によりヒドロキシル化されている、場合によりアルコキシル化されているアルキル又はアミノアルキル基であり;
R8は、水素原子、又は場合によりヒドロキシル化されている、場合によりアルコキシル化されているアルキル基であり;
Mは、水素原子、又は生理学的に耐容されるカチオンの1当量であり;
R3は、R7で場合により置換されている、C1〜8アルキレン、1,2-シクロアルキレン又は1,2-アリーレン基を表し;
R4は、それぞれ独立して、水素又はC1〜3アルキルを表す]。
【請求項12】
患者の病理状態を治療する方法であって、請求項1から10のいずれか一項に記載の医薬組成物を前記患者に投与する段階を含む方法。
【請求項13】
病理状態が、酸素誘導フリーラジカルの存在により引き起こされる、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記状態が、細胞毒性薬又は細胞増殖抑制薬の障害である、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項15】
細胞毒性薬又は細胞増殖抑制薬が癌治療薬である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
細胞毒性薬又は細胞増殖抑制薬が、ドキソルビシン、オキサリプラチン、5-フルオロウラシル又はパクリタセキルの少なくとも1つを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記状態が虚血再潅流誘発障害である、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項18】
前記状態が心筋虚血再潅流誘発障害の結果である、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項19】
前記状態が、血栓溶解治療、心肺バイパス若しくは経皮的血管内血管形成術に伴う、又は心臓若しくは臓器移植の結果である、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項20】
前記状態がアセトアミノフェン誘発急性肝不全である、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項21】
前記状態が、鉄の病理状態である、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項22】
前記状態が、サラセミア、鎌状赤血球貧血又は輸血性ヘモジデリン沈着症である、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項23】
前記状態が肝炎誘発肝硬変である、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項24】
前記状態が放射線誘発障害である、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項25】
第1成分及び第2成分が同時に投与される、請求項11から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
第1成分及び第2成分が連続して投与される、請求項11から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
約0.01〜10μmol/kg体重の第1成分及び約1〜100μmol/kg体重の第2成分を投与する段階を含み、第2成分が、第1成分の等モル以上の量で投与される、請求項11から24のいずれか一項に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【公表番号】特表2012−532189(P2012−532189A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519105(P2012−519105)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【国際出願番号】PCT/IB2010/053097
【国際公開番号】WO2011/004325
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(510164430)プレッドファルマ・アーベー (2)
【Fターム(参考)】