説明

マンニトール誘導性のタンパク質凝集を抑制するためのスクロースの使用

本発明は、タンパク質を含む液体処方物中にスクロースを提供することによって、マンニトール誘導性のタンパク質凝集を抑制するための方法を提供する。本発明はまた、タンパク質およびマンニトールとスクロースとの組み合わせを含む液体処方物を貯蔵および調製するための方法を提供し、スクロースの存在が、マンニトール誘導性のタンパク質凝集を抑制する。本発明は、薬物生成物の貯蔵および増量操作の間にマンニトールを除去および添加する必要性を排除する。したがって、本発明は、タンパク質処方物の貯蔵および調製に伴うコストおよび加工時間を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
この出願は、2007年2月16日に出願された、米国仮特許出願第60/901,807号(その全体が参考として本明細書に援用される)の利益を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、液体処方物中のマンニトール誘導性のタンパク質凝集を抑制するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
マンニトールは、一般に、タンパク質処方物の安定性および等張性を維持するために、タンパク質処方物において使用されてきた。過去、液体窒素を使用して、貯蔵のためにタンパク質処方物を急速凍結してきた。しかし、液体処方物の大規模な制御されていない凍結へのほぼすべてのアプローチは、制御されない凝固および融解のネガティブ効果を欠点として持っている。相変化の不適切な制御は、凝集、沈降、酸化および変性に起因して、生成物の喪失を生じることが示された。近年の技術は、タンパク質処方物の凍結および融解プロセスを制御するために導入された。しかしながら、これらの技術は、代表的には、非常にゆっくりとした速度で凍結および融解する。結果として、マンニトール含有タンパク質処方物においては、上記のゆっくりとした凍結融解プロセスは、マンニトールを結晶化させてしまい、このことは、続いて、タンパク質凝集を誘導する。
【0004】
ゆっくりとした凍結融解プロセスの間のマンニトール誘導性のタンパク質凝集を避けるために、既存の方法は、マンニトールをタンパク質処方物から除去し、融解後の操作の間にマンニトールを添加し戻すことを要した。これらの方法は、高価かつさらなる加工時間を必要とする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、液体処方物中のマンニトール誘導性のタンパク質凝集を抑制するための改善された方法を提供する。特に、本発明は、凍結融解および貯蔵の間に液体処方物中のマンニトール誘導性のタンパク質凝集を抑制するためにスクロースを使用する。結果として、本発明は、例えば、薬物生成物の貯蔵および増量(filling)操作の間にマンニトールを除去および添加する必要性を排除する。したがって、本発明は、タンパク質処方物の貯蔵および調製に伴うコストおよび加工時間を低減する。
【0006】
一局面において、本発明は、タンパク質を含む液体処方物にスクロースを提供することによってマンニトール誘導性のタンパク質凝集を抑制するための方法を提供する。一部の実施形態において、本発明の方法は、凍結および/または融解プロセスの間に、マンニトール誘導性のタンパク質凝集を抑制するために使用される。一部の実施形態において、液体処方物中のタンパク質濃度は、特に、重量/重量に基づいて、凍結融解の間、本質的に一定である。一部の実施形態において、本発明の方法は、特に、凍結状態での貯蔵(例えば、0℃〜−80℃の範囲内の温度(例えば、0℃、−10℃、−20℃、−30℃、−40℃、−50℃、−60℃、−70℃または−80℃、好ましくは、0℃〜−40℃、より好ましくは−5℃〜−30℃)での貯蔵)の間、マンニトール誘導性のタンパク質凝集を抑制するために使用される。
【0007】
一部の実施形態において、上記液体処方物は、スクロースとマンニトールとの組み合わせを含む。一部の実施形態において、このマンニトールは、およそ約1M以下の上記液体処方物中の濃度であり、このスクロースは、およそ約5M以下の上記液体処方物中の濃度である。他の実施形態において、このマンニトールは、およそ約300mM以下の上記液体処方物中の濃度であり、このスクロースは、およそ約300mM以下の上記液体処方物中の濃度である。一部の実施形態において、上記液体処方物におけるマンニトールとスクロースとの合わせた濃度は、約300mMである。この段落で表された濃度は、凍結工程の前、および/または融解工程の後に適用され得る。
【0008】
一部の実施形態において、上記液体処方物におけるマンニトールとスクロースとの間のモル比は、1:10〜10;1の範囲内(例えば、約1:10、約1:5、約1:4、約1:3、約1:2、約1:1、約2:1、約3:1、約4:1、約5:1、約6:1、約7:1、約8:1、約9:1または約10:1(マンニトール:スクロース))である。一部の実施形態において、上記液体処方物におけるマンニトールとスクロースとの間のモル比は、約3:1(マンニトール:スクロース)以下である。一部の実施形態において、上記液体処方物におけるマンニトールとスクロースとの間のモル比は、約5:1(マンニトール:スクロース)以下である。
【0009】
別の局面において、本発明は、液体処方物を貯蔵するための方法を提供し、この方法は、上記液体処方物を−0℃未満の温度へ徐々に冷却する工程を包含する。上記液体処方物は、タンパク質およびマンニトールとスクロースとの組み合わせを含み、スクロースの存在が、冷却の間のマンニトール誘導性のタンパク質凝集を抑制する。一部の実施形態において、液体処方物中のタンパク質濃度は、冷却の間、重量/重量に基づいて一定である。
【0010】
一部の実施形態において、本発明のこの局面の方法は、上記液体処方物を、0℃〜−80℃の範囲内の温度(例えば、約−10℃以下、約−20℃以下、約−30℃以下、約−40℃以下、約−50℃以下、約−60℃以下、約−70℃または約−80℃以下、好ましくは0℃〜−40℃、より好ましくは−5℃〜−30℃の温度)まで徐々に冷却する工程を包含する。
【0011】
一部の実施形態において、本発明のこの局面の方法は、上記液体処方物を、0.6℃/分〜0.1℃/分の範囲内の速度、例えば、約0.6℃/分、約0.5℃/分、約0.4℃/分、約0.3℃/分、約0.2℃/分または約0.1℃/分の速度で徐々に冷却する工程を包含する。
【0012】
一部の実施形態において、上記液体処方物は、抗体であるタンパク質を含む。特に、この抗体は、好ましくはモノクローナル抗体である。他の実施形態において、上記液体処方物は、薬学的薬物物質であるタンパク質を含む。
【0013】
一部の実施形態において、本発明のこの局面の液体処方物を貯蔵するための方法は、処理手段(process intermediate)である。
【0014】
一部の実施形態において、本発明のこの局面の方法はさらに、上記液体処方物を0℃未満の温度で、ある期間にわたって維持する工程を包含する。一部の実施形態において、この期間は、1ヶ月〜12ヶ月の範囲内(例えば、約1ヶ月もしくはそれより長い、約2ヶ月もしくはそれより長い、約3ヶ月もしくはそれより長い、約4ヶ月もしくはそれより長い、約5ヶ月もしくはそれより長い、約6ヶ月もしくはそれより長い、約7ヶ月もしくはそれより長い、約8ヶ月もしくはそれより長い、約9ヶ月もしくはそれより長い、約10ヶ月もしくはそれより長い、約11ヶ月もしくはそれより長い、または約12ヶ月もしくはそれより長い)である。
【0015】
なお別の局面において、本発明は、液体処方物を調製するための方法を提供し、この方法は、上記液体処方物を0℃よりも高い温度へ徐々に加温する工程を包含する。上記液体処方物は、タンパク質およびマンニトールとスクロースとの組み合わせを含み、スクロースの存在は、加温の間のマンニトール誘導性のタンパク質凝集を抑制する。
【0016】
一部の実施形態において、本発明の方法は、上記液体処方物を10℃〜50℃以上の範囲内の温度(特に、約10℃、約20℃、約25℃、約30℃、約37℃、約40℃、約50℃以上よりも高い温度、好ましくは、周囲温度)まで徐々に加温する工程を包含する。一部の実施形態において、本発明は、上記液体処方物を(例えば、上記の温度範囲(例えば、0℃、−10℃、−20℃、−30℃、−40℃、−50℃、−60℃、−70℃または−80℃)での)凍結状態から徐々に加温する工程を包含する。
【0017】
一部の実施形態において、本発明の方法は、上記液体処方物を0.6℃/分〜0.1℃/分の範囲内の速度(例えば、約0.6℃/分、約0.5℃/分、約0.4℃/分、約0.3℃/分、約0.2℃/分または約0.1℃/分の速度)で徐々に加温する工程を包含する。
【0018】
一部の実施形態において、上記液体処方物は、抗体であるタンパク質を含む。特に、この抗体は、好ましくはモノクローナル抗体である。他の実施形態において、上記液体処方物は、薬学的薬物物質であるタンパク質を含む。
【0019】
一部の実施形態において、本発明のこの局面の液体処方物を調製するための方法は、処理手段である。
【0020】
本発明はさらに、上記の種々の実施形態に記載される本発明の方法によって調製された上記液体処方物中に生物学的な有効量の上記タンパク質を含む組成物を提供する。
【0021】
さらなる局面において、本発明は、液体処方物を加工するための方法を提供し、この方法は:(1)タンパク質およびマンニトールとスクロースとの組み合わせを含む液体処方物を提供する工程;(2)この液体処方物を徐々に凍結させる工程;(3)この液体処方物を凍結状態から徐々に融解させる工程を包含し、ここで、スクロースの存在は、マンニトール誘導性のタンパク質凝集を抑制する。一部の実施形態において、本発明の方法は、凍結融解の間のマンニトール誘導性のタンパク質凝集を抑制するために使用される。一部の実施形態において、本発明の方法は、特に、凍結状態での貯蔵(例えば、先に示された温度範囲(例えば、0℃、−10℃、−20℃、−30℃、−40℃、−50℃、−60℃、−70℃または−80℃)での貯蔵)の間、マンニトール誘導性のタンパク質凝集を抑制するために使用される。
【0022】
一部の実施形態において、本発明のこの局面の方法はさらに、上記液体処方物を凍結状態で、上記の工程(2)の後、ある期間にわたって維持する工程を包含する。この期間は、この処方物が貯蔵されることを可能にする。一部の実施形態において、この期間は、1ヶ月〜12ヶ月以上の範囲内(例えば、約1ヶ月もしくはそれより長い、約2ヶ月もしくはそれより長い、約3ヶ月もしくはそれより長い、約4ヶ月もしくはそれより長い、約5ヶ月もしくはそれより長い、約6ヶ月もしくはそれより長い、約7ヶ月もしくはそれより長い、約8ヶ月もしくはそれより長い、約9ヶ月もしくはそれより長い、約10ヶ月もしくはそれより長い、約11ヶ月もしくはそれより長い、約12ヶ月もしくはそれより長い)である。
【0023】
一部の実施形態において、上記の徐々に凍結させる工程または融解させる工程は、0.6℃/分〜0.1℃/分(好ましくは、約0.6℃/分、約0.5℃/分、約0.4℃/分、約0.3℃/分、約0.2℃/分または約0.1℃/分)の範囲内の速度である。
【0024】
いくつかの実施形態において、上記液体処方物は、抗体であるタンパク質を含む。特に、上記抗体は、モノクローナル抗体である。他の実施形態において、上記液体処方物は、薬学的薬物物質であるタンパク質を含む。
【0025】
いくつかの実施形態において、本発明のこの局面の液体処方物を貯蔵するための方法は、処理手段である。
【0026】
本発明はさらに、上記の種々の実施形態に記載される本発明の方法によって上記液体処方物中に貯蔵された生物学的な有効量の上記タンパク質を含む組成物を提供する。
【0027】
種々の実施形態において先に記載される本発明は、任意の所定の濃度で可溶化したタンパク質を含む液体処方物を貯蔵および/または調製するために使用され得る。例えば、上記液体処方物は、約10mg/ml以下、約20mg/ml以下、約25mg/ml以下、約30mg/ml以下、約35mg/ml以下、約40mg/ml以下、約45mg/ml以下、約49mg/ml以下、約75mg/ml以下、約100mg/ml以下、約125mg/ml以下、約150mg/ml以下、約175mg/ml以下、約200mg/ml以下の濃度でタンパク質を含み得る。他の実施形態において、上記液体処方物は、約10mg/ml以上、約20mg/ml以上、約25mg/ml以上、約30mg/ml以上、約35mg/ml以上、約40mg/ml以上、約45mg/ml以上、約49mg/ml以上、約75mg/ml以上、約100mg/ml以上、約125mg/ml以上、約150mg/ml以上、約175mg/ml以上、約200mg/ml以上の濃度でタンパク質を含み得る。
【0028】
代表的に、本発明にしたがう液体処方物は水性処方物である。
【0029】
代表的に、上記の種々の実施形態に記載される本発明に使用される凍結工程または冷却工程には、同時の乾燥プロセス(例えば、凍結乾燥プロセスに使用される乾燥プロセス)が伴わない。特に、上記のタンパク質、マンニトールまたはスクロースの濃度は、冷却工程または凍結工程の間、重量/重量に基づいて本質的に一定である。
【0030】
本願において、「または」の使用は、別段示されなければ、「および/または」を意味する。本開示において使用される場合、用語「含む(comprise)」およびこの用語のバリエーション(例えば、「含む(comprising)」および「含む(comprises)」)は、他の付加物、構成成分(component)、成分(integer)もしくは工程を排除することを意味しない。本願において使用される場合、用語「約(about)」および「約(approximately)」は、等価物として使用される。両方の用語は、関連分野の当業者によって認識される任意の正常の変動を網羅することを意味する。
【0031】
本発明の他の特徴、目的および利点は、以下の詳細な説明において明らかになる。しかし、詳細な説明は、本発明の実施形態を示すと同時に、単なる例示によって提供されるに過ぎず、限定によって提供されるのではないことが理解されるべきである。本発明の範囲内の種々の変更および改変は、詳細な説明から当業者に明らかになる。
【0032】
図面は、例示目的に過ぎず、限定のためではない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、CryoPilot(CP)システムによる各例示的プロセススケールでのサンプル生成物温度追跡を示す。
【図2】図2は、マンニトールが凍結融解サイクルの間に抗体の凝集を誘導することを示す。
【図3】図3は、マンニトールとスクロースとの比を変化させて、制御された速度で凍結および融解させたタンパク質の例示的なSEC−HPLCクロマトグラムを示す。
【図4】図4は、マンニトール:スクロースの比の関数としての高分子量(HMW)種の形成を示す。
【図5A】図5Aは、スクロースが、−20℃での貯蔵の間、マンニトール誘導性のタンパク質凝集を抑制することを示す例示的な実験を示す。
【図5B】図5Bは、LMW種の形成が、−20℃での貯蔵の間、スクロース有りまたは無しでの処方物の間で匹敵したものであったことを示す例示的な実験を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(発明の詳細な説明)
本発明は、液体処方物中のマンニトール誘導性のタンパク質凝集を抑制するための改善された方法を提供する。具体的には、本発明は、凍結融解および貯蔵の間、液体処方物中のマンニトール誘導性のタンパク質凝集を抑制するためにスクロースを使用する。本発明はまた、タンパク質およびマンニトールとスクロースとの組み合わせを含む液体処方物を貯蔵または調製するための方法を提供し、スクロースの存在は、マンニトール誘導性のタンパク質凝集を抑制する。
【0035】
本発明の種々の局面は、以下の小節においてさらに詳細に記載される。小節の使用は、本発明の限定を意味しない。各小節は、本発明のいずれに局面にも当てはまり得る。
【0036】
(タンパク質処方物)
タンパク質は、水性状態においては比較的不安定であり、化学的および物理的分解を受け、処理および貯蔵の間に生物学的活性の喪失を生じる。凍結融解および凍結乾燥は、貯蔵のためのタンパク質を保存する十分に確立された方法である、タンパク質のコンホメーション、活性および安定性を保存するために、タンパク質処方物は、通常、このことを促進するための薬剤、いわゆる溶解保護剤(lyoprotectant)および凍結保護剤(cryoprotectant)を含む。凍結保護剤は、凍結誘導性のストレスからタンパク質に対して安定性を提供する薬剤である;しかし、上記用語はまた、例えば、非凍結誘導性プロセスから貯蔵の間にバルク薬物処方物に、安定性を提供する薬剤を含む。溶解保護剤は、おそらく、水素結合を介するタンパク質の適切なコンホメーションを維持することによって、乾燥プロセスの間に上記系から水を除去する間にタンパク質に対する安定性を提供する薬剤である。凍結保護剤はまた、溶解保護効果も有し得る。頻繁に使用される充填剤(bulking agent)の例としては、マンニトール、グリシン、ラクトースなどが挙げられる。上記薬剤はまた、上記処方物の等張性に寄与する。
【0037】
本明細書において使用される場合、「タンパク質」は、任意のポリペプチドを含む。例示的なタンパク質としては、抗体(例えば、モノクローナル抗体、一本鎖抗体、および他の抗体改変体);種々の成長ホルモン;任意の薬学的薬物物質が挙げられるが、これらに限定されない。本願において言及されるタンパク質は、任意の天然に存在するポリペプチド、改変されたポリペプチド、または合成ポリペプチドを包含する。
【0038】
本明細書において使用される場合、「タンパク質処方物」、「液体処方物」、または文法的等価物は、任意の液体ポリペプチド含有組成物を包含する。上記液体ポリペプチド含有組成物は、受容可能な範囲において上記溶液pHを維持する因子を含む「緩衝化剤」をさらに含み得、そして上記の充填剤を含み得、そしてまた、ヒスチジン、ホスフェート、シトレート、トリス、ジエタノールアミンなどを含み得る。上記液体ポリペプチド含有組成物が薬学的組成物である場合、上記液体処方物は、「賦形剤」をさらに含み得る。用語「賦形剤」とは、薬学的に受容可能なキャリア、ならびに生物学的活性の実質的な保持およびタンパク質安定性が維持されるように、貯蔵の間にタンパク質の適切なコンホメーションを提供する溶解保護剤および凍結保護剤を包含する。
【0039】
(マンニトールは、ゆっくりとした凍結および融解の間にタンパク質凝集を誘導する)
上記で議論されるように、凍結および融解は、長期貯蔵のために、または中間工程として十分に確立された方法である。しかし、液体処方物の大規模凍結に対するほぼすべてのアプローチは、制御されていない凝固および融解というネガティブな効果を欠点として持っている。バッグおよびボトル中での凍結のようなアプローチは、容器内における低温濃縮および不均一な温度プロフィールを生じることが繰り返し示されてきた。相変化の不適切な制御は、凝集、沈澱、酸化および変性に起因して、生成物の喪失を生じることが示されてきた。対照してみると、制御された凍結および融解(ゆっくりとした凍結および融解ともいわれる)は、制御されていない方法に代表的な生成物変性を回避し、費用および時間のかかる洗浄を排除する。さらに、全体的なプロセスは、十分に制御されかつ推定可能な作動から利益を得る。
【0040】
制御された凍結(またはゆっくりとした凍結)は、代表的には、液体処方物を、所定の速度で貯蔵に適した温度にまで徐々に凍結または冷却する工程を包含する。代表的に、貯蔵に適した温度としては、約0℃以下、約−10℃以下、約−20℃以下、約−30℃以下、約−40℃以下、約−50℃以下、約−60℃以下、約−70℃以下または約−80℃以下の温度が挙げられるが、これらに限定されない。段階的に(step down)徐々に冷却する工程は、任意の適切な速度であり得る。例えば、段階的な冷却速度は、0.6〜0.1℃/分の範囲内(例えば、約0.6℃/分、約0.5℃/分、約0.4℃/分、約0.3℃/分、約0.2℃/分または約0.1℃/分の速度)であり得る。
【0041】
同様に、制御された融解(ゆっくりとした融解)は、代表的には、液体処方物を、所定の速度で所望の温度まで徐々に融解または加温する工程を包含する。特に、この液体処方物は、凍結状態から融解または加温される。代表的には、融解目的の所望の温度としては、約0℃以上、約10℃以上、約20℃以上、約30℃以上、約37℃以上、約40℃以上、約45℃以上、または約50℃以上が挙げられるが、これらに限定されない。一部の実施形態において、適切な温度は、37℃である。徐々に加温する工程は、任意の適切な速度であり得る。例えば、徐々に加温する速度は、0.6〜0.1℃/分の範囲内(例えば、約0.6℃/分、約0.5℃/分、約0.4℃/分、約0.3℃/分、約0.2℃/分または約0.1℃/分)であり得る。
【0042】
制御された凍結および/または融解は、容器(例えば、チューブ、バッグ、ボトルまたは任意の他の適した容器)中で行われ得る。上記容器は、使い捨てであり得る。制御された凍結および/または融解はまた、大規模で行われてもよいし、小規模で行われてもよい。代表的な大規模生成については、液体処方物は、約1Lから300L、例えば、1L、3L、10L、20L、50L、100L、125L、250Lまたは300Lのバッチで凍結され得る。代表的な小規模系については、液体処方物は、約1mlから500ml、例えば、1ml、10ml、20ml、30ml、50ml、100ml、200ml、300ml、400mlまたは500mlのバッチで凍結され得る。
【0043】
しかし、マンニトール含有液体処方物において、上記のゆっくりとした凍結および/または融解は、マンニトールを結晶化させてしまい、続いて、このことは、タンパク質凝集を誘導する。本明細書において使用される場合、「タンパク質凝集」は、高分子量(HMW)種の形成を意味する。上記高分子量種は、濁度測定によって検出可能な不溶性種およびサイズ排除クロマトグラフィーHPLC(SEC−HPLC)、陽イオン交換HPLC(CEX−HPLC)、X線回折(XRD)、変調型示差走査熱量測定法(mDSC)および当業者に公知の他の手段によって検出可能な可溶性種の両方を包含する。
【0044】
複数回の凍結融解サイクルの際、または特に、凍結状態(例えば、約0℃、約−10℃、約−20℃、約−30℃、約−40℃、約−50℃、約−60℃、約−70℃または約−80℃)での長期間の貯蔵の後に、マンニトール含有液体処方物中のHMW種のパーセンテージは実質的に増加する(実施例の節を参照のこと)ことが認められた。上記処方物中においてマンニトール量の増加はまた、より高いパーセンテージのHMW種形成を生じる。低下させた処理容積は、大規模(例えば、125L)と比較して、形成されるHMW種のパーセンテージを維持するようである。
【0045】
マンニトール含有液体処方物における冷却の間に、発熱事象が認められる。認められたエンタルピー(これは、マンニトールの結晶化および凍結していない水に起因する)は、処理スケールが増大する(凍結および融解の速度が低下するにつれて)か、または上記処方物におけるマンニトールレベルが増大するにつれて増大する。上記マンニトール含有液体処方物において融解する際の結晶化事象もまた、認められる。理論に拘束されることは望まないが、凍結溶液中での上記結晶化事象は、結晶化に起因する相転移が、凍結および融解の際に、タンパク質凝集を誘導し得ることを示唆する。マンニトールの結晶化は、マンニトールレベルとともに増大し、これは、より高い%HMW形成に対応する。より多くのマンニトール結晶化が、小規模のものよりも、大規模プロセスシミュレーションにおいて認められた。このことは、繰り返すと、HMW形成のより大きな割合に対応した。上記処方物中のマンニトールを減少させると、一般に、凍結および融解の間の上記液体処方物中のHMW種形成の減少に好都合である。
【0046】
(マンニトール誘導性のタンパク質凝集を抑制するためのスクロースの使用)
マンニトール誘導性のタンパク質凝集に取り組むため、そして凍結融解または長期間の貯蔵の間、タンパク質を安定化させる液体処方物を提供するために、本発明は、種々の凍結保護剤の添加が、マンニトール誘導性のタンパク質凝集に影響を与えるか否か、そしてどの程度影響を与えるのかを調べた。凍結保護剤は、溶液の凍結および融解から製品を保護する賦形剤である。代表的に、凍結保護剤としては、炭水化物またはポリオールが挙げられるが、これらに限定されない。実施例2に記載されるように、本発明は、液体処方物にスクロースを提供することが、凍結融解の間、マンニトール誘導性のタンパク質凝集を抑制または阻害することを発見した。さらに、実施例3に記載されるように、スクロースは、長期間の貯蔵の間、マンニトール誘導性のタンパク質凝集を抑制する。低濃度であってもスクロースを含むタンパク質処方物は、長期間の貯蔵の後に安定である。本明細書において使用される場合、用語「タンパク質凝集を抑制する」、「タンパク質凝集を阻害する」または文法的等価物は、類似だが、マンニトールを含むがスクロースは含まない液体処方物中で形成されるHMW種のパーセンテージと比較して、スクロースとマンニトールとの組み合わせを含む液体処方物中のHMW種のパーセンテージの低下を示す。用語「タンパク質凝集を抑制する」または「タンパク質凝集を阻害する」はまた、HMW種の形成を排除することを包含する。
【0047】
したがって、本発明は、タンパク質を含む液体処方物にスクロースを提供することによるマンニトール誘導性のタンパク質凝集を抑制するための方法を提供する。代表的に、本発明の液体処方物は、マンニトールとスクロースとの組み合わせを含む。このスクロースとマンニトールとは、それら各々の最大の溶解度によってのみ制限される、任意の濃度で存在し得る。例えば、このマンニトールは、約1M未満の任意の濃度で存在し得、このスクロースは、約5M未満の任意の濃度で存在し得る。一部の実施形態において、このマンニトールは、約300mM以下の濃度で存在し得、このスクロースは、約300mM以下の濃度で存在し得る。一部の実施形態において、マンニトールとスクロースとの合わせた濃度は、約50mM、約60mM、約70mM、約80mM、約90mM、約100mM、約125mM、約150mM、約175mM、約200mM、約225mM、約250mM、約275mM、約300mM、約325mM、約350mM、約375mM、約400mM、約425mM、約450mM、約475mM、約500mM、約600mM、約700mM、約800mM、約900mM、約1Mまたはそれより高い。
【0048】
上記マンニトールおよびスクロースは、液体処方物中で任意の比であり得る。一部の実施形態において、上記液体処方物におけるマンニトールとスクロースとの間のモル比は、約1:10、約1:5、約1:4、約1:3、約1:2、約1:1、約2:1、約3:1、約4:1、約5:1、約6:1、約7:1、約8:1、約9:1または約10:1(マンニトール:スクロース)である。一部の実施形態において、上記液体処方物におけるマンニトールとスクロースとの間のモル比は、約3:1(マンニトール:スクロース)以下である。一部の実施形態において、上記液体処方物におけるマンニトールとスクロースとの間のモル比は、約5:1(マンニトール:スクロース)以下である。
【0049】
非限定的な例として、液体処方物中の適切なスクロース濃度は、10mM〜5Mの範囲内(例えば、10mM、20mM、30mM、40mM、50mM、60mM、70mM、80mM、90mM、100mM、125mM、150mM、175mM、200mM、225mM、250mM、275mM、300mM、325mM、350mM、375mM、400mM、425mM、450mM、475mM、500mM、1M、1.5M、2M、2.5M、3M、3.5M、4M、4.5Mまたは5M)であり得る。
【0050】
非限定的な例として、液体処方物中の適切なマンニトール濃度は、10mM〜1Mの範囲内(例えば、10mM、20mM、30mM、40mM、50mM、60mM、70mM、80mM、90mM、100mM、125mM、150mM、175mM、200mM、225mM、250mM、275mM、300mM、325mM、350mM、375mM、400mM、425mM、450mM、475mM、500mM、600mM、700mM、800mM、900mMまたは1M)であり得る。
【0051】
本発明は、凍結、融解または貯蔵の間、マンニトール誘導性のタンパク質凝集を阻害するために、スクロースが種々の液体処方物に使用され得ることを発見した。この液体処方物は、任意の所定の濃度で可溶化したタンパク質を含み得る。例えば、この液体処方物は、約10mg/ml、約20mg/ml、約25mg/ml、約30mg/ml、約35mg/ml以下、約40mg/ml、約45mg/ml、約49mg/ml以下、約75mg/ml以下、約100mg/ml以下、約125mg/ml以下、約150mg/ml以下、約175mg/ml以下、約200mg/ml以下の濃度でタンパク質を含み得る。他の実施形態において、この液体処方物は、約10mg/ml以上、約20mg/ml以上、約25mg/ml以上、約30mg/ml以上、約35mg/ml以上、約40mg/ml以上、約45mg/ml以上、約49mg/ml以上、約75mg/ml以上、約100mg/ml以上、約125mg/ml以上、約150mg/ml以上、約175mg/ml以上、約200mg/ml以上の濃度でタンパク質を含み得る。
【0052】
スクロースは、先に記載されるかまたは当該分野で公知の任意のタンパク質を含む液体処方物に使用され得る。例えば、このタンパク質は、抗体であり得る。特に、この抗体は、モノクローナル抗体または一本鎖抗体または他の抗体改変体であり得る。このタンパク質はまた、成長ホルモンまたは薬学的薬物物質であり得る。このタンパク質は、天然に存在するポリペプチド、改変されたポリペプチドまたは合成されたポリペプチドであり得る。このタンパク質は、小型分子または大型分子であり得る。例えば、このタンパク質は、約25kDa以上、約50kDa以上、約75kDa以上、約100kDa以上、約125kDa以上、約150kDa以上、約175kDa以上、約200kDa以上、約225kDa以上、約250kDa以上、約275kDa以上または約300kDa以上の分子量を有し得る。このタンパク質は、モノマー、ダイマーまたはマルチマーであり得る。
【0053】
したがって、マンニトール含有液体処方物にスクロースを添加することによって、本発明は、顕著なタンパク質凝集を誘導せずに、この液体処方物をゆっくりと凍結および/または融解することを可能にする。マンニトールを含む液体処方物にスクロースを添加することによって、本発明はまた、タンパク質凝集を誘導することなく凍結状態で上記液体処方物の長期間の貯蔵を可能にする。本発明は、薬物物質を含む薬物製品を貯蔵することに特に有用である。例えば、本発明は、薬物物質を安定かつ生物学的に活性にしたまま、薬物製品中の全ての賦形剤が、ゆっくりとした凍結および/または融解プロセスの間に存在することを可能にする。したがって、本発明は、貯蔵の前に薬物処方物からマンニトールを除去し、薬物製品の増量操作の間にマンニトールを添加し戻す必要性を排除する。本発明はまた、薬物製品の増量操作の間にマンニトールを添加することを可能にするために、高濃度まで薬物物質を濃縮すべき必要性も防止する。
【0054】
したがって、タンパク質およびスクロースとマンニトールとの組み合わせを含む液体処方物は、後の使用のための形態で直接貯蔵され得るか、中間工程(intermediate step)として凍結状態で貯蔵され(例えば、0℃〜−80℃の範囲内の温度(例えば、0℃、−10℃、−20℃、−30℃、−40℃、−50℃、−60℃、−70℃または−80℃)で貯蔵される)、使用前に融解され得るか、または、使用前に液体形態または他の形態へ後に再構成するために凍結乾燥形態、空気乾燥形態もしくは噴霧乾燥形態のような乾燥形態に続いて調製され得る。加えて、便利さ、再構成なしでの投与の容易さ、および予め充填された、直ぐに使用できる注射器を供給するか、または処方物が静菌剤と適合性である場合、複数用量調製物として供給する能力を十分に利用する本出願にしたがって、生物学的に活性な量のタンパク質を含む組成物は、その液体形態で直接調製および貯蔵され得る。本出願はまた、先に記載されるように貯蔵および調製された液体処方物中に生物学的に活性な量のタンパク質を含む他の形態の組成物を提供する。
【0055】
上記の実施形態および以下の実施例は、例示によって提供されるのであって、限定ではないことが理解されるべきである。本発明の液体処方物は、一般的にタンパク質に適用可能である。例えば、実施例のセクションに記載される液体処方物に使用される抗体は、任意の抗体であり得る。本発明の範囲内の種々の変化および改変は、本発明の説明から当業者に明らかになる。
【実施例】
【0056】
(実施例1:マンニトールは、凍結および融解の間に、タンパク質凝集を誘発させる)
種々の濃度のモノクローナル抗体(この実験において、MAB−001と呼ぶ)、ならびに10mM ヒスチジン、10mM メチオニン、4% マンニトールおよび0.0005% ポリソルベート−80、pH6.0を含む処方物を、CryoPilot(CP)システム(Stedim Biosystems)を用いて、複数回凍結および融解した。各凍結および融解プロフィールには、−55℃への段階的冷却(step−down cooling)、および上記溶液を混合する間に32℃への加温を含めた。
【0057】
上記CPは、CryoVessel(Stedim Biosystems)、フルスケール生成ユニットの操作を模倣する。種々のプロセス容積のための上記CP設定点プロフィールは、CryoVesselの挙動を模倣するために、この研究より前に開発した。図1は、CPシステムを用いた各プロセススケールにおける生成物温度追跡のサンプルを例示する。凍結(または融解)速度は、熱電対が0℃から−42℃に達する(または0℃から−42℃)のを時間で割ったものとして定義される。
【0058】
融解サンプルを、最初にSEC−HPLCおよびCEX−HPLCによって分析して、高分子量種のレベル(%HMW)を評価し、酸性種および塩基性種のレベルを追跡した。変調型示差走査熱力測定法(mDSC)およびX線回折(XRD)も使用して、凍結溶液中のマンニトールの結晶度および同質異像を評価した。
【0059】
MAB−001は、上記のゆっくりとした凍結融解プロセスの間に、マンニトールの存在下で凝集することが分かった。図2は、凍結融解サイクルの間のMAB−001のHMW種の形成を示す。
【0060】
実施例2.スクロースはマンニトール誘導性のタンパク質凝集を抑制する
3つの異なるモノクローナル抗体(mAb1、mAb2およびmAb3と呼ばれる)を、10mM ヒスチジン、300mM マンニトール、pH6.0、または10mM ヒスチジン、300mM スクロース、pH6.0に透析した。2つの処方物を合わせて、300:0、225:75、150:150、75:225、40:260、0:300(マンニトール:スクロース)のような種々の比のマンニトール対スクロースを作製した。各処方物中のタンパク質濃度を、20mg/mlに正規化した。次に、これらの処方物を、先に記載されるような5サイクルの凍結融解に供し、SEC−HPLCによってHMW種の形成についてモニタリングした。例示的なSEC−HPLCクロマトグラムを、図3に示した。制御された速度での5サイクルの凍結融解の過程にわたるHMW種の形成の変化を、図4においてマンニトール対スクロースのモル比に対してプロットした。図4に示されるように、スクロースの存在は、凍結融解の間、液体処方物中のマンニトール誘導性のタンパク質凝集を顕著に抑制する。特に、図4に示されるように、1:3のスクロース:マンニトールのモル比でのスクロースの存在は、3つ全てのモノクローナル抗体処方物において凝集を排除するのに十分である。
【0061】
実施例3.スクロースは、長期間の凍結貯蔵の間のマンニトール誘導性のタンパク質凝集を抑制する
モノクローナル抗体を、10mM ヒスチジン、300mM マンニトール、pH6.0、または10mM ヒスチジン、300mM スクロース、pH6.0に透析した。2つの処方物を合わせて、300mM:0mM、200mM:100mM、100mM:200mM、50mM:250mM、0mM:300mM(マンニトール:スクロース)のような種々の比のマンニトール対スクロースを作製した。コントロール処方物は、10mM ヒスチジンを含むが、マンニトールもスクロースも含まない。各処方物中のタンパク質濃度を、20mg/mlに正規化した。
【0062】
長期間の凍結貯蔵の間のスクロースの効果を、以下のように評価した。コントロールおよび上記の種々の比のマンニトール対スクロースを含む処方物を、先ず−30℃に冷却し、次に−20℃で貯蔵した。処方物を、−30℃まで下げて凍結した後(T1)、次に−20℃での3ヶ月の貯蔵後(T3)および−20℃での7ヶ月の貯蔵後(T7)に、サンプルを採取し、SEC−HPLCによってHMW種の形成についてアッセイした。図5Aに示されるように、コントロール処方物中のHMWの形成は、−20℃での3ヶ月間の貯蔵後に増大し、このことは、安定剤を使用しないと、タンパク質が凍結貯蔵の間に凝集することを示す(図5Aにおけるコントロールを参照のこと)。300mM マンニトールを含むが、スクロースは含まない処方物は、−20℃での3ヶ月の貯蔵後のコントロールよりもHMWの形成に有意に大きな増大を示し、このことは、マンニトールがタンパク質凝集を誘導することを示す(図5Aにおける、300mM マンニトールを含むが、スクロースは含まない処方物を参照のこと)。スクロースを含む処方物中のHMWの形成は、凍結貯蔵の間、大いに低減された(図5A)。例えば、図5Aに示されるように、50mM スクロースは、長期間の凍結貯蔵の間、マンニトール誘導性のタンパク質凝集を抑制するのに十分であった。このことは、低濃度であっても、スクロースがマンニトール誘導性のタンパク質凝集を阻害することを示す。さらに、それぞれ50mM、100mM、200mMおよび300mMの濃度でスクロースを含む処方物が、長期間の貯蔵の後で−20℃で安定であった(図5A)。図5Bに示されるように、LMWの形成は、長期間の凍結貯蔵後に、コントロールとスクロース有りまたは無しでの処方物との間で同等であった。
【0063】
等価物
上記は、本発明の特定の非限定的な実施形態の説明である。当業者は、本明細書に記載された本発明の特定の実施形態に対する多くの等価物を認識するか、または慣例的であることを超えない実験を使用して確認することができる。当業者は、この説明に対する種々の変更および改変が、以下の特許請求の範囲において規定される本発明の精神または範囲から逸脱せずになされ得ることを認識する。
【0064】
特許請求の範囲において、「a」、「an」および「the」のような冠詞は、反対であることが示されているか、または他に文脈から明らかではない限り、1つまたは1つより多いことを意味し得る。グループの1つ以上のメンバーの間に「または(or)」を含む特許請求の範囲または説明は、1つ、1つより多いまたはグループのメンバーの全てが、反対であることが示されているか、または他に文脈から明らかではない限り、所定の生成物またはプロセスに存在するか、それらに使用されるか、またはその他の方法でそれらに関与する場合に満足されるとみなされる。本発明は、グループの厳密に1つのメンバーが、所定の生成物またはプロセスに存在するか、それらに使用されるか、またはその他の方法でそれらに関与する実施形態を含む。本発明はまた、1つより多い、または全てのグループのメンバーが、所定の生成物またはプロセスに存在するか、それらに使用されるか、またはその他の方法でそれらに関与する実施形態を含む。さらに、本発明が、1つ以上の請求項または説明の関連する部分に由来する1つ以上の限定、構成要素、条項、記述用語などが、別の請求項に導入される全ての改変、組み合わせおよび並び替えを包含することが理解される。例えば、別の請求項に従属する任意の請求項が、同一の基礎とする請求項に従属する任意の他の請求項に見出される1つ以上の限定を含むように改変され得る。さらに、特許請求の範囲が組成物を言及する場合、その他のものが示されず、矛盾または不一致が生じることが当業者に明らかではない限り、本明細書に開示される任意の目的のためにこの組成物を使用する方法が包含され、本明細書に開示される任意の作製方法または当該分野において公知の他の方法にしたがってこの組成物を作製する方法が包含されることが理解される。さらに、本発明は、本明細書に開示される組成物を調製するための任意の方法にしたがって作製された組成物を包含する。
【0065】
構成要素が、リスト(例えば、マーカッシュグループ様式で)として提示される場合、構成要素の各部分グループ(subgroup)もまた開示され、任意の構成要素がグループから除去され得ることが理解される。用語「含む(comprising)」が、開放(open)であることが意図され、かつ追加の構成要素または工程の包含を許容することも注意される。一般的に、本発明または本発明の局面が特定の構成要素、特徴、工程などを含むといわれる場合、本発明の特定の実施形態または本発明の局面が、このような構成要素、特徴、工程などから構成されるか、または本質的にそれらから構成されることが理解されるべきである。単純さの目的のために、これらの実施形態は、本明細書においてこの語で(in haec verba)具体的に示されていない。したがって、1つ以上の構成要素、特徴、工程などを含む本発明の各実施形態に関して、本発明は、これらの構成要素、特徴、工程などから構成されるか、または本質的にそれらから構成される実施形態も提供する。
【0066】
範囲が示される場合、終点が包含される。さらに、その他のものが示されないか、または文脈および/または当業者の理解からその他のものが明らかではない限り、範囲として表現される値は、文脈が明らかにその他のものを指さない限り、本発明の種々の実施形態において言及された範囲内の、範囲の下限の単位の10分の1(the tenth of the unit of the lower limit of the range)までの、任意の具体的な値であるとみなされ得ることが理解される。その他のものが示されないか、または文脈および/または当業者の理解からその他のものが明らかではない限り、範囲として表現される値は、所定の範囲内の任意の部分範囲(subrange)とみなされ得ることも理解される(ここで、部分範囲の終点は、範囲の下限の単位の10分の1と同程度の精度まで表現される)。
【0067】
加えて、本発明の任意の特定の実施形態が、任意の1つ以上の請求項から明確に排除され得ることが理解される。本発明の組成物および/または方法の任意の実施形態、構成要素、特徴、適用または局面は、任意の1つ以上の請求項から排除され得る。簡潔さの目的のために、1つ以上の構成要素、特徴、目的または局面が排除された全ての実施形態は、本明細書に明確には示されない。
【0068】
(援用の表示)
本願で引用されるすべての刊行物および特許文献は、各個々の刊行物または特許文献の内容が本明細書に参考として援用されるかのように同程度まで、すべての目的で、それら全体が本明細書に参考として援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凍結融解の間、液体処方物中のマンニトール誘導性のタンパク質凝集を抑制するための方法であって、該方法は、タンパク質を含む液体処方物にスクロースを提供する工程を包含し、ここで、該液体処方物中の該タンパク質の濃度は、は、凍結融解の間、重量/重量に基いて本質的に一定である、方法。
【請求項2】
前記液体処方物が、スクロースとマンニトールとの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記マンニトールが、約1M以下の濃度であり、前記スクロースが、約5M以下の濃度である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記マンニトールが、約300mM以下の濃度であり、前記スクロースが、約300mM以下の濃度である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
マンニトールとスクロースとの合わせた濃度が、約300mMである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記マンニトールとスクロースとが、約3:1(マンニトール:スクロース)以下のモル比である、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記マンニトールとスクロースとが、約5:1(マンニトール:スクロース)以下のモル比である、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
液体処方物を加工するための方法であって、該方法は、液体処方物を−0℃未満の温度まで徐々に冷却する工程を包含し、該液体処方物は、タンパク質およびマンニトールとスクロースとの組み合わせを含み、スクロースの存在が、冷却の間のマンニトール誘導性のタンパク質凝集を抑制し、重量/重量に基づく該液体処方物中の該タンパク質の濃度は、冷却の間一定である、方法。
【請求項9】
前記マンニトールが、約1M以下の濃度であり、前記スクロースが、約5M以下の濃度である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記マンニトールが、約300mM以下の濃度であり、前記スクロースが、約300mM以下の濃度である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
マンニトールとスクロースとの合わせた濃度が、約300mMである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記マンニトールとスクロースとが、約3:1(マンニトール:スクロース)以下のモル比である、請求項8、9、10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記マンニトールとスクロースとが、約5:1(マンニトール:スクロース)以下のモル比である、請求項8、9、10または11に記載の方法。
【請求項14】
前記温度が−10℃未満である、請求項8〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記温度が−20℃未満である、請求項8〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記温度が−50℃未満である、請求項8〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記冷却する工程が、約0.5℃/分の速度である、請求項8〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記冷却する工程が、約0.3℃/分の速度である、請求項8〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記冷却する工程が、約0.1℃/分の速度である、請求項8〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記タンパク質が抗体である、請求項8〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記タンパク質が薬学的薬物物質である、請求項8〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
処理手段である、請求項8〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記液体処方物を0℃未満の温度で、ある期間にわたって維持する工程をさらに包含する、請求項8〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記期間が6ヶ月以上である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
液体処方物を調製するための方法であって、該方法は、液体処方物を、凍結状態から0℃よりも高い温度まで徐々に加温する工程を包含し、該液体処方物は、タンパク質およびマンニトールとスクロースとの組み合わせを含み、スクロースの存在は、加温の間のマンニトール誘導性のタンパク質凝集を抑制する、方法。
【請求項27】
前記マンニトールが、約1M以下の濃度であり、前記スクロースが、約5M以下の濃度である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記マンニトールが、約300mM以下の濃度であり、前記スクロースが、約300mM以下の濃度である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
請マンニトールとスクロースとの合わせた濃度が、約300mMである、求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記マンニトールとスクロースとが、約3:1(マンニトール:スクロース)以下のモル比である、請求項26、27、28または29に記載の方法。
【請求項31】
前記マンニトールとスクロースとが、約5:1(マンニトール:スクロース)以下のモル比である、請求項26、27、28または29に記載の方法。
【請求項32】
前記温度が、20℃よりも高い、請求項26〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記温度が、30℃よりも高い、請求項26〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記加温する工程が、約0.5℃/分の速度である、請求項26〜33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記加温する工程が、約0.3℃/分の速度である、請求項26〜33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記加温する工程が、約0.1℃/分の速度である、請求項26〜33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記タンパク質が抗体である、請求項26〜36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記タンパク質が薬学的薬物物質である、請求項26〜36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
処理手段である、請求項26〜33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
請求項26に記載の方法によって調製された液体処方物中に生物学的な有効量のタンパク質を含む組成物。
【請求項42】
液体処方物を加工するための方法であって、該方法は:
(1)タンパク質およびマンニトールとスクロースとの組み合わせを含む液体処方物を提供する工程;
(2)該液体処方物を徐々に凍結させる工程;
(3)該液体処方物を徐々に融解させる工程;を包含し、
ここで、スクロースの存在は、マンニトール誘導性のタンパク質凝集を抑制する、方法。
【請求項43】
前記液体処方物を凍結状態で、工程(2)に続いて、ある期間にわたって維持する工程をさらに包含する、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記期間が6ヶ月以上である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記液体処方物において、前記マンニトールが、約1M以下の濃度であり、前記スクロースが、約5M以下の濃度である、請求項42、43または44に記載の方法。
【請求項46】
前記液体処方物において、前記マンニトールが、約300mM以下の濃度であり、前記スクロースが、約300mM以下の濃度である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記液体処方物において、マンニトールとスクロースとの合わせた濃度が、約300mMである、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記マンニトールとスクロースとが、約3:1(マンニトール:スクロース)以下のモル比である、請求項42〜47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記マンニトールとスクロースとが、約5:1(マンニトール:スクロース)以下のモル比である、請求項42〜47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記タンパク質が抗体である、請求項42〜49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記タンパク質が薬学的薬物物質である、請求項42〜47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
生物学的な有効量のタンパク質を含む組成物であって、該組成物は、請求項42〜52のいずれか一項に記載の方法によって加工された液体処方物である、組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【公表番号】特表2010−519220(P2010−519220A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−550111(P2009−550111)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/054115
【国際公開番号】WO2008/101179
【国際公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(591011502)ワイス エルエルシー (573)
【Fターム(参考)】