説明

マーキング方法および保護膜形成兼ダイシング用シート

【課題】
ワークに形成された保護膜にマーキングを行うプロセスにおいて、ワークの反りを抑制することで保護膜に精度良くマーキングを行うマーキング方法、ならびにそのような方法に好適に用いられる保護膜形成兼ダイシング用シートを提供すること。
【解決手段】
リングフレームに張設された支持フィルムと、該支持フィルム上に剥離可能に積層された保護膜と、該保護膜に固着されたワークとからなる積層状態において、
該支持フィルム側からレーザー光照射によって該保護膜にマーキングするマーキング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークに保護膜を形成し、該保護膜にマーキングをする方法、およびそのような方法に好適に用いられる保護膜形成兼ダイシング用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、いわゆるフェースダウン(face down)方式と呼ばれる実装法を用いた半導体装置
の製造が行われている。フェースダウン方式では、チップの回路面側に導通を確保するためのバンプと呼ばれる凸部が形成されてなるチップを用い、回路面側の凸部が基台に接続する構造となる。
【0003】
このような半導体装置は、一般的には次のような工程を経て製造されている。
(1)ウエハの表面にエッチング法等により回路を形成し、回路面の所定位置にバンプを形成する。
(2)ウエハ裏面を所定の厚さまで研削する。
(3)リングフレームに張設されたダイシングシートにウエハ裏面を固定し、ダイシングソーにより各回路毎に切断分離し、半導体チップを得る。
(4)半導体チップをピックアップし、フェースダウン方式で所定の基台上に実装し、必要に応じチップを保護するために樹脂封止またはチップ裏面に樹脂コーティングを施し、半導体装置を得る。
【0004】
樹脂封止は、適量の樹脂をチップ上に滴下・硬化するポッティング(potting)法や、金
型を用いたモールド法などにより行われる。しかし、ポッティング法では適量の樹脂を滴下することが難しい。またモールド法では金型の洗浄等が必要になり、設備費、運転費が高価になる。樹脂コーティングは、適量の樹脂を均一に塗布することが難しいため、品質にばらつきがでることがある。したがって、均一性の高い保護膜を、チップ裏面に簡便に形成できる技術の開発が要望されていた。
【0005】
また、上記(2)工程の裏面研削では、機械研削によってチップ裏面に微小な筋状の傷が形成される。この微小な傷は、(3)のダイシング工程やパッケージングの後に、クラック発生の原因となることがある。このため、従来は、機械研削後に、微小な傷を除くためのケミカルエッチングが必要になる場合があった。しかし、ケミカルエッチングには、もとより設備費、運転費が必要になり、コスト増の原因となる。したがって、機械研削によってチップ裏面に微小な傷が形成されたとしても、かかる傷に起因する悪影響を解消する技術の開発が要望されていた。
【0006】
このような要望に応える技術として、本出願人等により「剥離シートと、該剥離シートの剥離面上に形成された、熱硬化性成分および/またはエネルギー線硬化性成分とバインダーポリマー成分とからなる保護膜形成層とを有するチップ用保護膜形成用シート」が開示された(特許文献1参照)。特許文献2には、上記特許文献1の発明において、保護膜形成層の硬化により形成される保護膜と被着体であるウエハ(チップ)との接着性を向上させるため、保護膜形成層上に硬化性接着剤層を設けることが開示されている。
【0007】
上記のチップ用保護膜形成用シートを用いたプロセスでは、ウエハ上にチップ用保護膜形成用シートを貼付し、剥離シートをはがすことでウエハ上に保護膜形成層が形成される。次にウエハ上の保護膜形成層は加熱などにより硬化され保護膜となり、この保護膜上に品番等がマーキングされる。その後、保護膜を有するウエハはダイシングシートに固定され、ダイシングおよびピックアップが行われる。なお、マーキングの方法としては通常、
レーザー光照射によって保護膜の表面を削り取るレーザーマーキング法が用いられる。
【特許文献1】特開2002−280329
【特許文献2】特開2004−214288
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記プロセスにおいて、チップ用保護膜形成用シートをウエハに貼付する際にシートにかかる張力が貼付後に残留し、それによりウエハに反りが発生することがあった。また、保護膜の硬化の際に保護膜が収縮することでウエハに反りが発生することがあった。また、用いられるウエハ自体に元々反りがみられることもあった。
【0009】
上記プロセスにおいては、このような反りがあるウエハはマーキングを行う際にレーザー光の焦点が定まらず、そのため精度良くマーキングを行うことができなかった。
本発明は上記のような従来技術に鑑みてなされたものであって、ウエハなどのワークに形成された保護膜にマーキングを行うプロセスにおいて、ワークの反りを抑制することで保護膜に精度良くマーキングを行うマーキング方法、ならびにそのような方法に好適に用いられる保護膜形成兼ダイシング用シートを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決する本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] リングフレームに張設された支持フィルムと、該支持フィルム上に剥離可能に積層された保護膜と、該保護膜に固着されたワークとからなる積層状態において、
該支持フィルム側からレーザー光照射によって該保護膜にマーキングするマーキング方法。
[2] リングフレームに張設された支持フィルムと、該支持フィルム上に剥離可能に積層された保護膜形成層と、該保護膜形成層に貼着されたワークとからなる積層状態において、
該保護膜形成層を硬化し、保護膜を形成すると同時に保護膜とワークとの固着を行い、該支持フィルム側からレーザー光照射によって該保護膜にマーキングするマーキング方法。
[3] 前記保護膜形成層の硬化を加熱することによって行う[2]に記載のマーキング方法。
[4] 支持フィルム上面と保護膜下面との間の距離が50μm以下の状態でマーキングを行う[1]〜[3]のいずれかに記載のマーキング方法。
[5] 支持フィルム上に保護膜が直接または粘着剤層のみを介して固定されている状態でマーキングを行う[1]〜[4]のいずれかに記載のマーキング方法。
[6] 保護膜形成層からなる略円形の領域と、前記領域を取り囲む再剥離粘着材からなる環状の領域と、を上面に有するシートからなる保護膜形成兼ダイシング用シート。
[7] 支持フィルムと、該支持フィルム上の中央部に形成された略円形の保護膜形成層と、該支持フィルム上の周辺部に形成された環状の再剥離粘着材と、からなる[6]に記載の保護膜形成兼ダイシング用シート。
[8] 支持フィルムと、該支持フィルム上に形成された再剥離粘着材と、該再剥離粘着材上の中央部に形成された略円形の保護膜形成層と、からなる[6]に記載の保護膜形成兼ダイシング用シート。
[9] 支持フィルムと、該支持フィルム上に形成された保護膜形成層と、該保護膜形成層上の周辺部に形成された環状の再剥離粘着材と、からなる[6]に記載の保護膜形成兼ダイシング用シート。
[10] 保護膜形成層が熱硬化性成分とバインダーポリマー成分とからなる[6]〜[9]のいずれかに記載の保護膜形成兼ダイシング用シート。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ワークに形成された保護膜にマーキングするプロセスにおいて、ワークの反りを抑制することで保護膜に精度良くマーキングを行うマーキング方法、ならびにそのような方法に好適に用いられる保護膜形成兼ダイシング用シートが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明における「ワーク」は、特に限定されないが、たとえば表面に回路が形成された半導体ウエハなどが好適である。半導体ウエハの場合、保護膜はウエハの裏面に形成され、この保護膜に製品番号等のマーキングが行われる。
【0013】
本発明のマーキング方法は「リングフレームに張設された支持フィルムと、該支持フィルム上に剥離可能に積層された保護膜と、該保護膜に固着されたワークとからなる積層状態」で行われる。このような状態に至る方法は特に限定されず、任意の方法によることができるが、具体的には次に示す2つの方法が挙げられる。
【0014】
第1の方法は、支持フィルムと該支持フィルム上に形成された保護膜形成層とを有するシートの保護膜形成層をワークに貼付し、該支持フィルムの外周をリングフレームに固定し、保護膜形成層を硬化させて保護膜とすると同時に保護膜をワークに固着する方法である。この方法に用いられるシートとしては特に限定されないが、本発明の保護膜形成兼ダイシング用シートが好適である。
【0015】
第2の方法は、ワークの片面に保護膜形成層を貼付し、該保護膜形成層に支持フィルムを貼付し、該支持フィルムの外周をリングフレームに固定し、保護膜形成層を硬化させて保護膜とすると同時に保護膜をワークに固着する方法である。この方法において、保護膜形成層をワークの片面に設けるためには、前記した特許文献1に記載の保護膜形成用シートを、また支持フィルムとしては汎用のダイシングシートを用いることができる。
【0016】
第1の方法では用意するシートは保護膜形成兼ダイシング用シートのみでよく、貼付工程としてはワークに保護膜形成兼ダイシング用シートを貼付する工程だけ行えばよい。一方、第2の方法では保護膜形成用シートとダイシングシートとをそれぞれ別々に用意する必要があり、また、ワークに保護膜形成層を貼付する工程と該保護膜形成層に支持フィルムを貼付する工程という2つの貼付工程を別々に行う必要がある。したがって、必要なシート数と工程数が少なくて済む第1の方法がより好ましい。
【0017】
上記第1の方法で好適に用いられる本発明の保護膜形成兼ダイシング用シートは「保護膜形成層からなる略円形の領域と、前記領域を取り囲む再剥離粘着材からなる環状の領域と、を上面に有するシートからなる保護膜形成兼ダイシング用シート」である。
【0018】
保護膜形成層からなる略円形の領域の具体的な形状は、適用するワークの面の形状にあったものであればよく、たとえば円形等とする。当該領域の大きさとしては、適用するワークの面を覆うことができればよく、たとえばワークの面と同サイズもしくは一回り大きいサイズとする。保護膜形成層は、加熱や光照射などの所定の処理を施すことで硬化し、ワークに強固に固着すると同時にワークを保護する保護膜となる。
【0019】
再剥離粘着材からなる環状の領域は、リングフレームに貼付しシート全体を固定するための部位である。当該環状の領域の形状・大きさは、リングフレームと完全に同一である必要はなく、リングフレームに対して十分な接合力が得られる形状・大きさであればよい。また、ここでいう環状とは円環のみを示しているのではなく、楕円環、多角環などリング状の形状を全て含む。また、環は完全につながっていなくてもよい。すなわち、1以上の不連続な部分を有していてもよく、たとえばC字型などでもよい。このような保護膜形
成兼ダイシング用シートのより具体的な態様を図1〜3に示す。
【0020】
図1に示した保護膜形成兼ダイシング用シート11は、支持フィルム1と、支持フィルム1上の中央部に形成された略円形の保護膜形成層2と、支持フィルム1上の周辺部に形成された環状の再剥離粘着材3と、からなる。
【0021】
図2に示した保護膜形成兼ダイシング用シート12は、支持フィルム1と、支持フィルム1上に形成された再剥離粘着材3と、再剥離粘着材3上の中央部に形成された略円形の保護膜形成層2と、からなる。
【0022】
図3に示した保護膜形成兼ダイシング用シート13は、支持フィルム1と、支持フィルム1上に形成された保護膜形成層2と、保護膜形成層2上の周辺部に形成された環状の再剥離粘着材3と、からなる。
【0023】
図1〜3から分かるように、保護膜形成兼ダイシング用シート11〜13はいずれも、保護膜形成層からなる略円形の領域Aと、領域Aを取り囲む再剥離粘着材からなる環状の領域Bと、を上面に有している。それぞれの領域の形状・大きさについては、前記した条件を満たしていればよい。
【0024】
支持フィルム1としては、保護膜にレーザーマーキングによる印字が可能となるように、使用するレーザーの波長に透過性であるものが使用される。たとえば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニルフィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、液晶ポリマーフィルム等が用いられる。またこれらの架橋フィルム、放射線・放電等による改質フィルムも用いられる。またこれらの積層フィルムであってもよい。
【0025】
さらに、耐熱性を考慮すると支持フィルム1としては、中でも高融点のものが好ましい。具体的には、融点は150℃以上が好ましく、200℃以上がさらに好ましい。融点が150℃未満であると、保護膜形成層2を加熱硬化させる場合において、支持フィルム1が溶融し形状を保てなくなったり、周辺の装置と融着してしまうことがある。具体的には、たとえばポリメチルペンテンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、液晶ポリマーフィルムが好ましく用いられる。また、保護膜形成層2の硬化をエネルギー線照射で行う場合には、支持フィルム1はエネルギー線透過性である必要がある。
【0026】
図1あるいは図3に示した態様では、支持フィルム1上面の表面張力は、23℃において好ましくは40mN/m以下、さらに好ましくは37mN/m以下、特に好ましくは35mN/m以下であることが望ましい。支持フィルム1の表面張力が上記範囲にあると、保護膜形成層2の硬化により形成される保護膜と、支持フィルム1とが剥離可能となり、保護膜のワークへの転写が円滑に行われる。一方、支持フィルム1の表面張力が40mN/m以上であると保護膜を支持フィルム1から剥離する際、ジッピングの問題が発生する可能性がある。このような表面張力の低い上面を有する支持フィルム1は、材質を適宜に選択して得ることが可能であるし、また支持フィルム1の上面にシリコーン処理、アルキド処理、フッ素処理等の離型処理を施すことで得ることもできる。
【0027】
また、図2に示した態様では、支持フィルム1の上面にコロナ処理等の処理を施した後
、再剥離粘着材3を設け、支持フィルム1と再剥離粘着材3との接合力を高めておくことが好ましい。保護膜形成層2の硬化により形成される保護膜は、支持フィルム1上に再剥離粘着材3を介して剥離可能に積層された状態にある。すなわち保護膜が固着したワークを剥離すると、保護膜と再剥離粘着材3との界面で剥離し、保護膜はワークへ転写される。
【0028】
支持フィルム1の厚さは30〜300μmが好ましく、50〜200μmがより好ましく、75〜150μmがさらに好ましい。厚さが30μm以下となるとダイシング時にフィルムに切り込まれた切れ目からフィルムが裂けてしまう危険がある。支持フィルム1の厚みが300μm以上であると、経済的に無駄である他、厚みムラが大きくなりレーザーマーキングの焦点が合わせにくくなる。
【0029】
保護膜形成層2は、硬化性成分とバインダーポリマー成分とからなる。硬化性成分としては、熱硬化性成分、エネルギー線硬化性成分、またはこれらの混合物を用いることができるが、保護膜形成層2の硬化後の耐熱性を考慮すると熱硬化性成分を用いることが特に好ましい。
【0030】
熱硬化性成分としては、たとえばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂等およびこれらの混合物が挙げられる。特に本発明では、エポキシ樹脂、フェノール樹脂ならびにこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0031】
エポキシ樹脂は、加熱を受けると三次元網状化し、強固な被膜を形成する性質を有する。このようなエポキシ樹脂としては、従来より公知の種々のエポキシ樹脂が用いられるが、通常は、分子量300〜2000程度のものが好ましく、特に分子量300〜500、好ましくは330〜400の常態で液状のエポキシ樹脂と、分子量400〜2500、好ましくは500〜2000の常温で固体のエポキシ樹脂とをブレンドした形で用いるのが望ましい。また、本発明において好ましく使用されるエポキシ樹脂のエポキシ当量は通常50〜5000g/eqである。このようなエポキシ樹脂としては、具体的には、ビスフェノールA、ビスフェノールF、レゾルシノール、フェニルノボラック、クレゾールノボラックなどのフェノール類のグリシジルエーテル;ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルコール類のグリシジルエーテル;フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸などのカルボン酸のグリシジルエーテル;アニリンイソシアヌレートなどの窒素原子に結合した活性水素をグリシジル基で置換したグリシジル型もしくはアルキルグリシジル型のエポキシ樹脂;ビニルシクロヘキサンジエポキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-ジシクロヘキサンカルボキシレート、2-(3,4-エポキシ)シクロヘキシル-5,5-スピロ(3,4-エポキシ)シクロヘキサン-m-ジオキサンなどのよ
うに、分子内の炭素−炭素二重結合をたとえば酸化することによりエポキシが導入された、いわゆる脂環型エポキシドを挙げることができる。その他、ビフェニル骨格、ジシクロヘキサジエン骨格、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂を用いることができる。
【0032】
これらの中でも、本発明では、ビスフェノール系グリシジル型エポキシ樹脂、o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂およびフェノールノボラック型エポキシ樹脂が好ましく用いられる。これらエポキシ樹脂は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。エポキシ樹脂を用いる場合には、助剤として、熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤を併用することが好ましい。
【0033】
熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤とは、室温ではエポキシ樹脂と反応せず、ある温度以上の加熱により活性化し、エポキシ樹脂と反応するタイプの硬化剤である。熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤の活性化方法には、加熱による化学反応で活性種(アニオン、カ
チオン)を生成する方法;室温付近ではエポキシ樹脂中に安定に分散しており高温でエポキシ樹脂と相溶・溶解し、硬化反応を開始する方法;モレキュラーシーブ封入タイプの硬化剤で高温で溶出して硬化反応を開始する方法;マイクロカプセルによる方法等が存在する。
【0034】
本発明において使用される熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤の具体例としては各種オニウム塩や、二塩基酸ジヒドラジド化合物、ジシアンジアミド、アミンアダクト硬化剤、イミダゾール化合物等の高融点活性水素化合物等を挙げることができる。これら熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。上記のような熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤は、エポキシ樹脂100重量部に対して、好ましくは0.1〜20重量部、さらに好ましくは0.2〜10重量部、特に好ましくは0.3〜5重量部の割合で用いられる。
【0035】
フェノール系樹脂としては、アルキルフェノール、多価フェノール、ナフトール等のフェノール類とアルデヒド類との縮合物等が特に制限されることなく用いられる。本発明において好ましく使用されるフェノール系樹脂としては、具体的には、フェノールノボラック樹脂、o-クレゾールノボラック樹脂、p-クレゾールノボラック樹脂、t-ブチルフェノールノボラック樹脂、ジシクロペンタジエンクレゾール樹脂、ポリパラビニルフェノール樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂、あるいはこれらの変性物等が用いられる。
【0036】
これらのフェノール系樹脂に含まれるフェノール性水酸基は、前記エポキシ樹脂のエポキシ基と加熱により容易に付加反応して、耐衝撃性の高い硬化物を形成できる。このため、エポキシ樹脂とフェノール系樹脂とを併用してもよい。
【0037】
エネルギー線硬化性成分は、紫外線、電子線等のエネルギー線の照射を受けると重合硬化する化合物からなる。この化合物は、分子内に少なくとも1つの重合性二重結合を有し、通常は、分子量が100〜30000、好ましくは300〜10000程度である。このようなエネルギー線重合型化合物としては、具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートあるいは1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、オリゴエステルアクリレート、さらにポリエステル型またはポリエーテル型のウレタンアクリレートオリゴマーやポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、エポキシ変性アクリレート等を用いることができる。これらの中でも本発明では、紫外線硬化型樹脂が好ましく用いられ、具体的には、オリゴエステルアクリレート、ウレタンアクリレートオリゴマー等が特に好ましく用いられる。
【0038】
エネルギー線硬化性成分に光重合開始剤を混入することにより、重合硬化時間ならびに光線照射量を少なくすることができる。このような光重合開始剤としては、具体的には、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール、2,4-ジエチルチオキサンソン、α-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルジフェニ
ルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンジル、ジベンジル、ジアセチル、β−クロールアンスラキノンなどが挙げられる。光重合開始剤は、前記エネルギー線硬化性成分100重量部に対し、1.5〜4.5重量部、好ましくは2.4〜3.8重量部程度の割合で用いることが望ましい。
【0039】
バインダーポリマー成分は、保護膜形成層2に適度なタックを与え、シートの操作性を
向上するために用いられる。バインダーポリマーの重量平均分子量は、通常は5万〜200万、好ましくは10万〜150万、特に好ましくは20万〜100万の範囲にある。分子量が低過ぎるとシート形成が不十分となり、高過ぎると他の成分との相溶性が悪くなり、結果として均一なシート形成が妨げられる。このようなバインダーポリマーとしては、たとえばアクリル系ポリマー、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ゴム系ポリマー等が用いられ、特にアクリル系ポリマーが好ましく用いられる。
【0040】
アクリル系ポリマーとしては、たとえば、(メタ)アクリル酸エステルモノマーおよび(メタ)アクリル酸誘導体から導かれる構成単位とからなる(メタ)アクリル酸エステル共重合体が挙げられる。ここで(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、好ましくはアルキル基の炭素数が1〜18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、たとえば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル等が用いられる。また、(メタ)アクリル酸誘導体としては、たとえば(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等を挙げることができる。
【0041】
メタクリル酸グリシジル等を構成単位として用いることでアクリル系ポリマーにグリシジル基を導入すると、前述した熱硬化性成分としてのエポキシ樹脂との相溶性が向上し、保護膜形成層の硬化後のガラス転移温度(Tg)が高くなり耐熱性が向上する。また、アクリル酸ヒドロキシエチル等を構成単位として用いてアクリル系ポリマーに水酸基を導入することで、ワークへの密着性や粘着物性をコントロールすることができる。
【0042】
バインダーポリマーとしてアクリル系ポリマーを使用した場合における当該ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは10万以上であり、特に好ましくは15万〜100万である。アクリル系ポリマーのガラス転移温度は通常20℃以下、好ましくは−70〜0℃程度であり、常温(23℃)においては粘着性を有する。
【0043】
硬化性成分として熱硬化性成分のみを保護膜形成層2に配合する場合、その配合の比率は、バインダーポリマー成分100重量部に対して、好ましくは50〜1500重量部、さらに好ましくは70〜1000重量部、特に好ましくは80〜800重量部である。
【0044】
硬化性成分としてエネルギー線硬化性成分のみを保護膜形成層2に配合する場合、その配合比率は、バインダーポリマー成分100重量部に対して、好ましくは5〜500重量部、さらに好ましくは10〜200重量部、特に好ましくは20〜150重量部である。
【0045】
硬化性成分として熱硬化性成分とエネルギー線硬化性成分の両方を保護膜形成層2に配合する場合、熱硬化性成分およびエネルギー線硬化性成分は合計で、バインダーポリマー成分100重量部に対して、好ましくは50〜1500重量部、さらに好ましくは70〜1000重量部、特に好ましくは80〜800重量部の割合で用いられる。またこの場合、熱硬化性成分とエネルギー線硬化性成分との重量比(熱硬化性成分/エネルギー線硬化性成分)が、好ましくは55/45〜97/3、さらに好ましくは60/40〜95/5、特に好ましくは70/30〜90/10であることが望ましい。
【0046】
このような割合で、熱硬化性成分および/またはエネルギー線硬化性成分とバインダーポリマー成分とを配合すると、硬化前には適度なタックを示し、貼付作業を安定して行え、また硬化後には、被膜強度に優れた保護膜が得られる。
【0047】
また、保護膜形成層2は、フィラーが配合されていてもよい。フィラーとしては、結晶シリカ、溶融シリカ、合成シリカ等のシリカや、アルミナ、ガラスバルーン等の無機フィラーがあげられる。保護膜形成層2に無機フィラーを添加することにより、硬化後の層の
熱膨張係数をウエハの熱膨張係数に近づけることができ、これによって加工途中のウエハの反りを低減することができるようになる。フィラーとしては合成シリカが好ましく、特に半導体装置の誤作動の要因となるα線の線源を極力除去したタイプの合成シリカが最適である。フィラーの形状としては、球形、針状、無定型タイプのものいずれも使用可能であるが、特に最密充填の可能な球形のフィラーが好ましい。
【0048】
また、保護膜形成層2に添加するフィラーとしては、上述した無機フィラーの他にも、下記のような機能性のフィラーが配合されていてもよい。たとえば、ダイボンド後の導電性の付与を目的として、金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、ステンレス、カーボン、またはセラミック、あるいはニッケル、アルミニウム等を銀で被覆したもののような導電性フィラーを添加してもよく、また熱伝導性の付与を目的として、金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、ステンレス、シリコン、ゲルマニウム等の金属材料やそれらの合金等の熱伝導性物質を添加してもよい。
【0049】
さらに、保護膜形成層2に添加するフィラーとしては、硬化後における保護膜とワークとの接着性・密着性を向上させる目的で、カップリング剤を添加することもできる。カップリング剤は、保護膜の耐熱性を損なわずに、接着性、密着性を向上させることができ、さらに耐水性(耐湿熱性)も向上する。カップリング剤としては、その汎用性とコストメリットなどからシラン系(シランカップリング剤)が好ましい。
【0050】
保護膜形成層2に配合されるフィラーの添加量は、フィラーの種類により様々であるが、一般的には保護膜形成層2を形成する全成分の40〜90重量%、好ましくは50〜85重量%程度が適当である。保護膜形成層2中のフィラーをこのような配合比とすることで、硬化被膜(保護膜)の弾性率(23℃)、グロス、全光線透過率を調整することができる。フィラーを増量することで、硬化被膜の弾性率(23℃)を増加させることができ、ワークに対する保護機能が付与される。一方グロスや全光線透過率は減少して、保護膜表面にレーザーによって削成されたマークの認識性も向上するようになる。また、硬化後の保護膜の熱膨張係数をウエハの熱膨張係数に近づけることができる。これによって加工途中において熱膨張係数の違いにより発生するウエハの反りを低減することができるようになる。ウエハに反りが発生すると破損しやすく、また搬送が困難となる。
【0051】
また顔料や染料を添加することによって硬化被膜の弾性率をある程度制御することも可能であるが、顔料、染料は主として硬化被膜(保護膜)表面に形成される印字の認識性を向上させるために添加される。このような顔料としては、カーボンブラックや、各種の無機顔料が例示できる。またアゾ系、インダスレン系、インドフェノール系、フタロシアニン系、インジゴイド系、ニトロソ系、ザンセン系、オキシケトン系などの各種有機顔料があげられる。
【0052】
顔料、染料の添加量もその種類により様々であるが、一般的には保護膜形成層2を形成する全成分の0.1〜20重量%、好ましくは0.2〜15重量%程度が適当である。
また、保護膜形成層2には、硬化前の凝集力を調節するために、有機多価イソシアナート化合物、有機多価イミン化合物、有機金属キレート化合物等の架橋剤を添加することもできる。
【0053】
また、保護膜形成層2は、着色されていてもよい。保護膜形成層2の着色は、たとえば、顔料、染料等を配合することで行われる。保護膜形成層2を着色しておくと、外観の向上が図られる。
【0054】
さらに保護膜形成層2に帯電防止剤を添加することもできる。帯電防止剤を添加することにより、静電気を抑制できるため、チップの信頼性が向上する。また、リン酸化合物、
ブロム化合物、リン系化合物等を加え難燃性能を付加することでパッケージとしての信頼性が向上する。
【0055】
保護膜形成層2が前述したフィラー、顔料、染料を含む場合には、硬化被膜(保護膜)にレーザーマーキング等によって鮮明な印字を形成できる。すなわち、これらの場合には、印字部と非印字部との間で充分なコントラスト差が得られることになり、印字の認識性が向上される。
【0056】
保護膜形成層2の厚さは、好ましくは3〜100μm、より好ましくは10〜60μmである。保護膜形成層2の硬化後の貯蔵弾性率(23℃)は、好ましくは100〜10万MPa、より好ましくは1000〜1万MPaである。
【0057】
再剥離粘着材3としては、リングフレームから外す際にリングフレーム上に糊残りが発生しなければ特に制限はない。具体的には、再剥離粘着材3上面の粘着力はSUS板への粘着力が20N/20mm以下であることが好ましく、10N/20mm以下であることがより好ましく、5N/20mm以下であることが特に好ましい。この粘着力が20N/20mmより大きいとリングフレームから剥離する際に、粘着剤がリングフレームを汚染することがある。
【0058】
保護膜形成層2の硬化が加熱によって行われる場合には、再剥離粘着材3は耐熱性である必要がある。さらに、再剥離粘着材3上面の粘着力は、130℃2時間加熱後においても上記した値であることが好ましい。そのような耐熱性のある再剥離粘着材として、アクリル系、シリコーン系の粘着剤が好ましく用いられる。
【0059】
再剥離粘着材3の層構造としては、具体的には、再剥離粘着剤層のみの単層構造(芯材なしの両面粘着シート)、樹脂フィルム上面に再剥離粘着剤層を積層した二層構造、樹脂フィルム(芯材)の上面に再剥離粘着剤層、下面に粘着剤層を積層した三層構造、の三種類が挙げられる。樹脂フィルムとしては、上記した支持フィルム1に使われる材料を用いることができる。三層構造の下面側の粘着剤層は上面側の再剥離粘着剤層と同程度かそれ以上の粘着力を有する任意の粘着剤層が用いられる。
【0060】
保護膜形成兼ダイシング用シート11および12における再剥離粘着材3は、単層または三層である。保護膜形成兼ダイシング用シート13における再剥離粘着材3は、単層、二層および三層のいずれかである。ダイシングシート13における再剥離粘着材3が二層である場合、保護膜形成層2の上面の粘着力を利用して、保護膜形成層2上面に再剥離粘着材3の下面(樹脂フィルム面)が接着固定される。
【0061】
保護膜形成兼ダイシング用シート12のような再剥離粘着材3上に保護膜形成層2が積層された構造の場合、再剥離粘着材3と保護膜形成層2の間に、上面に剥離面を有する剥離フィルムを設けて、保護膜の剥離性を向上させることができる。剥離フィルムとしては、支持フィルム1として例示したものを用いることができる。
【0062】
保護膜形成兼ダイシング用シート11の製造方法としては、次のような方法が挙げられる。まず、支持フィルム1/保護膜形成層2/剥離フィルムの構成のシートから剥離フィルムを剥離し、支持フィルム1を残して保護膜形成層2を図1に示したようにウエハと同サイズもしくは一回り大きい円形に型抜き、外周部をカス取りする。また別途、剥離フィルム/再剥離粘着材3/剥離フィルムの構成のシートを用意し、ここから一方の剥離フィルムを剥離し、糊代の内心部の形状に合わせて型抜きを行い中央部分を除去する。両者を同心円状に貼り合わせた後、リングフレームに対する糊代の外径に合わせて支持フィルム1及び再剥離粘着材3を型抜きし、外周部分を除去することで目的とする構成のシートを
得る。
【0063】
保護膜形成兼ダイシング用シート12の製造方法としては、次のような方法が挙げられる。まず、剥離フィルム/保護膜形成層2/剥離フィルムの構成のシートから剥離フィルムを剥離し、保護膜形成層2を図2に示したようにウエハと同サイズもしくは一回り大きい円形に型抜きし、外周部をカス取りする。これを、別途用意した再剥離粘着材3付きの支持フィルム1の再剥離粘着材3に貼付し、リングフレームに対する糊代の外径に合わせて同心円状に型抜きし、外周部分を除去することで目的とする構成のシートを得る。図2の構成の場合、再剥離粘着材3付きの支持フィルム1は一体となっており、その外周部(再剥離粘着材3の環状に露出した部分)が、図1および3の構成における再剥離粘着材3に相当する。
【0064】
保護膜形成兼ダイシング用シート13の製造方法としては、次のような方法が挙げられる。まず、剥離フィルム/再剥離粘着材3/剥離フィルムの構成のシートを用意し、ここから剥離フィルムを剥離し、リングフレーム貼付用の糊代の内心部の形状に合わせて型抜きし中央部分を除去する。これを支持フィルム1/保護膜形成層2の構成のシートと貼り合わせた後、リングフレームに対する糊代の外径に合わせて型抜きし、外周部分を除去することで目的とする構成のシートを得る。
【0065】
以下、保護膜形成兼ダイシング用シート11(図1)を用い、ワークとして表面に回路が形成されたウエハを用いた態様を例に挙げて、本発明のマーキング方法を図面を参照しながら説明する。
【0066】
図4は、支持フィルム1上には保護膜2が剥離可能に積層されていて、保護膜2上にはウエハ4が固着されていて、支持フィルム1の外周は再剥離粘着材3を介してリングフレームに固定されている状態を示す。このような積層状態は、前記したような手順を経て実現できる。
【0067】
本発明のマーキング方法では、このような状態で、支持フィルム1側、すなわち保護膜形成兼ダイシング用シート11の下面側からのレーザー光照射によって保護膜2の下面を削り取ることで保護膜2に品番等をマーキングする(図5)。なお、マーキングはウエハ4表面の各回路パターンに対応して裏面側の保護膜2に形成される。
【0068】
元々反りのあるウエハであっても、あるいは保護膜形成兼ダイシング用シート11の貼付時にウエハに反りが発生しても、外周がリングフレームに固定された支持フィルムにウエハを保持することでそのような反りは矯正されウエハは平坦に維持される。したがって、レーザー光の焦点は正確に定まり、精度よくマーキングを行える。
【0069】
支持フィルム1の上面と保護膜2の下面との間の距離は50μm以下が好ましく、より好ましくは30μm以下であり、さらに好ましくは15μm以下であり、0μmであるこ
とが特に好ましい。支持フィルム1の上面と保護膜2の下面の距離が短ければ、レーザーマーキングの精度が向上する。この距離は図4の態様では0μmであり、保護膜形成兼ダ
イシング用シート13(図3)を用いた場合も0μmである。保護膜形成兼ダイシング用
シート12(図2)を用いた場合は、再剥離粘着材3の厚さが上記距離に該当する。
【0070】
また、支持フィルム上に保護膜が積層されている状態としては、支持フィルム上に保護膜が直接または粘着剤層のみを介して積層されている状態が好ましい。保護膜形成兼ダイシング用シート11(図1)および13(図3)を用いれば、支持フィルム上に保護膜形成層が直接積層されている状態とすることができる。保護膜形成兼ダイシング用シート12を用いれば、支持フィルム上に保護膜形成層が再剥離粘着剤層のみを介して積層されて
いる状態とすることができる。
【0071】
上記した支持フィルムと保護膜との距離関係および積層状態であれば、マーキングの際、支持フィルムと保護膜との間での照射レーザー光の屈折や散乱を防げるので、マーキングを高い精度で行うことができる。
【0072】
保護膜は、保護膜形成層を硬化させることによって形成される。硬化方法としては、保護膜形成層が硬化性成分として熱硬化性成分を含む場合は保護膜形成層を加熱し、硬化性成分としてエネルギー線硬化性成分を含む場合は保護膜形成層にエネルギー線を照射する。保護膜形成層を硬化させる時期として、マーキングを行う前に硬化させるのが好ましい。
【0073】
保護膜形成層は、硬化(特に加熱硬化)と同時に収縮することがある。このような保護膜形成層の収縮はウエハの反りの原因となるが、本発明では、外周がリングフレームに固定された支持フィルム上にウエハを保持しているので、保護膜形成層の加熱硬化を行っても、収縮によってウエハが反ってしまうことはなく、平坦な状態を維持することができる。したがって、保護膜の硬化後でも精度よくマーキングできる。
【0074】
さらに、図6に示したようにウエハ4をダイシングして半導体チップ5にすることができる。ダイシングは、ウエハ4と保護膜2を共に切断するように行われる。その後、各チップ5はコレット等の汎用手段によりピックアップすることで、裏面にマーキングされた保護膜を有する半導体チップが得られる(図7)。
【0075】
ダイシングを行う時期としては、特に限定されず、マーキングを行う前後のいずれでもよい。
上記した硬化工程、マーキング工程およびダイシング工程の順番は限定されず、任意の順番で行うことができるが、特に硬化工程、マーキング工程およびダイシング工程の順に行うことが好ましい。また、上記した各工程の間にさらに別の工程を行うこともできる。いずれの工程であっても、ウエハは反ることなく平坦に保持されているので、各工程作業、工程間の移動、搬送、収納など全ての操作を効率よく円滑に行うことができる。
【0076】
また、上記プロセスを本発明の保護膜形成兼ダイシング用シートを用いて行えば、リングフレームには再剥離粘着材が貼付されるので、上記工程終了後にリングフレームからシートを剥離する際にリングフレームに糊残りすることがない。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、ワークに形成された保護膜にマーキングを行うプロセスにおいて、ワークの反りを抑制することで保護膜に精度良くマーキングを行うマーキング方法、ならびにそのような方法に好適に用いられる保護膜形成兼ダイシング用シートが提供される。
【0078】
<実施例>
以下本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例に用いた保護膜形成層の配合、ウエハおよび装置等を以下に示す。
(再剥離粘着材用粘着剤)
再剥離粘着材に用いる粘着剤として以下の配合物を用意した。
【0079】
粘着剤A
アクリル系粘着剤(アクリル酸2−ヒドロキシエチル25重量部、アクリル酸ブチル40重量部、酢酸ビニル30重量部、アクリル酸4−ヒドロキシブチル3重量部、アクリル酸0.5重量部を共重合してなる重量平均分子量80万の共重合体)100重量部に対し
、有機多価イソシアナート架橋剤(日本ポリウレタン社製、コロネートL)固形分6.5重量部
粘着剤B
シリコーン粘着剤:KS847H(信越化学工業社製)60重量部、SD4584(東レ・ダウコーニングシリコーン社製)30重量部、SRX212(東レ・ダウコーニングシリコーン社製)0.5重量部
(保護膜形成層)
アクリル系ポリマー(アクリル酸ブチル55重量部とメタクリル酸メチル15重量部とメタクリル酸グリシジル20重量部とアクリル酸2−ヒドロキシエチル15重量部とを共重合してなる重量平均分子量90万、ガラス転移温度−28℃の共重合体)からなるバインダーポリマー100重量部、エポキシ樹脂の混合物(液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(分子量約370、エポキシ当量180〜200g/eq)60重量部、固形ビスフェノールA型エポキシ樹脂(分子量約1600、エポキシ当量800〜900g/eq)10重量部、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(分子量約1500〜1800、エポキシ当量210〜230g/eq)30重量部)からなる熱硬化性成分100重量部、熱活性潜在性エポキシ樹脂硬化剤(ジシアンジアミド2.4重量部、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成工業社製、2PHZ)2.4重量部)、カーボンブラック(平均粒径28nm)10重量部、溶融石英フィラー(平均粒径8μm)288重量部、合成シリカフィラー(平均粒径0.5μm)32重量部および希釈剤からなる、保護膜形成層用の配合物を用意した。
(支持フィルム)
以下の構成よりなる支持フィルムを用意した。
【0080】
支持フィルムA
ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム(厚さ75μm)の片面にシリコーン系剥離剤(KS−774(信越化学工業社製)100重量部、CAT−PL−50T(信越化学工業社製)1重量部)を約0.1μmの厚さに塗布乾燥したフィルム(表面張力30mN/m未満)。
【0081】
支持フィルムB
PENフィルム(厚さ100μm)を支持フィルムBとした。さらに、この片面にコロナ処理を施し、さらにその処理面上に粘着剤Bを乾燥後の膜厚が10μmとなるように塗布乾燥し、粘着剤面を保護するためシリコーン粘着剤用剥離フィルム(リンテック社製SP−PET38YSD)を積層し、再剥離粘着材付きの支持フィルムを作製した。
【0082】
支持フィルムC
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ100μm)の片面に、支持フィルムAと同様のシリコーン系剥離剤を塗布乾燥したフィルム(表面張力30mN/m未満)。
(ウエハ)
6インチ未研磨シリコンウエハを研削装置(ディスコ社製、DFG−840)を用いて#2000で150μm厚としたウエハを用いた。
(貼付装置)
保護膜形成兼ダイシング用シートをウエハに貼付する装置として、リンテック社製Adwill RAD2500m/8を使用した。
(レーザーマーキング装置)
キーエンス社製LD−YAGレーザーマーカ MD−Y9710
(ダイシング装置) 東京精密社製、AWD−4000B
(実施例1)
図1に示す構成の保護膜形成兼ダイシング用シートを、以下の方法により作製した。
【0083】
支持フィルムAの剥離処理面に保護膜形成層用の配合物を溶媒除去後の厚さが50μmとなるように塗布乾燥し、保護膜形成層面に剥離フィルム(リンテック社製SP−PET3811)を積層し、これを支持フィルム付保護膜形成層とした。
【0084】
PETフィルム(厚さ25μm)の片面に粘着剤Aを溶媒除去後の厚さが10μmとなるように塗布乾燥し、粘着剤A面上に剥離フィルム(SP−PET3811)を積層した。さらに、PETフィルムの反対面に粘着剤Bを溶媒除去後の厚さが10μmとなるように塗布乾燥し、粘着剤B面上に剥離フィルム(SP−PET38YSD)を積層し、PETフィルムを芯材とした両面粘着シートを作製し、これを再剥離粘着材とした。
【0085】
支持フィルム付保護膜形成層の支持フィルムを切除しないように保護膜形成層および剥離フィルムを直径160mmの円形に型抜きし、円形の外周を除去した。また、再剥離粘着材の全層を直径165mmの円形に切断し、円形部分を除去した。再剥離粘着材から粘着剤B側の剥離フィルムを剥離して、支持フィルム付保護膜形成層に対し同心円状(支持フィルムAの剥離面上)に貼付した。続いて、さらに直径207mmの同心円状に支持フィルム及び再剥離粘着材の全層を切断して、図1の構成の保護膜形成兼ダイシング用シートを作製した。
【0086】
保護膜形成兼ダイシング用シートの保護膜形成層をウエハの研磨面に貼付しその外周をリングフレームへ貼付し固定した。これを130℃2時間で加熱硬化し、保護膜形成層を保護膜化した。その後、支持フィルム側から保護膜に対しレーザーマーキング装置を用いて、LD電流35A、2000mm/sec、50KHzで「ABC」(文字サイズ1mm×1mm)とレーザーマークを行った。続いて保護膜ごとウエハをチップサイズ5mm×5mmにダイシングし、ダイボンダーを用いて保護膜付きチップをピックアップした。ついで、リングフレームより保護膜形成兼ダイシング用シートの残部を剥離した。
(実施例2)
図2に示す構成の保護膜形成兼ダイシング用シートを、以下の方法により作製した。
【0087】
剥離フィルム(SP−PET3811)の剥離面に保護膜形成層用の配合物を溶媒除去後の厚さが50μmとなるように塗布乾燥し、露出している保護膜形成層面に別の剥離フィルム(リンテック社製SP−PET3801)を積層した。
【0088】
両面に剥離フィルムが積層している保護膜形成層の全層を直径165mmに切断し、円形の保護膜形成層を得た。再剥離粘着材付きの支持フィルムB上の剥離フィルムおよび保護膜形成層の片面の剥離フィルムをそれぞれ剥離し、露出した粘着剤面および保護膜形成層どうしを積層した。続いて、同心円状に直径207mmに切断し、図2の構成の保護膜形成兼ダイシング用シートとした。
【0089】
なお、ウエハへの貼着、保護膜形成層の加熱硬化、レーザーマーキング、ダイシング、ピックアップおよびリングフレームからの剥離は、実施例1と同様にして行った。
(実施例3)
図3に示す構成の保護膜形成兼ダイシング用シートを、以下の方法により作製した。
【0090】
支持フィルムCの剥離処理面に保護膜形成層用の配合物を溶媒除去後の厚さが50μmとなるように塗布乾燥し、保護膜形成層面に剥離フィルム(SP−PET3811)を積層し、これを支持フィルム付保護膜形成層とした。
【0091】
剥離フィルム(SP−PET3811)の剥離面に粘着剤Aを溶媒除去後の厚さが20μmとなるように塗布乾燥し、露出している粘着剤面に別の剥離フィルム(SP−PET
3801)を積層し、芯材なしの両面粘着シートとし、これを再剥離粘着材とした。
【0092】
再剥離粘着材の片方の剥離フィルムを残すように直径165mmの円形に型抜きし、円形部分を除去した。支持フィルム付保護膜形成層の剥離フィルムおよび両面粘着材の型抜きされた側の剥離フィルムを剥離して、露出した粘着剤面および保護膜形成層どうしを積層した。続いて、同心円状に直径207mmに切断し、図3の構成の保護膜形成兼ダイシング用シートとした。
【0093】
なお、ウエハへの貼着、保護膜形成層の加熱硬化、レーザーマーキング、ダイシング、ピックアップおよびリングフレームからの剥離は、実施例1と同様にして行った。
(実施例4)
実施例2と同様にして、両面に剥離フィルムが積層されている保護膜形成層および再剥離粘着材付き支持フィルムBを用意した。
【0094】
この保護膜形成層の片側の剥離フィルムを剥離し、露出した保護膜形成層をウエハの研磨面に貼付した。貼付された保護膜形成層および剥離フィルムを、ウエハの外周に沿って切断除去し、保護膜形成層上の剥離フィルムを剥離した。また、再剥離粘着材付き支持フィルムを直径207mmに切断し、再剥離粘着材上の剥離フィルムを剥離し、露出した粘着面で保護膜形成層面に貼付するとともにその外周をリングフレームに貼付し固定した。
【0095】
なお、ウエハへの貼着、保護膜形成層の加熱硬化、レーザーマーキング、ダイシング、ピックアップおよびリングフレームからの剥離は、実施例1と同様にして行った。
(実施例5)
実施例4において、保護膜形成層をウエハに貼付した後に保護膜形成層上の剥離フィルムを剥離せず、支持フィルムB/再剥離粘着材/剥離フィルム/保護膜形成層の構成とした保護膜形成兼ダイシング用シートを用いた以外は、同様にして作業を行った。
(比較例1)
実施例4において、再剥離粘着材付き支持フィルムBを保護膜形成層面に貼付する前に、保護膜形成層を加熱硬化し、レーザーマーキングを行った以外は、実施例4と同様にして作業を行った。
(比較例2)
実施例3において、再剥離粘着材を用いず、保護膜形成層を直接リングフレームに貼付した以外は、実施例3と同様にして作業を行った。
[評価方法]
(ウエハの反り)
保護膜形成兼ダイシング用シートを加熱硬化した後、ウエハ面を平滑なテーブルに対面させて静置し、ウエハの中央と端部の高さを測定してその差を反り量とした。なお、実施例1〜4および比較例2では、リングフレームに固定された状態のまま、比較例1ではそのままウエハをテーブルに静置した状態で測定した。
(印字性)
ピックアップ後のチップを目視確認し、いずれの文字にも欠け、かすれが無く判別できたものを「良好」と判断した。
【0096】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明に係る保護膜形成兼ダイシング用シートの断面図を示す。
【図2】本発明に係る保護膜形成兼ダイシング用シートの断面図を示す。
【図3】本発明に係る保護膜形成兼ダイシング用シートの断面図を示す。
【図4】本発明に係る保護膜形成兼ダイシング用シートを用いてウエハを固定した状態を示す。
【図5】本発明に係る保護膜形成兼ダイシング用シートを用いてマーキングを行っている状態を示す。
【図6】本発明に係る保護膜形成兼ダイシング用シートを用いてダイシングを行っている状態を示す。
【図7】本発明に係る保護膜形成兼ダイシング用シートを用いてピックアップを行っている状態を示す。
【符号の説明】
【0098】
1…支持フィルム
2…保護膜形成層(保護膜)
3…再剥離粘着材
4…ウエハ
5…半導体チップ
11…保護膜形成兼ダイシング用シート
12…保護膜形成兼ダイシング用シート
13…保護膜形成兼ダイシング用シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リングフレームに張設された支持フィルムと、該支持フィルム上に剥離可能に積層された保護膜と、該保護膜に固着されたワークとからなる積層状態において、
該支持フィルム側からレーザー光照射によって該保護膜にマーキングするマーキング方法。
【請求項2】
リングフレームに張設された支持フィルムと、該支持フィルム上に剥離可能に積層された保護膜形成層と、該保護膜形成層に貼着されたワークとからなる積層状態において、
該保護膜形成層を硬化し、保護膜を形成すると同時に保護膜とワークとの固着を行い、該支持フィルム側からレーザー光照射によって該保護膜にマーキングするマーキング方法。
【請求項3】
前記保護膜形成層の硬化を加熱することによって行う請求項2に記載のマーキング方法。
【請求項4】
支持フィルム上面と保護膜下面との間の距離が50μm以下の状態でマーキングを行う請求項1〜3のいずれかに記載のマーキング方法。
【請求項5】
支持フィルム上に保護膜が直接または粘着剤層のみを介して固定されている状態でマーキングを行う請求項1〜4のいずれかに記載のマーキング方法。
【請求項6】
保護膜形成層からなる略円形の領域と、前記領域を取り囲む再剥離粘着材からなる環状の領域と、を上面に有するシートからなる保護膜形成兼ダイシング用シート。
【請求項7】
支持フィルムと、該支持フィルム上の中央部に形成された略円形の保護膜形成層と、該支持フィルム上の周辺部に形成された環状の再剥離粘着材と、からなる請求項6に記載の保護膜形成兼ダイシング用シート。
【請求項8】
支持フィルムと、該支持フィルム上に形成された再剥離粘着材と、該再剥離粘着材上の中央部に形成された略円形の保護膜形成層と、からなる請求項6に記載の保護膜形成兼ダイシング用シート。
【請求項9】
支持フィルムと、該支持フィルム上に形成された保護膜形成層と、該保護膜形成層上の周辺部に形成された環状の再剥離粘着材と、からなる請求項6に記載の保護膜形成兼ダイシング用シート。
【請求項10】
保護膜形成層が熱硬化性成分とバインダーポリマー成分とからなる請求項6〜9のいずれかに記載の保護膜形成兼ダイシング用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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