説明

マーキング方法及びその装置

【課題】 同一試料上の異なる場所のマーキングを容易に識別可能とする。
【解決手段】 二次電子像を観察する電子顕微鏡で試料を観察する前に該試料を光学顕微鏡で観察し前記電子顕微鏡で観察対象とする箇所の近傍にマーキングを施すマーキングにおいて、第1元素(例えば炭素)を混入した第1インク19aと、第1元素と異なる二次電子像が得られる第2元素(例えばタングステン)を混入した第2インク19bとを用意し、少なくとも2箇所にマーキングを施す場合には、一方に第1インク19aを用いてニードル11aから試料上にマーキングを施し、他方に第2インク19bを用いてニードル11bから試料上にマーキングを施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡で標本(試料)を観察する前に光学顕微鏡で標本を観察しながら観察個所にマーキングを施すマーキング方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のマーキング装置として、下記特許文献1記載のものがある。この従来のマーキング装置は、試料を載置したスライドガラスの下側にインクを出すニードル等のマーキング部材を配置し、スライドガラスの裏面にインクによってマーキングを施す様になっている。また同様に、下記特許文献2は、マーキング部材を試料の上側に配置したマーキング装置を紹介している。
【0003】
特許文献1に記載のマーキング装置は、光学顕微鏡で試料を観察することだけを目的としているため、スライドガラスの裏面にマーキングを施せば目的を達する。しかし、試料を電子顕微鏡(透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM))で観察したり、収束イオンビーム加工観察装置(FIB)の電子顕微鏡機能で観察することを目的とした場合、電子顕微鏡は倍率が大きいため、観察対象箇所を探し出すのが困難である。
【0004】
例えば、固体撮像素子等の半導体素子に異常が発生した場合、異常の原因を特定するために固体撮像素子を走査型電子顕微鏡等で観察する必要が生じる。このとき、倍率の大きい電子顕微鏡で固体撮像素子の表面全てを観察すると時間がかかるため、予め倍率の低い光学顕微鏡を用いて異常原因箇所と思われる箇所を特定してマーキングしておき、電子顕微鏡で固体撮像素子を観察するときマーキング箇所を探して詳細に観察するという方法が採られる。
【0005】
この様な目的でマーキングを施す装置として、レーザビームを用い半導体素子表面の該当個所に直接マーキングを施すものがある。しかし、このレーザマーキング装置を使用すると、マーキング箇所から溶けた半導体粒子が飛散し、観察対象である半導体素子を汚してしまう。この汚れを、マーキング前に付いていた異常原因の汚れなのか、マーキング後に付いた汚れなのかを判断するのは困難である。
【0006】
【特許文献1】特開平7―333513号公報
【特許文献2】特開平9―179032号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した理由により、電子顕微鏡で試料を観察する前に光学顕微鏡で試料を観察してマーキングを施す場合、試料を汚さずにマーキングを施す必要がある。また、マーキングすべき箇所、すなわち、電子顕微鏡で観察すべき箇所が複数存在したとき、同一のマーキングを施すと、電子顕微鏡で観察したときどの位置に施したマーキングなのかを識別できないという問題もある。
【0008】
そこで、異なる箇所に異なるマーキングを施すことになるが、電子顕微鏡では、インクの色等は識別できないため、異なるマーキングの識別を容易に行えるようにする必要もある。
【0009】
本発明の目的は、電子顕微鏡で観察したとき容易にマーキングを識別することができ、また、試料を汚さずにマーキングを施すことができるマーキング方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のマーキング方法は、二次電子像を観察する電子顕微鏡で試料を観察する前に該試料を光学顕微鏡で観察し前記電子顕微鏡で観察対象とする箇所の近傍にマーキングを施すマーキング方法において、第1元素を混入した第1インクと、該第1元素と異なる二次電子像が得られる第2元素を混入した第2インクとを用意し、少なくとも2箇所にマーキングを施す場合には、一方に第1インクを用いてマーキングを施し他方に第2インクを用いてマーキングを施すことを特徴とする。
【0011】
本発明のマーキング方法の前記第1元素が軽元素であり、前記第2元素が重元素であることを特徴とする。
【0012】
本発明のマーキング方法の前記軽元素が炭素であり、前記重元素がタングステンであることを特徴とする。
【0013】
本発明のマーキング装置は、二次電子像を観察する電子顕微鏡で試料を観察する前に該試料を光学顕微鏡で観察し前記電子顕微鏡で観察対象とする箇所の近傍にマーキングを施すマーキング装置において、第1元素を混入した第1インクを収納する第1容器と、該第1元素と異なる二次電子像が得られる第2元素を混入した第2インクを収納する第2容器と、前記第1容器内の前記第1インクを試料上に滴下する第1滴下手段と、前記第2容器内の前記第2インクを試料上に滴下する第2滴下手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
本発明のマーキング装置の前記第1元素が軽元素であり、前記第2元素が重元素であることを特徴とする。
【0015】
本発明のマーキング装置の前記軽元素が炭素であり、前記重元素がタングステンであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、二次電子像が異なる見え方をする第1元素を混入した第1インクによるマーキングと第2元素を混入した第2インクによるマーキングとを同一試料上に施すため、電子顕微鏡によって観察される二次電子像によってどちらのマーキングであるかを容易に識別することができる。また、インクを用いたマーキングのため、試料の観察箇所を汚すこともない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係るマーキング装置を装着した光学顕微鏡の側面図であり、図2は要部正面図である。本実施形態のマーキング装置10は、光学顕微鏡1に着脱自在に装着される。
【0019】
光学顕微鏡1には、観察対象となる試料、例えば固体撮像素子3を載置するスライド可能なステージ4が設けられると共に、固体撮像素子3の上側には、対物レンズ5や接眼レンズ6が装備された光学レンズ部7が配置される。
【0020】
マーキング装置10は、光学レンズ部7を支える架台8に着脱自在に懸架され、後述する異なる種類のインクを夫々固体撮像素子3の異なる観察対象箇所に滴下する複数のニードル11a,11bが設けられている。
【0021】
図3は、マーキング装置10の支持部を示す図である。マーキング装置10の支持部は、光学顕微鏡1の架台8に嵌合される嵌合部12と、該嵌合部12から側方に延出される支持腕部13と、支持腕部13の先端に取り付けられたインク滴下装置支持部14とを備えて構成される。インク滴下装置支持部14は、第1支持部14aと、第2支持部14bとを備え、各支持部14a,14bは、上下方向の位置調整可能となっている。
【0022】
図4は、各支持部14a,14bに夫々支持されるインク滴下装置15a,15bを示す図である。
【0023】
第1支持部14aによって支持されるインク滴下装置15aは、インクを収納するインク容器16aと、インク容器16aに設けられインク容器16a内のインク19aに手動で圧力が付与されたとき内部のインク19aを所要量押し出すプッシュボタン17aと、インク容器16aに連設された配管18aと、該配管18aに連通する上述のニードル11aとを備えて構成される。
【0024】
このインク滴下装置15aは、配管18aの所要部が第1支持部14aによって支持されることで、インク滴下装置15aの全体が第1支持14aによって支持される。
【0025】
第2支持部14bによって支持されるインク滴下装置15bもインク滴下装置14aと同一構成でなり、インクを収納するインク容器16bと、インク容器16bに設けられインク容器16b内のインク19bに手動で圧力が付与されたとき内部のインク19bを所要量押し出すプッシュボタン17bと、インク容器16bに連設された配管18bと、該配管18bに連通する上述のニードル11bとを備える。
【0026】
このインク滴下装置15bは、配管18bの所要部が第2支持部14bによって支持されることで、インク滴下装置15bの全体が第2支持14bによって支持される。
【0027】
本実施形態では、インク容器16a内に入れるインク19aと、インク容器16b内に入れるインク19bの成分を異ならせていることを特徴とする。インク19aは、インク材料に炭素(C)等の軽元素を混入した結着材を混合して製造し、インク19bには、インク材料にタングステン(W)等の重金属元素を混入した結着材を混合して製造する。
【0028】
斯かるマーキング装置10を用い、試料例えば固体撮像素子3にマーキングを施す場合には、光学顕微鏡1で固体撮像素子3を観察し、異常原因箇所と思われる箇所が2箇所存在したとする。
【0029】
この場合には、検査員は、ニードル11aの先端が異常原因箇所と思われる1番目の箇所(第1箇所)の近傍に合うように、ステージ4を調整したり、第1支持部14aの上下位置を調整する。そして、検査員がプッシュボタン16aを押すと、所要量のインク19aが該当箇所に滴下され、マーキングが為される。
【0030】
次に、検査員は、ニードル11bの先端が異常原因箇所と思われる2番目の箇所(第2箇所)の近傍に合うように、ステージ4を調整したり、第2支持部14bの上下位置を調整する。そして、検査員がプッシュボタン16bを押すと、所要量のインク19bが該当箇所に滴下され、マーキングが為される。
【0031】
次に、検査員は、第1箇所と第2箇所とにマーキングが施された固体撮像素子3を走査型電気顕微鏡の試料台に設置し、真空引きし、固体撮像素子3の表面を観察する。そして、第1箇所のマーキングを探し出し、その近傍位置の異常原因箇所を拡大して観察し、次に第2箇所のマーキングを探し出し、その近傍位置の異常原因箇所を拡大して観察する。
【0032】
このとき、検査員は、探し出したマーキングが第1箇所のマーキングであるか、それとも第2箇所のマーキングであるかを判断しなければならない。走査型電子顕微鏡で試料を観察する場合、試料から発生した二次電子像を観察することになるため、マーキングに使用したインク材料では二次電子像の区別は付かない。
【0033】
しかし、本実施形態のマーキング装置10では、インク19a内に炭素Cが混入されており、インク19b内にはタングステンWが混入されている。炭素CとタングステンWとは、二次電子像の見え方が異なるため、検査員は、第1箇所のマーキングと第2箇所のマーキングとを容易に識別することができる。
【0034】
以上説明したように、本実施形態によれば、二次電子像の見え方が異なる元素をマーキング用のインク内に混入したため、異なるインクによるマーキングの識別が容易となり、また、インク滴下によるマーキングのためマーキングによって試料を汚すことが無くなる。
【0035】
尚、上述した実施形態では、軽元素を混入したインクと重元素を混入したインクの2種類のインクを使ってマーキングを行ったが、3種類以上のインクを使ってマーキングの二次電子像の区別を行う構成とすることも可能である。
【0036】
また、図示する例では、インク滴下装置を光学顕微鏡に2台設けたが、3台以上のインク滴下装置を光学顕微鏡に装着する構成にしてもよく、また、1台のインク滴下装置を光学顕微鏡に装着し、インク滴下装置を異なるインクのインク滴下装置に交換して使用する構成とすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係るマーキング装置は、複数箇所に付けたマーキングを電子顕微鏡による画像として夫々容易に識別できるため、電子顕微鏡で観察する試料に光学顕微鏡で事前にマーキングを施すマーキング装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施形態に係るマーキング装置を装着した光学顕微鏡の側面図である。
【図2】図1に示す光学顕微鏡の要部正面図である。
【図3】図1に示すマーキング装置の支持部を示す図である。
【図4】図3に示すインク滴下装置支持部に支持される2台のインク滴下装置の構成図である。
【符号の説明】
【0039】
1 光学顕微鏡
2 ステージ
3 固体撮像素子等の試料(標本)
7 光学レンズ部
8 架台
10 マーキング装置
11a,11b ニードル
15a,15b インク滴下装置
16a,16b インク容器
17a,17b プッシュボタン
19a 炭素を混入したインク
19b タングステンを混入したインク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電子像を観察する電子顕微鏡で試料を観察する前に該試料を光学顕微鏡で観察し前記電子顕微鏡で観察対象とする箇所の近傍にマーキングを施すマーキング方法において、第1元素を混入した第1インクと、該第1元素と異なる二次電子像が得られる第2元素を混入した第2インクとを用意し、少なくとも2箇所にマーキングを施す場合には、一方に第1インクを用いてマーキングを施し他方に第2インクを用いてマーキングを施すことを特徴とするマーキング方法。
【請求項2】
前記第1元素が軽元素であり、前記第2元素が重元素であることを特徴とする請求項1に記載のマーキング方法。
【請求項3】
前記軽元素が炭素であり、前記重元素がタングステンであることを特徴とする請求項2に記載のマーキング方法。
【請求項4】
二次電子像を観察する電子顕微鏡で試料を観察する前に該試料を光学顕微鏡で観察し前記電子顕微鏡で観察対象とする箇所の近傍にマーキングを施すマーキング装置において、第1元素を混入した第1インクを収納する第1容器と、該第1元素と異なる二次電子像が得られる第2元素を混入した第2インクを収納する第2容器と、前記第1容器内の前記第1インクを試料上に滴下する第1滴下手段と、前記第2容器内の前記第2インクを試料上に滴下する第2滴下手段とを備えることを特徴とするマーキング装置。
【請求項5】
前記第1元素が軽元素であり、前記第2元素が重元素であることを特徴とする請求項4に記載のマーキング装置。
【請求項6】
前記軽元素が炭素であり、前記重元素がタングステンであることを特徴とする請求項5に記載のマーキング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−337324(P2006−337324A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−165640(P2005−165640)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【出願人】(000005201)富士フイルムホールディングス株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】