説明

マーキング装置

【課題】 マーキング機構の簡素化を図るとともに、マーキング作業を良好にするようにしたマーキング装置を提供する。
【解決手段】 締結部材Bを、覆い被せるケース2と、インクが充填されるインクタンク3と、インクタンク3を貫通し、移動操作可能とされる操作シャフト4と、操作シャフト4の一端側に装着され、締結部材B、被締結部材に接することによりマークMを付すためのマーク付与部材5と、を備え、操作シャフト4が移動範囲の一方位置から他方位置へ移動する過程で、マーク付与部材5が摺接する誘導カム面7aが形成される移動ガイド部材7を有し、該移動ガイド部材7の誘導カム面7aによってマーク付与部材5が締結部材B、被締結部材に接するように移動されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルト締めによる接合を行う鉄骨工事のマーキング時に使用するマーキング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建設現場において、高力ボルトのようなボルトとナット及び座金とで鉄骨部材を締結する際、その締付け作業を二次元的に配設される全数のボルトに対して一次締め、マーキング、本締めの三段階で施工することが建築工事標準仕様書(日本建築学会、JASS6鉄骨工事)に規定されている。これは鉄骨部材表面(上面)から上方に向けて突出したボルト先端部に座金を挿通し、その上からナットをボルト先端部に螺合し、所定のトルクで締付けて一次締め(仮締め)し、次に、一次締めしたボルト、ナットと座金及び鉄骨部材表面とにマーキングを施し、そして、最後にボルト、ナットを本締めして締結を行うものである。
【0003】
かかる接合の場合、ボルトによる締付け力を確保するため、ボルトとナットを螺合して仮締めした状態から一定量だけ回転させることが要求されている。すなわち、ナットを螺合して仮締めした状態のボルト先端からナットの外周面、座金、さらには締付けられる鉄骨部材表面にわたって連続させるマークをマーキングし、その後の本締め後におけるボルト、ナットと座金の相対位置の変位(ナットの回転し過ぎ、ナットの回転不足、高力ボルトとナットの共回り等の不良検査)を確認することにより本締め後の検査を行うものである。
【0004】
このようなマーキングは、作業者が筆記具を携帯してその都度マーキングを施していたため、作業の繰り返しで疲れてマーキングが荒くなったり、高力ボルトの間隔が狭くペンを持つ姿勢に無理が生じたりして、マークが途切れたり、マークの向きにバラツキが生じたりする問題があり、このため、かかる作業を改善するようにしたマーキング装置が提案されている(特許文献等1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002―355777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、このマーキング装置の可動マーカー部はリンク機構を使用しているため構造が複雑となって製造コストが高くなり、しかも、インクタンクが本体ケース部の側方に突出しているため、所定の間隔で二次元的に多数配設される他のボルト、ナットと干渉する方向を有しているため、この干渉をさけてマーキングしなければならなくなり、マーキング作業時の取扱性が悪く、さらに、インク付与部によってマーキングされた個所の確認は、一旦このマーキング装置をボルトから外さないと判らず、マーキング不良があれば、再セットして再マーキングする手間が生じる問題を有していた。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために鑑み、マーキング機構の簡素化を図るとともに、マーキング作業を良好にするようにしたマーキング装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、マーキング装置として、被締結部材のボルトによる接合工事におけるマーキング工程において、締結部材としてのボルト又はボルト及びナットやこれら締結部材と前記被締結部材とにわたって連続したマークを付すためのマーキング装置であって、前記被締結部材の表面から突出される前記締結部材を、筒状のケース本体の一端側の開口部から内方に収納した状態で前記締結部材のまわりに空所が生じるように覆い被せるケースと、該ケースの他端側に内設され、インクが充填されるインクタンクと、該インクタンクを前記ケースの両端側を通る貫通方向において貫通する軸状のシャフト本体を備え、このシャフト本体の他端側を前記インクタンクの外側に位置させ、その一端側を前記空所内に位置させた状態で、前記貫通方向において予め定める移動範囲で移動操作可能とされ、この移動範囲で前記インクタンクのインクを液通可能とするインク供給流路を有する操作シャフトと、該操作シャフトの前記一端側に装着され、この操作シャフトの前記インク供給流路から前記インクが供給され、前記締結部材、前記被締結部材に接することにより前記マークを付すためのマーク付与部材と、該マーク付与部材がインク供給状態において前記操作シャフトの前記移動範囲の一方位置から他方位置への移動にともなう移動する過程で、このマーク付与部材と接触する位置に固定されるように前記ケース本体の内面に設けられ、前記マーク付与部材との接触が摺接状態となる誘導カム面が形成され、該誘導カム面によって前記マーク付与部材が前記締結部材、前記被締結部材に接するように近づく方向に移動されることを特徴とする。
【0009】
上記構成とするので、締結部材を覆い被せるケースの外側には何ら突起物を有していないため、他の締結部材と干渉しないことによりマーキング装置のセット時に方向性がなくなりマーキング作業時の取扱性が良好となる。また、インクタンクを上下(両端側)に貫通した操作シャフトからインクをマーク付与部材に供給でき、しかも、マーク付与部材は移動ガイド部材に摺接させる簡易な構造で締結部材及び鋼材(被締結部材)に接するように移動できるため従来の装置に比べ製造コストの低減を図るうえで有利となる。
【0010】
また、上記課題を解決するために、本発明のマーキング装置において、前記操作シャフトの移動操作により前記マーク付与部によって前記マークが前記締結部材、前記被締結部材に付された後、前記操作シャフトの移動操作を解除することにより前記移動範囲の一方位置に前記操作シャフトを復帰させる復帰手段を設け、該復帰手段による前記操作シャフトの前記一方位置への復帰にともなって前記マーク付与部材が前記締結部材、前記被締結部材から遠ざかることによって生じる、前記マーク付与部材と前記締結部材、前記被締結部材との間の隙間を外部から視認可能となるように、前記ケースの全部又は一部が透明部材によって形成されることを特徴とするので、上記効果に加えて、締結部材及び鋼材(被締結部材)に付されるマークを外部から確認できることにより、従来のようにマーキング装置を締結部材から外さない状態で、マーク付与不良があっても再マーキングできるので、さらに取扱性に優れたマーキング装置を提供できる。
【0011】
また、上記課題を解決するために、本発明のマーキング装置において、前記インクタンクは前記操作シャフトを貫通させるための貫通孔を有し、この貫通孔と前記操作シャフトとの間には前記インクの漏れを規制するシール部材が介装され、このシール部材は前記操作シャフトの前記移動範囲の一方位置から他方位置への移動時に前記マーク付与部材が前記移動ガイド部材によって前記締結部材、前記被締結部材に接するように近づく方向に移動される過程で、前記操作シャフトに対して前記近づく方向において加わる外力を吸収可能とする弾性部材で形成されることを特徴とするので、操作シャフトの押し下げ操作自体をスムーズにすることができ、とくに多数、時には数百程度にものぼるマーキング作業であれば、その操作性が良好になれば作業者に対する負担軽減に極めて有益となる効果を奏する。
【0012】
また、上記課題を解決するために、本発明のマーキング装置において、前記操作シャフトの一端側に装着される前記マーク付与部材は、ユニバーサルジョイント機構を介して装着されることを特徴とするので、上記効果に加えて、さらにその押し下げ操作自体をスムーズにすることができる効果を奏する。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明のマーキング装置において、前記インクタンク内には前記インクを含浸保持させるインク吸収部材が装填され、一方、前記操作シャフトのインク供給流路内には前記インク吸収部材の前記インクを吸収保持しつつ前記マーク付与部材に前記インクを供給するためのインク吸収供給部材が装填されることを特徴とするので、上記効果に加えて、インクタンク内のインクはインク吸収部材によって含浸保持されていることによりインク漏れもしにくく、しかも、マーキング装置を斜めにしたり、天地逆にしてもインクはインク吸収部材からマーク付与部材に供給されるため、使用姿勢にも影響されにくいマーキング装置を提供できる。
【0014】
また、上記課題を解決するために、本発明のマーキング装置において、前記ケースの開口部には、該開口部を密閉させるように底蓋が装着され、該底蓋は前記操作シャフトが前記移動範囲の一方位置に位置した状態で、自身が前記マーク付与部材に接触しないように前記ケースの内方に突出する凸部を備えることを特徴とすることにより、ケース内に凸部が位置するためケースの内容積が減少し、マーク付与部材に保持されるインクが乾燥しにくくなるマーキング装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るマーキング装置の概略断面構造を含む図。
【図2】マーキング装置のケースを構成する分割構造部材を示す図。
【図3】インクタンクのインク室にインク吸収部材を設けた例を示す図。
【図4】マーク付与部材を構成するインク塗着部材、挟持部材を示す図。
【図5】操作シャフトの貫通構造を示す図。
【図6】操作シャフトの貫通構造の他の例を示す図。
【図7】操作シャフトの貫通構造の他の例を示す図。
【図8】操作シャフトとマーク付与部材との連結構造の他の例を示す図。
【図9】操作シャフトが上位置に復帰し、マーク付与部と締結部材及び鋼材との間に隙間が生じた状態の概略断面構造とその部分拡大図を含む図。
【図10】ケースの下部開口部に底蓋を装着した状態を示す図。
【図11】締結部材と鋼材の一次締め後のマーキング状態を示す図。
【図12】図11の部分拡大図。
【図13】締結部材による鋼材の接合状態を示す図。
【図14】締結部材と鋼材の本締め後のマーキング状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態につき図面を参照して説明する。図1は本発明の実施の形態に係るマーキング装置の概略断面構造を示す図である。図2はマーキング装置のケースを構成する分割構造部材を示す図である。
【0017】
本発明のマーキング装置1によるマーキング個所の被締結部材としての鋼材Cは、図11〜図14に示すように、鉄骨部材C1と、この鉄骨部材C1にまたがって配置される接続板部材C2から構成される。この鋼材Cのボルト接合個所において接続板部材C2を介して多数のボルトB1(本例では高力ボルトとしてのトルシア形高力ボルトとする)の各々を、鉄骨部材C1と接続板部材C2のボルト穴(図示せず)と座金B2に通し、ナットB3をスパナ等で手締めすることで、ボルトB1、ナットB3及び座金B2から構成される締結部材Bが2次元的に多数配列される。
【0018】
マーキング装置1は、このような鋼材Cのボルト接合工事におけるマーキング工程に使用されるものであり、鋼材Cを締め付ける多数の締結部材Bの内の一つに対して、そのボルトB1、ナットB3及び座金B2と鋼材Cの表面とにわたって連続した直線状のマークM(図12参照)を付すようにする装置である。
【0019】
具体的なマーキング装置1は、図1に示すように、ケース2と、インクタンク3と、操作シャフト4と、マーク付与部材5を含んで構成される。
【0020】
ケース2は円筒形に形成される筒状のケース本体2aからなり、締め付けられて鋼材Cの表面から突出される締結部材Bを、ケース本体2aの一端側の開口部としての下部開口部2bから、このケース本体2aの内方に収納した状態となすように覆い被せるものである。このようにケース本体2aで締結部材Bを覆い被せる状態とすることにより、ケース本体2aの内面2a1と締結部材Bとの間、すなわち締結部材Bのまわりに空所(スペースS)が生じる大きさでケース本体2aは形成されている。
【0021】
また、筒状のケース本体2aの大きさとしての外径は、図11に示す二次元的に多数の締結部材Bの内の一つに対して覆い被せた状態で、隣りに位置する他の締結部材Bに干渉しない外径で形成される。また、図1に示すケース本体2aの大きさとしての上下長さは、締結部材BのボルトB1の上端B1aよりも高位に位置する長さに設定される。
【0022】
インクタンク3はケース2の他端側である上部に内設され、インクが充填されるものであり、ケース本体2a内方の上部において、覆い被せる締結部材Bと干渉させないようにした、ドーナツ状の形態を呈するように密閉されるインク室3aを備えている。
【0023】
このインク室3aは、筒状のケース本体2aの上部の周壁の一部分を外周壁3bとし、その外周壁3bと対向する内側に内周壁3cを配置させ、その内外周壁3c、3bの上下に、天壁3d及び底壁3eを配置させる構造である。このような構造は、ケース2自体をプラスチックで一体成形したり、インク室3aを密閉するように画成する壁部材としての複数の分割構造部材をプラスチックで成形し、これらを接着剤(図示せず)や樹脂溶接などの接続手段で一体化するように形成することもできる。
【0024】
この分割構造部材の一例としては、図2に示すように、ケース本体2aの上端縁から内側に環状の鍔部31aを一体成形して第一の分割構造部材31となし、この第一の分割構造部材31の鍔部31aを、インク室3aを構成する底壁3eとするものと、また、この鍔部31aの内周縁及び外周縁に接続するように、円板本体部32aから外円筒部32bと内円筒部32cとを垂設するように一体成形して第二の分割構造部材32となし、この第二の分割構造部材32の内円筒部32cを、インク室3aを構成する内周壁3cとし、外円筒部32bを、インク室3aを構成する外周壁3bとし、さらに内円筒部32cと外円筒部32bとをつなぐ円板本体部32aの一部を、インク室3aを構成する天壁3dとするようにして、これらの分割構造部材31、32で、インク室3a全体を構成することができる。
【0025】
また、インクタンク3には、インク室3a内へのインクを補充するためのインクキャップ3fが着脱自在に設けられている。また、インクタンク3のインク室3a内に充填するインクとしては、液状のインク液の状態のままで充填する場合以外に、図3に示すように、インクタンク3内にはインクを含浸保持させるインク吸収部材3jが装填され、該インク吸収部材3jはインクを含浸保持する毛細管力を有する発泡体、織布材料、フェルト、不織布材料などの多孔質材で構成させることができる。
【0026】
また、図1、図3に示す操作シャフト4はインクタンク3のインク室3aを、ケース本体2aの一端側と他端側との両端側を通る貫通方向において上下に貫通する軸状のシャフト本体4aからなり、該シャフト本体4aの他端側としての上部側をインクタンク3の外側に位置させ、一端側としての下部側を空所(スペースS)内に位置させた状態で、かつ、シャフト本体4aの中間部をインク室3a内に位置させるようにして、貫通方向において予め定める移動範囲としての上下動範囲Yで作業者によって上下動操作可能(移動操作可能)とするものである。
【0027】
また、シャフト本体4aにおけるインクタンク4から上方に突出される上端部には、該シャフト本体4aの軸径よりも大径となしたフランジ部4cが着脱自在に装着されている。このフランジ部4cとインクタンク4のインク室3aを形成する天壁3dとの間に、弾性部材としてのスプリング6を介装させている。このスプリング6の弾発力によって操作シャフト4を、常に上下動範囲Yにおける上方向UPに付勢させている。この構成によって操作シャフト4を上下動範囲Yの上位置に復帰させるための復帰手段としての機能を備えさせている。なお、スプリング6はスプリング押え6aを介して装着されている。
【0028】
マーク付与部材5は操作シャフト4の下部側に装着されて一体となって上下動し、その一部が締結部材BとしてのボルトB1、ナットB3及び座金B2と鋼材Cの表面とにわたって連続して接することによりインクを塗着して、その表面にマークM(図12参照)を付する機能を備えている。
【0029】
このマーク付与部材5へのインク供給として、図1、図3に示すように、インクタンク3を貫通してインク室3a内に位置する操作シャフト4のシャフト本体4aにはインク供給流路4bが形成される。このインク供給流路4bはシャフト本体4aのシャフト軸方向に貫通形成される縦軸孔4dと、インクタンク3のインク室3a内に位置するシャフト本体4aの中間部において、シャフト軸方向と交差する横方向に貫通形成される横孔4eとによって構成される。これによって上下動範囲Yでインクタンク3のインクが液通可能となるように、インク室3a内にインク供給流路4bの横孔4eが常に位置することにより、この横孔4eに接するインクが縦軸孔4dからマーク付与部材5に供給されることとなる。
【0030】
また、インク供給流路4bもインク室3aと同様に、図3に示すように、インクを含浸保持させるインク吸収供給部材3mが装填され、該インク吸収供給部材3mはインクを含浸保持する毛細管力を有する発泡体、織布材料、フェルト、不織布材料などの多孔質材で構成される。
【0031】
また、図1に示すマーク付与部材5はインクを含浸保持する毛細管力を有する発泡体、織布材料、フェルト、不織布材料など多孔質材からなる扁平板状のインク塗着部材5aを有している。このインク塗着部材5aは、図4に示すように、その板厚T側の両側面から一対の板状の挟持部材5bで挟持保持した状態で、操作シャフト4の下部側に装着される。この両者の挟持部材5bはサラビス5cによって接合自在となしており、これによってインク塗着部材5aの取替えが可能となっている。
【0032】
このインク塗着部材5aの装着時には、操作シャフト4のシャフト本体4aのインク供給流路4bとインク塗着部材5aとを液通可能となるように接続させ、かつ、インク塗着部材5aを挟持保持し、締結部材B側にインク塗着部材5aを露出させ、その挟持部材5bの上部に形成される嵌合装着孔5b2に操作シャフト4の下部側を嵌合挿入して固定連結させている。なお、本例の嵌合装着孔5b2は二分された形態でそれぞれの挟持部材5bに形成されている。
【0033】
また、一対の挟持部材5bで挟持保持されたインク塗着部材5aは、その挟持部材5aから締結部材BのボルトB1、ナットB3及び座金B2と鋼材Cの表面とにわたって接する方向に飛び出た側縁部5a1を備えており、その側縁部5a1の締結部材BのボルトB1、ナットB3及び座金B2と鋼材CのマークMが付される形状と概ね一致させている。
【0034】
また、このインク供給可能な状態で操作シャフト4を上下動範囲Yの上位置から下位置へ移動操作させることにより、ケース本体2aの内周面2a1と締結部材Bとの間の空所(スペースS)に位置するマーク付与部材5におけるインク塗着部材5aの側縁部5a1を締結部材B及び鋼材Cに接するように、すなわち、締め付けられたボルトB1、ナットB3及び座金B2からなる締結部材Bに近づくように、該締結部材Bの中心における仮想鉛直軸BCに対して操作シャフト4の上下動の軸心方向CLを、斜めに交差させる方向に移動させる移動ガイド部材7(図1参照)が設けられる。
【0035】
この移動ガイド部材7は、図1、図3に示すように、操作シャフト4の上下動範囲Yの上位置から下位置への移動にともなう過程で、マーク付与部材5の背縁部5b1と接触する側の締結部材Bと対向するケース本体2aの内面2a1の下部側に配置されるように設けられる。この移動ガイド部材7は、操作シャフト4の移動操作にともなって下動されるマーク付与部材5の挟持部材5bにおいて、その挟持部材5bで保持しているインク塗着部材5aの側縁部5a1の飛び出し方向とは反対方向側に位置する挟持部材5bの背縁部5b1が接触して摺接する誘導カム面7aを有している。この誘導カム面7aはマーク付与部材5におけるインク塗着部材5aの側縁部5a1が締結部材B及び鋼材Cに接するように、該締結部材Bの中心における仮想鉛直方向BCに対して操作シャフト4の上下動の軸心方向CLを、交差させる方向としての斜め下方に対して傾斜状に形成されている。
【0036】
そして、操作シャフト4の下端部を、マーク付与部材5における挟持部材5bに形成される嵌合装着孔5b2に位置ズレなく嵌合固定している形態においては、操作シャフト4が押し下げ操作されると、移動ガイド部材7によってマーク付与部材5が締結部材B及び鋼材Cに近づくように斜め下方に対して移動されるため、操作シャフト4のシャフト本体4aの姿勢が、仮想鉛直方向BCに対してその軸心方向CLが交差するように傾斜することとなる。このためインクタンク3の同軸状に設けられる貫通孔としての上貫通孔3gと、他の貫通孔としての下貫通孔3hを上下に貫通して上下移動可能としている操作シャフト4のスムーズな移動操作を確保維持しつつインクの漏れを規制するための操作シャフト4の貫通構造を備えている。
【0037】
この操作シャフト4の貫通構造としては、図5に示すように、インクタンク3のインク室3aを構成する天壁3d及び底壁3eに、シャフト本体4aの軸径に対して隙間を有する程度の内径で同軸状に貫通形成される貫通孔としての上貫通孔3g及び下貫通孔3hにシャフト本体4aが遊嵌状に貫通され、その貫通させたシャフト本体4aの下部側を空所(スペースS)内に位置させた状態での上下動時に、この上貫通孔3g及び下貫通孔3hと操作シャフト4との間にはインクの漏れを規制するシール部材8が介装されている。
【0038】
このシール部材8は操作シャフト4の下動時にマーク付与部材5が移動ガイド部材7によって締結部材B及び鋼材Cに接するように近づく方向に移動される過程で、操作シャフト4に対して近づく方向に加わる外力F(仮想鉛直方向BCと交差する)を、吸収可能とするゴム、プラスチックなどの弾性部材で形成されるものとしている。
【0039】
この図5に示すシール部材8は、上貫通孔3g及び下貫通孔3hの周縁の天壁3d及び底壁3eに、ゴム、プラスチックなどの弾性部材で形成されるリング状のパッキン部材8aを固定したものであり、この上下のパッキン部材8aを貫通する操作シャフト4に対して加わる外力Fが当該パッキン部材8aによって吸収されることとなる。
【0040】
また、図6に示すものは、シャフト本体4aの軸径に対して隙間を有する程度の内径で上貫通孔3g及び下貫通孔3hが形成され、この上貫通孔3g及び下貫通孔3hの内周面とシャフト本体4aの外周面との間に、ゴム、プラスチックなどの弾性部材で形成されるOリング8bをシール部材8として介装するものであり、この上下のOリング8bを貫通する操作シャフト4に対して加わる外力Fが当該Oリング8bによって吸収されることとなる。
【0041】
また、図7に示すものは、シャフト本体4aの軸径に対して隙間を有する程度の内径で上貫通孔3g及び下貫通孔3hが形成されており、一方、円筒状に形成される円筒部材8c1の外周面に、上貫通孔3g及び下貫通孔3hの内周縁が嵌合される係合溝8c2を形成した、ゴム、プラスチックなどの弾性部材で形成されるブッシュ部材8cを用いるものであり、このブッシュ部材8cを上貫通孔3g及び下貫通孔3hに装着し、かかるブッシュ部材8cをシール部材8とし、このブッシュ部材8cを貫通する操作シャフト4に対して加わる外力Fが当該ブッシュ部材8cによって吸収されることとなる。
【0042】
また、上記の構造はシール部材8による操作シャフト4に対する外力Fを吸収させる形態を備え、操作シャフト4とマーク付与部材5の全体を斜め姿勢状態にする構成であるが、操作シャフト4の上下の移動時に期待した斜め姿勢が得られないときには、図8に示すように、操作シャフト4とマーク付与部材5との装着に、ユニバーサルジョイント機構9を使用することもでき、この時はマーク付与部材5のみを斜め姿勢状態にする構成となる。
【0043】
このユニバーサルジョイント機構9として、操作シャフト4のシャフト本体4aの下端部には、球状の球状頭部9aが形成され、マーク付与部材5を構成する挟持部材5bの上部に形成される嵌合装着孔5b2を、凹球面形態を呈する球面軸受孔状に形成する。そして、嵌合装着孔5b2に球状頭部9aを摺動可能に嵌め合わせることにより、操作シャフト4に対しマーク付与部材5が首振り自在に組み合わされるように装着されることとなる。
【0044】
なお、このユニバーサルジョイント機構9においてもインク供給流路4bとインク塗着部材5aとは液通可能となるように接続されるとともに、嵌合装着孔5b2と球状頭部9aとの間の摺動個所にもインク漏れのためのシール機能を備えさせている。図8に示す例によるシール部材8はパッキン部材8aが使用されるも、Oリング8bやブッシュ部材8cを使用することもできる。
【0045】
また、図1、図3に示すように、締結部材BにおけるナットB3を利用してケース2を所定位置にセットするための位置決め部材10を備えている。この位置決め部材10は、ケース2におけるケース本体2aの下部開口部2bの下縁側の内周面に着脱自在に装着される。この位置決め部材10は円板状に形成される円板本体10aからなり、該円板本体10aの中央には、締結部材Bの六角状のナットB3の外周面との間に若干の隙間を具有させるように六角孔状の位置決め穴10bが形成されている。また、円板本体10aの一部には、その外側から位置決め穴10bに至るまで所定幅の切欠き幅部10cが形成され、該切欠き幅部10c内にマーク付与部材5が配置されることとなる。
【0046】
この位置決め穴10bは位置決め部材10をケース本体2aに装着した状態で、位置決め穴10bの中心軸C10とケース2の中心軸C2とを一致させているも、この同軸構造には限定されず、要するに、締結部材Bをケース2で覆い被せる状態において、操作シャフト4に装着されるマーク付与部材5が締結部材Bのまわりの空所(スペースS)内に位置して、操作シャフト4の押し下げ操作によってマーク付与部材5が締結部材B及び鋼材Cに接することが可能であれば、位置決め穴10bの中心軸C10とケース2の中心軸C2とが偏心している状態でも良い。
【0047】
このように、ケース2の底部側に位置決め部材10を備えたときには、この位置決め部材10の位置決め穴10bの大きさによってボルトB1、ナットB3及び座金B2からなる締結部材Bの大きさが特定されてしまうが、ケール2の中心にこの締結部材Bを位置させることができる。また、締結部材Bの位置が定まるからマーク付与部材5の側縁部5a1との隙間を小さくしたり大きくでき、小さくする場合には操作シャフト4の上下動するときに。ケース2の内周面2a1に配置した移動ガイド部材5によって斜め姿勢にする角度を小さくすることができる。このため、インクを漏らすことができない操作シャフト4のシール構造の簡素化を図ることでも有利となる。また、隙間を大きくした場合には、後述するようにマークMの外部からの確認(目視)がし易くなる。
【0048】
また、図1に示すように、マーク付与部材5が締結部材B及び鋼材Cに接するように移動される過程で、マーク付与部材5の横ブレを規制するための横ブレ規制部11を設けることもできる。この横ブレ規制部11は操作シャフト4に装着されるマーク付与部材5の挟持部材5bの両側を挟みこむように、インクタンク3の底壁3eから垂設される一対の平行保持板11aによって構成される。
【0049】
このように構成されるマーキング装置1は、操作シャフト4の下動操作によりマーク付与部5によってマークMが図12に示すように締結部材B及び鋼材Cに付された後、図9に示すように、操作シャフト4の下動操作を解除することにより上下動範囲Yの上位置に、スプリング6の弾発力によってマーク付与部5がインクタンク3の底壁3eに当接する上位置に操作シャフト4が復帰される。かかる操作シャフト4の上位置への復帰にともなってマーク付与部材5が締結部材B及び鋼材Cから遠ざかることによって生じる、マーク付与部材5におけるインク塗着部材5aと締結部材B及び鋼材Cとの間の隙間X(図9の下方域に図示する部分拡大図の斜線で示す領域)を外部から視認可能となるように、ケース2の全部又は一部が透明部材によって形成されるようにすることも可能である。この一例としては、図2に示すケース本体2aの上端縁から内側に環状の鍔部31aを一体成形する第一の分割構造部材31を、クリア部材(アクリル樹脂、PET樹脂などの透明部材)によって形成するものである。
【0050】
また、この隙間Xは操作シャフト4の上下動範囲Yの設定寸法よって任意の大きさに変えることができるため、インク塗着部材5aの板厚Tに応じた幅で塗着されるマークMの幅や連続させた上下長さにも自由に対応できることとなり、ケース2が透明部材から形成されることと相まって、マークMの外部からの確認性が良好となる。
【0051】
また、ケース2の下部開口部2bには、図10に示すように、下部開口部2bを密閉させ、マーク付与部材5のインク塗着部材5aに含浸保持されるインクの乾燥を防止するように底蓋12が装着される。この底蓋12は操作シャフト4が上下動範囲の上位置に位置した状態で、マーク付与部材5に接触しないようにケース2の内方に突出する凸部12aが形成される。
【0052】
マーキング装置1の使用形態としては、図11〜図14に示すように、マーキング個所の被接合対象である鋼材Cとしての鉄骨部材C1と接続板部材C2に多数のボルトB1の各々を通した後、座金B2に通し、ナットB3をスパナ等で手締めして一次締めして2次元的に多数配列される締結部材Bのそれぞれにマーキング作業を実施する。
【0053】
そのマーキング作業としては、締結部材Bを内方に収容するようにケース2で覆い被せる(図1参照)。この時には位置決め部材10の位置決め穴10bに締結部材BのナットB3が嵌り込むので、マーキング装置1として定位置にセットされることとなる。そして、操作シャフト4を作業者によって押し下げ操作すると、操作シャフト5の下端のマーク付与部材5が移動ガイド部材7(誘導カム面7a)によって誘導されることにより、マーク付与部材5のインク塗着部材5aが締結部材B及び鋼材Cに接することとなり、締結部材B及び鋼材CにマークMが付される。
【0054】
その後、図9に示すように、操作シャフト4の下動操作を解除することにより上下動範囲Yの上位置に操作シャフト4が復帰されると、マーク付与部材5も締結部材B及び鋼材Cから遠ざかり、これによってマーク付与部材5におけるインク塗着部材5aと締結部材B及び鋼材Cとの間に隙間Xが発生する。この隙間Xはケース2が透明部材によって形成される部分を有していることにより、ケース2を介してマークMが外部から視認可能となり、マークMの未塗着を防止することが可能となる。
【0055】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、これらはあくまで例示にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではなく、各々の実施の形態は、本発明の説明のために一つ実施形態の部分として述べられている構成を、別の実施の形態において利用し、更に別の実施の形態とすることができる。例えばケース2全体を透明部材によって形成することも可能である。
【符号の説明】
【0056】
2 ケース
2a ケース本体
3 インクタンク
4 操作シャフト
4a シャフト本体
4b インク供給流路
5 マーク付与部材
5a インク塗着部材
7 移動ガイド部材
7a 誘導カム面
8 シール部材
9 ユニバーサルジョイント機構
12 底蓋
12a 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被締結部材のボルトによる接合工事におけるマーキング工程において、締結部材としてのボルト又はボルト及びナットやこれら締結部材と前記被締結部材とにわたって連続したマークを付すためのマーキング装置であって、
前記被締結部材の表面から突出される前記締結部材を、筒状のケース本体の一端側の開口部から内方に収納した状態で前記締結部材のまわりに空所が生じるように覆い被せるケースと、
該ケースの他端側に内設され、インクが充填されるインクタンクと、
該インクタンクを前記ケースの両端側を通る貫通方向において貫通する軸状のシャフト本体を備え、このシャフト本体の他端側を前記インクタンクの外側に位置させ、その一端側を前記空所内に位置させた状態で、前記貫通方向において予め定める移動範囲で移動操作可能とされ、この移動範囲で前記インクタンクのインクが液通可能とするインク供給流路を有する操作シャフトと、
該操作シャフトの前記一端側に装着され、この操作シャフトの前記インク供給流路から前記インクが供給され、前記締結部材、前記被締結部材に接することにより前記マークを付すためのマーク付与部材と、
該マーク付与部材が前記インク供給流路からのインク供給状態において前記操作シャフトの前記移動範囲の一方位置から他方位置への移動にともなう移動する過程で、このマーク付与部材と接触する位置に固定されるように前記ケース本体の内面に設けられ、前記マーク付与部材との接触が摺接状態となる誘導カム面が形成され、該誘導カム面によって前記マーク付与部材が前記締結部材、前記被締結部材に接するように近づく方向に移動されることを特徴とするマーキング装置。
【請求項2】
前記操作シャフトの移動操作により前記マーク付与部によって前記マークが前記締結部材、前記被締結部材に付された後、前記操作シャフトの移動操作を解除することにより前記移動範囲の一方位置に前記操作シャフトを復帰させる復帰手段を設け、該復帰手段による前記操作シャフトの前記一方位置への復帰にともなって前記マーク付与部材が前記締結部材、前記被締結部材から遠ざかることによって生じる、前記マーク付与部材と前記締結部材、前記被締結部材との間の隙間を外部から視認可能となるように、前記ケースの全部又は一部が透明部材によって形成されることを特徴とする請求項1に記載のマーキング装置。
【請求項3】
前記インクタンクは前記操作シャフトを貫通させるための貫通孔を有し、この貫通孔と前記操作シャフトとの間には前記インクの漏れを規制するシール部材が介装され、このシール部材は前記操作シャフトの前記移動範囲の一方位置から他方位置への移動時に前記マーク付与部材が前記移動ガイド部材によって前記締結部材、前記被締結部材に接するように近づく方向に移動される過程で、前記操作シャフトに対して前記近づく方向において加わる外力を吸収可能とする弾性部材で形成されることを特徴とする請求項1または2に記載のマーキング装置。
【請求項4】
前記操作シャフトの一端側に装着される前記マーク付与部材は、ユニバーサルジョイント機構を介して装着されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1に記載のマーキング装置。
【請求項5】
前記インクタンク内には前記インクを含浸保持させるインク吸収部材が装填され、一方、前記操作シャフトのインク供給流路内には前記インク吸収部材の前記インクを吸収保持しつつ前記マーク付与部材に前記インクを供給するためのインク吸収供給部材が装填されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のマーキング装置。
【請求項6】
前記ケースの開口部には、該開口部を密閉させるように底蓋が装着され、該底蓋は前記操作シャフトが前記移動範囲の一方位置に位置した状態で、自身が前記マーク付与部材に接触しないように前記ケースの内方に突出する凸部を備えることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のマーキング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−61569(P2012−61569A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208659(P2010−208659)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(510250593)有限会社グローイング (1)
【Fターム(参考)】