説明

ミクロ空洞構造体、ならびにこれを備える水素生成装置

【課題】流路構造が比較的単純であり、大量の原料ガスを処理する用途に適したミクロ空洞構造体を提供する。
【解決手段】ガスの導入口及び排出口の間で連続し、大きさが制御され、かつ互いに連通した複数の球形ミクロ空洞を設け、ミクロ空洞を形成する構造体内壁部の表面に触媒物質を担持させる。ミクロ空洞を、夫々原料ガスの電磁波吸収帯と合致する空洞共振波長が得られる内径とすることで、ミクロ空洞内において、上記吸収帯に近い特定波長の電磁波によって原料ガスが励起加熱される一方、原料ガスから生じた生成ガスの励起が抑えられる、ガス分子の熱力学的非平衡状態を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミクロ空洞を有する機能性構造体、及びこの構造体を反応器として備える水素生成装置に関し、詳細には、ふく射の空洞量子効果を大量の原料ガスを処理する化学プロセスに活用可能とする機能性構造体、及びこの空洞量子効果を効率的に活用した水蒸気改質等、水素生成技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ミクロオーダの空洞(以下「ミクロ空洞」という。)内で得られる空洞量子効果は、本発明者等によって既に実証されているところであり、ミクロ空洞を有する機能性構造体を用いた化学反応の制御も本発明者等によって出願され、公開されている(下記特許文献1)。この関連技術に係る構造体は、MEMS技術(Micro Eletro Mechanical Systems)、具体的には、誘導結合プラズマ反応性イオンエッチング法によってシリコンウェーハ上に多数の方形ミクロ空洞を形成するとともに、前後に隣り合うミクロ空洞同士を正方形断面の微小流路を通じて接続し、構造体の一側に形成されたガス導入口と、他側に形成されたガス排出口とを、ミクロ空洞及び微小流路を介して連通させたものである。ミクロ空洞を形成するウェーハ内面には、スパッタリング法によってニッケル等を主成分とする触媒層を形成する。このようにして作製した機能性構造体を用いたメタンの水蒸気改質プロセスにおいて、原料ガスであるメタン及び水蒸気をガス導入口から構造体内に導入して、ミクロ空洞に供給する。そして、ミクロ空洞内で生じるふく射(共振電磁波)によってメタン及び水蒸気を加熱し、メタンの水蒸気改質反応によって生じた水素を回収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−273686号公報(段落番号0029,0030)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前掲特許文献1に記載の技術には、構造体の内部において、ミクロ空洞に加え、隣り合うミクロ空洞同士を連通させるための微小流路を設ける必要があることから、構造体内の流路構造が複雑となり、大量の原料ガスを処理する用途への適用には向かないという問題がある。
【0005】
本発明は、以上の問題を考慮し、内部の流路構造が比較的単純であり、大量の原料ガスを処理する用途に適したミクロ空洞構造体を提供し、これに併せ、この構造体を備えることによってふく射の空洞量子効果を効率的に活用することのできる水素生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るミクロ空洞構造体は、ふく射性ガスを原料とする化学プロセスに用いるミクロ空洞構造体であって、ガスを透過させるための導入口及び排出口と、導入口及び排出口の間で連続し、かつ互いに連通した複数の球形ミクロ空洞とを有するとともに、ミクロ空洞を形成する構造体内壁部の表面に触媒物質を担持したミクロ空洞構造体である。ここで、球状に形成したミクロ空洞は、夫々原料ガスの電磁波吸収帯と合致する空洞共振波長が得られる内径であり、これにより、ミクロ空洞内において、上記吸収帯に近い特定波長の電磁波によって原料ガスが励起加熱される一方、原料ガスから生じた生成ガスの励起が抑えられる、ガス分子の熱力学的非平衡状態が形成される。
【0007】
本発明に係る水素生成装置は、このようなミクロ空洞構造体を反応器として備えるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、構造体内に形成するミクロ空洞を球状とし、この球形ミクロ空洞の内径を、原料ガスの電磁波吸収帯と合致する空洞共振波長が得られる内径としたことで、上記特定波長の電磁波によって原料ガスのみを励起加熱して、その熱分解を促進する一方、生成ガスの励起を抑えることができる。これにより、原料ガスの化学プロセスにおいて、ふく射の空洞量子効果を効率的に活用するとともに、より低温でのプロセスの実施が可能となる。ここで、本発明によれば、特に複数の球形ミクロ空洞を連続させ、かつ互いに連通させて形成したことで、隣り合うミクロ空洞同士をつなぐ特別な微小流路を形成する必要がないため、構造体内の流路構造が比較的単純となり、大量の原料ガスを処理する用途への適用が容易となる。そして、本発明によれば、このようなミクロ空洞構造体の採用により、水素生成プロセスにおいて、ふく射の空洞量子効果を活用し、効率的に水素を生成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る水素生成装置の全体構成図
【図2】同上実施形態に係るミクロ空洞構造体の製造プロセスの説明図
【図3】ミクロ空洞内の共振スペクトルと、原料ガスの吸収帯との関係
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る水素生成装置の全体的な構成を示している。
本実施形態では、天然ガスの主成分であるメタン(CH)及び水蒸気を原料ガスとし、このメタンの水蒸気改質反応によって水素を生成する場合について説明する。
【0011】
本実施形態に係る水素生成装置は、大きく分けて原料ガス供給部A、改質反応部B及び生成ガス回収部Cから構成される。
原料ガス供給部Aは、メタンガスボンベ1、窒素ボンベ2及び貯留槽3を備えている。メタンガスボンベ1は、改質対象とするメタンガスを貯蔵し、窒素ボンベ2は、水蒸気改質反応による水素の生成に先立って貯留槽3及びミクロ空洞構造体8を含む系全体に充填させる窒素ガスを貯蔵している。貯留槽3は、原料ガスであるメタン及び水蒸気の混合ガスを一時的に貯留し、この混合ガスを安定させるためのものである。メタンガスボンベ1及び窒素ボンベ2は、分岐管4a,4b及び集合管5を介して貯留槽3と接続されている。メタンガスボンベ1及び窒素ボンベ2から貯留槽3へのガス供給量は、分岐管4a,4bに介装された流量調節弁6a,6bによって制御することができる。窒素ボンベ2内の窒素ガスで系全体を充填させた後、遮断弁v1を開けることによって貯留槽3内にメタンガスを流入させる。これに対し、水蒸気は、導入管7を通じて集合管5に水を導入し、この水を貯留槽3内で蒸発させることによって供給する。貯留槽3の内部は、160℃前後の温度に調節する。
【0012】
改質反応部Bは、本実施形態に係るミクロ空洞構造体8と、電気炉(「加熱炉」に相当する。)9とを備えている。電気炉9により、ミクロ空洞構造体8内での水蒸気改質反応に関する温度条件を調節することが可能である。ミクロ空洞構造体8内のミクロ空洞は、原料ガス供給管10を介して貯留槽3の内部と連通接続されており、遮断弁v2を開けることにより、ミクロ空洞に対してこの原料ガス供給管10を通じて安定後の混合ガスを供給する。
【0013】
生成ガス回収部Cは、ミクロ空洞構造体9と接続された生成ガス回収管11を備えており、この生成ガス回収管11を通じてミクロ空洞構造体8内で生じた水素を回収する。回収した水素は、燃料電池の負極ガス等として用いることができるが、本実施形態では、この生成ガス回収部Cに、生成ガスの流量を測定する流量計12と、生成ガスの一部をサンプリングするミクロシリンジ13を設けている。流量計12の測定値は、ビデオカメラ14によって監視し、サンプリングした生成ガスは、ガスクロマトグラフ分析計15によって分析する。
【0014】
ここで、図2を参照して、本実施形態に係るミクロ空洞構造体8の製造プロセスについて説明する。
均一なミクロオーダ粒径のラテックス粒子Pを用意し、図2(a)に示すように、このラテックス粒子Pを、ニッケル又はルテニウム等の触媒の原料となる物質Mの懸濁液中に浸漬させて、ラテックス粒子Pの表面にこの触媒物質Mを吸着させる。これに続き、図2(b)に示すように、触媒物質Mが吸着したラテックス粒子Pと、セラミックスCの溶液とをガラスパイプG内に封入する。そして、図2(c)に示すように、このガラスパイプGを加熱炉H内に設置し、真空ポンプPumpによって曝気して気泡を取り除き、セラミックスCを乾燥させる。乾燥後、ラテックス粒子Pが懸濁したセラミックスCを加熱炉Hによって加熱し、還元雰囲気下で焼成する。焼成時の熱によってラテックス粒子Pが分解消失することで、焼結セラミックスの内部において、多数の球形ミクロ空洞が連続した流路が形成されるとともに、ラテックス粒子Pの表面に吸着していた触媒物質Mが、焼結セラミックスの球形空洞内面に付着する。このように、還元された触媒物質Mを球形のセラミックス内面に担持付着させることで、前掲特許文献1の技術において問題となった、触媒物質が高温下で凝集する現象を抑制することができる。本実施形態では、この焼結セラミックス自体によってミクロ空洞構造体8を形成する。
【0015】
本実施形態では、メタンの水蒸気改質を行うため、ラテックス粒子の粒径を5〜6μm程度としているが、適正な内径及び数密度のミクロ空洞の作成には、逆オパール構造体の製造法(Diguna et al, Material Science and Engineering, p.1514, 2007)を参照することができる。
【0016】
ミクロ空洞の具体的な設計について、以下に説明する。

(球形ミクロ空洞の有利性について)
プランクの空洞ふく射理論は、空洞のサイズ(内径)が波長よりも充分に大きいという前提に基づいている。その一方で、ミクロ空洞内では、空洞のサイズが赤外域のふく射の波長と同程度の大きさであるため、空洞の壁面形状がミクロ空洞内のふく射場に大きな影響を与えると考えられる。このようなミクロ空洞内のふく射場について、微小空洞共振理論を用いた解析に関する研究報告が存在する。
【0017】
空洞内の電磁界は、以下に示すMaxellの方程式によって表される。
【0018】
【数1】

【0019】
【数2】

【0020】
【数3】

【0021】
【数4】

【0022】
上式(1)〜(4)より、空洞内の電場Eは、次のように導かれる。
【0023】
【数5】

【0024】
ここで、本実施形態に係るミクロ空洞を半径aの球形の閉空洞とし、更にその壁面を完全導体と仮定する。
上記Maxwellの方程式を極座標に変換する。完全導体中には電磁界が存在しないので、境界条件は、次のようである。
【0025】
【数6】

【0026】
この境界条件のもとでMaxwellの方程式を解くと、球形空洞内の共振波長λは、次のように求めることができる。
【0027】
【数7】

【0028】
ここで、上式(6)中のq’npは、球ベッセル関数の根であり、n及びpに応じて表1のように与えられる。
【0029】
【表1】

【0030】
例えば、水蒸気についていえば、その固有振動数に適合する共振波長であるλ=6.3μmを与える空洞の内径d(=2a)は、n=p=1の場合において、上式(6)によって5.5μmとなる。
【0031】
空洞共振器のQ値は、下式(7)によって与えられる。
【0032】
【数8】

【0033】
従って、n=p=1の場合に、球形空洞のQ値は、Q=1.01η/Rとなる。ここで、η及びRは、夫々真空中の誘電率、導体の共振周波数における抵抗である。
これに対し、方形空洞によって構成される空洞共振器のQ値は、Q=0.74η/Rであるから、球形空洞のほうが方形空洞よりも空洞内に蓄えることのできる電磁波エネルギーが大きいことが分かる。
【0034】

(触媒の選定について)
炭化水素系のガス燃料の水蒸気改質における主な反応は、下式(8)〜(9)によって表される。
【0035】
+nHO→nCO+(n+m/2)H(−ΔH298<0) ・・・(8)
CO+HO→CO+H(−ΔH298=41.2kJmol−1) ・・・(9)
CO+3H→CH+HO(−ΔH298=206.2kJmol−1) ・・・(10)
上式(8)〜(10)のうち、(8)式を水蒸気改質反応、(9)式をシフト反応、(10)式をメタネーション反応という。原料がメタンガスである場合は、(10)式の逆反応が水蒸気改質反応となる。ここで、メタンガスを原料とする場合の水蒸気改質反応及びシフト反応を組み合わせた総括反応は、次のように表される。
【0036】
CH+2HO→CO+4H(ΔH298=165kJmol−1) ・・・(11)
水蒸気改質反応は、上式(10)の逆反応から、吸熱反応であることが分かる。従って、これまでの工業生産用施設では、反応熱の供給及び回収が重要な課題であった。一般的な施設では、反応に関する温度条件が反応管入口部の温度で450〜650℃、反応管出口部の温度で、目的に応じて700〜900℃にもなっている。そこで、反応管の材質には、長時間に亘る過酷な条件での使用に耐え得るものであることが要求される。そして、触媒についても同様に過酷な条件に対する耐性が必要であり、多孔質体にニッケルを担持させたものが広く使用されている。
【0037】
炭化水素の種類を変えても最終的に得られるガスの組成は、上式(9),(10)によって算出される熱力学的平衡組成となるため、生成ガスの組成は、反応温度、圧力及びガス燃料に対する水蒸気比に応じて一義的に定まる。これらのパラメータを変化させた場合に得られる生成ガスの組成を分析することで、高温低圧の条件では水素及び一酸化炭素を主成分とする生成ガスが得られ、低温高圧の条件ではメタンを主成分とする生成ガスが得られる(触媒学会編、工業触媒反応、pp264−267(1985))。
【0038】
水蒸気改質用の触媒は、メタンに対する活性を有する物質として、ニッケル及びそれ以外の他の貴金属(例えば、ルテニウム及び白金)を用いることができる。ニッケルは、メタンに対して比較的高い活性を有すること、及び入手が容易であることから、水蒸気改質用の触媒物質として広く使用されている。これらの貴金属は、いずれも本実施形態に係る触媒物質として用いることができ、そのメタンに対する活性を示すと、次のような序列となる。
【0039】
Rh,Ru>Ni>Ir>Pd,Pt>Co,Fe

(ミクロ空洞の内径の設定について)
本実施形態では、原料ガスをメタン及び水蒸気としているが、これらのガスは、一般的にふく射性ガスと呼ばれており、特定波長の電磁波に対して相互作用を生じることが知られている。ここで、ガスのふく射性について述べる。
【0040】
塩化水素及び一酸化炭素等の異種原子から構成される極性を有する2原子ガスや、メタン及び水蒸気等の多原子ガスは、構成原子の回転及び振動といった運動を介して電磁波とエネルギー交換を行う(円山重直、光エネルギー工学(14)、機械の研究、第53巻第11号、pp57−64(2001))。
【0041】
水蒸気は、H−O−Hの非対称コマ構造をなしており、純回転吸収帯と、振動−回転吸収帯とを併せた吸収線の位置が略ランダムに、かつ広い範囲に亘って存在する。水蒸気の赤外域における主な吸収帯を表2に示す。水蒸気は、6.3μm付近に最も大きな吸収帯を有する。
【0042】
【表2】

【0043】
これに対し、メタンは、対称コマ構造をなしており、その振動モードは、4つの独立なモードを有する。これらのうち赤外吸収に関連するのは、2つのモードである。表3は、メタンの赤外域における主な吸収帯を示している。メタンは、3.3μm及び7.6μm付近に比較的大きな吸収帯を有する。
【0044】
【表3】

【0045】
ミクロ空洞内のふく射場の解析方法を用いて、メタンの水蒸気改質プロセスに適するミクロ空洞の内径を決定する。
表2,3より、水蒸気及びメタンのそれぞれについて最も大きな吸収強度を示すのは、6.27058μm、3.31244μmの吸収線である。そこで、これらの吸収線及び吸収帯に、ミクロ空洞の共振波長(空洞共振波長)を合致させるようにする。
【0046】
空洞内における電磁波の共振波長は、上式(6)によって求めることができる。この共振波長は、様々なモードによって無限の分布を有する。その共振パラメータは、表1の球ベッセル関数の根として表される。従って、この共振パラメータに応じ、球形空洞の共振波長を原料ガスの電磁波吸収帯に合致させるようにミクロ空洞の内径を決定することで、原料ガスを特定波長の電磁波によって励起加熱することが可能となる。
【0047】
原料ガスの吸収帯に合致させる共振モードは、高いエネルギーを有していることが望まれるが、本実施形態では、メタン及び水蒸気の吸収線に対し、できるだけ低次のモードを合致させることとする。
【0048】
空洞内のモード(p,n)のうち、最も単純なモードである(1,1)の場合及び(1,2)の場合の共振波長を夫々6.27058μm及び3.31244μmの吸収線に合致させる場合は、表1を参照して上式(6)に各条件を代入することで、ミクロ空洞の内径dを算出することができる。
【0049】
以上で述べた解析では、空洞の内壁を完全導体と仮定したので、空洞内の波長に対するエネルギー分布は、幅を持たないピークが離散的に存在する分布となる。実際の空洞では、内壁に触媒物質である貴金属(本実施形態では、ニッケル及び白金等)がコーティングされており、これらの触媒物質は、有限の導電率を有する。従って、内壁においてエネルギー損失が生じるため、空洞内の共振スペクトルには広がりがあると考えられる。この共振スペクトルの広がりについて以下に述べる。
【0050】
導電率は、電磁場の変動周波数(本実施形態では、ふく射の波長)に依存する。導体中の自由電子に電界E=|E|jωtが作用した場合の電子の運動方程式は、次式(12)によって表される。
【0051】
【数9】

【0052】
ここで、m及びeは、夫々電子の質量、電荷である。γは、電子の減衰定数であり、その逆数τは、緩和時間である。rは、位置ベクトルであり、電子の平衡点からの移動距離を示す。上式(12)を解析することにより、導電率σは、次式(13)によって与えられる。
【0053】
【数10】

【0054】
ここで、σは、電場の変化がない場合の導電率である。緩和時間τの推定では、自由電子をばね定数が0の振動子としてモデル化したドルーデモデルを用いた。このモデルによると、複素屈折率及び緩和時間τの関係は、下式(14)のように表される。
【0055】
【数11】

【0056】
上式(14)中のn及びkは、複素屈折率の実部、虚部を示し、ε’及びε”は、複素誘電関数の実部、虚部を示す。ωは、プラズマ角振動数である。上式(14)を連立させて解くことにより、緩和時間τに関して次のような式が得られ、その値を推定することができる。
【0057】
【数12】

【0058】
共振スペクトルの広がりを評価するため、Q値を求める。Q値は、ローレンツ分布におけるピークの半値幅を与える値として、次のように定義される。
【0059】
【数13】

【0060】
本実施形態において、上式(16)における空洞内の振動エネルギーP及び1周期あたりの振動エネルギーの損失ΔPは、電磁界解析ソフトウェアである商品名「MAFIA」を用いて計算した。
【0061】
図3は、上記2つの波長に対応する共振スペクトルのふく射強度と、メタン及び水蒸気に対する吸収強度とを示している。同図中右に水蒸気に関するプロットを示し、左にメタンに関するプロットを示している。図3から分かるように、共振スペクトルの広がりは、メタン及び水蒸気の吸収帯を適度に包含している。
【0062】
ミクロ空洞構造体内における実際の流れでは、ミクロ空洞同士をつなぐ細孔が存在するので、境界条件は、上記の計算に関して設定したものよりも複雑となる。これは、共振スペクトルの広がりを更に拡大させる要因になると考えられる。従って、ミクロ空洞の共振波長は、原料ガスの電磁波吸収帯に完全に一致している必要はなく、ある程度の幅を持って設定することが可能である。例えば、ミクロ空洞の内径は、略5〜6μmの範囲内で設定することができる。
【0063】
実際のミクロ空洞内では、吸収帯の存在する波長域に他の複数の振動モードが存在するため、各振動モードにどのようにエネルギーが分散しているかを考慮して、ミクロ空洞内の全てのエネルギー分布を反映させるのが好ましい。
【0064】

以上で述べたように、本実施形態によれば、連続した球形ミクロ空洞を形成し、このミクロ空洞の内径を、原料ガスであるメタン及び水蒸気の電磁波吸収帯と合致する空洞共振波長が得られる内径aとしたことで、メタンの水蒸気改質プロセスにおいて、特定波長の電磁波によってメタンガス及び水蒸気を励起加熱して、メタンの熱分解を促進することができる。その一方で、改質によって生じる水素及び酸素の吸収帯は、上記原料ガスの吸収帯とは大きく異なるため、電磁波によって励起されることなく、ミクロ空洞同士をつなぐ細孔や、セラミックス自体の空隙を通じてミクロ空洞構造体8から排出される。従って、本実施形態によれば、メタンの水蒸気改質プロセスにおいて、ふく射の空洞量子効果を効率的に活用して、より低温で改質を行い、水素を効率的に生成することが可能となる。
【0065】
そして、本実施形態によれば、ミクロ空洞を球状にしたことに加え、ミクロ空洞構造体8をセラミックスによって作製したことで、触媒物質の使用量を削減することともに、触媒物質がセラミックスの内面上でナノスケールの隙間に分散されるため、触媒物質の高温下での凝集現象を防止することができる。
【0066】
本発明は、メタンの水蒸気改質プロセスに限らず、高温水蒸気電解及び水蒸気の直接熱分解等、他の化学プロセスに適用することもできる。高温水蒸気電解では、水蒸気の電磁波吸収帯にミクロ空洞の共振波長を合致させることで、水蒸気を効率よく分解し、水素を生成することができる。ミクロ空洞構造体をセラミックス製とするとともに、触媒物質として水蒸気熱分解性のものを採用することで、高温下での水の直接熱分解も可能である。ここで、熱力学的非平衡状態の反応が達成されることで、従来の高温水蒸気電解及び水蒸気の直接熱分解では達成することのできなかった比較的低温下での反応を起こすことが可能である。
【0067】
燃料電池自動車に搭載される水素改質器及び小型水素ステーションでの水素の製造には、低温で高効率に作動する水素製造装置が不可欠である。本発明は、以上で述べたように低温で効率よく水素を生成することを可能とするものであるから、自動車搭載型の水素製造装置の実用化に貢献する。
【符号の説明】
【0068】
1…メタンガスボンベ、2…窒素ボンベ、3…貯留槽、8…ミクロ空洞構造体、9…電気炉、P…ラテックス粒子、M…触媒物質、C…セラミックス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ふく射性ガスを原料とする化学プロセスに用いるミクロ空洞構造体であって、
ガスを透過させるための導入口及び排出口と、前記導入口及び排出口の間で連続し、かつ互いに連通した複数の球形ミクロ空洞とを有するとともに、
前記ミクロ空洞を形成する構造体内壁部の表面に触媒物質を担持し、
前記ミクロ空洞が、夫々前記原料ガスの電磁波吸収帯と合致する空洞共振波長が得られる内径であることにより、前記ミクロ空洞内において、前記吸収帯に近い特定波長の電磁波によって前記原料ガスが励起加熱される一方、前記原料ガスから生じた生成ガスの励起が抑えられる、ガス分子の熱力学的非平衡状態が形成されるミクロ空洞構造体。
【請求項2】
前記原料ガスが炭化水素ガス又は水蒸気である請求項1に記載のミクロ空洞構造体。
【請求項3】
前記触媒物質がニッケル、白金及びルテニウムのうち少なくとも1つである請求項1又は2に記載のミクロ空洞構造体。
【請求項4】
前記触媒物質が水蒸気熱分解性の触媒物質である請求項1又は2に記載のミクロ空洞構造体。
【請求項5】
前記ミクロ空洞の内径が略5.0〜6.0μmである請求項1〜4のいずれかに記載のミクロ空洞構造体。
【請求項6】
前記内径に略等しい粒径のラテックス粒子の表面に前記触媒物質を吸着させ、この触媒物質が吸着したラテックス粒子をセラミックス中に懸濁させ、更に前記ラテックス粒子及びセラミックスを乾燥後焼成して、前記ラテックス粒子を熱分解させることで作製した請求項1〜5のいずれかに記載のミクロ空洞構造体。
【請求項7】
少なくとも前記構造体内壁部がセラミックスからなる請求項1〜5のいずれかに記載のミクロ空洞構造体。
【請求項8】
前記セラミックスが安定化ジルコニアである請求項6又は7に記載のミクロ空洞構造体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のミクロ空洞構造体を含んで構成され、
前記原料ガスである炭化水素ガス及び水蒸気を、前記導入口を通じて前記ミクロ空洞に供給し、
前記ミクロ空洞内で前記炭化水素ガスから生じた水素を、前記排出口を介して回収する水素生成装置。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載のミクロ空洞構造体を含んで構成され、
前記原料ガスである水蒸気を、前記導入口を通じて前記ミクロ空洞に供給し、
前記ミクロ空洞内で前記水蒸気から生じた水素を、前記排出口を介して回収する水素生成装置。
【請求項11】
前記ミクロ空洞構造体を加熱する加熱炉を更に含んで構成される請求項9又は10に記載の水素生成装置。
【請求項12】
所定のミクロオーダ粒径のラテックス粒子の表面に触媒物質を吸着させ、この触媒物質が吸着したラテックス粒子をセラミックス中に懸濁させ、更に前記ラテックス粒子及びセラミックスを乾燥後焼成して、前記ラテックス粒子を熱分解させることで作製される、連続した複数の球形ミクロ空洞を形成する焼結セラミックスの内面に、前記触媒物質を担持したミクロ空洞構造体。
【請求項13】
原料ガスの改質部において、互いに連通し、かつ連続した複数の球形ミクロ空洞を形成する通路形成ステップと、
原料ガスである炭化水素ガス及び水蒸気を前記ミクロ空洞に供給して、前記ミクロ空洞内において、触媒の存在下で前記炭化水素ガスの水蒸気改質反応を生じさせるガス反応ステップと、
前記ミクロ空洞内で生じた水素を回収するガス回収ステップと、
を有し、
前記ガス反応ステップは、前記ミクロ空洞内に、前記原料ガスの電磁波吸収帯に近い特定波長の電磁波を生じさせて、前記原料ガス及びこれより生じた生成ガスのうち、前記原料ガスのみをこの電磁波によって励起加熱する水蒸気改質方法。
【請求項14】
原料ガスの改質部において、互いに連通し、かつ連続した複数の球形ミクロ空洞を形成する通路形成ステップと、
原料ガスである水蒸気を前記ミクロ空洞に供給して、前記ミクロ空洞内において、触媒の存在下で前記水蒸気の熱分解反応を生じさせるガス反応ステップと、
前記ミクロ空洞内で生じた水素及び酸素を回収するガス回収ステップと、
を有し、
前記ガス反応ステップは、前記ミクロ空洞内に、前記原料ガスの電磁波吸収帯に近い特定波長の電磁波を生じさせて、前記原料ガス及びこれより生じた生成ガスのうち、前記原料ガスのみをこの電磁波によって励起加熱する水蒸気の熱分解方法。
【請求項15】
原料ガスの改質部において、互いに連通し、かつ連続した複数の球形ミクロ空洞を形成する通路形成ステップと、
前記ミクロ空洞内に電場を印加する電場形成ステップと、
原料ガスである水蒸気を加熱して、高温水蒸気を取得するガス加熱ステップと、
前記高温水蒸気を前記ミクロ空洞に供給して、前記ミクロ空洞内において、触媒の存在下で高温水蒸気電解を生じさせるガス反応ステップと、
前記高温水蒸気電解によって生じた水素及び酸素を回収するガス回収ステップと、
を有し、
前記ガス反応ステップは、前記ミクロ空洞内に、前記原料ガスの電磁波吸収帯に近い特定波長の電磁波を生じさせて、前記原料ガス及びこれより生じた生成ガスのうち、前記原料ガスのみをこの電磁波によって励起加熱する高温水蒸気電解方法。
【請求項16】
所定のミクロオーダ粒径のラテックス粒子の表面に触媒物質を吸着させるステップと、
前記触媒物質が吸着したラテックス粒子をセラミックス中に懸濁させるステップと、
前記ラテックス粒子が懸濁したセラミックスを乾燥させた後焼成し、前記ラテックス粒子を熱分解させて、連続した複数の球形ミクロ空洞の内面に前記触媒物質が担持した焼結セラミックスを取得するステップと、
を有する、
ミクロ空洞を有する構造体の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−215420(P2010−215420A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60622(P2009−60622)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】