ミシンの自動糸切り装置
【課題】 水平釜を使用したミシンの自動糸切り装置を提供すること。
【解決手段】 水平釜を具備したミシンにおいて、糸切り命令により往復動する捕捉部材4を有し,常時は該捕捉部材4の復動時に上糸を捕捉する捕捉手段と、該捕捉手段と共に往復動する可動メス5と,前記捕捉手段により案内された糸を前記可動メス5と共に切断する固定メス14とを有する切断手段と、前記下糸29dの切断時のみ前記捕捉手段に前記下糸29dを捕捉させる押え手段とからなること。前記下糸29dの切断時には、前記切断手段の捕捉部材4の復動と共に前記押え手段が下降して、前記下糸29dを下方に押さえると共に該下糸29dを復動する前記捕捉部材4に捕捉させること。
【解決手段】 水平釜を具備したミシンにおいて、糸切り命令により往復動する捕捉部材4を有し,常時は該捕捉部材4の復動時に上糸を捕捉する捕捉手段と、該捕捉手段と共に往復動する可動メス5と,前記捕捉手段により案内された糸を前記可動メス5と共に切断する固定メス14とを有する切断手段と、前記下糸29dの切断時のみ前記捕捉手段に前記下糸29dを捕捉させる押え手段とからなること。前記下糸29dの切断時には、前記切断手段の捕捉部材4の復動と共に前記押え手段が下降して、前記下糸29dを下方に押さえると共に該下糸29dを復動する前記捕捉部材4に捕捉させること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水平釜を使用したミシンの自動糸切り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ミシンの自動糸切り装置において、垂直釜を用いたミシンでは、針板と釜との間でほぼ垂直な経路をとる糸を水平移動する可動メスが捕捉し切断することができた。一方、水平釜を使用したミシンの自動糸切り装置では、針板の針穴から水平釜に至る上糸・下糸が垂直ではなく斜めの経路をとる為、可動メスによる糸の捕捉が安定せず、糸切りミスを起こしていた。水平釜を用いたミシンの糸切り装置には、特許公報第2583394号(ジューキ株式会社)等があるが、この装置は糸捕捉時に糸押え部材により上糸・下糸共に糸捕捉部より下方に押し下げて、両糸を捕捉し切断している。
【特許文献1】特許第2583394号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1では、水平釜を使用し上下糸を可動メスと固定メスとの協働で切断するものである。すなわち、特許文献1によれば、上糸と下糸は、切断時には、常時共に切断されてしまう。しかしながら、ミシンで刺しゅう縫いの作業を行なっている時など、その刺しゅうの絵模様に従って、上糸の色のみを変更する場合等では、上糸のみを交換し、下糸はそのまま使用する方が作業効率がはかどるものである。そのために、上糸と下糸の切断において、必要に応じて上糸のみが切断されるような切断機構の開発が望まれている。本発明の目的は、上記要望に応じるものであり、上糸と下糸との切断において、両糸を切断するのみならず、必要に応じて上糸のみを切断し、下糸はそのまま使用し続けることができるようにして、作業効率を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意,研究を重ねた結果、請求項1の発明は、水平釜を具備したミシンにおいて、糸切り命令により往復動する捕捉部材を有し,常時は該捕捉部材の復動時に上糸を捕捉する捕捉手段と、該捕捉手段と共に往復動する可動メスと,前記捕捉手段により案内された糸を前記可動メスと共に切断する固定メスとを有する切断手段と、前記下糸の切断時のみ前記捕捉手段に前記下糸を捕捉させる押え手段とからなり、前記下糸の切断時には、前記切断手段の捕捉部材の復動と共に前記押え手段が下降して、前記下糸を下方に押さえると共に該下糸を復動する前記捕捉部材に捕捉させてなるミシンの自動糸切り装置としたことにより、上記課題を解決した。
【0005】
次に、請求項2の発明は、水平釜を具備したミシンにおいて、糸切り命令により往復動する可動メスと該可動メスと共に糸切断を行なう固定メスとからなる切断手段と、通常は下糸の通過経路の下方位置を前記可動メスと共に往復動し,その復動時は常時上糸のみを捕捉すると共に前記固定メスによる糸切り位置まで前記上糸を案内する捕捉部材を有する捕捉手段と、前記下糸を切断するときのみ前記捕捉部材による捕捉可能な位置へ案内する押え部材を有する押え手段とからなり、前記下糸の切断時には、前記切断手段の捕捉部材の復動と共に前記押え手段の押え部材が下降して、前記下糸を下方に押さえると共に該下糸を復動する前記捕捉部材に捕捉させてなるミシンの自動糸切り装置としたことにより、上記課題を解決した。
【0006】
次に、請求項3の発明は、前述の構成において、前記押え手段は、水平釜内のボビンから針板の針穴に通じる下糸の通過経路の上方を横断すると共に前記捕捉手段の捕捉部材の往復運動経路に沿って配置される軸状押え部と該軸状押え部の長手方向両端に形成された揺動腕部とからなり、前記軸状押え部は、捕捉部材の復動時のみ下方に下がるミシンの自動糸切り装置としたことにより、上記課題を解決した。
【0007】
次に、請求項4の発明は、前述の構成において、前記押え手段の駆動手段は、ステッピングモータによって行なわれてなるミシンの自動糸切り装置としたことにより、上記課題を解決した。次に、請求項5の発明は、前述の構成において、前記押え手段の駆動手段は、カムによって行なわれてなるミシンの自動糸切り装置としたことにより、上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、押え手段の作動を制御することにより、下糸の切断の有無を選択可能とすることができる。すなわち、押え手段の作動及び非作動により、捕捉手段及び切断手段による下糸切断の有無の選択が可能となる。これによって、下糸の切断を行なわない場合には、上糸のみが切断されることになり、刺しゅう縫いの色替えなどで下糸を連続させたままで、上糸のみ替えるという作業ができる。又、本発明は、水平往復運動する捕捉部材は、その復動時にのみ糸を捕捉する構成としているので、糸の捕捉に関して誤動作が生じにくいものにできる。
【0009】
又、本発明は、前記押え手段は、水平釜内のボビンから針板の針穴に通じる下糸の経路の上方を横断すると共に前記捕捉手段の捕捉部材の往復運動経路に沿って配置される軸状押え部を有するもので、その上下糸を広い範囲に亘って押さえつけることができ、捕捉手段による確実な上下糸の捕捉を行なうことができる。
【0010】
又、本発明は、前記押え手段の駆動手段は、ステッピングモータによって行なわれていることで、押え手段の構造を簡単にすることができる。又、本発明は、カムによって、押え手段の動作を確実なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本発明の構成は、主に上糸29uと下糸29dの切断手段,捕捉手段及び押え手段から構成される。また、その切断手段,捕捉手段,押え手段は、ミシン本体のベッド12の針板30,外釜3の箇所に組み込まれるものであって、具体的には、図4に示すように、前記ベッド12の箇所には、針1の手前側に釜軸2を中心として回転する外釜3が配置され、該外釜3の周囲に前記切断手段,捕捉手段,押え手段が配置される。前記針1の奥側には、上下方向・水平方向に運動自在に配置された送り歯6が設けられている。また、前記外釜3の中に内釜38が収納され、該内釜38の中に下糸29dを巻いたボビン13が収納される〔図2(a)参照〕。その針1の手前側には、外釜3を跨いで、捕捉部材4、可動メス5の運動方向に沿うように糸押え部材7が配置される。
【0012】
まず、切断手段は、可動メス5と固定メス14とから構成される。また、捕捉手段は、捕捉部材4から構成される。その切断手段における可動メス5,固定メス14及び捕捉手段における捕捉部材4は、図1,図5,図6等に示すように、1枚の台板23上に設けられている。その捕捉部材4及び可動メス5は、薄板又は略帯板形状に形成されたものであり、前記捕捉部材4は、図5,図6(a),(b)に示すように、帯板形状の摺動板部4cの長手方向先端には、上糸29u及び下糸29dの捕捉部4aが形成され、該捕捉部4aが形成された付近の摺動板部4cには、捕捉切除部4bが形成されている。前記捕捉部4aは、略三角板状に形成されたものであって、前記摺動板部4cの長手方向先端付近で、且つその幅方向の一端側縁から前記摺動板部4cの平坦面に対して略々垂直に折曲形成されたものである。また、前記捕捉切除部4bは、前記摺動板部4cの幅方向一端縁から摺動板部4cの長手方向先端に向かって略U字形状に切り込まれている〔図1,図6(b)等参照〕。
【0013】
この捕捉手段における捕捉部材4は、前記捕捉部4aにて係止された上糸29u及び下糸29dがその捕捉切除部4bに入り込み、固定メス14の下面側に移送させるものである。前記捕捉部4aの形状は、前述したように略三角形状に形成されており、特に、上糸29u,下糸29dを捕捉する捕捉係止部4a1 と摺動板部4cとのなす角度θは鋭角に形成される〔図9(a)参照〕。また、前記捕捉切除部4bの内部は、図1に示すように、捕捉部材4が長手方向先端に向かって切除されたもので、捕捉部4aによって捕捉された上糸29u及び下糸29dが外れ難いように、確実に係止することができるようになっている。前記可動メス5は、帯板状に形成され、その長手方向の先端箇所に略鉤形状として形成されたものである。その可動メス5のメス刃部付近は、その先端寄りの箇所が幅方向に狭なる領域が形成、先端箇所のメス刃部が略直角状に屈曲されたものである。
【0014】
その捕捉部材4と可動メス5とが、図2(a),図3(a),図5等に示すように、上下方向に重合されビス等の固着具にて、固着され一体化されている。そして、前記台板23に対して捕捉部材4が可動メス5と共に長手方向に沿って往復移動することができるようになっている。前記台板23には、図5,図6に示すように、前記捕捉部材4が長手方向に沿って往復動するためのガイド溝23aが形成されている。該ガイド溝23aは、略長方形の長孔状に形成されたものである。
【0015】
そのガイド溝23aには、スライド部材4dが挿入され、前記ガイド溝23a内をその長孔の長手方向に沿って往復移動が自在となっている。そのスライド部材4dは、略直方体の小ブロックであり、このスライド部材4dと前記捕捉部材4の摺動板部4cとが前記可動メス5と共にビス等にて固着されている〔図6(b)参照〕。そして、前記スライド部材4dがガイド溝23a内を往復移動するのに伴って前記捕捉部材4と可動メス5とがその長手方向に沿って往復移動するものである。図6(a)において、矢印Sで示された範囲は、捕捉部材4と可動メス5の水平方向往復運動の移動範囲を示す。
【0016】
前記可動メス5と捕捉部材4との間で、且つ前記可動メス5の下方に位置するようにして、固定メス14と糸ガイド15が配置されている。前記可動メス5の上方には、該可動メス5を加圧するようにして可動メス押え部16が配置されている。そして、前記固定メス14,糸ガイド15及び可動メス押え部16は、前記台板23上にビス等の固着具にて固着されている(図5,図6等参照)。
【0017】
次に、前記捕捉部材4及び可動メス5には、駆動板22が固着されている〔図5,図6(a)等参照〕。該駆動板22には、前記台板23の裏面側に装着された従動リンク35に枢支連結されている。該従動リンク35は、その長手方向一端が前記台板23に枢支され、その枢支部を中心にして揺動自在としている〔図6(b),(c)参照〕。その従動リンク35と前記駆動板22は、ピン接合によって枢支連結されたもので、該駆動板22にはピン22aが装着され、前記従動リンク35には長孔35aが形成され、前記ピン22aが前記長孔35aに遊挿されている〔図6(c)参照〕。
【0018】
なお、前記ピン22aは、前記従動リンク35に装着され、前記長孔35aは前記駆動板22側に形成されても構わない。そして、前記従動リンク35は、駆動リンク36にピン接合により枢支連結されている。この枢支連結構造も前述したように、ピンと長孔の構成である。本実施形態では、前記従動リンク35の長手方向の略中間箇所にピン35bが装着され、前記駆動リンク36の長手方向端部箇所に長孔36aが形成されたものである〔図6(c)参照〕。
【0019】
前記駆動リンク36は、後述するメス駆動カム32によって規則的なカム動作を行なうものである。該メス駆動カム32は、図7に示すように、ベッド12内部に装着された下軸31に装着され、該下軸31と共に回転し、前記駆動リンク36にカム動作を伝達するものである。そして、該駆動リンク36から前記従動リンク35及び駆動板22を介して、前記捕捉部材4及び可動メス5が長手方向に往復動作を行わせ、糸切断を行なうことができる。また、メス駆動カム32から駆動板22への動力伝達部は、糸切り信号により動力伝達が可能となり、通常の縫い状態では動力伝達は遮断され、前記捕捉部材4及び前記可動メス5は、図1において最左点の位置に停止している。
【0020】
符号17は、糸切り後のボビンの空転を押さえる為の内釜レバーである。また符号18は、前記内釜レバー17を駆動する空転防止レバーである。さらに、符号19は、内釜の逆転を防止する逆転止めを示す。釜室カバー10には、内釜の回転を規制する回転止め20が固定されている。そして、上糸29uは、前記外釜3の剣先(図示なし)で捕捉され、内釜外周を回って、前記回転止め20を抜けた後、図1に対して最右点で待機している捕捉手段における捕捉部材4の捕捉部4aに掛り捕捉される。
【0021】
その後、前記上糸29uは、前記捕捉部材4の移動と糸ガイド15の案内により、糸切り位置へ導かれる。前記メス駆動カム32から前記駆動板22への動力伝達部は、糸切り信号を発進することにより動力伝達が可能となる。具体的には、図8(a),(b)に示すように、その糸切り信号が発進されると前記駆動リンク36がメス駆動カム32に近接し、前記駆動リンク36に設けられたピン36bがメス駆動カム32のカム溝に入って、メス駆動カム32のカム動作を駆動リンク36,従動リンク35及び駆動板22を介して捕捉部材4及び可動メス5に往復動を行なわせるものである。なお、通常の縫い状態では前記メス駆動カム32と駆動リンク36とは連結しておらず、動力伝達は遮断されており、前記捕捉部材4,可動メス5は、図1に対して最左点の位置に停止状態となる。
【0022】
次に、押え手段については、糸押え部材7がピン8,9により釜室カバー10に揺動自在に枢支連結されている。その糸押え部材7は、軸状押え部7aと揺動腕部7b,7bとから構成されている。前記軸状押え部7aは、略帯板形状をなしており、前記下糸29dを押さえる役目をなす。この押え手段における糸押え部材7の軸状押え部7aを上下方向に揺動させる第1の駆動手段としては、その揺動腕部7b,7bは、図2(b)に示すように、前記軸状押え部7aを上下方向に揺動させる糸押さえ台11に螺子具24等によって、枢支連結されている。具体的には、前記揺動腕部7bの長手方向の略中心位置と前記糸押さえ台11とが枢支連結され、且つ前記揺動腕部7bの長手方向端部(軸状押え部7aが形成されている側と反対側端部)が前記ベッド12内に装着された糸押さえ台11に枢支連結されている〔図4,図2(b)参照〕。
【0023】
その糸押さえ台11は、駆動源に連結しており、前記糸押さえ台11と釜取付け板28との間にばね27が掛けられており、糸押さえ台11は、下方に弾性付勢される。そして、前記下軸25には、糸押えカム26が装着され、下軸25の回転にと共に前記糸押えカム26が回転し、該糸押えカム26の回転に追従して、糸押さえ台11が上下方向に往復移動し、前記糸押え部材7が上下方向に揺動運動を行う。その下軸25は、前述のミシンの縫い動作を駆動する下軸31とは、別の駆動軸である。そして、下軸25は、下糸29dを切断する糸切り信号により回転するものである。
【0024】
次に、糸押え部材7の第2の駆動手段として、アクチュエータで制御する例を図3にて説明する。前記糸押え部材7の揺動腕部7b,7bは、前述したように、前記ベッド12内の糸押さえ台11に枢支連結されて枢支部7dが構成され〔図3(a)参照〕、さらにそれぞれの揺動腕部7bから伝達腕7cが略下向きに形成されている〔図3(b)乃至(c)参照〕。さらに、該伝達腕7cに伝達ピン7c1 が形成され、ステッピングモータ33の軸33aに連結された駆動腕34の二又部34aに前記伝達ピン7c1 が遊挿されている〔図3(b)参照〕。そして、ステッピングモータ33で駆動腕34を揺動することにより、前記伝達腕7cは揺動運動を行い、前記軸状押え部7aを上下方向に揺動させることができる〔図3(c)参照〕。
【0025】
そのステッピングモータ33を適宜の位相に励磁することで、糸押さえ部材7の軸状押え部7aは、上位置に保持することが可能となる。この場合、下糸29dは、前記糸押え部材7で下方に押し下げられないので、捕捉部材4の捕捉部4aに捕捉されることがない。即ち、ステッピングモータ33の制側により、下糸29d捕捉の有無、すなわち下糸29d切断の有無を選択可能にできる。上糸29uは前述のように糸押さえ部材7の上下動に関係無く、糸切り時は常に捕捉部材4に捕捉されて切断される。以上により、上糸29u・下糸29dを確実に切断すると共に、下糸29d切断の有無は選択可能な糸切り装置を提供する。前記上糸29uと下糸29dの捕捉方法を分けたことで、糸押さえ部材7の制御により下糸29d切断の有無を使用者が選択可能とした。
【0026】
次に、本発明における押え手段,捕捉手段及び切断手段によって、下糸29dが切断される工程を説明する。まず、図9(a)乃至(e)は、図2(a)のQ1 −Q1 矢視方向より見た要部のみ記載した糸切断工程の略示工程図である。図10乃至図17における(a)の図面は、図2(a)のQ2 −Q2 矢視方向より見た要部のみ記載した糸切断工程の略示工程図である。また、図10乃至図17における(b)の図面は、糸押え部材7の側面図であり、図9(a)のQ3 −Q3 矢視方向より見た要部のみ記載した糸切断工程の略示工程図である。
【0027】
この工程図では、下糸29dを切断する必要がある場合におけるものである。前記糸押え部材7の軸状押え部7aは、前述したように、前記捕捉部材4と水平釜との間にあって、水平釜内のボビン13から針板30の針穴30aに通じる下糸29dの経路の上方を横断している。さらに、前記軸状押え部7aは、前記捕捉部材4(及び可動メス5)の往復運動経路に沿うようにして配置されている。
【0028】
まず、第1工程は、図9(a),図10(a)に示すように、前記捕捉手段及び切断手段において、捕捉部材4,可動メス5の先端は、図面の左端に位置し、非作動状態であり、前記台板23内に収容されている。このときの押え手段の糸押え部材7の軸状押え部7aは、捕捉部材4の捕捉部4aより上方に位置し、下糸29dも捕捉部4aの頂部より上方に存在している〔図9(a),図10(b)参照〕。
【0029】
次に、第2工程は、下糸29dの切断指令が発令されて、図9(b),図11(a)に示すように、捕捉部材4,可動メス5が往復方向の往方向に沿って移動する〔図9(b)図11(a)の矢印方向参照〕。その捕捉部材4,可動メス5の往方向への移動途中では、前記軸状押え部7aは、前記捕捉部4aより上方に位置している〔図9(b),図11(b)参照〕。そして、第3工程は、その捕捉部4aが往方向終点に達すると、停止する〔図9(c),図12(a)参照〕。また、前記軸状押え部7aは、捕捉部4aの頂部よりも低い位置に降下し〔図9(c)矢印方向参照〕、下糸29dを押し下げる〔図9(c),図12(b)参照〕。
【0030】
次に、第4工程は、往方向終点位置から復方向に移動を開始し〔図9(d),図13(a)矢印方向参照〕、その途中で、捕捉部4aが下糸29dを捕捉する〔図9(d),図13(a),(b)参照〕。さらに、捕捉部4aにより捕捉された下糸29dは、捕捉切除部4bに入り込み、下糸29dの捕捉状態をより一層確実なものにする〔図14(a),(b)参照〕。
【0031】
次に、第5工程は、捕捉された下糸29dが捕捉部材4と共に復方向に沿って移動し、下糸29dを固定メス14の位置に案内する〔図9(e),図15(a),(b)参照〕。そして、前記可動メス5と固定メス14により捕捉した下糸29dを切断する(図16,図17参照)。ここで、切断指令が解除されると、前記糸押え部材7の軸状押え部7aは、元の高さに復帰し、下糸29dは捕捉部材4により捕捉されない状態となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明における切断手段,捕捉手段及び押え手段を備えた外釜周辺の平面図である。
【図2】(a)は外釜とボビンが収納された内釜と切断手段,捕捉手段及び押え手段の構造を示す縦断側面図、(b)は押え部材を揺動させる第1の駆動手段の拡大図である。
【図3】(a)は外釜とボビンが収納された内釜と切断手段,捕捉手段及び押え手段の構造を示す縦断側面図、(b)は押え部材を揺動させる第2の駆動手段の非作動時の要部拡大図、(c)は押え部材を揺動させる第2の駆動手段の作動時の要部拡大図である。
【図4】針板を外した外釜周辺の斜視図である。
【図5】台板に切断手段及び捕捉手段が装着された斜視図である。
【図6】(a)は台板に切断手段及び捕捉手段が装着された平面図、(b)は台板に切断手段及び捕捉手段が装着された背面図、(c)は台板に駆動リンクを備えた背面図である。
【図7】はベッドの底面より見た内部機構図である。
【図8】(a)はメス駆動カムと駆動リンクとが非伝達状態とした一部断面にした正面図、(b)はメス駆動カムと駆動リンクとが伝達状態とした一部断面にした正面図である。
【図9】(a)乃至(e)は図2のQ1 −Q1 矢視方向から見た本発明の下糸の切断工程を示す略示工程図である。
【図10】(a)は切断開始直前の工程を示す平面図、(b)は(a)の側面図である。
【図11】(a)は捕捉部材及び可動メスが往動途中の工程を示す平面略示図、(b)は(a)の側面図である。
【図12】(a)は捕捉部材及び可動メスが往路の終端に達した工程を示す平面略示図、(b)は(a)の側面図である。
【図13】(a)は捕捉部材の復動にて捕捉部が下糸を捕捉した工程を示す平面略示図、(b)は(a)の側面図である。
【図14】(a)は捕捉部材の復動にて捕捉切除部に下糸が係止した工程を示す平面略示図、(b)は(a)の側面図である。
【図15】(a)は捕捉部材の復動にて下糸を固定メス箇所に移動させる工程を示す平面略示図、(b)は(a)の側面図である。
【図16】(a)は固定メスと可動メスにて下糸を切断する工程を示す平面略示図、(b)は(a)の側面図である。
【図17】(a)は固定メスと可動メスにて下糸を切断完了した工程を示す平面略示図、(b)は(a)の側面図である。
【符号の説明】
【0033】
4…捕捉部材、5…可動メス、7…糸押え部材、7a…軸状押え部、7b…揺動腕部、13…ボビン、14…固定メス、29d…下糸、29u…上糸、30…針板、
30a…針穴、33…ステッピングモータ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、水平釜を使用したミシンの自動糸切り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ミシンの自動糸切り装置において、垂直釜を用いたミシンでは、針板と釜との間でほぼ垂直な経路をとる糸を水平移動する可動メスが捕捉し切断することができた。一方、水平釜を使用したミシンの自動糸切り装置では、針板の針穴から水平釜に至る上糸・下糸が垂直ではなく斜めの経路をとる為、可動メスによる糸の捕捉が安定せず、糸切りミスを起こしていた。水平釜を用いたミシンの糸切り装置には、特許公報第2583394号(ジューキ株式会社)等があるが、この装置は糸捕捉時に糸押え部材により上糸・下糸共に糸捕捉部より下方に押し下げて、両糸を捕捉し切断している。
【特許文献1】特許第2583394号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1では、水平釜を使用し上下糸を可動メスと固定メスとの協働で切断するものである。すなわち、特許文献1によれば、上糸と下糸は、切断時には、常時共に切断されてしまう。しかしながら、ミシンで刺しゅう縫いの作業を行なっている時など、その刺しゅうの絵模様に従って、上糸の色のみを変更する場合等では、上糸のみを交換し、下糸はそのまま使用する方が作業効率がはかどるものである。そのために、上糸と下糸の切断において、必要に応じて上糸のみが切断されるような切断機構の開発が望まれている。本発明の目的は、上記要望に応じるものであり、上糸と下糸との切断において、両糸を切断するのみならず、必要に応じて上糸のみを切断し、下糸はそのまま使用し続けることができるようにして、作業効率を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意,研究を重ねた結果、請求項1の発明は、水平釜を具備したミシンにおいて、糸切り命令により往復動する捕捉部材を有し,常時は該捕捉部材の復動時に上糸を捕捉する捕捉手段と、該捕捉手段と共に往復動する可動メスと,前記捕捉手段により案内された糸を前記可動メスと共に切断する固定メスとを有する切断手段と、前記下糸の切断時のみ前記捕捉手段に前記下糸を捕捉させる押え手段とからなり、前記下糸の切断時には、前記切断手段の捕捉部材の復動と共に前記押え手段が下降して、前記下糸を下方に押さえると共に該下糸を復動する前記捕捉部材に捕捉させてなるミシンの自動糸切り装置としたことにより、上記課題を解決した。
【0005】
次に、請求項2の発明は、水平釜を具備したミシンにおいて、糸切り命令により往復動する可動メスと該可動メスと共に糸切断を行なう固定メスとからなる切断手段と、通常は下糸の通過経路の下方位置を前記可動メスと共に往復動し,その復動時は常時上糸のみを捕捉すると共に前記固定メスによる糸切り位置まで前記上糸を案内する捕捉部材を有する捕捉手段と、前記下糸を切断するときのみ前記捕捉部材による捕捉可能な位置へ案内する押え部材を有する押え手段とからなり、前記下糸の切断時には、前記切断手段の捕捉部材の復動と共に前記押え手段の押え部材が下降して、前記下糸を下方に押さえると共に該下糸を復動する前記捕捉部材に捕捉させてなるミシンの自動糸切り装置としたことにより、上記課題を解決した。
【0006】
次に、請求項3の発明は、前述の構成において、前記押え手段は、水平釜内のボビンから針板の針穴に通じる下糸の通過経路の上方を横断すると共に前記捕捉手段の捕捉部材の往復運動経路に沿って配置される軸状押え部と該軸状押え部の長手方向両端に形成された揺動腕部とからなり、前記軸状押え部は、捕捉部材の復動時のみ下方に下がるミシンの自動糸切り装置としたことにより、上記課題を解決した。
【0007】
次に、請求項4の発明は、前述の構成において、前記押え手段の駆動手段は、ステッピングモータによって行なわれてなるミシンの自動糸切り装置としたことにより、上記課題を解決した。次に、請求項5の発明は、前述の構成において、前記押え手段の駆動手段は、カムによって行なわれてなるミシンの自動糸切り装置としたことにより、上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、押え手段の作動を制御することにより、下糸の切断の有無を選択可能とすることができる。すなわち、押え手段の作動及び非作動により、捕捉手段及び切断手段による下糸切断の有無の選択が可能となる。これによって、下糸の切断を行なわない場合には、上糸のみが切断されることになり、刺しゅう縫いの色替えなどで下糸を連続させたままで、上糸のみ替えるという作業ができる。又、本発明は、水平往復運動する捕捉部材は、その復動時にのみ糸を捕捉する構成としているので、糸の捕捉に関して誤動作が生じにくいものにできる。
【0009】
又、本発明は、前記押え手段は、水平釜内のボビンから針板の針穴に通じる下糸の経路の上方を横断すると共に前記捕捉手段の捕捉部材の往復運動経路に沿って配置される軸状押え部を有するもので、その上下糸を広い範囲に亘って押さえつけることができ、捕捉手段による確実な上下糸の捕捉を行なうことができる。
【0010】
又、本発明は、前記押え手段の駆動手段は、ステッピングモータによって行なわれていることで、押え手段の構造を簡単にすることができる。又、本発明は、カムによって、押え手段の動作を確実なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本発明の構成は、主に上糸29uと下糸29dの切断手段,捕捉手段及び押え手段から構成される。また、その切断手段,捕捉手段,押え手段は、ミシン本体のベッド12の針板30,外釜3の箇所に組み込まれるものであって、具体的には、図4に示すように、前記ベッド12の箇所には、針1の手前側に釜軸2を中心として回転する外釜3が配置され、該外釜3の周囲に前記切断手段,捕捉手段,押え手段が配置される。前記針1の奥側には、上下方向・水平方向に運動自在に配置された送り歯6が設けられている。また、前記外釜3の中に内釜38が収納され、該内釜38の中に下糸29dを巻いたボビン13が収納される〔図2(a)参照〕。その針1の手前側には、外釜3を跨いで、捕捉部材4、可動メス5の運動方向に沿うように糸押え部材7が配置される。
【0012】
まず、切断手段は、可動メス5と固定メス14とから構成される。また、捕捉手段は、捕捉部材4から構成される。その切断手段における可動メス5,固定メス14及び捕捉手段における捕捉部材4は、図1,図5,図6等に示すように、1枚の台板23上に設けられている。その捕捉部材4及び可動メス5は、薄板又は略帯板形状に形成されたものであり、前記捕捉部材4は、図5,図6(a),(b)に示すように、帯板形状の摺動板部4cの長手方向先端には、上糸29u及び下糸29dの捕捉部4aが形成され、該捕捉部4aが形成された付近の摺動板部4cには、捕捉切除部4bが形成されている。前記捕捉部4aは、略三角板状に形成されたものであって、前記摺動板部4cの長手方向先端付近で、且つその幅方向の一端側縁から前記摺動板部4cの平坦面に対して略々垂直に折曲形成されたものである。また、前記捕捉切除部4bは、前記摺動板部4cの幅方向一端縁から摺動板部4cの長手方向先端に向かって略U字形状に切り込まれている〔図1,図6(b)等参照〕。
【0013】
この捕捉手段における捕捉部材4は、前記捕捉部4aにて係止された上糸29u及び下糸29dがその捕捉切除部4bに入り込み、固定メス14の下面側に移送させるものである。前記捕捉部4aの形状は、前述したように略三角形状に形成されており、特に、上糸29u,下糸29dを捕捉する捕捉係止部4a1 と摺動板部4cとのなす角度θは鋭角に形成される〔図9(a)参照〕。また、前記捕捉切除部4bの内部は、図1に示すように、捕捉部材4が長手方向先端に向かって切除されたもので、捕捉部4aによって捕捉された上糸29u及び下糸29dが外れ難いように、確実に係止することができるようになっている。前記可動メス5は、帯板状に形成され、その長手方向の先端箇所に略鉤形状として形成されたものである。その可動メス5のメス刃部付近は、その先端寄りの箇所が幅方向に狭なる領域が形成、先端箇所のメス刃部が略直角状に屈曲されたものである。
【0014】
その捕捉部材4と可動メス5とが、図2(a),図3(a),図5等に示すように、上下方向に重合されビス等の固着具にて、固着され一体化されている。そして、前記台板23に対して捕捉部材4が可動メス5と共に長手方向に沿って往復移動することができるようになっている。前記台板23には、図5,図6に示すように、前記捕捉部材4が長手方向に沿って往復動するためのガイド溝23aが形成されている。該ガイド溝23aは、略長方形の長孔状に形成されたものである。
【0015】
そのガイド溝23aには、スライド部材4dが挿入され、前記ガイド溝23a内をその長孔の長手方向に沿って往復移動が自在となっている。そのスライド部材4dは、略直方体の小ブロックであり、このスライド部材4dと前記捕捉部材4の摺動板部4cとが前記可動メス5と共にビス等にて固着されている〔図6(b)参照〕。そして、前記スライド部材4dがガイド溝23a内を往復移動するのに伴って前記捕捉部材4と可動メス5とがその長手方向に沿って往復移動するものである。図6(a)において、矢印Sで示された範囲は、捕捉部材4と可動メス5の水平方向往復運動の移動範囲を示す。
【0016】
前記可動メス5と捕捉部材4との間で、且つ前記可動メス5の下方に位置するようにして、固定メス14と糸ガイド15が配置されている。前記可動メス5の上方には、該可動メス5を加圧するようにして可動メス押え部16が配置されている。そして、前記固定メス14,糸ガイド15及び可動メス押え部16は、前記台板23上にビス等の固着具にて固着されている(図5,図6等参照)。
【0017】
次に、前記捕捉部材4及び可動メス5には、駆動板22が固着されている〔図5,図6(a)等参照〕。該駆動板22には、前記台板23の裏面側に装着された従動リンク35に枢支連結されている。該従動リンク35は、その長手方向一端が前記台板23に枢支され、その枢支部を中心にして揺動自在としている〔図6(b),(c)参照〕。その従動リンク35と前記駆動板22は、ピン接合によって枢支連結されたもので、該駆動板22にはピン22aが装着され、前記従動リンク35には長孔35aが形成され、前記ピン22aが前記長孔35aに遊挿されている〔図6(c)参照〕。
【0018】
なお、前記ピン22aは、前記従動リンク35に装着され、前記長孔35aは前記駆動板22側に形成されても構わない。そして、前記従動リンク35は、駆動リンク36にピン接合により枢支連結されている。この枢支連結構造も前述したように、ピンと長孔の構成である。本実施形態では、前記従動リンク35の長手方向の略中間箇所にピン35bが装着され、前記駆動リンク36の長手方向端部箇所に長孔36aが形成されたものである〔図6(c)参照〕。
【0019】
前記駆動リンク36は、後述するメス駆動カム32によって規則的なカム動作を行なうものである。該メス駆動カム32は、図7に示すように、ベッド12内部に装着された下軸31に装着され、該下軸31と共に回転し、前記駆動リンク36にカム動作を伝達するものである。そして、該駆動リンク36から前記従動リンク35及び駆動板22を介して、前記捕捉部材4及び可動メス5が長手方向に往復動作を行わせ、糸切断を行なうことができる。また、メス駆動カム32から駆動板22への動力伝達部は、糸切り信号により動力伝達が可能となり、通常の縫い状態では動力伝達は遮断され、前記捕捉部材4及び前記可動メス5は、図1において最左点の位置に停止している。
【0020】
符号17は、糸切り後のボビンの空転を押さえる為の内釜レバーである。また符号18は、前記内釜レバー17を駆動する空転防止レバーである。さらに、符号19は、内釜の逆転を防止する逆転止めを示す。釜室カバー10には、内釜の回転を規制する回転止め20が固定されている。そして、上糸29uは、前記外釜3の剣先(図示なし)で捕捉され、内釜外周を回って、前記回転止め20を抜けた後、図1に対して最右点で待機している捕捉手段における捕捉部材4の捕捉部4aに掛り捕捉される。
【0021】
その後、前記上糸29uは、前記捕捉部材4の移動と糸ガイド15の案内により、糸切り位置へ導かれる。前記メス駆動カム32から前記駆動板22への動力伝達部は、糸切り信号を発進することにより動力伝達が可能となる。具体的には、図8(a),(b)に示すように、その糸切り信号が発進されると前記駆動リンク36がメス駆動カム32に近接し、前記駆動リンク36に設けられたピン36bがメス駆動カム32のカム溝に入って、メス駆動カム32のカム動作を駆動リンク36,従動リンク35及び駆動板22を介して捕捉部材4及び可動メス5に往復動を行なわせるものである。なお、通常の縫い状態では前記メス駆動カム32と駆動リンク36とは連結しておらず、動力伝達は遮断されており、前記捕捉部材4,可動メス5は、図1に対して最左点の位置に停止状態となる。
【0022】
次に、押え手段については、糸押え部材7がピン8,9により釜室カバー10に揺動自在に枢支連結されている。その糸押え部材7は、軸状押え部7aと揺動腕部7b,7bとから構成されている。前記軸状押え部7aは、略帯板形状をなしており、前記下糸29dを押さえる役目をなす。この押え手段における糸押え部材7の軸状押え部7aを上下方向に揺動させる第1の駆動手段としては、その揺動腕部7b,7bは、図2(b)に示すように、前記軸状押え部7aを上下方向に揺動させる糸押さえ台11に螺子具24等によって、枢支連結されている。具体的には、前記揺動腕部7bの長手方向の略中心位置と前記糸押さえ台11とが枢支連結され、且つ前記揺動腕部7bの長手方向端部(軸状押え部7aが形成されている側と反対側端部)が前記ベッド12内に装着された糸押さえ台11に枢支連結されている〔図4,図2(b)参照〕。
【0023】
その糸押さえ台11は、駆動源に連結しており、前記糸押さえ台11と釜取付け板28との間にばね27が掛けられており、糸押さえ台11は、下方に弾性付勢される。そして、前記下軸25には、糸押えカム26が装着され、下軸25の回転にと共に前記糸押えカム26が回転し、該糸押えカム26の回転に追従して、糸押さえ台11が上下方向に往復移動し、前記糸押え部材7が上下方向に揺動運動を行う。その下軸25は、前述のミシンの縫い動作を駆動する下軸31とは、別の駆動軸である。そして、下軸25は、下糸29dを切断する糸切り信号により回転するものである。
【0024】
次に、糸押え部材7の第2の駆動手段として、アクチュエータで制御する例を図3にて説明する。前記糸押え部材7の揺動腕部7b,7bは、前述したように、前記ベッド12内の糸押さえ台11に枢支連結されて枢支部7dが構成され〔図3(a)参照〕、さらにそれぞれの揺動腕部7bから伝達腕7cが略下向きに形成されている〔図3(b)乃至(c)参照〕。さらに、該伝達腕7cに伝達ピン7c1 が形成され、ステッピングモータ33の軸33aに連結された駆動腕34の二又部34aに前記伝達ピン7c1 が遊挿されている〔図3(b)参照〕。そして、ステッピングモータ33で駆動腕34を揺動することにより、前記伝達腕7cは揺動運動を行い、前記軸状押え部7aを上下方向に揺動させることができる〔図3(c)参照〕。
【0025】
そのステッピングモータ33を適宜の位相に励磁することで、糸押さえ部材7の軸状押え部7aは、上位置に保持することが可能となる。この場合、下糸29dは、前記糸押え部材7で下方に押し下げられないので、捕捉部材4の捕捉部4aに捕捉されることがない。即ち、ステッピングモータ33の制側により、下糸29d捕捉の有無、すなわち下糸29d切断の有無を選択可能にできる。上糸29uは前述のように糸押さえ部材7の上下動に関係無く、糸切り時は常に捕捉部材4に捕捉されて切断される。以上により、上糸29u・下糸29dを確実に切断すると共に、下糸29d切断の有無は選択可能な糸切り装置を提供する。前記上糸29uと下糸29dの捕捉方法を分けたことで、糸押さえ部材7の制御により下糸29d切断の有無を使用者が選択可能とした。
【0026】
次に、本発明における押え手段,捕捉手段及び切断手段によって、下糸29dが切断される工程を説明する。まず、図9(a)乃至(e)は、図2(a)のQ1 −Q1 矢視方向より見た要部のみ記載した糸切断工程の略示工程図である。図10乃至図17における(a)の図面は、図2(a)のQ2 −Q2 矢視方向より見た要部のみ記載した糸切断工程の略示工程図である。また、図10乃至図17における(b)の図面は、糸押え部材7の側面図であり、図9(a)のQ3 −Q3 矢視方向より見た要部のみ記載した糸切断工程の略示工程図である。
【0027】
この工程図では、下糸29dを切断する必要がある場合におけるものである。前記糸押え部材7の軸状押え部7aは、前述したように、前記捕捉部材4と水平釜との間にあって、水平釜内のボビン13から針板30の針穴30aに通じる下糸29dの経路の上方を横断している。さらに、前記軸状押え部7aは、前記捕捉部材4(及び可動メス5)の往復運動経路に沿うようにして配置されている。
【0028】
まず、第1工程は、図9(a),図10(a)に示すように、前記捕捉手段及び切断手段において、捕捉部材4,可動メス5の先端は、図面の左端に位置し、非作動状態であり、前記台板23内に収容されている。このときの押え手段の糸押え部材7の軸状押え部7aは、捕捉部材4の捕捉部4aより上方に位置し、下糸29dも捕捉部4aの頂部より上方に存在している〔図9(a),図10(b)参照〕。
【0029】
次に、第2工程は、下糸29dの切断指令が発令されて、図9(b),図11(a)に示すように、捕捉部材4,可動メス5が往復方向の往方向に沿って移動する〔図9(b)図11(a)の矢印方向参照〕。その捕捉部材4,可動メス5の往方向への移動途中では、前記軸状押え部7aは、前記捕捉部4aより上方に位置している〔図9(b),図11(b)参照〕。そして、第3工程は、その捕捉部4aが往方向終点に達すると、停止する〔図9(c),図12(a)参照〕。また、前記軸状押え部7aは、捕捉部4aの頂部よりも低い位置に降下し〔図9(c)矢印方向参照〕、下糸29dを押し下げる〔図9(c),図12(b)参照〕。
【0030】
次に、第4工程は、往方向終点位置から復方向に移動を開始し〔図9(d),図13(a)矢印方向参照〕、その途中で、捕捉部4aが下糸29dを捕捉する〔図9(d),図13(a),(b)参照〕。さらに、捕捉部4aにより捕捉された下糸29dは、捕捉切除部4bに入り込み、下糸29dの捕捉状態をより一層確実なものにする〔図14(a),(b)参照〕。
【0031】
次に、第5工程は、捕捉された下糸29dが捕捉部材4と共に復方向に沿って移動し、下糸29dを固定メス14の位置に案内する〔図9(e),図15(a),(b)参照〕。そして、前記可動メス5と固定メス14により捕捉した下糸29dを切断する(図16,図17参照)。ここで、切断指令が解除されると、前記糸押え部材7の軸状押え部7aは、元の高さに復帰し、下糸29dは捕捉部材4により捕捉されない状態となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明における切断手段,捕捉手段及び押え手段を備えた外釜周辺の平面図である。
【図2】(a)は外釜とボビンが収納された内釜と切断手段,捕捉手段及び押え手段の構造を示す縦断側面図、(b)は押え部材を揺動させる第1の駆動手段の拡大図である。
【図3】(a)は外釜とボビンが収納された内釜と切断手段,捕捉手段及び押え手段の構造を示す縦断側面図、(b)は押え部材を揺動させる第2の駆動手段の非作動時の要部拡大図、(c)は押え部材を揺動させる第2の駆動手段の作動時の要部拡大図である。
【図4】針板を外した外釜周辺の斜視図である。
【図5】台板に切断手段及び捕捉手段が装着された斜視図である。
【図6】(a)は台板に切断手段及び捕捉手段が装着された平面図、(b)は台板に切断手段及び捕捉手段が装着された背面図、(c)は台板に駆動リンクを備えた背面図である。
【図7】はベッドの底面より見た内部機構図である。
【図8】(a)はメス駆動カムと駆動リンクとが非伝達状態とした一部断面にした正面図、(b)はメス駆動カムと駆動リンクとが伝達状態とした一部断面にした正面図である。
【図9】(a)乃至(e)は図2のQ1 −Q1 矢視方向から見た本発明の下糸の切断工程を示す略示工程図である。
【図10】(a)は切断開始直前の工程を示す平面図、(b)は(a)の側面図である。
【図11】(a)は捕捉部材及び可動メスが往動途中の工程を示す平面略示図、(b)は(a)の側面図である。
【図12】(a)は捕捉部材及び可動メスが往路の終端に達した工程を示す平面略示図、(b)は(a)の側面図である。
【図13】(a)は捕捉部材の復動にて捕捉部が下糸を捕捉した工程を示す平面略示図、(b)は(a)の側面図である。
【図14】(a)は捕捉部材の復動にて捕捉切除部に下糸が係止した工程を示す平面略示図、(b)は(a)の側面図である。
【図15】(a)は捕捉部材の復動にて下糸を固定メス箇所に移動させる工程を示す平面略示図、(b)は(a)の側面図である。
【図16】(a)は固定メスと可動メスにて下糸を切断する工程を示す平面略示図、(b)は(a)の側面図である。
【図17】(a)は固定メスと可動メスにて下糸を切断完了した工程を示す平面略示図、(b)は(a)の側面図である。
【符号の説明】
【0033】
4…捕捉部材、5…可動メス、7…糸押え部材、7a…軸状押え部、7b…揺動腕部、13…ボビン、14…固定メス、29d…下糸、29u…上糸、30…針板、
30a…針穴、33…ステッピングモータ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平釜を具備したミシンにおいて、糸切り命令により往復動する捕捉部材を有し,常時は該捕捉部材の復動時に上糸を捕捉する捕捉手段と、該捕捉手段と共に往復動する可動メスと,前記捕捉手段により案内された糸を前記可動メスと共に切断する固定メスとを有する切断手段と、前記下糸の切断時のみ前記捕捉手段に前記下糸を捕捉させる押え手段とからなり、前記下糸の切断時には、前記切断手段の捕捉部材の復動と共に前記押え手段が下降して、前記下糸を下方に押さえると共に該下糸を復動する前記捕捉部材に捕捉させてなることを特徴とするミシンの自動糸切り装置。
【請求項2】
水平釜を具備したミシンにおいて、糸切り命令により往復動する可動メスと該可動メスと共に糸切断を行なう固定メスとからなる切断手段と、通常は下糸の通過経路の下方位置を前記可動メスと共に往復動し,その復動時は常時上糸のみを捕捉すると共に前記固定メスによる糸切り位置まで前記上糸を案内する捕捉部材を有する捕捉手段と、前記下糸を切断するときのみ前記捕捉部材による捕捉可能な位置へ案内する押え部材を有する押え手段とからなり、前記下糸の切断時には、前記切断手段の捕捉部材の復動と共に前記押え手段の押え部材が下降して、前記下糸を下方に押さえると共に該下糸を復動する前記捕捉部材に捕捉させてなることを特徴とするミシンの自動糸切り装置。
【請求項3】
前記押え手段は、水平釜内のボビンから針板の針穴に通じる下糸の経路の上方を横断すると共に前記捕捉手段の捕捉部材の往復運動経路に沿って配置される軸状押え部と該軸状押え部の長手方向両端に形成された揺動腕部とからなり、前記軸状押え部は、捕捉部材の復動時のみ下方に下がることを特徴とする請求項1又は2に記載のミシンの自動糸切り装置。
【請求項4】
前記押え手段の駆動手段は、ステッピングモータによって行なわれてなることを特徴とする請求項1,2又は3に記載のミシンの自動糸切り装置。
【請求項5】
前記押え手段の駆動手段は、カムによって行なわれてなることを特徴とする請求項1,2又は3に記載のミシンの自動糸切り装置。
【請求項1】
水平釜を具備したミシンにおいて、糸切り命令により往復動する捕捉部材を有し,常時は該捕捉部材の復動時に上糸を捕捉する捕捉手段と、該捕捉手段と共に往復動する可動メスと,前記捕捉手段により案内された糸を前記可動メスと共に切断する固定メスとを有する切断手段と、前記下糸の切断時のみ前記捕捉手段に前記下糸を捕捉させる押え手段とからなり、前記下糸の切断時には、前記切断手段の捕捉部材の復動と共に前記押え手段が下降して、前記下糸を下方に押さえると共に該下糸を復動する前記捕捉部材に捕捉させてなることを特徴とするミシンの自動糸切り装置。
【請求項2】
水平釜を具備したミシンにおいて、糸切り命令により往復動する可動メスと該可動メスと共に糸切断を行なう固定メスとからなる切断手段と、通常は下糸の通過経路の下方位置を前記可動メスと共に往復動し,その復動時は常時上糸のみを捕捉すると共に前記固定メスによる糸切り位置まで前記上糸を案内する捕捉部材を有する捕捉手段と、前記下糸を切断するときのみ前記捕捉部材による捕捉可能な位置へ案内する押え部材を有する押え手段とからなり、前記下糸の切断時には、前記切断手段の捕捉部材の復動と共に前記押え手段の押え部材が下降して、前記下糸を下方に押さえると共に該下糸を復動する前記捕捉部材に捕捉させてなることを特徴とするミシンの自動糸切り装置。
【請求項3】
前記押え手段は、水平釜内のボビンから針板の針穴に通じる下糸の経路の上方を横断すると共に前記捕捉手段の捕捉部材の往復運動経路に沿って配置される軸状押え部と該軸状押え部の長手方向両端に形成された揺動腕部とからなり、前記軸状押え部は、捕捉部材の復動時のみ下方に下がることを特徴とする請求項1又は2に記載のミシンの自動糸切り装置。
【請求項4】
前記押え手段の駆動手段は、ステッピングモータによって行なわれてなることを特徴とする請求項1,2又は3に記載のミシンの自動糸切り装置。
【請求項5】
前記押え手段の駆動手段は、カムによって行なわれてなることを特徴とする請求項1,2又は3に記載のミシンの自動糸切り装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2007−7219(P2007−7219A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−193196(P2005−193196)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(000002244)蛇の目ミシン工業株式会社 (79)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(000002244)蛇の目ミシン工業株式会社 (79)
【Fターム(参考)】
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