説明

ミデカマイシン高生産菌

【課題】 マクロライド系抗生物質であるミデカマイシンの生産性が高まったミデカマイシン高生産菌株と本菌株を用いたミデカマイシン類の生産方法の提供。
【解決手段】 ミデカマイシンを生産する放線菌であって、ミデカマイシン生合成遺伝子であるポリケチドシンターゼに含有される1ないし複数のモジュール、または、その一部分のアミノ酸配列が他のモジュールの対応するアミノ酸配列で置換されたミデカマイシン生合成遺伝子を含むミデカマイシン生産放線菌。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
マクロライド系抗生物質であるミデカマイシンの生産性が高まったミデカマイシン高生産菌株と本菌株を用いたミデカマイシン類の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マクロライド系抗生物質は、グラム陽性菌、マイコプラズマ、クラミジア等に有効な抗菌剤であり、経口投与が可能で毒性が低いため、臨床上重要な抗菌剤に分類されている。その中でも、市販の16員環マクロライド系抗生物質は耐性誘導されにくく、14員環マクロライドに比べて他の薬剤との相互作用も少なく、腸管に与える影響も少ない等の利点があり、アジア諸国を中心に世界中で広く使用されている。
【0003】
ミデカマイシン類(図1)は、放線菌の一種ストレプトマイセス マイカロファシエンス(Streptomyces mycarofaciens)(ATCC21454)等が産生する16員環マクロライド系抗生物質である。そのアシル化誘導体であるミオカマイシン(Omoto, S. et al., J. Antibiot., 29, 536 (1976); Yoshida, T. et al., Jpn. J. Antibiot., 35, 1462 (1982))は、臨床的に幅広く使用されており、ストレプトマイセス マイカロファシエンスの発酵生産物から生産されている。さらに、ストレプトマイセス マイカロファシエンスはロイコマイシン類を生産しないことから、本株を用いることによりロイコマイシン類の精製による除去等の工程が削除できる等の利点も有している。
【0004】
放線菌は抗生物質や生理活性物質等の二次代謝産物の生産菌として発酵工業の分野では古くから重要な位置にあり、種々の菌株育種技術によりその生産性の改良が行われてきた。ストレプトマイセス マイカロファシエンスによるミデカマイシンの生産も種々の変異原による突然変異誘導により菌株育種がなされてきた。このような菌株育種法によれば、目的とする表現型を有する菌株が簡便に取得できる利点を有するが、どのような遺伝子にどのような変異が導入されたかが判明しない。無作為な変異の導入の結果、以降の育種において有用ではない変異を併せて導入している可能性も有する。
【0005】
この様な観点から、低生産株と高生産株のゲノム配列を比較することにより、有用な変異を抽出することが可能であり、組換えDNA技術を用いて有用な変異のみを集積させた高生産株を創製することが可能である。
【0006】
マクロライド系抗生物質を生産する微生物において、マクロライド生合成遺伝子の大部分はゲノムの70-80 kbの領域中に一緒に集まっていることが多い(Donadio, S. et al., Science, 252, 675 (1991); MacNeil, D. J., et al. Gene, 115, 119 (1992); Schwecke, T. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 92, 7839 (1995))。これらのクラスターの中心には巨大な多機能性タンパク質をコードするI型ポリケチドシンターゼ(polyketide synthetase、以下PKSとも呼ぶ)という相同性の高い遺伝子が存在する。
【0007】
PKSは通常3〜5個の遺伝子から構成され、そのタンパク質は、イニシエーターモジュール及び幾つかのエクステンダーモジュールからなる複合体を形成する。それらの各々は合成途中のポリケチド鎖に特定のアシル-CoA前駆体を付加し、β-ケト基を特異的に修飾する。従って、ポリケチドの構造は、PKS中のそれらのモジュールの組成及び順序により決定される。モジュールは幾つかのドメインを含み、それらの各々は特定の機能を果たす。
【0008】
イニシエーターモジュールは、前駆体のアシル基が結合するアシルキャリヤータンパク質(acyl carrier protein、以下ACPとも呼ぶ)ドメインとACPドメインへのアシル基の付加を触媒するアシルトランスフェラーゼ(acyl transferase、以下ATとも呼ぶ)ドメインからなる。このATドメインの特異性の違いにより、そこに付加するアシル-CoAの種類が決まる。全てのエクステンダーモジュールは、先に存在するポリケチド鎖を新しいアシル-ACPに脱炭酸縮合により付加するβ-ケトシンターゼ(β-ketoacyl acyl carrier protein synthase、以下KSとも呼ぶ)ドメインとATドメイン及びACPドメインを含有する。
【0009】
また、エクステンダーモジュールは、これらに加えて特定のβ-ケト基を修飾するドメインの幾つかを含有し、含有するドメインの構成により、β-ケト基の修飾が決まる。これらには、β-ケト基をヒドロキシル基に還元するβ-ケトレダクターゼ(ketroreductase、以下KRとも呼ぶ)ドメイン、ヒドロキシル基を除き、二重結合を生成するデヒドラターゼ(dehydratase、以下DHとも呼ぶ)ドメイン及び二重結合を還元し、飽和した炭素結合を生成するエノイルレダクターゼ(enoyl reductase、以下ERとも呼ぶ)ドメインがある。
【0010】
最後のエクステンダーモジュールは、PKSからポリケチドを環化して遊離するチオエステラーゼ(thioesterase、以下TEとも呼ぶ)ドメインにて終わる。PKSのオープンリーディングフレーム(open reading frame、以下ORFとも呼ぶ)、モジュール、ドメインの境界は、既知のPKS遺伝子の配列情報に基づいて予測することができる。
【0011】
PKSにより生成したポリケチド骨格は、メチル化、アシル化、酸化、還元、特有な糖の付加等のさらなる修飾を受け、最終的にマクロライド系抗生物質が合成される。これらの修飾のために必要とされる遺伝子の大部分はPKS遺伝子の周辺に存在する。
【0012】
デオキシ糖生合成酵素をコードする遺伝子は、エリスロマイシンやタイロシン等で明らかとなっている(Summers, R. G. et al., Microbiology, 143, 3251 (1997); Gaisser, S. et al., Mol. Gen. Genet. 256, 239 (1997); Merson-Davies, L. A. and Cundliffe, E., Mol. Microbiol, 13, 349 (1994))。これらのデオキシ糖の合成は、ヌクレオチド二リン酸の付加によるグルコースの活性化並びにそれに続く脱水、還元、エピ化、アミノ化、メチル化等の反応を含む。それらの糖は特定のグリコシルトランスフェラーゼの作用によりマクロライド中に導入される。
【0013】
ミデカマイシンの構造はタイロシンの構造に類似しているため、ほぼ同様の生合成経路を通ると推測される。ミデカマイシンの生合成は、ポリケチド骨格の前駆体であるマロニルCoA、メチルマロニルCoA、エチルマロニルCoA、メトキシマロニルCoAの合成に始まる。これらの前駆体はポリケチド合成酵素により、段階的な縮合反応を受け、環化され、結果としてポリケチド骨格が合成される。その後、糖鎖付加、ヒドロキシル化、ホルミル化、アシル化といった修飾反応を経て最終的にミデカマイシンが合成される。
【0014】
遺伝子組み換えにより生産性を向上させるには、律速反応となっている生合成反応をコードする遺伝子の発現増強、生合成遺伝子の発現を制御する遺伝子の発現増強や遺伝子破壊、不必要な二次代謝系の遮断等が行われている(Kennedy, J. and Turner, G., Mol. Gen. Genet., 253, 189 (1996); Review: Baltz, R.H., Biotechnology of Antibiotics Second Edition, Revised and Expanded, Marcel Dekker, Inc., New York, pp.49 (1997); Review: Hutchinson, C. R. and Colombo, A. L., J. Ind. Microbiol. Biotechnol., 23, 647 (1999); Review: Brakhage, A. A., Microbiol. Mol. Biol. Rev. 62, 547 (1998))。そのため、生合成遺伝子が特定されれば、適当なベクターに連結し、二次代謝産物の生産菌に導入することにより、遺伝子組換えにより生産性を向上させることができる。
【特許文献1】米国特許公開2004−0091975A1
【特許文献2】特開平2004−49100号公報
【非特許文献1】Omoto, S. et al., J. Antibiot., 29, 536 (1976)
【非特許文献2】Yoshida, T. et al., Jpn. J. Antibiot., 35, 1462 (1982)
【非特許文献3】Donadio, S. et al., Science, 252, 675 (1991)
【非特許文献4】MacNeil, D. J., et al. Gene, 115, 119 (1992)
【非特許文献5】Schwecke, T. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 92, 7839 (1995)
【非特許文献6】Summers, R. G. et al., Microbiology, 143, 3251 (1997)
【非特許文献7】Gaisser, S. et al., Mol. Gen. Genet. 256, 239 (1997)
【非特許文献8】Merson-Davies, L. A. and Cundliffe, E., Mol. Microbiol, 13, 349 (1994)
【非特許文献9】Kennedy, J. and Turner, G., Mol. Gen. Genet., 253, 189 (1996)
【非特許文献10】Review: Baltz, R.H., Biotechnology of Antibiotics Second Edition, Revised and Expanded, Marcel Dekker, Inc., New York, pp.49 (1997)
【非特許文献11】Review: Hutchinson, C. R. and Colombo, A. L., J. Ind. Microbiol. Biotechnol., 23, 647 (1999)
【非特許文献12】Review: Brakhage, A. A., Microbiol. Mol. Biol. Rev. 62, 547 (1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
以上のような方法は、律速段階にある遺伝子の発現量を増強または欠失させ、その遺伝子産物である酵素タンパク質の量を増強または欠損することを目的とする。しかしながら、生合成中間体の生産量を正確に把握し、律速段階を同定することは難しい。例えば、生合成スキームが予測できない、予測した生合成中間体が検出できない、生合成中間体標品が必要である、などがある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、ミデカマイシン生産菌であるストレプトマイセス マイカロファシエンスについて、変異処理を用いた育種により、高生産能を有する菌株を取得し、この高生産菌株由来のミデカマイシン生合成遺伝子群のDNA配列を野生株(低生産株)の配列と比較することにより、高生産株に特異な変異、即ち高生産を担保する変異を見出すことを検討した。
【0017】
すなわち、放線菌由来のポリケチド合成酵素遺伝子に相同な配列をプライマーとするポリメラーゼチェーンリアクション(以下PCRとも呼ぶ)により増幅したストレプトマイセス マイカロファシエンス由来のDNA断片をプローブとして用い、ミデカマイシン高生産株由来のゲノムDNAから作製したゲノムライブラリーからミデカマイシン生合成遺伝子を含むDNA断片を単離することに成功した。得られた高生産株由来ミデカマイシン生合成遺伝子のDNA配列を、野生株由来ミデカマイシン生合成遺伝子(米国特許公開2004−0091975A1、特開2004−49100号公報)と比較することにより、ポリケチドシンターゼ遺伝子のβケトシンターゼドメインの部分置換が起こり、これによりミデカマイシンの生産能が向上していることが判明した。以上の知見に基づき、鋭意研究を継続し、本発明を完成した。
【0018】
従って、本発明は、以下の発明の態様を含む。
1. ミデカマイシンを生産する放線菌であって、ミデカマイシン生合成遺伝子であるポリケチドシンターゼ遺伝子に含有される1ないし複数のモジュール、または、その一部分の配列が他のモジュールの対応するアミノ酸配列をコードするように置換されたミデカマイシン生合成遺伝子またはその相同体を含むミデカマイシン生産放線菌。
2. ミデカマイシン合成酵素遺伝子のORF2にあるKS3(β-ketoacyl acyl carrier protein synthase)、または、その一部分の配列がORF1にあるKS2(β-ketoacyl acyl carrier protein synthase)の対応するアミノ酸配列をコードするように置換されている上記1.記載のミデカマイシン生産放線菌。
3. ミデカマイシン合成酵素遺伝子のORF2にあるKS3の157番目から420番目のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列の一部または全てがORF1にあるKS2の対応する2705番目から2968番目のアミノ酸配列の一部または全てをコードするように置換されている上記2.記載のミデカマイシン生産放線菌。
4. ミデカマイシン合成酵素遺伝子のORF2にあるKS3の157番目から254番目のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列の一部または全てがORF1にあるKS2の対応する2705番目から2802番目のアミノ酸配列の一部または全てをコードするように置換されている上記3.記載のミデカマイシン生産放線菌。
5. ミデカマイシン合成酵素遺伝子のORF2にあるKS3の157番目から186番目のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列の一部または全てがORF1にあるKS2の対応する2705番目から2734番目のアミノ酸配列の一部または全てをコードするように置換されている上記4.記載のミデカマイシン生産放線菌。
6. 放線菌がストレプトマイセス マイカロファシエンスである上記1.から5.のいずれか1項に記載のミデカマイシン生産放線菌。
7. 放線菌がストレプトマイセス マイカロファシエンス1149−38株(FERM P-20405)である上記6に記載のミデカマイシン生産放線菌。
8. 上記1.から5.のいずれか1項に記載のミデカマイシン生産放線菌をさらに変異処理して得られるミデカマイシン生産放線菌。
9. 上記1.から5.のいずれか1項に記載のミデカマイシン生産放線菌を培養し、生成されるミデカマイシンを単離することを含むミデカマイシンの製造方法。
10. 上記6.または7.記載のミデカマイシン生産放線菌を培養し、生成されるミデカマイシンを単離することを含むロイコマイシンを実質的に含まないミデカマイシンの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
マクロライド系抗生物質であるミデカマイシンの生産性が高まったミデカマイシン高生産菌株と本菌株を用いたミデカマイシン類の生産方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
微生物の寄託
明治製菓株式会社内において取得された、ストレプトマイセス マイカロファシエンス1149-38株(Streptomyces mycarofaciens)は、平成17(2005)年2月16日付で独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託された。受託番号は、FERM P-20405である。
【0021】
pCOMW1で形質転換された大腸菌(Escherichia coli)は、平成14(2002)年7月16日付で独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託された。受託番号は、FERM P-18935である(平成14年8月21日にFERM BP-8168に移管)。
【0022】
pCOMW2で形質転換された大腸菌(Escherichia coli)は、平成14(2002)年7月16日付で独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託された。受託番号は、FERM P-18936である(平成14年8月21日にFERM BP-8169に移管)。
【0023】
pCOMW4で形質転換された大腸菌(Escherichia coli)は、平成14(2002)年7月16日付で独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託された。受託番号は、FERM P-18937である(平成14年8月21日にFERM BP-8170に移管)。
【0024】
本発明によるミデカマイシン生合成遺伝子
野生株(ストレプトマイセス マイカロファシエンス ATCC21454)由来ミデカマイシン生合成遺伝子は、米国特許公開2004−0091975A1、特開2004−49100号公報に開示されている。
本発明によれば、ミデカマイシン生合成遺伝子のポリケチドシンターゼ遺伝子に含有される各モジュールまたはその一部の配列を他のモジュールの対応するアミノ酸配列をコードするように交換することによりミデカマイシンの生産性を向上することができる。置き換える配列は、ミデカマイシンの生産性が向上される限り特に限定されないが、例えば、ミデカマイシン高生産菌由来ポリケチドシンターゼのように、上流のβケトシンターゼドメインまたはその一部によって下流の同ドメインの対応部分を置換することにより、ポリケチドシンターゼの酵素活性(ミデカマイシンの生産能)を向上させることができる。
置き換えるアミノ酸配列の長さは特に限定されず、好ましくは1から300残基、さらに好ましくは1から200残基、最も好ましくは、1から100残基である。
向上されるミデカマイシン生産能としては、下記の実施例1-8に準じた方法によって決定されるミデカマイシン生産能として、同置き換えを行わない株に対して、1.2倍以上、好ましくは、1.4倍以上であり、他の変異と組み合わせることにより、野生株(ATCC 21454)に比較して、10倍以上、好ましくは15倍以上、さらに好ましくは18倍以上の向上を達成できる。
【0025】
上記の置き換えにおいては、orf2上のKS3ドメインまたはその一部のアミノ酸配列をorf1上のKS2ドメインの対応する部分によって置き換えることが好ましく、KS3ドメインの157番目から420番目のアミノ酸配列の一部または全てをKS2ドメインの対応する部分(2705番目から2968番目のアミノ酸配列の一部または全て)によって置き換えることがより好ましく、KS3ドメインの157番目から254番目のアミノ酸配列の一部または全てをKS2ドメインの対応する部分(2705番目から22802番目のアミノ酸配列の一部または全て)によって置き換えることがさらに好ましく、KS3ドメインの157番目から186番目のアミノ酸配列の一部または全てをKS2ドメインの対応する部分(2705番目から2734番目のアミノ酸配列の一部または全て)によって置き換えることがさらに好ましい。本アミノ酸番号は、翻訳開始点(atg/Met)を1としてナンバーリングしたものである。
【0026】
本発明によるミデカマイシンの取得方法
本発明によるミデカマイシン生合成遺伝子であるポリケチドシンターゼに含有される1ないし複数のモジュール、または、その一部分のアミノ酸配列が他のモジュールの対応するアミノ酸配列で置換されたミデカマイシン生合成遺伝子を含むミデカマイシン生産放線菌は、例えば、以下のような方法で取得できる。
ミデカマイシン生産菌であるストレプトマイセス マイカロファシエンスに紫外線照射や変異誘発剤(例えばニトロソグアニジンなど)処理を行い、ミデカマイシンの生産性が向上した株を得る。この株のミデカマイシン生合成遺伝子群を取得し、既決定済みの生合成遺伝子と比較し、変異導入箇所を検索する。得られた変異遺伝子はこの変異が有効であるかどうかを確認するため、変異が発生していないミデカマイシン生産菌に相同組換えにより導入し(例えばM. Biermanらの方法、Gene, 116, 46 (1992))、その生産性の変動について確認する。
ポリケチドシンターゼは前記KS、AT及びACPドメインを有するが、これらの酵素活性(反応スピード)は均一ではないと考えられ、それにより代謝中間体がたまることが考えられる。そこで、反応スピードの遅いモジュールを特定してそのモジュールをスピードの速いモジュールに替えることにより、ポリケチド合成能が向上すると考えられる。具体的な入替の方法は遺伝子操作の分野で慣行されている方法を用いることにより構築することができるが、例えば、部位指定変異により制限酵素認識配列を導入し、ここに目的の入替部位を挿入したり、PCRにより目的の部位を増幅し、連結するなどの方法が挙げられる。
【0027】
ミデカマイシン生合成遺伝子のポリケチドシンターゼに含有される各モジュールまたはその一部のアミノ酸配列が他のモジュールの対応するアミノ酸配列に交換された、ミデカマイシン生産能が向上した本発明によるミデカマイシン生合成遺伝子は、上記の各モジュールまたはその一部のアミノ酸配列の置換以外の、欠失、付加、挿入若しくは置換から選ばれる1以上の変異を含んでもよい(そのような変異を有する遺伝子を、以下、「均等体」と呼ぶ)。欠失、挿入、付加、置換から選ばれる1以上の変異の数は、ミデカマイシン生産能が維持される限り特に限定されないが、好ましくは、1から10個、さらに好ましくは、1から6個、最も好ましくは1から4個のアミノ酸残基の変異である。
このようなさらに変異の加わった株の取得は、例えば以下のように実施可能である。
ランダム変異あるいは部位特異的変異を導入し、天然の本発明の酵素のアミノ酸配列中に、1個又は複数個のアミノ酸残基が欠失、付加、挿入若しくは置換の少なくとも1つがなされている遺伝子を得ることが可能である。これにより、本発明の酵素活性を有するが、至適温度、安定温度、至適pH、安定pH、基質特異性等の性質が少し異なった本発明の酵素をコードする遺伝子を得ることも可能である。
ランダム変異を導入する方法としては、例えば、 DNAを化学的に処理する方法として、亜硫酸水素ナトリウムを作用させシトシン塩基をウラシル塩基に変換するトランジション変異を起こさせる方法〔プロシーディングズ オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシーズ オブ ザ USA、第79巻、第1408〜1412頁(1982)〕、生化学的方法として、〔α-S〕dNTP存在下、二本鎖を合成する過程で塩基置換を生じさせる方法〔ジーン(Gene)、第64巻、第313 〜319 頁(1988)〕、 PCRを用いる方法として、反応系にマンガンを加えて PCRを行い、ヌクレオチドの取り込みの正確さを低くする方法〔アナリティカル バイオケミストリー(Analytical Biochemistry)、第224 巻、第347 〜353頁(1995)〕等を用いることができる。
部位特異的変異を導入する方法としては、例えば、アンバー変異を利用する方法〔ギャップド デュプレックス(gapped duplex )法、ヌクレイック アシッズ リサーチ(Nucleic Acids Research)、第12巻、第24号、第9441〜9456頁(1984)〕、制限酵素の認識部位を利用する方法〔アナリティカル バイオケミストリー、第 200巻、第81〜88頁(1992)、ジーン、第 102巻、第67〜70頁(1991)〕、dut(dUTPase)とung(ウラシルDNA グリコシラーゼ)変異を利用する方法〔クンケル(Kunkel)法、プロシーディングズ オブ ザ ナショナル オブ サイエンシーズ オブ ザ USA、第82巻、第488 〜492 頁(1985)〕、 DNAポリメラーゼ及び DNAリガーゼを用いたアンバー変異を利用する方法〔オリゴヌクレオチド−ダイレクティッド デュアル アンバー(Oligonucleotide-directed Dual Amber:ODA )法、ジーン、第 152巻、第271〜275 頁(1995)、特開平7-289262号公報〕、DNAの修復系を誘導させた宿主を利用する方法(特開平 8-70874号公報)、DNA鎖交換反応を触媒するタンパク質を利用する方法(特開平8-140685号公報)、制限酵素の認識部位を付加した2種類の変異導入用プライマーを用いた PCRによる方法(USP5,512,463)、不活化薬剤耐性遺伝子を有する二本鎖 DNAベクターと2種類のプライマーを用いた PCRによる方法〔ジーン、第 103巻、第73〜77頁(1991)〕、アンバー変異を利用した PCRによる方法〔国際公開WO98/02535号公報〕等を用いることができる。
また、市販されているキットを使用することにより、部位特異的変異を容易に導入することができる。市販のキットとしては、例えば、ギャップド デュプレックス法を用いた Mutan(登録商標)−G(タカラバイオ社製)、クンケル法を用いた Mutan(登録商標)-K(タカラバイオ社製)、ODA 法を用いたMutan(登録商標)−Express Km(タカラバイオ社製)、変異導入用プライマーとピロコッカス フリオサス(Pyrococcus furiosus)由来DNAポリメラーゼを用いたQuikChangeTM Site-Directed Mutagenesis Kit〔ストラタジーン(STRATAGENE)社製〕等を用いることができ、また、 PCR法を利用するキットとして、TaKaRa LA PCR in vitro Mutagenesis Kit(タカラバイオ社製)、Mutan(登録商標)−Super Express Km(タカラバイオ社製)等を用いることができる。
【0028】
ミデカマイシン生産能が向上した菌株からミデカマイシン生産能が向上したミデカマイシン生合成遺伝子を取得する方法について、ストレプトマイセス マイカロファシエンス1149-38株から得る方法を例に説明する。
本発明のミデカマイシン生合成遺伝子は、例えば以下の方法によりストレプトマイセス マイカロファシエンス1149-38株から単離することができる。本発明に開示するように配列が明らかとなっているため、関与する遺伝子は人工的に合成してもよいが、ストレプトマイセス マイカロファシエンス1149-38株から効率的に得ることが可能である。
【0029】
ストレプトマイセス マイカロファシエンス1149-38株の菌体から、Kieser, T. et al., Practical Streptomyces Genetics, The John Innes Foundation, Norwick, UK (2000)に記載の慣行法によりゲノムDNAを抽出する。このゲノムDNAを適当な制限酵素にて切断後、適当なベクターと連結することにより、ストレプトマイセス マイカロファシエンスのゲノムDNAからなるゲノムライブラリーを作製する。
【0030】
ベクターとしては、例えばプラスミドベクター、ファージベクター、コスミドベクター、BACベクター等、多様なベクターやプラスミドが使用できる。
【0031】
ゲノムライブラリーから、目的のミデカマイシン生合成遺伝子を含むDNA断片を得るには、適当なプローブを用いたハイブリダイゼーションにより達成できる。プローブとしては、例えば、既知のポリケチド合成酵素のアミノ酸配列の保存領域を元に、適当なプライマーを合成し、それを用いてストレプトマイセス マイカロファシエンスのゲノムDNAを鋳型としたPCRを行い、増幅したDNA断片を使用することができる。また、本発明に開示するようにミデカマイシン生合成遺伝子の配列が明らかであることから、配列情報を元に適当なプライマーを合成し、ストレプトマイセス マイカロファシエンスのゲノムDNAを鋳型としたPCRを行い、増幅したDNA断片をプローブとして用いることもできる。このようにして得たDNA断片をプローブとして用い、ゲノムライブラリーのスクリーニングを行う。
【0032】
また、本発明に開示するようにミデカマイシン生合成遺伝子の配列が明らかであることから、配列情報を基に所望の遺伝子を増幅させるためのプライマーを合成し、ストレプトマイセス マイカロファシエンスのゲノムDNAを鋳型としたPCRを行い、増幅したDNA断片を適当なベクターと連結することにより単離することができる。
【0033】
以上のようにミデカマイシン生合成能の高まったポリケチドシンターゼ遺伝子は、単離前の変異株をそのまま使用することでミデカマイシンを製造することが可能であり、また、ミデカマイシン生合成能の高まったポリケチドシンターゼ遺伝子をミデカマイシン生産菌に導入してもよいが、ミデカマイシン生合成クラスターの全長とともに任意の宿主に形質転換され、目的とするミデカマイシンを得ることもできる。
【0034】
使用するベクターは、宿主の種類に応じて決定され、特に限定されるものではないが、例えば、大腸菌のベクターとしてpBR322系、pUC系ベクター、枯草菌のベクターとして、pUB110系、pPL603系、pC194系ベクター、酵母のベクターとしてpYC系、pYE系ベクター、放線菌のベクターとしてpIJ101系、pSET152系、pSG5系、SCP2*系、pSAM2系、pKC1139系、φC31系ベクター(Kieser, T. et al., Practical Streptomyces Genetics, The John Innes Foundation, Norwick, UK (2000))が挙げられる。
【0035】
次に得られたプラスミドによって宿主に遺伝子導入する。宿主は、用いるベクターの種類に応じて、放線菌、大腸菌、枯草菌、酵母、糸状菌、その他の微生物の中から適宜選択されてよい。
【0036】
ベクターが放線菌用である場合の宿主として、特に好ましい例としては、ストレプトマイセス マイカロファシエンス(Streptomyces mycarofaciens)、ストレプトマイセス セリカラー(Streptomyces coelicolor)、ストレプトマイセス ハイグロスコピカス(Streptomyces hygroscopicus)、ストレプトマイセス フラディエ(Streptomyces fradiae)、ストレプトマイセス リビダンス(Streptomyces lividans)、ストレプトマイセス キタサトエンシス(Streptomyces kitasatoensis)、ストレプトマイセス アンボファシエンス(Streptomyces ambofaciens)、ストレプトマイセス サーモトレランス(Streptomyces themotolerans)が挙げられる。
【0037】
ベクターを宿主菌に導入する方法としては、宿主やベクターの種類によって最も効率のよい方法が選択される。放線菌のベクターを使用する場合は、大腸菌との接合による伝達、放線菌ファージによる感染、宿主菌のプロトプラストへの導入等が実施できる(Kieser, T. et al., Practical Streptomyces Genetics, The John Innes Foundation, Norwick, UK (2000))。形質転換によって得られた組換え体の選別には、用いるベクターの保有する遺伝的指標、例えば、抗生物質耐性、ポック形成、メラニン生合成等が利用できる。
【0038】
得られた組換え体を慣行の方法により、培養し、新たに獲得した性質を調べることができる。
【0039】
ミデカマイシンの生産
上記のミデカマイシン生合成能の高まったミデカマイシン合成遺伝子を含む変異株、また、ミデカマイシン生合成能の高まったミデカマイシン合成遺伝子を導入した組換え体を用いて、その培養によってミデカマイシンを生産することができる。
培地としては、慣用の成分、例えば炭素源としてはグルコース、シュクロース、水飴、デキストリン、澱粉、グリセロール、糖蜜、動・植物油等が使用できる。また、窒素源としては大豆粉、小麦胚芽、コーン・スティープ・リカー、綿実粕、肉エキス、ポリペプトン、マルトエキス、イーストエキス、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、尿素等が使用できる。その他必要に応じ、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、コバルト、塩素、リン酸(リン酸水素2カリウム等)、硫酸(硫酸マグネシウム等)及びその他のイオンを生成することのできる無機塩類を添加することも有効である。また、必要に応じてチアミン(チアミン塩酸塩等)等の各種ビタミン、グルタミン酸(グルタミン酸ナトリウム等)、アスパラギン(DL-アスパラギン等)等のアミノ酸、ヌクレオチド等の微量栄養素、抗生物質等の選抜薬剤を添加することもできる。さらに、菌の発育を助け、ミデカマイシンの生産を促進するような有機物及び無機物を適当に添加することができる。
【0040】
培地のpHは、例えばpH5.5〜pH8程度である。培養法としては、好気的条件での固体培養法、振とう培養法、通気撹拌培養法又は深部好気培養法により行うことができるが、特に深部好気培養法が最も適している。培養に適当な温度は、15℃〜40℃であるが、多くの場合22℃〜30℃付近で生育する。ミデカマイシンの生産は、培地及び培養条件、又は使用した宿主により異なるが、いずれの培養法においても通常2日〜10日間でその蓄積が最高に達する。培養中のミデカマイシンの量が最高になった時に培養を停止し、培養物から目的物質を単離、精製する。
【0041】
培養物からミデカマイシンを採取するためには、その性状を利用した通常の分離手段、例えば溶剤抽出法、イオン交換樹脂法、吸着又は分配カラムクロマトグラフィー法、ゲル濾過法、透析法、沈殿法、結晶化法等を単独で、又は適宜組み合わせて抽出精製することができる。例えば、培養物中からはアセトン、メタノール、ブタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル等で抽出される。
【0042】
ミデカマイシンをさらに精製するには、シリカゲル、アルミナ等の吸着剤、セファデックスLH-20(アマシャムバイオサイエンス社製)、又はトヨパールHW-40(東ソー社製)等を用いるクロマトグラフィーを行うと良い。
【0043】
以上のような方法により、又はこれらを適宜組み合わせることにより、純粋なミデカマイシンが得られる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0045】
実施例1-1
ストレプトマイセス マイカロファシエンス(ATCC21454)由来ゲノムDNAの単離とゲノムライブラリーの作製
ストレプトマイセス マイカロファシエンス(ATCC21454)の凍結シードを50 mlのS#14培地(2%グルコース、1%ポリペプトン、0.05% K2HPO4、0.05% MgSO47H2O、0.3% NaCl、pH7.0)に植菌し、28℃にて20時間培養した。Bottle top filter 0.22μm(コーニング社製)を用いて、培養液をろ過した後、フィルター上の菌体を10 mM EDTAにより2回洗浄し、菌体を回収した。得られた菌体を液体窒素で凍結後、乳鉢と乳棒を用いて磨砕した。この磨砕した菌体からISOPLANT(ニッポンジーン社製)により、添付のプロトコールに従いゲノムDNAを単離した。
【0046】
単離したゲノムDNAをSau3AIにより部分分解した後、その末端を脱リン酸化した。このDNA断片を、BamHIとXbaI(XbaI部位のみ脱リン酸化)で切断したSuperCosI(ストラタジーン社製)に連結し、組換えコスミドベクターを作製した。この組換えコスミドベクターについて、MaxPlaxパッケージングイクストラックト(エピセンターテクノロジーズ社製)により、添付のプロトコールに従ってインビトロパッケージングを行った。その後、この組換えファージを大腸菌XL1-Blue MR株に感染させ、プレートにて培養しコロニーを形成させた。
【0047】
実施例1-2
プローブの作製
PKS遺伝子の保存領域から以下のプライマーを作製した。
KS-F:5'-CGGTSAAGTCSAACATCGG-3' (配列番号1)
KS-R:5'-GCRATCTCRCCCTGCGARTG-3' (配列番号2)
【0048】
KS-F及びKS-Rを使用し、ゲノムDNAを鋳型としてPCRを行った。PCRは、ExTaq DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社製)を用いて実施した。増幅したDNA断片を、TOPO TAクローニングキット(インビトロジェン社製)により、添付のプロトコールに従ってpCR2.1-TOPOプラスミドベクターに挿入した。
【0049】
挿入DNA断片のシークエンスは、DNAシークエンシングキットdローダミンターミネーターサイクルシークエンシングレディーリアクション(アプライドバイオシステムズ社製)とABI PRISM ジェネティックアナライザー(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて、添付のプロトコールに従って行った。これにより、単離したDNA断片がPKS遺伝子の一部であることを確認した。
【0050】
実施例1-3
コスミドライブラリーのスクリーニング
ミデカマイシンPKS遺伝子の一部を含むプラスミドを鋳型とし、プライマーKS-FとKS-Rを使用したPCRによりDNA断片を増幅し、ハイブリダイゼーションのプローブとして使用した。
【0051】
ゲノムライブラリーのコロニーを形成させたプレート上に、Hybond-N+メンブレン(アマシャムファルマシアバイオテク社製)を載せ、コロニーを付着させた。このメンブレンをアルカリ処理し、溶菌と共にメンブレン上の組換えコスミドDNAを1本鎖に変性しメンブレンに吸着させた。メンブレン上の陽性クローンの検出はECLダイレクトヌクレイックアシッドラベリングアンドディテクションシステム(アマシャムバイオサイエンス社製)を用い、添付のプロトコールに従って行った。このようにしてプローブに相同な領域を含むコスミドクローンpCOMW1(FERM P-18935)、pCOMW2(FERM P-18936)を単離した。部分的に解析したpCOMW1(FERM P-18935)の末端の配列からPCRにより新たにプローブを作製した。このプローブを用いて、再度ゲノムライブラリーのスクリーニングを行い、pCOMW4(FERM P-18937)を単離した。
【0052】
実施例1-4
塩基配列の決定
pCOMW1(FERM P-18935)、pCOMW2(FERM P-18936)を、HaeIIIで部分分解した後、電気泳動により約2 kbの断片を精製し、SmaIで切断したpUC19と連結した。このプラスミドを大腸菌XL1-blueに導入し、任意のコロニーからプラスミドを抽出し、-21M13フォワードプライマー及びM13リバースプライマーをプライマーとして用い、ABI3700(アプライドバイオシステムズ社製)により、添付のプロトコールに従い、シークエンスを行った。得られた結果から、解析が不十分な領域については、解析済みの塩基配列を元に新たなプライマーを設計してシークエンスを行った。さらにこの解析結果を元に、プライマーウォーキングにより、pCOMW4(FERM P-18937)の部分配列を決定した。
【0053】
実施例1-5
ストレプトマイセス マイカロファシエンス1251-2株ミデカマイシン生合成遺伝子群のクローニング、配列解析
ストレプトマイセス マイカロファシエンス1251-2株はニトロソグアニジン処理によりミデカマイシン生産性が向上した株である(図2)。本株の生産性向上がミデカマイシン生合成遺伝子の変異によると考え、同遺伝子クラスターをクローニングし、ATCC21454株由来生合成遺伝子と比較した。
【0054】
ストレプトマイセス マイカロファシエンス1251-2株由来ゲノムDNAの単離、コスミドライブラリーの作製、クローニングはATCC21454由来遺伝子クローニングと同様に行った。
ストレプトマイセス マイカロファシエンス1251-2株由来コスミドライブラリーをスクリーニングし、pCOM1及びpCOM2を得た。これらの配列解析の結果、ミデカマイシン生合成遺伝子のうちorf36から11までを含んでいることが判明した。
【0055】
実施例1-6
各菌株間のミデカマイシン生合成遺伝子群の比較
以上のようにして得られた2種のミデカマイシン生合成遺伝子群の各翻訳領域に関して、そのDNA配列を比較した。ストレプトマイセス マイカロファシエンスATCC21454株のミデカマイシンポリケチド合成酵素のorf1のヌクレオチド配列を配列番号3に、そのアミノ酸配列を配列番号4に、orf2のヌクレオチド配列を配列番号5に、そのアミノ酸配列を配列番号6に、ストレプトマイセス マイカロファシエンス1251-2株のミデカマイシンシンポリケチド合成酵素のorf2のヌクレオチド配列を配列番号7に、そのアミノ酸配列を配列番号8に示す。
その結果、ストレプトマイセス マイカロファシエンス1251-2株由来ミデカマイシン生合成遺伝子群のうち、アグリコン生合成に関与するORF2のKS3ドメインが変異し、ORF1に存在するKS2ドメインと部分的に同一の配列を有することが判明した(図3)。
【0056】
実施例1-7
変異ミデカマイシン生合成遺伝子を保有するミデカマイシン高生産株の検出
以上のようなストレプトマイセス マイカロファシエンス1251-2株に特異なポリケタイド合成酵素の変異が歴代株のどの段階で導入されたか判定するため、PCR法により変異の検出を行った。プライマーはW-orf2-Uとorf2-L、H-orf2-Uとorf2-Lの組み合わせでタカラバイオ社製LA-PCRキットを用い、94℃、3分間の熱変性の後、94℃で1分間、68℃で2.5分間のステップを25サイクル繰り返すことによりorf2のKS3ドメインを増幅させた。
【0057】
W-orf2-U: 5'-GTGATGTATGACGACTACGG-3' (配列番号9)
H-orf2-U: 5'-AAACCTCGGAAGTGTGGTCT-3' (配列番号10)
orf2-L: 5'-ATCGAGGGCGTCGGCGGTAC-3' (配列番号11)
その結果、938-15株と1149-38株の間に変異が導入されていることが判明した。
【0058】
実施例1-8
ストレプトマイセス マイカロファシエンス938-15株と1149-38株のミデカマイシン生産能の比較
ストレプトマイセス マイカロファシエンス938-15株と1149-38株の凍結シードを、内径2 cmの試験管に仕込んだ10 mlの種培地(2% 可溶性デンプン、1% グルコース、0.5% ポリペプトン、0.3% 酵母エキス、0.6% 小麦胚芽、0.2% 脱脂大豆粕、0.2% CaCO3、0.02% 消泡剤(シリコンKM-72、信越化学)、滅菌前pH 7.0、直径6mmのビーズ2個入り)に0.1 ml植菌し、28 ℃にて22時間振盪培養したものを種培養とした。ついで種培養1.0 mlを、250 ml容三角フラスコに仕込んだ30 mlの生産培地(1% グルコース、1% ペプトン、0.5% 肉エキス、0.4% ベジタブルペプトン、3% 大豆原油、0.2% NaCl、0.3% CaCO3、0.08% 乳化剤(ニッコールCO-20TX、日光ケミカル)、pH 7.0)に植菌し、28 ℃にて67〜77時間振盪培養した。培養液は50% 硫酸にてpH 4.0以下に調製後、濾過し分析用サンプルとした。分析法はカラム;YMC-Pack ODS-AM(S-5μm,6.0×150mm、ワイエムシー)、移動相;緩衝液(0.01M CH3COONH4, 0.001M K2HPO4,pH 6.05):CH3CN:C2H5OH=3:3:2、カラム温度;35℃、流速;1.20ml/min、検出波長;232nm、280nmの条件で検出した。
【0059】
その結果、総ミデカマイシン量は938-15株が798μg/ml、1149-38株が1127μg/mlであった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】ミデカマイシンの構造を示す図である。
【図2】ストレプトマイセス マイカロファシエンス株の系統図である。
【図3】ストレプトマイセス マイカロファシエンスATCC21454株のミデカマイシンポリケチド合成酵素のorf1にあるKS2と、orf2にあるKS3と、ストレプトマイセス マイカロファシエンス1149-38株のミデカマイシンシンポリケチド合成酵素のorf2にあるKS3(hyper KS3)について、アミノ酸配列を比較した図である。図中のアミノ酸番号は各orfのイニシエーションコドンを1番としたものである。
【配列表フリーテキスト】
【0061】
配列番号1:合成プライマー
配列番号2:合成プライマー
配列番号9:合成プライマー
配列番号10:合成プライマー
配列番号11:合成プライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミデカマイシンを生産する放線菌であって、ミデカマイシン生合成遺伝子であるポリケチドシンターゼ遺伝子に含有される1ないし複数のモジュール、または、その一部分の配列が他のモジュールの対応するアミノ酸配列をコードするように置換されたミデカマイシン生合成遺伝子またはその相同体を含むミデカマイシン生産放線菌。
【請求項2】
ミデカマイシン合成酵素遺伝子のORF2にあるKS3(β-ketoacyl acyl carrier protein synthase)、または、その一部分の配列がORF1にあるKS2(β-ketoacyl acyl carrier protein synthase)の対応するアミノ酸配列をコードするように置換されている請求項1記載のミデカマイシン生産放線菌。
【請求項3】
ミデカマイシン合成酵素遺伝子のORF2にあるKS3の157番目から420番目のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列の一部または全てがORF1にあるKS2の対応する2705番目から2968番目のアミノ酸配列の一部または全てをコードするように置換されている請求項2記載のミデカマイシン生産放線菌。
【請求項4】
ミデカマイシン合成酵素遺伝子のORF2にあるKS3の157番目から254番目のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列の一部または全てがORF1にあるKS2の対応する2705番目から2802番目のアミノ酸配列の一部または全てをコードするように置換されている請求項3記載のミデカマイシン生産放線菌。
【請求項5】
ミデカマイシン合成酵素遺伝子のORF2にあるKS3の157番目から186番目のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列の一部または全てがORF1にあるKS2の対応する2705番目から2734番目のアミノ酸配列の一部または全てをコードするように置換されている請求項4記載のミデカマイシン生産放線菌。
【請求項6】
放線菌がストレプトマイセス マイカロファシエンスである請求項1から5のいずれか1項に記載のミデカマイシン生産放線菌。
【請求項7】
放線菌がストレプトマイセス マイカロファシエンス1149−38株(FERM P-20405)である請求項6に記載のミデカマイシン生産放線菌。
【請求項8】
請求項1から5のいずれか1項に記載のミデカマイシン生産放線菌をさらに変異処理して得られるミデカマイシン生産放線菌。
【請求項9】
請求項1から5のいずれか1項に記載のミデカマイシン生産放線菌を培養し、生成されるミデカマイシンを単離することを含むミデカマイシンの製造方法。
【請求項10】
請求項6または7記載のミデカマイシン生産放線菌を培養し、生成されるミデカマイシンを単離することを含むロイコマイシンを実質的に含まないミデカマイシンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−280220(P2006−280220A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−101836(P2005−101836)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000006091)明治製菓株式会社 (180)
【Fターム(参考)】