説明

ミトコンドリア機能向上剤

【課題】医薬品、食品等として有用なミトコンドリア機能向上剤、エネルギー消費促進剤又は脂質燃焼促進剤の提供。
【解決手段】スフィンゴミエリンを有効成分とするミトコンドリア機能向上剤、エネルギー消費促進剤又は脂質燃焼促進剤。該ミトコンドリア機能向上剤等は、ヒト及び動物に投与することができる他、各種飲食品、医薬品、ペットフード等の有効成分として配合して使用することができる。該ミトコンドリア機能向上剤等を医薬品、医薬部外品の有効成分として用いる場合の投与形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与、又は注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、外用剤等による非経口投与が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミトコンドリア機能向上剤、エネルギー消費促進剤及び脂質燃焼促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
我々の生命活動は代謝とよばれる様々な物理・化学的過程の連鎖により産生されるATPにより支えられているが、ミトコンドリアはエネルギー代謝の中心的役割を担っており、脂肪酸のβ酸化や電子伝達系による酸化的リン酸化によりATPを供給している。
【0003】
生体でのエネルギー消費を反映している酸素消費は骨格筋、肝臓、あるいは心臓で多いことが特徴であるが、このことはミトコンドリアが心筋や肝臓、骨格筋に多く分布することと一致しており、エネルギー代謝におけるミトコンドリアの役割の大きさが伺い知れる。生体での酸素消費の90%以上はミトコンドリアで行われると言われている。
【0004】
近年、ミトコンドリアの機能異常が、生活習慣病や老化関連疾患等と密接に関係していることが明らかにされつつある。老化によるエネルギー代謝の低下にはミトコンドリアDNAの変異や損傷といったミトコンドリア機能の低下が関係していることが知られている(非特許文献1)。
【0005】
ミトコンドリア機能の低下は、エネルギー代謝の低下を介して、エネルギー摂取とエネルギー消費のアンバランスを引き起こすことから、生活習慣病の原因となり得る(非特許文献2)。従って、ミトコンドリア機能を維持・向上させ、エネルギー代謝を高めることは、生活習慣病の予防・改善につながり、クオリティオブライフ(QOL)に寄与すると考えられる。
【0006】
一方、運動は筋肉のミトコンドリア量を増加させる方法の一つとして知られている(非特許文献3)。従って、運動は筋肉でのミトコンドリアの増加を介し、生体でのエネルギー消費の増加につながると考えられる。しかしながら、運動の重要性が広く認識されている現代においても、定期的に運動を行うことは現実的にはなかなか難しく、より効果的にエネルギー代謝を促進し、エネルギー消費を増加させる方法が望まれている。
【0007】
斯かる観点から、エネルギー代謝やミトコンドリア機能を高める成分の探索が行われ、エネルギー代謝を促進させる成分として、交感神経活性化作用を有するカフェインやカプサイシンなどが報告されている(非特許文献4、5)。しかしながら、カフェインやカプサイシンは、安全性や刺激性の点等から、その実用性が限定され満足できるものではない。その他のエネルギー代謝促進作用を有する例は、カプシノイド含有組成物(特許文献1)やフラバン類又はフラバノン類(特許文献2)が挙げられる。
また、近年では、辛味が少なく、低刺激性のカプサイシン類縁体であるカプシエイトのエネルギー代謝促進作用が報告されている(非特許文献6)。
【0008】
更に茶カテキンには老化に伴うエネルギー代謝低下、ミトコンドリア機能低下作用が見出されている(特許文献3)。また、ミトコンドリア機能活性化作用を有する例は、ベンゾイミダゾール誘導体又はその塩(特許文献4)、1,2-エタンジオール又はその塩(特許文献5)が挙げられる。しかしながら、これら以外のエネルギー代謝やミトコンドリア機能を高める成分は、殆ど知られていない。
【0009】
一方、スフィンゴミエリンは、スフィンゴイド塩基と脂肪酸からなるセラミド骨格にホスホコリンがした化合物であり、体内では脳や神経組織に多く存在することが知られている。近年、その生理機能研究が進められており、筋肉サテライト細胞の活性化との関連(非特許文献7)や抗炎症作用(非特許文献8)が報告されている。また、スフィンゴミエリンの利用に関して、脂質の消化吸収機能改善剤(特許文献6)、腸管運動機能不全性疾患治療剤(特許文献7)などが知られている。
しかしながら、スフィンゴミエリンが、エネルギー代謝やミトコンドリア機能に対して与える影響については、これまで全く知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−149494号公報
【特許文献2】特開2007−314446号公報
【特許文献3】特開2008−63318号公報
【特許文献4】特開2004−67629号公報
【特許文献5】特開2002−322058号公報
【特許文献6】特開平11−269074号公報
【特許文献7】特開2003−252765号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】岩波講座 現代医学の基礎 1999 12(2):55−58.
【非特許文献2】Ritz P. Diabetes Metab. 2005 2:5S67−5S73.
【非特許文献3】Holloszy JO.J.Physiol.Pharmacol.2008 59:5−18.
【非特許文献4】Dulloo AG.Am J Clin Nutr. 1989 49(1):44−50.
【非特許文献5】Kawada T. Proc Soc Exp Biol Med. 1986 183(2):250−6.
【非特許文献6】Ohnuki K. Biosci Biotechnol Biochem. 2001 65(12):2735−40.
【非特許文献7】Nagata Y. J Histochem Cytochem. 2006 54(4):375−384.
【非特許文献8】Furuya H. Int J Vitam Nutr Res.2008 78(1):41−49.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、食経験が豊富で安全性が高く、優れたミトコンドリア機能向上作用、エネルギー消費促進作用、脂質燃焼促進作用を示す医薬品、医薬部外品、食品及び飼料に配合して用いる素材を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、ミトコンドリア機能向上、エネルギー消費促進、脂質燃焼促進に関して有効な成分の探索を行った結果、スフィンゴミエリンにミトコンドリア機能向上作用、エネルギー消費促進作用、脂質燃焼促進作用の効果があり、これが当該作用効果を発揮し得る医薬品、医薬部外品、飲食品及び飼料の有効成分として有用であることを見出した。
【0014】
即ち、本発明は、スフィンゴミエリンを有効成分とするミトコンドリア機能向上剤、エネルギー消費促進剤、脂質燃焼促進剤に係るものである
【発明の効果】
【0015】
本発明のミトコンドリア機能向上剤、エネルギー消費促進剤、脂質燃焼促進剤は、優れたミトコンドリア機能向上作用、エネルギー消費促進作用、脂質燃焼促進作用を有する。従って、ミトコンドリア機能やエネルギー代謝低下の予防・改善のための、飲食品、医薬品、医薬部外品又は飼料に有効成分として配合するための素材として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明において用いることができるスフィンゴミエリンは、特に限定されず、化学的に合成されたものや、天然由来のものが挙げられる。
例えば、スフィンゴミエリンの化学的合成法として、1)ホスホロアミダイトを経由する方法(Weis、Chem Phys Lip、3、1999)、2)環状ホスフェートを経由する方法(Dong、Tetrahedron Lett、5291、1991)、あるいは3)環状ホスファイトを経由する方法(Byun、J Org Chem、6495、1994)により、セラミドの1位水酸基にホスホコリンを導入してスフィンゴミエリンに変換する方法が知られている。
また、天然由来のスフィンゴミエリンとしては、牛乳中の乳脂肪球皮膜成分、あるいはこれらの乳脂肪球皮膜成分を、透析、硫安分画、ゲルろ過、等電点沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、溶媒分画等の手法により精製することで純度を高めて得られるスフィンゴミエリン(Sanchez−Juanes、Int Dairy J、273、2009)を使用してもよい。
さらに、スフィンゴミエリンとして市販品を用いることもできる。斯かる市販品としては、日油(株)「牛乳由来スフィンゴミエリン:NM-70」や「卵黄由来スフィンゴミエリン:NM-10」等が挙げられる。
【0017】
後記実施例に示すように、スフィンゴミエリンは、ミトコンドリア機能向上作用、エネルギー消費促進作用、脂質燃焼促進作用を有する。従って、スフィンゴミエリンは、ミトコンドリア機能向上剤、エネルギー消費促進剤、脂質燃焼促進剤(以下、「ミトコンドリア機能向上剤等」とする。)となり得、さらに当該ミトコンドリア機能向上剤を製造するために使用することができる。このとき、当該ミトコンドリア機能向上剤等には、当該スフィンゴミエリンを単独で、又はこれ以外に、必要に応じて適宜選択した担体等の、配合すべき後述の対象物において許容されるものを使用してもよい。なお、当該製剤は配合すべき対象物に応じて常法により製造することができる。
【0018】
本発明のミトコンドリア機能向上剤等は、ヒト及び動物に投与することができる他、各種飲食品、医薬品、ペットフード等の有効成分として配合して使用することができる。食品としては、ミトコンドリア機能の向上、あるいはエネルギー消費促進及び生活習慣病の予防・改善・発症リスクの低下等の生理機能をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した飲食品、機能性飲食品、病者用飲食品、特定保健用食品等に応用できる。
【0019】
本発明のミトコンドリア機能向上剤等を医薬品、医薬部外品の有効成分として用いる場合の投与形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与又は注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、外用剤等による非経口投与が挙げられる。また、このような種々の剤型の製剤を調製するには、本発明のミトコンドリア機能向上剤等を単独で、又は他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤等を適宜組み合わせて用いることができる。また、これらの投与形態のうち、好ましい形態は経口投与であり、経口用液体製剤を調製する場合は、嬌味剤、緩衝剤、安定化剤等を加えて常法により製造することができる。
【0020】
本発明のミトコンドリア機能向上剤等を食品の有効成分として用いる場合、当該食品の形態としては、牛乳、加工乳、乳飲料、ヨーグルト、清涼飲料水、茶系飲料、コーヒー飲料、果汁飲料、炭酸飲料、ジュース、ゼリー、ウエハース、ビスケット、パン、麺、ソーセージ等の飲食品や栄養食等の各種食品の他、さらには、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、シロップ等)の栄養補給用組成物が挙げられる。
【0021】
種々の形態の食品を調製するには、本発明のミトコンドリア機能向上剤等を単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて用いることができる。本発明のミトコンドリア機能向上剤等を配合した食品は、ミトコンドリア機能向上用食品、エネルギー消費促進用食品、脂質燃焼促進用食品として用いることが可能である。
【0022】
また、本発明のミトコンドリア機能向上剤等を飼料の有効成分として用いる場合には、全ての家畜の飼料に広範に用いることができ、例えば、牛、豚、鶏、羊、馬、山羊等に用いる家畜用飼料、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、マグロ、ウナギ、タイ、ハマチ、エビ等に用いる魚介類用飼料、犬、猫、小鳥、リス等に用いるペットフード等が挙げられる。
【0023】
飼料には本発明のミトコンドリア機能向上剤等の他に、肉類、蛋白質、穀物類、ぬか類、粕類、糖類、野菜、ビタミン類、ミネラル類等一般に用いられる飼料原料、又は溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜配合し、常法により当該飼料を製造することができる。
【0024】
本発明のエネルギー消費促進剤等には、スフィンゴミエリンの他に、必要に応じて適宜選択したその他の薬効成分を併用してもよい。
【0025】
本発明のエネルギー消費促進剤等を含む飲料、例えば乳飲料、清涼飲料水、茶系飲料等に対するスフィンゴミエリンの配合量は、乾燥物換算で、通常0.0001〜1.0質量%、さらに0.001〜0.5質量%、特に0.01〜0.2質量%とするのが好ましい。
【0026】
本発明のエネルギー消費促進剤等を含む飲料以外の食品や飼料、また医薬品、例えば錠剤、顆粒剤、カプセル剤等の経口用固形製剤、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤の場合には、スフィンゴミエリンの配合量は、乾燥物換算で、通常0.002〜50質量%、さらに0.02〜25質量%、特に0.2〜10質量%とするのが好ましい。尚、スフィンゴミエリンは、溶解状態であっても、分散状態であっても良く、その存在状態は問わない。
【0027】
本発明のミトコンドリア機能向上剤等の摂取量は、剤形や用途によって異なるが、スフィンゴミエリン(乾燥物換算)として、成人に対して1日あたり、0.1〜1000mg/60kg体重とするのが好ましく、特に1〜250mg/60kg体重、更に5〜100mg/60kg体重とするのが好ましい。
【0028】
以下に本発明の代表的な製造例、試験例及び実施例等を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
製造例1: スフィンゴミエリンの調製
ミルクリン脂質PC−500(フォンテラジャパン社より入手、スフィンゴミエリン8.8%含有)201gをとり、アセトン4000mLを加え、氷冷下にホモミキサー(TKオートホモミキサー、特殊機化工業社製)にて分散した。その後、遠心分離により、アセトン可溶画分(中性脂質)を除去した。得られたアセトン不溶画分Aに、クロロホルム800mL、メタノール400mL、水300mLを加え、液々抽出し、クロロホルム層を採取した。クロロホルム層は減圧濃縮し、クロロホルム画分A 154gを得た。
【0030】
得られたクロロホルム画分Aに、水酸化カリウム28.05gおよびメタノール1000mLを加え、窒素下、37℃で15時間攪拌し、加水分解を行なった。反応終了後、クロロホルム2000mL、水750mLを加え、液々分配し、クロロホルム層を採取した。クロロホルム層は、減圧濃縮した後、酢酸15mLで中和し、クロロホルム400mL、メタノール200mL、水150mLを加え、再度液々抽出を行なった。クロロホルム層を採取し、減圧濃縮し、クロロホルム画分B 90gを得た。
得られたクロロホルム画分Bに、アセトン1200mLを加え、氷冷下にホモミキサー(TKオートホモミキサー、特殊機化工業社製)にて分散した。その後、遠心分離により、アセトン可溶画分(遊離脂肪酸)を除去した。同様の操作をさらに2回繰り返し、アセトン不溶画分B 44gを得た。
【0031】
得られたアセトン不溶画分Bに、ヘキサン400mL、メタノール400mL、水150mL、28%アンモニア水50mLを加え、液々抽出を行い、ヘキサン層を採取した。ヘキサン層には、さらにメタノール400mL、水150mL、28%アンモニア水50mLを加え、洗浄した。得られたヘキサン層は、減圧濃縮し、ヘキサン画分27gを得た。
【0032】
得られたヘキサン画分のうち22gを用い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製を行った。すなわち、シリカゲル(シリカゲル60、Merck社製)1kgに、ヘキサン画分のクロロホルム溶液を吸着させた後、クロロホルム/メタノール混合溶媒で供雑物を溶出した後、メタノール21Lで溶出し、精製スフィンゴミエリン画分16g(収率:8%)を得た。
【0033】
試験例1 スフィンゴミエリンのエネルギー消費及び脂質燃焼促進作用
スフィンゴミエリンのエネルギー消費及び脂質燃焼促進作用に対する評価を下記の通り行った。スフィンゴミエリンは、上記製造例1の方法に従い、ミルクリン脂質(PC−500、フォンテラジャパン)より抽出した。
1週間の予備飼育後、9週齢のBALB/cマウス(雄:オリエンタルバイオサービス)を体重が等しくなるように2群に分けた(各群8匹)。
その後、コントロール食(10%脂質、20%カゼイン、55.5%ポテトスターチ、8.1%セルロース、0.2%メチオニン、2.2%ビタミン(商品名:ビタミン混合AIN−76、オリエンタルバイオサービス)、4%ミネラル(商品名:ミネラル混合AIN−76、オリエンタルバイオサービス))、またはスフィンゴミエリンを含む試験食(10%脂質、20%カゼイン、54.5%ポテトスターチ、8.1%セルロース、0.2%メチオニン、2.2%ビタミン、4%ミネラル、0.25%スフィンゴミエリン)を、9週間与え、10週目に呼気分析に供した。
【0034】
マウスを呼気分析用チャンバーに移し、48時間環境に馴化させた後、Arco−2000system(アルコシステム)を用いて各マウスの酸素消費量及び呼吸商を24時間測定した。ここでいう酸素消費量とは、エネルギー消費量(1min当たりのマウス体重1kgにおける酸素消費量mL(mL/kg/min))を指し、呼吸商は二酸化炭素排出量と酸素消費量の比を指す。これら酸素消費量と呼吸商より、Peronnetの式(Peronnet F, and Massicotte D (1991) Can J Sport Sci 16:23−29.)を用いて、脂質燃焼量を算出した。表1に24時間の平均エネルギー消費量(mL/kg/min)、平均脂質燃焼量(mg/kg/min)を示す。
【0035】
13週間飼育後に各群のマウスの腓腹筋を採取し、RNeasy Fibrous Tissue Mini Kit(Qiagen)を用いて、RNAサンプルを得た。各RNAサンプルを定量し、1反応あたりのRNA量を125ngとして反応液中(1xPCR buffer II(アプライドバイオシステム社)、5mM MgCl2、1mM dNTP mix、2.5μM Oligo d〔T〕18(New England Biolabs社)、1U/ml RNase inhibitor(タカラバイオ社))で逆転写反応を行い、cDNAを得た。反応条件は42℃、10分間、52℃、30分間、99℃、5分間とした。
【0036】
得られたcDNAを鋳型として、ABI PRISM 7700 Sequence Detector(アプライドバイオシステムズ社)により定量的PCRを行った。36B4mRNAの発現量を基準として補正し、相対的mRNA発現量として表した。プライマーとして36B4(GenBank: NM_007475、Forward:GACATCACAGAGCAGGCCCT(配列番号1)、Reverse:TCTCCACAGACAATGCCAGG(配列番号2))、PGC−1α(GenBank:NM_008904、Forward:CCGAGAATTCATGGAGCAAT(配列番号3)、Reverse:TTTCTGTGGGTTTGGTGTGA(配列番号4))を用いた。結果を表2に示した。
【0037】
【表1】

【0038】
表1から、スフィンゴミエリンを含有する試験食を摂取したマウスでは、対照食群と比較して、ミトコンドリア新生や脂肪燃焼に関与するPGC−1α遺伝子発現が腓腹筋において有意に高いことがわかる。従って、スフィンゴミエリンはミトコンドリア機能向上剤として有用である。
【0039】
【表2】

【0040】
表2から、スフィンゴミエリンを含有する試験食を摂取したマウスでは、対照食群と比較して、酸素消費量及び脂質燃焼量が有意に多いことがわかる。従って、スフィンゴミエリンはエネルギー消費促進剤及び脂質燃焼促進剤として有用である。
【0041】
製剤例
処方例1 ミトコンドリア機能向上、エネルギー消費促進用ゼリー食品
カラギーナンとローカストビーンガムの混合ゲル化剤0.65%、グレープフルーツの50%の濃縮果汁5.0%、クエン酸0.05%、ビタミンC0.05%、およびスフィンゴミエリン(日油社製 NM-70)を0.1%混合し、これに水を加えて100%に調整し、65℃で溶解した。更に少量のグレープフルーツフレーバーを添加して85℃で5分間保持して殺菌処理後、100mLの容器に分注した。8時間静置して徐冷しながら5℃に冷却して、ゲル化させ、口に含んだ時に口溶け性が良好で、果実風味を有し食感良好なスフィンゴミエリンを含有するゼリー食品を得た。
【0042】
処方例2 ミトコンドリア機能向上、エネルギー消費促進用錠剤
アスコルビン酸180mg、クエン酸50mg、アスパルテーム12mg、ステアリン酸マグネシウム24mg、結晶セルロース120mg、乳糖594mg、およびスフィンゴミエリン(日油社製 NM-10)120mgからなる処方(1日量2200mg)で、日本薬局方(製剤総則「錠剤」)に準じて錠剤を製造し、スフィンゴミエリンを含有する錠剤を得た。
【0043】
処方例3 ミトコンドリア機能向上、エネルギー消費促進用ビタミン内服液
タウリン800mg、ショ糖2000mg、カラメル50mg、安息香酸ナトリウム30mg、ビタミンB1硝酸塩5mg、ビタミンB2 20mg、ビタミンB6 20mg、ビタミンC 2000mg、ビタミンE 100mg、ビタミンD3 2000IU、ニコチン酸アミド20mg、精製スフィンゴミエリン(製造例1)50mg、ロイシン200mg、イソロイシン100mg、バリン100mgを適量の精製水に加えて溶解し、リン酸水溶液でpH3に調節した後、更に精製水を加えて全量を50mLとした。これを80℃で30分滅菌して、スフィンゴミエリン及びアミノ酸類を含有するミトコンドリア機能向上、エネルギー消費促進用飲料を得た。
【0044】
処方例4 ミトコンドリア機能向上、エネルギー消費促進用乳系飲料
乳カゼイン3.4g、分離大豆タンパク質1.67g、デキストリン14.86g、ショ糖1.3g、大豆油1.75g、シソ油0.18g、大豆リン脂質0.14g、グリセリン脂肪酸エステル0.07g、ミネラル類0.60g、ビタミン類0.06g、精製スフィンゴミエリン(製造例1)100mgに精製水を加え、常法に従い、レトルト殺菌し、スフィンゴミエリンを含有するミトコンドリア機能向上、エネルギー消費促進用飲料(100mL)を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スフィンゴミエリンを有効成分とするミトコンドリア機能向上剤。
【請求項2】
スフィンゴミエリンを有効成分とするエネルギー消費促進剤。
【請求項3】
スフィンゴミエリンを有効成分とする脂質燃焼促進剤。

【公開番号】特開2011−157328(P2011−157328A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22221(P2010−22221)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】