説明

メアンダラインアンテナの製造方法及びメアンダラインアンテナ

【課題】小型化が可能であり、かつ、放射効率の高いメアンダラインアンテナを提供する。
【解決手段】メアンダラインアンテナ40において、連続する導体を繰り返し逆方向に曲折させて平面状に配置してなるアンテナ素子41と、アンテナ素子41の中央部に設けられる給電点12と、アンテナ素子41を両面から挟み込むようにアンテナ素子41に近接する誘電体42及び43とを配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ユビキタス通信の小形無線タグや生体埋め込み用の小形無線センサー、携帯電話などに用いられる、給電部に高周波電圧を印加することにより、導体部より電波を空間に放射する機能を有し、アンテナの物理寸法が波長の数十分の1以下となる超小形のメアンダラインアンテナに関し、特に、小型化が可能であり、かつ、放射効率の高いメアンダラインアンテナの製造方法及びメアンダラインアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
ユビキタス通信においては、販売現場で扱われている商品などに、電波により識別される荷札(RFID;Radio Frequency IDentification)を貼り付け、商品の流通に役立てようとする試みが成されている。RFIDにはメアンダ形状の素子を用いたメアンダラインアンテナが用いられる。メアンダラインアンテナは、RFID以外にも携帯電話などに用いられており、例えば、特許文献1にはメアンダ形状の放射素子を用いた携帯無線通信機用のアンテナ手段が開示されている。
【特許文献1】特表2000−516056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、RFIDなどの用途に用いられるメアンダラインアンテナは、これをRFIDや携帯電話等の小型の電子機器に用いる場合には、その外形寸法を所定の大きさに抑えなければならないという制約がある。このため、このような電子機器に用いられるメアンダラインアンテナには、上記大きさの制約を満たしつつ、電子機器に必要とされる放射効率を有していることが求められる。
【0004】
本発明は、このような背景を鑑みてなされたものであり、小型化が可能であり、かつ、放射効率の高いメアンダラインアンテナの製造方法及びメアンダラインアンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明のうち請求項1に記載の発明は、連続する導体を繰り返し逆方向に曲折させて平面状に配置し、前記導体の中央部に給電点を設けてなるメアンダラインアンテナの製造方法であって、前記導体に近接させて誘電体を配置し、前記誘電体の誘電率を変化させて、前記導体の曲折部分の数を変化させることとする。
【0006】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のメアンダラインアンテナの製造方法であって、前記誘電体を、前記導体の両面から挟み込むように、前記導体に近接させて配置することとする。
【0007】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のメアンダラインアンテナの製造方法であって、前記導体について、流れる電流量が大きい部分の線幅を、流れる電流量が小さい部分の線幅よりも太く形成することとする。
【0008】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のメアンダラインアンテナの製造方法であって、前記導体の線幅を、前記給電点から離れるほど細く形成することとする。
【0009】
また、請求項5に記載の発明は、メアンダラインアンテナの製造方法であって、連続する第1の導体を繰り返し逆方向に曲折させて平面状に配置してなる第1の素子と、連続する第2の導体を繰り返し逆方向に曲折させて平面状に配置してなる第2の素子とを同一平面に配置し、前記第1の素子の中央部に給電点を設け、前記第1及び第2の導体の端部同士を短絡することにより、前記第1及び第2の導体を接続したループを形成し、誘電体を、前記ループの両面から挟み込むように、前記ループに近接させて配置することとする。
【0010】
また、請求項6に記載の発明は、メアンダラインアンテナの製造方法であって、連続する第1の導体を繰り返し逆方向に曲折させて平面状に配置してなる第1の素子を配置し、連続する第2の導体を繰り返し逆方向に曲折させて平面状に配置してなる第2の素子を配置し、前記第1の素子の中央部に給電点を設け、前記第1及び第2の導体の端部同士を短絡することにより、前記第1及び第2の導体を接続したループを形成し、誘電体を、前記第1の導体が配置される平面と、前記第2の導体が配置される平面との間に挟みこまれるように、前記第1及び第2の導体に近接させて配置することとする。
【0011】
また、請求項7に記載の発明は、請求項6に記載のメアンダラインアンテナの製造方法であって、第2の誘電体を、前記第1の導体が配置される平面の、前記誘電体である第1の誘電体が前記第1の導体に近接する面とは異なる面から、前記第1の導体に近接させて配置し、第3の誘電体を、前記第2の導体が配置される平面の、前記第1の誘電体が前記第2の導体に近接する面とは異なる面から、前記第2の導体に近接させて配置することとする。
【0012】
また、請求項8に記載の発明は、請求項5乃至7のいずれかに記載のメアンダラインアンテナの製造方法であって、前記第1及び第2の導体の少なくともいずれかについて、流れる電流量が大きい部分の線幅を、流れる電流量が小さい部分の線幅よりも太く形成することとする。
【0013】
また、請求項9に記載の発明は、請求項8に記載のメアンダラインアンテナの製造方法であって、前記第1及び第2の導体の少なくともいずれかの線幅を、前記給電点から離れるほど細く形成することとする。
【0014】
また、請求項10に記載の発明は、メアンダラインアンテナであって、連続する導体を繰り返し逆方向に曲折させて平面状に配置してなる素子と、前記素子の中央部に設けられる給電点と、前記素子の両面から挟み込むように前記導体に近接して配置される誘電体と、を備えることとする。
【0015】
また、請求項11に記載の発明は、請求項10に記載のメアンダラインアンテナであって、前記導体について、流れる電流量の大きい部分の線幅が、流れる電流量の小さい部分の線幅よりも太いこととする。
【0016】
また、請求項12に記載の発明は、請求項11に記載のメアンダラインアンテナであって、前記導体の線幅は、前記給電点から離れるほど細いこととする。
【0017】
また、請求項13に記載の発明は、メアンダラインアンテナであって、連続する第1の導体を繰り返し逆方向に曲折させて平面状に配置してなる第1の素子と、前記第1の導体が配置される平面と同一平面に配置される、連続する第2の導体を繰り返し逆方向に曲折させて平面状に配置してなる第2の素子と、前記第1の素子の中央部に設けられる給電点と、前記第1及び第2の導体の端部同士を短絡することにより形成される、前記第1及び第2の導体を接続したループと、前記ループの両面から挟み込むように、前記ループに近接して配置される誘電体と、を備えることとする。
【0018】
また、請求項14に記載の発明は、メアンダラインアンテナであって、連続する第1の導体を繰り返し逆方向に曲折させて平面状に配置してなる第1の素子と、連続する第2の導体を繰り返し逆方向に曲折させて平面状に配置してなる第2の素子と、前記第1の素子の中央部に設けられる給電点と、前記第1及び第2の導体の端部同士を短絡することにより形成される、前記第1及び第2の導体を接続したループと、前記第1の導体が配置される平面と、前記第2の導体が配置される平面との間に挟みこまれるように、前記第1及び第2の導体に近接する誘電体と、を備えることとする。
【0019】
また、請求項15に記載の発明は、請求項14に記載のメアンダラインアンテナであって、前記第1の導体が配置される平面の、前記誘電体である第1の誘電体が前記第1の導体に近接する面とは異なる面から、前記第1の導体に近接する第2の誘電体と、前記第2の導体が配置される平面の、前記第1の誘電体が前記第2の導体に近接する面とは異なる面から、前記第2の導体に近接する第3の誘電体と、を備えることとする。
【0020】
また、請求項16に記載の発明は、請求項10乃至15のいずれかに記載のメアンダラインアンテナであって、前記第1及び第2の導体の少なくともいずれかについて、流れる電流量が大きい部分の線幅は、流れる電流量が小さい部分の線幅よりも太いこととする。
【0021】
また、請求項17に記載の発明は、請求項16に記載のメアンダラインアンテナであって、前記第1及び第2の導体の少なくともいずれかの線幅は、前記給電点から離れるほど細いこととする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、小型化が可能であり、かつ、放射効率の高いメアンダラインアンテナの製造方法及びメアンダラインアンテナを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態につき図面とともに説明する。
【0024】
図1にメアンダラインアンテナの基本構造を示している。同図に示すメアンダラインアンテナ10は、連続する導体を繰り返し逆方向に曲折させて平面状に配置して(以下、この形状をメアンダ形状という。)構成される素子(以下、アンテナ素子11という。)を有してなるものである。このメアンダラインアンテナ10において、給電点12はアンテナ素子11の中央部に設けられる。
【0025】
図1に示す構造からなる基本構造のメアンダラインアンテナ10について、アンテナ長(L)を0.05λ、アンテナ幅(W)を0.04λとして、電磁界シミュレータによるシミュレーションを行った。線幅dが0.1mm、アンテナ素子11における曲折部分(以下、クランクという。)の総数(N)が38である場合における、入力インピーダンス(Zin)の計算結果を図2のスミスチャートに示す。同図に示すように、708.7MHzに共振点を有しており、この共振点においてメアンダラインアンテナ10の入力インピーダンスは純抵抗成分(Rin)のみとなる。ここで、抵抗成分Rinの内訳は、放射抵抗のRrと、導体抵抗のRlである。また、アンテナの放射効率(η)は次式で表される。
η=Rr/(Rr+Rl) (1)
【0026】
これらの値を求めたものが、表1である。
[表1]

【0027】
表1に示すように、基本構造のメアンダラインアンテナ10では、RlがRrに比して17倍にも大きくなっていることが特徴である。すなわち、基本構造のメアンダラインアンテナ10では、給電された電波は殆んど導体抵抗Rlにより熱損失として消費されてしまうことを意味している。このため、基本構造のメアンダラインアンテナ10の放射効率ηは、−12.5dBと比較的小さな値となっている。
【0028】
ここで、導体抵抗Rlは、導体の線幅をd、導体の厚みをtとすると、次式で表される。

【0029】
ここで、δは導体の表皮厚と呼ばれ、次式で表される。

式(3)において、fは周波数、μは透磁率、σは導電率を表す。
【0030】
式(2)より、導体抵抗Rlの値を決める主要因は、導体の長さ(La)と導体線幅(d)である。式(2)において、La=707mm、d=0.1mmと導体として用いた銅の導電率σ=5.8×10(S/m)を代入するとともに、d>tよりtを省略すると、Rl=24.5Ωとなる。このようにして算出したRlは、表1のRlの値と良く対応している。
【0031】
基本構造のメアンダラインアンテナ10の放射効率を向上するメアンダラインアンテナ20の構成を図3に示す。同図に示すように、このメアンダラインアンテナ20は、アンテナ素子11及びアンテナ素子21を同一平面に配置し、アンテナ素子11の中央部に給電点12を設け、アンテナ素子11とアンテナ素子21との端部同士を短絡して、アンテナ素子11とアンテナ素子21とからなるループを形成するようにしている(以下、このメアンダラインアンテナ20の構造を「折り返し構造」という。)。
【0032】
図3に示すメアンダラインアンテナ20では、アンテナ素子が2個(11、21)用いられているが、アンテナ素子の数をMとすると、「折り返し構造」のメアンダラインアンテナにおける主要電気定数(純抵抗成分Rin’、放射抵抗Rr’、導体抵抗Rl’、放射効率η’)は、各々次式で表される。
【0033】
Rr’=M× Rr (4)
Rl’=M×Rl (5)
η’= Rr’ /(Rr’+Rl’)=M× Rr / (M×Rr+M×Rl) (6)
ここで、Rl’> Rr’とすると、Rin’は近似的に次式となる。
η’≒ Rr’/ Rl’=M×( Rr / Rl )=M×η (7)
すなわち、アンテナ素子をM個用いた「折り返し構造」のメアンダラインアンテナでは、放射効率をM倍に向上できることが分かる。図3に示したメアンダラインアンテナ20では、M=2であり、Rrは4倍、Rlは2倍になる。電磁界シミュレータによるメアンダラインアンテナ20の主要電気定数の計算結果を表2に示す。
【0034】
[表2]

【0035】
表2と表1とを比較してみると、放射効率ηは2倍に向上して、3dBの上昇が見られる。また、表2より、電磁界シミュレータにより計算されたRrとRlは、式(2)の計算値と良く対応し、それぞれ約4倍、約2倍の増加率となっていることが分かる。
【0036】
次に、上記のような「折り返し構造」とは異なる構成からなるメアンダラインアンテナ30を図4に示す。同図に示すように、このメアンダラインアンテナ30では、アンテナ素子11及び21をほぼ平行に並べ、アンテナ素子11の中央部に給電点12を設け、アンテナ素子11及び21の端部同士を短絡して、アンテナ素子11とアンテナ素子21とからなるループを形成するようにしている(以下、このメアンダラインアンテナ30の構造を「重ね構造」という。)。このメアンダラインアンテナ30では、アンテナ素子11とアンテナ素子21とが、0.0047λの距離(g)をおいてほぼ平行に並べられている。メアンダラインアンテナ30の主要電気定数を電磁界シミュレータにより計算した結果を表3に示す。
【0037】
[表3]

【0038】
表3と表2とを比較すると、メアンダラインアンテナ30では、上述のメアンダラインアンテナ20の放射効率に近い−8.3dBの放射効率ηを得ていることが分かる。
【0039】
以上に説明したように、「折り返し構造」や「重ね構造」の導入により、メアンダラインアンテナの放射効率の向上を図ることができるが、アンテナ素子の数(M)を増した分だけのM倍の効率増加に留まる。ここで放射効率に大きく影響する電気定数は導体抵抗(Rl)であるため、外形寸法を維持したまま、導体抵抗(Rl)の低減を図ることができれば、放射効率を向上できる。本実施形態における外形寸法の制約(アンテナ長(L)=0.05λ)の下で、導体抵抗(Rl)の低減を図るためには、式(2)より、導体長(La)を小さくするか、導体線幅(d)を大きくする必要がある。ここで、導体の取り得る最大の線幅(d)とアンテナ長(L)とクランクの数(N)との間には、次の式(8)の関係がある。
L ≒ N×d (8)
Lは外形寸法の制約として予め決まっているため、dを大きくするためにはNを小さくする必要がある。与えられたLにおいて、La、Nなどの値が変わる可能性は、アンテナ周囲の媒質定数の変化である。例えば、誘電率を大きくすると、受信電波の波長が短縮され、共振周波数が小さくなる。従って、誘電率を変化させることにより、アンテナが共振する状態における構造諸元を変化させることができる可能性がある。これにより、メアンダラインアンテナのアンテナ素子におけるクランク数Nを変化させることができると考えられる。
【0040】
そこでまず、本発明者は、アンテナ素子を誘電体で挟み込むようにした。このような構成のメアンダラインアンテナ40の斜視図を図5に示す。また、図6にメアンダラインアンテナ40の平面図を示す(なお、図6では誘電体は図示していない。)。図5及び図6に示すメアンダラインアンテナ40は、アンテナ素子41と、アンテナ素子41の中央部に設けられる給電点12と、アンテナ素子41を両面から挟み込むようにアンテナ素子41に近接する誘電体42及び43とにより構成されている。ここで誘電体42及び43は一体としてもよい。誘電体42及び43の厚さhは0.0023λである。
【0041】
なお、誘電体がアンテナ素子に「近接する」という場合には、誘電体とアンテナ素子とが接触している状態や、誘電体とアンテナ素子とが接着剤により密着した状態、誘電体がアンテナ素子のクランク部分に充填されるように密着している状態をも含むものとする。
【0042】
図5に示すメアンダラインアンテナ40において、誘電体42及び43の比誘電率εを10とした場合、クランク数N=14となる。すなわち、メアンダラインアンテナ40のアンテナ長(L)は、図1に示したメアンダラインアンテナ10の0.05λと変わらないが、クランク数Nを38から14と大幅に低減することができた。これに伴い、導体線幅を0.1mmから0.6mmに増加することができた。ここで、メアンダラインアンテナ40の入力インピーダンス(Zin)の電磁界シミュレータによる計算結果を図7のスミスチャートに示す。同図に示すように、704.8MHzに共振点を有している。また、電磁界シミュレータによるメアンダラインアンテナ40の主要電気定数の計算結果は表4のようになる。
【0043】
[表4]

【0044】
ここで表4と表1との比較において顕著な点は、Rlの値が25.4Ωであったものが3.8Ωと6分の1以下に低減できたことである。すなわち、誘電体(42、43)をアンテナ素子41の両面から挟み込むようにアンテナ素子41に近接させることにより、放射効率ηが−12.5dBから−4.6dBへと、8dB(6倍強)も大幅に向上されたことになる。このように、メアンダラインアンテナ40において、アンテナ素子41(導体)に近接させて誘電体(42、43)を配置し、その誘電体(42、43)の誘電率を変化させることにより、アンテナ素子41のクランク数N(曲折部分)を変化させることができる。ここでアンテナ素子41のクランク数Nを小さくすれば、その分、導体線幅dを太くすることが可能であり、これにより導体抵抗Rlを低減することができる。そして、このようにして導体抵抗Rlが低減されることで、式(1)によって、メアンダラインアンテナ40の放射効率ηが向上することになる。
【0045】
次に、メアンダラインアンテナに用いられる導体線幅について説明する。メアンダラインアンテナに用いられる導体では、流れる電流量が、給電点からの距離に応じて変化するため、導体線幅も導体を流れる電流量に応じた変化を持たせるほうが、効果的に導体抵抗を小さくできる。図8は、メアンダラインアンテナ40のアンテナ素子41において流れる電流量の分布(以下、電流分布という。)を示す図である。同図に示すように、メアンダラインアンテナ40のアンテナ素子41では、給電点12の近くで最も電流が強く(45)、両端部では電流が零となる(46)。従って、アンテナ素子41の給電点12から離れるほどアンテナ素子41の導体線幅を細く形成することにより、アンテナ素子41の導体抵抗を小さくすることができる。
【0046】
図9は、給電点12から離れるほど、すなわち中央部から端部に向けて、導体線幅を細く形成したメアンダラインアンテナ50を示す図である。図9に示すメアンダラインアンテナ50は、図8に示したメアンダラインアンテナ40のアンテナ素子41における電流分布に応じて、アンテナ素子41の端部から1〜2つ目のクランクの導体線幅d1を0.35mm、3〜4つ目のクランクの導体線幅d2を0.5mm、5〜6つ目のクランクの導体線幅d3を0.8mmとしたものである。このように、メアンダラインアンテナ50のアンテナ素子51では、流れる電流量の大きなところの導体線幅が、流れる電流量の少ないところの導体線幅よりも太くなっており、これによりアンテナ素子51の導体抵抗Rlが低減される。そして、このようにして導体抵抗Rlが低減されることで、式(1)によって、メアンダラインアンテナ50の放射効率ηが向上することになる。
【0047】
次に、上述した「折り返し構造」のメアンダラインアンテナ20や「重ね構造」のメアンダラインアンテナ30において、誘電体をアンテナ素子に近接させた構成について説明する。
【0048】
上述した「折り返し構造」のメアンダラインアンテナ20を誘電体で挟み込んだ構成のメアンダラインアンテナ60の斜視図を図10に示す。また、メアンダラインアンテナ60の平面図を図11に示す(なお、図11では誘電体は図示していない。)。図10及び図11に示すように、このメアンダラインアンテナ60は、連続する第1の導体を繰り返し逆方向に曲折させて平面状に配置してなるアンテナ素子41と、連続する第2の導体を繰り返し逆方向に曲折させて平面状に配置してなるアンテナ素子61とを同一平面に配置し、アンテナ素子41の中央部に給電点12を設け、アンテナ素子41及び61の端部同士を短絡することにより、アンテナ素子41及び61を接続したループを形成し、そのループの両面から挟み込むように、ループに近接させて誘電体62及び63を配置してなるものである。この場合、メアンダラインアンテナ60のクランク数Nは14となる。このように、メアンダラインアンテナ60では、図1に示した基本構造のメアンダラインアンテナ10のクランク数N=38よりも、クランク数Nを大幅に小さくすることができる。
【0049】
メアンダラインアンテナ60の主要電気定数の電磁界シミュレータによる計算値を表5に示す。
【0050】
[表5]

【0051】
表5と表4とを比較すると、Rrは4倍以上の値となっているのに対し、Rlは2倍程度の増加に留まっている。このため、メアンダラインアンテナ60では、放射効率が更に向上し、メアンダラインアンテナ60の放射効率ηは、図5に示したメアンダラインアンテナ40よりも約2dB高い−2.5dBの値が得られた。このように、メアンダラインアンテナ60では、アンテナ素子61に近接させて誘電体62及び63を配置したことにより、アンテナ素子61のクランク数Nが減り、その分導体線幅dを太くすることが可能となり、これにより導体抵抗Rlを低減することができる。そして、このようにして導体抵抗Rlが低減されることで、式(1)によって、メアンダラインアンテナ60の放射効率ηが向上することになる。
【0052】
次に、上述した「重ね構造」のメアンダラインアンテナ30のアンテナ素子31及び32とで挟み込むように、アンテナ素子31及び32の間に誘電体を配置するようにしたメアンダラインアンテナ70について説明する。メアンダラインアンテナ70の斜視図を図12及び図13に示す(なお、図13では誘電体は図示していない。)。図12及び図13に示すように、メアンダラインアンテナ70では、連続する第1の導体を繰り返し逆方向に曲折させて平面状に配置してなるアンテナ素子41を配置し、連続する第2の導体を繰り返し逆方向に曲折させて平面状に配置してなるアンテナ素子61を配置し、アンテナ素子41の中央部に給電点12を設け、アンテナ素子41及び61の端部同士を短絡することにより、アンテナ素子41及び61を接続したループを形成し、誘電体71を、アンテナ素子41が配置される平面と、アンテナ素子61が配置される平面との間に挟みこまれるように、アンテナ素子41及び61に近接させて配置している。
【0053】
ここで、誘電体71の厚さg(アンテナ素子41及びアンテナ素子61の間の距離)は0.0047λである。この場合、クランク数Nは14となる。このように、メアンダラインアンテナ70のクランク数Nは、図4に示したメアンダラインアンテナ30のクランク数N=38に比べて大幅に小さくなった。このように、メアンダラインアンテナ70では、クランク数Nが減ることで、その分、導体線幅dを太くすることが可能となり、これにより導体抵抗Rlを低減することができる。そして、このようにして導体抵抗Rlが低減されることで、式(1)によって、メアンダラインアンテナ70の放射効率ηが向上することになる。なお、メアンダラインアンテナ70は、平板状の誘電体71の両面に、アンテナ素子41及びアンテナ素子61を配置することによって容易に作成することができる。
【0054】
なお、上記のメアンダラインアンテナ70を誘電体で挟み込むようにしてもよい。図14に、この構成のメアンダラインアンテナ80の断面図を示す。同図に示すように、メアンダラインアンテナ80は、誘電体81を、アンテナ素子41が配置される平面の、誘電体71がアンテナ素子41に近接する面とは異なる面から、アンテナ素子41に近接させて配置し、誘電体82を、アンテナ素子61が配置される平面の、誘電体71がアンテナ素子61に近接する面とは異なる面から、アンテナ素子61に近接させて配置するようにしている。
【0055】
図14に示すメアンダラインアンテナ70において、誘電体71の厚さ(g)を2.0mm、誘電体81及び82の厚さ(k)を1.0mm、誘電体71、81及び82の比誘電率(ε)を10、アンテナ素子41及び61の厚さ(t)を35μmとした場合、クランク数Nは14となる。すなわち、図4に示したメアンダラインアンテナ30のクランク数N=38に比べてNが大幅に小さくなった。ここで、電磁界シミュレータによるメアンダラインアンテナ80の主要電気定数の計算値を表6に示す。
【0056】
[表6]

【0057】
表6と表5とを比較すると、Rr及びRlともに同様の値が得られている。放射効率ηは−2.2dBの値が得られた。このように、メアンダラインアンテナ70では、アンテナ素子41及び61のクランク数Nが小さくなることで、その分、導体線幅dを太くすることが可能であり、これにより導体抵抗Rlを低減することができる。そして、このようにして導体抵抗Rlが低減されることで、式(1)によって、メアンダラインアンテナ70の放射効率ηが向上することになる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態のメアンダラインアンテナによれば、メアンダラインアンテナの放射効率を、アンテナの外形寸法を変化させること無く、大幅に向上することができる。従って、小型化が可能であり、かつ、放射効率の高いメアンダラインアンテナを実現することができる。これにより、例えば、荷物に付けられるRFIDに本実施形態のメアンダラインアンテナを用いる場合には、一般的なメアンダラインアンテナを用いたRFIDに比べて、より遠隔の荷物に付されたRFIDの情報を読み取ることができる。また、本実施形態のメアンダラインアンテナを携帯電話などの無線通信機器に用いた場合には、より遠くの基地局と電波の送受信をすることが可能となり、通信可能範囲を拡大することができる。
【0059】
なお、上記メアンダラインアンテナ60、メアンダラインアンテナ70、メアンダラインアンテナ80の何れについても、上述した図8に示すメアンダラインアンテナ50のように、電流量分布に応じて導体線幅を変え、給電点12から離れるほど導体線幅が細くなるようにしてもよい。この場合、さらに導体抵抗を低減することが可能となり、メアンダラインアンテナの放射効率をより一層向上することができる。
【0060】
また、本実施形態では、誘電体の比誘電率をε=10としたが、これに限らず、任意の比誘電率の誘電体を用いることができる。また、誘電体の厚さh、g、kについても、任意のサイズとすることができる。
【0061】
以上、本実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】メアンダラインアンテナの基本構造を示す図である。
【図2】メアンダラインアンテナ10の入力インピーダンス特性を示す図である。
【図3】「折り返し構造」のメアンダラインアンテナ20を示す図である。
【図4】「重ね構造」のメアンダラインアンテナ30を示す図である。
【図5】アンテナ素子を誘電体で挟み込むようにした構成のメアンダラインアンテナ40の斜視図である。
【図6】メアンダラインアンテナ40の平面図である。
【図7】メアンダラインアンテナ40の入力インピーダンス特性を示す図である。
【図8】メアンダラインアンテナ40のアンテナ素子41における電流分布を示す図である。
【図9】不均一な導体線幅のメアンダラインアンテナ50を示す図である。
【図10】「折り返し構造」のメアンダラインアンテナ20を誘電体で挟み込んだ構成のメアンダラインアンテナ60の斜視図である。
【図11】メアンダラインアンテナ60の平面図である。
【図12】「重ね構造」においてアンテナ素子間に誘電体を配置するようにした構成のメアンダラインアンテナ70の斜視図である。
【図13】メアンダラインアンテナ70の平面図である。
【図14】メアンダラインアンテナ70を誘電体で挟み込んだ構成のメアンダラインアンテナ80の断面図である。
【符号の説明】
【0063】
10 メアンダラインアンテナ
11 アンテナ素子
12 給電点
20 メアンダラインアンテナ
21 アンテナ素子
30 メアンダラインアンテナ
40 メアンダラインアンテナ
41 アンテナ素子
42 誘電体
43 誘電体
50 メアンダラインアンテナ
51 アンテナ素子
60 メアンダラインアンテナ
61 アンテナ素子
62 誘電体
63 誘電体
70 メアンダラインアンテナ
71 誘電体
80 メアンダラインアンテナ
81 誘電体
82 誘電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続する導体を繰り返し逆方向に曲折させて平面状に配置し、前記導体の中央部に給電点を設けてなるメアンダラインアンテナの製造方法であって、
前記導体に近接させて誘電体を配置し、
前記誘電体の誘電率を変化させて、前記導体の曲折部分の数を変化させること、
を特徴とするメアンダラインアンテナの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のメアンダラインアンテナの製造方法であって、
前記誘電体を、前記導体の両面から挟み込むように、前記導体に近接させて配置すること、
を特徴とするメアンダラインアンテナの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のメアンダラインアンテナの製造方法であって、
前記導体について、流れる電流量が大きい部分の線幅を、流れる電流量が小さい部分の線幅よりも太く形成すること、
を特徴とするメアンダラインアンテナの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のメアンダラインアンテナの製造方法であって、
前記導体の線幅を、前記給電点から離れるほど細く形成すること、
を特徴とするメアンダラインアンテナの製造方法。
【請求項5】
連続する第1の導体を繰り返し逆方向に曲折させて平面状に配置してなる第1の素子と、連続する第2の導体を繰り返し逆方向に曲折させて平面状に配置してなる第2の素子とを同一平面に配置し、
前記第1の素子の中央部に給電点を設け、
前記第1及び第2の導体の端部同士を短絡することにより、前記第1及び第2の導体を接続したループを形成し、
誘電体を、前記ループの両面から挟み込むように、前記ループに近接させて配置すること、
を特徴とするメアンダラインアンテナの製造方法。
【請求項6】
連続する第1の導体を繰り返し逆方向に曲折させて平面状に配置してなる第1の素子を配置し、
連続する第2の導体を繰り返し逆方向に曲折させて平面状に配置してなる第2の素子を配置し、
前記第1の素子の中央部に給電点を設け、
前記第1及び第2の導体の端部同士を短絡することにより、前記第1及び第2の導体を接続したループを形成し、
誘電体を、前記第1の導体が配置される平面と、前記第2の導体が配置される平面との間に挟みこまれるように、前記第1及び第2の導体に近接させて配置すること、
を特徴とするメアンダラインアンテナの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のメアンダラインアンテナの製造方法であって、
第2の誘電体を、前記第1の導体が配置される平面の、前記誘電体である第1の誘電体が前記第1の導体に近接する面とは異なる面から、前記第1の導体に近接させて配置し、
第3の誘電体を、前記第2の導体が配置される平面の、前記第1の誘電体が前記第2の導体に近接する面とは異なる面から、前記第2の導体に近接させて配置すること、
を特徴とするメアンダラインアンテナの製造方法。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれかに記載のメアンダラインアンテナの製造方法であって、
前記第1及び第2の導体の少なくともいずれかについて、流れる電流量が大きい部分のの線幅を、流れる電流量が小さい部分の線幅よりも太く形成すること、
を特徴とするメアンダラインアンテナの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載のメアンダラインアンテナの製造方法であって、
前記第1及び第2の導体の少なくともいずれかの線幅を、前記給電点から離れるほど細く形成すること、
を特徴とするメアンダラインアンテナの製造方法。
【請求項10】
連続する導体を繰り返し逆方向に曲折させて平面状に配置してなる素子と、
前記素子の中央部に設けられる給電点と、
前記素子の両面から挟み込むように前記導体に近接して配置される誘電体と、
を備えることを特徴とするメアンダラインアンテナ。
【請求項11】
請求項10に記載のメアンダラインアンテナであって、
前記導体について、流れる電流量の大きい部分の線幅が、流れる電流量の小さい部分の線幅よりも太いこと、
を特徴とするメアンダラインアンテナ。
【請求項12】
請求項11に記載のメアンダラインアンテナであって、
前記導体の線幅は、前記給電点から離れるほど細いこと、
を特徴とするメアンダラインアンテナ。
【請求項13】
連続する第1の導体を繰り返し逆方向に曲折させて平面状に配置してなる第1の素子と、
前記第1の導体が配置される平面と同一平面に配置される、連続する第2の導体を繰り返し逆方向に曲折させて平面状に配置してなる第2の素子と、
前記第1の素子の中央部に設けられる給電点と、
前記第1及び第2の導体の端部同士を短絡することにより形成される、前記第1及び第2の導体を接続したループと、
前記ループの両面から挟み込むように、前記ループに近接して配置される誘電体と、
を備えることを特徴とするメアンダラインアンテナ。
【請求項14】
連続する第1の導体を繰り返し逆方向に曲折させて平面状に配置してなる第1の素子と、
連続する第2の導体を繰り返し逆方向に曲折させて平面状に配置してなる第2の素子と、
前記第1の素子の中央部に設けられる給電点と、
前記第1及び第2の導体の端部同士を短絡することにより形成される、前記第1及び第2の導体を接続したループと、
前記第1の導体が配置される平面と、前記第2の導体が配置される平面との間に挟みこまれるように、前記第1及び第2の導体に近接する誘電体と、
を備えることを特徴とするメアンダラインアンテナ。
【請求項15】
請求項14に記載のメアンダラインアンテナであって、
前記第1の導体が配置される平面の、前記誘電体である第1の誘電体が前記第1の導体に近接する面とは異なる面から、前記第1の導体に近接する第2の誘電体と、
前記第2の導体が配置される平面の、前記第1の誘電体が前記第2の導体に近接する面とは異なる面から、前記第2の導体に近接する第3の誘電体と、
を備えることを特徴とするメアンダラインアンテナ。
【請求項16】
請求項10乃至15のいずれかに記載のメアンダラインアンテナであって、
前記第1及び第2の導体の少なくともいずれかについて、流れる電流量が大きい部分の線幅は、流れる電流量が小さい部分の線幅よりも太いこと、
を特徴とするメアンダラインアンテナ。
【請求項17】
請求項16に記載のメアンダラインアンテナであって、
前記第1及び第2の導体の少なくともいずれかの線幅は、前記給電点から離れるほど細いこと、
を特徴とするメアンダラインアンテナ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−222918(P2006−222918A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−36940(P2005−36940)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年9月1日 社団法人電子情報通信学会通信ソサイエティ発行の「電子情報通信学会論文誌(JB7−B) 第9号」に発表
【出願人】(505054531)
【出願人】(505053970)
【出願人】(504385708)マイティカード株式会社 (11)
【Fターム(参考)】