説明

メイタンシノイド産生を増加する突然変異アクチノシネマ・プレチオスム(Actinosynnemapretiosum)株

【課題】メイタンシノイドの産生を増強することができる細菌株の取得、該菌株の商業的開発を容易にするのに十分な量のアンサマイトシンを産生しうるよう増強すること、適当な炭素源を含む増殖培地中で培養することにより、複数種のメイタンシノイド・アンサマイトシンを産生する方法などの提供。
【解決手段】PF4-4(ATCC PTA-3921)と名付けられたアクチノシネマ・プレチオスム(Actinosynnema pretiosum)種の突然変異細菌株。該菌株は、様々な培養条件のもとで増殖し、従来知られる株と比較して改良された収率でアンサマイトシンP-3などのメイタンシノイド・アンサマイトシンを産生。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、アクチノシネマ・プレチオスム(Actinosynnema pretiosum)種の突然変異細菌株でPF4-4(ATCC PTA-3921)株と名付けられた微生物であって、従来知られる株と比較して改良された収率でアンサマイトシン(ansamitocin)P-3などのメイタンシノイド・アンサマイトシン(maytansinoid ansamitocin)を産生することができる上記微生物、ならびに上記株PF4-4からメイタンシノイド・アンサマイトシンを産生する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
アクチノシネマ・プレチオスム種の細菌は細胞障害性メイタンシノイド抗生物質を産生する(Higashideら, Nature 270, 721-722, 1977(非特許文献1))。この種の細菌は元来、ノカルジア(Nocardia)種として分類されかつ寄託されていた。しかし、その後の特性決定により、ミコール酸の不在、III/C型細胞壁(メソ-ジアミノピメリン酸および診断上重要でない炭水化物)、胞子嚢の欠如、および運動性エレメントの形成が実証されて、これらの株がアクチノシネマ(Actinosynnema)属のメンバーであることが示された(Hasegawaら, 「運動性放線菌類:アクチノシネマ・プレチオスム・プレチオスム亜種.新種.新亜種、およびアクチノシネマ・プレチオスム・アウランチクム亜種.新亜種(Motile Actinomycetes: Actinosynnema pretiosum subsp. pretiosum sp nov., subsp. nov., and Actinosynnema pretiosum subsp. auranticum subsp. nov.)」, Int. J. System. Bacteriol. 33(2):314-320, 1983(非特許文献2))。
【0003】
細菌により産生されたメイタンシノイド類(maytansinoids)はアンサマイトシン類(ansamitocins)と呼ばれ、式(I)の、置換基RおよびR1により示されるC-3およびC-14位置の置換基によりお互いに区別される抗腫瘍ベンゼノイドアンサマイトシン抗生物質の1グループを含む。
【0004】
アクチノシネマの複数株、例えばATCC 315651、アクチノシネマ・プレチオスム・アウランチクム亜種(Actinosynnema pretiosum subsp. auranticum)が寄託されている。ATCC 31565の代謝、生理学およびメイタンシノイド産生の諸特性は、それぞれ1982年5月25日、1984年5月22日に発行されたHasegawaらに対する米国特許第4,331,598号(特許文献1)および第4,450,234号(特許文献2)に記載されている。ATCC 31565はグラム陽性菌であり、広範囲の炭素源で成長することができ、主にメイタンシノイドとC-14-ヒドロキシメチル置換メイタンシノイドとの混合物を産生し、それらを増殖培地から低収率で収穫することができる。
【0005】
元をただせば、メイタンシノイドはアフリカの植物から単離された(Kupchanら, J. Amer. Chem. Soc. 94, 5294-5295, 1972(非特許文献3))。かかる植物供給源からのメイタンシノイドの産生は、メイタンシノイドが非常に少量しか存在しないため困難なことであった。その後、メイタンシノイドを産生する微生物がカヤツリグサ科草本の葉から単離されて、ノカルジア属ノカルジア種の新株、C-15003(N-1)株として分類された。この株はATCC 31281として寄託され、1979年1月30日に発行されたHashimotoらに対する米国特許第4,137,230号(特許文献3)、および1979年7月31日に発行されたHigashideらに対する米国特許第4,162,940号(特許文献4)に開示された。この細菌からのメイタンシノイドの精製は植物供給源からの精製と比較して、より少ないステップ数しか必要でなく収率の増加が得られる。
【0006】
第2のメイタンシノイド産生株がカヤツリグサ科草本の葉から単離され、ノカルジア種(Nocardia sp)、C-14482 (N-1001)株と名付けられ、ATCC 31309として寄託された。この株は、1981年9月29日に発行されたHigashideらに対する米国特許第4,292,309号(特許文献5)に開示された。
【0007】
第3の株は、C-14482と名付けられたATCC 31309から、突然変異プロセスにより誘導された。この第3の株は、ノカルジア種N-1231株と名付けられ、ATCC 31565として寄託された。1982年5月25日に発行されたHasegawaらに対する米国特許第4,331,598号(特許文献6)、および1984年5月22日に発行されたHasegawaらに対する米国特許第4,450,234号(特許文献7)はATCC 31565を開示する。
【0008】
上記ノカルジア種株の3種は全て、小量のアンサマイトシンと呼ばれるメイタンシノイドを産生する。従って、ノカルジア種C-15003株を用いてアンサマイトシンP-3を産生する方法が開示されている(例えば、1982年10月26日に発行されたHatanoらに対する米国特許第4,356,265号(特許文献8);およびHatanoら, 「アンサマイトシンP-2、P-3およびP-4の選択的蓄積、およびそれらのアシル部分の生合成起源(Selective accumulation of ansamitocins P-2, P-3 and P-4, and biosynthetic origins of their acyl moieties)」, Agric. Biol. Chem. 48, 1721-1729, 1984(非特許文献4)を参照)。これらの方法によれば、比較的少量の所望の産物、アンサマイトシンP-3が、ほぼ100mg/L醗酵ブロスの収率で得られる。
【0009】
メイタンシノイドは強力な細胞傷害活性を有し、細胞結合薬との複合体で送達すると強い抗腫瘍活性を実証している。例えば、1993年5月4日に発行されたChariらに対する米国特許第5,208,020号(特許文献9)は、細胞を標的とする抗体のような作用薬と連結した1以上のメイタンシノイドを含む細胞傷害薬であって、メイタンシノイドがこの特異的細胞結合薬を介して選択した細胞集団の死滅に関わる上記細胞傷害薬を開示している。同様に、1995年5月16日に発行された同じくChariらに対する米国特許第5,416,064号(特許文献10)は、切断しうるジスルフィド結合を介して細胞結合薬と結合したメイタンシノイドであって、これによりメイタンシノイドが細胞内で放出される新しいメイタンシノイドを開示している。これらの複合体は様々な癌を治療する医薬的効能を有する。
【0010】
メイタンシノイドは多数の治療用途を有するので、例えば、上記および米国特許第5,208,020号(特許文献11)および第5,416,064号(特許文献12)に開示された抗癌薬の商業的開発を容易にするため、改良された収率と十分な量でアンサマイトシンを産生できる新しい細菌株に対するニーズが存在する。本発明はこのニーズ以上のことを満たすものであり、当業者が以下の開示と実施例を読めばそれは明らかになるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第4,331,598号公報
【特許文献2】米国特許第4,450,234号公報
【特許文献3】米国特許第4,137,230号公報
【特許文献4】米国特許第4,162,940号公報
【特許文献5】米国特許第4,292,309号公報
【特許文献6】米国特許第4,331,598号公報
【特許文献7】米国特許第4,450,234号公報
【特許文献8】米国特許第4,356,265号公報
【特許文献9】米国特許第5,208,020号公報
【特許文献10】米国特許第5,416,064号公報
【特許文献11】米国特許第5,208,020号公報
【特許文献12】米国特許第5,416,064号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Higashideら, Nature 270, 721-722, 1977
【非特許文献2】Int. J. System. Bacteriol. 33(2):314-320, 1983
【非特許文献3】Kupchanら, J. Amer. Chem. Soc. 94, 5294-5295, 1972
【非特許文献4】Hatanoら, 「アンサマイトシンP-2、P-3およびP-4の選択的蓄積、およびそれらのアシル部分の生合成起源(Selective accumulation of ansamitocins P-2, P-3 and P-4, and biosynthetic origins of their acyl moieties)」, Agric. Biol. Chem. 48, 1721-1729, 1984
【発明の概要】
【0013】
発明の概要
本発明は、ATCC PTA-3921として寄託されかつ本明細書では「PF4-4」と呼ばれる、メイタンシノイドの産生量を増加する細菌株を提供する。PF4-4は、親株N-1231(ATCC 31565)から、紫外光(UV光)、1-メチル-3-ニトロ-1-ニトロソ-グアニジン(MNNG)を用いた突然変異およびメイタンシノイド産生の増加に対する選択により取得した。
【0014】
従って、第一の実施形態においては、本発明は、親株より遥かに高い量のアンサマイトシンを産生するアクチノシネマ・プレチオスム種の突然変異細菌株(PF4-4)を含むものである。
【0015】
本発明のこの実施形態は、親株と比較して5〜10倍の収率改良となる500mg/L以上のアンサマイトシンP-3を産生することができる。
【0016】
この実施形態はさらに他のアンサマイトシン種、例えばアンサマイトシンP-2およびP-4の実質的な量を産生することができる。さらに、本発明の実施形態により産生される特定のアンサマイトシン種の相対量は、増殖を支持するために用いる炭素源の選択を介して合理的に操作することができる。
【0017】
この実施形態は多様な炭素源により増殖することができ、メイタンシノイドの産生量を増加する能力を除くと、その形態学、物理および代謝特性は親株(ATCC 31565)と実質的に類似している。
【0018】
従って、本発明の1つの目的は、メイタンシノイドの産生を増強することができる細菌株であって、かかるメイタンシノイドが高度に細胞傷害性でありかつ癌を含む多数の疾患の治療において、例えば細胞特異的成分との複合体の形態で、治療薬として利用することができる上記細菌株を提供することである。
【0019】
本発明の第2の目的は、商業的開発を容易にするのに十分な量のアンサマイトシンを産生しうるように、メイタンシノイドの産生を増強することができる新しい細菌株を提供することである。
【0020】
第3の目的は、PF4-4株を適当な炭素源を含む増殖培地中で培養することにより、上記株から複数種のメイタンシノイド・アンサマイトシンを産生する方法を提供することである。この方法により産生される複数種のメイタンシノイド・アンサマイトシンの比率は炭素源の選択により予め決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ATCC 31565から得た400個の再単離体についてのアンサマイトシンP-3力価を示す図である。
【図2】アクチノシネマ・プレチオスム、突然変異株PF4-4の振とうフラスコ培養によりアンサマイトシンP-3を産生する一方法を示す図である。
【図3】アクチノシネマ・プレチオスム、突然変異株PF4-4の醗酵から得たブロス抽出物サンプルのHPLCクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の詳細な説明
本発明は、PF4-4(ATCC PTA-3921)と名付けたアクチノシネマ・プレチオスム(Actinosynnema pretiosum)種の突然変異細菌株である微生物であって、親株(ATCC 31565)を含む従来公知の株と比較して改良された収率で、アンサマイトシンP-3および他のアンサマイトシンなどのアンサマイトシンを含むメイタンシノイドを産生することができる上記微生物を含むものである。
【0023】
本発明の細菌株PF4-4は、親株ATCC 31565からUV光、1-メチル-3-ニトロ-1-ニトロソ-グアニジン(MNNG)および選択を用いて、親株より実質的に高い量のメイタンシノイドを産生する遺伝子的に改変された細菌株を誘導する突然変異により作製した。従って、PF4-4は醗酵増殖において、500mg/L以上のアンサマイトシンP-3を産生することができ、この量は、同じ条件下で親株が産生する量の5-10倍以上である。
【0024】
本発明のアクチノシネマ・プレチオスム株(本明細書ではPF4-4)は、ブダペスト条約に関する条項のもとで2001年12月11日にAmerican Type Culture Collection(Rockville Maryland)に寄託し、受託番号ATCC PTA-3921が与えられた。
【0025】
本発明のアクチノシネマ・プレチオスム株PF4-4は、突然変異によりATCC 31565から誘導したが、親株ATCC 31565それ自身は、1981年9月29日に発行されたHigashideらに対する米国特許第4,292,309号に開示されたアクチノシネマ・プレチオスム株ATCC 31309から誘導したものである。上記のごとく、この種の細菌は、最初にノカルジア種として分類されかつ寄託されたが、その後の特性決定により、これらの株がアクチノシネマ属のメンバーであることを示された(Hasegawa, T.ら, 「運動性放線菌類:アクチノシネマ・プレチオスム・プレチオスム亜種.新種.新亜種、およびアクチノシネマ・プレチオスム・アウランチクム亜種.新亜種(Motile Actinomycetes: Actinosynnema pretiosum subsp. pretiosum sp nov., subsp. nov., and Actinosynnema pretiosum subsp. auranticum subsp. nov.)」, Int. J. System. Bacteriol. 33(2):314-320, 1983)。
【0026】
本発明の文脈において、用語「メイタンシノイド(maytansinoid)」は、最初にアフリカ低木メイテヌス・オバツス(Maytenus ovatus)から単離された高度に細胞傷害性薬物のクラスを意味するとともに、さらにメイタンシノール(maytansinol)および天然のメイタンシノールのC-3エステル(米国特許第4,151,042号);合成のメイタンシノールのC-3エステル類似体(Kupchanら, J. Med. Chem. 21:31-37, 1978;Higashideら, Nature 270:721-722, 1977;Kawaiら, Chem. Farm. Bull. 32:3441-3451;および米国特許第5,416,064号);単純なカルボン酸のC-3エステル(米国特許第4,248,870号;第4,265,814号;第4,308,268号;第4,308,269号;第4,309,428号;第4,317,821号;第4,322,348号;および第4,331,598号);およびN-メチル-L-アラニンの誘導体とのC-3エステル(米国特許第4,137,230号;第4,260,608号;およびKawaiら, Chem. Pharm Bull. 12:3441, 1984)を含む。
【0027】
本発明の文脈において、用語「アンサマイトシン(ansamitocin)」は次の一般式(I):
【0028】
【化2】

【0029】
[式中、Rは、例えば水素、アセチル、プロピオニル、イソブチリル、ブチリル、イソバレリルなどを表し、かつR1は、例えばメチル、ヒドロキシメチルなどを表す]で表されるアンサマイトシン抗生物質の様々な誘導体(Hasegawa, T.ら, 「運動性放線菌類:アクチノシネマ・プレチオスム・プレチオスム亜種.新種.新亜種、およびアクチノシネマ・プレチオスム・アウランチクム亜種.新亜種(Motile Actinomycetes: Actinosynnema pretiosum subsp. pretiosum sp nov., subsp. nov., and Actinosynnema pretiosum subsp. auranticum subsp. nov.)」, Int. J. System. Bacteriol. 33(2):314-320, 1983;Tanidaら, 「ノカルジアの突然変異株由来のアンサマイトシン類似体 I 突然変異体の単離、醗酵および抗微生物特性(Ansamitocin analogs from a mutant strain of nocardia. I. Isolation of the mutant, fermentation and antimicrobial properties)」, J. Antibiotics 34: 489-495, 1981)を意味する。
【0030】
アンサマイトシンの3つの大きなクラスは環構造における異なる置換基により区別される:すなわち、式IのR1(C-14)にメチル基をもつアンサマイトシンP化合物;式IのR1(C-14)にヒドロキシメチル基をもつアンサマイトシンPHM化合物;およびN-デスメチル環構造および式IのR1位置にメチル基をもつアンサマイトシンPDN化合物である。それぞれのクラスには、異なる式Iの置換基R(C-3)により区別される複数のメンバーがある。元来、C-14にメチル基をもつアンサマイトシンは、米国特許第4,162,940号に記載の株ATCC 31281から単離された。
【0031】
具体的には、本明細書において特定のアンサマイトシンは次の略号により記述される:すなわち、
P-0は、R=水素およびR1=メチル(メイタンシノールとも呼ばれる)を有し;
P-1は、R=アセチルおよびR1=メチルを有し;
P-2は、R=プロピオニルおよびR1=メチルを有し;
P-3は、R=イソブチリルおよびR1=メチルを有し;
P-3’は、R=ブチリルおよびR1=メチルを有し;
P-4は、R=イソバレリルおよびR1=メチルを有し;
PHM-0は、R=水素およびR1=ヒドロキシメチルを有し;
PHM-1は、R=アセチルおよびR1=ヒドロキシメチルを有し;
PHM-2は、R=プロピオニルおよびR1=ヒドロキシメチルを有し;
PHM-3は、R=イソブチリルおよびR1=ヒドロキシメチルを有し;
PHM-3’は、R=ブチリルおよびR1=ヒドロキシメチルを有し;
PHM-4は、R=イソバレリルおよびR1=ヒドロキシメチルを有し;
PND-0は、N-デスメチル、R=水素およびR1=メチルを有し;
PND-1は、N-デスメチル、R=アセチルおよびR1=メチルを有し;
PND-2は、N-デスメチル、R=プロピオニルおよびR1=メチルを有し;
PND-3は、N-デスメチル、R=イソブチリルおよびR1=メチルを有し;
PND-3’は、N-デスメチル、R=ブチリルおよびR1=メチルを有し;そして
PND-4は、N-デスメチル、R=イソバレリルおよびR1=メチルを有する。
【0032】
用語「アンサマイトシン(ansamitocin)」はさらにその異性体を包含し、C-3、C-4、C-9およびC-10位置に存在する異性体を含む。
【0033】
(a) アクチノシネマ・プレチオスム突然変異株PF4-4の生物学的特性
本発明の株PF4-4の形態学および代謝特性は、株PF4-4がメイタンシノイド産生の増強を示すことを除くと、親株ATCC 31565のそれと類似している。親株の形態学的および代謝的特性は1984年5月22日に発行されたHasegawaらに対する米国特許第4,450,234号に開示されていて、これらの上記特性を記載する、限定されるものでないが、カラム3-7を含む部分は本明細書にその全文が参照により組み入れられる。
【0034】
(b) アクチノシネマ・プレチオスム突然変異株PF4-4の作製
PF4-4株は親株N-1231、ATCC 31565から次の方法によって取得した。FM4-1培地中のN-1231によるアンサマイトシンP-3の産生は、表1に示すように、約60mg/L(n=400実験の平均)であるが、この表は、個々にスクリーニングした400コロニーの平均およびFM4-1培地で最高のアンサマイトシンP-3産生を有する株N-1231、ATCC 31565からの3つの単離コロニーの、アンサマイトシンP-3産生(mg/L)を示す。このように、最初のスクリーニングにおいて、株N-1231、ATCC 31565は60mg/LのアンサマイトシンP-3の平均産生を示し、221mg/Lを超える産生を示すコロニーはない。
【0035】
【表1】

【0036】
株PF4-4は、ATCC 31565から7つの逐次ステップで作製するのが好ましい。これらの7つのステップは、再単離;第1ラウンドの突然変異誘発;再単離、好ましくは3回;UV突然変異誘発、およびMNNG突然変異誘発である。
【0037】
これらのステップは当業者に知られる標準方法により実施し、その方法は、例えばJeffrey Miller, 1992: 「細菌遺伝学の短期コース:大腸菌および関係細菌の研究室マニュアルとハンドブック(A Short Course in Bacterial Genetics: A Laboratory Manual and Handbook for Escherichia coli and Related Bacteria)」, Cold Spring Laboratory Press, Woodbury, N.Y.に記載されている。
【0038】
再単離については、株N-1231、ATCC 31565をCM4-1培地中の寒天プレート上で増殖し、2つの形態学的表現型:すなわち黄色コロニーと白色コロニーを観察し、両方の型の400コロニーを再単離してそれらのアンサマイトシンP-3産生をアッセイする。400コロニーのアンサマイトシンP-3力価分布を図1に示す。白色コロニーは一貫して、黄色コロニーより高いAP-3力価を与える。株N-1231、ATCC 31565と最高力価をもつ3コロニーとの力価比較を表1に示す。コロニー番号15-55が最高力価(221mg/L)を示すので、これを次のステップに用いる。
【0039】
UV突然変異は、実施例1(下記)において詳細に記載する。要約すると、コロニー番号15-55の8日目の傾斜培養から得た胞子を水中に採集し、ボルテックス混合で細かく砕く。コロニー形成ユニット数(cfu)を確認し、典型的には約2 x 109であることがわかる。次いで連続希釈して様々な数のcfu数を含有するサンプルを寒天プレート上にまいて、色々な長さの時間、殺菌灯からのUV光に露光した。かかる光への40秒露光に対する典型的な殺菌率は99.9%である。様々な長さの時間にわたり処理したプレートを、28℃にて5-7日間インキュベートし、次いでコロニーを、アンサマイトシンP-3産生について選択し分析する。最高のアンサマイトシンP-3産生を有するコロニーを選択して、次のステップで使用する。
【0040】
MNNG突然変異誘発は実施例2(下記)において詳細に記載する。要約すると、細かく砕いた胞子を上記のように調製し、遠心分離により採集し、そして100μg/mLのMNNGを含有するバッファー中に再懸濁する。好ましくは、約30分後に過剰チオ硫酸ナトリウムを添加して突然変異誘発反応を停止し、次いで遠心分離により細菌を採集し、洗浄し、そして寒天プレート上にまいて生存率の確認およびさらなる分析を行う。
【0041】
表2は、株PF4-4の系統学および中間単離物による、HPLCで定量したアンサマイトシンP-3の産生(mg/L)を示す(実施例6)。表2に用いた培地を表3Aに掲げる。表2において、記入項目「d/n」は日(d)で表した醗酵時間および試験した培養数(n)を表す。
【0042】
【表2】

【0043】
(c) アクチノシネマ・プレチオスム株PF4-4からのメイタンシノイドの産生
細菌株PF4-4の増殖は制御した条件のもとで実施するが、広範囲の培地と条件を利用することができる。例えば、PF4-4は、発行された米国特許第4,137,230号;第4,162,940号;第4,331,598号;第4,356,265号;および第4,450,234号のATCC 31565またはATCC 31281に対して記載されたおよびHatanoら, Agric. Biol. Chem. 48, 1721-1729, 1984に記載されたのと類似の条件のもとでおよび類似の培地を用いて増殖することができる。このように株PF4-4は、メイタンシノイドの醗酵産生も支持する広範囲の炭素源に耐性がある。例示の増殖培地を表3Aおよび6Bに記載する。表3AはPF4-4の増殖を支持しかつ表2において利用した培地を示す。表3BはPF4-4の繁殖および/または増殖に適したさらなる培地を示す。
【0044】
メイタンシノイドをPF4-4株から醗酵産生するための好ましい一方法を図2のフローチャートに示しかつさらに実施例3(下記)に記載する。
【0045】
【表3A】

【0046】
【表3B】

【0047】
アンサマイトシンの分析
米国特許第4,331,598号および第4,450,234号において、親株ATCC 31565はC-14(式I参照)におけるメチルまたはヒドロキシメチル基の存在により区別される2つのクラスのアンサマイトシンを産生することが開示されている。両方のクラスに対して、C-3ヒドロキシル基と結合したそれぞれのアシル側鎖においておよびC-14がメチルまたはヒドロキシメチル基(または、その後の研究では、N-デスメチル)を運ぶかどうかについて異なる、複数の色々なアンサマイトシンが産生される。本明細書に使用される命名法は、式(I)を参照して色々な順序の化合物を上記のように定義する。
【0048】
アンサマイトシンP-3は、ある一定の増殖条件のもとで、PF4-4および親株ATCC 31565の主産物である。もし細菌をバリンもしくはイソ酪酸(米国特許第4,228,239号を参照)またはイソブチルアルコールもしくはイソブチルアルデヒド(米国特許第4,356,265号を参照)の存在のもとで増殖すれば、他のアンサマイトシン化合物は少量しか存在しない。
【0049】
PF4-4株を、全てイソブチルアルコールを含有する様々な醗酵培地(表6でFMと記した)中で増殖すると、アンサマイトシンP-3が主な産生されるアンサマイトシンである。醗酵ブロスをエタノールまたはアセトニトリルにより希釈し、ボルテックス攪拌し、次いで遠心分離し、そして上清をアンサマイトシンP-3含量についてアッセイする。
【0050】
アンサマイトシンは、逆相高速液体クロマトグラフィ(hplc)により分画して分析するのが好ましいが、いずれの適当な技術、例えばMALDI-TOFまたは薄層クロマトグラフィなどを利用してもよい。HPLCを利用する一方法においては、醗酵ブロスを、酢酸エチル、塩化メチレンまたはクロロホルムなどの有機溶媒を用いて抽出し、有機溶媒中のP-3の含量を実施例6に記載のように逆相hplcにより定量する。
【実施例】
【0051】
本発明を、以後、限定されるものでない実施例を参照して説明する。
実施例1
UV突然変異誘発
コロニー番号15-55の8日目の傾斜培養調製物から得た胞子を、傾斜培養[傾斜培養サイズ:16-18mLのCM4-1寒天を満たした2.3 x 18cm試験管(組成は表3Bを参照)]を10mLの水により洗浄して採集した。懸濁胞子を含む水5mLを、直径2.0mmの10個のガラスビーズを含有するスクリューキャップ管(サイズ:1.1 x 11cm)中に移して細かく砕いた。その管を5分間ボルテックス攪拌し、細かく砕いた胞子懸濁物を次いで連続的に0.1% Tween 60の水溶液中に103、104、および105倍希釈した。(典型的な細かく砕いた懸濁液は2 x 109cfuを含有する。)それぞれの希釈液からの0.1mLの懸濁液をCM4-1寒天プレート(9.5cm直径)上にまいて、それを適当な殺菌UV光源に露光した:すなわち、開放した寒天プレートを15W殺菌灯のもとで約20cmの距離に置いて20-40秒間、UV光に露光した。(40秒露光の死滅率は約99.9%であった。)露光したプレートを28℃にて5-7日間培養し、次いで単一コロニーを他のCM4-1寒天プレートへ移し、そしてプレート1枚当たり16コロニーの格子で増殖した。次いでコロニーを選択してさらに評価した。
実施例2
MNNG突然変異誘発
8日目の傾斜培養調製物からの胞子を、傾斜培養(傾斜培養サイズ:16-18mLのCM4-1寒天を満たした2.3 x 18cm試験管)を10mLの水により洗浄して採集した。懸濁胞子を含む水5mLを、直径2.0mmの10個のガラスビーズを含有するスクリューキャップ管(サイズ:1.1 x 11cm)中に移して細かく砕いた。その管を5分間ボルテックス攪拌し、胞子を2100 x gにて15分間遠心分離して採集した。上清を捨てて、ペレットを、(w/v)で0.1%硫酸アンモニウム、0.01%硫酸マグネシウム七水和物、0.005%塩化カルシウム二水和物、0.00025%硫酸第一鉄七水和物、および100μg/mL MNNGを含有する無菌0.05Mトリスマレイン酸バッファー、pH8.0の4mL中に再懸濁した。懸濁液を30分間ボルテックス攪拌し、次いで飽和チオ硫酸ナトリウム溶液3mLを加えて反応を停止した。胞子を遠心分離により採集し、次いで5mLの水中に再懸濁した。この懸濁液を選択に用い、適当な希釈物をCM4-1寒天プレート上に少し塗って(smear)生存率を決定した。
実施例3
PF4-4からアンサマイトシンを産生するための振とうフラスコ醗酵
保存したPF4-4培養物、例えば凍結乾燥したか、または凍結した培養物をCM4-1寒天プレート上で28℃にて5-7日間増殖した。次いで単一コロニーを第2の格子を刻んだCM4-1寒天プレートに移し(典型的には16コロニーを9.5cm直径のプレートに移し)、そしてプレートを28℃にて7日間インキュベートすると、その間に直径6-15mmのコロニーが増殖した。次いで単一コロニーを、10分間、10個の2-mm直径ガラスビーズと水2mLを含有する密閉管内でボルテックス攪拌することにより細かく砕いた。次いでコロニー懸濁液の一部分(0.5mL)を、種培地VM4-1(組成は表3Bを参照)30mLを含有する250mL培養フラスコに移した。種フラスコを回転振とう機(220rpm、振とう行程70mm)上で28℃にて48時間インキュベートし、その後、この種増殖懸濁液の1mLを、20mLの醗酵培地FM4-4を含有する250mL培養フラスコ中に移した。醗酵フラスコを、種フラスコと同じ条件のもとで6日間インキュベートし、その後、アンサマイトシン産生を実施例6に記載のとおりアッセイして268mg/Lであることを見出した。
【0052】
様々な醗酵ブロスを使用することができる。好ましいブロスの例および得られたアンサマイトシンP3産生の対応するレベルを表2に掲げかつブロス組成を表3Aに示した。
実施例4
長期間保存用の凍結したPF4-4培養物の調製
水2mL中の細かく砕いたコロニー懸濁液を実施例3に記載のとおり調製し、次いで懸濁液の0.2mLを傾斜培養(傾斜培養サイズ:16-18mLのCM4-1寒天を満たした2.3 x 18cm試験管)上に接種し、28℃で7日間インキュベートした。傾斜培養物をクライオゲン溶液(10%グリコールおよび5%ラクトースの水溶液)10mLを用いて洗浄し、次いで上記の解離操作にかけた。細かく砕いた懸濁液のアリコート(1.5mL)をクライオバイアル中に採取し、-75℃にてまたは液体窒素中で凍結した。
実施例5
長期間保存用の凍結乾燥したPF4-4菌の調製
8日目の傾斜培養物(傾斜培養サイズ:CM4-1寒天の16-18mLを満たした2.3 x 18cm試験管)をスキムミルク水溶液(水中5%(w/v)スキムミルク粉末)3mL中に掻き出した。次いで懸濁液を、10個の2mm直径ガラスビーズを含有する密閉管に入れて5分間ボルテックス攪拌することにより細かく砕いた。0.5mLのアリコートをバイアルに取分けて凍結乾燥した。好ましくはそれぞれのバイアルは約1.2 x 108cfuを含有した。
実施例6
醗酵ブロス中のアンサマイトシンP-3の分析
醗酵ブロス(0.25mL)を、エタノールを含有するスクリューキャップ管に移した(4.75mL)(交互に全醗酵ブロス0.25mLをエタノール2.25mLと混合した)。溶液を10分間ボルテックス攪拌にかけ、次いで10分間2100 x gにて遠心分離した。上清を取出して、逆相hplc分析にかけた。好ましくは、Symmetry Shield(登録商標)C8カラム(3.6 x 150 mm)を用いた。移動相は好ましくは水/アセトニトリル/メタノールの比が55/35/10でありかつ好ましくは流速1.0mL/minで使用した。クロマトグラフィは252nmのUV吸収を測定することによりモニターした。典型的なブロス抽出物のhplcトレースを図3に示すが、ここでアンサマイトシンP-3は注入後約12.2分に溶出する。
【0053】
ある特定の特許および印刷出版物を以上の開示に引用しているが、これらのそれぞれの全文は本明細書に参照により組み入れられる。
【0054】
本発明を詳細にかつその特定の実施形態を参照して記載したが、当業者には、本発明の精神と範囲から逸脱することなく様々な改変と修飾をなしうることが明らかであろう。従って、本発明は添付せる請求の範囲によってのみ制限されることを意図するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ATCC受託番号315651のアクチノシネマ・プレチオスム株N-1231のメイタンシノイド産生に比べメイタンシノイド産生が増強されたアクチノシネマ・プレチオスム株。
【請求項2】
増強されたメイタンシノイド産生が、アンサマイトシンP-3の産生である請求項1記載のアクチノシネマ・プレチオスム株。
【請求項3】
アクチノシネマ・プレチオスム株N-1231により産生される量の1.2倍から10倍多い量のアンサマイトシンP-3を産生する、請求項2記載のアクチノシネマ・プレチオスム株。
【請求項4】
アンサマイトシンP-3をアクチノシネマ・プレチオスム株N-1231により産生される量の5倍から10倍多い量のアンサマイトシンP-3を産生する、請求項2記載のアクチノシネマ・プレチオスム株。
【請求項5】
アクチノシネマ・プレチオスム株N-1231を変異させ、アクチノシネマ・プレチオスム株N-1231のメイタンシノイド産生に比べメイタンシノイド産生が増強されたアクチノシネマ・プレチオスム株を提供する方法。
【請求項6】
(i) 請求項1〜4のいずれか1項に記載のアクチノシネマ・プレチオスム株、ならびに(ii) ATCC受託番号PTA-3921のアクチノシネマ・プレチオスム株PF4-4であるアクチノシネマ・プレチオスム株、もしくはその変異体、からなる群から選択されるアクチノシネマ・プレチオスム株を提供する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
変異にUV光または1-メチル-3-ニトロ-1-ニトロソ-グアニジンが用いられ、増強されたメイタンシノイド産生を選択する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
アンサマイトシンを産生する方法であって、(i) 請求項1〜4のいずれか1項に記載のアクチノシネマ・プレチオスム株、ならびに(ii) ATCC受託番号PTA-3921のアクチノシネマ・プレチオスム株PF4-4である、アクチノシネマ・プレチオスム株、もしくはその変異体、からなる群から選択されるアクチノシネマ・プレチオスム株を適切な炭素源を含む培地中で培養することを含む方法。
【請求項9】
アンサマイトシンが式(I) :
【化1】


[式中、Rは水素、アセチル、プロピオニル、イソブチリル、ブチリル、およびイソバレリルからなる群から選択され、かつR1はメチル、およびヒドロキシメチルからなる群から選択される]
の1以上のアンサマイトシンまたはその異性体である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
アンサマイトシンがアンサマイトシンP-3である、請求項8記載の方法。
【請求項11】
アンサマイトシンが主にアンサマイトシンP-3であり、かつ炭素源がバリン、イソ酪酸、イソブチルアルコールおよびイソブチルアルデヒドからなる群から選択される1以上の炭素源を含むものである、請求項8記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−110328(P2010−110328A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291891(P2009−291891)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【分割の表示】特願2003−564206(P2003−564206)の分割
【原出願日】平成15年1月15日(2003.1.15)
【出願人】(502103829)イムノージェン インコーポレーテッド (5)
【Fターム(参考)】