説明

メソポーラスシリカ微粒子の製造方法、メソポーラスシリカ微粒子分散液、メソポーラスシリカ微粒子含有組成物、及びメソポーラスシリカ微粒子含有成型物

【課題】メソ孔を破壊しないと共に、媒質に分散しやすいメソポーラスシリカ微粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】シリカ源と界面活性剤とを用いてメソ孔を有するシリカナノ微粒子を合成する。その後、前記シリカナノ微粒子と、酸と、ヘキサメチルジシロキサンとを混合することにより、界面活性剤を前記メソ孔から除去すると共に、前記シリカナノ微粒子の表面の水酸基をトリメチルシリル化して、メソポーラスシリカ微粒子を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メソポーラスシリカ微粒子の製造方法、及び、この製造方法で得られたメソ
ポーラスシリカ微粒子を用いて得られるメソポーラスシリカ微粒子分散液、メソポーラスシリカ微粒子含有組成物、ならびにメソポーラスシリカ微粒子含有成型物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メソポーラスシリカはその高空隙率構造の特徴を活かして、低屈折率(Low-n)、低誘電率(Low-k)、又は低熱伝導率の性能が要求される材料への応用が期待されている。例えば、メソポーラスシリカ微粒子を媒質中に均一に分散した液を被膜形成用塗布液とし、任意の樹脂材料を組み合わせて基板上に成膜することで、低屈折率、低誘電率、低熱伝導率の機能を有する膜を得ることができ、この膜は光学部材の反射防止膜や、電子材料の絶縁膜として利用することが可能である。
【0003】
メソポーラスシリカ微粒子を製造する方法としては、界面活性剤を鋳型としてテンプレートにし、シリコンアルコキサイドなどのシリカ源によりメソポーラスシリカ微粒子を製造する方法が知られている。この方法では、メソ孔を形成するために、合成されたメソポーラスシリカ微粒子からテンプレートである界面活性剤を除去する必要がある。従来、メソポーラスシリカ微粒子のメソ孔内の界面活性剤を除去するには、高温で焼成して界面活性剤を焼き飛ばす方法が一般に採られてきた(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、メソポーラスシリカ微粒子を被膜形成用塗布液に使用する場合、塗布液中でメソポーラスシリカ微粒子が均一に分散する必要があるが、高温焼成では粒子同士の凝集・焼結が発生してしまい、塗布液中に微粒子が均一に分散されにくいという欠点があった。
【0005】
一方、強酸性物質によりテンプレートとしての界面活性剤を抽出して除去する方法も提案されている(特許文献2参照)。しかし、この方法によれば、界面活性剤の抽出後にメソポーラスシリカ微粒子の表面に水酸基が残り、酸性物質でメソ孔骨格が破壊されてしまうおそれがあるという欠点があった。
【0006】
また、特許文献2では、トリアルキルクロロシランなどの含塩素表面処理剤を用いることで界面活性剤の抽出処理とメソポーラスシリカ微粒子の表面処理を同時に行う方法が提案されているが、トリアルキルクロロシランなどの含塩素表面処理剤は反応性の高い物質であり、製造工程上の反応の制御が困難となることや、メソポーラスシリカ微粒子の表面を過剰に表面修飾してしまってメソ孔が小さくなってしまい、低屈折率化、低誘電率化、低熱伝導化といった要求特性に対して不利となってしまう欠点があった。
【特許文献1】特開平8−34607号公報
【特許文献2】特開2002−53773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、メソ孔を破壊することなく界面活性剤を除去すると共に、媒質に分散しやすいメソポーラスシリカ微粒子の製造方法を提供することを目的とする。また、当該製造方法により得られたメソポーラスシリカ微粒子を用いたメソポーラスシリカ微粒子分散液、メソポーラスシリカ微粒子含有組成物、及びメソポーラスシリカ微粒子含有成型物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係るメソポーラスシリカの製造方法は、シリカ源と界面活性剤とを用いてメソ孔を有するシリカナノ微粒子を合成した後に、前記シリカナノ微粒子と、酸と、ヘキサメチルジシロキサンとを混合することにより、界面活性剤を前記メソ孔から除去すると共に、前記シリカナノ微粒子の表面の水酸基をトリメチルシリル化することを特徴とするものである。
【0009】
この発明によれば、メソ孔内に界面活性剤を有するシリカナノ微粒子と、酸と、ヘキサメチルジシロキサンとを混合することにより、酸が界面活性剤をメソ孔から抽出して除去すると共に、酸によりヘキサメチルジシロキサンが開裂反応を起こして活性化し、メソ孔の表面にある水酸基をトリメチルシリル化する。それにより、トリメチルシリル基によってメソ孔の表面が酸から保護されるので、メソ孔が酸により破壊されるのを抑制することができる。また、メソポーラス微粒子の表面がトリメチルシリル化されているので、媒質への分散性を向上させることができる。
【0010】
本発明の請求項2に係るメソポーラスシリカの製造方法は、上記構成に加え、前記シリカ源が、酸とヘキサメチルジシロキサンとの混合によってトリメチルシリル化されない官能基を有するアルコキシシランを含有することを特徴とするものである。
【0011】
この発明によれば、メソポーラスシリカ微粒子を製造した後に微粒子表面にトリメチルシリル化されない官能基が含まれていることにより、トリメチルシリル化の割合を調整してメソポーラスシリカ微粒子の媒質分散性や表面修飾性等の性質を調整することができる。
【0012】
本発明の請求項3に係るメソポーラスシリカの製造方法は、上記構成に加え、メソポーラスシリカ微粒子の表面に、酸とヘキサメチルジシロキサンとの混合によってトリメチルシリル化されない官能基が存在し、当該官能基を介してメソポーラスシリカ微粒子を表面修飾することを特徴とするものである。
【0013】
この発明によれば、メソポーラスシリカ微粒子の表面にトリメチルシリル化されていない官能基が残っているため、この官能基と反応する物質により容易にメソポーラスシリカ微粒子の表面を修飾することができる。したがって、メソポーラスシリカ微粒子に媒質分散性などのさらなる特性を付与する表面処理を簡単に行うことができる。
【0014】
本発明の請求項4に係るメソポーラスシリカの製造方法は、上記構成に加え、酸とヘキサメチルジシロキサンとの混合によってトリメチルシリル化されない官能基が、アミノ基であることを特徴とするものである。
【0015】
この発明によれば、アミノ基がメソポーラスシリカ微粒子の表面に官能基として残っていることにより、このアミノ基は修飾剤との反応性が高いので、容易にメソポーラスシリカ微粒子を表面修飾することが可能となる。
【0016】
本発明の請求項5に係るメソポーラスシリカの製造方法は、上記構成に加え、前記シリカナノ微粒子の合成を、テトラアルコキシシラン、アミノ基を有するアルコキシシラン、4級アンモニウム塩カチオン性界面活性剤、多価アルコール、及び水を含有する混合液中にて、アルカリにより共加水分解反応させることを特徴とするものである。
【0017】
この発明によれば、メソ孔を有するシリカナノ微粒子を効率よく合成することができ、その後の界面活性剤の抽出と粒子表面のトリメチルシリル化を効率よく実施することが可能となる。
【0018】
本発明の請求項6に係るメソポーラスシリカの製造方法は、上記構成に加え、前記シリカナノ微粒子の合成をシリカ源と界面活性剤とを含有する混合液中にて行った後、前記シリカナノ微粒子の合成後の混合液に、酸と、ヘキサメチルジシロキサンとを混合するものであることを特徴とするものである。
【0019】
この発明によれば、メソ孔を有するシリカナノ微粒子を合成した後、シリカナノ微粒子を分離する必要がなく、合成後の混合液を用いて界面活性剤の除去とトリメチルシリル化とを行うことができ、メソポーラスシリカ微粒子の製造を簡略化させ、メソポーラスシリカ微粒子の製造効率を格段に向上させることができる。
【0020】
本発明の請求項7に係るメソポーラスシリカ微粒子分散液は、上記により得られたメソポーラスシリカ微粒子を媒質に分散させて成ることを特徴とするものである。
【0021】
この発明によれば、メソポーラスシリカ微粒子分散液はメソポーラスシリカ微粒子が媒質中に均一に分散するため、樹脂などと複合することで低屈折率(Low−n)、低誘電率(Low−k)、低熱伝導率が要求される材料に好適な性能を付与することができる。
【0022】
本発明の請求項8に係るメソポーラスシリカ微粒子含有組成物は、請求項1から6のいずれか1項で得られたメソポーラスシリカ微粒子がマトリクス形成材料中に含有することを特徴とするものである。
【0023】
この発明によれば、上記のメソポーラスシリカ微粒子含有組成物は、メソポーラスシリカ微粒子がマトリクス形成材料中に均一に分散しているため、低屈折率(Low−n)、低誘電率(Low−k)、低熱伝導率などの性能を容易に付与することができ、低屈折率、低誘電率、又は低熱伝導率が要求される光学材料や電子材料を簡単に得ることができる。
【0024】
本発明の請求項9に係るメソポーラスシリカ微粒子含有成型物は、請求項8で得られたメソポーラスシリカ微粒子含有組成物を用いて成型してなることを特徴とするものである。
【0025】
この発明によれば、メソポーラスシリカ微粒子を含有した成型物が得られるため、低屈折率、低誘電率、又は低熱伝導率が要求される光学部品や電子部品を簡単に得ることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、簡単な方法で、メソ孔構造を破壊することなく、テンプレートである界面活性剤を除去し、かつ微粒子表面をトリメチルシリル化処理することが可能になるので、メソ孔が酸で破壊されるのを防止することができると共に、微粒子同士が凝集することを抑制し、媒質への分散性が向上したメソポーラスシリカ微粒子を得ることができる。そして、溶媒中あるいは樹脂中においてメソポーラスシリカ微粒子の分散が容易になるので、透明性が要求される低屈折率(Low-n)の用途、例えば、ディスプレイ、光学レンズ等の表面反射防止膜への利用や、低誘電率(Low-k)、及び低熱伝導率の要求される電子部品の材料に応用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0028】
本発明の製造方法では、まず、シリカ源と界面活性剤とを用いてメソ孔を有するシリカナノ微粒子を合成する。
【0029】
シリカ源としては、シリカを有する化合物や組成物を適宜使用することが可能であるが、シリコンアルコキサイドを用いるのが好ましい。具体的には、テトラアルコキシシランである、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラプロポキシシランなどを例示することができ、なかでもテトラエトキシシラン(Si(OC)を用いるのが好ましい。
【0030】
また、シリカ源として、前記のものに加えて、酸とヘキサメチルジシロキサンとの混合によってトリメチルシリル化されない官能基を有するアルコキシシランを含有することが好ましい。それにより、メソポーラスシリカ微粒子を製造した後に微粒子表面にトリメチルシリル化されない官能基が含まれているので、トリメチルシリル化の割合を調整してメソポーラスシリカ微粒子の媒質分散性や表面修飾性等の性質を調整することができる。
【0031】
また、この場合、酸とヘキサメチルジシロキサンとの混合によってトリメチルシリル化されない官能基が、メソポーラスシリカ微粒子の表面に存在し、当該官能基を介してメソポーラスシリカ微粒子を表面修飾することも好ましい。それにより、メソポーラスシリカ微粒子の表面にトリメチルシリル化されていない官能基が残っているため、この官能基と反応する物質により容易にメソポーラスシリカ微粒子の表面を修飾することができる。例えば、メソポーラスシリカ微粒子の分散液を被膜形成用塗布液とし、任意の樹脂材料を組み合わせて成膜する場合において、メソポーラスシリカ微粒子と樹脂とが反応して密着性を向上する機能を有する官能基を、メソポーラスシリカ微粒子の表面のトリメチルシリル化されていない官能基を介して導入することが可能となる。すなわち、メソポーラスシリカ微粒子に媒質分散性などのさらなる特性を付与する表面処理を簡単に行うことができるものである。またメソポーラスシリカ微粒子を樹脂などと複合化する場合に、トリメチルシリル化されていない官能基が樹脂の官能基と反応し、化学結合を形成することで、メソポーラスシリカ微粒子と樹脂がより強固な複合体を形成することが可能となる。
【0032】
また、酸とヘキサメチルジシロキサンとの混合によってトリメチルシリル化されない官能基は、限定されるものではないが、例えばアミノ基、エポキシ基、ビニル基、イソシアネート基、メルカプト基、スルフィド基、ウレイド基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、スチリル基などを挙げることができ、特にアミノ基であることがより好ましい。アミノ基がメソポーラスシリカ微粒子の表面に官能基として残ることにより、このアミノ基は表面修飾の反応性が高いので、容易にメソポーラスシリカ微粒子を表面修飾することが可能となる。
【0033】
アミノ基を介してのメソポーラスシリカ微粒子の表面修飾には、アミノ基を修飾するものであれば適宜のものを使用することができるが、例えば、イソシアネート基、エポキシ基、ビニル基、カルボニル基、Si−H基などを有した化合物を修飾剤として用いることができる。これらの修飾剤はアミノ基と容易に反応し、表面処理を簡単に行うことができるので好ましい。表面修飾は、メソ孔を有したシリカナノ微粒子から界面活性剤を除去する前でも後でもどちらで行ってもよい。このような表面修飾をおこなうことにより、媒質分散性を向上させることができ、被膜形成用塗布液を調製した際に、メソポーラスシリカ微粒子の均一分散性を向上して、均一性に優れた被膜を得ることができる。
【0034】
酸とヘキサメチルジシロキサンとの混合によってトリメチルシリル化されない官能基を有するアルコキシシランとしては、シリカ源の成分として界面活性剤と用いられることにより、メソ孔を有したシリカナノ微粒子を合成できるものであれば適宜のものを使用することができ、特に限定されるものではないが、好ましくは、上記のようにアミノ基を有するアルコキシシランであり、より好ましくは、例えば、アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤を挙げることができる。
【0035】
界面活性剤としては、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、トリブロックコポリマーの何れを用いてもよいが、好ましくはカチオン系界面活性剤を用いる。カチオン性界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、デシルトリメチルアンモニウムブロマイド、オクチルトリメチルアンモニウムブロマイド、ヘキシルトリメチルアンモニウムブロマイドなどの4級アンモニウム塩カチオン性界面活性剤が好ましい。
【0036】
シリカナノ微粒子の合成におけるシリカ源と界面活性剤との混合比率は特に制限されるものでないが重量比で、100:75〜100:100であるのが好ましい。界面活性剤の量がシリカ源に対してこの重量比の範囲外であると生成物の構造の規則性が低下しやすくなって規則正しくメソ孔が配列したメソポーラスシリカ微粒子を得ることが難しくなるおそれがある。
【0037】
メソ孔を有するシリカナノ微粒子の合成方法としては公知のものを使用することができる。例えば、活性シリカとカチオン系界面活性剤とをアルカリ性領域で混合反応する方法(特許文献1)、シリカ源と有機物とを酸性条件下において混合してゲル化した後、晶析反応によりケイ酸高分子を合成する方法(特開平10−17319号公報)、無機のSi化合物からなるシリカ源の水溶液と有機物の水溶液とを混合し、晶析反応を行う方法(特開平10−36109号公報)などの方法を使用することができる。
【0038】
シリカナノ微粒子の合成としては、上記以外にもメソ孔を形成するものであれば適宜用いることができるが、好ましくは、テトラアルコキシシラン、アミノ基を有するアルコキシシラン、4級アンモニウム塩カチオン性界面活性剤、多価アルコール、及び水を含有する混合液中にて、アルカリにより共加水分解反応させることにより行うものである。それにより、メソ孔を有するシリカナノ微粒子を効率よく合成することができ、その後の界面活性剤の抽出と粒子表面のトリメチルシリル化を効率よく実施することが可能となる。テトラアルコキシシラン及びアミノ基を有するアルコキシシランはシリカ源となるものである。4級アンモニウム塩カチオン性界面活性剤はメソ孔を形成するための界面活性剤である。
【0039】
多価アルコールは2つ以上の水酸基を有するアルコールであり、水と共に合成の際の分散溶剤として用いられる。多価アルコールとしては、適宜のものを使用することができるが、例えば、エチレングリコール、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどを使用することが好ましい。多価アルコールの混合量は、特に制限されるものではないがシリカ源に対して2200〜6700質量%程度であるのが好ましい。
【0040】
混合液における、シリカ源と、水及び多価アルコールを含む分散溶剤との混合比率は、シリカ源が加水分解反応して得られる縮合化合物1重量部に対して、分散溶剤5〜1000重量部であるのが好ましい。分散溶剤の量がこれよりも少ないと、シリカ源の濃度が高すぎて反応速度が速くなり規則正しいメソ構造が安定して形成されにくくなるおそれがある。一方、分散溶剤の量がこの範囲よりも多いと、メソポーラスシリカ微粒子の収量が極めて低くなってしまうため実用的な製造方法になりにくくなる。
【0041】
合成に用いるアルカリとしては、メソ孔を有するシリカナノ微粒子の合成に用いることのできる無機及び有機のアルカリを適宜用いることができるが、窒素系のアルカリであるアンモニウム又はアミン系のアルカリを用いるのが好ましく、反応性の高いアンモニアを用いるのがより好ましい。なお、アンモニアを用いる場合、安全性の観点からアンモニア水を用いるのが好ましい。
【0042】
本発明においては、次に、上記のように合成によって得られたメソ孔を有するシリカナノ微粒子と、酸と、ヘキサメチルジシロキサンとを混合することにより、界面活性剤を前記メソ孔内から除去すると共に、前記シリカナノ微粒子の表面の水酸基をトリメチルシリル化する。
【0043】
上記のような合成によって得られたメソ孔を有するシリカナノ微粒子は、そのメソ孔内に界面活性剤を有するものである。従って、この界面活性剤を除去することによりシリカナノ微粒子に空隙を形成して、メソポーラスシリカを得ることができるのである。その際、従来のように、焼成により界面活性剤を焼き飛ばす方法ではメソポーラスシリカ微粒子が凝集してしまいやすいという欠点がある。一方、酸により界面活性剤を抽出して除去した後にトリメチルシリル化する方法では、酸によりメソ孔が侵食されて破壊されてしまうという欠点があり、また、酸との混合及びシリル化という2つの工程を経なければならず、製造効率がよくない。
【0044】
しかしながら、本発明のように、メソ孔を有するシリカナノ微粒子と、酸と、ヘキサメチルジシロキサンとを同時に混合する方法によれば、酸が界面活性剤をメソ孔から抽出して除去すると共に、酸によりヘキサメチルジシロキサンが開裂反応を起こして活性化し、メソ孔の表面にある水酸基をトリメチルシリル化することができ、それにより、トリメチルシリル基によってメソ孔の表面が酸から保護されるので、メソ孔が酸により破壊されるのを抑制することができる。また、この方法によれば、メソポーラス微粒子の表面がトリメチルシリル化されているので、媒質への分散性を簡単に向上させることができる。このように、本発明によれば、従来では2つの工程で行っていた界面活性剤の抽出除去とトリメチルシリル化を同時に行うことができるので、製造工程を簡略化することができるものである。
【0045】
本発明に用いる酸としては、メソ孔から界面活性剤を抽出して除去し、ヘキサメチルジシロキサンを開裂させるものであれば、有機酸や無機酸など、適宜のものを使用することができる。そのようなものとして、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、臭化水素などを使用することができる。酸としては、界面活性剤の抽出とヘキサメチルジシロキサンの開裂を速やかに行うために、反応液のpHが7未満となるように配合を調整することが好ましい。
【0046】
合成により得たシリカナノ微粒子と、上記の酸と、ヘキサメチルジシロキサンとを混合する条件としては、例えば、40〜100℃程度の加温下、15分〜8時間程度攪拌することによって混合する。これにより、酸が界面活性剤をメソ孔から抽出すると共に、ヘキサメチルジシロキサンが開裂反応を起こすことで活性化してメソ孔表面の水酸基をトリメチルシリル化する。酸及びヘキサメチルジシロキサンを混合する際には適宜の溶剤を用いることが好ましい。溶剤を用いることにより、混合を行い易くすることができる。溶剤としては、親水的なシリカナノ微粒子と疎水的なヘキサメチルジシロキサンを馴染ませるような両親媒性を有するアルコールを用いるのが好ましく、特にイソプロパノールを用いるのが好ましい。
【0047】
この混合は、好ましくは、メソ孔を有したシリカナノ微粒子を合成した混合液中で実施するものである。すなわち、合成後の混合液と、酸と、ヘキサメチルジシロキサンとを混合するものであることが好ましい。それにより、メソ孔を有するシリカナノ微粒子を合成した後、シリカナノ微粒子を分離する必要がなく、合成後の混合液を用いて界面活性剤の除去とトリメチルシリル化とを行うことができ、メソポーラスシリカ微粒子の製造を簡略化させ、メソポーラスシリカ微粒子の製造効率を格段に向上させることができる。なお、上記同様、酸及びヘキサメチルジシロキサンとの混合を行い易くするために、イソプロパノール等の適宜の溶剤が添加されてもよい。
【0048】
このようにして界面活性剤が抽出除去されると共に表面がトリメチルシリル化されたメソポーラスシリカ微粒子は、遠心分離やろ過によって回収することができる。
【0049】
生成したメソポーラスシリカ微粒子はメソ孔の直径は1〜10nm程度で、メソポーラスシリカ微粒子の粒径は10〜1000nm程度の形状を有している。目的とする用途に合わせてメソポーラスシリカ微粒子の形態を適宜に設定することができる。例えば、反射防止膜に用いる場合、シリカ系被膜の膜厚は100nm程度の薄膜に形成する必要があることが多いが、100nm以下のメソポーラスシリカ微粒子を用いて平滑な被膜を形成することができる。
【0050】
メソポーラスシリカ微粒子の粒子の大きさやメソ孔の大きさは、シリカナノ微粒子の合成に使用する原料や、原料の配合率、合成時間等により調整することが可能である。
【0051】
こうして得られたメソポーラスシリカ微粒子は、トリメチルシリル化や表面処理されることによって媒質やマトリクス形成材料に均一に分散するので、低屈折率(Low−n)、低誘電率(Low−k)、低熱伝導率の性能を有し、均一性に優れた組成物を形成することができるものである。
【0052】
本発明のメソポーラスシリカ微粒子分散液は、上記により得たメソポーラスシリカ微粒子を媒質に分散することにより調製することができる。このメソポーラスシリカ微粒子分散液は、メソポーラスシリカ微粒子が媒質中に均一に分散するため、樹脂などと複合することで低屈折率(Low−n)、低誘電率(Low−k)、低熱伝導率が要求される材料に好適な性能を付与することができる。
【0053】
分散液に用いる媒質としては、揮発性の溶媒を用いることができ、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、へキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭素類を挙げることができる。
【0054】
メソポーラスシリカ微粒子分散液には、必要に応じて適宜の成分を加えることができる。例えば、被膜形成成分、安定化剤などを加えることができる。具体的には、例えば被膜形成成分としてシリコーンレジンなどを添加することができる。
【0055】
本発明のメソポーラスシリカ微粒子含有組成物は、上記により調製されたメソポーラスシリカ微粒子をマトリクス形成材料中に含有させることにより得ることができる。このメソポーラスシリカ微粒子含有組成物は、メソポーラスシリカ微粒子がマトリクス形成材料中に均一に分散することができるために、低屈折率(Low−n)、低誘電率(Low−k)、低熱伝導率の機能を有した組成物を容易に得ることができるものである。
【0056】
本発明におけるマトリクス形成材料としては、メソポーラスシリカ微粒子の分散性を損なわないものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ブチラール樹脂、フェノール樹脂、酢酸ビニル樹脂、紫外線硬化樹脂、電子線硬化樹脂、エマルジョン樹脂、水溶性樹脂、親水性樹脂、これら樹脂の混合物、さらにはこれら樹脂の共重合体や変性体、さらにアルコキシシラン等の加水分解性有機珪素化合物等を挙げることができる。
【0057】
本発明のメソポーラスシリカ微粒子含有成型物は、上記のメソポーラスシリカ微粒子含有組成物を用いて成型して得ることができる。メソポーラスシリカ微粒子含有成型物は、均一性に優れ、低屈折率(Low−n)、低誘電率(Low−k)、低熱伝導率の性能を有するものである。
【0058】
メソポーラスシリカ微粒子を含有した成型物を作製する方法としては、メソポーラスシリカ微粒子を含有した組成物を固体化し任意の形状に加工できれば良く、その方法は限定されるものではないが、印刷やコーティング、押し出し成型、真空成型、射出成型、積層成型、トランスファー成型、発泡成型などを用いることができる。また固体を任意の形状に加工するために、切削やエッチングなどの方法を用いることもできる。
【0059】
さらに基材の表面にメソポーラスシリカ微粒子分散液やメソポーラスシリカ微粒子含有組成物を塗装するにあたっては、その方法は特に限定されるものではないが、例えば、刷毛塗り、スプレーコート、浸漬(ディッピング、ディップコート)、ロールコート、フローコート、カーテンコート、ナイフコート、スピンコート、テーブルコート、シートコート、枚葉コート、ダイコート、バーコート等の通常の各種塗装方法を用いることができる。
【実施例】
【0060】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0061】
(実施例1:メソポーラスシリカ微粒子の製造)
冷却管、攪拌機、温度計を取り付けたセパラブルフラスコに、シリカ源としてTEOS:1.29g、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン:0.23gと、界面活性剤としてヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド:1.2gと、分散溶剤としてH2O:120g、エチレングリコール:20gと、アルカリとして25%NH3水溶液:5.4gとを混合し、60℃で2時間攪拌後、60℃で20時間エージングすることにより、メソ孔を有するシリカナノ微粒子を合成した。
【0062】
合成後の混合液にイソプロパノール:30g、5N-HCl:60g、ヘキサメチルジシロキサン:26gを注入し、72℃で6時間、攪拌及び還流した。この操作により、シリカナノ粒子のメソ孔から界面活性剤が抽出除去され、表面がトリメチルシリル化されたメソポーラスシリカ微粒子を得た。
【0063】
次いで、微粒子の分散した溶液を20,000rpm、20分間で遠心分離した後、分離された液を除去した。沈殿した固相にエタノールを加え、振とう機で粒子をエタノール中で振とうすることでメソポーラスシリカ微粒子を洗浄した。さらに、20,000rpm、20分間で遠心分離し、分離された液を除去することにより、精製されたメソポーラスシリカ微粒子を得た。
【0064】
メソポーラスシリカ微粒子0.2gにイソプロパノール3.8gを加えて、振とう機で再分散させたところ、イソプロパノールに分散したメソポーラスシリカ微粒子を得た。メソポーラスシリカ微粒子はイソプロパノール中で沈降することなく、均一に分散している様子が確認された。
【0065】
イソプロパノールを蒸発させたメソポーラスシリカ微粒子に対してX線回折(M03X-HF (Bruker AXS製) 、CuKα 線、40 kV, 30 mA)を実施したところ、X線回折チャートにはd値=3.5nmにピークがみられ、ヘキサゴナル構造の特性がみられるものであった(図1)。
【0066】
このメソポーラスシリカ微粒子のメソ孔を窒素吸着BET法により測定したところ、比表面積879m/g、細孔容量1.25mL/g、平均細孔径2.7nmであった。
【0067】
また、このメソポーラスシリカ微粒子を13C-NMRにより測定したところ(ECA300(JEOL製)、接触時間 2 ms、繰り返し時間5 s)、界面活性剤に帰属するピークは見られず、シリル基に帰属するピークが観測された(図2)ことから、界面活性剤は除去され、メソポーラスシリカ微粒子がシリル化されていることが確認された。またアミノ基に起因するピークが観測されたことから、アミノ基がシリル化されずに残存していることが確認された。
【0068】
また、このメソポーラスシリカを透過型電子顕微鏡で観察すると(JEM2000EX-II(JEOL製)、加速電圧200kV)、メソポーラスシリカ微粒子は粒子径50〜100nmの球形であり、メソ孔が破壊されていない様子が確認された(図3)。
【0069】
(実施例2:メソポーラスシリカ微粒子分散液、メソポーラスシリカ微粒子含有組成物、及びメソポーラスシリカ微粒子含有成型物)
実施例1と同様の条件でメソポーラスシリカ微粒子0.2gをイソプロパノール3.8g中に分散した液4gを調製した。
【0070】
一方で、テトラエトキシシラン86.8質量部にイソプロパノール803.5質量部を加え、さらにγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン34.7質量部、及び0.1N−硝酸水溶液75質量部を加え、これをディスパーにてよく混合し、レジン用混合液を調製した。この混合液を40℃恒温槽中で10時間撹拌して、重量平均分子量が3000のシリコーンレジンの5質量%溶液を得た。尚、分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、測定機として東ソー(株)の「HLC8020」を用いて、標準ポリスチレンで検量線を作成し、その換算値として測定したものである。
【0071】
そして、このシリコーンレジン溶液に、上記のメソポーラスシリカ微粒子のイソプロパノール分散液を、メソポーラスシリカ微粒子/シリコーンレジン(縮合化合物換算)が固形分基準で30/70の質量比となるように添加し、さらに全固形分が2.5質量%になるようにイソプロパノールで希釈して被膜形成用塗布液を作製した。
【0072】
この塗布液をバーコーターを用いて最小反射率4.34のガラス基板に塗布し、120℃で5分間乾燥することにより厚み約100nmのメソポーラスシリカ微粒子を含有したシリコーンレジン被膜を形成した。その後、このガラス基板の最小反射率を測定すると1.90であった。このようにして本発明で得られるメソポーラスシリカ微粒子含有組成物を被膜化することにより、反射防止性能を発現する被膜を得ることが確認された。
【0073】
(実施例3:表面修飾)
実施例1と同様の条件でメソポーラスシリカ微粒子を得た。このメソポーラスシリカ微粒子0.1gをプロピレングリコールモノメチルエーテル50gに分散し、表面修飾剤としてγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを0.05g加えて、100℃で5時間平均粒径100μmのガラスビーズと混合して攪拌して反応させることにより、メソポーラスシリカ微粒子のアミノ基がγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランのエポキシ基によって表面修飾されたメソポーラスシリカ微粒子を得た。この表面修飾されたメソポーラスシリカ微粒子を20,000rpm、20分間で遠心分離して取り出し、イソプロパノールで分散させたところ、沈降することなく、均一に分散している様子が確認された。
【0074】
(比較例1:焼成による製造)
実施例1と同様の材料及び方法により界面活性剤を抽出除去する前までの工程を行い、メソ孔を有するシリカナノ微粒子を合成した。合成液を20,000rpmで20分間、遠心分離し、液を除去することによりメソ孔を有するシリカナノ微粒子を含む固相を回収した。回収した固相にエタノールを加え、振とう機で振とうすることでメソ孔を有するシリカナノ微粒子を洗浄した。そして20,000rpmで20分間、遠心分離し、分離された液を除去することにより、メソ孔を有するシリカナノ微粒子を得た。
【0075】
得られたメソ孔を有するシリカナノ微粒子を450℃で1時間処理し、メソ孔内の界面活性剤を除去しメソポーラスシリカ微粒子を得た。
【0076】
得られたメソポーラスシリカ微粒子1gをイソプロパノール19gと混合し、室温で24時間攪拌したところ、メソポーラスシリカ微粒子は沈降していまい、媒質中に均一にメソポーラスシリカ微粒子を分散させることはできなかった。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明のメソポーラスシリカ微粒子のX線回折チャートである。
【図2】本発明のメソポーラスシリカ微粒子の13C-NMR測定結果である。
【図3】本発明のメソポーラスシリカ微粒子の透過型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ源と界面活性剤とを用いてメソ孔を有するシリカナノ微粒子を合成した後に、前記シリカナノ微粒子と、酸と、ヘキサメチルジシロキサンとを混合することにより、界面活性剤を前記メソ孔から除去すると共に、前記シリカナノ微粒子の表面の水酸基をトリメチルシリル化することを特徴とするメソポーラスシリカ微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記シリカ源が、酸とヘキサメチルジシロキサンとの混合によってトリメチルシリル化されない官能基を有するアルコキシシランを含有することを特徴とする請求項1に記載のメソポーラスシリカ微粒子の製造方法。
【請求項3】
メソポーラスシリカ微粒子の表面に、酸とヘキサメチルジシロキサンとの混合によってトリメチルシリル化されない官能基が存在し、当該官能基を介してメソポーラスシリカ微粒子を表面修飾することを特徴とする請求項2に記載のメソポーラスシリカ微粒子の製造方法。
【請求項4】
酸とヘキサメチルジシロキサンとの混合によってトリメチルシリル化されない官能基が、アミノ基であることを特徴とする請求項2又は3に記載のメソポーラスシリカ微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記シリカナノ微粒子の合成を、テトラアルコキシシラン、アミノ基を有するアルコキシシラン、4級アンモニウム塩カチオン性界面活性剤、多価アルコール、及び水を含有する混合液中にて、アルカリにより共加水分解反応させることにより行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のメソポーラスシリカ微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記シリカナノ微粒子の合成をシリカ源と界面活性剤とを含有する混合液中にて行った後、前記シリカナノ微粒子の合成後の混合液に、酸と、ヘキサメチルジシロキサンとを混合するものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のメソポーラスシリカ微粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項で得られたメソポーラスシリカ微粒子を媒質に分散させて成ることを特徴とするメソポーラスシリカ微粒子分散液。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか1項で得られたメソポーラスシリカ微粒子がマトリクス形成材料中に含有することを特徴とするメソポーラスシリカ微粒子含有組成物。
【請求項9】
請求項8で得られたメソポーラスシリカ微粒子含有組成物を用いて成型してなることを特徴とするメソポーラスシリカ微粒子含有成型物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−120812(P2010−120812A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296125(P2008−296125)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【出願人】(508344109)
【出願人】(500374238)
【Fターム(参考)】