説明

メソポーラス体の製造方法

【課題】有機物テンプレートを用いるメソポーラス体の製造方法において、細孔の規則配列構造を破壊することなく、効率的に細孔を拡大したメソポーラス体を作製する。
【解決手段】メソポーラス体の細孔の鋳型となるテンプレート20を含む水溶液を作製した後、この水溶液にメソポーラス体の原料を溶解させることにより沈殿物を得て、この沈殿物を乾燥および焼成することによりメソポーラス体を製造する製造方法において、水溶液として、テンプレート20に加えて、テンプレート20の疎水性部位と親和性を有するアセトンなどの有機溶媒30を添加したものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メソポーラス体の製造方法に関し、たとえば、自動車用排気浄化用、燃料電池用、環境浄化用に用いる触媒構造体や吸着剤、磁性材料、電極材料、オプトエレクトロニクスデバイス、生物的・化学的センサーなどに用いる構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
メソポーラス体は、学術的に、径が5nm以上50nm未満の細孔を持つものと定義されており、規則的に配列した細孔と、大きな単位重量あたりの細孔容積を持つものである。このようなメソポーラス体は、一般には、有機物よりなるテンプレートを細孔の鋳型として用いるテンプレート法により、金属酸化物などを用いて形成される(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
このテンプレート法は、具体的には、次のようなものである。界面活性剤よりなるテンプレートの水溶液に、金属酸化物などからなるメソポーラス体の原料を溶解させ、これを加熱する。すると、加水分解により、テンプレートの周囲を取り囲むようにメソポーラス体の原料が付着する。
【0004】
そして、この原料が付着したテンプレートは、界面活性剤としての性質によって凝集し、凝集体すなわち自己組織体構造となり、沈殿する。そして、この沈殿物を分離して乾燥し、焼成することにより、当該沈殿物中のテンプレートを焼失させる。それにより、テンプレートが焼失した部分の空間が細孔となってメソポーラス体が形成される。
【特許文献1】特表2003−531083号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記特許文献1には、しかしながら、トリメチルベンゼンなどの有機溶媒をテンプレートの水溶液に添加することにより細孔径を拡大する方法が記載されている。
【0006】
しかし、本発明者の検討によれば、この方法では、作製するメソポーラス体の細孔径を、部分的には大きくできるものの、メソポーラス体の全体に渡って均一に細孔径を大きくすることはできず、また、メソポーラス体における細孔の規則配列構造が破壊されるなどの問題が生じることがわかった。
【0007】
特に、8nm以上の大きな細孔径を実現しようとすると、ヘキサゴナル構造やキュービック構造のように規則的に配列したメソポーラス体を高収率で作製することができないことがわかった。このように、従来では、メソポーラス体の細孔径を、任意のサイズに適切制御することは困難である。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、テンプレートを用いるメソポーラス体の製造方法において、細孔の規則配列構造を破壊することなく、効率的に細孔を拡大したメソポーラス体を作製できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明者は、テンプレートを含む水溶液に有機溶媒を入れて細孔径を大きくする方法において、さらに、有機溶媒のテンプレートに対する侵入の度合を高めてやればよいと考え、実験検討を行い、本発明を創出するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、メソポーラス体の細孔の鋳型となるテンプレートを含む水溶液を作製する工程において、この水溶液として、テンプレートに加えて、テンプレートと親和性を有する有機溶媒を添加したものを作製することを特徴とする。
【0011】
それによれば、沈殿物の形成時に、水溶液中のテンプレートが自己組織化して細孔の鋳型を形成するが、このテンプレートによる自己組織化構造中に、親和性を有する有機溶剤が侵入しやすく、細孔径を拡大できるため、細孔の規則配列構造を破壊することなく、効率的に細孔を拡大したメソポーラス体を作製することができる。
【0012】
ここで、テンプレートとしては、両親媒性のポリ(アルキレンオキサイド)ブロックコポリマーを用いることができる。このポリ(アルキレンオキサイド)ブロックコポリマーの分子量が1000以上であることが好ましい。
【0013】
具体的に、このようなブロックコポリマーは、親水性のポリアルキレンオキサイドが疎水性ポリアルキレンオキサイドの向かい合っている端に共有結合したトリブロックコポリマー、親水性のポリアルキレンオキサイドの末端に疎水性のポリアルキレンオキサイドが共有結合したジブロックコポリマーから選択された1種または2種以上のブロックポリマーを、採用できる。
【0014】
また、親水性のポリアルキレンオキサイドとしては、ポリエチレンオキサイドを採用でき、疎水性のポリアルキレンオキサイドとしては、ポリプロピレンオキサイド、ポリブチレンオキサイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリヒドロキシ酸から選択されたものを採用できる。さらに、疎水性のポリアルキレンオキサイドが、ポリヒドロキシ酸である場合には、このヒドロキシ酸は、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸から選択されたものにできる。
【0015】
また、テンプレートと親和性を有する有機溶媒としては、疎水性のポリアルキレンオキサイドに対する溶解性があるものが挙げられ、具体的には、環状エーテル類、グリコールジエーテル類、ベンゼン類、エステル類、ケトン類、アルカン類の中から選ばれた少なくとも1種以上を用いることができる。
【0016】
また、テンプレートと親和性を有する有機溶媒としては、親水性のポリアルキレンオキサイドに対する溶解性があるものが挙げられ、具体的には、アルキレンオキサイド類、アルコール類、カルボン酸類、エステル類の中から選ばれた少なくとも1種以上を用いることができる。
【0017】
また、水溶液中におけるテンプレートと前記有機溶媒との重量比としては、テンプレートを1としたとき有機溶媒が2.5以下となるようにすることが好ましい。
【0018】
当該重量比において有機溶媒を2.5よりも大きいと、テンプレートに対する有機溶媒の侵入が多すぎて細孔の形を維持しにくくなるため、有機溶媒の重量比は2.5以下が好ましい。
【0019】
また、上記メソポーラス体の製造方法において、沈殿物を得る処理としては、従来と同様の加熱処理を行うことができるが、好ましくは、水溶液を加圧および加熱するようにする。
【0020】
水溶液から沈殿物を得るとき、高温にすれば水溶液の粘度が小さくなるなどにより、有機溶媒の浸透性が向上するが、同時に水溶液中の水が気化しやすくなる。そのため、加圧処理を加えるようにすれば、水の気化を抑制することができ、好ましい。
【0021】
ここで、水溶液を加圧および加熱することは、水溶液に対して水熱合成処理、超音波照射、もしくはマイクロ波照射を行う方法を採用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係るメソポーラス体10の概略構成を示す斜視図である。
【0023】
本実施形態のメソポーラス体10は、細孔壁11aによって区切られた径が5nm以上50nm未満の細孔11を持つものである。特に、本例のメソポーラス体10では、細孔径が8nm以上20nmのものであり、同じ程度の径を持つ細孔11が、メソポーラス体10の全領域においてに均一に規則的に配列されている。
【0024】
また、図示例では、ヘキサゴナル構造であり、細孔11は六角形の形状であって細孔径は対向する角部の距離としている。なお、細孔11の形状は、これに限定されるものではなく、それ以外にも、たとえば、円形、四角形などであってもよい。
【0025】
このメソポーラス体10は金属酸化物からなり、この金属酸化物を構成する金属としては、具体的にはCe、Zr、Al、Ti、Si、Mg、W、Fe、Sr、Y、Nb、Pなどから選ばれる一種の単体、または二種以上の固溶体が挙げられる。本例では、メソポーラス体10は、シリカからなる。また、このメソポーラス体10は全体として1.0μmかそれ以下の大きさのものである。
【0026】
次に、このメソポーラス体10の製造方法について、図2を参照して述べる。図2において、(a)は本製造方法を模式的に示す工程図であり、(b)は従来の製造方法を模式的に示す工程図である。本製造方法は、テンプレートを鋳型としてメソポーラス体を形成する従来のテンプレート法を、応用したものである。
【0027】
まず、メソポーラス体10の細孔11の鋳型となるテンプレート20を含む水溶液を作製するが、このとき、本実施形態の製造方法では、この水溶液として、テンプレート20に加えて、テンプレート20と親和性を有する有機溶媒30を添加したものを作製する。
【0028】
具体的には、テンプレート20と有機溶媒30とを混合した酸性(たとえばpHが1程度)の水溶液を作製する。ここで、テンプレート20としては、一般的な両親媒性のポリ(アルキレンオキサイド)ブロックコポリマーを用いることができ、その分子量は1000以上のものにできる。
【0029】
具体的には、ブロックコポリマーは、親水性のポリアルキレンオキサイドが疎水性ポリアルキレンオキサイドの向かい合っている端に共有結合したトリブロックコポリマー、親水性のポリアルキレンオキサイドの末端に疎水性のポリアルキレンオキサイドが共有結合したジブロックコポリマーのなかから選択されたものを採用できる。
【0030】
親水性のポリアルキレンオキサイドには、ポリエチレンオキサイドを使用し、疎水性のポリアルキレンオキサイドには、ポリプロピレンオキサイド、ポリブチレンオキサイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリヒドロキシ酸から選択されたものを採用できる。また、ヒドロキシ酸としては、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸であると効果的である。
【0031】
より具体的には、たとえば、ポリ(エチレンオキサイド)(EOx)のような親水性のポリ(アルキレンオキサイド)がポリプロピレンオキサイド(POx)のような疎水性ポリ(アルキレンオキサイド)の向かい合っている端に共有結合したトリブロックコポリマー(EOx−POx−EOx)などが挙げられる。ここで、xおよびyは各ポリマーの重合度を示す。たとえば、EO20−PO70−EO20の場合、EOの重合度は20、POの重合度は70であることを示す。
【0032】
ここで、親水性のポリアルキレンオキサイドは、ブロックコポリマーを水溶液に溶解させる働きと、メソポーラス体を形成する原料を反応し、メソポーラス体の骨格を形成する働きがある。また、疎水性のポリアルキレンオキサイドは、メソポーラス体の鋳型としての働きがある。
【0033】
そのため、両者が一体化することは、メソポーラス体を形成するために、必要不可欠であることは言うまでもないが、水溶液に溶解するためには、親水性のポリアルキレンオキサイドの含量は30%以上60%以下が望ましい。
【0034】
ここで、有機溶媒30としては、鋳型の中心部に可溶化することで細孔を拡大する役割を担う第1の有機溶媒と、メソポーラス体10の骨格周辺に存在し当該骨格を強化するための第2の有機溶媒との2種類がある。
【0035】
この第1の有機溶媒30としては、テンプレート20の疎水性部と親和性を有するものであれば、特に限定されるものではないが、環状エーテル類、グリコールジエーテル類、ベンゼン類、エステル類、ケトン類、アルカン類の中から選ばれた少なくとも1種以上を採用できる。より具体的には、THF、ジグライム、モノグライム、トリオキサン、トリプロピルベンゼン、アセトン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、ジオキサンなどが挙げられる。
【0036】
また、第2の有機溶媒30としては、テンプレート20の親水性部と親和性を有するものであれば、特に限定されるものではないが、アルキレンオキサイド類、アルコール類、カルボン酸類、エステル類の中から選ばれた少なくとも1種以上を採用できる。より具体的には、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、プロパノール、ブタノール、ポリアクリル酸、オレイン酸などが挙げられる。
【0037】
また、ジオキサン、アセトンなどは、親水性部にも親和性を有し、かつ、疎水性部にも親和性を有するため、細孔拡大剤としての役割とメソポーラス体の骨格を形成する働きの両者を担うことも可能である。つまり、1種類の有機溶媒30にて第1の有機溶媒と第2の有機溶媒の両方の機能を有することも可能である。
【0038】
なお、第1の有機溶媒30は、たとえば、テンプレート20である上記トリブロックコポリマーにおいて、ポリ(プロピレンオキサイド)(POx)のような疎水性のポリ(アルキレンオキサイド)に対して親和性を有し、第2の有機溶媒30は、ポリ(エチレンオキサイド)(EOx)のような親水性のポリ(アルキレンオキサイド)に対して親和性を有する。
【0039】
ここで、本実施形態において用いる有機溶媒30の親和性は、上記特許文献1に記載されているトリメチルベンゼンよりも大きいものであり、トリメチルベンゼンより嵩高い構造で立体障害的に細孔径を拡大できる有機溶媒(たとえばシクロヘキサン、ヘキサン、トリプロピルベンゼン、オクタン等)である。
【0040】
また、この水溶液中におけるテンプレート20と有機溶媒30との重量比としては、細孔11の形が大きくなりすぎてくずれやすくなるのを防止するために、テンプレートを1としたとき有機溶媒30が2.5以下となるようにする。より好ましくは、テンプレートを1としたとき有機溶媒30が1以下となるようにする。なお、第1の有機溶媒お第2の有機溶媒とは効果が別々であるため、望ましくは、これら第1および第2の有機溶媒を混合して用いた方がより安定なメソポーラス体を形成できる。
【0041】
こうして、テンプレート20に有機溶媒30を混合し、これを室温にてたとえば10時間以上攪拌することで、水溶液として、テンプレートに加えて、テンプレートの疎水性部位と親和性を有する有機溶媒を添加したものを作製する。
【0042】
次に、この水溶液にメソポーラス体10の原料を溶解させることにより沈殿物を得る。具体的には、オルトテトラケイ酸エチル(TEOS)などのメソポーラス体10の原料成分を溶解し、続いて、これを加熱することで沈殿物を得る。
【0043】
このとき、本実施形態では、図2(a)に示されるように、沈殿物の形成時に、メソポーラス体10の原料の加水分解によってテンプレート20の周囲を取り囲むように原料成分が浸透する。
【0044】
ここで、図2では区別して図示していないが、テンプレート20によって形成される組織体の中心には疎水性の第1の有機溶媒30が存在し、周囲には親水性の第2の有機溶媒30が存在する。よって、第2の有機溶媒30を添加した系では、メソポーラス体10の原料の加水分解の際によって、テンプレート20および第2の有機溶媒30の周囲を取り囲むように原料成分が浸透する。
【0045】
それと同時に、水溶液中のテンプレート20が自己組織化して細孔11の鋳型を形成し、細孔11を形成する細孔壁11aがそのテンプレート20および第2の有機溶媒30の回りに形成される。こうして沈殿物が析出する。
【0046】
このとき、テンプレート20の疎水部位と親和性を有する有機溶媒30が、水溶液中に含有されているため、このテンプレート20による自己組織化構造中に有機溶媒30が侵入しやすく、細孔径を拡大できる。
【0047】
ちなみに、有機溶媒を加えない従来の一般的なテンプレート法においても、図2(b)に示されるように、テンプレート20による鋳型が形成されるが、本実施形態のように、有機溶媒30の侵入による更なる細孔径の拡大は、なされない。また、第2の有機溶媒30によって、細孔壁が若干厚くなる効果や細孔壁の規則性も向上する効果もあるため、より安定なメソポーラス体が形成できる。
【0048】
ここで、沈殿物を得る処理としては、従来と同様の加熱処理を行うことができるが、好ましくは、水溶液を加圧および加熱するようにする。上記図2(a)に示されるように、水溶液から沈殿物を得るとき、高温にすれば水溶液の粘度が小さくなるなどにより、第1および第2の有機溶媒30のテンプレート20への浸透性が向上するが、同時に水溶液中の水が気化しやすくなる。
【0049】
そのため、加熱だけでなく、さらに加圧処理を加えるようにすれば、蒸気圧を高くして水の気化を抑制することができる。ここで、水溶液を加圧および加熱することは、水溶液に対して水熱合成処理、超音波照射、もしくはマイクロ波照射を行う方法を採用することができる。
【0050】
たとえば、水熱合成では、耐圧容器に水溶液を入れ、たとえば120℃程度に加熱する。また、超音波照射では、一般的な超音波発生器を用いて水溶液に超音波を照射し、それにより発生する気泡の破裂によって起こる衝撃エネルギーにより水溶液中に局所的に高温高圧状態を形成する。
【0051】
また、マイクロ波照射では、市販されているマイクロウェーブ装置などを用いて、たとえば通常の電子レンジなどで発生されるものと同様のマイクロ波を、水溶液に照射し、その衝撃を利用して局所的に高温高圧状態を形成する。このように、加圧加熱処理を行うことにより、図2(a)に示されるように、水溶液中のテンプレート20と第1および第2の有機溶媒30とが一体化した前駆体としての鋳型が形成されると推定される。
【0052】
次に、水溶液から得られた沈殿物を分離して乾燥し、焼成する。それにより、当該沈殿物中のテンプレート20と第1および第2の有機溶媒30を焼失させる。こうして、テンプレート20が焼失した部分の空間が細孔11となり、上記メソポーラス体10ができあがる。
【0053】
このように、本実施形態の製造方法によれば、メソポーラス体10の細孔11の鋳型となるテンプレート20を含む水溶液を作製する工程において、この水溶液として、テンプレート20に加えて、テンプレート20の疎水性部位と親和性を有する第1の有機溶媒30、テンプレート20の親水性部位と親和性を有する第2の有機溶媒30を添加したものを作製している。
【0054】
それによれば、沈殿物の形成時に、テンプレート20による自己組織化構造中に有機溶媒30が侵入しやすく、細孔径を拡大できるため、細孔11の規則配列構造を破壊することなく、効率的に細孔11を拡大したメソポーラス体10を作製することができる。また、第2の有機溶媒30を混合することで、細孔壁が若干厚くなったり、細孔壁の規則性も向上したりする効果があるため、より安定なメソポーラス体を作製することができる。
【0055】
そして、このような製造方法において、添加する第1および第2の有機溶媒30の種類や添加量を調節することにより、メソポーラス体10の細孔径を、メソポーラス体10の全領域に渡って8nm以上20nm以下の範囲で均一に制御可能である。
【0056】
次に、限定するものではないが、本実施形態の製造方法を用いて、メソポーラス体10の細孔径を8nm以上20nm以下の領域において任意のサイズに制御する一例について、以下の各実施例および比較例を参照して、より具体的に述べる。
【0057】
(実施例1)
本例では、テンプレートとして、EO20−PO70−EO20を用い、有機溶媒として、親水性と疎水性を兼ね持つ、つまり第1の有機溶媒と第2の有機溶媒との両機能を併せ持つアセトンを用いた。
【0058】
純水に塩酸を加えてpHを1以下とした。その後、このpH1以下となった純水に対して、EO20−PO70−EO20を混合し、さらに撹拌しながらアセトンを添加し、テンプレートとアセトンとを混合した水溶液を作製した。ここで、水とEO20−PO70−EO20とアセトンの重量比は、120:4:4の割合である。
【0059】
これを十分に混合した後に、オルトテトラケイ酸エチル(TEOS)を、テンプレートに対して2:1の重量比で添加し、この水溶液を室温下において10時間以上攪拌した。その後、この水溶液を耐圧容器に移し、120℃で24時間、水熱合成処理を行い、沈殿物を得た。
【0060】
その後、耐圧容器から沈殿物を取り出し、これを乾燥し、600℃で焼成することによってテンプレートを焼失させ、シリカよりなるメソポーラス体を得た。
【0061】
(実施例2)
有機溶媒として、親水性のプロパノールを使用したこと以外は、上記実施例1と同様の手法を用いて、シリカよりなるメソポーラス体を得た。
【0062】
(実施例3)
有機溶媒として、親水性のブタノールを使用したこと以外は、上記実施例1と同様の手法を用いて、シリカよりなるメソポーラス体を得た。
【0063】
(実施例4)
有機溶媒として、疎水性のジシクロヘキサンを使用したこと以外は、上記実施例1と同様の手法を用いて、シリカよりなるメソポーラス体を得た。
【0064】
(実施例5)
有機溶媒として、疎水性のヘキサンを使用したこと以外は、上記実施例1と同様の手法を用いて、シリカよりなるメソポーラス体を得た。
【0065】
(実施例6)
有機溶媒として、疎水性のトリプロピルベンゼンを使用したこと以外は、上記実施例1と同様の手法を用いて、シリカよりなるメソポーラス体を得た。
【0066】
(実施例7)
有機溶媒として、疎水性のオクタンを使用したこと以外は、上記実施例1と同様の手法を用いて、シリカよりなるメソポーラス構造体を得た。
【0067】
(実施例8)
水とEO20−PO70−EO20とトリプロピルベンゼンの重量比を、120:4:1の割合としたこと以外は、上記実施例1と同様の手法を用いて、シリカよりなるメソポーラス体を得た。
【0068】
(実施例9)
水とEO20−PO70−EO20とトリプロピルベンゼンの重量比を、120:4:2の割合としたこと以外は、上記実施例1と同様の手法を用いて、シリカよりなるメソポーラス体を得た。
【0069】
(実施例10)
テンプレートとして、EO20−BO70(ブチレンオキサイド)−EO20を用いた以外は、上記実施例1と同様の手法を用いて、シリカよりなるメソポーラス体を得た。
【0070】
(実施例11)
有機溶媒として、疎水性のトリプロピルベンゼンと親水性のオレイン酸を用いた以外は、上記実施例1と同様の手法を用いて、シリカよりなるメソポーラス体を得た。
【0071】
(比較例1)
有機溶媒を添加しなかったこと以外は、上記実施例1と同様の手法を用いて、シリカよりなるメソポーラス体を得た。
【0072】
(比較例2)
有機溶媒として、トリメチルベンゼンを使用したこと以外は、上記実施例1と同様の手法を用いて、シリカよりなるメソポーラス構造体を得た。
【0073】
上記各実施例1〜9および比較例1、2にて作製したメソポーラス体の細孔径を確認するために、TEM観察などにより細孔分布測定を実施した。なお、各実施例において、細孔の規則配列構造は維持され、細孔径は全領域で均一であった。
【0074】
図3は、これらのうち各実施例1〜7および比較例1、2に示した製造方法により作製したメソポーラス体の細孔径を示す図表である。この図3に示されるように、有機溶媒を添加しない比較例1、および、従来の有機溶媒であるトリメチルベンゼンを用いた比較例2においては、メソポーラス体の細孔径は8nm未満であった。
【0075】
実施例10で作製したメソポーラス体の細孔径は11.2nm、実施例11で作製したメソポーラス体の細孔径は16.5nmであった。実施例10では実施例1と比較して、テンプレートの疎水部が大きいので、細孔が拡大できたと考えている。また、実施例11では細孔を拡大する疎水性の有機溶媒(第1の有機溶媒)と、細孔壁を形成するための親水性の有機溶媒(第2の有機溶媒)を混合して使用したために、より安定な構造ができていると考えられる。
【0076】
また、TEM観察により、トリメチルベンゼンを用いた比較例2では、部分的には細孔径を8nm以上に大きくできるものの、メソポーラス体の全体に渡って均一大きくすることはできず、また、細孔の規則配列構造が破壊されるなどの問題が生じた。
【0077】
それに対して、本実施形態の有機溶媒を用いた実施例1〜11においては、8nm以上の細孔径をメソポーラス体の全領域に渡って均一に形成することができ、その規則的な配列構造も確保できていた。
【0078】
また、図3に示されるように、添加する有機溶媒の種類を選択することにより、8nm以上20nm以下の範囲にて、細孔径を任意の値に制御することができる。これは、有機溶媒の侵入のしやすさの相違や、分子サイズの相違などによるものと考えられる。
【0079】
また、図4は、上記実施例および比較例のうち実施例6、8、9および比較例1に示した製造方法により作製したメソポーラス体の細孔径を示す図表である。つまり、図4は、本実施形態の有機溶媒であるトリプロピルベンゼンの重量比率を変えた効果を示す図表である。
【0080】
図4に示されるように、水溶液に添加する有機溶媒の添加量を多くするにしたがって、メソポーラス体の細孔径を、メソポーラス体の全領域に渡って均一に大きくできることがわかる。
【0081】
つまり、有機溶媒の添加量を選択することにより、メソポーラス体の細孔径を制御することが可能である。なお、上述したが、水溶液中におけるテンプレートと有機溶媒との重量比においては、テンプレートに対する有機溶媒の量が多すぎると細孔の形を維持しにくくなるため、テンプレートを1としたとき有機溶媒が2.5以下であることが好ましく、より好ましくは1以下である。
【0082】
また、上記各実例にて作製したメソポーラス体の水熱耐久性能を確認するために、次のような試験を実施した。作製したメソポーラス体をペレット状に成形し、管状炉へ投入する。続いて、炉内を900℃の水蒸気雰囲気とし、5時間耐久させた。試験後、ペレット状のメソポーラス体を破砕し、TEM観察を実施した。
【0083】
この試験の結果、上記各実施例において、水熱耐久試験前と同様の細孔形状が確認された。つまり、各実施例においてメソポーラス体は、900℃の水蒸気雰囲気に耐えて、その細孔形状を維持できることがわかった。そして、各実施例において、細孔壁の厚さが3nm以上であることがわかった。
【0084】
つまり、上記製造方法において、水熱合成の条件(温度、時間)や超音波照射、マイクロ波照射の条件を調節することにより、細孔壁の厚さを制御することが可能であり、細孔壁厚を3nm以上とすることにより、900℃までメソポーラス体の3次元構造を保持することが可能である。
【0085】
また、このように細孔壁に厚さを3nm以上とするには、上記製造方法において、テンプレートを選定する際にポリ(エチレンオキサイド)(EOx)のような親水性部の重合度を20以上とすることが望ましい。
【0086】
(他の実施形態)
なお、テンプレートと有機溶媒とが一体化した前駆体を、メソポーラス体の原料に転写する際には、メソポーラス体の原料として上記TEOSなどの金属アルコキシド等の加水分解が用いられるため、シリカからなる細孔壁を形成する際にも、激しい加水分解作用を発揮する高温高圧雰囲気を用いることができる。そして、その形成手法としては、上記同様、水熱合成、超音波、マイクロ波を用いることができる。
【0087】
また、テンプレートとして、上記実施形態では、トリブロックコポリマー(EOx−POx−EOx)などの一般的な両親媒性のポリ(アルキレンオキサイド)ブロックコポリマーを挙げたが、通常のテンプレート法に採用できるものならば、これらに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の実施形態に係るメソポーラス体の概略斜視図である。
【図2】(a)は上記実施形態の製造方法を示す工程図であり、(b)は従来の一般的な製造方法を示す工程図である。
【図3】実施例1〜7および比較例1、2に示した製造方法により作製したメソポーラス体の細孔径を示す図表である。
【図4】実施例6、8、9および比較例1に示した製造方法により作製したメソポーラス体の細孔径を示す図表である。
【符号の説明】
【0089】
10…メソポーラス体、11…細孔、20…テンプレート、30…有機溶媒。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メソポーラス体の細孔の鋳型となるテンプレートを含む水溶液を作製した後、この水溶液に前記メソポーラス体の原料を溶解させることにより沈殿物を得て、この沈殿物を乾燥および焼成することにより前記メソポーラス体を製造するメソポーラス体の製造方法において、
前記水溶液として、前記テンプレートに加えて、前記テンプレートと親和性を有する有機溶媒を添加したものを用いることを特徴とするメソポーラス体の製造方法。
【請求項2】
前記テンプレートとして、両親媒性のポリ(アルキレンオキサイド)ブロックコポリマーを用いることを特徴とする請求項1に記載のメソポーラス体の製造方法。
【請求項3】
前記ポリ(アルキレンオキサイド)ブロックコポリマーの分子量が1000以上であることを特徴とする請求項2に記載のメソポーラス体の製造方法。
【請求項4】
前記ポリ(アルキレンオキサイド)ブロックコポリマーが、親水性のポリアルキレンオキサイドの含量が30%以上60%以下であることを特徴とする請求項2または3に記載のメソポーラス体の製造方法。
【請求項5】
前記ブロックコポリマーは、親水性のポリアルキレンオキサイドが疎水性ポリアルキレンオキサイドの向かい合っている端に共有結合したトリブロックコポリマー、親水性のポリアルキレンオキサイドの末端に疎水性のポリアルキレンオキサイドが共有結合したジブロックコポリマーから選択された1種または2種以上のブロックポリマーであることを特徴とする請求項1ないし2のいずれかに記載のメソポーラス体の製造方法。
【請求項6】
前記親水性のポリアルキレンオキサイドが、ポリエチレンオキサイドであることを特徴とする請求項5に記載のメソポーラス体の製造方法。
【請求項7】
前記疎水性のポリアルキレンオキサイドが、ポリプロピレンオキサイド、ポリブチレンオキサイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリヒドロキシ酸から選択されたものであることを特徴とする請求項5または6に記載のメソポーラス体の製造方法。
【請求項8】
前記疎水性のポリアルキレンオキサイドが、ポリヒドロキシ酸であり、このヒドロキシ酸が、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸から選択されたものであることを特徴とする請求項7に記載のメソポーラス体の製造方法。
【請求項9】
前記テンプレートと親和性を有する有機溶媒が、疎水性のポリアルキレンオキサイドに対する溶解性があることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1つに記載のメソポーラス体の製造方法。
【請求項10】
前記疎水性のポリアルキレンオキサイドに溶解性がある有機溶媒として、環状エーテル類、グリコールジエーテル類、ベンゼン類、エステル類、ケトン類、アルカン類の中から選ばれた少なくとも1種以上を用いることを特徴とする請求項9に記載のメソポーラス体の製造方法。
【請求項11】
前記テンプレートと親和性を有する有機溶媒が、親水性のポリアルキレンオキサイドに対する溶解性があることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1つに記載のメソポーラス体の製造方法。
【請求項12】
前記親水性のポリアルキレンオキサイドに溶解性がある有機溶媒として、アルキレンオキサイド類、アルコール類、カルボン酸類、エステル類の中から選ばれた少なくとも1種以上を用いることを特徴とする請求項11に記載のメソポーラス体の製造方法。
【請求項13】
前記水溶液中における前記テンプレートと前記有機溶媒との重量比を、前記テンプレートを1としたとき前記有機溶媒が2.5以下となるようにすることを特徴とする請求項1ないし12のいずれか1つに記載のメソポーラス体の製造方法。
【請求項14】
前記沈殿物を得る処理として、前記水溶液を加圧および加熱することを特徴とする請求項1ないし13のいずれか1つに記載のメソポーラス体の製造方法。
【請求項15】
前記水溶液を加圧および加熱することは、前記水溶液に対して水熱合成処理、超音波照射、もしくはマイクロ波照射を行うことであることを特徴とする請求項14に記載のメソポーラス体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−290941(P2007−290941A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−286434(P2006−286434)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】