説明

メタクリル樹脂組成物の製造方法

【課題】金属酸化物粒子をメタクリル樹脂中に簡便かつ良好に分散させ、良好な透明性と表面硬度を有するメタクリル樹脂組成物を製造しうる方法を提供すること。
【解決手段】メタクリル樹脂が炭素数2〜4の1価アルコール及び水の混合溶媒に溶解してなる溶液と、金属酸化物粒子とを混合した後、該混合物から前記溶媒を除去することを特徴とするメタクリル樹脂組成物の製造方法。かかる金属酸化物粒子として、該粒子が炭素数2〜4の1価アルコールに分散してなるゾルを使用するのが好ましく、また、金属酸化物には、シリカ、アルミナ、チタニア及びジルコニアから選ばれる少なくとも1種を使用するのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル樹脂と金属酸化物粒子とを含有するメタクリル樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル樹脂と金属酸化物粒子とを含有するメタクリル樹脂組成物は、メタクリル樹脂の優れた透明性に加え、高い表面硬度を有しうるため、例えば、学校・病院等の安全窓ガラス、携帯電話等の窓材、表示板、ディスプレイパネル、防音板、間仕切り等の材料として有望視されている。そして、該メタクリル樹脂組成物が優れた透明性を持ちつつ、高い表面硬度を獲得するには、金属酸化物粒子をメタクリル樹脂中に良好に分散させる必要があることが知られている。
【0003】
一方、メタクリル樹脂と金属酸化物粒子とを含有するメタクリル樹脂組成物の製造方法として、非特許文献1には、メタクリル樹脂と(3−アクリロキシ)トリメトキシシランで表面処理されたシリカ粒子とをシングルスクリュー混練機により混練する方法が記載されている。また、非特許文献2には、オクタデシルメチルベタインによりイオン交換された親油性のモンモリロナイトを、メタクリル酸メチルモノマー中に加えた後、超音波処理して該モノマー中に分散させ、次いで重合反応を行う方法が記載されている。
【0004】
【非特許文献1】ポリマーズ・フォー・アドバンスド・テクノロジーズ(POLYMERS FOR ADVANCED TECHNOLOGIES)、(米国)、2006年、第17巻、p.320−326
【非特許文献2】ラングミュア(Langmuir)、(米国)、2004年、第20巻、p.3424−3430
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載の方法では、メタクリル樹脂中に金属酸化物粒子であるシリカ粒子を分散させるために所定の化合物でシリカ粒子を表面処理する必要があり、操作が煩雑であった。また、メタクリル樹脂と該シリカ粒子を所定の混練機で機械的に混練するため、分散性の点で必ずしも満足のいくものではなかった。
【0006】
また、非特許文献2に記載の方法では、メタクリル酸メチルモノマー中にモンモリロナイトを分散させるために所定の化合物でモンモリロナイトを処理する必要があり、また、該モノマーと該モンモリロナイトとの混合物を超音波処理した後、重合反応を行うため、操作が煩雑であった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、金属酸化物粒子をメタクリル樹脂中に簡便かつ良好に分散させ、良好な透明性と表面硬度を有するメタクリル樹脂組成物を製造しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる状況の下、本発明者らは鋭意検討の結果、メタクリル樹脂が炭素数2〜4の1価アルコール及び水の混合溶媒に溶解してなる溶液と、金属酸化物粒子とを混合することにより、簡便かつ良好に金属酸化物粒子を分散させることができ、該混合物から前記溶媒を除去することで、良好な透明性と表面硬度を有するメタクリル樹脂組成物を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、メタクリル樹脂が炭素数2〜4の1価アルコール及び水の混合溶媒に溶解してなる溶液と、金属酸化物粒子とを混合した後、該混合物から前記溶媒を除去することを特徴とするメタクリル樹脂組成物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金属酸化物粒子をメタクリル樹脂中に簡便かつ良好に分散させ、良好な透明性と表面硬度を有するメタクリル樹脂組成物を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明では、メタクリル樹脂が炭素数2〜4の1価アルコール及び水の混合溶媒に溶解してなる溶液と、金属酸化物粒子とを混合する。このように、メタクリル樹脂が所定のアルコール及び水の混合溶媒には溶解するという特性を利用し、分散性よく該溶液と金属酸化物粒子とを混合するものである。
【0012】
本発明で使用するメタクリル樹脂は、メタクリル酸メチルを主体とする重合体であり、メタクリル酸メチルの単独重合体であってもよいし、メタクリル酸メチル50重量%以上とこれ以外の単量体50重量%以下との共重合体であってもよい。共重合体である場合、メタクリル酸メチルの割合は、好ましくは70重量%以上であり、より好ましくは90重量%以上である。尚、上述したメタクリル酸メチルの割合は、メタクリル樹脂が上記混合溶媒に溶解する範囲内で適宜調整される。
【0013】
メタクリル酸メチル以外の単量体は、分子内にラジカル重合可能な二重結合を1個以上有するものであり、メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステルや、(メタ)アクリル酸、ビニルスルホン酸が好ましく用いられる。メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステルの例としては、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。
【0014】
メタクリル樹脂は、耐衝撃剤、帯電防止剤、酸化防止剤、滑剤、離型剤、染料、顔料などの着色剤を含有してもよい。
【0015】
炭素数2〜4の1価アルコールとしては、例えば、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−2−プロパノールが挙げられる。また、必要に応じてそれらの2種以上を用いることもできる。
【0016】
炭素数2〜4の1価アルコール及び水の使用量は、メタクリル樹脂が該アルコール及び水の混合溶媒に溶解しうる量であれば特に制限はなく、メタクリル樹脂1重量部に対して、該混合溶媒は通常1〜40重量部、好ましくは5〜30重量部である。
【0017】
炭素数2〜4の1価アルコール及び水の使用割合については、該アルコールと水とが均一に交じり合うよう適宜調整され、好ましくは、該アルコール及び水の合計100重量部に対して、該アルコールは60〜97重量部である。
【0018】
メタクリル樹脂を炭素数2〜4の1価アルコール及び水の混合溶媒に溶解させる温度は、使用するアルコールにもよるが、通常10〜90℃、好ましくは20〜80℃である。
【0019】
メタクリル樹脂を上記混合溶媒に溶解させるのに要する時間は、通常0.5〜40時間程度である。
【0020】
かくしてメタクリル樹脂が炭素数2〜4の1価アルコール及び水の混合溶媒に溶解してなる溶液を得ることができる。次いで、この溶液と金属酸化物粒子とを混合する。
【0021】
金属酸化物粒子は、メタクリル樹脂中に分散させて該樹脂といわゆる複合化しうる従来公知の金属酸化物粒子であることができる。かかる金属酸化物として、好ましくはシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアが挙げられる。また、必要に応じてそれらの2種以上を用いることもできる。
【0022】
金属酸化物粒子の使用量は特に制限されないが、メタクリル樹脂100重量部に対して、通常200重量部以下、好ましくは100重量部以下、更に好ましくは1〜50重量部である。
【0023】
金属酸化物粒子の中心粒子径は、動的光散乱法により測定することができ、入手容易性の点から1nm以上が好ましく、得られるメタクリル樹脂組成物の透明性の点から150nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい、20nm以下がさらに好ましい。
【0024】
上記溶液と金属酸化物粒子とを混合する方法としては、例えば、金属酸化物粒子を上記溶液に加えてもよいし、金属酸化物粒子に上記溶液を加えてもよい。また、金属酸化物粒子を炭素数2〜4の1価アルコールに分散させてゾルとし、このゾルを上記溶液に加えてもよいし、このゾルに上記溶液を加えてもよい。また、上記溶液中のアルコールと、ゾル中のアルコールは同一であってもよく、異なっていてもよい。本発明で得られるメタクリル樹脂組成物の透明性や、金属酸化物粒子の分散性の点からは、上記ゾルを用いるのが好ましい。
【0025】
上記溶液と金属酸化物粒子との混合温度は、メタクリル樹脂が上記混合溶媒に溶解している温度であればよく、使用するアルコールにもよるが、通常10〜90℃、好ましくは20〜80℃である。また、混合時間は、通常1〜20時間、好ましくは1〜10時間である。
【0026】
上述のとおり混合した後、該混合物から上記溶媒を除去する。除去方法としては、例えば、上記溶媒を蒸発させて乾燥する等、従来公知の方法を採用することができる。好ましくは、室温〜120℃程度で、数時間から数日間かけて蒸発させ、乾燥する。
【0027】
尚、上記溶液と金属酸化物粒子との混合物を一旦冷却してゲル化し、かかるゲルから上記溶媒を除去することもできる。
【0028】
かくして金属酸化物粒子をメタクリル樹脂中に簡便かつ良好に分散させ、良好な透明性と表面硬度を有するメタクリル樹脂組成物を製造することができる。このメタクリル樹脂組成物は、例えば、プレス成形等、従来公知の成形法により成形することができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例によって限定されるものではない。
【0030】
尚、以下の実施例における各種物性の測定方法および評価方法は以下のとおりである。
【0031】
(1)メタクリル樹脂組成物中の金属酸化物粒子の含有率
メタクリル樹脂組成物を一定量(W0)秤取り、TGA(熱重量分析装置)により室温(約25℃)から10℃/分の昇温速度で500℃まで昇温し、500℃に到達したときの重量(W1)を測定し、下記式(2)から金属酸化物粒子の含有率を算出した。
金属酸化物粒子の含有率(%)=(W1/W0)×100 (2)
【0032】
(2)全光線透過率
JIS K7361−1に準拠して、村上色彩技術研究所製HR−100を用いて全光線透過率(%)を求めた。
【0033】
(3)ヘイズ値
JIS K7136:2000に準拠して、村上色彩技術研究所製HR−100を用いてヘイズ値を測定した。
【0034】
(4)鉛筆硬度
JIS K5400の鉛筆硬度試験に従い、厚さ2mmの平板状に成形した成形品を試験片として鉛筆硬度試験を行い、表面硬度(鉛筆硬度)を求めた。
【0035】
実施例1
メタクリル酸メチル96重量%及びアクリル酸メチル4重量%が重合してなる共重合体樹脂ペレット(重量平均分子量;12万)8gを、エタノール150g及び水40gの混合溶媒に加えた後、60℃で3時間攪拌混合し、該樹脂が溶解した溶液を得た。この溶液に、シリカがイソプロパノールに分散してなるゾル(シリカ含有率;30重量%、シリカの中心粒子径;10〜15nm、日産化学社製)10gを加え、60℃で6時間攪拌混合した。該混合物を約0℃に冷却し、ゲル化した。このゲルを室温で1日間風乾した後、50℃で2日間、くわえて120℃で3日間乾燥させ、メタクリル樹脂組成物を得た。この樹脂組成物をプレス成形加工機によりプレス成形し、厚さ2mmのプレス板を得た。このプレス板の全光線透過率は78.2%、ヘイズ値は77.9%、シリカ含有率は1.9重量%、鉛筆硬度は4Hであった。
【0036】
実施例2
メタクリル酸メチル96重量%及びアクリル酸メチル4重量%が重合してなる共重合体樹脂ペレット(重量平均分子量;12万)8gを、イソプロパノール150g及び水40gの混合溶媒に加えた後、65℃で3時間攪拌混合し、該樹脂が溶解した溶液を得た。この溶液に、シリカがイソプロパノールに分散してなるゾル(シリカ含有率;30重量%、シリカの中心粒子径;10〜15nm、日産化学社製)10gを加え、65℃で6時間攪拌混合した。該混合物を約0℃に冷却し、ゲル化した。このゲルを室温で1日間風乾した後、50℃で2日間、くわえて120℃で3日間乾燥させ、メタクリル樹脂組成物を得た。この樹脂組成物をプレス成形加工機によりプレス成形し、厚さ2mmのプレス板を得た。このプレス板の全光線透過率は79.8%、ヘイズ値は82.6%、シリカ含有率は5重量%、鉛筆硬度は4Hであった。
【0037】
実施例3
メタクリル酸メチル及びアクリル酸の混合物であって、メタクリル酸メチル9モルに対しアクリル酸1モルである混合物に、重合開始剤を加えた後、73℃で3時間、120℃で1時間熱処理をして重合反応を行った。得られた重合物8gをイソプロパノール155g及び水40gの混合溶媒に加えた後、65℃で6時間攪拌混合し、該樹脂が溶解した溶液を得た。この溶液に、シリカがイソプロパノールに分散してなるゾル(シリカ含有率;30重量%、シリカの中心粒子径;10〜15nm、日産化学社製)5gを加え、65℃で6時間攪拌混合した。該混合物を約0℃に冷却し、ゲル化した。このゲルを室温で2日間風乾した後、50℃で2日間、くわえて120℃で3日間乾燥させ、メタクリル樹脂組成物を得た。この樹脂組成物をプレス成形加工機によりプレス成形し、厚さ2mmのプレス板を得た。このプレス板の全光線透過率は72.5%、ヘイズ値は54.2%、シリカ含有率は17.4重量%、鉛筆硬度は4Hであった。
【0038】
実施例4
メタクリル酸メチル及びビニルスルホン酸の混合物であって、メタクリル酸メチル99モルに対しビニルスルホン酸1モルである混合物に、重合開始剤を加えた後、73℃で3時間、120℃で1時間熱処理をして重合反応を行った。得られた重合物8gをイソプロパノール160g及び水40gの混合溶媒に加えた後、65℃で6時間攪拌混合し、該樹脂が溶解した溶液を得た。この溶液に、シリカがイソプロパノールに分散してなるゾル(シリカ含有率;30重量%、シリカの中心粒子径;10〜15nm、日産化学社製)5gを加え、65℃で6時間攪拌混合した。該混合物をアルミ製のバットに入れ、室温で2日間風乾した後、50℃で2日間、くわえて120℃で3日間乾燥させ、メタクリル樹脂組成物を得た。この樹脂組成物をプレス成形加工機によりプレス成形し、厚さ2mmのプレス板を得た。このプレス板の全光線透過率は68.5%、ヘイズ値は58.8%、シリカ含有率は7.4重量%、鉛筆硬度は5Hであった。
【0039】
比較例1
メタクリル酸メチル96重量%及びアクリル酸メチル4重量%が重合してなる共重合体樹脂ペレット(重量平均分子量;12万)8gを、エタノール200gに加えた後、60℃で15時間攪拌混合したが、該樹脂は溶解しなかった。
【0040】
比較例2
メタクリル酸メチル96重量%及びアクリル酸メチル4重量%が重合してなる共重合体樹脂ペレット(重量平均分子量;12万)8gを、イソプロパノール200gに加えた後、65℃で15時間攪拌混合したが、該樹脂は溶解しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル樹脂が炭素数2〜4の1価アルコール及び水の混合溶媒に溶解してなる溶液と、金属酸化物粒子とを混合した後、該混合物から前記溶媒を除去することを特徴とするメタクリル樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記溶液と、金属酸化物粒子が炭素数2〜4の1価アルコールに分散してなるゾルとを混合する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
金属酸化物粒子の中心粒子径が1〜150nmである請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
金属酸化物が、シリカ、アルミナ、チタニア及びジルコニアから選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−179691(P2009−179691A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−19029(P2008−19029)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】