説明

メタクロレインの保存方法

【課題】 メタクロレインを重合させることなく、かつメタクロレインダイマーの生成を抑制することができるメタクロレインの保存方法を提供する。
【解決手段】 メタクロレインを次の(1)〜(3)の条件を満足する条件下で保存するメタクロレインの保存方法。
(1)メタクロレイン中のフェノール化合物の濃度が0.0005〜3質量%
(2)メタクロレインの温度が20℃以下
(3)メタクロレインの表面が3〜20体積%の酸素含有ガスと接触している

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクロレインの保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクロレインは工業的にはイソブチレンや第3級ブタノールの気相接触酸化反応で製造されている。メタクロレインはメタクリル酸やメタクリル酸エステルの原料として利用されている。また、メタクロレインの誘導体には香料、ポリオール等があり、このようなファインケミカルの原料としてもメタクロレインは有用である。
【0003】
また、特許文献1にはメタクロレインをタンク中において−10℃以下で貯蔵する方法が開示されている。また、同文献にはメタクロレイン等の易重合性物質に、例えば、ハイドロキノン、フェノチアジン、メトキノン、酢酸マンガン、ニトロソフェノール、クペロン、N−オキシル化合物等の重合防止剤を加えてもよいことが開示されている。
【特許文献1】特開2003−286941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
イソブチレンの酸化反応等によって製造されたメタクロレインは、重合を避けるために製造後直ちに使用されることが好ましい。しかしながら、場合によっては次工程に供給されるまでの間や誘導体製造に供給されるまでの間等、一定の期間、タンクに貯蔵されたり、容器に入れて輸送されたりすることがある。特に数日間タンクや容器中でメタクロレインを貯蔵もしくは輸送する際に、メタクロレインダイマー(以下、単にダイマーとも言う。)が多く副生することがある。ダイマーは比較的安定であるため、一度生成するとメタクロレイン中に残留する。このようなダイマーを多く含むメタクロレインを誘導体等の原料に使用すると、得られる生成物の品質を落す場合があるので、ダイマーを低減・除去する必要があった。しかし、ダイマーは次工程以降において蒸留等の通常の精製手段では低減・除去することが困難である。
【0005】
そこで、本発明は、メタクロレインを重合させることなく、かつダイマーの生成を抑制することができるメタクロレインの保存方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、メタクロレインを次の(1)〜(3)の条件を満足する条件下で保存するメタクロレインの保存方法である。
【0007】
(1)メタクロレイン中のフェノール化合物の濃度が0.0005〜3質量%
(2)メタクロレインの温度が20℃以下
(3)メタクロレインの表面が3〜20体積%の酸素含有ガスと接触している
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、メタクロレインの保存中にメタクロレインが重合することなく、かつダイマーの生成が少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明はメタクロレインを一定の期間タンクに貯蔵したり、輸送したりする際の保存に適している。本発明のメタクロレインの保存方法が適用できる好ましい場面としては、例えば、イソブチレンや第3級ブタノールの気相接触酸化反応で製造されたメタクロレインを、気相接触酸化反応でメタクリル酸を製造するための原料として供給するまでタンクに貯蔵しておく期間や、メタノールとの直接エステル化反応でメタクリル酸メチルを製造するための原料として供給するまでタンクに貯蔵しておく期間等が挙げられる。また、メタクロレインを容器に入れてメタクロレインの誘導体を製造する場所まで輸送する期間においても、ダイマーの生成を抑制できることから、本発明は好適である。
【0010】
本発明のメタクロレインの保存方法では、前記(1)〜(3)の条件を全て満足することが重要である。
【0011】
条件(1)は、保存時のメタクロレイン中のフェノール化合物の濃度を0.0005〜3質量%にすることである。フェノール化合物の濃度は好ましくは0.01〜2質量%であり、より好ましくは0.1〜0.5質量%である。フェノール化合物の濃度は高いほど重合防止効果およびダイマー生成防止に優れるので長期の保存に適し、低いほどメタクロレインの純度低下を抑えることができる。ここでフェノール化合物とは、ベンゼン環に直接ヒドロキシル基が1個以上結合し、ヒドロキシル基からみてオルト位および/またはパラ位がアルキル基またはアルコキシ基で置換されていてもよいフェノール誘導体のことである。例えば、ハイドロキノン、パラメトキシフェノール、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジメチルフェノール、2−t−ブチルフェノール等が挙げられ、中でも、重合防止効果およびダイマー生成防止効果に優れていることからハイドロキノンが好ましい。フェノール化合物の濃度はメタクロレインにフェノール化合物を添加する等の方法で調節することができる。
【0012】
条件(2)は、保存時のメタクロレインの温度(保存温度)を20℃以下にすることである。メタクロレインダイマーの生成を抑制するという観点から保存温度の下限に特に制限は無いが、極低温での取り扱いはコストが上昇することがある。この点を考慮すると、保存温度は好ましくは−30℃〜10℃であり、より好ましくは−10〜5℃である。保存温度は高いほど温度制御が容易で低コストになり、低いほどダイマーの生成が少なくなる傾向がある。メタクロレインをタンク内で保存する場合にあっては、例えばジャケット付きタンクを使用してジャケット内部に冷媒循環させる方法等により保存温度を調節することができる。また、容器に入れて保存する場合は、例えば、冷暗所や冷蔵室等に入れて容器の雰囲気温度を調節することで、保存温度を調節することができる。
【0013】
条件(3)は保存時にメタクロレインの表面を3〜20体積%の酸素含有ガスと接触させることである。この酸素含有ガスの酸素濃度は好ましくは4〜18体積%、より好ましくは6〜16体積%である。酸素濃度は高いほど重合防止効果が高まり、低いほど爆発防止効果が高まる傾向がある。特に、重合防止の観点から4%以上が好ましく、爆発防止の観点から酸素濃度は16%以下が好ましい。酸素含有ガスの酸素以外の成分としては、例えば、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素、アルゴン、水蒸気等の大気に含まれる成分や、ヘリウム、クリプトン、キセノン等の不活性ガス等が挙げられる。酸素含有ガスとしては、例えば、空気を窒素で希釈したガス、酸素を窒素で希釈したガス、酸素をヘリウムで希釈したガス等が挙げられる。中でも、空気を窒素で希釈したガスが好ましい。この条件を達成するための好ましい方法としては、例えば、タンクや容器の気相部をこのような濃度の酸素含有ガスでシールする方法が挙げられる。
【実施例】
【0014】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0015】
実施例において、メタクロレインの純度およびダイマーの含有率はガスクロマトグラフィーで定量した。
【0016】
<実施例1>
0.1質量%のハイドロキノンを含む純度91.5質量%のメタクロレインを容器に入れ、容器の気相部を8体積%酸素含有窒素ガスでシールし、容器を冷蔵庫内で冷却し、メタクロレインを0℃で保存した。貯蔵開始以後のメタクロレイン中のダイマー含有率の経時変化を表1に示した。なお、メタクロレインと気相部の体積比は7:3であった。
【0017】
<比較例1>
メタクロレインの保存温度を0℃から30℃に変更した以外は実施例1と同様にしてメタクロレインの貯蔵を行った。その結果を表1に示した。
【0018】
<比較例2>
メタクロレインの保存温度を0℃から40℃に変更した以外は実施例1と同様にしてメタクロレインの貯蔵を行った。その結果を表1に示した。
【表1】

【0019】
保存温度が0℃の場合は、ダイマー濃度が14日経過後で0.20質量%であり、ダイマーの生成を抑制する効果が見られた。一方、保存温度が30℃および40℃の場合は、15日経過前の時点でダイマーが2質量%を超えており、ダイマーの生成抑制が不十分であった。
【0020】
<比較例3>
ハイドロキノン添加量を0.0002質量%に変更した以外は実施例1、比較例1および比較例2と同様にして0℃、30℃および40℃の各保存温度でメタクロレインの保存を行った。その結果、いずれの場合も1日以内にメタクロレインが重合し、ダイマーの濃度を測定することができなかった。
【0021】
<比較例4>
8%酸素含有窒素ガスの代わりに大気を純窒素でパージした酸素濃度1%以下のガスで容器の気相部をシールした以外は実施例1、比較例1および比較例2と同様にして0℃、30℃および40℃の各保存温度でメタクロレインの保存を行った。その結果、いずれの場合も3日以内にメタクロレインが重合し、ダイマーの濃度を測定することができなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクロレインを次の(1)〜(3)の条件を満足する条件下で保存するメタクロレインの保存方法。
(1)メタクロレイン中のフェノール化合物の濃度が0.0005〜3質量%
(2)メタクロレインの温度が20℃以下
(3)メタクロレインの表面が3〜20体積%の酸素含有ガスと接触している