説明

メタノールからの低級オレフィンの製造過程における再生熱の回収方法

本発明は、流動床プロセスによるメタノールからの低級オレフィンの製造過程において、再生熱を回収する方法を提供する。この方法において、再生後の高温触媒を、メタノールに接する前に分解反応吸熱領域に導入して、この吸熱領域内で炭化水素に接触させ、該炭化水素の分解反応により、再生後の触媒が有する熱を回収し、触媒の温度をメタノールの転化に必要する温度までに下降させる。

【発明の詳細な説明】
【発明の属する技術分野】
【0001】
本発明は、再生熱(または再生熱量)の回収方法に関し、具体的に、メタノールから低級オレフィンを製造する過程における、再生後の高温触媒によってもたらされる熱の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン、プロピレンなどの低級オレフィンは化学工業の基礎原料である。通常、エチレン及びプロピレンは主に炭化水素のスチーム分解により製造され、使用される原料としてはナフサ(naphtha)、ライトディーゼルオイル(light diesel oil)及び水素化分解テールオイル(hydrogenation cracking tail oil)などが挙げられる。近年、石油の価格が大幅に上がるのに伴って、上記の原料からエチレン、プロピレンを得るのに必要な生産コストが絶えず上昇している。しかも、常套の方法でエチレン、プロピレンを生産するに際しては、主に高温管式炉分解プロセスを利用し、エネルギー消費(energy consumption)は比較的高い。これらの要素はオレフィン生産の新規プロセスの開発を促している。
【0003】
非石油原料で低級オレフィンを製造する方法は、最近注目されているプロセス経路であり、その中でも、石炭または天然ガスから合成ガス(synthesis gas)を製造し、メタノールに転化させた後、メタノールを低級オレフィンに転化させるプロセス経路に対する研究開発が積極的に進められている。メタノール(又はメタノールの脱水により生成されるジメチルエーテル)が分子ふるい(またはモレキュラーシーブ)触媒上で選択的に低級(C2-C4)オレフィンを生成する過程は、通常MTOプロセスと言われている。
【0004】
近年、連続反応-再生のプロセスを採用した流動床MTOプロセスが注目されている。流動床プロセスの基本的な原理は以下のとおりである。即ち、原料としてのメタノールを触媒と反応器内で混合し、触媒を流動化(fluidization)させながら、一定の温度下でエチレン、プロピレンなどの生成物を含んでいる混合物に転化し、触媒は反応後、その表面にカーボンデポジット(carbon deposit)を生成して一部又は全部が失活(deactivation)する。気体状反応生成物は反応器から出て、分離装置に入り、失活した触媒は連続的に反応器から出て、再生器に入って再生される。即ち、酸素含有雰囲気中で燃焼によりカーボンデポジットを除去した後、反応器に戻って、反応原料と再び接する。
【0005】
上記の連続反応-再生の流動床プロセスにおいて、失活した触媒の表面に析出したカーボンは高温燃焼の方式で除去される。通常、燃焼反応の温度は600℃より高く、700℃以上に達し得る。放熱損失を計算しないと、析出したカーボンの燃焼によって生ずる熱は二つの方式で再生器から運び出される。即ち、その一部は排出される高温再生燃焼排ガス(flue gas)によって取り出され、別の一部は再生後の高温触媒によって取り出される。
【0006】
一方、高温再生燃焼排ガスにより取り出された熱は、通常、水蒸気の生産或いは発電などの方式によって回収利用される。たとえば、米国特許US20050238543 A1には再生燃焼排ガスから熱を回収する方法が開示されており、その方法は再生燃焼排ガスを複数回換熱させて温度を下げること、および取り出した熱量を水蒸気等の産生に用いることを含んでいる。
【0007】
一方、再生後の高温触媒により取り出される熱は、しばしば、反応の熱供給に用いられる。流動床反応プロセスは、通常、炭化水素類の接触分解(catalytic cracking)などの吸熱反応に利用されているが、反応熱の一部は再生過程により再生された高温触媒によって提供される。即ち、失活した触媒は、再生器内の酸素含有雰囲気中で、析出したカーボンを燃焼させることにより、再生および加熱された後、反応器に戻されるとともに、熱を再生器から反応器に伝達する。これによって少なくとも一部の反応熱を提供する。
【0008】
しかしながら、このような熱の利用方式はメタノールからオレフィンへの転化反応には適用できない。これは、メタノールをオレフィンに転化させる反応は強い放熱反応であり、触媒は反応器内で加熱される対象になっており、反応器に入る触媒の温度が反応床(reaction bed)層の温度より低い場合のみ、反応温度の安定性を保持することができるからである。メタノールを低級オレフィンに転化させる反応の好ましい温度は350〜600℃であり、触媒上のカーボン(charcoaling)を燃焼させる再生温度(600〜700℃)、即ち、再生後の触媒の温度より低い。したがって、メタノールから低級オレフィンへの転化反応の要求を満たすためには、再生後の高温触媒は、再生過程で得た熱を放出しなければならず、触媒が反応器に入る前に、その温度が下がることが必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、メタノールからの低級オレフィンの製造過程において再生した高温触媒の熱を回収する方法を提供することを目的とする。
【0010】
本発明者は鋭意な研究を経て本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の要旨において、メタノールからの低級オレフィンの製造過程において再生した高温触媒の熱を回収する方法が提供される。この方法は、再生後の高温触媒を、まず分解反応吸熱領域に進入させ、その後、メタノール転化反応器に進入させる工程を含み、前記工程において、炭化水素類を前記分解反応吸熱領域に導入して、前記再生後の高温触媒に接触させて、分解反応を生じさせ、前記再生後の高温触媒の温度が500〜800℃である方法である。
【0012】
本発明の好ましい形態において、使用される触媒は、アルミノ珪酸ゼオライト又は/及び燐珪酸塩分子ふるい触媒、及び、これらの元素変性生成物であり、ミクロ孔は0.3〜0.6nmの直径(または細孔径)を有する。
【0013】
本発明の別の好ましい形態において、触媒の基質材料(matrix material)は酸化珪素、アルミナ又は粘土中から選ばれる1種又は複数種である。
【0014】
本発明の好ましい形態において、分解反応吸熱領域の温度は400〜700℃である。
【0015】
本発明の別の好ましい形態において、分解反応吸熱領域の入口と出口との間における触媒の温度差は50〜300℃である。
【0016】
本発明の好ましい形態において、分解反応吸熱領域内に導入される炭化水素類は、メタノールからオレフィンへの反応におけるC4以上の生成物又は/及びその他のC4- C20の炭化水素である。
【0017】
本発明の別の好ましい形態において、分解反応吸熱領域内に導入される炭化水素は、ナフサ(naphtha)、ガソリン(gasoline)、ガスコンデンセート(gas condensate)、ライトディーゼルオイル(light diesel oil)、水素化テールオイル(hydrogenation tail oil)又は/及び灯油(kerosene)である。
【0018】
本発明の好ましい形態において、分解反応吸熱領域における炭化水素の生成物を、メタノールから低級オレフィンへの反応で得られる生成物に合わせる。
【0019】
本発明の好ましい形態において、前記の分解反応吸熱領域は、メタノール転化装置において独立した反応領域(または反応段)である。
【0020】
本発明の好ましい形態において、前記の分解反応吸熱領域はメタノール転化反応器のライザー(riser)段(またはライザーもしくはライザー領域)である。
【0021】
本発明の方法によると、メタノールからの低級オレフィンの製造過程において再生した触媒が持ち出す一部の熱を回収することができ、メタノールから低級オレフィンへの転化反応の温度要求を満たすように、再生後の触媒の温度を調節することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
前記目的を達するために、本発明によるメタノールからの低級オレフィンの製造過程における再生熱の回収方法においては、再生後の高温触媒を、分解反応吸熱領域に導き、この吸熱領域内において炭化水素類の接触分解反応によって、触媒が有する熱を吸収させ、触媒の温度を下げた後、触媒をメタノール転化反応器に導入させる。
【0023】
前記の方法において、使用される触媒は、アルミノ珪酸ゼオライト又は/及び燐珪酸塩分子ふるい触媒、及び、これらの元素変性生成物であり、その細孔径は0.3〜0.6nmである。
【0024】
前記の方法において、触媒の基質材料(matrix material)は、酸化珪素、アルミナ又は粘土中から選ばれる1種又は複数種である。
【0025】
前記の方法において、分解反応吸熱領域の温度は400〜700℃である。
【0026】
前記の方法において、分解反応吸熱領域の入口と出口との間における触媒の温度差は50〜300℃である。
【0027】
前記の方法において、分解反応吸熱領域内に導入される炭化水素類は、メタノールからオレフィンへの生成反応におけるC4以上の生成物又は/及びその他のC4-C20の炭化水素である。
【0028】
前記の方法において、分解反応吸熱領域内に導入される炭化水素は、ナフサ(naphtha)、ガソリン(gasoline)、ガスコンデンセート(gas condensate)、ライトディーゼルオイル(light diesel oil)、水素化テールオイル(hydrogenation tail oil)又は/及び灯油(kerosene)である。
【0029】
前記の方法において、分解反応吸熱領域で生成されるエチレン及びプロピレンを含む生成物を、メタノールの転化によって生成される生成物と一緒にする。
【0030】
本発明において、吸熱型の炭化水素分解反応によって、メタノールから低級オレフィンを製造する過程における、一部の再生熱(または再生熱の一部)を回収することができる。本発明は以下の特徴を有している。即ち、メタノールから低級オレフィンを製造する、連続反応型の反応−再生流動床プロセスにおいて、再生後の高温触媒はメタノールに接する前に分解反応吸熱領域に入り、この吸熱領域内にC4-C20の炭化水素が導入されて再生後の高温触媒と接触し、炭化水素類の分解反応によって、触媒が運ぶ熱を回収し、触媒の温度が下がって、メタノールの転化の温度要求を満たしたときに、メタノール転化反応器に触媒が導入される。同時に分解反応によって生成する低級オレフィンを、メタノールから生成されるオレフィン生成物に加えることができる。
【0031】
本発明は、メタノールから低級オレフィンを製造する過程における一部の再生熱を回収する、以下の方法を提供する。即ち、流動床プロセスを用いてメタノールから低級オレフィンを製造する過程において、メタノール原料及び触媒を反応器内で混合して触媒を流動化させ、一定の温度下で、エチレン、プロピレン及びその他の炭化水素を含む生成物の混合物に転化させる。触媒は、反応により、その表面にカーボンデポジットを生成して(またはカーボンが析出して)、一部又は全部が非活性化される。気体状の反応生成物は反応器から流れ出て分離装置に入り、非活性化された触媒は、連続的に反応器から流れ出て再生器に入って再生される。非活性化された触媒は再生器に入る前にストリッピング装置を通過して、水蒸気などの不活性気体によって触媒上の残余炭化水素が除去され、その後、再生器内の酸素含有雰囲気で燃焼されてカーボンデポジットが除去される。カーボンデポジットの燃焼によって熱が放出され、その熱の一部は再生燃焼排ガスが受け取り、別の一部は再生後の触媒が受け取る。再生器内で600〜700℃に加熱された触媒は、水蒸気などの不活性気体によって残余酸素が除去された後、分解反応吸熱領域に入る。この反応吸熱領域は独立した濃厚(または緻密)相(dense-phase)反応段(または反応領域)であってもよく、同時に、触媒をメタノール転化反応器に輸送するライザー段であってもよい。この反応吸熱領域内において、炭化水素類原料は、再生後の触媒に接して分解反応するとともに、触媒が運ぶ熱を吸収する。この反応吸熱領域の温度は400〜700℃であり、触媒は上記反応吸熱領域から流れ出た後、その温度が吸熱領域の入口より50〜300℃低く、メタノールからオレフィンへの転化反応が必要とする温度に達している。その後、触媒は、メタノールをオレフィンに転化させるための反応器に入る。上記の分解反応吸熱領域内で生成されたエチレンおよびプロピレンを含む生成物を、メタノールの転化による生成物と合わせてもよい。
【0032】
上記の触媒は、ミクロ孔の口径が0.3〜0.6nmであるアルミノ珪酸ゼオライト又は/及び燐珪酸塩分子ふるい触媒(例えば、ZSM-5, ZSM-11, SAPO-34, SAPO-11など)、及び、これらの元素変性生成物を含む。上記触媒は、さらに、一又は複数の酸化珪素、アルミナ又は粘土である基質材料(matrix material)を含む。上記反応吸熱領域において、使用される炭化水素の炭素数は4〜20の範囲にあり、該炭化水素はメタノールからオレフィンへの生成反応におけるC4 以上の生成物でもよく、その他のC4-C20の炭化水素であってもよい。この炭化水素としては、ナフサ(naphtha)、ガソリン(gasoline)、ガスコンデンセート(gas condensate)、ライトディーゼルオイル(light diesel oil)、水素化テールオイル(hydrogenation tail oil)及び灯油(kerosene)等が挙げられる。
【0033】
以下実施例によって本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
実施例1
ブチレン-2のSAPO-34分子ふるい触媒による分解
触媒の製作過程は以下のとおりである。即ち、SAPO-34(大連化学物理研究所、珪素アルミ比は0.2である)、粘土、アルミゾル及びシリカゾル(いずれもZhejiang Yuda Chemical Engineering Co. Ltdから購入)を混合し、水中で分散させてスラリーにし、噴霧成形により、粒径の分布が20〜100ミクロンである微小球を形成した。上記の微小球を600℃で4時間焼成して本実施例で使用される触媒とした。触媒中、SAPO-34の含有量は、30重量%である。反応は、内径が20mmである流動床ミクロ反応器(micro-reactor)内で行われる。反応条件は以下のとおりである。即ち、触媒の装填量は10gであり、ブチレン-2(Fushun Petrochemical Co.、純度98%、シス-トランスブチレン-2の比は1である)原料の供給質量空間速度(WHSV)は1.0hr-1であり、反応圧力は0.1MPaである。反応生成物を、PonaカラムとFID(水素炎検出器)を備えたVarian CP-3800ガス・クロマトグラフにて分析した。サンプリング時間は2分間であった。
【0035】
反応熱は原料と生成物の熱力学的定数から計算によって求める。計算において、C5の炭化水素の熱力学的データは10種の炭化水素(アルカン、オレフィン、ジエン、シクロアルカンの異性体)の平均値であり、C6の熱力学的データは12種のC6の炭化水素(アルカン、オレフィン、ジエン、シクロアルカンの異性体)の平均値である。各物質は、反応条件でいずれも理想気体であると仮定する。
【0036】
ブチレン-2の分子ふるい触媒による転化反応結果及び反応熱を表1に示した。反応温度は500℃であった。表中のデータから分かるように、この反応条件下で反応生成物におけるエチレン及びプロピレンの選択性が78.1%であり、この生成物の分布条件下で分解反応の反応吸熱が471KJ/Kgである。
【0037】
【表1】

【0038】
実施例2
反応温度を550℃にしたこと以外は、実施例1と同じ条件下で実施した。
【0039】
ブチレン-2の分子ふるい触媒による転化反応結果及び反応熱を表2に示した。表中のデータからわかるように、この反応条件下で反応生成物におけるエチレン及びプロピレンの選択性が82.21%であり、この生成物の分布条件下で分解反応の反応吸熱が704KJ/Kgである。
【0040】
【表2】

【0041】
実施例3
反応温度を600℃にしたこと以外は、実施例1と同じ条件下で実施した。
【0042】
ブチレン-2の分子ふるい触媒による転化反応結果及び反応熱を表3に示した。表中のデータからわかるように、この反応条件下で反応生成物におけるエチレン及びプロピレンの選択性が80.97%であり、この生成物の分布条件下で分解反応の反応吸熱が825KJ/Kgである。
【0043】
【表3】

【0044】
実施例4
灯油のZSM-5分子ふるい触媒による分解
SAPO-34分子ふるい触媒を ZSM-5(南カイ大学分子ふるい厂(The molecular sieve plant of Nankai University)、珪素アルミ比は50である)に替え、原料を灯油(3番航空灯油、Qilu Petrochemical Co.)に替えたこと以外、触媒の製造工程及び反応操作は、実施例1と同じである。反応熱の計算方法も実施例1と同じであり、灯油の燃焼エンタルビー(enthalpy)は-7513KJ.Kg-1とした。
【0045】
灯油の分子ふるい触媒による転化反応結果及び反応熱を表4に示した。反応温度は550℃であった。灯油のその他の熱力学的関数はn-ドデカンで計算する。表中のデータから分かるように、この反応条件下で反応生成物におけるエチレン及びプロピレンの選択性が28.91%であり、この生成物の分布条件下で反応吸熱が2238KJ/Kgである。
【0046】
【表4】

【0047】
実施例5
反応温度を600℃にしたこと以外は、実施例4と同じ条件下で実施した。
【0048】
灯油の分子ふるい触媒による転化反応結果及び反応熱を表5に示した。灯油の燃焼エンタルビー(enthalpy)は-7513KJ.Kg-1とした。灯油のその他の熱力学的関数はn-ドデカンで計算する。表中のデータから分かるように、この反応条件下で反応生成物におけるエチレン及びプロピレンの選択性が36.97%であり、この生成物の分布条件下で反応吸熱が2821KJ/Kgである。
【0049】
【表5】

【0050】
実施例6
ガソリンのZSM-5分子ふるい触媒による転化反応結果及び反応熱を表6に示した。反応原料をガソリン(Fushun Petrochemical Co.、オレフィン含有量は40%である)に替えたことを除いては、触媒の製造工程及び反応操作は、実施例4と同じである。反応温度は640℃であった。ガソリンの熱力学的関数は各種のペンテンの平均値で計算した。表中のデータから分かるように、この反応条件下で反応生成物におけるエチレン及びプロピレンの収率が44.01%であり、この生成物の分布条件下で分解反応の反応吸熱が361KJ/Kgである。
【0051】
【表6】

【0052】
実施例7
反応温度を610℃にしたこと以外は、実施例6と同じ条件下で実施した。
【0053】
ガソリンの分子ふるい触媒による転化反応結果及び反応熱を表7に示した。ガソリンの熱力学的関数は各種のペンテンの平均値で計算した。表中のデータから分かるように、この反応条件下で反応生成物におけるエチレン及びプロピレンの収率が39.68%であり、この生成物の分布条件下で分解反応の反応吸熱が367KJ/Kgである。
【0054】
【表7】

【0055】
実施例8
メタノールの転化規模が60万トン/年であるメタノールからオレフィンを製造する装置が、毎年平均300日間正常に作業し、毎日のメタノール処理量が2000トンであると設定した。この転化装置は反応−再生流動床プロセスを利用しており、主にメタノール転化反応器及び触媒再生器を含み、再生器からメタノール転化反応器への触媒輸送ルート上に分解吸熱反応器が設けられており、この反応器は流動床方式を採用している。再生後の高温触媒は、先に上記の分解吸熱反応器を通過した後、メタノール転化反応器に導入される。
【0056】
SAPO-34流動触媒(触媒の製作工程は実施例1と同じである)を使用し、触媒の循環量を2000トン/日間とした。再生後の触媒(ストリッピング後(stripping))の温度は650℃であり、メタノール転化反応器に入る前に、触媒の温度を430℃に下げることが必要である。
【0057】
上記の分解吸熱反応器において、ブチレン-2(由来は実施例1と同じ)の接触分解を通じて、再生後の触媒が有する熱を吸収し、触媒の温度を550℃に下降させた。触媒の熱容量は840 J/(Kg・K)であり、降温過程における触媒の放出熱量は1.68×108KJ/日間であった。上記吸熱反応器から出た触媒をメタノール転化反応器に導入する前に、管線に通過させ、熱交換により触媒温度を430℃までに下降させた。熱交換による熱量損失は2.02×108KJ/日であった。管線による放熱損失を制御するために、再生後の触媒を輸送する管線に対する適切な保温が必要である。
【0058】
分解反応器において、ブチレン-2を200℃に予熱して供給し、反応温度は550℃であった。ブチレン-2の熱容量はCp=1456J/(Kg・K)であり、実施例2に基づいて、ブチレン-2の接触分解反応熱値を704 KJ/Kgとした。1トンのブチレン-2の、供給から反応完了までの吸熱量は12.14×105KJ/Kgであり、ブチレン-2のワンススルー(又は1回あたりの)(once-through)転化率は75%である。そうすると、ブチレン-2の供給量が184トン/日間である場合、触媒の温度を650℃から550℃に下降させることができる。
【0059】
上記の反応プロセスにおいて、ブチレン-2の接触分解によって回収できる熱量は、再生後の触媒が持っている熱量の45%であり、回収される熱量はブチレン-2の接触分解に用い、エチレンを37.8トン/日間、プロピレンを76.0トン/日間増産できる。
【0060】
比較例1
メタノールの転化規模が60万トン/年であるメタノールからのオレフィン製造装置が、毎年平均300日間正常に作業し、毎日のメタノール処理量が2000トンであると設定した。該転化装置は、実施例8と類似の反応−再生流動床プロセスを利用しており、主にメタノール転化反応器及び触媒再生器を含むが、分解反応吸熱領域を設けておらず、触媒は輸送ラインを通じて、再生器から直接にメタノール転化反応器に流れる。
【0061】
SAPO-34流動触媒(触媒の製作工程は実施例1と同じである)を使用し、触媒の循環量を2000トン/日間とした。再生後の触媒(ストリッピング後(stripping))の温度は650℃であり、メタノール転化反応器に入る前の触媒温度を430℃までに下降させることが必要である。
【0062】
触媒を、輸送ラインを通過させて完全に放熱させて、430℃までに降温させた。触媒の熱容量は840J/(Kg・K)であり、降温過程において、熱交換による触媒の熱量損失は3.70×108KJ/日であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタノールから低級オレフィンを製造する過程において、再生後の高温触媒から熱を回収する方法であって、
再生後の高温触媒を、まず分解反応吸熱領域に進入させ、その後、メタノール転化反応器に進入させる工程を含み、
前記工程において、炭化水素類を前記分解反応吸熱領域に導入して、前記再生後の高温触媒に接触させて分解反応を行わせ、
前記再生後の高温触媒の温度が500〜800℃であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記触媒が、アルミノ珪酸塩ゼオライト又は/及び燐珪酸塩分子ふるい触媒、及びこれらの元素変性生成物であり、細孔直径が0.3〜0.6nmであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記触媒の基質材料が、酸化珪素、アルミナおよび粘土中から選ばれる1種又は複数種であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
分解反応吸熱領域の温度が400〜700℃であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記触媒の、分解反応吸熱領域の入口と出口との間における温度差が50〜300℃であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
分解反応吸熱領域に導入される前記炭化水素類が、メタノールからオレフィンへの生成反応におけるC4以上の生成物、又は/及びその他のC4- C20の炭化水素類であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
分解反応吸熱領域内に導入される前記炭化水素類が、ナフサ、ガソリン、ガスコンデンセート、ライトディーゼルオイル、水素化テールオイル又は/及び灯油であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記分解反応吸熱領域における前記炭化水素類から生成された生成物を、メタノールから低級オレフィンへの生成により得られた反応生成物と合わせることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記の分解反応吸熱領域が、メタノール転化装置において、独立した反応領域であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記の分解反応吸熱領域が、メタノール転化反応器のライザー段であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2010−501495(P2010−501495A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−524885(P2009−524885)
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【国際出願番号】PCT/CN2007/002537
【国際公開番号】WO2008/025247
【国際公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(503190796)中国科学院大▲連▼化学物理研究所 (6)
【Fターム(参考)】