説明

メタノール直接型燃料電池用の白金/ルテニウム触媒

メタノール直接型燃料電池(DMFC)用の炭素担持PtRuアノード触媒であり、この触媒は、炭素ベースの導電性の担持物質で(触媒の総重量に基づいて)80重量%〜98重量%の範囲、好ましくは85重量%〜98重量%の範囲、特に好ましくは85重量%〜95重量%の範囲の白金/ルテニウム含有量を有し、3nm未満の平均粒径を有する。この触媒は、有機酸を添加して化学的還元剤を使用する還元プロセスによって1000m/g〜2000m/gの範囲の比表面積(BET法で測定)を有するカーボンブラック担持物質を用いて調製される。貴金属の高いローディングを有する本発明に従う触媒を含む電極および膜電極ユニットは、電極の単位面積あたりの一定のPtRuローディング(1cmあたり6mg〜12mgのPtRu)で80μm未満の電極層厚さを有し、メタノール直接型燃料電池において改善された電力をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用の触媒に関し、特に、メタノール直接型燃料電池(DMFC)用の白金/ルテニウムに基づく炭素担持アノード触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料および酸化剤を2つの電極の別の位置で電力、熱および水に変換する。使用される燃料は、水素、メタノールまたは水素が豊富なガスであり、酸化剤は酸素および空気であり得る。燃料電池におけるエネルギー変換プロセスは、汚染物質をほとんど含まず、非常に高い効率を有する。この理由のため、燃料電池は、代替推進概念、国内エネルギー供給プラントおよび携帯用の適用にますます重要になっている。メタノール直接型燃料電池(DMFC)は、燃料のメタノールを直接電力に変換する。その低い作動温度、小型の構成および電力密度のため、DMFCは、特に携帯用の適用に(例えば、アキュムレーターおよびバッテリーの代替品として)適している。
【0003】
PEM燃料電池およびDMFCは、多くの燃料電池ユニットのスタックで構成されている。これらは作動電圧を増大させるために直列に電気的接続される。燃料電池の構造および作動モードに関して、参照が関連文献に対してなされ得る(例えば、非特許文献1)。
【0004】
PEM燃料電池またはDMFCの重要な成分は、膜電極ユニット(Membrane−Electrode−Unit(MEU))である。MEUは、一般的に、5層、すなわち、プロトン伝導膜(ポリマー電極膜またはイオノマー膜)、その膜の側面の2つのガス拡散層(GDLまたは「バッキング」)、および膜とガス拡散層との間に位置する2つの電極層からなる。電極層のうちの1つは、メタノールの酸化用のアノードとして構成され、2つ目の層は酸素の還元用のカソードとして構成される。ガス拡散層(GDL)は、通常は、炭素繊維紙もしくは炭素繊維織物を含み、反応物質が反応層に容易に達するのを可能にし、電池の電流および形成される水を直ちに追い出させる。
【0005】
DMFCにおいて、メタノール(またはメタノール水溶液)は、直接CO、水および電流に変換される。これは「給液(liquid feed)」式と称される。対応する反応は、
アノード: CHOH + HO → CO + 6H + 6e
カソード: 3/2 O + 6H + 6e → 3H
全体の反応: CHOH + 3/2 O → CO + 2H
である。DMFCのアノードおよびカソード用の電極層は、プロトン伝導ポリマーおよびそれぞれの反応(メタノールの酸化または酸素の還元)を触媒する電気触媒からなる。二金属白金/ルテニウム触媒が、好ましくは、アノードで触媒活性成分として使用され、白金触媒は、好ましくは、カソード側で使用される。主に、導電性の炭素ベースの担持物質(例えば、カーボンブラックまたは黒鉛)の表面に触媒活性成分の貴金属が細粒形態で適用された担持触媒が使用される。しかし、Ptおよび/またはPtRu粉末(貴金属ブラックとして公知)も使用可能である。
【0006】
現在DMFCで達成されるピーク電力密度は、実用化のためには低すぎる。したがって、この技術の開発における大きな課題は、電力密度の改善、膜からカソード側へのメタノール輸送(「MeOHクロスオーバー」)の防止、および貴金属を含む触媒(特にアノード側のPtRu触媒)の利用の減少である。
【0007】
本発明は、メタノール直接型燃料電池(DMFC)用のアノード触媒として使用するための高いローディングの(high−loading)担持白金/ルテニウム(PtRu/C)触媒に関する。これらの高いローディングの担持触媒は、電極および膜電極ユニットを製造するために触媒インクの形態で使用され、DMFCの性能において有意な改善をもたらす。
【0008】
カーボンブラックに担持された電気触媒および担持物質に90重量%までのPtRuを有する電気触媒が、非特許文献2に記載されている。これらは、「スルフィト法(sulfito method)」によって調製され、この方法で調製されるこれらの触媒の粒径は、約6nmである(XRDによって測定される)。
【0009】
特許文献1は、カーボンブラック担持物質で10重量%〜80重量%のPtRu含有量を有するPtRu触媒を記載し、一方特許文献2および特許文献3は、10重量%〜40重量%または10重量%〜50重量%(いずれの場合も触媒の総重量に基づいて)のPtRu含有量を有するPtRu電気触媒を開示する。
【0010】
さらに、特許文献4は、10重量%〜80重量%の貴金属含有量を有し、PEM燃料電池で使用されるPtRu触媒を調製するためのプロセスを開示する。
【0011】
当業者は、高い貴金属含有量(すなわち、触媒の総重量に基づいて60重量%を上回る含有量)が、触媒粒子の粗大化をもたらし、それゆえ触媒活性触媒表面積がより小さくなることを理解する。さらに、カーボンブラック担持体での貴金属粒子の粗雑で不均一な分布が得られ、触媒の利用の低下が生じる。これらすべての因子は、最終的に、燃料電池の電力に悪影響を有する。従来の方法によって調製された担持触媒は、一般的に、PtRuの60重量%を超える貴金属含有量で比較的粗大な粒子(すなわち、XRDで測定して3nmをはるかに上回る平均粒径を有する粒子)を有し、それゆえ、示される不利益を被る。
【特許文献1】欧州特許第952241号明細書
【特許文献2】欧州特許第880188号明細書
【特許文献3】欧州特許第924784号明細書
【特許文献4】欧州特許第1260269号明細書
【非特許文献1】K.Kordesch,G.Simader,「Fuel Cells and its Applications」,VCH−Verlag Chemie,Weinheim 1996
【非特許文献2】K.A.Friendrichら、「Journal of Electroanal. Chemistry」,(2002),Volume 524−525,261−272頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の1つの目的は、その貴金属含有量が多いにもかかわらず3nm未満の平均粒径(XRDで測定される)を有する、炭素ベースの担持物質で高いローディングのPtRu/C触媒を提供することであった。
【0013】
その触媒は同時に、大きい触媒活性貴金属表面積(「分散」)を有し、メタノールの陽極酸化において非常に良好な性能を示し、したがって以前の担持PtRu触媒系および非担持PtRu触媒系の不利な点を克服するはずである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は、請求項1に記載されるPtRu/C担持触媒の提供によって達成される。有利な実施形態そしてまた本発明の触媒を調製するためのプロセスは、従属する請求項に記載される。さらなる請求項は、本発明の触媒を含む電極、およびそれとともに製造される膜電極ユニット(MEU)に関する。
【0015】
本出願人による先の特許出願(EP 1 260 269 A1)では、10重量%〜80重量%の貴金属含有量を有するPtRu/C触媒を調製するためのプロセスが記載されている。焼成後のこのPtRu粒子の平均粒径は、5.7nm(40重量% PtRu/Cについて、実施例1)および6.7nm(60重量% PtRu/Cについて、実施例2)である。約250m/gの比表面積(BET法で測定される)を有する担持体カーボンブラックがここでは使用される。
【0016】
ここで驚くべきことに、80重量%〜98重量%の範囲、好ましくは85重量%〜98重量%の範囲、特に好ましくは85重量%〜95重量%の範囲の貴金属含有量を有し、同時に3nm未満の平均粒径を有する高いローディングの担持PtRu触媒もまた、EP 1 260 269 A1に記載されるプロセスに基づいて入手可能であることが見出された。これらの触媒は、DMFC用のアノード触媒として非常に良好な特性を示す。
【0017】
この目的のために、EP 1 260 269 A1のプロセスは、1000m/g〜2000m/gの範囲、好ましくは1200m/g〜1600m/gの範囲のBET表面積を有する導電性のカーボンブラックを用いて行われなければならない。好ましい炭素ベースの導電性担持物質は、カーボンブラック、ファーネスブラック、黒鉛化カーボンブラック、黒鉛、活性炭、カーボンナノ粒子、カーボンナノチューブ、炭素繊維およびこれらの物質の混合物または組み合わせである。特に好ましいカーボンブラックは、Akzo(Amersfoort,The Netherlands)からの「Ketjenblack」またはCabot(Billerica,MA,USA)からの「Black Pearls」である。1000m/g未満のBET表面積を有するカーボンブラックは、望ましい小さい貴金属粒径をもたらさず、使用に適さない。
【0018】
本発明の白金/ルテニウム触媒を調製するために、担持物質は水中に懸濁される。次いで、この懸濁液は、継続的に攪拌しながら70℃〜90℃に加熱される。望ましい温度に達した後、ヘキサクロロ白金酸(IV)および塩化ルテニウム(III)の水溶液が、貴金属での担持物質の望ましいローディングに相当する量で、この懸濁液に添加される。その後、ヘキサクロロ白金酸(IV)および塩化ルテニウム(III)がやや溶けにくい貴金属化合物の形態で沈殿するように、アルカリ金属水酸化物の添加によってこの懸濁液のpHが6.5〜10の範囲の値に増大される。次いで、1以上の有機カルボン酸および/またはそれらの塩がこの懸濁液に添加される。その後、沈殿した貴金属化合物は、化学的手段によって還元される。このようにして形成された触媒は、塩化物がなくなるまで洗浄、乾燥され、適切な場合、その後、不活性雰囲気もしくは還元雰囲気下、300℃〜1000℃の範囲の温度で焼成される。
【0019】
担持物質、ヘキサクロロ白金酸(IV)および塩化ルテニウム(III)の懸濁液は強酸性である。アルカリ金属水酸化物(好ましくは、水酸化ナトリウム)の添加は、貴金属化合物を生じ、これは加水分解され、やや溶けにくい水酸化物化合物の形態で沈殿し、担持物質に蒸着される。還元剤(例えば、ホルムアルデヒドまたはヒドラジン)の添加は、沈殿した貴金属化合物の化学的還元をもたらす。この還元の質は、還元剤を添加する前に1以上の無機カルボン酸またはそれらの塩をその懸濁液に添加することによって有意に改善される。観察されるポジティブな効果を及ぼす適切なカルボン酸は、すべての脂肪族カルボン酸および芳香族カルボン酸であり、例えば、酒石酸、フタル酸、酢酸、クエン酸およびそれらのアルカリ金属塩である。
【0020】
使用される還元剤は、通例の化学的還元剤(例えば、ホルムアルデヒド、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウムまたは同等の化合物)である。
【0021】
本発明の触媒中の白金:ルテニウムの原子比率は、代表的に、4:1〜1:4の範囲、好ましくは2:1〜1:2の範囲である。貴金属の白金およびルテニウムは、合金形態、好ましくは合金形態かまたは非合金形態(すなわち二金属、混合物)で存在し得る。調製条件の選択に依存して、貴金属は、酸化形態で存在し得、そして/またはさまざまな量の表面酸化物(Pt酸化物、Ru酸化物)を含み得る。
【0022】
触媒の高い触媒効果を達成する上で重要な因子は、PtRuの80重量%〜98重量%、好ましくは85重量%〜98重量%、特に好ましくはPtRuの85重量%〜95重量%の範囲での、その触媒の高い貴金属ローディング(すなわち、その触媒の高い貴金属含有量)と同時に、貴金属粒子が3nm未満の平均粒径(XRD)を有することである。
【0023】
本発明の電気触媒の分散の程度のパラメータとして、その電気触媒の比表面積(BET)が決定される。高いローディングの電気触媒の場合、比表面積の値がその貴金属粒子の表面積についての良好な指標であることが見出された。なぜなら、カーボンブラック担持物質の表面は、その貴金属粒子によってほぼ完全に被覆されるからである。通常、本発明の電気触媒の比表面積(BET)値は、100m/g〜160m/gの範囲、好ましくは105m/g〜150m/gの範囲であり、したがって、大きい触媒活性貴金属表面積(「分散」)を示す。
【0024】
炭素ベースの担持物質および本発明にしたがって調製される電気触媒の比表面積の測定は、DIN 66 132にしたがってBET標準方法によって行われる。
【0025】
平均粒径の決定は、X線回折(XRD)によって行われる。粉末回折計の場合、Stoe Co.,Darmstadt(Germany)からの機器が使用され、銅Kα線が利用される。計算は、Scherrer式によって行われる。
【0026】
電極層の層厚さの決定は、光切断顕微鏡によって、研磨された切片の顕微鏡写真の評価によって、またはマイクロメーターネジの助けにより、いずれの場合も層を乾燥させた後に行われる。
【0027】
特に薄く均質であると同時に1単位面積あたりの貴金属のローディング(loading)(すなわち、電極面積1cmあたりのPtRuのmg)が高い電極層は、高いローディングの担持PtRu/C触媒の使用によって製造され得る。そのような薄いと同時に高い触媒濃度を有する層は、DMFCのアノードにおいて質量移動損失が減少し、電気損失がより小さい。それゆえ、本発明のPtRu触媒は、DMFCの電力においてさらに有意な増加をもたらす。
【0028】
したがって、例えば、95重量% PtRu/C触媒の場合、アノード触媒層の厚さは65μmのあたりであるが、アノードの触媒濃度(すなわち、単位面積あたりのPtRuローディング)は、約8.6mg PtRu/cmの高い領域にある。
【0029】
したがって、本発明の高いローディングのPtRu/C触媒の提供は、薄く均質でそれゆえ非常に有効な触媒層を製造することを可能にする。80μm未満の厚さおよび高い貴金属ローディングを有する層はまた、従来のPtRuブラックを用いて製造され得るが、これらの層と比較して、本発明の触媒を用いて製造される層は、粗さは小さく均質性がより高いという利点を有する。その凝集した粒子のため、PtRuブラックは、非常に粗く不均一な層を形成する傾向がある。
【0030】
本発明の高いローディングのPtRu/C触媒は、本質的にEP 1 260 269 A1に記載されるプロセスにしたがって製造される。変更および改変は以下の実施例で示される。
【0031】
電極層は、従来のコーティング法(例えば、スクリーンプリンティング)の助けの下で触媒インクを用いて製造される。本出願人の先の特許出願または特許(例えば、DE 103 25 324.6、EP 1 176 652、EP 1 037 295)は、参考として本明細書に援用される。
【0032】
以下の実施例は本発明を例示する。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
(PtRu/C電気触媒(ローディング:90重量% PtRu/C))
1250mlの脱イオン水を、3000mlのガラスビーカーに入れる。次いで、2.3gのカーボンブラック(Black Pearls 2000、比表面積(BET):1500mg/g;Cabot,USA)を添加し、この懸濁液を30分間攪拌し、80℃に加熱する。25%濃度のヘキサクロロ白金酸(IV)水溶液(39.8g)および22%濃度の塩化ルテニウム(III)水溶液(46.9g)をガラスビーカー中で混ぜ合わせ、500ml滴下漏斗に移し、375mlに希釈する。この貴金属溶液を、カーボンブラック懸濁液に、攪拌しながら20分間かけて添加する。その後、この溶液を、10%濃度のNaOHによってpH7に設定する。次いで、0.1モルのフタル酸水素カリウム溶液(400ml)を添加する。次いで、pHを4.8にする。次いで、24%濃度のヒドラジン溶液(63ml)を約3分間かけて添加し、この混合物を80℃でさらに30分間攪拌する。この懸濁液を熱濾過し、固体を800mlの脱イオン水で洗浄する。このフィルターケーク(filtercake)を65℃で一晩、真空乾燥オーブンで乾燥させる。これにより、以下の特性を有する28.6gの触媒を得る:
組成: 90重量%のPtRu、
10重量%のカーボンブラック
Pt/Ru原子比率: 1:1
平均粒径(XRD): <2nm
触媒表面積(BET): 143m/g。
【0034】
このようにして調製されるPtRu/C担持触媒を、インクを得るためにNafion(登録商標)(水中で10%、DuPont、USA)の溶液の添加により加工し、アノードガス拡散層(SGL−Sigracet 30,SGL,Meitingen;形式:7.5×7.5cm)に何度も適用する。このインクを、各々のコーティング工程の間に乾燥(条件:80℃、10分)させる。単位面積あたりの貴金属のローディングは、1cmあたり9.8mgのPtRuである。この触媒層の層厚さは、約80μmである。アノードをさらに、Nafion(登録商標)115膜(DuPontから)およびカソード電極(単位面積あたりのPtローディング:1cmあたり1.5mgのPt)を用いて加工してMEUを製造し、DMFC試験スタンドで試験する。
(試験条件): 電池形式:50cm、電池温度:70℃、1M MeOH溶液、フロー:3ml/分;カソード:空気、化学量論:2.5。
(結果): 428mVの電池電圧が、電流密度250mA/cmで得られる。これは、107mW/cmの非常に良好なピーク電力密度に相当する。
【0035】
(実施例2)
(PtRu/C電気触媒(ローディング:90重量% PtRu/C))
1250mlの脱イオン水を、3000mlのガラスビーカーに入れる。次いで、2.3gのカーボンブラック(Ketjenblack EC 600、比表面積(BET):1270m/g;AKZO−Nobel、Amersfoort,The Netherlands)を添加し、この懸濁液を30分間攪拌し、80℃に加熱する。25%濃度のヘキサクロロ白金酸(IV)水溶液(39.8g)および21.15%濃度の塩化ルテニウム(III)水溶液(48.7g)をガラスビーカー中で混ぜ合わせ、500mlの滴下漏斗に移し、375mlに希釈する。この貴金属溶液をカーボンブラック懸濁液に、攪拌しながら20分間かけて添加する。その後、この溶液を、10%濃度のNaOHの添加によってpH7に設定する。次いで、0.1モルのフタル酸水素カリウム溶液(338ml)を添加する。次いで、pHを4.8にする。次いで、24%濃度のヒドラジン溶液(63ml)を約3分間かけて添加し、この混合物を80℃でさらに30分間攪拌する。この懸濁液を熱濾過し、固体を800mlの脱イオン水で洗浄する。このフィルターケークを65℃で一晩、真空乾燥オーブンで乾燥させる。これにより、以下の特性を有する28.6gの触媒を得る:
組成: 90重量%のPtRu、
10重量%のカーボンブラック
Pt/Ru原子比率: 1:2
平均粒径(XRD): 2.2nm
触媒表面積(BET): 134m/g。
この触媒は、DMFCで非常に良好なピーク電力密度を示す。
【0036】
(実施例3)
(PtRu/C電気触媒(ローディング:95重量% PtRu/C))
1250mlの脱イオン水を、3000mlのガラスビーカーに入れる。次いで、1.15gのカーボンブラック(Black Pearls 2000、比表面積(BET):1500m/g;Cabot,USA)を添加し、この懸濁液を30分間攪拌し、80℃に加熱する。25%濃度のヘキサクロロ白金酸(IV)水溶液(56.3g)および22%濃度の塩化ルテニウム(III)水溶液(33.2g)をガラスビーカー中で混ぜ合わせ、500mlの滴下漏斗に移し、375mlに希釈する。この貴金属溶液を、カーボンブラック溶液に、攪拌しながら20分間かけて添加する。その後、この溶液を、10%濃度のNaOHの添加によってpH7に設定する。次いで、0.1モルのフタル酸水素カリウム溶液(400ml)を添加する。次いで、pHを4.8にする。次いで、24%濃度のヒドラジン溶液(63ml)を約3分間かけて添加し、この混合物を80℃でさらに30分間攪拌する。この懸濁液を熱濾過し、800mlの脱イオン水で洗浄する。このフィルターケークを65℃で一晩、真空乾燥オーブンで乾燥させる。これにより、以下の特性を有する27.4gの触媒を得る:
組成: 95重量%のPtRu、
5重量%のカーボンブラック
Pt/Ru原子比率: 1:1
平均粒径(XRD): 2.5nm
触媒表面積(BET): 107m/g。
このようにして調製されるPtRu/C担持触媒を、インクを得るためにNafion(登録商標)(水中で10%、DuPont)の溶液の添加により加工し、スクリーンプリンティングによってアノードガス拡散層(Sigracet 30,SGL,Meitingen;形式:7.5×7.5cm)に何度も適用する。このインクを、各々のプリンティング工程の間に乾燥(条件:80℃、10分)させる。単位面積あたりの貴金属のローディングは、最終的に、1cmあたり6.4mgのPtRuである。この触媒層の層厚さは、65μmである。このアノードをさらに、Nafion(登録商標)115膜(DuPontから)およびカソード電極(単位面積あたりのPtローディング:1cmあたり1.5mgのPt)を用いて加工してMEUを製造し、DMFC試験スタンドで試験する。
(試験条件): 電池形式:50cm、電池温度:70℃、1M MeOH溶液、フロー:3ml/分;カソード:空気、化学量論:2.5。
(結果): 421.5mVの電池電圧が、電流密度250mA/cmで得られる。これは、105.4mW/cmの非常に良好なピーク電力密度に相当する。
【0037】
(比較実施例1(CE1))
(PtRu/C電気触媒(ローディング:60重量% PtRu/C、先行技術))
このPtRu電気触媒の調製は、実施例1に記載されるように行われる。使用されるカーボンブラックは、Vulcan XC 72(BET表面積:250m/g、Cabot Inc.,USA)であり、対応するカーボンブラックの比率を増大させる。9gのカーボンブラック(Vulcan XC 72)を使用する。さらに、25%濃度のヘキサクロロ白金酸(IV)水溶液(53.4g)および22%濃度の塩化ルテニウム(III)水溶液(31.4g)を使用する。他のプロセス工程は、実施例1に記載されている。
組成: 60重量%のPtRu、
40重量%のカーボンブラック
Pt/Ru原子比率: 1:1
平均粒径(XRD): 4.1nm
触媒表面積(BET): 95.5m/g。
このようにして調製されるPtRu/C担持触媒を、インクを得るためにNafion(登録商標)の溶液の添加により加工し、アノードガス拡散層(GDLタイプSGL−Sigracet 30、形式:7.5×7.5cm)に何度も適用する。このインクを、コーティング工程の後に乾燥させる。単位面積あたりのPtRuローディングは、約1cmあたり2.25mgのPtRuである。このアノード層の層厚さは、約60μmである。このアノードをさらに、Nafion(登録商標)115膜およびカソード電極(単位面積あたりのPtローディング:1cmあたり1.5mgのPt)を用いて加工してMEUを製造し、DMFC試験スタンドで試験する。
(試験条件): 電池形式:50cm、電池温度:70℃、1M MeOH溶液、フロー:3ml/分;カソード:空気、化学量論:2.5。
(結果): 270mVの電池電圧が、電流密度250mA/cmで得られる。これは、70mW/cmのピーク電力密度に相当し、これは、本発明の触媒を用いて得られるピーク電力密度を有意に下回る。
【0038】
(比較実施例2(CE2))
(白金−ルテニウムブラック(非担持、先行技術))
非担持のPtRuブラックを、実施例1に記載されるように(ただし、担持物質としてのカーボンブラックの添加を省略する)調製する。1250mlの脱イオン水を、3000mlのガラスビーカーに入れ、80℃に加熱する。PtおよびRuを含む貴金属溶液を、攪拌しながら20分間かけて添加し、その後、10%濃度のNaOHによってpH7に設定する。次いで、0.1モルのフタル酸水素カリウム溶液(398ml)を添加する。次いで、pHを4.8にする。次いで、24%濃度のヒドラジン溶液(63ml)を約3分間かけて添加し、この混合物を80℃でさらに30分間攪拌する。この懸濁液を熱濾過し、固体を800mlの脱イオン水で洗浄する。このフィルターケークを65℃で一晩、真空乾燥オーブンで乾燥させる。これにより、以下の特性を有する28.4gの白金−ルテニウムブラックを得る:
組成: 約100重量%のPtRu
Pt/Ru原子比率: 1:1
粒径(XRD): 4.5nm
触媒表面積(BET): 64m/g。
このようにして調製されるPtRuブラックを、インクを得るためにNafion(登録商標)の溶液の添加により加工し、アノードガス拡散層(GDLタイプSGL−Sigracet 30、形式:7.5×7.5cm)に何度も適用する。その後、このインクを乾燥させる。単位面積あたりの貴金属のローディングは、1cmあたり7.75mgのPtRuである。この触媒層は粗く不均一である。このアノードをさらに、Nafion(登録商標)115膜およびカソード電極(単位面積あたりのPtローディング:1cmあたり1.5mgのPt)を用いて加工してMEUを製造し、DMFC試験スタンドで試験する。
(試験条件): 電池形式:50cm、電池温度:70℃、1M MeOH溶液、フロー:3ml/分;カソード:空気、化学量論:2.5。
(結果): 319.5mVの電池電圧が、電流密度250mA/cmで得られる。これは、79.9mW/cmのピーク電力密度に相当し、これは、本発明の触媒を用いて得られるピーク電力密度を有意に下回る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタノール直接型燃料電池におけるメタノールのアノード酸化用の白金/ルテニウム触媒であって、白金/ルテニウム含有量が、該触媒の総重量に基づいて、炭素ベースの担持物質で80重量%〜98重量%の範囲であり、該貴金属粒子の平均粒径が、XRD法で測定して、3nm未満である、白金/ルテニウム触媒。
【請求項2】
前記白金/ルテニウム含有量が、前記触媒の総重量に基づいて、炭素ベースの担持物質で85重量%〜98重量%である、請求項1に記載の白金/ルテニウム触媒。
【請求項3】
前記白金/ルテニウム含有量が、前記触媒の総重量に基づいて、炭素ベースの担持物質で85重量%〜95重量%である、請求項1に記載の白金/ルテニウム触媒。
【請求項4】
前記炭素ベースの担持物質が導電性であり、カーボンブラック、ファーネスブラック、黒鉛化カーボンブラック、黒鉛、活性炭、カーボンナノ粒子、あるいはこれらの物質の混合物または組み合わせを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の白金/ルテニウム触媒。
【請求項5】
BET法で測定される前記炭素ベースの担持物質の比表面積が、1000m/g〜2000m/gの範囲、好ましくは1200m/g〜1600m/gの範囲である、請求項1〜4のいずれかに記載の白金/ルテニウム触媒。
【請求項6】
BET法で測定される前記触媒の比表面積が、100m/g〜160m/gの範囲、好ましくは105m/g〜150m/gの範囲である、請求項1〜5のいずれかに記載の白金/ルテニウム触媒。
【請求項7】
白金:ルテニウムの原子比率が、4:1〜1:4の範囲、好ましくは2:1〜1:2の範囲である、請求項1〜6のいずれかに記載の白金/ルテニウム触媒。
【請求項8】
前記貴金属白金および/またはルテニウムが、合金形態、部分的に合金形態、非合金形態、酸化形態または部分的に酸化形態で存在する、請求項1〜7のいずれかに記載の白金/ルテニウム触媒。
【請求項9】
請求項1に記載の白金/ルテニウム触媒を調製するためのプロセスであって、該プロセスにおいて、前記炭素ベースの担持物質が水中に懸濁され、該懸濁液が継続的に攪拌されながら沸点まで加熱され、次いでヘキサクロロ白金酸(IV)および塩化ルテニウム(III)の溶液が同じ温度で攪拌され続けながら該懸濁液に導入され、その後アルカリ金属水酸化物の添加によって該懸濁液のpHが6.5〜10の範囲の値に増大されて、ヘキサクロロ白金酸(IV)および塩化ルテニウム(III)がやや溶けにくい貴金属化合物の形態で沈殿し、次いで1以上の有機カルボン酸および/またはそれらの塩が該懸濁液に添加され、該沈殿した貴金属化合物が還元剤の添加によって化学的に還元され、そしてこのようにして形成された触媒は、洗浄、乾燥され、適切な場合、不活性雰囲気または還元雰囲気下で300℃〜1000℃の温度で焼成され、該炭素ベースの担持物質が、BET法で測定して1000m/g〜2000m/gの範囲、好ましくは1200m/g〜1600m/gの範囲の比表面積を有する、プロセス。
【請求項10】
前記有機カルボン酸が、酒石酸、フタル酸、酢酸、クエン酸および/またはそれらのアルカリ金属塩のような脂肪族カルボン酸あるいは芳香族カルボン酸を含む、請求項9に記載の白金/ルテニウム触媒を調製するためのプロセス。
【請求項11】
前記化学的還元が、ホルムアルデヒド、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウムまたは同等の還元剤の添加によって達成される、請求項9に記載の白金/ルテニウム触媒を調製するためのプロセス。
【請求項12】
メタノール直接型燃料電池におけるメタノールのアノード酸化用の電極であって、該電極は、白金/ルテニウム触媒を含み、該白金/ルテニウム触媒は、該触媒の総重量に基づいて、炭素ベースの担持物質で80重量%〜98重量%の範囲の白金/ルテニウム含有量を有し、電極層の単位面積あたりのPtRuローディングが、1cmあたり6mg〜12mgのPtRuであり、乾燥後の該電極層の層厚さが80μm未満である、電極。
【請求項13】
請求項12に記載の電極を備えるメタノール直接型燃料電池用の膜電極ユニット。
【請求項14】
燃料電池用、特にメタノール直接型燃料電池用の電極および膜電極ユニットの製造のための、請求項1〜8のいずれかに記載の白金/ルテニウム触媒の使用。

【公表番号】特表2008−511098(P2008−511098A)
【公表日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−526368(P2007−526368)
【出願日】平成17年8月13日(2005.8.13)
【国際出願番号】PCT/EP2005/008827
【国際公開番号】WO2006/018257
【国際公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(505446895)ユミコア アクチェンゲゼルシャフト ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (13)
【Fターム(参考)】