説明

メタルガスケット

【課題】低締付け力で高シール性を得ることができ、しかも、一定の締め付け荷重を加えた場合の変形量が大きいことにより、手作業でボルト締めを行った場合であってもボルト締め付けの管理を行うことが可能であるとともに、相手側のフランジ面に傷を付ける虞もないメタルガスケットを提供する。
【解決手段】周方向の開口により断面略C字状に形成された外環12と、この外環12の内側に嵌合状態で配置される内環14と、から構成されるメタルガスケット10であって、内環14が例えば、断面四角形の多角形体から構成されているともに、この内環14における互いに対向する一対の角部が、外環12における開口を挟んで両側の内周面にそれぞれ配置されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力分野、半導体分野などにおける各種配管、機械設備など高温高圧、真空などの過酷な条件でシール部材として用いられるメタルガスケットに関し、特に低い締め付け力でシール性が良好なメタルガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
高真空用途のように透過漏洩を許容できない高いシール性能や、脱ガスのベーキング処理などへの耐熱性が要求される用途においては、ゴムやエラストマーなどからなる素材より、それらの特性に優れた軟質金属材料からなるメタルガスケットが一般的に用いられている。
【0003】
このようにメタルガスケットを用いて安定したシール性を確保するには、ゴムやエラストマーの場合に比べて締め付け力を非常に大きくしなければならない。その結果、メタルガスケットを用いる場合は、締付作業の負担やフランジやボルトなどの締結体が大型化してしまうのが通常である。
【0004】
また、Oリング形状のガスケットすなわちシート形状ではないガスケットの場合は、装着時にガスケット装着溝に締切りの状態で使用することが一般的であるが、Oリング形状でゴム製あるいはエラストマー製のガスケットの場合は、低い締め付け荷重で大きく変形するので、ボルトを段階的に締め付けていくと、ガスケットを締め付けているときには簡単にボルトが回って締め付けていくことができる。一方、ボルトの溝締め切り状態になると、直ちにボルトが回らなくなる。あるいはほとんど回らなくなる。
【0005】
よって、Oリング形状でゴム製あるいはエラストマー製のガスケットの場合は、手作業でもボルトの締め付け管理を行なうことが容易であった。
これに対し、金属製でOリング形状のガスケットの場合は、変形させるために元来大きな力が必要であるため、ボルトの溝締切り状態になった瞬間の変化が分かり難い。そのため、手作業でのボルト締め付けの管理が行い難いという問題があった。
【0006】
なお、金属製でOリング形状のガスケットとして、メタル中空Oリングやばね入りメタルCリングなども知られている。しかしながら、メタル中空Oリングやばね入りメタルCリングの場合であっても、ボルトの溝締切り状態になった瞬間の変化が分かり難く、手作業のボルト締め付けの管理を行うことは困難であった。また、これらメタル中空Oリングやばね入りメタルCリングなどの場合は、「O」や「C」など全体形状を規定する部分の肉厚や寸法を変更したりすることで変形し易くすることができる。さらに、ばね入りCリングの場合は、内蔵されるばねの太さなどを適宜変更することで、変形し易くしたりすることはできる。しかしながら、ばねの太さなどを変更すれば、反力もしくはシール面の応力も損なわれることから、シール性能が損なわれてしまうという問題があった。
【0007】
メタル中空Oリングやばね入りメタルCリングにおいて、シール性能を向上させるために、様々な提案が成されている。
例えば、メタルガスケットのシール面に軟質な層(金属メッキ、ゴムコーティングなど)を設けたり、あるいはメタルガスケットのシール面に応力集中を生じさせる形状を採用したりすることが行われている。すなわち、特許文献1では、シール面に突出部を、特許文献2では、シール面に凹溝を設けて、応力集中が生じる形状としている。
【0008】
しかしながら、このような改善案であっても、未だ低い締め付け力で十分なシール性能
を発揮することは十分でなかった。
また特に、特許文献1,2のように、シール面を応力集中が生じる形状とすると、その形状により相手側のフランジ面に傷が残り易く、結果として、フランジの再使用に問題が生じる場合があった。また、応力集中部が凸形状となるため、傷がつき易く、取扱いの際に特に注意が必要になるなどの問題があった。
【特許文献1】特開平2−113171号
【特許文献2】特開平9−264427号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような従来の実情に鑑み、低い締付け力で高シール性を得ることができ、しかも、手作業でボルト締めを行った場合であってもボルト締め付けの管理を行うことが容易であり、さらには相手側のフランジ面に傷を付ける虞もないメタルガスケットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係るメタルガスケットは、
周方向の開口により断面略C字状に形成された外環と、この外環の内側に嵌合状態で配置される内環と、から構成されるメタルガスケットであって、
前記内環が断面多角形体から構成されているともに、この内環における互いに対向する一対の角部が、前記外環における前記開口を挟んで両側の内周面にそれぞれ配置されていることを特徴としている。
【0011】
このような構成のメタルガスケットによれば、内環の角部が外環に当接して部分的に強く押圧されるとともに、他の部分は緩やかに外環に当接するので、シール力を得るための全体の締め付け力は低くて良い。
【0012】
ここで、本発明では、前記内環は断面四角形体であることが好ましい。
このような構成であれば、簡単な構成の内環によりシール性能を高くすることができる。
【0013】
さらに、本発明では、前記内環前記多角形体の頂部は円弧状に形成されていることが好ましい。
このような構成であれば、内環の外環に対する密着性が良好であるので、シール性能を良好に維持することができるともに、内環の周方向への移動を防止することもできる。
【0014】
また、頂部が鋭角であれば過度に応力集中が起こり、それにより外環の破壊や相手フランジのシール面へ窪み発生などのダメージを与えてしまう虞があるが、頂部が円弧状であれば、それらを抑制することができる。
【0015】
さらに、本発明では、前記内環を構成する金属が、前記外環を構成する金属より硬質の金属から形成されていることが好ましい。
このように内環が外環より硬質であれば、高硬度の内環が低硬度の内環を外側に押圧するとともに、低硬度の外環による相手部材に対するなじみ性が良好であるため、シール性も良好である。
【0016】
また、前記外環の少なくとも外周側表面に、軟質層を設けることもできる。ここで、軟質層としては、樹脂あるいは適宜なゴム、さらには軟質金属によるメッキ層であっても良い。
【0017】
このように外環の少なくとも外周側表面に軟質層を設けた場合であっても、相手部材に対するなじみ性を良好に維持することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るメタルガスケットによれば、従来のメタルガスケットに比べて同等のシール性を得るために必要な全体としての締め付け荷重は低くなるとともに、一定荷重を加えた場合の変形量は大きくなるので、低い締め付け力で十分なシール性を確保することができるとともに、手作業によるボルト締めを行ったときに、ボルトの溝締切りになった瞬間にボルトがほとんど回らなくなるので、手作業によるボルト締め付けの管理を行うことが容易である。
【0019】
さらに、外環の外周面は突出した部分が存在しない曲面であるので、相手側のフランジ面に傷を付けてしまう虞がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係るメタルガスケットについて説明する。
図1は、本発明の一実施例によるメタルガスケットを示した半断面図である。
図1に示したように、メタルガスケット10は、断面略C字状の外環12と、断面略四角形状の中空の内環14とから構成されている。
【0021】
ここで、内環14を構成する金属は、外環を12構成する金属より硬質の金属から形成されていることが好ましい。
例えば、外環12は、いわゆる軟質金属と称されるアルミニウム、内環14は、アルミニウムより硬質の金属、例えばステンレスなどから形成されていることが好ましい。
【0022】
すなわち、本実施例のメタルガスケット10では、シール面に配置される外環12が内環14より低硬度であり、これにより外環12が変形し易く形成されている。また外環12は、図2に示したように、リング状でかつ平板状に打ち抜かれたアルミニウム板12’を予め用意し、このアルミニウム板12’をパイプ状にくせ巻きすることで形成されている。
【0023】
一方、内環14は、例えば、断面四角形体の角筒パイプなどが用意され、この角筒パイプが環状に引き回された後、両端部を溶接することで形成されている。また、この角筒パイプからなる内環14は、一対の角部14a、14bを軸方向(上下方向)に、他の一対の角部14c、14dを水平方向(径方向)に配置した状態で環状に引き回すことにより図1のように形成されている。したがって、先ず、環状の内環14を作成した後、その内環14の外方を覆う態様で、上記外環12をくせ巻きすれば、図1に示したように、内環14と外環12とからなるメタルガスケット10を形成することができる。なお、外環12と内環14の作成方法、組み付け方法は、上記実施例に何ら限定されない。
【0024】
本実施例によれば、内環14における一対の角部14a、14bが、外環12の開口12cの両側内周面に配置されるので、外環12を内側から強く押圧することができる。これにより、内環14は弾性要素として機能され、かつ外環12は、シール要素として機能される。
【0025】
このようなメタルガスケット10は、図3に示したように、例えば、半導体製造に使用された配管20、21の継ぎ手部分のフランジ面22に介装され、ボルト24などで締め付けられる。なお、メタルガスケット10を構成する外環12のシール性を高めるために、外環12の表面に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミドなどのコーティングや、銀、ニッケル、銅などのメッキを施すことも可能である。
【0026】
このように構成されるメタルガスケット10の締め付けについて、以下に説明する。
本発明のメタルガスケット10では、図3に示したように、シールすべき部材20、21のフランジ面22に、ガスケット10を介在させて、ボルト24などによって所定の締め付け力を付与すると、先ず、外環12の外周面が圧縮される。このとき、外環12は、内環14の一対の角部14a、14bが当たる部分は変形し難いが、他の部分では、適宜な圧縮力を受けて、徐々にフランジ面22になじむようになる。これにより、シール性が確保される。また、外環14が軟質金属から形成され、この外環14の内周面が一対の角部14a、14bで圧接される構造であるため、全体の締め付け力を低く抑えた状態でシール性能を維持することができる。
【0027】
このとき、外環12は、内周面が一対の角部14a、14bで圧接される構造であるため、この部位に応力が集中し、全体の締め付け力を低く抑えた状態でフランジ面とのなじみを得ることができシール性能を維持することができる。
【0028】
また、本実施例では、ボルト締めを手動で行ったとしても、ボルトの溝締切りになった瞬間にボルトが殆ど回らなくなる。これにより、そのボルト締め管理を手動で行うことができる。
【0029】
さらに、メタルガスケット10の圧縮時において、外環12では、内環14の一対の角部14a、14bが当たらない部分では変形しやすい。
一方、内環14では、その内環14が圧縮と共にガスケット10の径方向(断面図の横方向)に広がっていくため、変形しやすく、また変形時には上下方向(圧縮方向)への反力が保たれるので、ガスケット10を低い荷重で大きく変形させることができる。よって、ボルト締めを手動で行った場合に、締め付け時には、ボルトを簡単に回すことができ、締め切りまで到達すれば、ボルトが回らなくなるのでボルト締め管理が容易である。
【0030】
このように、本発明に係るメタルガスケットでは、Oリング形状のメタルガスケットであっても、全体としての締め付け力を低く抑えた状態で、シール性を確保することができるとともに、ボルトの溝締切りになれば直ちにボルトが回らなくなるので手動操作によるボルト締め管理を容易に行うことができる。
【0031】
以上、本発明の一実施例によるメタルガスケットについて説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されない。
例えば、外環12は、単一の金属ではなく合金であっても良い。また、シール面を構成する外環12の外側表面に、樹脂やゴムなどによるコーティングあるいはメッキなどにより、軟質層を設けても良い。ここに、軟質層を別途設ける場合、材質は条件に合わせて適宜選択することができる。
【0032】
このように、外環12の外側表面に適宜な軟質層を設ければ、ガスケットによるシール性を向上させることができる。また外環12の表面に、軟質層を設ける場合、外環12の外側全体でなく少なくとも外周側表面に形成されていれば良い。しかしながら、作業性を考慮すれば、外側全体に軟質層を設けることが実際的である。
【0033】
また、上記実施例では、内環14は、断面四角形に形成されているが、この内環14は、多角形体であれば、四角形体に限定されず、例えば、断面六角形体であっても良い。要は外環12の中央開口を挟んで両側の対称位置を略均等に押圧する形状であれば良い。
【0034】
このような本発明のメタルガスケットは、超真空フランジ、真空機器、蒸着装置、スパッタリング装置、CVD装置、各種真空ポンプなど高温、高圧、真空、低温などの過酷な
条件下において広範に用いることが可能である。
【0035】
また、図1に示したように、外環14が例えば、四角形体である場合に、一対の角部14a、14bの外面頂部は、円弧状、特には外環12の内周面に密接する大きさの径で形成されていることが好ましい。このように、外環14の内周と同様の径で形成されていれば、内環14が密接に摺接するので、外環12が内環14によって変形してしまうことを防止することができる。
【0036】
さらに、内環14の一対の角部14a、14bを外環12の内周面に密に接触させる寸法設計を行うことにより、内環14が外環12に対して小さい場合に生じ得る内環14のずれや斜めに傾いたりすることを抑制できる。
【0037】
さらに上記実施例では、外環12の開口部12cが、フランジ面の外周側に配置されているが、この開口部12cがフランジ面の内周側に配置されるように外環12を形成しても良い。
【0038】
なお、外環12の開口部12cを高圧側に配置すれば、その圧力が外環12内に入り込んで外環12を外側に押し広げるので自緊機能が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は本発明の一実施例によるメタルガスケットの断面図である。
【図2】図2は図1に示した外環を形成する際の手順を示す断面図である。
【図3】図3は図1のメタルガスケットを配管などのフランジ部に用いた状態を示す部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0040】
10 メタルガスケット
12 外環
12c 開口
14 内環
14a、14b 角部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向の開口により断面略C字状に形成された外環と、この外環の内側に嵌合状態で配置される内環と、から構成されるメタルガスケットであって、
前記内環が断面多角形体から構成されているともに、この内環における互いに対向する一対の角部が、前記外環における前記開口を挟んで両側の内周面にそれぞれ配置されていることを特徴とするメタルガスケット。
【請求項2】
前記内環は断面四角形体であることを特徴とする請求項1に記載のメタルガスケット。
【請求項3】
前記内環前記多角形体の頂部は円弧状に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のメタルガスケット。
【請求項4】
前記内環を構成する金属が、前記外環を構成する金属より硬質の金属から形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のメタルガスケット。
【請求項5】
前記外環の少なくとも外周側表面に、軟質層を設けたことを特徴とする請求項1または4に記載のメタルガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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