説明

メタルガスケット

【課題】従来よりも小さい締付け力で、従来と同等以上の高いシール性が発揮されるメタルガスケットを提供すること。
【解決手段】周方向の開口が形成された断面略C字状の環状の外環と、この外環の内側に嵌装された環状の内環とから構成され、部材間に装着された状態で上下方向に押圧されることで部材間をシールする環状のメタルガスケットであって、内環は、その断面において、外環の内側面の上側と当接する上側角部と、外環の内側面の下側と当接する下側角部と、上側角部と下側角部との間に位置するように、内環の内周側に形成された内周側角部と、上側角部と下側角部との間に位置するように、内環の外周側に形成された外周側角部と、を備えた断面多角形状に形成されるとともに、上側角部と、内周側角部および外周側角部との間、並びに下側角部と、内周側角部および外周側角部との間には、内角が180°よりも大きい屈曲部が各々形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温環境下、プラズマ環境下、および超真空環境下などの環境下で用いられて好適なメタルガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力設備や半導体製造装置などの各種配管、機械設備においては、ゴム製のガスケットが使用できない高温環境下、プラズマ環境下、および超真空環境下などの環境下で用いられるガスケットとして、メタルCリングガスケットと呼ばれる環状のメタルガスケットが使用されている。
【0003】
このメタルCリングガスケットと呼ばれるメタルガスケットは、例えば、特許文献1,2に開示されているように、断面略C字状の金属製の外環の内側に、金属製の板バネやコイルスプリングなどからなる内環が嵌装されて構成されている。したがって、このメタルガスケットを用いる場合は、ゴム製のガスケットよりも大きな締付け力が必要であり、締付作業の負担や、フランジやボルトなどの締結体が大型化してしまうとの問題があった。
【0004】
このような背景のもと、小さい締付け力で高いシール性を得ることができる環状のメタルガスケットとして、内環を正方形などの断面多角形体に形成したメタルガスケットが、本出願人により開示されている(特許文献3)。
【0005】
図7は、従来の特許文献3のメタルガスケットを示した断面図である。また、図8は、従来の特許文献3のメタルガスケットがシール溝に装着されている状態を示した断面図である。
【0006】
図7に示したように、特許文献3のメタルガスケット100は、外周側に開口112が形成された断面略C字状の外環110と、この外環110の内側に嵌装された内環120とから構成されている。内環120は、図7に示したように、その断面の上下方向に一対の上側角部122aおよび下側角部122bが形成されるとともに、その断面の左右方向に一対の内周側角部122cおよび外周側角部122dが形成された断面略正方形状に形成されている。そして、その上側角部122aおよび下側角部122bが上述した外環110の内側面と当接するようにして、外環110に嵌装されている。
【0007】
この特許文献3のメタルガスケット100は、図8に示したように、フランジ132に形成されているシール溝134に装着されて、相手側のフランジ130によって締付け力Fで上下方向に押圧される。すると、内環120の復元力によって、上述した一対の上側角部122aおよび下側角部122bが外環110の内側面を強く押圧し、外環110の上側とフランジ130とが部分的に強く接触するとともに、外環110の下側とフランジ132のシール溝134とが部分的に強く接触する。そして、この接触部分がシール部となって、フランジ130とフランジ132との間がシールされる。
【0008】
このように、この従来の特許文献3のメタルガスケット100は、内環120の復元力によって、外環110の内側面が上側角部122aおよび下側角部122bによって押圧されるように構成されているため、特許文献1,2に開示されているような一般的なメタルガスケットと比べて、小さい締付け力で高いシール性を得ることができるようになっている。
【0009】
ところで、メタルガスケットにおいて、メタルガスケットに作用する締付け力とメタルガスケットの変位量との関係は、図9のグラフのラインaのような関係を示すのが好ましいとされている。ここで、図9は、メタルガスケットにおける締付け力Fと変位量δとの好ましい関係を説明するためのグラフである。上述した特許文献3のメタルガスケット100における締付け力Fと変位量δとの関係は、おおむねこの図9のグラフのラインaに近似している。なお、図9のグラフの縦軸は締付け力Fを、グラフの横軸はメタルガスケットの変位量δを、それぞれ示している。
【0010】
この図9のグラフのラインaに示したように、メタルガスケットにおける締付け力Fと変位量δとの関係は、初期においてはグラフのラインaの傾きE1が急な傾きを示すことが好ましい。
【0011】
なぜなら、メタルガスケットがある程度のシール性を発揮するためには、ガスケットとフランジ面との間に「なじみ」が必要であるところ、この「なじみ」を得るためには、フランジ面と接触するガスケットのシール部に大きな接触応力を生じさせる必要がある。そして、ガスケットのシール部に大きな接触応力を発生させるには、単位当たりの変位量δに対して締付け力Fが出来るだけ大きくなるように、図9における初期の傾きE1が急な傾きを示す方が良いからである。
【0012】
この初期の傾きE1が緩やかだと、ガスケットのシール部に大きな接触応力を発生させるために、ガスケットを大きく変形させる必要があり、例えばボルトの締付け不足などが発生した場合には、ガスケットとフランジ面との間に十分な「なじみ」が得られない場合がある。なお、ここで「なじみ」とは、フランジ面と接触するメタルガスケットが、フランジ面の微小な凹凸に沿って変形し、その凹凸を埋めることで、ガスケットとフランジ面との間の隙間をなくすことを言う。
【0013】
また、図9のグラフのラインaに示したように、メタルガスケットにおける締付け力Fと変位量δとの関係は、締付け力Fが所定の締付け力F2を超えてからは、グラフのラインaの傾きE2が緩やかな傾きを示すことが好ましい。
【0014】
なぜなら、メタルガスケットは、2つの部材の間をシールする場合、例えば、上述したようなフランジ130とフランジ132との間をシールする場合に使用されるが、この場合のフランジ間の締付けは、フランジ同士が接触するまで、すなわち、フランジ面がメタルタッチするまで行なわれる。すなわち、上述した図8に示した状態においては、フランジ130とフランジ132とが接触するまで締付けられ、締付けが完了した状態では、メタルガスケット100は、変位量δ1だけ圧縮された状態となる。
【0015】
このように、メタルガスケットはフランジ面がメタルタッチするまで締付けられるため、グラフのラインaの傾きE2が急な傾きを示すメタルガスケットの場合は、メタルタッチとなる際の締付け力F1が著しく大きくなってしまい、メタルガスケットの締付け管理が行ない難くなってしまう。
【0016】
また、メタルガスケットの締付け管理を、メタルガスケットの変位が所定の変位量δ1になるまで締付けを行なうとのいわゆる変位制御で行なう場合には、以下に示すような問題が生ずる場合がある。すなわち、メタルタッチとなる変位量には、フランジ面やシール溝のうねりや寸法公差などによって誤差が生ずる場合があるため、グラフのラインaの傾きE2が急な傾きを示す場合には、メタルタッチとなる変位量にわずかな誤差が生じただけで締付け力が大きく変化してしまう。そして、締付け力が小さくなった場合にはシール性に問題が生ずる恐れがあり、締付け力が大きくなった場合には、ボルトの破損、およびメタルタッチするまで締付けることが出来ないなどの問題が生ずる恐れがある。
【0017】
なお、図9に示したグラフにおいて、符号F0は、所定のシール性を発揮するために必要な締付け力を、符号F2は、グラフaの傾きが急な傾きE1から緩やかな傾きE2へと変化する際の締付け力を示している。そして、この締付け力F0は、メタルタッチとなる際の締付け力F1よりも小さいのは勿論のこと、上述した締付け力F2よりも小さいことが、メタルガスケットが安定したシール性能を発揮するために重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平2−113171号公報
【特許文献2】特開平9−264427号公報
【特許文献3】特開2009−281424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上述したように、メタルガスケットにおける締付け力Fと変位量δとの関係は、初期においては、単位変位量当たりの締付け力Fが大きくなるように、グラフのラインの傾きE1が急な傾きを示すことが好ましい。また、締付け力がF0よりも大きくなり、メタルガスケットが所定のシール性を発揮している状態では、単位変位量当たりの締付け力Fが小さくなるように、グラフのラインの傾きE2が緩やかな傾きを示すことが好ましい。
【0020】
さらに、小さい締付け力で高いシール性を発揮するメタルガスケットとするためには、上述したような締付け力Fと変位量δとの関係を維持しつつ、さらに、メタルタッチとなる際の締付け力F1を小さくする必要がある。
【0021】
しかしながら、上述したような締付け力Fと変位量δとの好ましい関係を維持しつつ、さらに、メタルタッチとなる際の締付け力F1が小さくなるようなメタルガスケットを開発することは容易なことではない。例えば、図10のグラフのラインbおよびラインcは特許文献1,2に開示されているような従来の一般的なメタルガスケットの締付け力と変位の関係を示したラインであるが、この図10のグラフのラインbに示したように、初期の傾きE1´を大きくしようとすると、メタルタッチとなる際の締付け力F1´は、一般に大きくなってしまう。また、メタルタッチとなる際の締付け力F1´を小さくしようとすると、図10のグラフのラインcに示したように、初期の傾きE1´は、一般に緩やかになってしまう。
【0022】
このような技術的背景のもと、本発明者らは、特許文献3のメタルガスケット100の内環120の断面形状を変更することで、特許文献3に開示されているメタルガスケット100よりも小さい締付け力で、特許文献3に開示されているメタルガスケットとほぼ同等のシール性を発揮できるメタルガスケットとすることができるのではないかと考えた。
【0023】
そして、図7および図8に示した特許文献3のメタルガスケット100において、その内角θ1およびθ2と、締付け力−変位との関係を検討したところ、上側角部122aおよび下側角部122bの内角θ1を小さくすると、初期の傾きEは大きくなるがメタルタッチする際の締付け力F1が大きくなる傾向を示すこと、および内周側角部122cおよび外周側角部122dの内角θ2を小さくすると、メタルタッチする際の締付け力F1が小さくなる傾向を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明のメタルガスケットは、
周方向の開口が形成された断面略C字状の環状の外環と、この外環の内側に嵌装された環状の内環とから構成され、部材間に装着された状態で上下方向に押圧されることで部材間をシールする環状のメタルガスケットであって、
前記内環は、その断面において、
前記外環の内側面の上側と当接する上側角部と、
前記外環の内側面の下側と当接する下側角部と、
前記上側角部と下側角部との間に位置するように、該内環の内周側に形成された内周側角部と、
前記上側角部と下側角部との間に位置するように、該内環の外周側に形成された外周側角部と、
を備えた断面多角形状に形成されるとともに、
前記上側角部と、前記内周側角部および外周側角部との間、並びに前記下側角部と、前記内周側角部および外周側角部との間には、内角が180°よりも大きい屈曲部が各々形成されていることを特徴とする。
【0025】
このように構成することによって、特許文献3のメタルガスケットよりも小さい締付け力で、特許文献3のメタルガスケットとほぼ同等のシール性を発揮するメタルガスケットを提供することができる。
【0026】
また、特許文献3に開示されているメタルガスケットよりも、メタルタッチとなるまでの締付け力を小さくできるため、メタルガスケットの締付け管理を容易に行なえるメタルガスケットを提供することができる。
【0027】
上記発明において、
前記内環の断面が、上下方向に線対称形状となるように形成されていることが望ましい。
【0028】
このように構成することによって、メタルガスケットが上下方向に押圧された際に、内環は、その断面の上下方向および左右方向に略線対称形状となるように変形するため、内環がずれたり斜めに傾いたりすることがなく、安定した状態のまま外環の内側に保持される。
【0029】
また、上記発明において、
前記上側角部と、前記上側角部と内周側角部との間に形成された前記屈曲部との間、
前記上側角部と、前記上側角部と外周側角部との間に形成された前記屈曲部との間、
前記下側角部と、前記上側角部と内周側角部との間に形成された前記屈曲部との間、
前記下側角部と、前記上側角部と外周側角部との間に形成された前記屈曲部との間、
には、内角が180°よりも小さい第2の屈曲部が形成されていることを特徴とする。
【0030】
このように構成することによって、より小さい締付け力で、特許文献3のメタルガスケットとほぼ同等のシール性を発揮するメタルガスケットを提供することができる。また、メタルタッチとなるまでの締付け力をより小さくできるため、メタルガスケットの締付け管理をより一層容易に行なうことのできるメタルガスケットを提供することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、従来の特許文献3に開示されているメタルガスケットよりも小さい締付け力で、従来の特許文献3に開示されているメタルガスケットとほぼ同等のシール性を発揮するメタルガスケットを提供することができる。このように、本発明のメタルガスケットによれば、従来のメタルガスケットよりも締付け力を小さくすることができるため、フランジを薄くすることが可能となり、装置の小型化、軽量化が図れるとともに、コスト面でも有利となる。また、フランジの材料に例えばセラミックスなどの、金属と比べて壊れやすい材料を使用することも可能となる。
【0032】
また、従来の特許文献3に開示されているメタルガスケットよりも、メタルタッチとなるまでの締付け力を小さくできるため、メタルガスケットの締付け管理を容易に行なうことができるメタルガスケットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、本発明のメタルガスケットを配管などのフランジ部に用いた状態を示した部分拡大断面図である。
【図2】図2は、本発明のメタルガスケットを示した断面図である。
【図3】図3は、本発明のメタルガスケットが上下方向に押圧されて変形した状態を示した断面図である。
【図4】図4は、本発明のメタルガスケットにおける締付け力Fと変位量δとの関係を示したグラフである。
【図5】図5は、本発明のメタルガスケット1を実施例とし、特許文献3のメタルガスケット100を比較例として、その各々の締付け力−変位の関係を有限要素法によって解析した結果を示したグラフである。
【図6】図6は、本発明の別の実施形態のメタルガスケットを示した断面図である。
【図7】図7は、従来の特許文献3のメタルガスケットを示した断面図である。
【図8】図8は、従来の特許文献3のメタルガスケットがシール溝に装着されている状態を示した断面図である。
【図9】図9は、メタルガスケットにおける締付け力Fと変位量δとの好ましい関係を説明するためのグラフである。
【図10】図10は、従来の一般的なメタルガスケットにおける締付け力Fと変位量δとの関係を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明のメタルガスケットを配管などの継手部に用いた状態を示した部分拡大断面図である。図2は、本発明のメタルガスケットを示した断面図である。
【0035】
本発明のメタルガスケット1は、例えば、半導体製造装置の各種配管などの継手部に使用される。そして、図1に示したように、メタルガスケット1は、フランジ32に形成されているシール溝34に装着されて、フランジ30とフランジ32との間に介装され、フランジ30とフランジ32とがメタルタッチするまでボルト40によって締付けられることで上下方向に押圧されることで、フランジ30とフランジ32との間をシールする。
【0036】
また、図2に示したように、本発明のメタルガスケット1は、環状の外環10と、この外環10の内側に嵌装された環状の内環20とから構成されている。
外環10は、その外側面10aの外周側の周方向に開口12が形成されており、図2に示したように、断面略C字状に形成されている。
【0037】
内環20は、図2に示したように、断面中空の多角形状に形成されている。そして、その断面の上側には、外環10の内側面10bの上側と当接する上側角部22aと、外環10の内側面10bの下側と当接する下側角部22bと、が形成されている。また、上側角部22aと下側角部22bとの間の内周側には内周側角部22cが形成されるとともに、上側角部22aと下側角部22bとの間の外周側には外周側角部22dが形成されている。
【0038】
ここで、外環10の内側面10bの上側とは、開口12よりも上側の部分を指す。すなわち、図2において、外環10の内側面10bの内、開口12の上端部12aよりも上側に位置する内側面10bを指す。同様に、外環10の内側面10bの下側とは、開口12よりも下側の部分、すなわち、外環10の内側面10bの内、開口12の下端部12bよりも下側に位置する内側面10bを指す。また、図2では、内環20の内周側角部22cも、外環10の内側面10bが当接しているが、この内周側角部22cと外環10の内側面10bとは、必ずしも当接していなくてもよい。
【0039】
また、これら上側角部22a、下側角部22b、内周側角部22c、外周側角部22dにおける各々の屈曲部の頂部は、円弧状に形成されていることが好ましい。特に、外環10の内側面10bと当接する上側角部22aと下側角部22bの屈曲部の頂部については、外環10の内側面10bを傷つけないようにするために、円弧状に形成されていることが好ましい。
【0040】
また、上述した上側角部22aと、内周側角部22cおよび外周側角部22dとの間には、それぞれ内周側角部22cまたは外周側角部22dに近い方から、屈曲部24および第2の屈曲部26の2箇所の屈曲部が形成されている。さらに、上術した下側角部22bと、内周側角部22cおよび外周側角部22dとの間にも、それぞれ内周側角部22cまたは外周側角部22dに近い方から、屈曲部24および第2の屈曲部26との2箇所の屈曲部が形成されている。
【0041】
そして、図2に示したように、この屈曲部24は、内環20の断面の内側に向かって屈曲しており、この屈曲部24の内角は180°よりも大きい角度となっている。これに対して、第2の屈曲部26は、内環20の断面の外側に向かって屈曲しており、この第2の屈曲部26の内角は180°よりも小さい角度となっている。
【0042】
また、図2に示した内環20は、上述した上側角部22aが、外環10の内側面10bの最も上側の部分と当接するとともに、上述した下側角部22bも、外環10の内側面10bの最も下側の部分と当接している。
【0043】
ここで、本発明のメタルガスケット1では、上側角部22aおよび下側角部22bと、外環10の内側面10bとの当接箇所は、上述した部分に限定されるものではない。しかしながら、上述したように、上側角部22aが外環10の内側面10bの最も上側の部分と当接し、下側角部22bが、外環10の内側面10bの最も下側の部分と当接するように構成する方が、メタルガスケット1が上下方向に押圧された際に、その押圧力が外環10を介して直ちに内環20にも作用するため、好ましい。
【0044】
また、内環20の断面は、その上下方向および左右方向に線対称形状となるように形成されている。すなわち、図2に示したように、水平方向の中心線HCLに対して上下方向に対称形状に形成されるとともに、鉛直方向の中心線VCLに対して左右方向に対称形状に形成されている。そして、上述した上側角部22aと下側角部22bの内角θ1は、それぞれ等しい角度に形成されるとともに、上述した内周側角部22cと外周側角部22dの内角θ2も、それぞれ等しい角度に形成されている。
【0045】
ここで、本発明のメタルガスケット1では、内環20の断面は、その上下方向および左右方向が線対称形状のものに限定されるものではない。しかしながら、上述したように、内環20の断面が、少なくともその上下方向に線対称形状となるように形成されている方が、後述するように、メタルガスケット1が上下方向に押圧された際に、内環20がずれたり斜めに傾いたりすることがなく、安定した状態のまま外環10の内側に保持されるため、好ましい。
【0046】
また、本発明のメタルガスケット1において、上述したような屈曲部24および第2の屈曲部26が形成されている理由は、次のとおりである。
すなわち、上述したように、本発明者らが検討したところにより、内周側角部22cおよび外周側角部22dの内角θ2を小さくするとメタルタッチする際の締付け力F1が小さくなる傾向を示すことが分かっている。このため、本発明のメタルガスケット1では、上側角部22aと、内周側角部22cおよび外周側角部22dとの間、並びに下側角部22bと、内周側角部22cおよび外周側角部22dとの間に、内角が180°よりも大きい屈曲部24を各々形成することで、内周側角部22cおよび外周側角部22dの内角θ2が小さくなるように構成している。
【0047】
また、本発明者らが検討したところにより、上側角部22aおよび下側角部22bの内角θ1が小さくなると、メタルタッチとなる際の締付け力F1が大きくなる傾向を示すことが分かっている。そして、上述したような屈曲部24を形成すると、内周側角部22cおよび外周側角部22dの内角θ2が小さくなる一方で、上側角部22aおよび下側角部22bの内角θ1も小さくなってしまう。このため、本発明のメタルガスケット1では、上側角部22aおよび下側角部22bと、上述した屈曲部24との間に、内角が180°よりも小さい第2の屈曲部を各々形成することで、上側角部22aおよび下側角部22bの内角θ1が小さくなり過ぎないように構成している。
【0048】
このような第2の屈曲部26は、屈曲部24と比べて小さい屈曲度合いとなっている方が好ましい。すなわち、第2の屈曲部26の外角が、屈曲部24の内角よりも小さい方が好ましい。第2の屈曲部26が大きく屈曲していると、例えば、後述する図3の(c)に示した状態において、上側角部22aおよび下側角部22bが内側に凹むように変形してしまうため、上側角部22aおよび下側角部22bと、外環10の内側面10bとの接触応力が小さくなってしまい、シール性能が低下してしまう恐れがある。
【0049】
このような上側角部22aおよび下側角部22bの内角θ1の好ましい範囲は、メタルガスケット1の形状、材料、およびメタルタッチまでの変位量などによっても異なるが、おおむね50°〜120°の範囲であることが好ましく、特に好ましくは60〜90°の範囲である。また、内周側角部22cおよび外周側角部22dの内角θ2の好ましい範囲は、おおむね90°以下であることが好ましく、特に好ましくは35°〜80°の範囲である。なお、本実施形態では、θ1は約75°、θ2は約60°に形成されている。
【0050】
これら外環10および内環20の構成材料は、金属である。この際、内環20を構成する金属は、外環10を構成する金属よりも硬質の金属から形成されていることが好ましく、例えば、外環10は、いわゆる軽金属と称されるアルミニウム、内環20は、アルミニウムよりも硬質の金属、例えばステンレスなどから形成されることが好ましい。
【0051】
このように、外環10よりも内環20を高硬度の金属で構成すれば、本発明のメタルガスケット1が、図1に示したように、フランジ30、32との間に介装されて上下方向に押圧された際に、相対的に変形し難い高硬度の内環20が低硬度の外環10をフランジ30、32に強く押し付ける。そして、低硬度の外環10は、フランジ30などとのなじみ性が良好であるため、高いシール性を発揮されることとなる。
【0052】
また、外環10の外側面10aに、ポリテトラフルオレエチレン(PTFE)、ポリイミドなどをコーティングすることや、銀、ニッケル、銅などのメッキを施すことで形成された軟質層(不図示)が形成されていれば、外環10のフランジ30などに対するなじみ性が高くなり、より高いシール性が発揮されるようになる。
【0053】
図3は、本発明のメタルガスケットが上下方向に押圧されて変形した状態を示した断面図である。また、図4は、本発明のメタルガスケットにおける締付け力Fと変位量δとの関係を示したグラフである。ここで、図3の(a)はメタルガスケット1が変形する前の初期状態を、図3の(b)はメタルガスケット1が押圧されて変形し、所定のシール性を発揮している状態を、図3の(c)はメタルガスケット1がメタルタッチするまで押圧されて変形している状態を、それぞれ示している。なお、図3中の符号F0、F1およびδ1、δ2は、図4のグラフに示されている締付け力F0、F1および変位量δ1、δ2と対応するものである。
【0054】
図3に示したように、図3の(a)に示した初期状態において、メタルガスケット1を上下方向に押圧していくと、先ず、内環20の内、その上側角部22aおよび下側角部22bの先端部が潰されて変形する。そして、メタルガスケット1全体では、その上下方向に変位量δ2だけ圧縮変形して、図3の(b)に示した状態となる。この状態では、上側角部22aおよび下側角部22bの内角θ1、並びに内周側角部22cおよび外周側角部22dの内角θ2は、初期状態から殆ど変化しておらず、僅かに内角θ1が大きくなるとともに、内角θ2が小さくなる程度である。すなわち、図3の(b)に示した状態における、メタルガスケット1の変位量δ2は、主として上側角部22aおよび下側角部22bの先端部が潰れたことによるものである。
【0055】
そして、さらに締付け力Fを大きくしながら押圧していくと、内環20の上側角部22aおよび下側角部22bが徐々に開くように変形し、その内角θ1が徐々に大きくなっていく。また、内環20の内周側角部22cおよび外周側角部22dは徐々に閉まるように変形し、その内角θ2は徐々に小さくなっていく。そして、最終的には、図3の(c)に示したように、内環20が上下方向に押し潰されるように圧縮変形して、上側の屈曲部24と下側の屈曲部24とが当接し、内周側角部22cおよび外周側角部22dの内角θ2が0°となる。そして、メタルガスケット1全体では、その上下方向に変位量δ1だけ変形した状態となる。
【0056】
この際、メタルガスケット1が初期状態から所定の変位量δ2になるまでの間は、単位当たりの変位量に対して大きな締付け力Fを必要とする。すなわち、図4に示されているように、グラフのラインaの初期の傾きE1は、急な傾きとなる。これに対して、メタルガスケット1の変位量がδ2からδ1になるまでの間は、単位当たりの変位量に対して小さな締付け力Fで変形するようになる。すなわち、図4に示されているように、グラフのラインaの初期の傾きE2は、緩やかな傾きとなる。
【0057】
図5は、図2に示した本発明のメタルガスケット1を実施例とし、図7に示した特許文献3の従来のメタルガスケット100を比較例として、それぞれにおける締付け力−変位の関係を有限要素法によって解析した結果を示したグラフである。なお、図5のグラフの縦軸は線圧を、グラフの横軸は変位量を、それぞれ示している。
【0058】
ここで、このグラフの縦軸の線圧とは、メタルガスケットが締付けられた際に、メタルガスケットに作用する単位長さ当たりの締付け力のことであり、以下の式(1)のとおり定義されるものである。
線圧=締付け力÷メタルガスケット中心円周長さ (1)
【0059】
また、この有限要素解析では、実施例のメタルガスケット1と比較例のメタルガスケット100とは、比較例の内環120が正方形状に形成されているのに対し、実施例の内環20には上述した屈曲部24および第2の屈曲部26が形成されている点を除いて、同一の条件に設定している。すなわち、実施例の外環10と比較例の外環110の材質、中心円周の長さ、断面の形状寸法を同一条件に設定するとともに、実施例の内環20と比較例の内環120の材質、中心円周の長さ、断面の肉厚および高さや幅を同一条件に設定している。
【0060】
図5に示したように、初期の傾きは、実施例および比較例ともにほぼ同じような急な傾きを示している。このことは、実施例のメタルガスケット1が、比較例のメタルガスケット100と、ほぼ同等のシール性能を有していることを意味している。
【0061】
また、図5に示したように、ガスケットに作用する線圧がF0(ここでは15KN/m)よりも大きく、メタルガスケットが所定のシール性を発揮している状態におけるグラフの傾きは、比較例よりも実施例の方が穏やかな傾きを示している。そして、メタルタッチとなる際の変位量δ1(ここでは0.8mm)における線圧は、実施例が34.3KN/mとなっているのに対して、比較例では、38.1KN/mとなっており、実施例の方が約10%も小さくなっている。
【0062】
このように、本発明のメタルガスケット1は、特許文献3のメタルガスケット100よりも小さい締付け力で締付けることができるにも関わらず、特許文献3のメタルガスケットとほぼ同等のシール性を発揮することができる。このように、本発明のメタルガスケット1によれば、特許文献3のメタルガスケット100よりも締付け力を小さくすることができるため、フランジを薄くすることが可能となり、装置の小型化、軽量化が図れるとともに、コスト面でも有利となる。また、フランジの材料に例えばセラミックスなどの、金属と比べて壊れやすい材料を使用することも可能となる。
【0063】
また、本発明のメタルガスケット1は、特許文献3のメタルガスケット100よりもメタルタッチとなるまでの締付け力F1を小さくできるため、メタルガスケット1の締付け管理を容易に行なうことが可能である。
【0064】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、上述した実施形態では、屈曲部24および第2の屈曲部26の2つの屈曲部が形成されていたが、本発明のメタルガスケット1はこれに限定されない。図6に示したように、上側角部22aと、内周側角部22vおよび外周側角部22dとの間、並びに下側角部22bと、内周側角部22cおよび外周側角部22cとの間に、少なくとも内角が180°よりも小さい屈曲部24が形成されていればよいものである。
【0065】
また、上述した実施形態では、外環10の開口12は、外側面10aの外周側の周方向に形成されていた。しかしながら本発明のメタルガスケット1はこれに限定されず、外環10の開口12が、例えば、外側面10aの内周側の周方向に開口12が形成されていてもよいものである。
【符号の説明】
【0066】
1 メタルガスケット
10 外環
10a 外環の外側面
10b 外環の内側面
12 開口
12a 開口の上端部
12b 開口の下端部
20 内環
22a 上側角部
22b 下側角部
22c 内周側角部
22d 外周側角部
24 屈曲部
26 第2の屈曲部
30,32 フランジ
34 シール溝
40 ボルト
100 メタルガスケット
110 外環
112 開口
120 内環
122a 上側角部
122b 下側角部
122c 内周側角部
122d 外周側角部
130,132 フランジ
134 シール溝
θ1 上側角部および下側角部の内角
θ2 内周側角部および外周側角部の内角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向の開口が形成された断面略C字状の環状の外環と、この外環の内側に嵌装された環状の内環とから構成され、部材間に装着された状態で上下方向に押圧されることで部材間をシールする環状のメタルガスケットであって、
前記内環は、その断面において、
前記外環の内側面の上側と当接する上側角部と、
前記外環の内側面の下側と当接する下側角部と、
前記上側角部と下側角部との間に位置するように、該内環の内周側に形成された内周側角部と、
前記上側角部と下側角部との間に位置するように、該内環の外周側に形成された外周側角部と、
を備えた断面多角形状に形成されるとともに、
前記上側角部と、前記内周側角部および外周側角部との間、並びに前記下側角部と、前記内周側角部および外周側角部との間には、内角が180°よりも大きい屈曲部が各々形成されていることを特徴とするメタルガスケット。
【請求項2】
前記内環の断面が、上下方向に線対称形状となるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載のメタルガスケット。
【請求項3】
前記上側角部と、前記上側角部と内周側角部との間に形成された前記屈曲部との間、
前記上側角部と、前記上側角部と外周側角部との間に形成された前記屈曲部との間、
前記下側角部と、前記上側角部と内周側角部との間に形成された前記屈曲部との間、
前記下側角部と、前記上側角部と外周側角部との間に形成された前記屈曲部との間、
には、内角が180°よりも小さい第2の屈曲部が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のメタルガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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