説明

メタルハライドランプ、点灯装置、自動車用前照灯装置

【課題】水銀フリーのメタルハライドランプ寿命特性の低下などを改善する。
【解決手段】メタルハライドランプは、放電空間14と封止部12a,12bを有する放電容器11を備える。放電容器11内には、ハロゲン化金属と希ガスとを含み、水銀を含まない放電媒体が封入されている。放電空間14内には一対の電極3a2,3b2が対向配置されており、これら電極3a2,3b2の基部側端部はそれぞれ金属箔3a1,3b1に接合されている。金属箔3a1,3b1の他方の端部側にはそれぞれリード線3a3,3b3が接合されており、この状態で金属箔3a1,3b1は封止部12a,12bにより気密に封着されている。金属箔4と電極軸3aとの接合部近傍を含む領域には凹凸部4a,4bが形成される。凹凸部4a,4bは、遊離ハロゲンやメタルハライドとの反応を抑制させ、ランプの長寿命化を実現させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、メタルハライドランプと、このランプの点灯装置および自動車用前照灯装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の水銀を使用しない、いわゆる水銀フリーメタルハライドランプは、放電容器の気密性を確保するモリブデン箔等からなる金属箔と放電媒体との反応が起こりやすいという問題があり、金属箔を緻密なコーティング膜で被覆を行い、放電媒体との反応防止を図り、水銀を用いないことに伴う寿命特性の低下等の改善が図られている。(例えば、特許文献1)
【特許文献1】特開2002-260581公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記した特許文献1の技術は、コーティング膜を金属箔全体に形成された場合でも、封止の際にコーティング膜と金属箔との熱膨張率の差により、コーティング膜にクラックが生じ、このクラックを通して放電媒体が浸入するため、封止部にクラック等が生じ長寿命化に悪影響を与える要因が発生する、という問題があった。
【0004】
この発明の目的は、本質的に水銀を用いないメタルハライドランプにあって、水銀を用いないことに伴う寿命特性の低下等の改善を施したメタルハライドランプおよびこのランプを用いたメタルハライドランプ点灯装置および自動車用前照灯装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した課題を解決するために、この発明のメタルハライドランプは、放電空間と前記放電空間の両端に設けられた封止部とを有する放電容器と、前記放電容器内に封入され、ハロゲン化金属と希ガスとを含み、かつ本質的に水銀を含まない放電媒体と、前記放電空間内に対向して配置された一対の電極と、前記一対の電極の基部側端部にそれぞれ接合され、かつ前記封止部により気密に封着された金属箔と、前記金属箔の他方の端部側にそれぞれ接合され、かつ前記封止部外に導出された一対の外部リードと、前記金属箔の前記電極との接合部を含む領域に、粗度が0.5μm≦Ra≦3μm、1.5μm≦Rz≦10μmで、凹部と凸部が交互に連鎖して網目状に形成した凹凸部と、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
この発明によれば、金属箔と電極の接合部分に凹凸部を形成したことにより、金属箔と放電媒体中の遊離ハロゲンやハロゲン化金属などとの反応を抑制させることができ、ランプの長寿命化を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、この発明の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0008】
図1〜図4は、この発明のメタルハライドランプに関する第1の実施形態について説明するための、図1は概略的な構成図、図2は図1の要部を拡大して示した正面図、図3は図2の要部をさらに拡大して示した正面図、図4は図3のa−a’断面図である。
【0009】
図1において、1はメタルハライドランプを構成する内管であり、その中央部の放電容器11の両端部には、封止部12a、12bが形成されており、その両端には、筒状の非封止部13a、13bが形成されている。なお、内管1は耐熱性と透光性に優れた材料であれば使用でき、例えば石英ガラスを使用可能である。
【0010】
放電容器11の内部には、軸方向において、中央部が略円柱状、その両端部がテーパ状の放電空間14が形成されている。この放電空間14の容積は、ショートアーク型の放電ランプでは100μl以下、自動車の前照灯を用途とする場合は、放電空間の容積は10μl〜40μlであるのことが望ましい。
【0011】
放電空間14には、ハロゲン化金属2および希ガスとからなる放電媒体が封入されている。放電媒体には本質的に水銀を含まないものとする。次に、放電媒体の具体例について説明する。
【0012】
まず、ハロゲン化金属2としては、種々の金属元素のハロゲン化物を用いることができ、例えば主として発光に寄与する第1のハロゲン化物が使用される。第1のハロゲン化物としては、ナトリウム(Na)、スカンジウム(Sc)および希土類金属から選ばれる一種または複数種の金属元素のハロゲン化物を用いる。NaやScは、特に高効率な発光物質である。
【0013】
ハロゲン化金属2は、蒸気圧が相対的に高く、第1のハロゲン化物に比較して可視光域に発光しにくい金属の一種または複数種のハロゲン化物を、第2のハロゲン化物として含むことができる。可視光域に発光しにくい金属とは、第1のハロゲン化物の金属よりエネルギー準位が高く、第1のハロゲン化物の金属が主として発光する状態であればよい。第2のハロゲン化物を添加することで、水銀を含むランプに近いランプ電圧を得ることができ、水銀フリーメタルハライドランプの電気や発光特性の改善が可能となる。第2のハロゲン化物は、色度改善等に対しても寄与する。
【0014】
第2のハロゲン化物としては、例えばマグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、アンチモン(Sb)、ベリリウム(Be)、レニウム(Re)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)およびハフニウム(Hf)から選ばれる一種または複数種の金属のハロゲン化物が用いられる。
【0015】
さらに、ハロゲン化金属2には第3のハロゲン化物を含んでいてもよい。第3のハロゲン化物は、遊離ハロゲンの抑制に寄与する成分として例えば錫(Sn)が、アーク温度の分布を補正して熱損失を低減させる成分等として例えばセシウム(Cs)が添加される。
【0016】
ハロゲン化金属2を構成するハロゲンとしては、ヨウ素(I)が反応性の低さにおいて最も適当であり、臭素(Br)、塩素(Cl)、フッ素(F)の順に反応性が強くなるが、必要に応じ適宜選択可能である。また、ヨウ化物と臭化物のように、異なるハロゲンの化合物を併用することもできる。
【0017】
ハロゲン化金属2の封入量については、例えば主として発光に寄与する第1のハロゲン化物は、放電容器の内容積(放電空間の容積)1cc当たり5mg〜110mgの範囲で封入することができる。さらに好適な範囲は、放電容器の内容積1cc当たり5mg〜35mgである。このような範囲において、光束の立ち上がりを早くすることができるとともに、光色を安定させることができる。第2のハロゲン化物は、放電容器の内容積1cc当たり0.05mg〜200mgの範囲で封入することができる。他のハロゲン化物については適宜調整される。
【0018】
また、希ガスは、始動用および緩衝ガスとしての他に、始動直後には主発光を担うように作用する。一般的には放電容器11を透過しなければ特に限定されないが、気密容器11が石英ガラスで形成される場合は、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)またはキセノン(Xe)が推奨される。始動直後の発光を希ガスに依存する場合には、最も発光効率が高いのはキセノンであるため、キセノンが最適である。
【0019】
希ガスの封入圧力を高くすると、ランプ電圧が高くなり、同一ランプ電流に対してランプ入力を大きくして、光束の立ち上がり特性を向上させることができる。光束の立ち上がり特性が良いことは、どのような使用目的であっても好都合であるが、特に自動車用前照灯装置や液晶プロジェクタ等では極めて重要である。希ガスは例えば3気圧以上の圧力で封入され、特に5〜15気圧の範囲で封入することが好ましい。
【0020】
さらに、「本質的に水銀が封入されていない」とは、水銀が全く封入されない状態に限らず、放電容器の内容積1cc当たり2mg未満の水銀、好ましくは1mg以下の水銀が存在することの許容を意味する。しかし、水銀が封入されないことは環境上望ましいことである。従来の水銀蒸気により放電ランプの電気特性を維持する場合、短アーク形では放電容器の内容積1cc当たり20mg〜40mg、場合によっては50mg以上の水銀を封入していたことからすれば、この実施形態で使用される水銀量は、本質的に少ないと言うことができる。
【0021】
再び図1において、封止部12a、12bの内部には、マウント3a、3bが封止されている。マウント3a、3bは、金属箔3a1、3b1、電極3a2、3b2、リード線3a3、3b3から構成される。
【0022】
金属箔3a1、3b1は、例えば、モリブデンのような高融点の短冊形状の薄い金属板である。図3に示すように金属箔3a1と電極3a2の接合部とその近傍、金属箔3b1と電極3b2の接合部とその近傍には、凹部31と凸部32による凹凸部4a,4bが形成されている。
【0023】
ここで、凹凸部4a,4bは粗度が0.5μm≦Ra≦3μm、1.5μm≦Rz≦10μmであるとともに、凹部31と凸部32が交互に連鎖して網目状になることで平坦な部分が連ならないように形成されている。ここで、Raは算術平均粗さを表わし、Rzは十点平均粗さを表わすものである。
【0024】
凹凸部4a,4bは、金属箔3a1、3b1と放電媒体中の遊離ハロゲンやメタルハライドとの反応を、凹部31と凸部32によりこれらが伝わる距離を稼ぐことにより抑制するものである。金属箔3a1、3b1と遊離ハロゲンやメタルハライドとの反応を抑制する上で、凹凸部4a,4bは金属箔3a1,3b1の両面全域を被覆するように形成されている(図4参照)。
【0025】
この実施形態では、金属箔と放電媒体中の遊離ハロゲンやハロゲン化金属などとの反応を、金属箔の表面に形成された凹凸部により抑制させることができる。このため、金属箔の反応に伴う箔切れ、封止部のクラックやそれによるリーク、さらには破裂などの発生を抑えることができ、長寿命の水銀フリーのレスメタルハライドランプを得ることが可能となる。
【0026】
図5は、この発明のメタルハライドランプに関する第2の実施形態について説明するための断面図である。この図では、金属箔の片方の表面を拡大した状態を示している。この実施形態は、凹凸部4a,4bの表面に金属および金属酸化物から選ばれる少なくとも一種からなる微粒子5aが充填されたコーティング膜51により被覆されている。
【0027】
コーティング膜51は金属箔3a1、3b1とともに封止部12a、12bにより封着されるため、その構成材料には1500℃で5秒〜60秒の加熱条件に対して変質しない高融点材料が好ましい。
【0028】
コーティング膜51を形成している微粒子5aは、遊離ハロゲンガスやメタルハライドガスがコーティング膜中を拡散し難くするために、微細な粒子としている。コーティング膜51は、例えば今回試したような20nm〜100nm程度の金属酸化物微粒子により形成することで、良好な耐ハロゲン効果を得ることができる。
【0029】
コーティング膜51の金属材料としては、例えば白金(Pt)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、レニウム(Re)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、ホルミウム(Ho)、ジスプロシウム(Dy)、イットリウム(Y)、スカンジウム(Sc)、およびホウ素(B)から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。金属材料は単体金属として用いる場合に限らず、上記金属元素を含む合金として使用してもよい。
【0030】
また、金属酸化物としては、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、ハフニア(HfO)、イットリア(Y)、酸化ホルミウム(Ho)、酸化ジスプロシウム(Dy)、酸化スカンジウム(Sc)、および酸化タンタル(Ta)から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。これらの化合物は、複数種の混合物として使用してもよいし、またイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)のような複合酸化物でもあってよい。
【0031】
上記した材料からなるコーティング膜51は、ハロゲンやハロゲン化金属との反応を抑制することができるため、この反応に起因する封止部12a,12bのクラック発生、さらには破裂の発生等を大幅に抑制することが可能となる。従って、水銀フリーメタルハライドランプの寿命をより確実に延ばすことができる。
【0032】
コーティング膜51は、まず第1に金属箔3a1,3b1と放電媒体中の特に遊離ハロゲンやメタルハライドとの反応を抑制するものであり、これらのガスがコーティング膜中を拡散して金属箔3a1,3b1表面に到達するのを微粒子31により抑制させることができる。
【0033】
コーティング膜51は、金属箔3a1、3b1の電極3a2、3b2との接合部を含む領域を被覆するように形成される。すなわち、放電媒体中の遊離ハロゲンガスやメタルハライドガスが侵入する部位は、金属箔3a1,3b1の電極3a2,3b2との接合部端であり、少なくともこのような部位が被覆されるように、コーティング膜を形成する。コーティング膜51は、電極3a2、3b2との接合部を含む金属箔3a1、3b1の片面領域のみに形成してもよいが、金属箔3a1、3b1の放電空間14側端部については両面、さらにはエッジ部や放電空間14側端面を含めた金属箔の全面を覆うように形成しても良い。
【0034】
コーティング膜の形成方法は、上記に限定されるものではなく、溶液の塗布焼成法、静電塗装法等を適用することによって、金属箔3a1,3b1の電極3a2,3b2との接合部を含む領域にコーティング膜を形成してもよい。
【0035】
溶液の塗布焼成法を適用する場合には、まず金属酸化物微粒子を有機溶媒や水等に分散させてスラリー溶液を調製し、これを金属箔3a1,3b2の必要部位に塗布して乾燥させた後、例えばモリブデン製の金属箔3a1,3b1が著しく酸化もしくは劣化しない条件で焼成することによって、コーティング膜51を形成することができる。
【0036】
コーティング膜51は、電極3a2,3b2を接合する前の金属箔3a1,3b1に対して形成してもよいし、電極3a2,3b2を金属に接合した後に形成してもよい。電極を金属箔に接合した後にコーティング膜を形成した場合には、コーティング膜を金属箔の表面のみならず、電極の金属箔との接合部近傍の電極3a2,3b2の基部側表面も覆うように形成することができる。コーティング膜51の膜厚は、50nm以上でかつ金属箔3a1,3b1の最大厚の10%以下とする。
【0037】
この実施形態では、凹凸部に形成されたコーティング膜に充填された微粒子が、金属箔と放電媒体中の遊離ハロゲンやメタルハライドとの反応をさらに抑制させることができる。金属箔の反応に伴う箔切れ、封止部のクラックやそれによるリーク、破裂などの発生をさらに抑えて、水銀フリーのメタルハライドランプのより長寿命化を実現させることができる。
【0038】
図6は、この発明のメタルハライドランプに関する第3の実施形態について説明するための、図5に相当する断面図である。
【0039】
この実施形態は、凹凸部4a,4bの表面に金属および金属酸化物から選ばれる少なくとも一種からなる針状粒子61aで形成されたコーティング膜61により被覆されている。コーティング膜61は、金属箔3a1,3b1の電極3a2,3b2との接合部を含む領域を被覆するように形成されている。コーティング膜61の膜厚は、50nm以上でかつ金属箔3a1,3b1の最大厚の10%以下であるのは、図5の実施形態と同様である。
【0040】
この実施形態では、凹凸部に形成されたコーティング膜の針状粒子が金属箔と放電媒体中の遊離ハロゲンやメタルハライドとの反応をさらに抑制させ、水銀フリーのメタルハライドランプのさらなる長寿命化を実現させることができる。さらにコーティング膜に充填された針状粒子は、金属箔からの剥離を防ぐ作用も果たすことができる。
【0041】
図7は、この発明のメタルハライドランプに関する第4の実施形態について説明するための、図5に相当する断面図である。
【0042】
この実施形態は、凹凸部4a,4bの表面に金属および金属酸化物から選ばれる少なくとも一種からなる微粒子51aと針状粒子61aとで形成されたコーティング膜71により被覆されている。コーティング膜71は、金属箔3a1,3b1の電極軸3a2,3b2との接合部を含む領域を被覆するように形成されている。コーティング膜71の膜厚は50nm以上でかつ金属箔4の最大厚の10%以下であるのは、図5の実施形態と同様である。
【0043】
この実施形態では、凹凸部に形成されたコーティング膜を構成する微粒子と針状粒子に基づき遊離ハロゲンやメタルハライドとの反応するまでの距離を稼ぐことができる。このため遊離ハロゲンやメタルハライドとの反応をさらに抑制させ、水銀フリーのメタルハライドランプのさらなる長寿命化を実現させることが可能となる。
【0044】
次に、上記した第1〜第4の各実施形態による水銀フリーのレスメタルハライドランプの実施例とその評価結果について図8、図9を参照して説明する。
【0045】
図8は、金属箔3a1、3b1の表面に形成される凹凸部なしの従来例と凹凸部ありの各実施例1〜4について説明したもので、図9は、従来例と各実施例に基づくランプ寿命について説明したものである。
【0046】
寿命を試すについて放電容器11は、図1に示すように外径aを6.5mm、内径bを3mmの形状を有する石英ガラス製の気密容器を使用した。電極3a2,3b2は、外径cが0.4mmのタングステン製のものを使用し、電極3a2と3b2の電極間距離dは4.2mmとした。放電媒体のうち、ハロゲン化金属については、ScI、NaIおよびZnIを用い、これらの比率を体積比でScI:NaI:ZnI=3:5:2とするとともに、全体量で1mg封入した。希ガスはXeを使用し、このXeは10気圧で封入した。
【0047】
さらに、金属箔3a1、3b1は厚さ20μm、長さ10mmのモリブデン製のものを用意し、その表面の凹凸部4a,4bの粗度を、Ra=1μm、Rz=3.5μmとした。
【0048】
従来例としては、Raが0.1未満の平滑な金属箔を用いる。実施例1では、金属箔3a1、3b1の表面に凹凸部4a,4bを形成した。実施例2では、凹凸部4a,4bの表面に、平均粒径20nmのAl微粒子51aのコーティング膜51を水溶液塗布焼成法により膜厚0.3μmで形成した。実施例3ではMoの針状粒子9の膜を膜厚0.3μmで形成した。実施例4ではMoの針状粒子61aと平均粒径20nmのAl微粒子51aが混在するコーティング膜71を水溶液塗布焼成法により膜厚0.3μmで形成した。なお、従来例と実施例1の金属箔3a1、3b1表面には、コーティング膜は形成されていない。
【0049】
上記した実施例1〜4と従来例による各水銀フリーメタルハライドランプを、ランプ電力35Wで点灯させ、その際の寿命時間を測定した結果を図9に示す。
【0050】
図9から明らかなように、実施例1〜4による各水銀フリーメタルハライドランプは、従来例の水銀フリーメタルハライドランプに比べて寿命時間が延びており、実施例1〜4でも単に凹凸部4a,4bが形成されたものよりも、コーティング膜が形成されたもののランプ寿命が延びることが分かる。凹凸部4a,4bとコーティング膜の組み合わせでも、微粒子51aによるコーティング膜51よりも、針状粒子61aによりコーティング膜61の寿命が延びることが分かる。さらに微粒子51aと針状粒子61aを混在させたコーティング膜71ではさらにランプ寿命が延びることが分かる。
【0051】
なお、上記した各コーティング膜の材料に代えて、SiO膜、ZrO膜、HfO膜、Y膜、HoTa膜、Al膜、Si膜、AlN膜、TiN膜、Ta膜、W膜、Re膜、Nb膜、V膜、Zr膜、Ho膜、Dy膜、Y膜、Sc膜をそれぞれ用いた水銀フリーメタルハライドランプについても、同様に良好な寿命特性を有していることを確認することができた。
【0052】
図10は、この発明のメタルハライドランプに関する第5の実施形態について説明するための、図2に相当する正面図である。図10でも片方の電極3a2側について示し、他方の電極側も同様であり図示を省略する。
【0053】
この実施形態は、電極3a2の金属箔3a1との接合部分、電極3a2の金属箔3a1とは重なっていない部分の一部に凹凸部4aと凹凸部4aの表面にコーティング膜51を形成した。凹凸部4aの表面にコーティング膜51を形成する電極3a2の部分は、封止部12a内に埋め込まれた部分のみならず、放電空間14に露出した部分の一部まで及んで形成する。
【0054】
この場合、電極3a2の先端部から電極3a2の封止部12aに埋め込まれている根元部までの距離Lに対して、コーティング膜51の形成範囲は電極3a2の根元部から距離Lの30%までの範囲とする。言い換えると、電極3a2の根元部から距離Lの30%の位置と電極3a2先端部との間には、凹凸部4aとこの上面にコーティング膜51は形成しない。
【0055】
コーティング膜51で覆われた凹凸部4aを放電空間14に露出させた電極3a2の一部まで覆うことによって、電極3a2を通電しにくくすることができるため、バックアークの発生を抑制することが可能となる。このとき、コーティング膜51を電極3a2より比抵抗が大きい材料、特にSiO、Al、Sc、Dy等の金属酸化物で形成することによって、バックアークの発生をより確実に抑制することができる。
【0056】
次に、第5の実施形態による水銀フリーメタルハライドランプを実施例5としてその評価結果について述べる。
【0057】
この実施例5では、厚さ25μm、長さ10mm、粗度がRa=1μm、Rz=3.5μmの凹凸6が形成された金属箔3a1,3b1を用意し、これに電極3a2,3b2を溶接により接合した後、それぞれ以下のコーティング膜51を形成した。実施例5では平均粒径20nmのAl微粒子51aの膜を水溶液塗布焼成法により膜厚0.3μmで形成した。
【0058】
コーティング膜51による電極3a2,3b2の被覆範囲は、電極3a2,3b2の封止部12a,12bにそれぞれ埋め込まれている根元部から放電空間側の電極先端方向に1mmまでとした。これらの条件以外は、上記した実施例1と同一として、Hgレスメタルハライドランプを作製した。
【0059】
この実施例5の水銀フリーメタルハライドランプ、さらにコーティング膜51を形成しない以外は同一構成を有する。そしてランプの点滅試験を、ランプ電力35Wで実施した。
【0060】
その結果、実施例5のHgレスメタルハライドランプによれば、従来に比べてバックアークの発生が大幅に少ないことが確認された。さらに、寿命特性についても実施例1〜4と同様に良好な結果を示した。
【0061】
この実施形態では、ランプ寿命を延ばすことができることに加え、バックアークの発生が大幅に抑えてチラツキな異常放電の発生を少なくすることが可能となる。
【0062】
図11は、この発明のメタルハライドランプを自動車用前照灯に適用した場合について説明するための概略的な構成図であり、図1と同一の構成部分には同一の符号を付し、ここでは異なる部分を中心して説明する。
【0063】
図11において、メタルハライドランプの主要部を構成する発光管は、2重管構造となっており、発光管内部には例えば石英ガラス製の内管1が配置されている。内管1はランプ軸方向に細長い形状であって、その略中央部には略楕円形の放電容器11が形成されている。放電容器11の両端部には、板状の封止部12a、12bが形成されており、その両端には、筒状の非封止部13a、13bが形成されている。
【0064】
発光管の非封止部13a側には、ソケット7が接続される。それらの接続は、非封止部13a付近の外管9外周面に装着された金属バンド70を、ソケット7の内管1保持側の開口端に形成された4本の金属製の舌片72(図11では、2本を図示)により挟持することによって行なわれている。そして、接続をさらに強化するために、金属バンド70および舌片72の接触点を溶接している。なお、ソケット7の底部にはリード線3a3と図示しないサポートワイヤがそれぞれ接続される端子が形成される。
【0065】
一端が金属箔3a1、3b1の端部に接続されたリード線3a3、3b3の他端は、管軸に沿って封止部12a、12bの外部に延出している。外部に延出したリード線3b3には、ニッケルからなるL字状のサポートワイヤ6の一端が接続され、その他端は、ソケット7の方向に延出している。そして、管軸と平行するサポートワイヤ6の部分には、セラミックからなる絶縁スリーブ8が被覆されている。
【0066】
上記で構成された内管1の外側には、管軸に沿って石英ガラスに紫外線の遮断作用を有する金属酸化物が添加された筒状の外管9が内管1と略同心状に設けられている。内管1と外管9の接続は、内管1両端の筒状の非封止部13a、13b付近に外管9を溶着することにより行なわれており、内部空間は気密状態である。その空間には、例えば、窒素やネオン、アルゴン、キセノン等の希ガスを一種または混合して封入したりすることができる。
【0067】
図12は、図11で説明した自動車用前照灯用のメタルハライドランプを、この発明の自動車用前照灯装置に適用した場合の一実施形態の概略構成について説明するための斜視図である。
【0068】
同図において、121は反射鏡、122は前面カバーである。反射鏡121は、プラスチックスの成形によって異形の回転放物面に形成され、頂部背面から図11に示すメタルハライドランプ(図示せず)を着脱するように構成されている。前面カバー122は、透明性のプラスチックスの成形によりプリズムまたはレンズが一体に形成されており、反射鏡121の前面開口部に気密に装着されている。
【0069】
図13はこの発明の点灯装置に関する第1の実施形態について説明するための回路図である。この実施形態は、メタルハライドランプを直流点灯するように構成したものである。同図において、131は直流電源、132はチョッパ、133は制御部、Rはランプ電流検出手段、VRはランプ電圧検出手段、134は始動部、135はメタルハライドランプである。
【0070】
直流電源131には、バッテリーまたは整流化直流電源が用いられる。自動車の場合には、一般的にバッテリーが用いられる。しかし、交流を整流する整流化直流電源であってもよい。また必要に応じて、電解コンデンサCを並列接続して平滑化を行う。
【0071】
チョッパ132は、直流電圧を所要値の電圧に変換するとともに、メタルハライドランプ135を所要に制御する。直流電源電圧が低い場合には、昇圧チョッパを用い、反対に高い場合には降圧チョッパを用いる。
【0072】
制御部133は、チョッパ22を制御する。例えば、点灯直後にはメタルハライドランプ135に定格ランプ電流の3倍以上のランプ電流をチョッパ132から流し、その後時間の経過とともに徐々にランプ電流を絞っていき、やがて定格ランプ電流にするように制御する。また、制御部133はランプ電流とランプ電圧との検出信号が帰還入力されることにより、定電力制御信号を発生させてチョッパ132を定電力制御する。さらに、制御部133には時間的な制御パターンが予め組み込まれたマイコンが内蔵されて、これによりランプ電流を制御するように構成されている。
【0073】
ランプ電流検出手段Rは、ランプと直列に挿入されてランプ電流を検出して制御部133に制御入力する。ランプ電圧検出手段VRは、ランプと並列的に接続されてランプ電圧を検出して制御部23に制御入力する。始動部134は、始動時に20kVのパルス電圧をメタルハライドランプ135に供給できるように構成されている。
【0074】
そして、この実施形態のメタルハライドランプ点灯装置を用いてメタルハライドランプを直流点灯すると、点灯直後から所要の光束を発生する。これにより、自動車用前照灯として必要な電源投入後1秒後に定格に対して光束25%、4秒後に光束80%の点灯を実現することができる。また、直流−交流変換回路が不要になるため、交流点灯に比較して約30%のコスト低減が可能である。また、重量で15%軽減できる。これに伴い点灯回路が安価になる。
【0075】
図14は、この発明の点灯装置に関する第2の実施形態について説明するための回路図である。図13と同一部分には同一符号を付して説明は省略する。この実施形態は、メタルハライドランプを交流点灯するように構成した点で異なる。
【0076】
141は交流変換手段であり、この交流変換手段141は、フルブリッジインバータからなる。すなわち、一対のスイッチング手段Q1,Q2とQ3,Q4の直列回路の一対をチョッパ132の出力端間に並列接続させてブリッジ回路を構成し、発振器142の発振出力を、4個のスイッチング手段Q1〜Q4に対し、対角方向のスイッチング手段Q1,Q4とQ2,Q3を交互に供給してブリッジ回路の出力端間に高周波交流を発生するものである。
【0077】
そして、高周波交流によってメタルハライド放電ランプ135が点灯されるようになっている。この交流点灯形式の構成においても、図13と同様な制御が行われるようになっている。
【0078】
交流と直流のこの発明の点灯装置の各実施形態によれば、上記した寿命特性の優れたこの発明のメタルハライドランプを、車両の前照灯としての機能を長期間にわたって安全に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】この発明のメタルハライドランプに関する第1の実施形態について説明するための構成図。
【図2】図1の要部を拡大して示した正面図。
【図3】図2の要部をさらに拡大して示した正面図。
【図4】図3のa−a’断面図。
【図5】この発明のメタルハライドランプに関する第2の実施形態について説明するための断面図。
【図6】この発明のメタルハライドランプに関する第3の実施形態について説明するための、図5に相当する断面図。
【図7】この発明のメタルハライドランプに関する第4の実施形態について説明するための、図5に相当する断面図。
【図8】この発明のメタルハライドランプの金属箔に塗布するコーティング層の各実施例について説明するための説明図。
【図9】図8の各実施例によるメタルハライドランプの寿命について説明するための説明図。
【図10】この発明によるメタルハライドランプに関する第5の実施形態について説明するための正面図。
【図11】この発明のメタルハライドランプを自動車用前照灯に適用した場合について説明するための概略的な構成図。
【図12】この発明の自動車用前照灯装置に関する実施形態について説明するための斜視図。
【図13】この発明の点灯装置に関する第1の実施形態について説明するための回路図。
【図14】この発明の点灯装置に関する第2の実施形態について説明するための回路図。
【符号の説明】
【0080】
1 内管
11 放電容器
12a、12b 封止部
13a、13b 非封止部
14 放電空間
2 金属ハロゲン化物
3a,3b マウント
3a1、3b1 金属箔
3a2、3b2 電極
3a3、3b3 リード線
4a,4b 凹凸部
31 凹部
32 凸部
51a 微粒子
61a 針状粒子
51,61,71 コーティング膜
6 サポートワイヤ
7 ソケット
8 絶縁スリーブ
9 外管
121 反射鏡
122 前面カバー
131 直流電源
132 チョッパ
133 制御部
134 始動部
135 メタルハライドランプ
R ランプ電流検出手段
VR ランプ電圧検出手段
141 交流変換手段
142 発振器
Q1〜Q4 スイッチング手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電空間と前記放電空間の両端に設けられた封止部とを有する放電容器と、
前記放電容器内に封入され、ハロゲン化金属と希ガスとを含み、かつ本質的に水銀を含まない放電媒体と、
前記放電空間内に対向して配置された一対の電極と、
前記一対の電極の基部側端部にそれぞれ接合され、かつ前記封止部により気密に封着された金属箔と、
前記金属箔の他方の端部側にそれぞれ接合され、かつ前記封止部外に導出された一対の外部リードと、
前記金属箔の前記電極との接合部を含む領域に、粗度が0.5μm≦Ra≦3μm、1.5μm≦Rz≦10μmで、凹部と凸部が交互に連鎖して網目状に形成した凹凸部と、を具備することを特徴とするメタルハライドランプ。
【請求項2】
前記凹凸部の表面に、金属および金属酸化物からから選ばれる少なくとも一種からなる微粒子からなるコーティング膜を形成したことを特徴とする請求項1記載のメタルハライドランプ。
【請求項3】
前記コーティング膜は、金属および金属酸化物からから選ばれる少なくとも一種からなる針状粒子で形成したことを特徴とする請求項2記載のメタルハライドランプ。
【請求項4】
前記コーティング膜は、金属および金属酸化物からから選ばれる少なくとも一種からなる微粒子と、金属および金属酸化物からから選ばれる少なくとも一種からなる針状粒子とにより形成したことを特徴とする請求項1記載のメタルハライドランプ。
【請求項5】
前記コーティング膜は、前記電極の前記金属箔との接合部側の一部を含む範囲を被覆するように形成したことを特徴とする請求項1記載のメタルハライドランプ。
【請求項6】
前記コーティング膜は、前記電極より比抵抗が大きい材料からなることを特徴とする請求項5記載のメタルハライドランプ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のメタルハライドランプと、
前記メタルハライドランプを直流で点灯する点灯回路と、を具備することを特徴とするメタルハライドランプ点灯装置。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載のメタルハライドランプと、
前記メタルハライドランプが配設され、前記メタルハライドランプの前記放電容器の長手方向に沿った光軸を有する自動車用前照灯装置本体と、を具備することを特徴とする自動車用前照灯装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−181680(P2008−181680A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−12373(P2007−12373)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(000111672)ハリソン東芝ライティング株式会社 (995)
【Fターム(参考)】