メタルハライド放電ランプおよびメタルハライド放電ランプシステム
【課題】 音響的共鳴現象を利用して放電アークを重力誘導対流に反してほぼ直線状に矯正するように点灯する場合に、水銀を含まない放電媒体が気密容器の内面に付着することによって発光効率の向上が得られるとともに色特性の低下を生じにくくしたメタルハライド放電ランプおよびこれを点灯するメタルハライド放電ランプシステムを提供する。
【解決手段】 メタルハライド放電ランプMHLは、耐火性で透光性の気密容器1と、一対の電極1bと、ハロゲン化物および希ガスを含んで気密容器内に封入された放電媒体とを具備し、本質的に水銀が封入されていないで、かつ、放電媒体の放電アークが音響的共鳴現象を利用して電極間を結ぶ直線方向に矯正されるように点灯されるとともに、気密容器1内に封入したハロゲン化物が気密容器1の上部に付着した面積をA(mm2)とし、同じく気密容器1の下部に付着した面積をB(mm2)としたとき、A/B≦0.3を満足する。
【解決手段】 メタルハライド放電ランプMHLは、耐火性で透光性の気密容器1と、一対の電極1bと、ハロゲン化物および希ガスを含んで気密容器内に封入された放電媒体とを具備し、本質的に水銀が封入されていないで、かつ、放電媒体の放電アークが音響的共鳴現象を利用して電極間を結ぶ直線方向に矯正されるように点灯されるとともに、気密容器1内に封入したハロゲン化物が気密容器1の上部に付着した面積をA(mm2)とし、同じく気密容器1の下部に付着した面積をB(mm2)としたとき、A/B≦0.3を満足する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本質的に水銀を封入していないメタルハライド放電ランプおよびこれを点灯するメタルハライド放電ランプシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、HIDランプ(高輝度放電ランプ)は、高効率・長寿命という特徴から屋外照明分野などに広く応用されている。中でもメタルハライドランプは、演色性が良好で、その特性を生かして屋外照明分野のみならず、屋内照明分野にも普及しつつあり、また映像機器用の光源・車両の前照灯用光源として注目されている。なお、従来から一般に用いられているメタルハライドランプは、緩衝体として水銀蒸気が希ガスと一緒に封入されている(以下、便宜上「水銀入りランプ」という。)。
【0003】
メタルハライドランプを従来の一般に用いられているメタルハライドランプ点灯装置の構成により点灯すると、放電アークの中央部の温度は約5000Kに達し、アーク中心部から所定の温度勾配で温度が低下して管壁付近では1000Kになる。そのため、メタルハライドランプを水平点灯した場合、アーク中央部で加熱され密度が小さくなったガスが上方向へ移動し、管壁付近の密度の大きいガスがアーク中心へ流れ込む対流現象が発生する。対流によるガスの流れにより、放電アークは、一対の電極間を結ぶ仮想の直線の管軸より上方へ偏って位置することになる。すなわち、放電アークは、上方へ湾曲する。
【0004】
放電アークが湾曲すると、以下のような問題がある。
1.放電空間上部の気密容器の壁面と放電アークとの距離が小さくなって気密容器の当該部分の温度上昇が大きくなり、気密容器を構成する石英ガラスが劣化しやすくなる。当該部位の石英ガラスが劣化すると、光束が低下し、また反射鏡と組み合わせたときの集光効率の低下が大きくなる。
2.気密容器の石英ガラスが軟化しやすくなり、軟化により変形(膨れ)が発生し、放電空間の内容積が増大して発光特性が変化する。
3.放電空間下部の温度低下を招き、放電ランプ電空間内の動作圧力を決定する最冷点温度が低下し、発光効率が低下する。
4.メタルハライドランプと反射鏡とを組み合わせて使用するとき、一般に反射鏡の光軸上に放電アークを配置するが、反射鏡の光軸に対して放電アークの形状が上下非対称となるので、反射鏡の光軸を含む放電アークの断面形状が光軸を取り巻く全周方向で全て異なる。そのために、反射鏡の光軸を取り巻く全周方向の断面で放電アークの異なる形状を考慮して反射鏡を設計する必要があり、したがって設計が複雑で、その結果としての反射鏡の形状も複雑になる。
【0005】
一方、音響的共鳴現象を利用して放電アークを重力誘導対流に反して直線状に矯正する点灯方式(以下、便宜上「ストレートアーク点灯方式」という。)が知られている(特許文献1、2参照。)。このストレート点灯方式によって放電アークを直線状に矯正すれば、気密容器の温度分布が相対的に均熱化され、気密容器の局所的な温度上昇(水平点灯の際には上部の温度上昇)を小さくして石英ガラスの劣化、変形を防止でき、また放電空間下部の最冷点温度を上昇させて発光効率を向上させることができる。さらに、反射鏡の光軸を取り巻く全周方向で全てほぼ同一形状にできるので、一断面の設計を他の断面に応用できるため、反射鏡の設計が頗る簡単になる。その結果、反射鏡も単純な形状になる。
【0006】
一方、水銀を封入しないメタルハライドランプが本発明者らにより発明され(特許文献3参照。)、以後その実用化に向けた開発が活発に行われている。そして、自動車前照灯用としては2004年7月から実用化されだしている。水銀を封入しないメタルハライドランプ(以下、便宜上「水銀フリーランプ」という。)は、水銀を封入しないので、環境的に好ましく、また始動時の分光特性の立ち上がり特性が良好である、調光に適する、ランプ特性のばらつきが少ない、などの利点がある。今後この構成のメタルハライドランプが普及していくと考えられる。
【0007】
ところが、水銀フリーランプの場合、放電アークが相対的に絞られて細くなる傾向にあり、その結果、放電アークの重力誘導対流によって生じる湾曲が水銀を封入したメタルハライドランプ(以下、便宜上「水銀入りランプ」という。)より大きくなる。そのため、対策が必要である。
【特許文献1】特公平07−009835号公報
【特許文献2】特許第3189609号公報
【特許文献3】特開平11−238488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、上記の問題の対策として特許文献1、2に記載されている音響的共鳴現象を利用して放電アークを直線状に矯正する方法を水銀フリーランプに適用すると放電アークの湾曲が効果的に直線状に矯正されるとともに、耐振性が良好であることを見出した。
【0009】
ところが、水銀フリーランプおよび水銀入りランプのいずれにおいても、放電アークの湾曲を矯正しない点灯の場合、放電媒体は気密容器の下部に滞留するが、水銀フリーランプを、音響的共鳴現象を利用して重力誘導対流に反して放電アークを直線状に矯正するように構成した点灯装置を用いて点灯したところ、放電媒体が気密容器の管壁全体にわたって付着するという現象が発生することが分かった。水銀入りランプでもこのような傾向が見られるが、水銀フリーランプの場合には上記現象が極めて顕著であるために、そのランプ特性に対して以下の影響を与えることが分かった。
(1)気密容器の内面全体に付着した放電媒体が気密容器の内部で発生した可視光を吸収するため、発光効率が低下する。
(2)放電媒体の可視光吸収は、特に青色領域で大きいため、ランプの色特性が変化する。そして、ランプの色温度が低温側へ移行する。
【0010】
本発明は、音響的共鳴現象を利用して放電アークを重力誘導対流に反してほぼ直線状に矯正するように点灯する場合に、水銀を本質的に含まない放電媒体が気密容器の内面に付着することによってランプ特性に与える影響を低減したメタルハライド放電ランプおよびこれを点灯するメタルハライド放電ランプシステムを提供することを一般的な目的とする。
【0011】
また、本発明は、音響的共鳴現象を利用して放電アークを重力誘導対流に反してほぼ直線状に矯正するように点灯する場合に、水銀を本質的に含まない放電媒体が気密容器の内面に付着することによって発光効率の向上が得られるとともに色特性の低下を生じにくくしたメタルハライド放電ランプおよびこれを点灯するメタルハライド放電ランプシステムを提供することを具体的な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明のメタルハライド放電ランプは、耐火性で透光性の気密容器と;気密容器内に封着した一対の電極と;ハロゲン化物および希ガスを含んで気密容器内に封入された放電媒体と;を具備し、本質的に水銀が封入されていないで、かつ、放電媒体の放電アークが音響的共鳴現象を利用して電極間を結ぶ直線方向に矯正されるように点灯されるとともに、気密容器内に封入したハロゲン化物が気密容器の上部に付着した面積をA(mm2)とし、同じく気密容器の下部に付着した面積をB(mm2)としたとき、A/B≦0.3を満足することを特徴としている。
【0013】
本発明においては、上記の構成により、ストレートアーク点灯方式により点灯されたときに、放電媒体が気密容器の上部および下部の内面に所定範囲の割合で付着する。また、その付着の態様が比較的薄い膜状をなしていて、気密容器の内部で発生した可視光が気密容器に付着した放電媒体の膜状部分および放電媒体が付着していない部分を透過して外部へ放射する。
【0014】
気密容器の内面に付着する放電媒体が上下部に対して所定の割合で付着しても、上部に付着したハロゲン化物の温度が相対的に高く上昇することにより、気密容器内のハロゲン化物の蒸気圧が高くなる。その結果、発光効率が向上して全光束が多くなる傾向を示す。一方、気密容器の内面に放電媒体が膜状に付着することによって、可視光がこの膜状に付着した部分の放電媒体に吸収されるために、全光束が低減する傾向を示す。
【0015】
以上の傾向は、相殺されるが、本発明においては、放電媒体が気密容器の上下部に対して上述のように所定の割合で付着していることにより、可視光の増加分が減少分より多くなるので、全体として発光効率が向上して全光束が大きくなる。なお、可視光の増加分が減少分より顕著に多くなる比A/Bの好適な範囲は0.2以下である。これに対して、比A/Bが0.3を超えると、可視光の増加分が減少分より減少するので、発光効率の向上が得られない。
【0016】
また、放電アークが直線状になることによる発光効率も5%程度ある。すなわち、一般に垂直点灯の方が水平点灯より発光効率が5%程度高い傾向がある事実からも理解できるように、放電アークが直線状である場合には、エネルギー損失が同程度小さくなる。
【0017】
さらに、水銀フリーランプをストレートアーク点灯方式により点灯する場合、放電アークを矯正しない場合に比べて耐振性が良好になることを本発明者は見出した。これに対して、水銀入りランプの場合には、ストレートアーク点灯方式により点灯すると、反対に耐振性が低下することも分かった。
【0018】
請求項2に係る発明のメタルハライド放電ランプは、耐火性で透光性の気密容器と;気密容器内に封着した一対の電極と;ハロゲン化物および希ガスを含んで気密容器内に封入された放電媒体と;を具備し、本質的に水銀が封入されていないで、かつ、放電媒体の放電アークが音響的共鳴現象を利用して電極間を結ぶ直線方向に矯正されるように点灯されるとともに、気密容器の内表面積をS(mm2)とし、ハロゲン化物量をR(mg)としたとき、S/R≧70を満足することを特徴としている。
【0019】
本発明においては、上記の構成により、ストレートアーク点灯方式により点灯されたときに、放電媒体が気密容器の上部および下部の内面に所定範囲の割合で付着する。気密容器の上部に付着したハロゲン化物の温度が上昇することにより、気密容器内のハロゲン化物の蒸気圧が高くなって発光効率が向上して全光束が多くなる増加分の方が、同じく下部に付着して全光束が低減する分より多くなるために、全光束が向上する。なお、全光束が顕著に向上する比S/Rの好適な範囲は100以上である。これに対して、比S/Rが70未満になると、可視光の増加分が減少分より減少するので、発光効率の向上が得られない。
【0020】
請求項3に係る発明のメタルハライド放電ランプは、請求項1または2記載のメタルハライド放電ランプにおいて、前記ハロゲン化物は、第1および第2のハロゲン化物を含み、第1のハロゲン化物が所望の発光を行う金属のハロゲン化物であり、第2のハロゲン化物が相対的に蒸気圧が大きくて、かつ、第1のハロゲン化物の金属に比較して可視域に発光しにくい金属のハロゲン化物であることを特徴としている。
【0021】
本発明は、発光金属のハロゲン化物に加えて第2のハロゲン化物を封入することによって水銀入りランプとほぼ同等のランプ電圧を得やすくしている。したがって、ランプ電圧は、主として第2のハロゲン化物の蒸発量で決まる。第2のハロゲン化物が不完全蒸発の場合、蒸発量は第2のハロゲン化物の蒸気圧で決まる。ハロゲン化物の蒸気圧は放電空間を包囲する部位の最冷部温度で決まる。第2のハロゲン化物の点灯中における蒸気圧は、水銀のそれより低いが、第1のハロゲン化物よりは明らかに高く、5気圧以下程度でもよい。
【0022】
請求項4に係る発明のメタルハライド放電ランプは、請求項1ないし3のいずれか一記載のメタルハライド放電ランプにおいて、第1のハロゲン化物は、ナトリウム(Na)、スカンジウム(Sc)および希土類金属の一種または複数種のハロゲン化物であることを特徴としている。
【0023】
本発明は、車両用前照灯に用いるのに好適な白色発光を効率よく発光するメタルハライド放電ランプ用の第1のハロゲン化物を規定している。
【0024】
請求項5に係る発明のメタルハライド放電ランプは、請求項3または4記載のメタルハライド放電ランプにおいて、第2のハロゲン化物は、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、アンチモン(Sb)、ベリリウム(Be)、レニウム(Re)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)およびスズ(Sn)からなるグループの中から選択された1種または複数種の金属のハロゲン化物であることを特徴としている。
【0025】
本発明は、第2のハロゲン化物のための金属として好適なものを規定している。
【0026】
請求項6に係る発明のメタルハライド放電ランプは、ハロゲン化物は、請求項1または2記載のメタルハライド放電ランプにおいて、ハロゲン化インジウム、ハロゲン化タリウムおよびハロゲン化スズを主体としていることを特徴としている。
【0027】
本発明は、液晶プロジェクタなどのプロジェクション用として好適な光色を有するメタルハライド放電ランプを得る場合に用いることのできるハロゲン化物を規定している。
【0028】
請求項7に係る発明のメタルハライド放電ランプは、請求項4記載のメタルハライド放電ランプにおいて、希ガスは、1気圧以上の圧力で封入されていることを特徴としている。
【0029】
本発明は、車両用前照灯のメタルハライド放電ランプなどに好適な希ガスの態様を規定している。希ガスの封入圧力が1気圧以上であると、上記用途に必要な光束立ち上がりの早いメタルハライド放電ランプを得ることができる。
【0030】
請求項8に係る発明のメタルハライド放電ランプは、請求項1ないし7のいずれか一記載のメタルハライド放電ランプにおいて、一対の電極は、電極間距離が0.5〜6mmであることを特徴としている。
【0031】
本発明は、集光効率が良好で、したがって液晶プロジェクタなどのプロジェクション用や車両用前照灯などに用いるメタルハライド放電ランプに好適な電極間距離を規定している。
【0032】
請求項9に係る発明のメタルハライド放電ランプシステムは、請求項1ないし8のいずれか一記載のメタルハライド放電ランプと;メタルハライド放電ランプの電極間を結ぶ直線と直交する方向に音響共鳴現象が発生する周波数成分を有する電流をメタルハライド放電ランプに供給して点灯する点灯回路と;を具備していることを特徴としている。
【0033】
本発明は、ストレートアーク点灯方式を利用してメタルハライド放電ランプを点灯するメタルハライド放電ランプシステムを規定している。
【発明の効果】
【0034】
請求項1ないし8に係る各発明によれば、音響的共鳴現象を利用して放電アークを直線状に矯正するように点灯する場合に、水銀を本質的に含まない放電媒体が気密容器の内面に付着することによってランプ特性に与える影響が低減したメタルハライド放電ランプを提供することができる。
【0035】
請求項1に係る発明によれば、加えて気密容器の上部に付着したハロゲン化物の面積Aと同じく下部に付着したハロゲン化物の面積Bの比A/Bを0.3以下にしたことで発光効率の向上が得られるとともに色特性の低下が生じにくいメタルハライド放電ランプを提供することができる。
【0036】
請求項2に係る発明によれば、加えて気密容器の内表面積Sとハロゲン化物量Rの比S/Rを70以下としたことで発光効率の向上が得られるとともに色特性の低下が生じにくいメタルハライド放電ランプを提供することができる。
【0037】
請求項3に係る発明によれば、加えてハロゲン化物が第1のハロゲン化物および第2のハロゲン化物含むことで水銀を本質的に含まないにもかかわらず水銀入りランプとほぼ同等のランプ電圧を有するメタルハライド放電ランプを提供することができる。
【0038】
請求項4に係る発明によれば、加えて第1のハロゲン化物として特定のハロゲン化物を含んだことで車両用前照灯に用いるのに好適なメタルハライド放電ランプを提供することができる。
【0039】
請求項5に係る発明によれば、加えて第2のハロゲン化物が特定された金属のハロゲン化物であることで水銀とほぼ同等のランプ電圧が得やすいメタルハライド放電ランプを提供することができる。
【0040】
請求項6に係る発明によれば、加えて特定のハロゲン化物を主体としていることでプロジェクション用として好適なメタルハライド放電ランプを提供することができる。
【0041】
請求項7に係る発明によれば、加えて希ガス封入圧を1気圧以上としたことで光束立ち上がりの良好なメタルハライド放電ランプを提供することができる。
【0042】
請求項8に係る発明によれば、加えて電極間距離を特定範囲に規制したことでプロジェクション用や車両用前照灯などに用いるのに好適なメタルハライド放電ランプを提供することができる。
【0043】
請求項9に係る発明によれば、放電媒体が気密容器の内面に付着することによるランプ特性に与える影響を低減したとともに請求項1ないし8に係る発明の効果を有していて、音響的共鳴現象を利用して放電アークを直線状に矯正するように点灯するメタルハライド放電ランプシステムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態を説明する。
【0045】
<第1の形態>
図1および図2は、本発明のメタルハライドランプを実施するための第1の形態としての自動車前照灯用のメタルハライドランプを示し、図1はランプ全体の正面図、図2は平面図である。メタルハライドランプMHLは、発光管IT、絶縁チューブT、外管OTおよび口金Bからなる。
【0046】
〔発光管ITについて〕 発光管ITは、気密容器1、一対の電極1b、1b、一対の外部リード線3A、3Bおよび放電媒体を備えている。
【0047】
(気密容器1について) 気密容器1は、耐火性で透光性である。耐火性とは、放電ランプの通常の作動温度に十分耐える意味である。したがって、気密容器1は、耐火性を備える材料であり、かつ、放電によって発生した所望波長域の可視光を外部に導出することができれば、どのようなもので作られていてもよいが、例えば石英ガラスや透光性セラミックスなどを用いて形成することができる。なお、必要に応じて、石英ガラス製の気密容器1の包囲部1aの内面に耐ハロゲン性または耐ハロゲン化物性の透明性被膜を形成するか、内面を改質することが許容される。また、透光性セラミックスとして透光性アルミナセラミックスを用いることができる。
【0048】
気密容器1が石英ガラスからなる場合、以下の構成を備えている。すなわち、包囲部1aおよび一対の封止部1a1を備えている。包囲部1aは、外形が紡錘形状に成形されてなり、その両端に一対の細長い封止部1a1を一体に備えているとともに、内部に細長いほぼ円柱状の放電空間1cが形成されている。放電空間1cの内容積は、0.1cc以下である。
【0049】
包囲部1aの内容積は、好適には0.05cc以下であり、自動車前照灯用としては0.025cc程度である。なお、放電空間1cが細長いことにより、放電アークに相対的に接近するので、気密容器1の上部の温度上昇が早くなる。
【0050】
また、包囲部1aは、その肉厚を比較的大きくすることができる。すなわち、電極間距離のほぼ中央部の肉厚をその両側の肉厚より大きくすることができる。これにより、気密容器1の伝熱が良好になって気密容器1の放電空間1cの下部および側部内面に付着している放電媒体の温度上昇が早まるために、光束立ち上がりが早くなる。
【0051】
一対の封止部1a1は、包囲部1aを封止するとともに、後述するように電極1bの軸部がここに埋設され、かつ、点灯回路から電流を電極へ気密に導入するのに寄与する手段であり、包囲部1aの両端から一体に延在している。そして、電極1bを封装し、かつ、点灯回路から電流を電極1bへ気密に導入するために、内部に適当な気密封止導通手段として例えば封着金属箔2を気密に埋設している。
【0052】
封着金属箔2は、モリブデン箔からなり、気密容器1の封止部1a1内に気密に埋設されている。なお、封着金属箔2は、気密容器1の封止部1a1の内部に埋設されて当該封止部1a1が気密容器1の包囲部1aの内部を気密に維持するのに協働しながら電流導通導体として機能するための手段である。そして、気密容器1が石英ガラスからなる場合、封着金属2の材料としてはモリブデン(Mo)が最適である。モリブデンは、約350℃になると酸化するので、外部側の端部の温度がこれより温度が低くなるように埋設される。封着金属箔2を封止部1a1に埋設する方法は、特段限定されないが、例えば減圧封止法、ピンチシール法などを採用することができる。内容積が0.1cc以下の小形でキセノン(Xe)などの希ガスを室温で5気圧以上封入する自動車前照灯などに用いるメタルハライド放電ランプの場合は、両者を組み合わせて適用することができる。
【0053】
(一対の電極1b、1bについて) 一対の電極1b、1bは、耐火性金属、例えばいずれもドープドタングステン線からなり、軸方向の先端部、中間部および基端部にわたり軸部の直径が同じで、かつ、先端部および中間部の一部が放電空間1c内に露出している。また、電極1bは、その基端部が封止部1a1に埋設された後述する封着金属箔2に溶接されるとともに、中間部が封止部1a1に緩く支持されることによって気密容器1の所定の位置に配設されている。
【0054】
また、一対の電極1b、1bは、気密容器1の包囲部1aの両端内部に離間対向して封装される。メタルハライド放電ランプが、その放電空間1cの内容積が0.1cc以下と小形のため、電極間距離は0.5〜6mmの範囲内に設定されている。自動車前照灯用としては4.2mm±0.1mmが規格化されている。なお、電極の先端部の突起は、その断面形状が半球形、半楕円球形または切頭円柱形など多様な形状であることを許容する。
【0055】
さらに、一対の電極1b、1bは、その軸部の直径が一般的には0.3〜1mmの範囲内で適当な値に設定されるのがよい。
【0056】
さらにまた、一対の電極1b、1bは、タングステン(W)、レニウム(Re)およびタングステン−レニウム合金(W−Re)などの耐火金属製であってもよい。
【0057】
さらにまた、一対の電極1b、1bは、交流および直流のいずれで作動するように構成してもよい。交流で作動する場合、一対の電極を同一構造とする。直流で作動する場合、一般に陽極は温度上昇が激しいから、先端部近傍に径大部を形成すれば、放熱面積を大きくすることができるとともに、頻繁な点滅に対応することができる。これに対して、陰極は必ずしも径大部を形成する必要がない。
【0058】
なお、図1において、左方の封止部1a1を形成した後、封止管1a2を切断しないで封止部1a1の端部から管軸方向に一体に延長していて、口金B内へ延在させている。
【0059】
(一対の外部リード線3A、3Bについて) 一対の外部リード線3A、3Bは、一対の電極1b、1bに給電するために配設されている。そして、気密容器1が石英ガラスからなる場合、一対の外部リード線3A、3Bの先端が気密容器1の両端の封止部1a1内において封着金属箔2の他端に溶接され、基端側が外部へ導出されている。図1において、気密容器1から右方へ導出された外部リード線3Aは、中間部が後述する外管OTに沿って折り返されて後述する口金B内に導入されて図示しない口金端子の一方に接続している。また、図1において、気密電容器1から左方へ導出された外部リード線3Bは、管軸に沿って延在して口金B内に導入されて口金端子の他方に接続している。
【0060】
(放電媒体について) 放電媒体は、気密容器1の内部に形成された放電空間1c内に封入されており、少なくとも発光金属のハロゲン化物および希ガスが封入され、水銀を本質的に含まない。また、放電媒体は、好ましくは発光金属のハロゲン化物からなる第1のハロゲン化物に加えて、ランプ電圧形成用金属のハロゲン化物からなる第2のハロゲン化物を含んでいる。
【0061】
第1のハロゲン化物は、上記のように発光金属のハロゲン化物からなる。メタルハライド放電ランプの用途に応じて多様な発光金属のハロゲン化物を第1のハロゲン化物として用いることができる。例えば、車両用前照灯に用いられるメタルハライド放電ランプには、ナトリウム、スカンジウムおよびジスプロシウム(Dy)などの希土類金属などの一種または複数種を主体として用いることができる。また、液晶プロジェクタなどのプロジェクション用のメタルハライド放電ランプには、ハロゲン化インジウム、ハロゲン化タリウムおよびハロゲン化スズを主体とする放電媒体を用いることができる。
【0062】
第2のハロゲン化物は、蒸気圧が高くて可視域に発光しないか、または発光が比較的少ない金属すなわち光束を稼ぐ発光金属としては期待されないものの、発光色の色度を改善したり、発光量の10%以下の光束を発生したりすることが許容されるが、主としてランプ電圧を形成するのに好適な金属のハロゲン化物を用いる。第2のハロゲン化物として好適な金属としては、例えばマグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、アンチモン(Sb)、ベリリウム(Be)、レニウム(Re)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)およびスズ(Sn)からなるグループの中から選択された1種または複数種の金属のハロゲン化物を用いることができる。また、補助的なランプ電圧形成媒体としてインジウムハロゲン化物を第2のハロゲン化物に添加するか、第2のハロゲン化物に代えて用いることができる。
【0063】
希ガスは、始動ガスおよび緩衝ガスとして作用し、一般的にはアルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)およびキセノン(Xe)などの一種または複数種を用いることができるが、自動車前照灯用としては、キセノンを5気圧以上、好ましくは8〜16気圧の範囲で封入するか、あるいは点灯時の放電空間内の圧力が50気圧以上になるように封入することにより、点灯直後の発光金属の蒸気圧が低いときに、立ち上がり時の光束としてキセノンの白色発光を寄与させることができる。
【0064】
さらに、水銀について言及しておく。本発明において、「本質的に水銀を含まない」と
は、水銀(Hg)を全く封入していないだけでなく、気密容器の内容積1cc当たり2mg未満、好ましくは1mg以下の水銀が存在していることを許容するという意味である。しかし、水銀を全く封入しないことは環境上望ましいことである。従来のように水銀蒸気によって放電ランプのランプ電圧を所要に高くする場合、短アーク形においては気密容器の内容積1cm3当たり20〜40mg、さらに場合によっては50mg以上封入していたことからすれば、水銀量が実質的に頗る少ないといえる。
【0065】
ハロゲン化物を構成するハロゲンは、反応性に関してハロゲンの中でヨウ素が最も適当であり、少なくとも上記主発光金属は、主としてヨウ化物として封入される。しかし、要すれば、ヨウ化物および臭化物のように異なるハロゲンの化合物を併用することもできる。
【0066】
〔外管OTについて〕 外管OTは、紫外線カット性能を備えており、内部に発光管ITを収納していて、その両端の縮径部4が気密容器1の封止部1a1にガラス溶着している。しかし、内部は気密ではなく、外気に連通している。
【0067】
〔絶縁チューブTについて〕 絶縁チューブTは、外部リード線3Aを被覆している。
【0068】
〔口金Bについて〕 口金Bは、自動車前照灯用として規格化されているもので、放電容器ITおよび外管OTを中心軸に沿って植立して支持していて、自動車前照灯の背面に着脱可能に装着されるように構成されている。
【0069】
〔ハロゲン化物の付着面積比および気密容器の内表面積とハロゲン化物量の比〕
まず、気密容器1の包囲部1aの内面におけるハロゲン化物の付着面積比について説明する。本形態においては、メタルハライド放電ランプMHLのハロゲン化物の付着面積比が次のように構成されている。すなわち、放電媒体の放電アークがストレートアーク点灯方式を利用して電極1b、1b間を結ぶ直線方向に矯正されるようにメタルハライド放電ランプを水平にして点灯した場合に、管軸を含む水平面を境にして気密容器1の包囲部1aの内面を上下に二分して、ハロゲン化物が上部内面に付着している部分の面積をA(mm2)とし、下部内面の同様部分の面積をB(mm2)としたとき、比A/BがA/B≦0.3を満足するように構成されている。なお、上記ハロゲン化物の付着部分は、メタルハライド放電ランプMHLを消灯後冷却状態において計測するものとする。
【0070】
次に、気密容器1の包囲部1aの内表面積と封入ハロゲン化物量の比について説明する。本形態においては、メタルハライド放電ランプMHLの気密容器1の包囲部1aの内表面積S(mm2)とハロゲン化物の封入量R(mg)との比S/RがS/R≧70を満足するように構成されている。
【実施例1】
【0071】
発光管IT
気密容器1a :石英ガラス製、球体長7mm、最大外径6mm、
最大内径2.4mm、内表面積Sが50mm2
電極1b :電極間距離4.2mm
放電媒体
金属ハロゲン化物:ScI30.1mg+NaI0.25mg+
ZnI20.15mg=ハロゲン化物量Rが0.5mg
希ガス :Xe10.5気圧
外管OT :内部雰囲気は大気圧(大気)
安定時ランプ電力 :35W
点灯方向 :水平点灯
点灯方式 :ストレートアーク点灯方式とした。
[比較例1]
点灯方式 :上記音響的共鳴現象が発生しない(放電アークが湾曲する)点灯 方式とした。
【0072】
その他の構成 :実施例1と同じ。
【0073】
上記実施例1および比較例1におけるランプ特性、比A/Bおよび比S/Rを表1に示す。
【0074】
[表1]
区 分 ランプ電圧(V) 発光効率(lm/W) 色温度(K) A/B S/R
実施例1 42.5 94 3722 0.2 100
比較例1 45.0 85 4039 0.1 100
表1から明らかなように、実施例1の発光効率は、比較例1より10%高い。
【0075】
次に、実施例1のメタルハライド放電ランプにおいて、比A/Bの値を変えたランプを製作し、その発光効率を測定した結果に基づいて図3を作成した。図において、横軸は比A/Bを、縦軸は相対発光効率を、それぞれ示す。
【0076】
図3から明らかなように、比A/Bが0.3以下であれば、最大発光効率に対して80%以上の発光効率が得られ、また比A/Bが0.2以下であれば、最大発光効率に対して90%以上の発光効率が得られることが分かる。
【0077】
さらに、実施例1のメタルハライド放電ランプにおいて、比S/Rの値を変えたランプを製作し、その発光効率を測定した結果に基づいて図4を作成した。図において、横軸は比S/Rを、縦軸は相対発光効率を、それぞれ示す。
【0078】
図4から明らかなように、比S/Rが70以上であれば、最大発光効率に対して80%以上の発光効率が得られ、また比S/Rが100以上であれば、最大発光効率に対して90%以上の発光効率が得られることが分かる。
【0079】
次に、実施例1と比較例1のそれぞれのメタルハライド放電ランプについて2000時間の点滅試験(日本電球工業会規格 JEL215「自動車前照灯用HID光源」に準拠)を行った。比較例1のメタルハライド放電ランプは、放電アークが湾曲しているため、発光管上部の石英ガラスの白濁化が大きかった。このため、前照灯内に装着したときの照度維持率が図5に示すように極めて悪くなった。これに対して、実施例1は、概ね良好な照度維持率を示した。
【0080】
図5は、実施例1および比較例1における前照灯内に装着して2000時間の点滅試験を行った場合の照度維持率特性を示すグラフである。図において、横軸は点灯時間(時間)を、縦軸は照度維持率(%)を、それぞれ示す。
【0081】
図から理解できるように、実施例1は照度維持率特性が良好であるが、比較例1は照度維持率が劣っている。これは比較例1のランプでは、放電アークが湾曲しているため、発光管上部の石英ガラスの白濁が進み、反射鏡による集光効率が低下したためである。
【0082】
<第2の形態>
図6は、本発明のメタルハライドランプを実施するための第2の形態としてのプロジェクタ用のメタルハライドランプを示す正面図である。図において、図1および図2と同一部分については同一符号を付して説明は省略する。図中、5は口金、6はリード部材、7は近接導体である。
【0083】
電極1bは、電極軸1b1、電極主部1b2およびくわえ込みコイル1b3を備えている。電極軸1b1は、純タングステン棒からなる。そして、基端が後述する封着金属箔2に溶接され、中間部が封止部1a1に緩く支持され、かつ、先端部が気密容器1の包囲部1aの内部に突出している。電極主部1b2は、純タングステン線を電極軸1b1の先端に数回密巻により2重に巻装することによって形成されている。くわえ込みコイル1b3は、純タングステン細線を電極軸の中間部の少なくとも封止部1a1の石英ガラスによるくわえ込み部分に対向する部位に適当なピッチで巻装されている。
【0084】
口金5は、図示されていない導入導体に接続するとともに、封止部1a1に無機質接着剤により固着されていて、発光管ITを図示しない反射鏡に取り付ける際に利用され、また図示しない点灯回路の一極に接続する。
【0085】
リード部材6は、図において右側の導入導体3Aに先端部が接続するとともに、基端部が点灯回路の他極に接続する。
【0086】
近接導体7は、先端部が図において左側の電極1bに接近した位置に延在し、基端部が図において右側の導入導体3Aに接続している。
【0087】
第2の形態においても、気密容器1の包囲部1aの内面に対するハロゲン化物の付着面積比A/Bおよび包囲部1aの内表面積とハロゲン化物量の比が第1の形態におけるそれと同様に構成されている。
【実施例2】
【0088】
発光管IT
気密容器1a :石英ガラス製、最大内径10mm、内表面積Sが314mm2
電極1b :電極間距離3mm
放電媒体
金属ハロゲン化物:DyI30.5mg+NdI30.5mg+
ZnI22mg=ハロゲン化物量Rが3mg
希ガス :Ar500Torr
安定時ランプ電力 :150W
点灯方向 :水平点灯
点灯方式 :ストレートアーク点灯方式とした。
[比較例2]
点灯方式 :音響的共鳴現象が発生しない点灯方式とした。
【0089】
その他の構成 :実施例2と同じ。
【0090】
上記実施例2および比較例2におけるランプ特性、比A/Bおよび比S/Rを表2に示す。
【0091】
[表2]
区 分 ランプ電圧(V) 発光効率(lm/W) 色温度(K) A/B S/R
実施例2 98 119 3540 0.2 105
比較例2 109 108 3897 0.1 105
表2から明らかなように、実施例2の発光効率は、比較例2より10%高い。
【0092】
次に、実施例2のメタルハライド放電ランプにおいて、比A/Bの値を変えたランプを製作し、その発光効率を測定した結果に基づいて図7を作成した。図において、横軸は比A/Bを、縦軸は相対発光効率を、それぞれ示す。
【0093】
図7から明らかなように、比A/Bが0.3以下であれば、最大発光効率に対して80%以上の発光効率が得られ、また比A/Bが0.2以下であれば、最大発光効率に対して90%以上の発光効率が得られることが分かる。
【0094】
さらに、実施例2のメタルハライド放電ランプにおいて、比S/Rの値を変えたランプを製作し、その発光効率を測定した結果に基づいて図8を作成した。図において、横軸は比S/Rを、縦軸は相対発光効率を、それぞれ示す。
【0095】
図8から明らかなように、比S/Rが70以上であれば、最大発光効率に対して80%以上の発光効率が得られ、また比S/Rが105以上であれば、最大発光効率に対して90%以上の発光効率が得られることが分かる。
【0096】
また、実施例2および比較例2について寿命試験を実施した結果、両者は実施例および比較例1と同様な傾向を示した。
【0097】
<第3の形態>
第1の形態と同様のメタルハライド放電ランプにおいて、ハロゲン化物としてヨウ化インジウムを用いた。
【実施例3】
【0098】
金属ハロゲン化物:InI0.5mg=ハロゲン化物量Rが0.5mg
その他の構成 :実施例1と同じ。
[比較例3]
点灯方式 :音響的共鳴現象が発生しない点灯方式とした。
【0099】
その他の構成 :実施例3と同じ。
【0100】
上記実施例3および比較例3におけるランプ特性、比A/Bおよび比S/Rを表3に示す。
【0101】
[表3]
区 分 ランプ電圧(V) 発光効率(lm/W) A/B S/R
実施例2 45 55 0.2 100
比較例2 50 50 0.1 100
表3から明らかなように、実施例3の発光効率は、比較例3より10%高い。
【0102】
次に、実施例3のメタルハライド放電ランプにおいて、比A/Bの値を変えたランプを製作し、その発光効率を測定した結果に基づいて図9を作成した。図において、横軸は比A/Bを、縦軸は相対発光効率を、それぞれ示す。
【0103】
図9から明らかなように、比A/Bが0.3以下であれば、最大発光効率に対して80%以上の発光効率が得られ、また比A/Bが0.2以下であれば、最大発光効率に対して90%以上の発光効率が得られることが分かる。
【0104】
さらに、実施例3のメタルハライド放電ランプにおいて、比S/Rの値を変えたランプを製作し、その発光効率を測定した結果に基づいて図10を作成した。図において、横軸は比S/Rを、縦軸は相対発光効率を、それぞれ示す。
【0105】
図10から明らかなように、比S/Rが70以上であれば、最大発光効率に対して80%以上の発光効率が得られ、また比S/Rが100以上であれば、最大発光効率に対して90%以上の発光効率が得られることが分かる。
【0106】
また、実施例3および比較例3について寿命試験を実施した結果、両者は実施例1および比較例1と同様な傾向を示した。
【0107】
<第4の形態>
本形態は、耐振性に優れたメタルハライド放電ランプシステムである。
【0108】
ストレートアーク点灯方式で水銀入りランプを点灯する場合、前述のように耐振性が低下する理由は詳らかでないが、以下の推測ができる。
【0109】
すなわち、水銀入りランプの場合、点灯中の水銀蒸気圧は極めて高く、またアークを形成する成分の殆どが水銀蒸気である。水銀原子の原子量は200である。なお、希ガスとして封入されるキセノンの原子量は131である。そして、気密容器内の放電媒体の対流速度は、水銀の原子量が上記のように大きいため、水銀入りランプの方が大きい。特に電極近傍においては、対流が局部的に大きくなることが観測されている。ところで、ストレートアーク点灯方式の場合、音波の疎密波の定在波において、電極間を結ぶ仮想線の位置に疎の部分があれば、周囲の密の部分からの力を受けることによって、放電アークが直線状に矯正される。水銀入りランプにおいては、ストレートアーク点灯方式によって点灯したときに、振動状態では、上記のように大きな対流のため、振動により放電アークが大きく動く。その結果、アークが不安定になる。
【0110】
一方、水銀フリーランプでは、水銀入りランプに比較して放電アークが細くなる。放電アークが湾曲した状態でアークが細いと、振動への耐性がなくなる。ところが、ストレートアーク点灯方式により点灯すると、放電アークは管軸方向に直線状に矯正されて安定し、耐振性が付与される。また、放電アークは、細い方が電極間を結ぶ疎の部分にアークをしっかりと押さえ込むことができる。
【0111】
したがって、本発明のメタルハライド放電ランプを例えば自動車前照灯のように常時振動が加わる灯具に装着して、かつ、ストレートアーク点灯方式により点灯するように構成すれば、耐振性に優れたメタルハライド放電ランプシステムを得ることができる。
【0112】
次に、実施例4を振動試験した結果について比較例4〜6と比較しながら説明する。
【実施例4】
【0113】
ランプ構成 :実施例1と同じ。
【0114】
点灯方式 :ストレートアーク点灯方式とした(表4のストレート)。
【0115】
その他の構成 :実施例1と同じ。
[比較例4]
ランプ構成 :実施例1と同じ。
【0116】
点灯方式 :音響的共鳴現象が発生しない点灯方式とした(表4の湾曲)。
【0117】
その他の構成 :実施例1と同じ。
[比較例5]
放電媒体
金属ハロゲン化物:ScI30.1mg+NaI0.25mg
=ハロゲン化物量Rが0.35mg
水銀 :0.2mg
希ガス :Xe5気圧
点灯方式 :ストレートアーク点灯方式とした(表4のストレート)。
【0118】
その他の構成 :実施例1と同じ。
[比較例6]
ランプ構成 :比較例5と同じ。
【0119】
点灯方式 :音響的共鳴現象が発生しない点灯方式とした(表4の湾曲)。
【0120】
その他の構成 :実施例1と同じ。
【0121】
上記実施例4および比較例4〜6について、JISC7506−2「自動車用電球」の付属書Bに記載されている標準試験条件(加速度の公差±1dB、試験時間20時間、点滅サイクル20分点灯、10分消灯)にて、実施例4および比較例4〜6のランプをそれぞれ20灯ずつ評価した。その結果を表4に示す。
【0122】
[表4]
区 分 仕 様 点灯方式 5時間経過後残数 20時間経過後残数
実施例4 水銀フリーランプ ストレート 19/20 17/20
比較例4 水銀フリーランプ 湾 曲 15/20 12/20
比較例5 水銀入りランプ ストレート 5/20 1/20
比較例6 水銀入りランプ 湾曲 20/20 19/20
表4から明らかなように、水銀フリーランプは、ストレートアーク点灯方式の場合に耐振性が優れているが、音響的共鳴現象が発生しない点灯方式によりアークが湾曲する場合、耐振性が低い。
【0123】
これに対して、水銀入りランプは、音響的共鳴現象が発生しない点灯方式によりアークが湾曲する場合、耐振性に問題がないが、ストレートアーク点灯方式では耐振性に問題がある。
【0124】
<第5の形態>
図11は、本発明のメタルハライド放電ランプシステムを実施するための一形態を示す回路ブロック図である。図において、メタルハライド放電ランプシステムは、メタルハライド放電ランプMHL、点灯回路OCおよび始動回路STを具備している。点灯回路OCは、基本波形発生回路BWGおよび高周波成分重畳回路HFGを備えている。
【0125】
メタルハライド放電ランプMHLは、図1および図2に示す第1または第3の形態あるいは図3に示す第2の形態のランプからなる。
【0126】
点灯回路OCは、メタルハライド放電ランプMHLを付勢して点灯を維持する回路であり、メタルハライド放電ランプMHLに直列接続した適当な限流インピーダンスを含んでいる。メタルハライド放電ランプMHLの付勢は、基本波形が交流または直流に高周波を重畳した態様の電圧、電流または電力を当該ランプに供給することにより行われる。
【0127】
上記高周波としては、ランプ中の放電媒体の放電アークが音響的共鳴現象を利用して電極間を結ぶ直線方向に矯正されるような周波数が選択される。すなわち、上記周波数の電圧、電流または電力がランプに供給されることにより、電極間を結ぶ直線と直交する方向に音響的共鳴現象が発生し、その結果放電アークがほぼ直線状に矯正されるような周波数である。このような周波数は、メタルハライド放電ランプの放電空間に存在する放電媒体の音速と、電極間を結ぶ直線と直交する方向の放電空間の長さとで決定される音響的共鳴周波数に等しい。また、高周波の周波数は、上記音響的共鳴周波数を含む所定の範囲内で変化する態様であってもよい。
【0128】
また、高周波の電圧、電流または電力の波形は、瞬時値が時間的に変化する波形であり、例えば正弦波、三角波、鋸歯状波、階段状波、指数関数波およびこれら二種以上の複合波などから選択することができる。なお、ランプに供給される電流の基本波形部分は、主として放電アークを生じるエネルギーを供給する。また、基本波は、矩形波や正弦波など適当な波形であることを許容する。
【0129】
点灯回路OCは、その一形態として、直流電源DC、基本波形発生回路BWGおよび高周波成分重畳回路HFGを備えている。
【0130】
直流電源DCは、基本波形発生回路BWGおよび高周波成分重畳回路HFGに対して直流の電源として機能する。低周波交流を整流して直流を得る整流化直流電源や電池電源によって直流電源DCを構成することができる。
【0131】
基本波形発生回路BWGは、前記基本波として交流または直流の電圧、電流または電力を発生する。交流の場合、インバータを用いてこれを発生させることができる。所望により、インバータの前段に直流−直流変換回路、例えば直流チョッパを介在させることができる。これにより、交流の電圧、電流または電力を制御しやすくなる。また、直流の場合、直流−直流変換回路、例えば直流チョッパを用いてこれを発生させることができる。
【0132】
高周波成分重畳回路HFGは、基本波に重畳される前記高周波を発生する。例えば、インバータを用いてこれを構成することができる。
【0133】
また、点灯回路OCは、前記のようにメタルハライド放電ランプMHLに直列接続する限流インピーダンスを含んでいるが、限流インピーダンスとしては、例えばインダクタを用いて適当な値のインダクタンスを用いるのが好ましい。
【0134】
さらに、点灯回路OCは、メタルハライド放電ランプMHLの始動直後に定格ランプ電流以上のランプ電流を供給し、その後時間の経過とともに順次ランプ電流を低減していき、やがて定格電流に落ち着かせるランプ電流傾斜制御特性を備えているように構成することができる。このような構成は、例えば車両用前照灯に用いるメタルハライド放電ランプを点灯する場合に好適である。
【0135】
さらにまた、点灯回路OCは、メタルハライド放電ランプMHLのランプ特性を検出して、基本波成分に重畳する高周波成分の周波数を音響的共鳴周波数に一致させる帰還制御回路手段を具備していることが許容される。
【0136】
始動回路STは、メタルハライド放電ランプMHLの始動時に高電圧パルスなどを発生してこれを上記ランプに印加することでその始動を容易にする。そのために、始動回路STは、メタルハライド放電ランプMHLと限流インピーダンスとの間に介在するように配設されるのが好ましい。
【0137】
そうして、本形態のメタルハライド放電ランプシステムは、そのメタルハライド放電ランプ中の放電媒体が水銀を本質的に含まないので、放電アークが水銀を含むメタルハライド放電ランプより強く湾曲しやすいにもかかわらず、以上説明したように構成されているため、音響的共鳴による定在波が電極間を結ぶ仮想直線と直交する方向に形成されて放電アークが上記直線方向に沿ったほぼ直線状に矯正される。
【0138】
放電アークがほぼ直線状に矯正される理由は、以下のように推察される。すなわち、メタルハライド放電ランプMHLに供給される電圧、電流または電力の周期的な変動によって放電アークにガス圧力の周期的な変動を生じる。このガス圧力の周期的な変動が粗密波(進行波)となって管軸の全周方向から気密容器1の内壁面に向かって進行し、内壁面で反射されて反射波となる。そのため、放電アークの近傍では、進行波と反射波とが衝突して、両波の変位に差があると、両波の変位が小さくなる位置に放電アークが移動してほぼ直線状に矯正されるものと推察される。
【0139】
高周波である音響的共鳴周波数の電圧、電流または電力をメタルハライド放電ランプMHLに供給すると、電極間を結ぶ仮想直線に直交する方向の放電空間の断面において、放電アークが包囲部の内壁面に対して等距離の位置(例えば上記断面が円形である場合には円の中心)では、放電アークを含むその近傍で進行波と反射波の変位を常に同レベルに制御でき、その結果放電アークが移動することなく安定に点灯できる。このとき、上記断面では2つの疎密波(進行波と反射波)が干渉して定在波が発生している。
【0140】
また、放電アークと交差する方向の放電空間の長さを電極間を結ぶ仮想直線と直交する断面の長さとすると、包囲部の内表面に対して等距離である上記断面の中心で放電アークが移動することなく安定になるため、放電アークの形状が直線状になる。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】本発明のメタルハライドランプを実施するための第1の形態としての自動車前照灯用のメタルハライドランプを示すランプ全体の正面図
【図2】同じく平面図
【図3】第1の形態における比A/Bと発光効率の関係を示すグラフ
【図4】同じく比S/Rと発光効率の関係を示すグラフ
【図5】実施例1および比較例1における前照灯内に装着して2000時間の点滅試験を行った場合の照度維持率特性を示すグラフ
【図6】本発明のメタルハライドランプを実施するための第2の形態としてのプロジェクタ用のメタルハライドランプを示す正面図
【図7】第2の形態における比A/Bと発光効率の関係を示すグラフ
【図8】同じく比S/Rと発光効率の関係を示すグラフ
【図9】第3の形態における比A/Bと発光効率の関係を示すグラフ
【図10】同じく比S/Rと発光効率の関係を示すグラフ
【図11】本発明のメタルハライド放電ランプシステムを実施するための一形態を示す回路ブロック図
【符号の説明】
【0142】
1…気密容器、1a…包囲部、1a1…封止部、1a2…封止管、1b…電極、1c…放電空間、2…封着金属箔、3A、3B…導入導体、B…口金、IT…発光管、MHL…メタルハライド放電ランプ、OT…外管
【技術分野】
【0001】
本発明は、本質的に水銀を封入していないメタルハライド放電ランプおよびこれを点灯するメタルハライド放電ランプシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、HIDランプ(高輝度放電ランプ)は、高効率・長寿命という特徴から屋外照明分野などに広く応用されている。中でもメタルハライドランプは、演色性が良好で、その特性を生かして屋外照明分野のみならず、屋内照明分野にも普及しつつあり、また映像機器用の光源・車両の前照灯用光源として注目されている。なお、従来から一般に用いられているメタルハライドランプは、緩衝体として水銀蒸気が希ガスと一緒に封入されている(以下、便宜上「水銀入りランプ」という。)。
【0003】
メタルハライドランプを従来の一般に用いられているメタルハライドランプ点灯装置の構成により点灯すると、放電アークの中央部の温度は約5000Kに達し、アーク中心部から所定の温度勾配で温度が低下して管壁付近では1000Kになる。そのため、メタルハライドランプを水平点灯した場合、アーク中央部で加熱され密度が小さくなったガスが上方向へ移動し、管壁付近の密度の大きいガスがアーク中心へ流れ込む対流現象が発生する。対流によるガスの流れにより、放電アークは、一対の電極間を結ぶ仮想の直線の管軸より上方へ偏って位置することになる。すなわち、放電アークは、上方へ湾曲する。
【0004】
放電アークが湾曲すると、以下のような問題がある。
1.放電空間上部の気密容器の壁面と放電アークとの距離が小さくなって気密容器の当該部分の温度上昇が大きくなり、気密容器を構成する石英ガラスが劣化しやすくなる。当該部位の石英ガラスが劣化すると、光束が低下し、また反射鏡と組み合わせたときの集光効率の低下が大きくなる。
2.気密容器の石英ガラスが軟化しやすくなり、軟化により変形(膨れ)が発生し、放電空間の内容積が増大して発光特性が変化する。
3.放電空間下部の温度低下を招き、放電ランプ電空間内の動作圧力を決定する最冷点温度が低下し、発光効率が低下する。
4.メタルハライドランプと反射鏡とを組み合わせて使用するとき、一般に反射鏡の光軸上に放電アークを配置するが、反射鏡の光軸に対して放電アークの形状が上下非対称となるので、反射鏡の光軸を含む放電アークの断面形状が光軸を取り巻く全周方向で全て異なる。そのために、反射鏡の光軸を取り巻く全周方向の断面で放電アークの異なる形状を考慮して反射鏡を設計する必要があり、したがって設計が複雑で、その結果としての反射鏡の形状も複雑になる。
【0005】
一方、音響的共鳴現象を利用して放電アークを重力誘導対流に反して直線状に矯正する点灯方式(以下、便宜上「ストレートアーク点灯方式」という。)が知られている(特許文献1、2参照。)。このストレート点灯方式によって放電アークを直線状に矯正すれば、気密容器の温度分布が相対的に均熱化され、気密容器の局所的な温度上昇(水平点灯の際には上部の温度上昇)を小さくして石英ガラスの劣化、変形を防止でき、また放電空間下部の最冷点温度を上昇させて発光効率を向上させることができる。さらに、反射鏡の光軸を取り巻く全周方向で全てほぼ同一形状にできるので、一断面の設計を他の断面に応用できるため、反射鏡の設計が頗る簡単になる。その結果、反射鏡も単純な形状になる。
【0006】
一方、水銀を封入しないメタルハライドランプが本発明者らにより発明され(特許文献3参照。)、以後その実用化に向けた開発が活発に行われている。そして、自動車前照灯用としては2004年7月から実用化されだしている。水銀を封入しないメタルハライドランプ(以下、便宜上「水銀フリーランプ」という。)は、水銀を封入しないので、環境的に好ましく、また始動時の分光特性の立ち上がり特性が良好である、調光に適する、ランプ特性のばらつきが少ない、などの利点がある。今後この構成のメタルハライドランプが普及していくと考えられる。
【0007】
ところが、水銀フリーランプの場合、放電アークが相対的に絞られて細くなる傾向にあり、その結果、放電アークの重力誘導対流によって生じる湾曲が水銀を封入したメタルハライドランプ(以下、便宜上「水銀入りランプ」という。)より大きくなる。そのため、対策が必要である。
【特許文献1】特公平07−009835号公報
【特許文献2】特許第3189609号公報
【特許文献3】特開平11−238488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、上記の問題の対策として特許文献1、2に記載されている音響的共鳴現象を利用して放電アークを直線状に矯正する方法を水銀フリーランプに適用すると放電アークの湾曲が効果的に直線状に矯正されるとともに、耐振性が良好であることを見出した。
【0009】
ところが、水銀フリーランプおよび水銀入りランプのいずれにおいても、放電アークの湾曲を矯正しない点灯の場合、放電媒体は気密容器の下部に滞留するが、水銀フリーランプを、音響的共鳴現象を利用して重力誘導対流に反して放電アークを直線状に矯正するように構成した点灯装置を用いて点灯したところ、放電媒体が気密容器の管壁全体にわたって付着するという現象が発生することが分かった。水銀入りランプでもこのような傾向が見られるが、水銀フリーランプの場合には上記現象が極めて顕著であるために、そのランプ特性に対して以下の影響を与えることが分かった。
(1)気密容器の内面全体に付着した放電媒体が気密容器の内部で発生した可視光を吸収するため、発光効率が低下する。
(2)放電媒体の可視光吸収は、特に青色領域で大きいため、ランプの色特性が変化する。そして、ランプの色温度が低温側へ移行する。
【0010】
本発明は、音響的共鳴現象を利用して放電アークを重力誘導対流に反してほぼ直線状に矯正するように点灯する場合に、水銀を本質的に含まない放電媒体が気密容器の内面に付着することによってランプ特性に与える影響を低減したメタルハライド放電ランプおよびこれを点灯するメタルハライド放電ランプシステムを提供することを一般的な目的とする。
【0011】
また、本発明は、音響的共鳴現象を利用して放電アークを重力誘導対流に反してほぼ直線状に矯正するように点灯する場合に、水銀を本質的に含まない放電媒体が気密容器の内面に付着することによって発光効率の向上が得られるとともに色特性の低下を生じにくくしたメタルハライド放電ランプおよびこれを点灯するメタルハライド放電ランプシステムを提供することを具体的な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明のメタルハライド放電ランプは、耐火性で透光性の気密容器と;気密容器内に封着した一対の電極と;ハロゲン化物および希ガスを含んで気密容器内に封入された放電媒体と;を具備し、本質的に水銀が封入されていないで、かつ、放電媒体の放電アークが音響的共鳴現象を利用して電極間を結ぶ直線方向に矯正されるように点灯されるとともに、気密容器内に封入したハロゲン化物が気密容器の上部に付着した面積をA(mm2)とし、同じく気密容器の下部に付着した面積をB(mm2)としたとき、A/B≦0.3を満足することを特徴としている。
【0013】
本発明においては、上記の構成により、ストレートアーク点灯方式により点灯されたときに、放電媒体が気密容器の上部および下部の内面に所定範囲の割合で付着する。また、その付着の態様が比較的薄い膜状をなしていて、気密容器の内部で発生した可視光が気密容器に付着した放電媒体の膜状部分および放電媒体が付着していない部分を透過して外部へ放射する。
【0014】
気密容器の内面に付着する放電媒体が上下部に対して所定の割合で付着しても、上部に付着したハロゲン化物の温度が相対的に高く上昇することにより、気密容器内のハロゲン化物の蒸気圧が高くなる。その結果、発光効率が向上して全光束が多くなる傾向を示す。一方、気密容器の内面に放電媒体が膜状に付着することによって、可視光がこの膜状に付着した部分の放電媒体に吸収されるために、全光束が低減する傾向を示す。
【0015】
以上の傾向は、相殺されるが、本発明においては、放電媒体が気密容器の上下部に対して上述のように所定の割合で付着していることにより、可視光の増加分が減少分より多くなるので、全体として発光効率が向上して全光束が大きくなる。なお、可視光の増加分が減少分より顕著に多くなる比A/Bの好適な範囲は0.2以下である。これに対して、比A/Bが0.3を超えると、可視光の増加分が減少分より減少するので、発光効率の向上が得られない。
【0016】
また、放電アークが直線状になることによる発光効率も5%程度ある。すなわち、一般に垂直点灯の方が水平点灯より発光効率が5%程度高い傾向がある事実からも理解できるように、放電アークが直線状である場合には、エネルギー損失が同程度小さくなる。
【0017】
さらに、水銀フリーランプをストレートアーク点灯方式により点灯する場合、放電アークを矯正しない場合に比べて耐振性が良好になることを本発明者は見出した。これに対して、水銀入りランプの場合には、ストレートアーク点灯方式により点灯すると、反対に耐振性が低下することも分かった。
【0018】
請求項2に係る発明のメタルハライド放電ランプは、耐火性で透光性の気密容器と;気密容器内に封着した一対の電極と;ハロゲン化物および希ガスを含んで気密容器内に封入された放電媒体と;を具備し、本質的に水銀が封入されていないで、かつ、放電媒体の放電アークが音響的共鳴現象を利用して電極間を結ぶ直線方向に矯正されるように点灯されるとともに、気密容器の内表面積をS(mm2)とし、ハロゲン化物量をR(mg)としたとき、S/R≧70を満足することを特徴としている。
【0019】
本発明においては、上記の構成により、ストレートアーク点灯方式により点灯されたときに、放電媒体が気密容器の上部および下部の内面に所定範囲の割合で付着する。気密容器の上部に付着したハロゲン化物の温度が上昇することにより、気密容器内のハロゲン化物の蒸気圧が高くなって発光効率が向上して全光束が多くなる増加分の方が、同じく下部に付着して全光束が低減する分より多くなるために、全光束が向上する。なお、全光束が顕著に向上する比S/Rの好適な範囲は100以上である。これに対して、比S/Rが70未満になると、可視光の増加分が減少分より減少するので、発光効率の向上が得られない。
【0020】
請求項3に係る発明のメタルハライド放電ランプは、請求項1または2記載のメタルハライド放電ランプにおいて、前記ハロゲン化物は、第1および第2のハロゲン化物を含み、第1のハロゲン化物が所望の発光を行う金属のハロゲン化物であり、第2のハロゲン化物が相対的に蒸気圧が大きくて、かつ、第1のハロゲン化物の金属に比較して可視域に発光しにくい金属のハロゲン化物であることを特徴としている。
【0021】
本発明は、発光金属のハロゲン化物に加えて第2のハロゲン化物を封入することによって水銀入りランプとほぼ同等のランプ電圧を得やすくしている。したがって、ランプ電圧は、主として第2のハロゲン化物の蒸発量で決まる。第2のハロゲン化物が不完全蒸発の場合、蒸発量は第2のハロゲン化物の蒸気圧で決まる。ハロゲン化物の蒸気圧は放電空間を包囲する部位の最冷部温度で決まる。第2のハロゲン化物の点灯中における蒸気圧は、水銀のそれより低いが、第1のハロゲン化物よりは明らかに高く、5気圧以下程度でもよい。
【0022】
請求項4に係る発明のメタルハライド放電ランプは、請求項1ないし3のいずれか一記載のメタルハライド放電ランプにおいて、第1のハロゲン化物は、ナトリウム(Na)、スカンジウム(Sc)および希土類金属の一種または複数種のハロゲン化物であることを特徴としている。
【0023】
本発明は、車両用前照灯に用いるのに好適な白色発光を効率よく発光するメタルハライド放電ランプ用の第1のハロゲン化物を規定している。
【0024】
請求項5に係る発明のメタルハライド放電ランプは、請求項3または4記載のメタルハライド放電ランプにおいて、第2のハロゲン化物は、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、アンチモン(Sb)、ベリリウム(Be)、レニウム(Re)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)およびスズ(Sn)からなるグループの中から選択された1種または複数種の金属のハロゲン化物であることを特徴としている。
【0025】
本発明は、第2のハロゲン化物のための金属として好適なものを規定している。
【0026】
請求項6に係る発明のメタルハライド放電ランプは、ハロゲン化物は、請求項1または2記載のメタルハライド放電ランプにおいて、ハロゲン化インジウム、ハロゲン化タリウムおよびハロゲン化スズを主体としていることを特徴としている。
【0027】
本発明は、液晶プロジェクタなどのプロジェクション用として好適な光色を有するメタルハライド放電ランプを得る場合に用いることのできるハロゲン化物を規定している。
【0028】
請求項7に係る発明のメタルハライド放電ランプは、請求項4記載のメタルハライド放電ランプにおいて、希ガスは、1気圧以上の圧力で封入されていることを特徴としている。
【0029】
本発明は、車両用前照灯のメタルハライド放電ランプなどに好適な希ガスの態様を規定している。希ガスの封入圧力が1気圧以上であると、上記用途に必要な光束立ち上がりの早いメタルハライド放電ランプを得ることができる。
【0030】
請求項8に係る発明のメタルハライド放電ランプは、請求項1ないし7のいずれか一記載のメタルハライド放電ランプにおいて、一対の電極は、電極間距離が0.5〜6mmであることを特徴としている。
【0031】
本発明は、集光効率が良好で、したがって液晶プロジェクタなどのプロジェクション用や車両用前照灯などに用いるメタルハライド放電ランプに好適な電極間距離を規定している。
【0032】
請求項9に係る発明のメタルハライド放電ランプシステムは、請求項1ないし8のいずれか一記載のメタルハライド放電ランプと;メタルハライド放電ランプの電極間を結ぶ直線と直交する方向に音響共鳴現象が発生する周波数成分を有する電流をメタルハライド放電ランプに供給して点灯する点灯回路と;を具備していることを特徴としている。
【0033】
本発明は、ストレートアーク点灯方式を利用してメタルハライド放電ランプを点灯するメタルハライド放電ランプシステムを規定している。
【発明の効果】
【0034】
請求項1ないし8に係る各発明によれば、音響的共鳴現象を利用して放電アークを直線状に矯正するように点灯する場合に、水銀を本質的に含まない放電媒体が気密容器の内面に付着することによってランプ特性に与える影響が低減したメタルハライド放電ランプを提供することができる。
【0035】
請求項1に係る発明によれば、加えて気密容器の上部に付着したハロゲン化物の面積Aと同じく下部に付着したハロゲン化物の面積Bの比A/Bを0.3以下にしたことで発光効率の向上が得られるとともに色特性の低下が生じにくいメタルハライド放電ランプを提供することができる。
【0036】
請求項2に係る発明によれば、加えて気密容器の内表面積Sとハロゲン化物量Rの比S/Rを70以下としたことで発光効率の向上が得られるとともに色特性の低下が生じにくいメタルハライド放電ランプを提供することができる。
【0037】
請求項3に係る発明によれば、加えてハロゲン化物が第1のハロゲン化物および第2のハロゲン化物含むことで水銀を本質的に含まないにもかかわらず水銀入りランプとほぼ同等のランプ電圧を有するメタルハライド放電ランプを提供することができる。
【0038】
請求項4に係る発明によれば、加えて第1のハロゲン化物として特定のハロゲン化物を含んだことで車両用前照灯に用いるのに好適なメタルハライド放電ランプを提供することができる。
【0039】
請求項5に係る発明によれば、加えて第2のハロゲン化物が特定された金属のハロゲン化物であることで水銀とほぼ同等のランプ電圧が得やすいメタルハライド放電ランプを提供することができる。
【0040】
請求項6に係る発明によれば、加えて特定のハロゲン化物を主体としていることでプロジェクション用として好適なメタルハライド放電ランプを提供することができる。
【0041】
請求項7に係る発明によれば、加えて希ガス封入圧を1気圧以上としたことで光束立ち上がりの良好なメタルハライド放電ランプを提供することができる。
【0042】
請求項8に係る発明によれば、加えて電極間距離を特定範囲に規制したことでプロジェクション用や車両用前照灯などに用いるのに好適なメタルハライド放電ランプを提供することができる。
【0043】
請求項9に係る発明によれば、放電媒体が気密容器の内面に付着することによるランプ特性に与える影響を低減したとともに請求項1ないし8に係る発明の効果を有していて、音響的共鳴現象を利用して放電アークを直線状に矯正するように点灯するメタルハライド放電ランプシステムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態を説明する。
【0045】
<第1の形態>
図1および図2は、本発明のメタルハライドランプを実施するための第1の形態としての自動車前照灯用のメタルハライドランプを示し、図1はランプ全体の正面図、図2は平面図である。メタルハライドランプMHLは、発光管IT、絶縁チューブT、外管OTおよび口金Bからなる。
【0046】
〔発光管ITについて〕 発光管ITは、気密容器1、一対の電極1b、1b、一対の外部リード線3A、3Bおよび放電媒体を備えている。
【0047】
(気密容器1について) 気密容器1は、耐火性で透光性である。耐火性とは、放電ランプの通常の作動温度に十分耐える意味である。したがって、気密容器1は、耐火性を備える材料であり、かつ、放電によって発生した所望波長域の可視光を外部に導出することができれば、どのようなもので作られていてもよいが、例えば石英ガラスや透光性セラミックスなどを用いて形成することができる。なお、必要に応じて、石英ガラス製の気密容器1の包囲部1aの内面に耐ハロゲン性または耐ハロゲン化物性の透明性被膜を形成するか、内面を改質することが許容される。また、透光性セラミックスとして透光性アルミナセラミックスを用いることができる。
【0048】
気密容器1が石英ガラスからなる場合、以下の構成を備えている。すなわち、包囲部1aおよび一対の封止部1a1を備えている。包囲部1aは、外形が紡錘形状に成形されてなり、その両端に一対の細長い封止部1a1を一体に備えているとともに、内部に細長いほぼ円柱状の放電空間1cが形成されている。放電空間1cの内容積は、0.1cc以下である。
【0049】
包囲部1aの内容積は、好適には0.05cc以下であり、自動車前照灯用としては0.025cc程度である。なお、放電空間1cが細長いことにより、放電アークに相対的に接近するので、気密容器1の上部の温度上昇が早くなる。
【0050】
また、包囲部1aは、その肉厚を比較的大きくすることができる。すなわち、電極間距離のほぼ中央部の肉厚をその両側の肉厚より大きくすることができる。これにより、気密容器1の伝熱が良好になって気密容器1の放電空間1cの下部および側部内面に付着している放電媒体の温度上昇が早まるために、光束立ち上がりが早くなる。
【0051】
一対の封止部1a1は、包囲部1aを封止するとともに、後述するように電極1bの軸部がここに埋設され、かつ、点灯回路から電流を電極へ気密に導入するのに寄与する手段であり、包囲部1aの両端から一体に延在している。そして、電極1bを封装し、かつ、点灯回路から電流を電極1bへ気密に導入するために、内部に適当な気密封止導通手段として例えば封着金属箔2を気密に埋設している。
【0052】
封着金属箔2は、モリブデン箔からなり、気密容器1の封止部1a1内に気密に埋設されている。なお、封着金属箔2は、気密容器1の封止部1a1の内部に埋設されて当該封止部1a1が気密容器1の包囲部1aの内部を気密に維持するのに協働しながら電流導通導体として機能するための手段である。そして、気密容器1が石英ガラスからなる場合、封着金属2の材料としてはモリブデン(Mo)が最適である。モリブデンは、約350℃になると酸化するので、外部側の端部の温度がこれより温度が低くなるように埋設される。封着金属箔2を封止部1a1に埋設する方法は、特段限定されないが、例えば減圧封止法、ピンチシール法などを採用することができる。内容積が0.1cc以下の小形でキセノン(Xe)などの希ガスを室温で5気圧以上封入する自動車前照灯などに用いるメタルハライド放電ランプの場合は、両者を組み合わせて適用することができる。
【0053】
(一対の電極1b、1bについて) 一対の電極1b、1bは、耐火性金属、例えばいずれもドープドタングステン線からなり、軸方向の先端部、中間部および基端部にわたり軸部の直径が同じで、かつ、先端部および中間部の一部が放電空間1c内に露出している。また、電極1bは、その基端部が封止部1a1に埋設された後述する封着金属箔2に溶接されるとともに、中間部が封止部1a1に緩く支持されることによって気密容器1の所定の位置に配設されている。
【0054】
また、一対の電極1b、1bは、気密容器1の包囲部1aの両端内部に離間対向して封装される。メタルハライド放電ランプが、その放電空間1cの内容積が0.1cc以下と小形のため、電極間距離は0.5〜6mmの範囲内に設定されている。自動車前照灯用としては4.2mm±0.1mmが規格化されている。なお、電極の先端部の突起は、その断面形状が半球形、半楕円球形または切頭円柱形など多様な形状であることを許容する。
【0055】
さらに、一対の電極1b、1bは、その軸部の直径が一般的には0.3〜1mmの範囲内で適当な値に設定されるのがよい。
【0056】
さらにまた、一対の電極1b、1bは、タングステン(W)、レニウム(Re)およびタングステン−レニウム合金(W−Re)などの耐火金属製であってもよい。
【0057】
さらにまた、一対の電極1b、1bは、交流および直流のいずれで作動するように構成してもよい。交流で作動する場合、一対の電極を同一構造とする。直流で作動する場合、一般に陽極は温度上昇が激しいから、先端部近傍に径大部を形成すれば、放熱面積を大きくすることができるとともに、頻繁な点滅に対応することができる。これに対して、陰極は必ずしも径大部を形成する必要がない。
【0058】
なお、図1において、左方の封止部1a1を形成した後、封止管1a2を切断しないで封止部1a1の端部から管軸方向に一体に延長していて、口金B内へ延在させている。
【0059】
(一対の外部リード線3A、3Bについて) 一対の外部リード線3A、3Bは、一対の電極1b、1bに給電するために配設されている。そして、気密容器1が石英ガラスからなる場合、一対の外部リード線3A、3Bの先端が気密容器1の両端の封止部1a1内において封着金属箔2の他端に溶接され、基端側が外部へ導出されている。図1において、気密容器1から右方へ導出された外部リード線3Aは、中間部が後述する外管OTに沿って折り返されて後述する口金B内に導入されて図示しない口金端子の一方に接続している。また、図1において、気密電容器1から左方へ導出された外部リード線3Bは、管軸に沿って延在して口金B内に導入されて口金端子の他方に接続している。
【0060】
(放電媒体について) 放電媒体は、気密容器1の内部に形成された放電空間1c内に封入されており、少なくとも発光金属のハロゲン化物および希ガスが封入され、水銀を本質的に含まない。また、放電媒体は、好ましくは発光金属のハロゲン化物からなる第1のハロゲン化物に加えて、ランプ電圧形成用金属のハロゲン化物からなる第2のハロゲン化物を含んでいる。
【0061】
第1のハロゲン化物は、上記のように発光金属のハロゲン化物からなる。メタルハライド放電ランプの用途に応じて多様な発光金属のハロゲン化物を第1のハロゲン化物として用いることができる。例えば、車両用前照灯に用いられるメタルハライド放電ランプには、ナトリウム、スカンジウムおよびジスプロシウム(Dy)などの希土類金属などの一種または複数種を主体として用いることができる。また、液晶プロジェクタなどのプロジェクション用のメタルハライド放電ランプには、ハロゲン化インジウム、ハロゲン化タリウムおよびハロゲン化スズを主体とする放電媒体を用いることができる。
【0062】
第2のハロゲン化物は、蒸気圧が高くて可視域に発光しないか、または発光が比較的少ない金属すなわち光束を稼ぐ発光金属としては期待されないものの、発光色の色度を改善したり、発光量の10%以下の光束を発生したりすることが許容されるが、主としてランプ電圧を形成するのに好適な金属のハロゲン化物を用いる。第2のハロゲン化物として好適な金属としては、例えばマグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、アンチモン(Sb)、ベリリウム(Be)、レニウム(Re)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)およびスズ(Sn)からなるグループの中から選択された1種または複数種の金属のハロゲン化物を用いることができる。また、補助的なランプ電圧形成媒体としてインジウムハロゲン化物を第2のハロゲン化物に添加するか、第2のハロゲン化物に代えて用いることができる。
【0063】
希ガスは、始動ガスおよび緩衝ガスとして作用し、一般的にはアルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)およびキセノン(Xe)などの一種または複数種を用いることができるが、自動車前照灯用としては、キセノンを5気圧以上、好ましくは8〜16気圧の範囲で封入するか、あるいは点灯時の放電空間内の圧力が50気圧以上になるように封入することにより、点灯直後の発光金属の蒸気圧が低いときに、立ち上がり時の光束としてキセノンの白色発光を寄与させることができる。
【0064】
さらに、水銀について言及しておく。本発明において、「本質的に水銀を含まない」と
は、水銀(Hg)を全く封入していないだけでなく、気密容器の内容積1cc当たり2mg未満、好ましくは1mg以下の水銀が存在していることを許容するという意味である。しかし、水銀を全く封入しないことは環境上望ましいことである。従来のように水銀蒸気によって放電ランプのランプ電圧を所要に高くする場合、短アーク形においては気密容器の内容積1cm3当たり20〜40mg、さらに場合によっては50mg以上封入していたことからすれば、水銀量が実質的に頗る少ないといえる。
【0065】
ハロゲン化物を構成するハロゲンは、反応性に関してハロゲンの中でヨウ素が最も適当であり、少なくとも上記主発光金属は、主としてヨウ化物として封入される。しかし、要すれば、ヨウ化物および臭化物のように異なるハロゲンの化合物を併用することもできる。
【0066】
〔外管OTについて〕 外管OTは、紫外線カット性能を備えており、内部に発光管ITを収納していて、その両端の縮径部4が気密容器1の封止部1a1にガラス溶着している。しかし、内部は気密ではなく、外気に連通している。
【0067】
〔絶縁チューブTについて〕 絶縁チューブTは、外部リード線3Aを被覆している。
【0068】
〔口金Bについて〕 口金Bは、自動車前照灯用として規格化されているもので、放電容器ITおよび外管OTを中心軸に沿って植立して支持していて、自動車前照灯の背面に着脱可能に装着されるように構成されている。
【0069】
〔ハロゲン化物の付着面積比および気密容器の内表面積とハロゲン化物量の比〕
まず、気密容器1の包囲部1aの内面におけるハロゲン化物の付着面積比について説明する。本形態においては、メタルハライド放電ランプMHLのハロゲン化物の付着面積比が次のように構成されている。すなわち、放電媒体の放電アークがストレートアーク点灯方式を利用して電極1b、1b間を結ぶ直線方向に矯正されるようにメタルハライド放電ランプを水平にして点灯した場合に、管軸を含む水平面を境にして気密容器1の包囲部1aの内面を上下に二分して、ハロゲン化物が上部内面に付着している部分の面積をA(mm2)とし、下部内面の同様部分の面積をB(mm2)としたとき、比A/BがA/B≦0.3を満足するように構成されている。なお、上記ハロゲン化物の付着部分は、メタルハライド放電ランプMHLを消灯後冷却状態において計測するものとする。
【0070】
次に、気密容器1の包囲部1aの内表面積と封入ハロゲン化物量の比について説明する。本形態においては、メタルハライド放電ランプMHLの気密容器1の包囲部1aの内表面積S(mm2)とハロゲン化物の封入量R(mg)との比S/RがS/R≧70を満足するように構成されている。
【実施例1】
【0071】
発光管IT
気密容器1a :石英ガラス製、球体長7mm、最大外径6mm、
最大内径2.4mm、内表面積Sが50mm2
電極1b :電極間距離4.2mm
放電媒体
金属ハロゲン化物:ScI30.1mg+NaI0.25mg+
ZnI20.15mg=ハロゲン化物量Rが0.5mg
希ガス :Xe10.5気圧
外管OT :内部雰囲気は大気圧(大気)
安定時ランプ電力 :35W
点灯方向 :水平点灯
点灯方式 :ストレートアーク点灯方式とした。
[比較例1]
点灯方式 :上記音響的共鳴現象が発生しない(放電アークが湾曲する)点灯 方式とした。
【0072】
その他の構成 :実施例1と同じ。
【0073】
上記実施例1および比較例1におけるランプ特性、比A/Bおよび比S/Rを表1に示す。
【0074】
[表1]
区 分 ランプ電圧(V) 発光効率(lm/W) 色温度(K) A/B S/R
実施例1 42.5 94 3722 0.2 100
比較例1 45.0 85 4039 0.1 100
表1から明らかなように、実施例1の発光効率は、比較例1より10%高い。
【0075】
次に、実施例1のメタルハライド放電ランプにおいて、比A/Bの値を変えたランプを製作し、その発光効率を測定した結果に基づいて図3を作成した。図において、横軸は比A/Bを、縦軸は相対発光効率を、それぞれ示す。
【0076】
図3から明らかなように、比A/Bが0.3以下であれば、最大発光効率に対して80%以上の発光効率が得られ、また比A/Bが0.2以下であれば、最大発光効率に対して90%以上の発光効率が得られることが分かる。
【0077】
さらに、実施例1のメタルハライド放電ランプにおいて、比S/Rの値を変えたランプを製作し、その発光効率を測定した結果に基づいて図4を作成した。図において、横軸は比S/Rを、縦軸は相対発光効率を、それぞれ示す。
【0078】
図4から明らかなように、比S/Rが70以上であれば、最大発光効率に対して80%以上の発光効率が得られ、また比S/Rが100以上であれば、最大発光効率に対して90%以上の発光効率が得られることが分かる。
【0079】
次に、実施例1と比較例1のそれぞれのメタルハライド放電ランプについて2000時間の点滅試験(日本電球工業会規格 JEL215「自動車前照灯用HID光源」に準拠)を行った。比較例1のメタルハライド放電ランプは、放電アークが湾曲しているため、発光管上部の石英ガラスの白濁化が大きかった。このため、前照灯内に装着したときの照度維持率が図5に示すように極めて悪くなった。これに対して、実施例1は、概ね良好な照度維持率を示した。
【0080】
図5は、実施例1および比較例1における前照灯内に装着して2000時間の点滅試験を行った場合の照度維持率特性を示すグラフである。図において、横軸は点灯時間(時間)を、縦軸は照度維持率(%)を、それぞれ示す。
【0081】
図から理解できるように、実施例1は照度維持率特性が良好であるが、比較例1は照度維持率が劣っている。これは比較例1のランプでは、放電アークが湾曲しているため、発光管上部の石英ガラスの白濁が進み、反射鏡による集光効率が低下したためである。
【0082】
<第2の形態>
図6は、本発明のメタルハライドランプを実施するための第2の形態としてのプロジェクタ用のメタルハライドランプを示す正面図である。図において、図1および図2と同一部分については同一符号を付して説明は省略する。図中、5は口金、6はリード部材、7は近接導体である。
【0083】
電極1bは、電極軸1b1、電極主部1b2およびくわえ込みコイル1b3を備えている。電極軸1b1は、純タングステン棒からなる。そして、基端が後述する封着金属箔2に溶接され、中間部が封止部1a1に緩く支持され、かつ、先端部が気密容器1の包囲部1aの内部に突出している。電極主部1b2は、純タングステン線を電極軸1b1の先端に数回密巻により2重に巻装することによって形成されている。くわえ込みコイル1b3は、純タングステン細線を電極軸の中間部の少なくとも封止部1a1の石英ガラスによるくわえ込み部分に対向する部位に適当なピッチで巻装されている。
【0084】
口金5は、図示されていない導入導体に接続するとともに、封止部1a1に無機質接着剤により固着されていて、発光管ITを図示しない反射鏡に取り付ける際に利用され、また図示しない点灯回路の一極に接続する。
【0085】
リード部材6は、図において右側の導入導体3Aに先端部が接続するとともに、基端部が点灯回路の他極に接続する。
【0086】
近接導体7は、先端部が図において左側の電極1bに接近した位置に延在し、基端部が図において右側の導入導体3Aに接続している。
【0087】
第2の形態においても、気密容器1の包囲部1aの内面に対するハロゲン化物の付着面積比A/Bおよび包囲部1aの内表面積とハロゲン化物量の比が第1の形態におけるそれと同様に構成されている。
【実施例2】
【0088】
発光管IT
気密容器1a :石英ガラス製、最大内径10mm、内表面積Sが314mm2
電極1b :電極間距離3mm
放電媒体
金属ハロゲン化物:DyI30.5mg+NdI30.5mg+
ZnI22mg=ハロゲン化物量Rが3mg
希ガス :Ar500Torr
安定時ランプ電力 :150W
点灯方向 :水平点灯
点灯方式 :ストレートアーク点灯方式とした。
[比較例2]
点灯方式 :音響的共鳴現象が発生しない点灯方式とした。
【0089】
その他の構成 :実施例2と同じ。
【0090】
上記実施例2および比較例2におけるランプ特性、比A/Bおよび比S/Rを表2に示す。
【0091】
[表2]
区 分 ランプ電圧(V) 発光効率(lm/W) 色温度(K) A/B S/R
実施例2 98 119 3540 0.2 105
比較例2 109 108 3897 0.1 105
表2から明らかなように、実施例2の発光効率は、比較例2より10%高い。
【0092】
次に、実施例2のメタルハライド放電ランプにおいて、比A/Bの値を変えたランプを製作し、その発光効率を測定した結果に基づいて図7を作成した。図において、横軸は比A/Bを、縦軸は相対発光効率を、それぞれ示す。
【0093】
図7から明らかなように、比A/Bが0.3以下であれば、最大発光効率に対して80%以上の発光効率が得られ、また比A/Bが0.2以下であれば、最大発光効率に対して90%以上の発光効率が得られることが分かる。
【0094】
さらに、実施例2のメタルハライド放電ランプにおいて、比S/Rの値を変えたランプを製作し、その発光効率を測定した結果に基づいて図8を作成した。図において、横軸は比S/Rを、縦軸は相対発光効率を、それぞれ示す。
【0095】
図8から明らかなように、比S/Rが70以上であれば、最大発光効率に対して80%以上の発光効率が得られ、また比S/Rが105以上であれば、最大発光効率に対して90%以上の発光効率が得られることが分かる。
【0096】
また、実施例2および比較例2について寿命試験を実施した結果、両者は実施例および比較例1と同様な傾向を示した。
【0097】
<第3の形態>
第1の形態と同様のメタルハライド放電ランプにおいて、ハロゲン化物としてヨウ化インジウムを用いた。
【実施例3】
【0098】
金属ハロゲン化物:InI0.5mg=ハロゲン化物量Rが0.5mg
その他の構成 :実施例1と同じ。
[比較例3]
点灯方式 :音響的共鳴現象が発生しない点灯方式とした。
【0099】
その他の構成 :実施例3と同じ。
【0100】
上記実施例3および比較例3におけるランプ特性、比A/Bおよび比S/Rを表3に示す。
【0101】
[表3]
区 分 ランプ電圧(V) 発光効率(lm/W) A/B S/R
実施例2 45 55 0.2 100
比較例2 50 50 0.1 100
表3から明らかなように、実施例3の発光効率は、比較例3より10%高い。
【0102】
次に、実施例3のメタルハライド放電ランプにおいて、比A/Bの値を変えたランプを製作し、その発光効率を測定した結果に基づいて図9を作成した。図において、横軸は比A/Bを、縦軸は相対発光効率を、それぞれ示す。
【0103】
図9から明らかなように、比A/Bが0.3以下であれば、最大発光効率に対して80%以上の発光効率が得られ、また比A/Bが0.2以下であれば、最大発光効率に対して90%以上の発光効率が得られることが分かる。
【0104】
さらに、実施例3のメタルハライド放電ランプにおいて、比S/Rの値を変えたランプを製作し、その発光効率を測定した結果に基づいて図10を作成した。図において、横軸は比S/Rを、縦軸は相対発光効率を、それぞれ示す。
【0105】
図10から明らかなように、比S/Rが70以上であれば、最大発光効率に対して80%以上の発光効率が得られ、また比S/Rが100以上であれば、最大発光効率に対して90%以上の発光効率が得られることが分かる。
【0106】
また、実施例3および比較例3について寿命試験を実施した結果、両者は実施例1および比較例1と同様な傾向を示した。
【0107】
<第4の形態>
本形態は、耐振性に優れたメタルハライド放電ランプシステムである。
【0108】
ストレートアーク点灯方式で水銀入りランプを点灯する場合、前述のように耐振性が低下する理由は詳らかでないが、以下の推測ができる。
【0109】
すなわち、水銀入りランプの場合、点灯中の水銀蒸気圧は極めて高く、またアークを形成する成分の殆どが水銀蒸気である。水銀原子の原子量は200である。なお、希ガスとして封入されるキセノンの原子量は131である。そして、気密容器内の放電媒体の対流速度は、水銀の原子量が上記のように大きいため、水銀入りランプの方が大きい。特に電極近傍においては、対流が局部的に大きくなることが観測されている。ところで、ストレートアーク点灯方式の場合、音波の疎密波の定在波において、電極間を結ぶ仮想線の位置に疎の部分があれば、周囲の密の部分からの力を受けることによって、放電アークが直線状に矯正される。水銀入りランプにおいては、ストレートアーク点灯方式によって点灯したときに、振動状態では、上記のように大きな対流のため、振動により放電アークが大きく動く。その結果、アークが不安定になる。
【0110】
一方、水銀フリーランプでは、水銀入りランプに比較して放電アークが細くなる。放電アークが湾曲した状態でアークが細いと、振動への耐性がなくなる。ところが、ストレートアーク点灯方式により点灯すると、放電アークは管軸方向に直線状に矯正されて安定し、耐振性が付与される。また、放電アークは、細い方が電極間を結ぶ疎の部分にアークをしっかりと押さえ込むことができる。
【0111】
したがって、本発明のメタルハライド放電ランプを例えば自動車前照灯のように常時振動が加わる灯具に装着して、かつ、ストレートアーク点灯方式により点灯するように構成すれば、耐振性に優れたメタルハライド放電ランプシステムを得ることができる。
【0112】
次に、実施例4を振動試験した結果について比較例4〜6と比較しながら説明する。
【実施例4】
【0113】
ランプ構成 :実施例1と同じ。
【0114】
点灯方式 :ストレートアーク点灯方式とした(表4のストレート)。
【0115】
その他の構成 :実施例1と同じ。
[比較例4]
ランプ構成 :実施例1と同じ。
【0116】
点灯方式 :音響的共鳴現象が発生しない点灯方式とした(表4の湾曲)。
【0117】
その他の構成 :実施例1と同じ。
[比較例5]
放電媒体
金属ハロゲン化物:ScI30.1mg+NaI0.25mg
=ハロゲン化物量Rが0.35mg
水銀 :0.2mg
希ガス :Xe5気圧
点灯方式 :ストレートアーク点灯方式とした(表4のストレート)。
【0118】
その他の構成 :実施例1と同じ。
[比較例6]
ランプ構成 :比較例5と同じ。
【0119】
点灯方式 :音響的共鳴現象が発生しない点灯方式とした(表4の湾曲)。
【0120】
その他の構成 :実施例1と同じ。
【0121】
上記実施例4および比較例4〜6について、JISC7506−2「自動車用電球」の付属書Bに記載されている標準試験条件(加速度の公差±1dB、試験時間20時間、点滅サイクル20分点灯、10分消灯)にて、実施例4および比較例4〜6のランプをそれぞれ20灯ずつ評価した。その結果を表4に示す。
【0122】
[表4]
区 分 仕 様 点灯方式 5時間経過後残数 20時間経過後残数
実施例4 水銀フリーランプ ストレート 19/20 17/20
比較例4 水銀フリーランプ 湾 曲 15/20 12/20
比較例5 水銀入りランプ ストレート 5/20 1/20
比較例6 水銀入りランプ 湾曲 20/20 19/20
表4から明らかなように、水銀フリーランプは、ストレートアーク点灯方式の場合に耐振性が優れているが、音響的共鳴現象が発生しない点灯方式によりアークが湾曲する場合、耐振性が低い。
【0123】
これに対して、水銀入りランプは、音響的共鳴現象が発生しない点灯方式によりアークが湾曲する場合、耐振性に問題がないが、ストレートアーク点灯方式では耐振性に問題がある。
【0124】
<第5の形態>
図11は、本発明のメタルハライド放電ランプシステムを実施するための一形態を示す回路ブロック図である。図において、メタルハライド放電ランプシステムは、メタルハライド放電ランプMHL、点灯回路OCおよび始動回路STを具備している。点灯回路OCは、基本波形発生回路BWGおよび高周波成分重畳回路HFGを備えている。
【0125】
メタルハライド放電ランプMHLは、図1および図2に示す第1または第3の形態あるいは図3に示す第2の形態のランプからなる。
【0126】
点灯回路OCは、メタルハライド放電ランプMHLを付勢して点灯を維持する回路であり、メタルハライド放電ランプMHLに直列接続した適当な限流インピーダンスを含んでいる。メタルハライド放電ランプMHLの付勢は、基本波形が交流または直流に高周波を重畳した態様の電圧、電流または電力を当該ランプに供給することにより行われる。
【0127】
上記高周波としては、ランプ中の放電媒体の放電アークが音響的共鳴現象を利用して電極間を結ぶ直線方向に矯正されるような周波数が選択される。すなわち、上記周波数の電圧、電流または電力がランプに供給されることにより、電極間を結ぶ直線と直交する方向に音響的共鳴現象が発生し、その結果放電アークがほぼ直線状に矯正されるような周波数である。このような周波数は、メタルハライド放電ランプの放電空間に存在する放電媒体の音速と、電極間を結ぶ直線と直交する方向の放電空間の長さとで決定される音響的共鳴周波数に等しい。また、高周波の周波数は、上記音響的共鳴周波数を含む所定の範囲内で変化する態様であってもよい。
【0128】
また、高周波の電圧、電流または電力の波形は、瞬時値が時間的に変化する波形であり、例えば正弦波、三角波、鋸歯状波、階段状波、指数関数波およびこれら二種以上の複合波などから選択することができる。なお、ランプに供給される電流の基本波形部分は、主として放電アークを生じるエネルギーを供給する。また、基本波は、矩形波や正弦波など適当な波形であることを許容する。
【0129】
点灯回路OCは、その一形態として、直流電源DC、基本波形発生回路BWGおよび高周波成分重畳回路HFGを備えている。
【0130】
直流電源DCは、基本波形発生回路BWGおよび高周波成分重畳回路HFGに対して直流の電源として機能する。低周波交流を整流して直流を得る整流化直流電源や電池電源によって直流電源DCを構成することができる。
【0131】
基本波形発生回路BWGは、前記基本波として交流または直流の電圧、電流または電力を発生する。交流の場合、インバータを用いてこれを発生させることができる。所望により、インバータの前段に直流−直流変換回路、例えば直流チョッパを介在させることができる。これにより、交流の電圧、電流または電力を制御しやすくなる。また、直流の場合、直流−直流変換回路、例えば直流チョッパを用いてこれを発生させることができる。
【0132】
高周波成分重畳回路HFGは、基本波に重畳される前記高周波を発生する。例えば、インバータを用いてこれを構成することができる。
【0133】
また、点灯回路OCは、前記のようにメタルハライド放電ランプMHLに直列接続する限流インピーダンスを含んでいるが、限流インピーダンスとしては、例えばインダクタを用いて適当な値のインダクタンスを用いるのが好ましい。
【0134】
さらに、点灯回路OCは、メタルハライド放電ランプMHLの始動直後に定格ランプ電流以上のランプ電流を供給し、その後時間の経過とともに順次ランプ電流を低減していき、やがて定格電流に落ち着かせるランプ電流傾斜制御特性を備えているように構成することができる。このような構成は、例えば車両用前照灯に用いるメタルハライド放電ランプを点灯する場合に好適である。
【0135】
さらにまた、点灯回路OCは、メタルハライド放電ランプMHLのランプ特性を検出して、基本波成分に重畳する高周波成分の周波数を音響的共鳴周波数に一致させる帰還制御回路手段を具備していることが許容される。
【0136】
始動回路STは、メタルハライド放電ランプMHLの始動時に高電圧パルスなどを発生してこれを上記ランプに印加することでその始動を容易にする。そのために、始動回路STは、メタルハライド放電ランプMHLと限流インピーダンスとの間に介在するように配設されるのが好ましい。
【0137】
そうして、本形態のメタルハライド放電ランプシステムは、そのメタルハライド放電ランプ中の放電媒体が水銀を本質的に含まないので、放電アークが水銀を含むメタルハライド放電ランプより強く湾曲しやすいにもかかわらず、以上説明したように構成されているため、音響的共鳴による定在波が電極間を結ぶ仮想直線と直交する方向に形成されて放電アークが上記直線方向に沿ったほぼ直線状に矯正される。
【0138】
放電アークがほぼ直線状に矯正される理由は、以下のように推察される。すなわち、メタルハライド放電ランプMHLに供給される電圧、電流または電力の周期的な変動によって放電アークにガス圧力の周期的な変動を生じる。このガス圧力の周期的な変動が粗密波(進行波)となって管軸の全周方向から気密容器1の内壁面に向かって進行し、内壁面で反射されて反射波となる。そのため、放電アークの近傍では、進行波と反射波とが衝突して、両波の変位に差があると、両波の変位が小さくなる位置に放電アークが移動してほぼ直線状に矯正されるものと推察される。
【0139】
高周波である音響的共鳴周波数の電圧、電流または電力をメタルハライド放電ランプMHLに供給すると、電極間を結ぶ仮想直線に直交する方向の放電空間の断面において、放電アークが包囲部の内壁面に対して等距離の位置(例えば上記断面が円形である場合には円の中心)では、放電アークを含むその近傍で進行波と反射波の変位を常に同レベルに制御でき、その結果放電アークが移動することなく安定に点灯できる。このとき、上記断面では2つの疎密波(進行波と反射波)が干渉して定在波が発生している。
【0140】
また、放電アークと交差する方向の放電空間の長さを電極間を結ぶ仮想直線と直交する断面の長さとすると、包囲部の内表面に対して等距離である上記断面の中心で放電アークが移動することなく安定になるため、放電アークの形状が直線状になる。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】本発明のメタルハライドランプを実施するための第1の形態としての自動車前照灯用のメタルハライドランプを示すランプ全体の正面図
【図2】同じく平面図
【図3】第1の形態における比A/Bと発光効率の関係を示すグラフ
【図4】同じく比S/Rと発光効率の関係を示すグラフ
【図5】実施例1および比較例1における前照灯内に装着して2000時間の点滅試験を行った場合の照度維持率特性を示すグラフ
【図6】本発明のメタルハライドランプを実施するための第2の形態としてのプロジェクタ用のメタルハライドランプを示す正面図
【図7】第2の形態における比A/Bと発光効率の関係を示すグラフ
【図8】同じく比S/Rと発光効率の関係を示すグラフ
【図9】第3の形態における比A/Bと発光効率の関係を示すグラフ
【図10】同じく比S/Rと発光効率の関係を示すグラフ
【図11】本発明のメタルハライド放電ランプシステムを実施するための一形態を示す回路ブロック図
【符号の説明】
【0142】
1…気密容器、1a…包囲部、1a1…封止部、1a2…封止管、1b…電極、1c…放電空間、2…封着金属箔、3A、3B…導入導体、B…口金、IT…発光管、MHL…メタルハライド放電ランプ、OT…外管
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性で透光性の気密容器と;
気密容器内に封着した一対の電極と;
ハロゲン化物および希ガスを含んで気密容器内に封入された放電媒体と;
を具備し、本質的に水銀が封入されていないで、かつ、放電媒体の放電アークが音響的共鳴現象を利用して電極間を結ぶ直線方向に矯正されるように点灯されるとともに、気密容器内に封入したハロゲン化物が気密容器の上部に付着した面積をA(mm2)とし、同じく気密容器の下部に付着した面積をB(mm2)としたとき、A/B≦0.3を満足することを特徴とするメタルハライド放電ランプ。
【請求項2】
耐火性で透光性の気密容器と;
気密容器内に封着した一対の電極と;
ハロゲン化物および希ガスを含んで気密容器内に封入された放電媒体と;
を具備し、本質的に水銀が封入されていないで、かつ、放電媒体の放電アークが音響的共鳴現象を利用して電極間を結ぶ直線方向に矯正されるように点灯されるとともに、気密容器の内表面積をS(mm2)とし、ハロゲン化物量をR(mg)としたとき、S/R≧70を満足することを特徴とするメタルハライド放電ランプ。
【請求項3】
前記ハロゲン化物は、第1および第2のハロゲン化物を含み、第1のハロゲン化物が所望の発光を行う金属のハロゲン化物であり、第2のハロゲン化物が相対的に蒸気圧が大きくて、かつ、第1のハロゲン化物の金属に比較して可視域に発光しにくい金属のハロゲン化物であることを特徴とする請求項1または2記載のメタルハライド放電ランプ。
【請求項4】
第1のハロゲン化物は、ナトリウム(Na)、スカンジウム(Sc)および希土類金属の一種または複数種のハロゲン化物であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一記載のメタルハライド放電ランプ。
【請求項5】
第2のハロゲン化物は、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、アンチモン(Sb)、ベリリウム(Be)、レニウム(Re)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)およびスズ(Sn)からなるグループの中から選択された1種または複数種の金属のハロゲン化物であることを特徴とする請求項3または4記載のメタルハライド放電ランプ。
【請求項6】
ハロゲン化物は、ハロゲン化インジウム、ハロゲン化タリウムおよびハロゲン化スズを主体としていることを特徴とする請求項1または2記載のメタルハライド放電ランプ。
【請求項7】
希ガスは、1気圧以上の圧力で封入されていることを特徴とする請求項4記載のメタルハライド放電ランプ。
【請求項8】
一対の電極は、電極間距離が0.5〜6mmであることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一記載のメタルハライド放電ランプ。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか一記載のメタルハライド放電ランプと;
メタルハライド放電ランプの電極間を結ぶ直線と直交する方向に音響共鳴現象が発生する周波数成分を有する電流をメタルハライド放電ランプに供給して点灯する点灯回路と;
を具備していることを特徴とするメタルハライド放電ランプシステム。
【請求項1】
耐火性で透光性の気密容器と;
気密容器内に封着した一対の電極と;
ハロゲン化物および希ガスを含んで気密容器内に封入された放電媒体と;
を具備し、本質的に水銀が封入されていないで、かつ、放電媒体の放電アークが音響的共鳴現象を利用して電極間を結ぶ直線方向に矯正されるように点灯されるとともに、気密容器内に封入したハロゲン化物が気密容器の上部に付着した面積をA(mm2)とし、同じく気密容器の下部に付着した面積をB(mm2)としたとき、A/B≦0.3を満足することを特徴とするメタルハライド放電ランプ。
【請求項2】
耐火性で透光性の気密容器と;
気密容器内に封着した一対の電極と;
ハロゲン化物および希ガスを含んで気密容器内に封入された放電媒体と;
を具備し、本質的に水銀が封入されていないで、かつ、放電媒体の放電アークが音響的共鳴現象を利用して電極間を結ぶ直線方向に矯正されるように点灯されるとともに、気密容器の内表面積をS(mm2)とし、ハロゲン化物量をR(mg)としたとき、S/R≧70を満足することを特徴とするメタルハライド放電ランプ。
【請求項3】
前記ハロゲン化物は、第1および第2のハロゲン化物を含み、第1のハロゲン化物が所望の発光を行う金属のハロゲン化物であり、第2のハロゲン化物が相対的に蒸気圧が大きくて、かつ、第1のハロゲン化物の金属に比較して可視域に発光しにくい金属のハロゲン化物であることを特徴とする請求項1または2記載のメタルハライド放電ランプ。
【請求項4】
第1のハロゲン化物は、ナトリウム(Na)、スカンジウム(Sc)および希土類金属の一種または複数種のハロゲン化物であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一記載のメタルハライド放電ランプ。
【請求項5】
第2のハロゲン化物は、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、アンチモン(Sb)、ベリリウム(Be)、レニウム(Re)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)およびスズ(Sn)からなるグループの中から選択された1種または複数種の金属のハロゲン化物であることを特徴とする請求項3または4記載のメタルハライド放電ランプ。
【請求項6】
ハロゲン化物は、ハロゲン化インジウム、ハロゲン化タリウムおよびハロゲン化スズを主体としていることを特徴とする請求項1または2記載のメタルハライド放電ランプ。
【請求項7】
希ガスは、1気圧以上の圧力で封入されていることを特徴とする請求項4記載のメタルハライド放電ランプ。
【請求項8】
一対の電極は、電極間距離が0.5〜6mmであることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一記載のメタルハライド放電ランプ。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか一記載のメタルハライド放電ランプと;
メタルハライド放電ランプの電極間を結ぶ直線と直交する方向に音響共鳴現象が発生する周波数成分を有する電流をメタルハライド放電ランプに供給して点灯する点灯回路と;
を具備していることを特徴とするメタルハライド放電ランプシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−120411(P2006−120411A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−305670(P2004−305670)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(000111672)ハリソン東芝ライティング株式会社 (995)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(000111672)ハリソン東芝ライティング株式会社 (995)
【Fターム(参考)】
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