説明

メタン発酵処理における反応性評価方法

【課題】メタン発酵処理の対象となる被処理物について、メタン発酵の反応性を簡易かつ精度良く評価することができるメタン発酵処理における反応性評価方法を提供する。
【解決手段】メタン発酵処理においては、簡易ボトル試験にて有機物を含む生ごみ、下水汚泥等の被処理物を嫌気性条件下でメタン発酵処理し、ボトル中にメタンガスを生成させる。この場合、前記被処理物としてメタン発酵性を示す標準物質を用いてメタン発酵処理を行うとともに、対象となる被処理物を前記メタン発酵処理と同一条件にてメタン発酵処理する。そして、前記標準物質を用いてメタン発酵処理した結果と対比して対象となる被処理物についてメタン発酵性の有効性を評価する。かかるメタン発酵性の有効性の評価は、メタン発酵でボトル中に発生したメタンガス発生量に基づいて行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家庭や食品工場などから排出される生ごみや下水汚泥などの被処理物をメタン発酵処理するに当たり、簡易ボトル試験で当該被処理物についてメタン発酵の反応性を簡易かつ精度良く評価することができるメタン発酵処理における反応性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化防止対策の推進、バイオマスの積極的利用が環境保全のための課題となっている現在、廃棄物系バイオマスを対象とした嫌気発酵技術によるエネルギー回収が種々提案されている。これらの中でもメタン発酵技術は、生ごみ、下水汚泥、食品廃棄物等の多種類の廃棄物系バイオマスをメタンガスに変換し、エネルギーとして利用できることから、実用化が進んでいる。この場合、生ごみ、下水汚泥などの被処理物はメタン発酵処理時の消化液の種類などに応じてメタン発酵の反応性が変化することから、メタン発酵の反応性を評価することが検討されている。
【0003】
例えば、次のような反応性評価方法が提案されている(特許文献1を参照)。すなわち、この反応性評価方法は、密閉化された容器に測定対象液をチャージした後、脱気し、脱気後に所定時間放置し、放置中に発生するガスによる容器内の圧力変化量を測定し、容器内の空間容積と圧力変化量とに基づいて発生ガス量を演算し、反応性を評価する方法である。この反応性評価方法によれば、メタン発酵反応が正常に行われているか否かの判定を短時間で定量的に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−238089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、メタン発酵に際して用いられる消化液の種類(活性)、被処理物の種類、発酵条件等が異なると、メタン発酵の反応性が変化してメタンガスの発生量が相違する。このため、上記特許文献1に記載されている反応性評価方法では、メタン発酵反応が正常に行われているか否かを判断することはできるが、メタン発酵処理の対象となる被処理物についてメタン発酵によるメタンガスの発生量などに示される反応性を精度良く評価することができなかった。しかも、メタン発酵によって発生するガスの圧力変化量を測定するとともに、容器内の空間容積と圧力変化量とに基づいて発生ガス量を演算する必要があり、それらの操作が煩雑で手間を要するものであった。
【0006】
そこで本発明の目的とするところは、メタン発酵処理の対象となる被処理物について、メタン発酵の反応性を簡易かつ精度良く評価することができるメタン発酵処理における反応性評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明のメタン発酵処理における反応性評価方法は、有機物を含む被処理物を嫌気性条件下でメタン発酵処理し、メタンガスを生成させるメタン発酵処理方法において、前記被処理物としてメタン発酵性を示す標準物質を用いてメタン発酵処理を行うとともに、対象となる被処理物を前記メタン発酵処理と同一条件にてメタン発酵処理し、前記標準物質を用いてメタン発酵処理した結果と対比して対象となる被処理物についてメタン発酵性の有効性を評価することを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明のメタン発酵処理における反応性評価方法は、請求項1に係る発明において、前記メタン発酵性の有効性の評価は、メタン発酵で発生したメタンガス発生量に基づいて行うことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明のメタン発酵処理における反応性評価方法は、請求項1又は請求項2に係る発明において、前記メタン発酵における撹拌は、回転数が150〜180rpmで行われることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明のメタン発酵処理における反応性評価方法は、請求項1から請求項3のいずれか1項に係る発明において、前記標準物質はおからであることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明のメタン発酵処理における反応性評価方法は、請求項1から請求項4のいずれか1項に係る発明において、前記メタン発酵は45〜65℃で行われることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明のメタン発酵処理における反応性評価方法は、請求項1から請求項5のいずれか1項に係る発明において、前記メタン発酵処理は、対象となる被処理物及びメタン発酵用の消化液を加熱して被処理物を可溶化処理した後、加熱状態で撹拌しながらメタン発酵を行うものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載のメタン発酵処理における反応性評価方法では、メタン発酵処理の被処理物としてメタン発酵性を示す標準物質を用いてメタン発酵処理を行うとともに、対象となる被処理物を用いて前記メタン発酵処理と同一条件にてメタン発酵処理を行う。そして、標準物質を用いてメタン発酵処理した結果と対比して対象となる被処理物についてメタン発酵性の有効性を評価する。このため、対象となる被処理物のメタン発酵性は、標準物質のメタン発酵性に基づいて容易に評価することができる。
【0014】
従って、本発明のメタン発酵処理における反応性評価方法によれば、メタン発酵処理の対象となる被処理物について、メタン発酵の反応性を簡易かつ精度良く評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)はイナワラとおからについてのメタンガス発生量を示すグラフ、(b)は生ごみとおからについてのメタンガス発生量を示すグラフ、(c)は下水汚泥A、下水汚泥B及びおからについてのメタンガス発生量を示すグラフ。
【図2】経過日数と積算メタンガス発生量との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のメタン発酵処理における反応性評価方法の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態におけるメタン発酵処理方法は、有機物を含む被処理物(基質)を嫌気性条件下で消化液中にてメタン発酵処理(嫌気性消化処理)し、メタンガス及び炭酸ガスよりなるバイオガスを生成させるものである。このバイオガスは通常メタンガス60vol%と炭酸ガス40vol%の混合物であり、発熱量は5000〜6000kcal/kgに達する。
【0017】
このメタン発酵処理は、メタン発酵微生物(メタン生成菌)の作用に基づいて、酸素が遮断された嫌気性状態で行われる。メタン発酵微生物としては、メタノバクテリウム属、メタノサルシナ属、メタノサエタ属、メタノサーモバクタ属等の微生物が挙げられる。メタン発酵処理の温度は通常20〜70℃であり、高温発酵の場合には45〜65℃、中温発酵の場合には25℃以上45℃未満である。発酵時の温度が20℃を下回るときには微生物の活性が低く、十分な発酵処理を行うことができず、70℃を上回るときには微生物が失活し、発酵作用が低下する。
【0018】
次に、本実施形態のメタン発酵処理における反応性評価方法では、小型のボトルを用いた試験により、被処理物としてメタン発酵性を示す標準物質を用いてメタン発酵処理を行うとともに、対象となる被処理物について前記メタン発酵処理と同一条件にてメタン発酵処理を行う。そして、簡易ボトル試験における被処理物についてのメタン発酵処理の結果を、標準物質についてのメタン発酵処理の結果と対比して被処理物のメタン発酵性の有効性を評価する。標準物質としては、メタン発酵しやすく、性状が安定している物質が用いられ、対象となる被処理物のメタン発酵性よりもメタン発酵性の高い物質が好適に選択される。そのような標準物質として具体的には、おから(乾燥品)、ドッグフード等が挙げられる。
【0019】
ここで、標準物質としておからを用い、被処理物としてイナワラ(稲藁)を用いた簡易ボトル試験(試験1)、標準物質としておからを用い、被処理物として生ごみを用いた簡易ボトル試験(試験2)、標準物質としておからを用い、被処理物として下水汚泥A及び下水汚泥Bを用いた簡易ボトル試験(試験3)を行った。消化液(初期)としては、京都エコエネルギー研究センター(KEEP)より入手したメタノバクテリウム等のメタン発酵微生物を含むものを使用した。また、メタン発酵処理の前に、可溶化処理を80℃で行った。メタン発酵処理は、嫌気性条件下で55℃(高温発酵)にて撹拌しながら実施した。
【0020】
そして、メタン発酵処理によって大気圧下でボトル中に発生したメタンガス発生量を測定した。各試験の結果を図1(a)、(b)及び(c)に示し、標準物質であるおからのメタンガス発生量を1とした場合の各被処理物のメタンガス発生量の比率を表1にまとめて示した。
【0021】
【表1】

図1(a)及び表1に示すように、イナワラのメタンガス発生量は、ボトル中におけるおからのメタンガス発生量に対して0.4倍であった。図1(b)及び表1に示すように、ボトル中における生ごみのメタンガス発生量は、おからのメタンガス発生量に対して0.8倍を示した。図1(c)及び表1に示すように、ボトル中における下水汚泥Aのメタンガス発生量は、おからのメタンガス発生量に対して0.6倍であり、下水汚泥Bのメタンガス発生量は、おからのメタンガス発生量に対して0.9倍に達した。
【0022】
従って、簡易ボトル試験において、各被処理物のメタンガス発生量について標準物質のメタンガス発生量に対する比率が明らかになり、使用する消化液が異なってもこの比率に基づいて各被処理物のメタン発酵の有効性を簡易な方法で評価することができる。さらに、この比率に基づいて、各被処理物のメタンガス発生量を評価(予測)することができる。
【0023】
前記可溶化処理はメタン発酵処理の前処理として実施され、70〜90℃の高温で行われる。この温度が70℃より低い場合には消化液中の被処理物の可溶化が不十分になり、90℃より高い場合にはメタン発酵に支障を来たすおそれがある。メタン発酵は45〜65℃の高温又は25℃以上45℃未満の中温で行われることが好ましい。メタン発酵の温度が25℃を下回る場合には、メタン発酵の反応が遅延し、メタンガスの発生量が減少する傾向を示す。その一方、65℃を上回る場合には、メタン発酵微生物の失活を招き、メタン発酵の円滑な進行が妨げられる。
【0024】
前記メタン発酵における消化液の撹拌は、簡易ボトル試験でメタン発酵を行う場合の振とう培養における回転数が150〜180rpmに設定されることが好ましい。この回転数が150rpm未満の場合、消化液の十分な均一性を図ることができず、被処理物と微生物の接触効率が低くなり、メタン発酵の反応が遅れ、メタンガス発生量が低下する。一方、回転数が180rpmを超える場合、消化液の撹拌が過剰になり、メタン発酵を安定した状態で進行させることが難しくなって好ましくない。
【0025】
ここで、消化液の撹拌時における回転数の変化によるメタンガス発生量に関する簡易ボトル試験について説明する。
生ごみの組成が異なる生ごみAと生ごみBについて、前記簡易ボトル試験と同様の条件でメタン発酵処理を行った。この場合、経過日数が0〜3日の間では撹拌の回転数を180rpm、経過日数が3〜5日の間(3日の途中から5日の途中までの間、以下同様)では回転数を140rpm、経過日数が5〜10日の間では回転数を150rpm及び経過日数が10〜14日の間では回転数を160rpmに変化させてメタン発酵処理を行った。そして、1日当たりのメタンガス発生量(ml/日)を測定し、その結果を表2及び図2に示した。
【0026】
【表2】

表2及び図2に示した結果より、撹拌の回転数が150rpm、160rpm及び180rpmの場合には、メタンガス発生量が4.5〜6.6ml/日であって、十分なメタンガス発生量が得られた。一方、撹拌の回転数が140rpmの場合には、メタンガス発生量が1.9〜2.4ml/日であって、メタンガス発生量が不足する結果であった。従って、消化液を撹拌するときの回転数は、150〜180rpmの範囲であることが好ましい。
【0027】
なお、メタン発酵処理を円滑に進めるために、消化液のpHを6.5〜8.5に保持することが好ましい。さらに、消化液中の窒素濃度や有機酸濃度をできるだけ低く抑えることが好ましい。
【0028】
さて、生ごみ、下水汚泥等の被処理物をメタン発酵処理する場合には、事前に前述のような簡易ボトル試験を行う。このとき、被処理物の簡易ボトル試験と同一条件で標準物質について簡易ボトル試験を行う。その試験結果により、標準物質のメタンガス発生量に対する生ごみ、下水汚泥等の被処理物のボトル中におけるメタンガス発生量の比率を知ることができる。標準物質はメタン発酵性に優れ、性状が安定していることから、そのような標準物質のメタンガス発生量に対する比率に基づいて被処理物のメタン発酵性の程度を速やかに判断することができる。
【0029】
以上説明したメタン発酵処理方法によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態のメタン発酵処理における反応性評価方法では、簡易ボトル試験において、メタン発酵処理の被処理物として良好なメタン発酵性を示す標準物質を用いてメタン発酵処理を行うとともに、対象となる被処理物を用いて前記メタン発酵処理と同一条件にてメタン発酵処理を行う。そして、標準物質を用いてメタン発酵処理した結果と対比することにより、対象となる被処理物についてメタン発酵性の有効性を評価する。このため、対象となる被処理物のメタン発酵性は、標準物質のメタン発酵性に基づいて容易かつ迅速に評価することができる。
【0030】
従って、本実施形態のメタン発酵処理における反応性評価方法によれば、メタン発酵処理の対象となる被処理物について、簡易ボトル試験でメタン発酵の反応性を簡易かつ精度良く評価することができる。
(2)メタン発酵性の有効性の評価は、メタン発酵でボトル中に発生したメタンガス発生量に基づいて行われる。この場合、メタン発酵によって生成する主成分としてのメタンガスに着目して評価を容易に行うことができる。
(3)簡易ボトル試験での振とう培養における消化液の撹拌は、回転数が150〜180rpmで行われる。このため、消化液の均一性及び被処理物と微生物の接触効率を向上させることができ、メタンガス発生量を増大させることができる。
(4)標準物質がおからであることにより、メタン発酵性と安定性に優れ、メタン発酵処理における被処理物の反応性を精度良く評価することができる。
(5)可溶化処理は70〜90℃で行われるとともに、メタン発酵は45〜65℃で行われる。可溶化処理及びメタン発酵処理を高温で行うことにより、被処理物の可溶化を迅速に行うことができる上に、メタン発酵反応の進行を促すことができる。
(6)メタン発酵処理は、対象となる被処理物及びメタン発酵用の消化液を加熱して被処理物を可溶化処理した後、加熱状態で撹拌しながら行われる。このような可溶化処理を実施した後にメタン発酵処理を行うことにより、メタン発酵処理を促進させることができる。
【0031】
なお、前記実施形態を以下のように変更して実施することも可能である。
・ 対象となる被処理物についてメタン発酵性の有効性評価を、メタンガス及び炭酸ガスを含むバイオガスの発生量に基づいて行うこともできる。
【0032】
・ 前記前処理としての可溶化処理を省略し、メタン発酵処理を行うことも可能である。
・ 被処理物として、複数種類の被処理物を適宜混合したものを使用することもできる。
【0033】
・ 標準物質として複数の物質を選択し、それらの標準物質を使用してメタン発酵処理を行い、メタン発酵処理における反応性評価の精度を高めるように構成することも可能である。
【0034】
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
(イ)前記標準物質は、該標準物質を用いた場合のメタンガス発生量が、対象となる被処理物を用いた場合のメタンガス発生量よりも多くなるような物質であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のメタン発酵処理における反応性評価方法。このように構成した場合、請求項1から請求項6のいずれか1項に係る発明の効果に加えて、メタン発酵性の良い標準物質により、反応性の評価の精度を向上させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物を含む被処理物を嫌気性条件下でメタン発酵処理し、メタンガスを生成させるメタン発酵処理方法において、
前記被処理物としてメタン発酵性を示す標準物質を用いてメタン発酵処理を行うとともに、対象となる被処理物を前記メタン発酵処理と同一条件にてメタン発酵処理し、前記標準物質を用いてメタン発酵処理した結果と対比して対象となる被処理物についてメタン発酵性の有効性を評価することを特徴とするメタン発酵処理における反応性評価方法。
【請求項2】
前記メタン発酵性の有効性の評価は、メタン発酵で発生したメタンガス発生量に基づいて行うことを特徴とする請求項1に記載のメタン発酵処理における反応性評価方法。
【請求項3】
前記メタン発酵における撹拌は、回転数が150〜180rpmで行われることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のメタン発酵処理における反応性評価方法。
【請求項4】
前記標準物質はおからであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のメタン発酵処理における反応性評価方法。
【請求項5】
前記メタン発酵は45〜65℃で行われることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のメタン発酵処理における反応性評価方法。
【請求項6】
前記メタン発酵処理は、対象となる被処理物及びメタン発酵用の消化液を加熱して被処理物を可溶化処理した後、加熱状態で撹拌しながらメタン発酵を行うものであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のメタン発酵処理における反応性評価方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−91102(P2012−91102A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239825(P2010−239825)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】