説明

メタン発酵槽の撹拌方法及びメタン発酵装置

【課題】メタン発酵槽の効果的撹拌、あるいは、無動力撹拌の方法及びこれを備えたメタン発酵装置を提供する。
【解決手段】メタン発酵槽W内に生物ガスを一気に溢流させることによって液を撹拌する。メタン発酵により生成する生物ガスを利用して間欠的に液を撹拌するメタン発酵槽W内の撹拌方法及びこれを備えるメタン発酵装置。
【効果】少ない通気量で大きな撹拌力が得られ、液体の固体に対する付着力及び表面張力による作用と気体の浮揚力によってメタン発酵槽内のスカム蓄積・汚泥沈積が防止できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
〔産業上の利用分野〕
本発明は、メタン発酵槽内の液体を撹拌するための方法及びこれを備えたメタン発酵装置に関するものである。
【0002】
〔従来の技術〕
従来、メタン発酵槽内の撹拌には、機械的方法、ポンプを用いる方法、生物ガスを底部より吹込む方法、発生する生物ガスを利用した無動力撹拌法等がある。
【0003】
〔発明が解決しようとする課題〕
本発明は、生物ガスを底部より吹き込む方法、発生する生物ガスの圧力を利用した無動力撹拌法に属するもので、少ない通気量でも一定の大きな撹拌効果の得られる撹拌方法及びメタン発酵装置を提供するものである。
【0004】
〔問題を解決するための手段〕
第1に、メタン発酵により生成する生物ガスを利用してメタン発酵槽w内液を撹拌する方法であって、メタン発酵槽w内であってメタン発酵槽wの液面下の位置に、ほぼ鉛直に設けられた流出管pの下端の周囲に、隔壁、流出管p外壁面、及び前記隔壁下方の水面により気相部gを形成し、気相部g内に生物ガスを送り、液体の固体に対する付着力及び表面張力を利用して、間欠的かつ一気に生物ガスを流出管p内に溢流させ、流出管p内にガス層を形成せしめ、このガス層の浮上力によって、メタン発酵槽w液面の下方にガス及び液体を噴出させ、これによってメタン発酵槽w内を撹拌することを特徴とするメタン発酵槽の撹拌方法であり、
第2に、有機性廃棄物をメタン発酵する装置において、メタン発酵槽wが、
(ソ)メタン発酵槽wを上下に区画する隔壁b
(タ)その下端が隔壁bのやや下方の位置に開口し、隔壁bを貫通しほぼ鉛直上方に伸び、その上端が隔壁bの上方に開口する流出管p
(チ)その下端が隔壁bの下方であって、流出管p下端より下方の位置に開口し、その上端が隔壁bの上方に開口する連通管r
を備えることを特徴とするメタン発酵装置であり、
第3に、有機性廃棄物をメタン発酵する装置において、
メタン発酵槽wが、
(ツ)メタン発酵槽wを上下に区画する隔壁b
(テ)その下端が隔壁bのやや下方の位置に開口し、隔壁bを貫通しほぼ鉛直上方に伸び、その上端が隔壁bの上方に開口する流出管p
(ト)その下端が隔壁bの下方であって、流出管p下端より下方の位置に開口し、その上端が隔壁bの上方に開口する連通管r
(ナ)隔壁bの下方に生物ガスを圧入するための通気管
(ク)隔壁bの下方に生物ガスを圧入するためのガス圧入機a
を備えることを特徴とするメタン発酵装置である。
第4に、上記メタン発酵装置の連通管rの少なくとも1つが、メタン発酵槽w槽外に設けられると共に、該槽外に設けられた連通管を温める加温装置を備えることを特徴とするメタン発酵装置である。
【0005】
〔実施例と作用〕
次に、図面により本発明を詳しく説明する。図1及び図2は、本発明の装置の一実施態様を示す図面であり、図1は平面図、図2はA−A縦断面図、図3は噴出時の様子を示すA−A縦断面図である。メタン発酵槽w内は隔壁bにより上下に区画され,隔壁b上方の上部発酵部w1,下部醗酵部w2が形成されている。流出管pは、隔壁bを貫通し、その下端が隔壁bのやや下方にほぼ水平に開口し、その上端は、隔壁b上方に開口し、ほぼ鉛直に設けられている。、隔壁b、発酵槽w側壁4及び流出管p外壁面により、気相部gが形成されている。
次に、図1及図2に示した本発明の作動の状況を説明する。メタン発酵槽w内においては、糖発酵細菌群の作用により、有機物がアミノ酸、低級脂肪酸等に低分子化される。この低分子化された有機物を、メタン菌は、吸収し増殖すると共に,液中にメタンガス,炭酸ガスを主成分とする生物ガスを排出する。この生物ガスの大部分は,気泡となり、メタン発酵槽w内を上昇する。上部醗酵部w1で発生する生物ガスは、メタン発酵槽w内上方に溜まる。下部醗酵部w2で発生する生物ガスは、気相部g内に溜まる。(図2)これに伴って,液面s1は、液体の固体に対する付着力及び表面張力による作用により、流出管pの下端の位置より下方まで下降する。やがて、液体の固体に対する付着力及び表面張力による作用が限界に達すると、気相部gの生物ガスは、流出管p下方開口部3の周囲から一気に流出管p内に流入し、流出管p内の液を押し上げながら、流出管p内にガス層を形成する。同時に流出管p内に流入した生物ガスに相当する液が連通管rより下部醗酵部2に流入してくる。すぐに、ガス層は、流出管p内ガス層上方の液の大部分を押し上げ、流出管p内ガス層下方の液を引き上げながら、流出管p内を上昇し、液と共に流出管p上端より勢いよく噴出する。この噴出と噴出に伴う下部醗酵部2への液の引き込みによって、メタン発酵槽w内の液は流動し、撹拌される。また,噴出により液面S2には,大きな波動が生じる。(図3)以後周期的にこの噴出が繰り返される。
1回の噴出による撹拌の強さは、気相部g気液接触面積の流出管p断面積に対する比、流出管p断面積、及び流出管p長さによって決まる。気相部g気液接触面積の流出管p断面積に対する比が大きいほど、流出管p内に形成されるガス層の高さが増加し、上昇速度が大きくなるので、激しい噴出と噴出に伴う激しい下部醗酵部2への液の引き込みが起こり、撹拌力が増加する。また、流出管p断面積、及び流出管p長さが大きいほど、大量の液の噴出と噴出に伴う下部醗酵部2への大量の液の引き込みが起こり、撹拌力が増加する。
気相部g気液接触面積の流出管p断面積に対する比はほぼ50以上が適当である。例えば、気相部g内気液接触面積の流出管p断面積に対する比が63で、流出管p口径25mm、流出管p長さ45cm、毎分600mlで通気すると、毎分ほぼ4回の有意な噴出が起こる。
このように、本実施例の装置は、連続的に上昇してくる生物ガスを気相部g内に溜め込み、一気に放出するので、1回の噴出の大きさは、変わらない。メタン菌が発生する生物ガスだけで、大きな撹拌力が得られる。スカムの蓄積や汚泥の沈積を防止できる。
流出管p下端3の断面は、ほぼ水平にする。これにより、空気が流出管p内に一様に流入し、効果的にガス層が形成される。流出管pの口径が大きい場合、この水平性が特に要求される。
また、本発明の装置は、液体と接触する機械的な部分がないので、故障や腐蝕の心配もない。槽内液は、太いパイプ内を通るだけなので、目詰まりがない。
図4は、本発明の装置の別の一実施態様を示す図面であり、図2に相当する縦断面図である。管7,気体圧入機a,流量調節弁9及び管8が設けられ,メタン発酵槽w内上方の生物ガスを、気相部gに圧入できるよう構成されている点が,図1乃至図3の装置と異なる。
気体圧入機aを作動させると,メタン発酵槽w内上方の生物ガスが、気相部gに圧入される。以後図1乃至図3の装置と同様の作用で,周期的な噴出が起こり,液が撹拌される。噴出回数は、流量調節弁9で調節する。例えば、通気量を少なくすると噴出回数が減少し、通気量を多くすると、噴出回数が増加する。しかも1回の噴出量は、一定である。本実施例においては、撹拌を制御できる利点がある。また、噴出回数は、音で確認できるので、制御する時便利である。零細な個人農家に設置される、小規模プラントなどでは、流量計などの計器が不要で、経済的である。
メタン醗酵の場合、活性汚泥法等酸化処理と異なり、酸素等気体の溶解を考慮する必要がない。撹拌の主目的は、スカム蓄積防止、汚泥沈積防止であり、常時撹拌する必要性は少ない。そこで、撹拌機を自動制御して、間欠運転し、運転経費を節約する例も多い。しかし、運転時には、所定の大きな動力を必要とするので、施設費の低減にはつながらない。本実施例の発明においては、上記のように少量ずつ圧入される生物ガスを気相部g内に溜め込み、間欠的にしかも一気に放出するので、運転経費及び施設費も節約できる。
図5は、本発明の装置のまた別の一実施態様を示す図面であり、図4に相当する縦断面図である。本実施例の装置では、連通管rがメタン発酵槽w槽外に設けられると共に、該槽外に設けられた連通管rを温める加温装置10を備える点が、図4の装置と異なる。
本実施例においても図4の装置と同様の作用で,周期的な噴出が起こり,液が撹拌される。液は、上部醗酵部w1から下部醗酵部w2に移動する際、連通管r内で、加温装置10により加温される。通常の外部加温の場合は、別にポンプが必要であるが、本実施例の装置においては、噴出による撹拌と同時に、液は、連通管rを通過するので、ポンプは必要ない。加温装置としては、通常使用されている、温水ジャケットなどを使用すればよい。図1乃至図3に示した装置もホン実施例と同様にして、加温できる。
【0006】
〔実施例〕
本発明の実施例を説明する。
実験は、図1乃至図3に示した装置により行なった。
200mm塩ビパイプを50cmに切断し上部発酵槽w1、23cmに切断し下部発酵槽w2とし、上中下に塩ビ板を溶接した。上部塩ビ板は透明板とした。隔壁b中央に口径25mm塩ビ管を鉛直に挿入接着し、流出管pとした。流出管p下端は、隔壁bより3cm下方にほぼ水平に開口させた。流出管p上端は、隔壁bより30cm上方にほぼ水平に開口させた。廃水投入管2は40mm、処理液排出管3は20mm塩ビ管とした。連通管r口径は25mmで、四方に設けた。下部発酵槽底部より5cm上方に開口させた。ガス取り出し管5は、口径5mmの軟質チューブとし、先端にコックをつけた。この装置で、35℃に設定した、恒温水槽内に設置し、メタン醗酵に関する実験を行なった。
種汚泥15kg、搾乳牛廃水(固形物4%、有機物3%)4kgを投入し、数日放置後、毎日搾乳牛廃水(固形物4%、有機物3%)0.9乃至1kgを投入し、噴出回数及びガス発生量を測定した。
その結果、1時間にほぼ1回の割合で噴出による撹拌が行なわれた。また投入有機物1gあたり390mlのガス発生があり醗酵は正常に行なわれていた。
【0006】
〔発明の効果〕
以上のように、本発明の装置は、液体の固体に対する付着力及び表面張力による作用と空気の浮揚力を利用したものであり、連続的に送られる生物ガスを気相部g内に溜め込み、一気に流出管p内に溢流させることにより激しい大量の液の噴出を起こす点に特徴を有するものである。
このような本発明の利点をまとめれば下記のとおりである。
(1)少ない通気量でも大きな撹拌力を得られる。効率よく撹拌できる。
(2)通気量に関係なく一定の撹拌が行なえる。通気量を減らしても、撹拌不能状態にならない。
(3)液体と接触する機械的な部分や運動部分がないので、故障も少なく、メンテナンスが安価にできる。
(4)簡単な構造で、無動力撹拌を行なえる。撹拌動力費が不要となる。
以上のような本発明の方法及び装置によれば、有機性俳句物のメタン醗酵処理が、低コストで行なえる。
【0007】
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の装置の一実施態様を示す、図2におけるB−B横断面図である。
図2は、図1におけるA−A縦断面図である。
図3は、図1におけるA−A縦断面図であり、噴出の様子を示している。
図4は、本発明の装置の別の一実施態様を示す、図2に相当する縦断面図である。
図5は、本発明の装置の別の一実施態様を示す、図4に相当する縦断面図である。
【符号の説明】
aはブロワー,bは隔壁、gは気相部,pは流出管,fは通気管、s1は液面、s2は液面、wはメタン発酵槽、w1は上部醗酵部、w2は下部醗酵部、1は側壁、2は投入管、3は排出管、4は開閉弁、5はガス取り出し管、6は開閉弁、7は管、8は管、9は流量調節弁、10は加温装置である。
実線矢印は液の流れの方向を示す。点線矢印は生物ガスの流れの方向を示す。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタン発酵により生成する生物ガスを利用してメタン発酵槽w内液を撹拌する方法であって、メタン発酵槽w内であってメタン発酵槽wの液面下の位置に、ほぼ鉛直に設けられた流出管pの下端の周囲に、隔壁、流出管p外壁面、及び前記隔壁下方の水面により気相部gを形成し、気相部g内に生物ガスを送り、液体の固体に対する付着力及び表面張力を利用して、間欠的かつ一気に生物ガスを流出管p内に溢流させ、流出管p内にガス層を形成せしめ、このガス層の浮上力によって、メタン発酵槽w液面の下方にガス及び液体を噴出させ、これによってメタン発酵槽w内を撹拌することを特徴とするメタン発酵槽の撹拌方法。
【請求項2】
気相部g内に送る生物ガスが、気相部g下方の液中より気相部g内に浮上してくる生物ガスであることを特徴とする請求項1記載のメタン発酵槽の撹拌方法。
【請求項3】
気相部g内に送る生物ガスが、ガス圧入機aの圧入によるものであることを特徴とする請求項1記載のメタン発酵槽の撹拌方法。
【請求項4】
有機性廃棄物をメタン発酵する装置において、
メタン発酵槽wが、
(ア)メタン発酵槽wを上下に区画する隔壁b
(イ)その下端が隔壁bのやや下方の位置に開口し、隔壁bを貫通しほぼ鉛直上方に伸び、その上端が隔壁bの上方に開口する流出管p
(ウ)その下端が隔壁bの下方であって、流出管p下端より下方の位置に開口し、その上端が隔壁bの上方に開口する連通管r
を備えることを特徴とするメタン発酵装置。
【請求項5】
有機性廃棄物をメタン発酵する装置において、
メタン発酵槽wが、
(エ)メタン発酵槽wを上下に区画する隔壁b
(オ)その下端が隔壁bのやや下方の位置に開口し、隔壁bを貫通しほぼ鉛直上方に伸び、その上端が隔壁bの上方に開口する流出管p
(カ)その下端が隔壁bの下方であって、流出管p下端より下方の位置に開口し、その上端が隔壁bの上方に開口する連通管r
(キ)隔壁bの下方に生物ガスを圧入するための通気管
(ク)隔壁bの下方に生物ガスを圧入するためのガス圧入機a
を備えることを特徴とするメタン発酵装置。
【請求項6】
有機性廃棄物をメタン発酵する装置において、
メタン発酵槽wが、
(ク)メタン発酵槽wを上下に区画する隔壁b
(ケ)その下端が隔壁bのやや下方の位置に開口し、隔壁bを貫通しほぼ鉛直上方に伸び、その上端が隔壁bの上方に開口する流出管p
(コ)その下端が隔壁bの下方であって、流出管p下端より下方の位置に開口し、その上端が隔壁bの上方に開口する連通管r
を備え、連通管rの少なくとも1つが、メタン発酵槽w槽外に設けられると共に、該槽外に設けられた連通管を温める加温装置を備えることを特徴とするメタン発酵装置。
【請求項7】
有機性廃棄物をメタン発酵する装置において、
メタン発酵槽wが、
(サ)メタン発酵槽wを上下に区画する隔壁b
(シ)その下端が隔壁bのやや下方の位置に開口し、隔壁bを貫通しほぼ鉛直上方に伸び、その上端が隔壁bの上方に開口する流出管p
(ス)その下端が隔壁bの下方であって、流出管p下端より下方の位置に開口し、その上端が隔壁bの上方に開口する連通管r
(セ)隔壁bの下方に生物ガスを圧入するための通気管
(ク)隔壁bの下方に生物ガスを圧入するためのガス圧入機a
を備え、連通管rの少なくとも1つが、メタン発酵槽w槽外に設けられると共に、該槽外に設けられた連通管を温める加温装置を備えることを特徴とするメタン発酵装置。
【請求項8】
流出管pの下端がほぼ水平であることを特徴とする請求項1又は請求項2又は請求項3又は請求項4又は請求項5又は請求項6又は請求項7記載のメタン発酵装置。

【公開番号】特開2007−130510(P2007−130510A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−114001(P2002−114001)
【出願日】平成14年3月12日(2002.3.12)
【出願人】(591110849)
【Fターム(参考)】