説明

メタ型全芳香族ポリアミド繊維

【課題】メタ型全芳香族ポリアミド繊維が本来もつ性質に加えて、高温下での加工および使用条件下であっても、物性の低下が抑制されたメタ型全芳香族ポリアミド繊維を提供すること。
【解決手段】特定の凝固浴を用いて湿式紡糸することにより多孔質の凝固糸を得て、続いて、特定倍率で可塑延伸を実施し、さらに、飽和水蒸気中で特定の熱処理を施すことにより、繊維中に残存する分子量10,000未満の低分子量成分の含有率が1.0質量%以下、繊維中に残存する溶媒量が1.0質量%以下であり、300℃での乾熱収縮率が3.0%以下であり、かつ繊維の破断強度が3.0cN/dtex以上のメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維に関するものである。さらに詳しくは、繊維中における低分子量成分と残存溶媒量が微量であり、高温雰囲気下での物性の低下を抑制することができる新規なメタ型全芳香族ポリアミド繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジクロリドとから製造される全芳香族ポリアミドは、耐熱性に優れ、かつ難燃性に優れることがよく知られている。また、これらの全芳香族ポリアミドは、アミド系溶媒に可溶であって、重合体溶液から乾式紡糸、湿式紡糸、半乾半湿式紡糸などの方法によって繊維となし得ることも周知である。
【0003】
かかる全芳香族ポリアミドのうち、ポリメタフェニレンイソフタルアミドで代表されるメタ型全芳香族ポリアミド(以下「メタアラミド」と略称することがある)の繊維は、耐熱・難燃性繊維として特に有用である。そして、かかるメタアラミド繊維の製法としては、主にとして、次の(a)〜(b)の2つの方法が採用されている。さらに、これ以外にも、(c)〜(e)のような方法が提案されている。
【0004】
(a)メタフェニレンジアミンとイソフタル酸クロライドとをN,N−ジメチルアセトアミド中で低温溶液重合させることによって、ポリメタフェニレンイソフタルアミド溶液を調製し、しかる後、該溶液中に副生した塩酸を水酸化カルシウムで中和して得た塩化カルシウムを含む重合体溶液を、乾式紡糸することにより、メタアラミド繊維を製造する方法(特許文献1参照)。
【0005】
(b)メタフェニレンジアミン塩とイソフタル酸クロライドとを含む生成ポリアミドの良溶媒ではない有機溶媒系(例えばテトラヒドロフラン)と無機の酸受容剤ならびに可溶性中性塩を含む水溶液系とを接触させることによって、ポリメタフェニレンイソフタルアミド重合体の粉末を単離し(特許文献2参照)、得られた重合体粉末をアミド系溶媒に再溶解した後、無機塩含有水性凝固浴中に湿式紡糸する方法(特許文献3参照)。
【0006】
(c)溶液重合法で合成したメタアラミドをアミド系溶媒に溶解した、無機塩を含まないか、または僅かな量(2〜3%)の塩化リチウムを含むメタアラミド溶液から、湿式成形法によって繊維などの成形物を製造する方法(特許文献4参照)。
【0007】
(d)アミド系溶媒中で溶液重合し、水酸化カルシウム、酸化カルシウムなどで中和して生成した塩化カルシウムと水とを含むメタアラミド重合体溶液を、オリフィスから気体中に押し出し、気体中を通過させた後、水性凝固浴に導入し、次いで、塩化カルシウムなどの無機塩水溶液中を通過させて繊維状物に成形する方法(特許文献5報参照)。
【0008】
(e)アミド系溶媒中で溶液重合し、水酸化カルシウム、酸化カルシウムなどで中和して生成した塩化カルシウムと水とを含むメタアラミド重合体溶液を、オリフィスから、塩化カルシウムを高濃度に含む水性凝固浴中に紡出させて繊維状物に成形する方法(特許文献6、特許文献7参照)。
【0009】
上記(a)の方法は、乾式紡糸であるため、紡糸口金より紡出された繊維状のポリマー溶液は、形成する繊維状物の表面付近から溶媒が揮発・乾燥する。このため、繊維表面には、緻密で強固なスキン層が生じる。その結果、重合体溶液に含まれるポリマー成分はほぼ全量が繊維中に残存することになり、かつ溶剤量の低減が困難となる。かくして、上記繊維は、高温雰囲気下における使用時に、繊維中に残存する低分子量成分や溶媒によりガラス転移温度の低下が生じ、物性低下が起こる温度が低くなるという問題があった。
【0010】
また、上記(b)〜(e)の方法は、湿式紡糸であるため、水性凝固浴あるいは高濃度の無機塩を含有する水性凝固浴に導入した際に、繊維状になったポリマー溶液の表面近傍から溶媒が水性凝固浴内へ脱離すると同時に、凝固した繊維状物の表面近傍から水が繊維状物の内部へ浸入することにより、得られる繊維には強固なスキン層が生じる。このため、低分子量成分の一部は凝固液中に排出されるものの、乾式紡糸法による繊維と同様に、繊維中に残存する低分子量成分や溶媒によって、物性低下が生じる温度が低下することは避けられない状況であった。
【0011】
また、特許文献8には、上記(b)と同様の方法で得たメタフェニレンジアミンイソフタルアミドを主たる繰返し単位とするメタ型全芳香族ポリアミドをアミド系溶媒に溶解してなる塩類を含まない重合体溶液を、アミド系溶媒と水とからなり、かつ塩類を含まない凝固浴中に吐出して多孔質の繊維状物(線状体)として凝固させ、続いて、これをアミド系溶媒の水性溶液からなる可塑延伸浴中にて延伸し、水洗後、熱処理することにより、塩類(無機イオン性物質)が実質的に含まれていない緻密なメタ型全芳香族ポリアミド繊維を製造する方法が提案されている。さらに、特許文献9には、多孔を有する繊維状体として凝固させた後に、該多孔内に該凝固液を含んだままか、もしくは可塑液を含ませて、該繊維状体を空気中において加熱延伸し、該多孔内に凝固液等を含んだままで加熱し、次いで熱処理する方法が提案されている。
【0012】
特許文献8および9に記載された方法では、メタアラミド溶液を凝固させて繊維状体とした段階では、実質的に表面にスキン層を有しない多孔質な繊維状物となっている。しかしながら、上記多孔質繊維状物の状態で該繊維中に残存する溶媒を十分に除去すると、その後で延伸することが非常に困難となるため、最終的に得られる繊維は、配向および結晶化が不十分な繊維となる。したがって、特許文献8および9に記載された方法により得られた繊維は、本来、メタ型全芳香族ポリアミドが有している繊維物性を保持することが困難となり、特に高温熱収縮安定性に劣るという欠点を有していた。
このように、破断強度などの物性を満足しながら、高温雰囲気下における物性の低下を抑制した高性能な製品を提供することができるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、未だ知られていないのが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特公昭35−14399号公報
【特許文献2】特公昭47−10863号公報
【特許文献3】特公昭48−17551号公報
【特許文献4】特開昭50−52167号公報
【特許文献5】特開昭56−31009号公報
【特許文献6】特開平8−074121号公報
【特許文献7】特開平10−88421号公報
【特許文献8】特開2001−303365公報
【特許文献9】特開2001−348726公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記背景技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、高温の使用条件下であっても物性の低下が抑制された、耐熱性に優れたメタ型全芳香族ポリアミド繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記の課題に鑑み鋭意研究を重ねた。その結果、特定の凝固浴を用いて湿式紡糸することにより多孔質の凝固糸を得て、続いて、特定倍率で可塑延伸を実施し、さらに、飽和水蒸気中で特定の熱処理を施すことにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、分子量10,000未満の低分子量成分の含有率が1.0質量%以下であって、繊維中に残存する溶媒量が1.0質量%以下であり、300℃での乾熱収縮率が3.0%以下であり、かつ繊維の破断強度が3.0cN/dtex以上であるメタ型全芳香族ポリアミド繊維である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の繊維は、繊維中に残存する低分子量成分および残存溶媒量が少なく、かつ力学特性、耐熱性が良好なメタ型全芳香族ポリアミド繊維である。すなわち、本発明の繊維は、耐熱性・難燃性というメタ型全芳香族ポリアミド繊維が本来もつ性質に加えて、高温下での使用においても、製品の物性低下を抑制することができる。したがって、本発明の繊維は、従来のメタ型全芳香族ポリアミド繊維では使用できなかった分野においても使用可能となり、その工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<メタ型全芳香族ポリアミド繊維>
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、以下の特定の物性を備える。本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維の物性、構成、および、製造方法等について以下に説明する。
【0018】
[メタ型全芳香族ポリアミド繊維の物性]
〔低分子量成分〕
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、分子量10,000未満の低分子量成分の含有率が1.0質量%以下、好ましくは0.8質量%、特に好ましくは0.6質量%以下である。
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維において、分子量10,000未満の低分子量成分が1.0質量%を超える場合には、低分子量成分が増加し、繊維中の非晶領域におけるガラス転移温度が低下するため、高温使用環境において物性の低下が起こりやすくなる。
メタ型全芳香族ポリアミド繊維において、分子量が10,000未満の低分子量成分を1.0質量%以下とするためには、繊維の製造工程において、スキンコアを有しない凝固形態となるよう凝固浴の成分あるいは条件を調節する。例えば、紡糸原液をアミド系溶媒の水溶液からなる実質的に塩を含まない凝固液中に吐出する方法が挙げられる。
なお、本発明における「分子量10,000未満の低分子量成分」とは、以下の方法で得られる値をいう。
【0019】
(低分子量成分の測定方法)
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)にリチウムクロライド(LiCl)を0.01モル/L溶解させた溶液に繊維を溶解し、ポリスチレン換算のゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を測定する。低分子量成分量は、GPCで求められる分子量(M)から、以下の数式で求める。
N(%)=100×ΣMi(10,000未満)Ni/ΣMi(Total)Ni
(ここで、MiはGPC測定から得られるi番目の溶出時間の分子量、Niは分子量Miの個数である。)
【0020】
〔残存溶媒量〕
メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、通常、ポリマーをアミド系溶媒に溶解した紡糸原液から製造されるため、必然的に該繊維に溶媒が残存する。しかしながら、本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、繊維中に残存する溶媒の量が、繊維質量に対して1.0質量%以下である。1.0質量%以下であることが必須であり、0.7質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることが特に好ましい。
繊維質量に対して1.0質量%を超えて溶媒が繊維中に残存している場合には、300℃を超えるような高温雰囲気下での加工や使用の際に、残存溶媒が揮発するために環境安全性に劣ったり、繊維が黄変したりするため好ましくない。また、分子構造が破壊されることにより、著しく強度が低下する。さらに、残存する溶媒は引火点以上では容易に引火、燃焼するため、例えば、限界酸素指数(LOI値)を28以上とすることが困難となる。
繊維中の残存溶媒量を1.0質量%以下とするためには、繊維の製造工程において、スキンコアを有しない凝固形態となるよう凝固浴の成分あるいは条件を調節し、かつ、特定倍率で可塑延伸を実施し、さらに、飽和水蒸気中で特定の熱処理を実施する。
なお、本発明における「繊維中に残存する残存溶媒量」とは、以下の方法で得られる値をいう。
【0021】
(残存溶媒量の測定方法)
洗浄工程の出側にて繊維をサンプリングし、該繊維を遠心分離機(回転数5,000rpm)に10分かけ、このときの繊維質量(M1)を測定する。この繊維を、質量M2gのメタノール中で4時間煮沸し、繊維中のアミド系溶媒および水を抽出する。抽出後の繊維を105℃雰囲気下で2時間乾燥し、乾燥後の繊維質量(P)を測定する。また、抽出液中に含まれるアミド系溶媒の質量濃度(C)を、ガスクロマトグラフにより求める。
繊維中に残存する溶媒量(アミド系溶媒質量)N(%)は、上記のM1、M2、P、およびCを用いて、下記式により算出する。
N=[C/100]×[(M1+M2−P)/P]×100
【0022】
〔300℃での乾熱収縮率〕
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、300℃乾熱収縮率が3.0%以下である。3.0%以下であることが必須であり、2.9%以下が好ましく、2.8%以下がさらに好ましい。収縮率が3.0%を超える場合には、高温雰囲気下での使用時に製品寸法が変化し、製品の破損が生じる等の問題が発生するため好ましくない。
メタ型全芳香族ポリアミド繊維の300℃での乾熱収縮率は、繊維の製造工程において、飽和水蒸気中で特定の熱処理を実施することにより制御することができる。300℃乾熱収縮率を3.0%以下とするためには、飽和水蒸気処理工程における延伸倍率を、0.7〜5.0倍の範囲とすればよい。延伸倍率が5.0倍を超える場合には、延伸時の単糸切れが増大し、毛羽や工程断糸が発生するため好ましくない。
なお、本発明における「300℃での乾熱収縮率」とは、以下の方法で得られる値をいう。
【0023】
(300℃での乾熱収縮率の測定方法)
約3,300dtexのトウに98cN(100g)の荷重を吊るし、互いに30cm離れた箇所に印をつける。荷重を除去後、トウを300℃雰囲気下に15分間置いた後、印間の長さLを測定する。測定結果Lをもとに、下記式にて得られる値を300℃乾熱収縮率(%)とする。
300℃乾熱収縮率(%)=[(30−L)/30]×100
【0024】
〔破断強度〕
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維の破断強度は、3.0cN/dtex以上である。3.0cN/dtex以上であることが必須であり、3.5cN/dtex以上であることがより好ましく、4.0cN/dtex以上であることが特に好ましい。破断強度が3.0cN/dtex未満である場合には、紡績等の後加工工程において繊維が破断し、通過性が悪化するため好ましくない。また、加工した製品の破断強度も低くなる。
メタ型全芳香族ポリアミド繊維の「破断強度」は、繊維の製造工程において、特定倍率で可塑延伸を実施することにより制御することができる。破断強度を3.0cN/dtex以上とするためには、可塑延伸浴延伸工程における延伸倍率を1.5〜10倍とすればよい。
【0025】
なお、ここでいう「破断強度」とは、JIS L 1015に基づき、測定機器としてインストロン社製、型番5565を用いて、下記の測定条件で測定して得られる値をいう。
(測定条件)
つかみ間隔 :20mm
初荷重 :0.044cN(1/20g)/dtex
引張速度 :20mm/分
【0026】
〔高温下での強度保持率〕
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、250℃で600時間保持した後の強度保持率が60%以上であることが好ましく、65%以上であることがさらに好ましく、70%以上であることが最も好ましい。60%未満の場合には、高温環境下で使用されるバグフィルターなどの分野での使用が困難となる。
この高温下での強度保持率は、繊維の製造工程において、凝固浴の成分あるいは条件を適宜調節することにより強固なスキン層を形成させることなく凝固させることにより凝固プロセス中で低分子量成分量を低減させ、さらに飽和水蒸気処理において残存溶媒を1.0質量%以下とすることにより、向上することができる。
【0027】
〔高湿下での強度保持率〕
さらに、本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、140℃の飽和水蒸気中で600時間放置した後の強度保持率が60%以上であることが好ましく、65%以上であることがさらに好ましく、70%以上であることが最も好ましい。60%未満の場合には、高温高湿環境下で使用されるフィルターや防護服等の分野での使用が困難となる。
この高湿下での強度保持率は、繊維の製造工程において、凝固浴の成分あるいは条件を適宜調節することにより強固なスキンを形成させることなく凝固させることにより凝固プロセス中で低分子量成分量を低減させ、さらに飽和水蒸気処理において残存溶媒を1.0質量%以下とすることにより、向上することができる。
【0028】
〔破断伸度〕
また、メタ型全芳香族ポリアミド繊維の破断伸度は、30%以上であることが好ましい。35%以上であることがさらに好ましく、40%以上であることが特に好ましい。破断伸度が30%未満である場合には、紡績等の後加工工程における通過性が悪化するため好ましくない。
本発明において、メタ型全芳香族ポリアミド繊維の「破断伸度」は、後記する製造方法における紡糸・凝固工程において、凝固浴条件を適正化することにより制御することができる。破断伸度を30%以上とするためには、凝固浴中のアミド系溶剤濃度を45〜60質量%とし、凝固浴温度を20〜70℃とすればよい。
なお、ここでいう「破断伸度」とは、JIS L 1015に基づき、測定機器としてインストロン社製、型番5565を用いて、上記した「破断強度」と同一の測定条件で測定して得られる値をいう。
【0029】
〔単糸繊度〕
メタ型全芳香族ポリアミド繊維の単糸繊度は、0.5〜6dtexの範囲であることが好ましい。0.5dtex未満となる場合には、織成の際、単糸切れによる毛羽を生じ、織成作業が困難となる。一方で、単糸繊度が6dtexを超える場合には、単糸間のバラケを生じやすくなる。
【0030】
[メタ型全芳香族ポリアミドの構成]
本発明におけるメタ型全芳香族ポリアミドとは、メタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸成分とから構成されるものであり、本発明の目的を阻害しない範囲内で、例えばパラ型などの他の共重合成分を共重合したものであってもよい。
本発明において特に好ましく使用されるのは、力学特性、耐熱性の観点から、メタフェニレンイソフタルアミド単位を主成分とするメタ型全芳香族ポリアミドである。メタフェニレンイソフタルアミド単位から構成されるメタ型全芳香族ポリアミドとしては、メタフェニレンイソフタルアミド単位が、全繰り返し単位の90モル%以上であることが好ましく、さらに好ましくは95モル%以上、特に好ましくは100モル%である。
【0031】
〔メタ型全芳香族ポリアミドの原料〕
(メタ型芳香族ジアミン成分)
メタ型芳香族ジアミン成分としては、メタフェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルスルホンなど、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1〜3のアルキル基などの置換基を有する誘導体、例えば、2,4−トルイレンジアミン、2,6−トルイレンジアミン、2,4−ジアミノクロルベンゼン、2,6−ジアミノクロルベンゼンなどを例示することができる。なかでも、メタフェニレンジアミンのみ、または、メタフェニレンジアミンを70モル%以上含有する混合ジアミンであることが好ましい。
【0032】
(メタ型芳香族ジカルボン酸成分)
また、メタ型芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドを挙げることができる。メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、イソフタル酸クロライド、イソフタル酸ブロマイドなどのイソフタル酸ハライド、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1〜3のアルコキシ基などの置換基を有する誘導体、例えば、3−クロルイソフタル酸クロライド、3−メトキシイソフタル酸クロライドを例示することができる。なかでも、イソフタル酸クロライドのみ、またはイソフタル酸クロライドを70モル%以上含有する混合カルボン酸ハライドであることが好ましい。
【0033】
(共重合成分)
上記のメタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸成分以外で使用しうる共重合成分としては、例えば、芳香族ジアミンとして、パラフェニレンジアミン、2,5−ジアミノクロルベンゼン、2,5−ジアミノブロムベンゼン、アミノアニシジンなどのベンゼン誘導体、1,5−ナフチレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルケトン、4,4’−ジアミノジフェニルアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタンなどが挙げられる。一方、芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸クロライド、1,4−ナフタレンジカルボン酸クロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸クロライド、4,4’−ビフェニルジカルボン酸クロライド、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸クロライドなどが挙げられる。
【0034】
これらの共重合成分の共重合比は、あまりに多くなりすぎるとメタ型全芳香族ポリアミドの特性が低下しやすいため、ポリアミドの全酸成分を基準として20モル%以下とすることが好ましい。特に、好適なメタ型全芳香族ポリアミドは、上記した通り、全繰返し単位の90モル%以上がメタフェニレンイソフタルアミド単位であるポリアミドであり、なかでもポリメタフェニレンイソフタルアミドが特に好ましい。
【0035】
〔メタ型全芳香族ポリアミドの製造方法〕
メタ型全芳香族ポリアミドの製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、メタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸クロライド成分とを原料とした溶液重合や界面重合等により製造することができる。
メタ型全芳香族ポリアミドの重合度としては、30℃の濃硫酸を溶媒として測定した固有粘度(IV)として、1.3〜3.0の範囲が適当である。
【0036】
<メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法>
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、上記の製造方法によって得られたメタ型全芳香族ポリアミドを用いて、例えば、以下に説明する紡糸液調製工程、紡糸・凝固工程、可塑延伸浴延伸工程、洗浄工程、飽和水蒸気処理工程、乾熱処理工程を経て製造される。
【0037】
[紡糸液調製工程]
紡糸液調製工程においては、メタ型全芳香族ポリアミドをアミド系溶媒に溶解して、紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)を調製する。紡糸液の調製にあたっては、通常、アミド系溶媒を用い、使用されるアミド系溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等を例示することができる。これらのなかでは溶解性と取扱い安全性の観点から、NMPまたはDMAcを用いることが好ましい。
溶液濃度としては、次工程である紡糸・凝固工程での凝固速度および重合体の溶解性の観点から、適当な濃度を適宜選択すればよく、例えば、ポリマーがポリメタフェニレンイソフタルアミドで溶媒がNMPの場合には、通常は10〜30質量%の範囲とすることが好ましい。
【0038】
[紡糸・凝固工程]
紡糸・凝固工程においては、上記で得られた紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)を凝固液中に紡出して凝固させ、多孔質繊維状物を得る。
紡糸装置としては特に限定されるものではなく、従来公知の湿式紡糸装置を使用することができる。また、安定して湿式紡糸できるものであれば、紡糸口金の紡糸孔数、配列状態、孔形状等は特に制限する必要はなく、例えば、孔数が500〜30,000個、紡糸孔径が0.05〜0.2mmのスフ用の多ホール紡糸口金等を用いてもよい。
また、紡糸口金から紡出する際の紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)の温度は、10〜90℃の範囲が適当である。
残存溶媒量が十分に低減した繊維を得るためには、十分な程度にまで繊維の緻密化を行う必要があり、そのためには、湿式法あるいは半乾半湿式法による紡糸・凝固工程の凝固段階で形成される多孔質繊維状物の構造を、できる限り均質なものとすることが極めて重要である。多孔構造と凝固浴の条件とは緊密な関係があり、凝固浴の組成と温度条件の選定は極めて重要である。
なお、ここでいう湿式法とは、紡糸口金から直接凝固浴中に糸条を押出す方式をいい、半乾半湿式法とは、紡糸口金と凝固浴の間にエアーギャップを設け、紡糸口金から押出された糸条はエアー中を通過した後に凝固浴中を通過させる方法をいう。この際、エアーギャップ距離(紡糸口金面と凝固液面との距離)は、通常、吐出孔間距離の6倍以下とする。
【0039】
本発明で使用する凝固浴は、実質的にアミド系溶媒と水との2成分からなる水溶液で構成される。この凝固浴組成において、アミド系溶媒としてはメタ型全芳香族ポリアミドを溶解し、水と良好に混和するものであれば用いることができるが、特に、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルイミダゾリジノンなどを好適に用いることができる。
【0040】
アミド系溶媒と水との最適な混合比は、重合体溶液の条件によっても若干変化するが、一般的に、アミド系溶媒の割合が水溶液全体に対して40質量%から60質量%の範囲であることが好ましい。この範囲を下回る条件では凝固繊維中に非常に大きなボイドが生じやすくなり、その後の糸切れの原因となりやすくなる。一方で、この範囲を上回る条件では凝固が進まず、繊維の融着が起こりやすくなる。
【0041】
凝固工程においては、紡糸原液をアミド系溶媒の水溶液からなる実質的に塩を含まない凝固液中に吐出することにより、凝固糸表面に強固なスキン層を形成させることなく、効率的に低分子量成分の除去を行うことができる。
【0042】
均質な構造の多孔質繊維状物を得るための凝固浴としては、実質的にアミド系溶媒と水だけで構成されることが好ましい。しかしながら、塩化カルシウム、水酸化カルシウムなどの無機塩類がポリマー溶液中から抽出されてくるため、実際には、凝固液にはこれら塩類が少量含まれる。工業的な実施における塩類の好適濃度は、凝固液全体に対して0.3質量%〜10質量%の範囲である。無機塩濃度を0.3質量%未満とするためには、凝固液の回収プロセスにおける精製のための回収コストが著しく高くなるため適切ではない。一方で、無機塩濃度が10質量%を超える場合には、凝固速度が遅くなることから、紡糸口金から吐出された直後の多孔質化する以前の繊維に融着が発生しやすくなり、また、凝固時間が長時間となるため凝固設備を大型化せざるを得なくなり好ましくない。
【0043】
凝固浴の温度は、凝固液組成と密接な関係があるが、一般的には、生成繊維中にフィンガーとよばれる粗大な気泡上の空孔ができにくいため、高温にするほうが好ましい。しかしながら、凝固液濃度が比較的高い場合には、あまり高温にすると繊維の融着が激しくなる。このため、凝固浴の好適な温度範囲は20〜70℃であり、より好ましくは25〜60℃である。
【0044】
なお、凝固浴中での繊維状物(糸条体)の浸漬時間は、1.5〜30秒の範囲とすることが好ましい。浸漬時間が1.5秒未満の場合には、繊維状条物の形成が不十分となり断糸が発生する。一方で、浸漬時間が30秒を超える場合には、生産性が低くなるため好ましくない。
【0045】
[可塑延伸浴延伸工程]
可塑延伸浴延伸工程においては、凝固浴にて凝固して得られた多孔質繊維状物(糸条体)からなる繊維束が可塑状態にあるうちに、当該繊維束を可塑延伸浴中にて延伸処理する。
本発明における可塑延伸浴は、アミド系溶媒の水溶液からなり、塩類は実質的に含まれない。このアミド系溶媒としては、メタ型アラミドを膨潤させ、かつ、水と良好に混和するものであれば特に限定されるものではない。かかるアミド系溶媒しては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルイミダゾリジノンなどを挙げることができる。工業的には、可塑延伸浴液とするアミド系溶媒は、上記凝固浴に用いたものと同じ種類の溶媒を用いることが特に好ましい。すなわち、重合体溶液、凝固浴、および可塑延伸浴に用いるアミド系溶媒は同種であることが好ましく、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)のうちから選ばれる単独溶媒、または、2種以上からなる混合溶媒を用いることが好都合である。同種のアミド系溶媒を用いることによって、回収工程を統合・簡略化することができ、経済的に有益となる。
【0046】
可塑延伸浴の温度と組成とはそれぞれ密接な関係にあるが、アミド系溶媒の質量濃度が20〜70質量%、かつ、温度が20〜70℃の範囲であれば、好適に用いることができる。この範囲より低い領域では、多孔質繊維状物の可塑化が十分に進まず、可塑延伸において十分な延伸倍率をとることが困難となる。一方で、この範囲より高い領域では、多孔質繊維の表面が溶解して融着するため、良好な製糸が困難となる。
【0047】
本発明の繊維を得るにあたっては、可塑延伸浴中の延伸倍率を、1.5〜10倍の範囲とする必要があり、好ましくは2.0〜6.0倍の範囲とする。延伸倍率が1.5倍未満の場合には、得られる繊維の強度、弾性率等の力学特性が低くなり、繊維に必要な破断強度を達成することが困難となる。また、多孔質繊維状物からの脱溶剤を十分に促進することが困難となり、最終的に得られる繊維の残存溶媒量を1.0質量%以下とすることが困難となる。なお、可塑延伸浴延伸工程において高倍率で延伸を施すことにより、強度、弾性率等が向上して良好な物性を示す繊維が得られるようになると同時に、多孔質繊維状物の微細孔が引きつぶされ、後の熱処理工程における緻密化が良好に進行するようになる。ただし、延伸倍率が10倍を超えるような高倍率で延伸した場合には、工程の調子が悪化して毛羽や単糸切れが多く発生するため好ましくない。
【0048】
[洗浄工程]
洗浄工程においては、上記可塑延伸浴延伸工程を経た繊維を、十分に洗浄する。洗浄は、得られる繊維の品質面に影響を及ぼすことから、多段で行なうことが好ましい。特に、洗浄工程における洗浄浴の温度および洗浄浴液中のアミド系溶媒の濃度は、繊維からのアミド系溶媒の抽出状態および洗浄浴からの水の繊維中への浸入状態に影響を与える。このため、これらを最適な状態とする目的においても、洗浄工程を多段とし、温度条件およびアミド系溶媒の濃度条件を制御することが好ましい。洗浄工程を多段とすることにより、低分子量成分を低減させることができる。
温度条件およびアミド系溶媒の濃度条件については、最終的に得られる繊維の品質を満足できるものであれば特に限定されるものではないが、最初の洗浄浴を60℃以上の高温とすると、水の繊維中への浸入が一気に起こるため、繊維中に巨大なボイドが生成し、品質の劣化を招く。このため、最初の洗浄浴は、30℃以下の低温とすることが好ましい。引き続き、50〜90℃の温水で洗浄することが好ましい。
【0049】
[飽和水蒸気処理工程]
飽和水蒸気処理工程においては、洗浄工程において洗浄された繊維を、飽和水蒸気中で熱処理する。飽和水蒸気処理をおこなうことにより、繊維の結晶化を抑制しつつ配向を高めることが可能となる。飽和水蒸気雰囲気での熱処理は、乾熱処理と比較して繊維束内部まで均一に熱処理することが可能となり、均質な繊維を得ることができる。
さらに驚くべきことに、飽和水蒸気雰囲気で熱処理を行うと、繊維表面が結晶化せず、スキン層が形成されない。このため、繊維束の各単繊維中に残存する溶媒を、急速に拡散することができ、繊維内部からほぼ完全に除去することが可能となる。したがって、飽和水蒸気熱処理を実施することにより、最終的に得られる繊維中の残存溶媒量を、1.0質量%以下にまで低減することが可能となる。
【0050】
飽和水蒸気処理工程における飽和水蒸気圧は、0.02〜0.50MPaの範囲とする。好ましくは0.03〜0.30MPaの範囲、さらに好ましくは0.04〜0.20MPaの範囲である。飽和水蒸気圧が0.02MPa未満の場合には、十分な蒸気処理効果が得られず、残存溶媒量を低減させる効果が小さくなるため好ましくない。一方で、飽和水蒸気圧が0.50MPaを超える場合には、繊維の結晶化が促進されすぎて繊維表面にスキン層が形成されるため、残存溶媒量を十分に低減することが困難となる。
【0051】
飽和水蒸気処理工程における延伸倍率は、繊維の強度の発現にも密接な関係を持っている。延伸倍率は、製品に求められる物性を考慮して必要な倍率を任意に選択すればよいが、本発明においては0.7〜5.0倍の範囲であり、好ましくは1.1〜2.0倍の範囲とすることが好ましい。延伸倍率が0.7倍未満の場合には、飽和水蒸気雰囲気中での繊維束(糸条)の収束性が低下するので好ましくない。一方で、延伸倍率が5倍を超える場合には、延伸時の単糸切れが増大し、毛羽や工程断糸が発生するため好ましくない。また、飽和水蒸気処理工程における延伸倍率を0.7〜5.0倍の範囲とすれば、発明のフィルター材を構成する繊維に必要な300℃での乾熱収縮率を3.0%以下とすることができる。
なお、ここでいう延伸倍率とは、処理前の繊維長に対する処理後の繊維長の比で表される。例えば、延伸倍率0.7倍とは、飽和水蒸気処理工程により繊維が原長の70%に制限収縮処理されることを意味し、1.1倍とは10%伸長するよう処理されることを意味する。
【0052】
なお、飽和水蒸気処理の時間は、0.5〜5.0秒の範囲とすることが好ましい。走行する繊維束を連続的に処理する場合には、水蒸気処理槽中の繊維束の走行距離と走行速度とによって処理時間が決まるため、これらを適宜調整して最も効果のある処理時間を選択すればよい。
【0053】
[乾熱処理工程]
乾熱処理工程においては、飽和水蒸気処理工程を経た繊維を、乾燥・熱処理する。乾熱処理の方法としては特に限定されるものではないが、例えば、熱板、熱ローラ等を用いる方法を挙げることができる。乾熱処理を経ることにより、最終的に、発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得ることができる。
【0054】
乾熱処理工程における熱処理温度は、250〜400℃の範囲とすることが好ましく、より好ましくは300〜380℃の範囲である。乾熱処理温度が250℃未満である場合には、多孔質の繊維を十分に緻密化させることが出来ないため、得られる繊維の力学特性が不十分となる。一方で、乾熱処理温度が400℃を超える高温では、繊維の表面が熱劣化し、品位が低下するため好ましくない。
【0055】
乾熱処理工程における延伸倍率は、得られる繊維の強度の発現に密接な関係を持っている。延伸倍率は、繊維に要求される強度等に応じて任意の倍率を選ぶことができるが、0.7〜4倍の範囲とすることが好ましく、1.5〜3倍の範囲とすることがさらに好ましい。延伸倍率が0.7倍未満の場合には、工程張力が低くなるために繊維の力学特性が低下し、一方で、延伸倍率が4倍を超える場合には、延伸時の単糸切れが増大し、毛羽や工程断糸が発生する。なお、ここでいう延伸倍率とは、上記飽和水蒸気処理工程で説明したのと同様に、延伸処理前の繊維長に対する処理後の繊維長の比で表される。例えば、延伸倍率0.7倍とは、乾熱処理工程により繊維が原長の70%に制限収縮処理されることを意味し、延伸倍率1.0倍とは定長熱処理を意味する。
【0056】
乾熱処理工程における処理時間は、1.0〜45秒の範囲とすることが好ましい。処理時間は、繊維束の走行速度と熱板、熱ローラ等との接触長とによって調整することができる。
【0057】
[捲縮工程等]
乾熱処理が施されたメタ型全芳香族ポリアミド繊維には、必要に応じて、さらに捲縮加工を施してもよい。さらに、捲縮加工後は、適当な繊維長に切断し、次工程に提供してもよい。また、場合によっては、マルチフィラメントヤーンとして巻き取ってもよい。
【実施例】
【0058】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳しく具体的に説明する。ただし、これらの実施例および比較例は本発明の理解を助けるためのものであって、これらの記載によって本発明の範囲が限定されるものではない。
なお、実施例および比較例中の「部」および「%」は特に断らない限りすべて質量に基づくものであり、量比は特に断らない限り質量比を示す。
また、紡糸に用いる重合体溶液(紡糸原液)の全質量部に対する重合体の質量%、すなわちPN濃度は次式により求めた。
PN濃度=[重合体/(重合体+溶媒+その他)]×100(%)
【0059】
<測定方法>
実施例および比較例における測定・評価は、以下の方法によって行なった。
[固有粘度(I.V.)]
ポリマーを97%濃硫酸に溶解し、オストワルド粘度計を用い30℃で測定した。
[繊度]
JIS L1015に基づき、正量繊度のA法に準拠した測定を実施し、見掛繊度にて表記した。
【0060】
[破断強度、破断伸度]
JIS L1015に基づき、インストロン社製 型番5565を用いて、以下の条件で測定した。
(測定条件)
つかみ間隔 :20mm
初荷重 :0.044cN(1/20g)/dtex
引張速度 :20mm/分
【0061】
[低分子量成分N(%)]
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)にリチウムクロライド(LiCl)を0.01モル/L溶解させた溶液に繊維を溶解し、ポリスチレン換算のゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を測定した。低分子量成分量は、GPCで求められる分子量(M)から、以下の数式により求めた。
N(%)=100×ΣMi(10000未満)Ni/ΣMi(Total)Ni
(ここで、MiはGPC測定から得られるi番目の溶出時間の分子量、Niは分子量Miの個数である。)
【0062】
[残留溶媒量]
洗浄工程の出側にて繊維をサンプリングし、該繊維を遠心分離機(回転数5,000rpm)に10分かけ、このときの繊維質量(M1)を測定した。この繊維を、質量M2gのメタノール中で4時間煮沸し、繊維中のアミド系溶媒および水を抽出した。抽出後の繊維を105℃雰囲気下で2乾燥し、乾燥後の繊維質量(P)を測定した。また、抽出液中に含まれるアミド系溶媒の質量濃度(C)を、ガスクロマトグラフにより求めた。
繊維中に残存する溶媒量(アミド系溶媒質量)N(%)は、上記のM1、M2、P、およびCを用いて、下記式により算出した。
N=[C/100]×[(M1+M2−P)/P]×100
【0063】
[300℃乾熱収縮率]
約3,300dtexのトウに98cN(100g)の荷重を吊るし、互いに30cm離れた箇所に印をつけた。荷重を除去後、トウを300℃雰囲気下に15分間置いた後、印間の長さLを測定した。測定結果Lをもとに、下記式にて得られる値を300℃乾熱収縮率(%)とした。
300℃乾熱収縮率(%)=[(30−L)/30]×100
【0064】
[高温下での強度保持率]
250℃で600時間保持した後の繊維の強度を、20℃65%RHにて、前述の破断強度測定方法と同条件にて測定し、高温下での強度保持率を算出した。
【0065】
[高湿下での強度保持率]
140℃の飽和水蒸気中で600時間放置した後の強度保持率を、20℃65%RHにて、前述の破断強度測定方法と同条件にて測定し、高湿下での強度保持率を算出した。
【0066】
<実施例1>
[紡糸液調整工程]
特公昭47−10863号公報記載の方法に準じた界面重合法により製造した固有粘度(I.V.)1.9のポリメタフェニレンイソフタルアミド粉末21.5部を、0℃に冷却したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)78.5部中に懸濁させ、スラリー状にした後、60℃まで昇温して溶解させ、紡糸液となる透明なポリマー溶液Aを得た。
【0067】
[紡糸・凝固工程]
上記で調製したポリマー溶液を紡糸原液として、孔径0.05mm、孔数50の紡糸口金より、浴温度80℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。凝固浴としては、水/NMP=45/55の組成の浴液を用い、浸漬長(有効凝固浴長)60cmにて、糸速8m/分で凝固液中を通過させた後、いったん空気中に引き出した。
【0068】
[可塑延伸浴延伸工程]
引き続き、可塑延伸浴中にて3倍の延伸倍率で延伸を行った。可塑延伸浴としては、水/NMP=70/30の組成の浴液を用い、温度80℃とした。
【0069】
[洗浄工程]
可塑延伸浴における延伸に続いて、冷水による水洗を十分に行った後、さらに80℃の温水で洗浄した。
【0070】
[飽和水蒸気処理工程]
引き続き、飽和水蒸気圧力0.05MPaに保たれた容器中にて、延伸倍率1.1倍で、飽和水蒸気による熱処理を行った。このとき、繊維束が約1.0秒間飽和水蒸気で処理されるよう諸条件を調整した。
【0071】
[乾熱処理工程]
続いて、表面温度120℃の乾燥ローラに巻回して乾燥させ、引き続き、340〜360℃の熱板上で1.2倍に乾熱延伸して巻き取り、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。
【0072】
[繊維の物性]
得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維は、繊度1.53dtex、破断強度3.11cN/dtex、破断伸度24.5%であり、良好な力学特性を示した。また、繊維中の分子量10,000未満の低分子量成分は0.96%、残存溶媒量は0.78%であり、250℃で600時間保持した後の強度保持率は67%、140℃の飽和水蒸気中で600時間放置した後の強度保持率は62%であった。
【0073】
<実施例2>
用いる溶媒をN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に変更して紡糸液となるポリマー溶液Bを製造し、これを紡糸原液に用いたこと以外は、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を製造した。得られた繊維の物性などを表1に示す。
【0074】
<実施例3>
[紡糸液調製工程]
乾燥窒素雰囲気下の反応容器に、水分率が100ppm以下のNMP721.5部を秤量し、このNMP中にメタフェニレンジアミン97.2部(50.18モル%)を溶解させて0℃に冷却した。この冷却したジアミン溶液に対して、イソフタル酸クロライド(以下IPCと略す)181.3部(49.82モル%)を徐々に撹拌しながら添加し、重合反応を行った。粘度変化が止まった後から40分攪拌を継続した。
次に、重合反応が完了したポリマー溶液に対して、平均粒径が10μm以下である水酸化カルシウム粉末66.6部をゆっくり加えて、中和反応を行った。水酸化カルシウムの投入が完了した後、40分間撹拌し、紡糸液となる透明なポリマー溶液Cを得た。
得られたポリマー溶液Cからポリメタフェニレンイソフタルアミドを単離して固有粘度(I.V.)を測定したところ、1.25であった。また、溶液のポリマー濃度は20%であった。
【0075】
[紡糸・凝固工程]
得られたポリマー溶液Cを紡糸原液として、孔径0.07mm、孔数1,500の紡糸口金より、浴温度40℃、水/NMP=45/55の組成の凝固浴中に、糸速7m/分で吐出して紡糸した。
【0076】
[可塑延伸浴延伸工程]
引き続き、温度40℃で水/NMP=40/60の組成の浴液を用いた可塑延伸浴中にて、5.0倍の延伸倍率で延伸を行った。
【0077】
[洗浄工程]
可塑延伸浴における延伸に続いて、20℃の水/NMP=70/30の浴、続いて20℃の水浴で洗浄し、さらに60℃の温水浴に通して十分に洗浄を行った。
【0078】
[飽和水蒸気処理工程]
引き続き、飽和水蒸気圧力0.05MPaに保たれた容器中にて、延伸倍率1.1倍で、飽和水蒸気による熱処理を行った。このとき、繊維束が約1.0秒間飽和水蒸気で処理されるよう諸条件を調整した。
【0079】
[乾熱処理工程]
続いて、表面温度120℃の乾燥ローラに巻回して乾燥させ、引き続き、表面温度360℃の熱ローラにて1.2倍に乾熱延伸処理を施し、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。得られた繊維の物性などを表1に示す。
【0080】
<実施例4>
用いる溶媒をN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に変更した以外は、実施例3と同様にして紡糸液となるポリマー溶液Dを製造し、これを紡糸原液に用いて、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を製造した。得られた繊維の物性などを表1に示す。
【0081】
<比較例1>
浴温度125℃、NMP/水/CaCl=18/42/40の組成の凝固浴を用いた以外は、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を製造した。得られた繊維の物性などを表1に示す。
【0082】
<比較例2>
浴温度115℃、DMAc/水/CaCl=18/42/40の組成の凝固浴を用いた以外は、実施例2と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を製造した。得られた繊維の物性などを表1に示す。
【0083】
<比較例3>
浴温度125℃、NMP/水/CaCl=18/42/40の組成の凝固浴を用いた以外は、実施例3と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を製造した。得られた繊維の物性などを表1に示す。
【0084】
<比較例4>
浴温度115℃、DMAc/水/CaCl=18/42/40の組成の凝固浴を用いた以外は、実施例4と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を製造した。得られた繊維の物性などを表1に示す。
【0085】
<比較例5>
可塑延伸倍率を1.25倍とした以外は、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を製造した。得られた繊維の物性などを表1に示す。
【0086】
<比較例6>
飽和水蒸気処理工程における飽和水蒸気圧を0.0MPa、飽和水蒸気処理時延伸倍率を1.0倍とした以外は、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を製造した。得られた繊維の物性などを表1に示す。
【0087】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、力学特性、耐熱性などが良好で、繊維中に残存する低分子量成分ならびに溶媒量の少ない繊維となる。このため、特に高温使用条件下であっても、物性の低下を抑制することができ、その結果、本発明に係るメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、特に高温で加工または使用される分野において有用性が大きい。本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、例えば、消防服、高温ガスのフィルターなどの素材として特に有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量10,000未満の低分子量成分の含有率が1.0質量%以下であって、繊維中に残存する溶媒量が1.0質量%以下であり、300℃での乾熱収縮率が3.0%以下であり、かつ繊維の破断強度が3.0cN/dtex以上であることを特徴とするメタ型全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項2】
250℃で600時間保持した後の強度保持率が60%以上である請求項1記載のメタ型全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項3】
140℃の飽和水蒸気中で600時間放置した後の強度保持率が60%以上であること請求項1または2記載のメタ型全芳香族ポリアミド繊維。

【公開番号】特開2010−261123(P2010−261123A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112723(P2009−112723)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】