説明

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌の遺伝子型別分類法およびこれに用いるプライマーセット

【解決手段】 本発明に係るMRSAの遺伝子型別分類法は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)のゲノム上の、(1)ファージ由来のオープンリーディングフレーム(ORF
)、(2)ブドウ球菌カセット染色体(Staphylococcal cassette chromosome mec; SCCmec)以外のゲノミックアイランド由来のORF、および(3)トランスポゾン由来のORFの有無を任意の順で検出し、これらORFの有無の組み合わせにより遺伝子型別分類を行うこと
を特徴としている。
【効果】 本発明によれば、MRSAの遺伝子型別分類を、特殊な装置や作業者の熟練を要さずに簡便、迅速、客観的かつ高感度に行うことができるため、院内感染の経路を速やかに決定し、院内感染の広がりを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(以下、MRSAという)の遺伝子型別分類法(菌株特定法)およびこれに用いるプライマーセットに関する。
【背景技術】
【0002】
MRSAは病院で数多く分離される病原菌である。東京都内のある病院(925床)では1ヶ
月の間に72人の入院患者からMRSAが検出されたと報告しており、また熊本県内のある病院(550床)では同じく1ヶ月の間に35人の入院患者からMRSAが検出されたと報告して
いる。厚生労働省の感染症発生動向調査では、全国の主要な約500病院からの報告だけで年間20,000件以上に及んでいる。以上のことからMRSAは病院で非常に多く分離され、感染防止のための疫学調査が常に必要な病原菌であると考えられる。言い換えると、MRSAは院内感染原因菌として重要な菌であり、院内感染を減少させるためには感染ルートの特定が必要である。
【0003】
院内感染が疑われる場合には、感染ルートを特定するために、異なる患者から分離された菌株が同一か否かを判定する必要がある。そのために菌株が保有するゲノムの特徴を検出し菌株を特定するが、これを遺伝子型別分類という。
【0004】
菌の遺伝子型別分類の方法としては、従来、パルスフィールドゲル電気泳動法(以下、PFGEという。)が多用されている。PFGEは菌のゲノムDNAを制限酵素で切断し、その断片
の電気泳動パターンとして菌株の遺伝子型を決定する方法で、識別能力が高く、再現性があることから遺伝子型別分類の定法とされている。
【0005】
しかし、PFGEは結果が出るまでに早くても菌株分離同定後3日程度と時間がかかり、検査結果が出たときにはすでに感染拡大が終了していることが多いことに加え、複雑なバンドパターンにより判定するため、主観的な要素が入りがちで、同時に泳動した菌株間以外で遺伝子型が同一か否かを判断することは困難である。したがって、時間的あるいは距離的に隔たりのあるPFGE解析間での遺伝子型の比較は実質上不可能であった。
【0006】
また、PFGEで得られたそれぞれのバンドの意味が不明であるため、バンドの微妙なサイズの違いを客観的に評価することが難しく、判定者により遺伝子型が同一か否かの判定に差が出る場合がある。
【0007】
具体的には、PFGEによる遺伝子型別分類は制限酵素認識部位のゲノム上の位置に依存していることから、制限酵素認識部位の1塩基が変異しただけでもバンド3本の違いが現れることがある。そのため、ある2つの菌株が異なることを証明するには少なくともバンド4本、できれば7本の違いが必要だといわれている(非特許文献1参照)。
【0008】
一方、これとは逆に、制限酵素認識部位以外の変異が多数存在していたとしても切断されたDNA断片の長さに変化がなければ、バンドの違いとして認識することはできない。そ
のため、異なる菌株であるにもかかわらず同一のバンドパターンを示すこともある。したがって、PFGEによるバンドパターンの変化は必ずしも遺伝子の変異の数と一致しておらず、PFGE によるバンドパターンに基づく細菌の遺伝子型別分類、特に近似株の多いMRSAの
遺伝子型別分類を困難にしている。
【0009】
さらに、PFGEは作業が繁雑で作業者の熟練を要する上、作業時間も長く、パルスフィー
ルドゲル電気泳動装置などの特殊な装置を必要とし、遺伝子型別分類を行うために高額の費用と時間がかかることから集団感染が疑われる場合でも、すべての菌株についてPFGEを行うことが困難なことが多い。
【0010】
このような理由から、PFGEを日常的な検査として使用することは困難であり、病院内の検査室でPFGEを実施しているところはほとんどないのが実情である。
これに対し、PFGEに代わる迅速な遺伝子型別分類法としてPCRを利用した方法の検討が
いくつかなされている。
【0011】
代表的なものとしてrandom amplification of polymorphic DNA (RAPD)法が挙げられる。RAPD法はプライマーの非特異的なアニーリングによるPCR増幅産物の検出を行う方法で
ある。しかし、多数のバンドが得られることから、PFGEと同様に複雑なバンドパターンによる判定が必要で、さらにプライマーの非特異的なアニーリングに依存するため、菌株が同一か否かを判定するための識別能力が劣ることに加え、再現性が低いという問題があり、実用化には至っていない。
【0012】
その他にも16S rDNA−23S rDNA 間に挟まれるスペーサーDNAの長さの違いを検出する16S-23S rDNA spacer amplification法、黄色ブドウ球菌に特異的なAタンパク質の多型性を利用する protein A-gene PCR法、同じく黄色ブドウ球菌に特異的なコアグラ―ゼの多型
性を利用したcoagulase gene-PCR法、メチシリン耐性遺伝子(mecA)の近傍に多型性があることを利用したPCR characterisation of the hypervariable region (HVR) adjacent to mecA法などが試みられている。しかし、これらはいずれも検出対象として毒素関連遺
伝子や耐性遺伝子を中心としていることから、遺伝的に比較的近縁な株が多いMRSAの遺伝子型別分類という観点からは充分な識別能力が得られず、臨床現場における実用化には至っていない。このようにPFGEの代替法の開発、とくにPCRを利用したMRSAの遺伝子型別分
類法の開発は困難を極めていた(非特許文献2参照)。
【0013】
したがって、より簡便、迅速かつ客観的に判定可能なMRSAの遺伝子型別分類法の開発が依然として強く望まれていた。
【非特許文献1】Tenover et al., J Clin Microbiol 1995,33:2233-9
【非特許文献2】Stranden et al., J Clin Microbiol 2003,41:3181-6.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、PFGEの代替法となり得る新規なMRSAの遺伝子型別分類法を提供することを目的としている。
また、本発明はさらに上記遺伝子型別分類法に用いるプライマーセットを提供することをもその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るMRSAの遺伝子型別分類法は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)のゲノム上の、(1)ファージ由来のオープンリーディングフレーム(ORF)、(2)ブドウ
球菌カセット染色体(Staphylococcal cassette chromosome mec; SCCmec)以外のゲノミックアイランド由来のORF、および(3)トランスポゾン由来のORFの有無を任意の順で検出し、これらORFの有無の組み合わせにより遺伝子型別分類を行うことを特徴としている

【0016】
前記MRSAの遺伝子型別分類法においては、前記SCCmec以外のゲノミックアイランドはMu50株のSaGImであり、かつ、前記トランスポゾンはトランスポゾンTn554であることが好ましい。
【0017】
さらに、前記MRSAの遺伝子型別分類法においては、
配列表の配列番号5と6、7と8、9と10、11と12、13と14、15と16、17と18、19と20、21と22、23と24、25と26、27と28、29と30、31と32、33と34、35と36、37と38、39と40、41と42、43と44、45と46、47と48、49と50、51と52、53と54、55と56、57と58、59と60に示された28組の塩基配列の組み合わせからなる群より選択される13組以上のプライマーを用いてPCR(polymerase chain reaction)法により前記(1)ファージ由来のORFの検出を行い、かつ
配列表の配列番号3および4に示された塩基配列の組み合わせからなる1組のプライマーを用いてPCR法により前記(2)ゲノミックアイランド由来のORFの検出を行い、かつ
配列表の配列番号1および2に示された塩基配列の組み合わせからなる1組のプライマーを用いてPCR法により前記(3)トランスポゾン由来のORFの検出を行うことが好ましい態様として挙げられ、
配列表の配列番号5と6、7と8、9と10、11と12、13と14、15と16、17と18、19と20、21と22、23と24、25と26、27と28、29と30に示された塩基配列の組み合わせからなる13組のプライマーを用いてPCR(polymerase chain reaction)法により前記(1)ファージ由来のORFの検出を行い、かつ
配列表の配列番号3および4に示された塩基配列の組み合わせからなる1組のプライマーを用いてPCR法により前記(2)ゲノミックアイランド由来のORFの検出を行い、かつ
配列表の配列番号1および2に示された塩基配列の組み合わせからなる1組のプライマーを用いてPCR法により前記(3)トランスポゾン由来のORFの検出を行うことがより好ましい態様として挙げられる。
【0018】
また、本発明のMRSAの遺伝子型別分類法では、前記PCR法はマルチプレックスPCR法であることが望ましい。
なお、本発明のMRSAの遺伝子型別分類法では、前記(1)〜(3)のORF有無の検出結
果をそれぞれ1(有)と0(無)に置き換えて2進法コード化することが好ましく、前記2進法コード化した結果をさらに10進法コード化することがより好ましい。
【0019】
本発明に係るMRSAの遺伝子型別分類用プライマーセットは、配列表の配列番号5と6、7と8、9と10、11と12、13と14、15と16、17と18、19と20、21と22、23と24、25と26、27と28、29と30に示された塩基配列の組み合わせからなる13組のプライマーと、配列表の配列番号3および4に示された塩基配列の組み合わせからなる1組のプライマーと、配列表の配列番号1および2に示された塩基配列の組み合わせからなる1組のプライマーとからなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、MRSAの遺伝子型別分類を、特殊な装置や作業者の熟練を要さずに簡便、迅速、客観的かつ高感度に行うことができるため、院内感染の経路を速やかに決定し、院内感染の広がりを防止することができる。
【0021】
より具体的には、下記(1)〜(5)の効果を奏することができる。
(1)短時間で結果が判明するPCR法を利用することで結果が得られるまでの時間短縮が
可能である。PCR反応自体は2時間程度で完了するため、サンプル調製から4時間以内に
遺伝子型が判明し、感染源調査を速やかに行うことができ、感染拡大防止に役立つ。
(2)単純なピペット作業だけで実施可能なPCR反応を利用することから、わずかなトレ
ーニングで誰でも実施可能である。また、作業にかかる時間が大幅に短縮できるため、遺伝子型別分類を行うための人件費を減らせる。
(3)あらかじめ、検出するORFが判明しているため、結果判定が明瞭となり信頼性が向
上する。
(4)菌株毎に保有状態が異なるORFの保有パターンで遺伝子型を決定できるため、ORF保有の有無だけを判定すればよく、判定結果の客観性を向上できる。さらに判定結果をコード化することにより、異なる時期や施設で行った遺伝子型別分類の判定結果を容易かつ客観的に比較できる。したがって、PFGEとは異なり、時間的あるいは距離的に隔たりのある判定結果間での遺伝子型の比較も可能である。
(5)全ての操作が液相系で実施され、作業が単純であるため、機械による自動化も可能である。したがって、日常的な検査に組み込み、検出されたMRSA全てについて、病院内の検査室で遺伝子型別分類を実施することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明に係るMRSAの遺伝子型別分類法は、MRSAのゲノム上の、(1)ファージ由来のオープンリーディングフレーム(ORF)、(2)ブドウ球菌カセット染色体(SCCmec)以外
のゲノミックアイランド由来のORF、および(3)トランスポゾン由来のORFの保有の有無を任意の順で検出し、これら3種類の由来の異なるORFの保有の有無の組み合わせにより
遺伝子型別分類を行うことを特徴としている。
【0023】
<(1)ファージ由来のORF>
近年、ゲノム解読が進み黄色ブドウ球菌ゲノムはおよそ2500〜3000個のORFから構成さ
れていることが明らかとなった。日本で分離されるMRSAにおけるゲノムの差異はきわめて小さいもので、主な違いは外来性のゲノミックアイランドとファージのみにあることがわかっているが、ファージ由来の遺伝子は頻繁に変異(獲得、脱落)すると考えられること、個々のMRSA分離株が実際に保有する複数のファージ由来ORFの組み合わせについてのデ
ータがないことなどから、本発明者らの知る限りではファージ由来のORFを遺伝子型別分
類に利用しようという試みはなされていない。
【0024】
本発明者らは、このMRSAに溶原化しているファージに着目し、ファージ由来のORFの保
有状況の有無を遺伝子型別分類に利用することを考案し検討を加えた。
前記ファージはそれぞれ約65個のORFから構成されているが、構成するORFの配列やその組み合わせは個々のファージで異なっている。そこで、PubMed DNAデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi)の検索を実施し、検索結果から、黄色ブド
ウ球菌由来ファージ7種類(phi11、phi12、phi13、phiETA、phiPVL、phiPV83、phiSLT)と、MRSA3株(N315株、Mu50株、MW2株)に溶原化しているファージ5種類(N315株:1種(φN315)、Mu50株:2種(φMu50A、φMu50B)、MW2株:2種(φSa2mw、φSa3mw))の情報を得て、これら合計12種類のファージが保有するORFをMRSA分離株が実際に保有する
か否かの調査対象とするORFとして利用することとした。
【0025】
これら12種類のファージが保有するおよそ780個(12×65)のORFから遺伝子型別分類に有用なものを選別する目的で、以下の検討を加えた。
選別方法としては780個のORFのうち、複数のファージ間で共通なものをコンピュータ上で比較した後、最初の候補として複数のファージ間での共有頻度の高い12個のORFを選択
し、MRSA分離株のうちPFGEバンドパターンのバリエーションが大きい32株(国内の病院で検出されるMRSAの90%以上を占めるSCCmec TypeII保有株29株と、国内の病院で分離され
るMRSAの数%程度を占めるSCCmec Type IV保有株3株)を代表株として用い、これらのORFを保有しているか否かをPCRで確認した。PCRでの確認作業は、保有の有無を調べようとする特定のORFに含まれる塩基配列に対応するようにフォワードプライマーとリバースプラ
イマーとを常法により設計し、これらプライマーとMRSAの各DNAとを用いて常法によりPCR反応を行い、上記塩基配列に対応するDNA断片の増幅が生じたか否かを確認することによ
り行った。
【0026】
さらに、保有が確認されたORFの近傍のORFについても同様にしてPCRで保有の有無を確
認するという作業を繰り返すことで、検討対象とするORFの数を増やしていき、最終的に
は合計60個のORFについて検討を行った。そして、これら60個のORF全てについて、MRSA分離株のうち上記32株の代表株における保有状況を調査した。
【0027】
その結果、19個のORFは、上記32株のうち、ほとんど全ての菌株が保有しているか、あ
るいは保有していないかのどちらかであった。
残りの41個のORFについては、菌株による保有状態に差が出ることが明らかとなり、こ
れらファージ由来ORFの検出の有無およびその組み合わせが菌株特定に有用であることが
わかった。これら41個のORFの由来ならびにこれら41個の各ORFにそれぞれ含まれている塩基配列とアニーリングし得るように設計した41組のプライマーとの関係を表1に示す(表1;ORF3〜43、配列表の配列番号5〜86)。
【0028】
さらに、そのうちの28個のORF(表1;ORF3〜30)は、MRSA分離株32株のうち、およそ20〜80%の菌株が保有しており、効率よく的確に菌株の特定が可能であることが判明した
。とくにそのうちの13個のORF(表1;ORF3〜15)の保有パターンは菌株ごとに特異的で
あったことから、これら13個のORFを利用することで最少のORF数でも充分な菌株の識別能力が発揮されることがわかった。
【0029】
なお、上述したようにファージ由来遺伝子は頻繁に変異(獲得、脱落)することが懸念されるが、上記13個のORF(表1;ORF3〜15)に関しては、同一集団内で発生したMRSA菌
株(たとえば、同一の院内感染事例内や同一人から異なる時期に分離された菌株)については時間的な隔たりのある分離株でも同一の保有パターンとなることを確認している。これは、病院内などの特殊な環境下で分離されるMRSAの菌株は他の菌株との接触の機会が少なく、従来考えられていたよりも実際には変異が起こり難いためであると推測される。したがって、上記13個のファージ由来ORFの検出のみを、病院内などで分離されたMRSAの遺
伝子型別分類に利用した場合でも、判定結果の信頼性はある程度担保されるといえる。
【0030】
より具体的には、これら41個の各ORF(表1のORF3〜43)にそれぞれ含まれている塩基
配列とアニーリングし得るように設計した41組のプライマー(配列表の配列番号5〜86)
を用いて、好ましくはそのうちの28個のORF(表1のORF3〜30)にそれぞれ含まれている
塩基配列に対応する28組のプライマー(配列表の配列番号5〜60)を用いて、より好まし
くはそのうちの13組以上のプライマー、とくに好ましくは13個のORF(表1のORF3〜15)
にそれぞれ含まれている塩基配列に対応する13組のプライマー(配列表の配列番号5〜30
)を用いて、常法によりPCR反応を行い、上記塩基配列に対応するDNA断片の増幅が生じたか否かを確認することで、MRSAのゲノム上のファージ由来ORFの保有の有無を検出するこ
とができる。
【0031】
これにより、ファージ由来ORFの保有の有無に関するMRSA菌株の識別情報を得ることが
できる。
<(2)SCCmec以外のゲノミックアイランド由来ORF>
MRSAゲノムには、多数の遺伝子がまとまって二次的にゲノム上に入り込んだゲノミックアイランドがSCCmec以外にN315株で3個、Mu50株で5個、MW2株で4個が挿入されている
ことが知られている。なお、本明細書中、ゲノミックアイランドとは上述したファージとは異なるものである。
【0032】
これらSCCmec以外のゲノミックアイランド由来の遺伝子は、ファージ由来の遺伝子と比較して変異の可能性が極めて低い。したがって、これらSCCmec以外のゲノミックアイランド由来ORFの保有の有無のパターンを、上記ファージ由来ORFの保有の有無のパターンと組
み合わせることにより、MRSAの遺伝子型別分類の識別能力および判定結果の信頼性をより向上させることができる。
【0033】
上記N315株由来のゲノミックアイランド3個は、Mu50株に挿入されているものと同じであるため、重複分を除いた9種類(3+5+4−3=9)のゲノミックアイランドに特異的なORFのうちプライマー設計の行いやすいもの19個を選び出し、上述したファージ由来ORFの選定のときと同様にMRSA分離株のうち32株を代表株として用い、これら19個のORFを
保有しているか否かを確認した。確認作業は、保有の有無を調べようとする特定のORFに
含まれる塩基配列に対応するようにフォワードプライマーとリバースプライマーとを常法により設計し、これらプライマーとMRSAの各DNAとを用いて常法によりPCR反応を行い、上記塩基配列に対応するDNA断片の増幅が生じたか否かを確認することにより行った。
【0034】
その結果、代表株としたMRSA分離株32株(国内の病院で検出されるMRSAの90%以上を占めるSCCmec TypeII保有株29株と、国内の病院で分離されるMRSAの数%程度を占めるSCCmec Type IV保有株3株)は、Mu50株ゲノミックアイランド由来のORFについては、保有する
菌株(10株)と保有しない菌株(22株)に2分された。一方、N315株とMu50株とに共通のゲノミックアイランド由来ORFは全ての菌株が保有していたが、MW2株ゲノミックアイランド由来のORFは1つのORFを除いて全ての菌株が保有していなかった。この1つのORF(MW2株ゲノミックアイランド由来)は、Mu50株ゲノミックアイランド由来のORFと同じであり
、上記32株は、菌株(10株)と保有しない菌株(22株)に2分された。したがって、このORFの保有の有無を検出し、その検出結果を上述したファージ由来ORFの検出結果と併せることで、該ファージ由来ORFの検出結果を補完できると考えられる。
【0035】
そこで、遺伝子型別分類の為のマーカーとして、Mu50株ゲノミックアイランド由来のORFのうち唯一、MW2株も保有するこのORFを採用した。該ORFと、このORFに含まれている塩
基配列とアニーリングし得るように常法により設計したプライマー1組との関係を表1に示す(表1;ORF2、配列表の配列番号3および4)。
【0036】
さらに、万全をきすべく国内の病院で分離されるMRSAの数%程度を占めるSCCmec TypeIV保有株について上記3株の他に7株を加え、合計10株のMRSAについても上記ORF(表1;ORF2)の保有状況を調べたところ、これらの株も該ORFを保有するもの(8株)と保有し
ないもの(2株)に2分されることが判明した。
【0037】
したがって、前記ファージ由来ORFの保有の有無のパターンに加え、SCCmec以外のゲノ
ミックアイランド由来ORFの保有の有無のパターンを併せて判定することにより、菌株の
識別能力と結果の信頼性の向上につながることが期待される。
【0038】
より具体的には、このORF(表1;ORF2)に含まれている塩基配列とアニーリングし得
るようにプライマー1組(配列表の配列番号3および4)を常法により設計し、該プライ
マー1組を用いて常法によりPCR反応を行い、上記塩基配列に対応するDNA断片の増幅が生じたか否かを確認することで、MRSAのゲノム上のゲノミックアイランド由来のORFの保有
の有無を検出することができる。
【0039】
これにより、SCCmec以外のゲノミックアイランド由来のORF保有の有無に関するMRSA菌
株の識別情報を得ることができる。
<(3)トランスポゾン由来のORF>
SCCmec TypeII保有MRSAは菌株間での遺伝子の交換に関与するといわれるトランスポゾ
ンといわれる遺伝子構造の一種であるTn554を保有する一方、SCCmec TypeIV保有MRSAの多くは保有しない。したがって、Tn554を検出することでMRSAを大きく2種類に大別するこ
とができる。
【0040】
また、Tn554はMRSAゲノム上に複数個のコピーを有する。このようにTn554は複数個存在することからポイントミューテーションにより1つのTn554が変異しても別のTn554でPCR
増幅が可能であるため、偽陰性の可能性が低くなると考えられる。したがって、前記ファージ由来ORFの保有の有無の検出結果ならびにSCCmec以外のゲノミックアイランド由来ORFの保有の有無の検出結果に加え、トランスポゾン由来ORFの保有の有無の検出結果を併せ
て判定することにより、偽陰性を防止し、菌株特定の識別能力および結果の信頼性を向上させることができると期待される。
【0041】
PubMed DNAデータベース上のTn554配列を比較したところ、とくにトランスポゼースBサブユニットは変異が少なかったため、MRSAの遺伝子型別分類法のマーカーとしてトランスポゼースBサブユニットのORFを採用した。該ORFと、このORFに含まれている塩基配列とアニーリングし得るように常法により設計したプライマー1組との関係を表1に示す(表1
;ORF1、配列表の配列番号1および2)。
【0042】
より具体的には、このORF(表1;ORF1)に含まれている塩基配列とアニーリングし得
るようにプライマー1組(配列表の配列番号1および2)を常法により設計し、該プライ
マー1組を用いて常法によりPCR反応を行い、上記塩基配列に対応するDNA断片の増幅が生じたか否かを確認することで、MRSAのゲノム上のトランスポゾン由来のORFの保有の有無
を検出することができる。
【0043】
これにより、トランスポゾン由来のORF保有の有無に関するMRSA菌株の識別情報を得る
ことができる。
このように、本発明では、前記ファージ由来ORFの保有の有無のパターン、ならびにSCCmec以外のゲノミックアイランド由来ORFの保有の有無のパターンに加え、トランスポゾン由来ORFの保有の有無のパターンを併せて検出、判定することにより、MRSA菌株特定の識
別能力および結果の信頼性をさらに向上させることができる。
【0044】
<ORF検出手段>
上述したMRSAのゲノム上の(1)ファージ由来ORF、(2)SCCmec以外のゲノミックア
イランド由来ORF、および(3)トランスポゾン由来ORFの保有の有無の検出は、任意の順で行うことができる。具体的には、検出手段として、これらORFを各ORF毎に別々に検出する手段、複数のORF毎にまとめて検出する手段、全てのORFを同時に検出する手段のいずれを採用してもよい。
【0045】
各ORF毎に別々に検出する手段としては、たとえば、検出対象のORF毎にそれぞれ対応する1組のプライマー(フォワードプライマーおよびリバースプライマー)を用いて、独立した系で、MRSAのDNA抽出サンプルとともに、real time PCR反応を行い、PCR増幅産物の
生成シグナル蛍光をリアルタイムに検出する手段が挙げられる。また、複数のORF毎にま
とめて検出する手段としては、たとえば、3〜4個のORFにそれぞれ対応する3〜4組の
プライマー(フォワードプライマーおよびリバースプライマーの組)を混合し同一の反応系に入れてPCR反応を行うマルチプレックスPCRが実施可能である。この場合には、各ORF
に対応するPCR増幅産物の有無は、反応系を電気泳動、たとえば、アガロースゲル電気泳
動、キャピラリー電気泳動などで泳動して得られたバンドの有無によって確認する。全てのORFを同時に検出する手段としては、micro arrayを応用した遺伝子の検出などが挙げられる。
【0046】
これらのうちでは、複数のORFを簡易な装置で効率よくまとめて検出できる点から、マ
ルチプレックスPCRが好ましい。
<プライマーの設計>
上記(1)ファージ由来ORF、(2)SCCmec以外のゲノミックアイランド由来ORF、および(3)トランスポゾン由来ORFのそれぞれに対応するプライマーの設計にあたっては、
プライマー自身が2重鎖を形成したり、互いに結合して2量体を形成したりしないような配列にすることはもちろん、マルチプレックスPCRで検出することを考慮し、GC比をおよ
そ50%とし、Tm値を合わせるよう工夫することが好ましい。また、増幅効率と、電気泳動の際に短時間で分離可能なよう、PCR増幅産物サイズがおよそ100bp〜700bp、好ましくは150bp〜500bpとなるように調整することが望ましい。
【0047】
上記のような条件を設定することでマルチプレックスPCRにおいて再現性の高い増幅結
果が得られるプライマーおよびプライマーセットを得ることができる。
具体的には、上記(1)ファージ由来ORF、(2)SCCmec以外のゲノミックアイランド
由来ORF、および(3)トランスポゾン由来ORFの項目でそれぞれ述べたように、(1)ファージ由来ORFのためのプライマーとして41組のプライマー(配列表の配列番号5〜86)を、(2)SCCmec以外のゲノミックアイランド由来ORFのためのプライマーとして1組のプ
ライマー(配列表の配列番号3および4)、ならびに(3)トランスポゾン由来ORFのた
めのプライマーとして1組のプライマー(配列表の配列番号1および2)の合計43組のプライマーを本発明の遺伝子型別分類法に用いることができる。
【0048】
これらのうちでは、遺伝子型別分類の効率および結果の信頼性を考慮すると、(1)ファージ由来ORFのためのプライマーとして、配列表の配列番号5と6、7と8、9と10
、11と12、13と14、15と16、17と18、19と20、21と22、23と24、25と26、27と28、29と30、31と32、33と34、35と36、37と38、39と40、41と42、43と44、45と46、47と48、49と50、51と52、53と54、55と56、57と58、59と60に示された28組の塩基配列の組み合わせからなる群より選択される13組以上のプライマー、(2)SCCmec以外のゲノミックアイランド由来ORFのためのプライマーとして、配列表の配列番号3およ
び4に示された塩基配列の組み合わせからなる1組のプライマー、ならびに(3)トランスポゾン由来ORFのためのプライマーとして、配列表の配列番号1および2に示された塩
基配列の組み合わせからなる1組のプライマー、からなるプライマーセットを好適に用いることができ、さらに、そのなかでも
(1)ファージ由来ORFのためのプライマーとして、配列表の配列番号5と6、7と8
、9と10、11と12、13と14、15と16、17と18、19と20、21と22、23と24、25と26、27と28、29と30に示された塩基配列の組み合わせからなる13組のプライマー、(2)SCCmec以外のゲノミックアイランド由来ORFのため
のプライマーとして、配列表の配列番号3および4に示された塩基配列の組み合わせからなる1組のプライマー、ならびに(3)トランスポゾン由来ORFのためのプライマーとし
て、配列表の配列番号1および2に示された塩基配列の組み合わせからなる1組のプライマー、からなる合計15組のプライマーセットをより好適に用いることができる。
【0049】
なお、上記プライマーセットを用いてマルチプレックスPCRを行う場合には、表2−1
および表2−2にMix1〜4として示すように、これらプライマーセットのうち3〜4組
のプライマーを組み合わせて、混合して用いることが望ましい。
【0050】
<ORF検出遺伝子型別分類法実施方法>
以下、マルチプレックスPCRを行う場合を例に挙げ、本発明のMRSAの遺伝子型別分類法
の手順を説明する。
【0051】
菌種の同定:
血液、痰、膿、咽頭ぬぐい液、鼻腔ぬぐい液などの患者由来の検体あるいは患者に使用したカテーテルやガーゼ等の医療器具などの材料から、マンニット食塩培地(黄色ブドウ
球菌分離用)、MSO培地(MRSA分離用)などの黄色ブドウ球菌分離培地を用いて黄色ブド
ウ球菌様の菌を分離する。その後、グラム染色による形態の確認、および生化学性状の確認により、黄色ブドウ球菌と同定された菌株について拡散ディスク法あるいはMIC法によ
る薬剤感受性試験、あるいはPCRによるmecA遺伝子検出によりMRSAの確認をおこなう。
【0052】
MRSAであると同定された菌株を、黄色ブドウ球菌を増殖可能な液体培地(Luria-Bertani broth、Brain Heart Infusion培地、トリプトソイブイヨン等)、あるいは寒天培地(Luria-Bertani寒天培地、Brain Heart Infusion寒天培地、トリプトソイ寒天培地、普通寒天培地等)を用いて37℃で一晩培養する。
【0053】
DNA抽出:
培養した菌体から、熱抽出、フェノール抽出、あるいは市販のDNA抽出キットを用いる
などの方法でDNAを抽出し、サンプルとする。
【0054】
PCR反応:
マルチプレックスPCRでORF(好ましくは、上述したファージ由来ORF13個、ゲノミック
アイランド由来ORF1個およびトランスポゾン由来ORF1個の合計15個)を検出する。具体的には、検出対象のORF群に対応する数のプライマーの組(フォワードプライマー及びリバ
ースプライマー)を、3〜4組に分け、3〜4組毎に同一の反応チューブに入れ、PCR反
応を行う。
【0055】
電気泳動:
およそ100bp〜700bpのDNA断片が充分に分離されるようなアガロースゲルを用い、PCR増幅産物を電気泳動する。泳動距離は約2〜3cmでよく、ミニゲルの場合100V、25分程度で充分分離可能である。電気泳動後、エチレンブロマイドで染色後写真撮影を行う。
【0056】
結果判定:
1反応につき最大4本のバンドが現れる。PFGEと異なり、バンドサイズがあらかじめわかっているため、それぞれの菌株及び反応系において目的のサイズのバンドがあるか否かを判定する。場合によっては目的のサイズ以外の非特異的なバンドが現れることがあるが、非特異バンドは無視する。目的のサイズのバンドが増幅していれば1、増幅が見られない場合を0として2進法のコードを作成する。2進法のコードを10進法に変換し、遺伝子型コードとする。
【0057】
具体的には、たとえば、MRSA分離株32株(SCCmec TypeII保有株29株とSCCmec Type IV
保有株3株)における15個のORF(表1;ORF1〜15)の保有の有無を2進法コード化、さらに10進法コード化すると表3の通りである。
【0058】
このように判定結果をコード化し、得られた遺伝子型コード同志を比較することで、異なる時期や施設で分離された菌株の特定を容易かつ客観的に行うことができる。したがって、本発明のMRSAの遺伝子型別分類法によれば、PFGEとは異なり、時間的あるいは距離的に隔たりのある遺伝子型別分類結果間での遺伝子型の比較も可能である。
【0059】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例および比較例]
愛知県、三重県、石川県の4病院で分離されたMRSA 165株について、下記の手順によ
り、ORF検出による遺伝子型別分類(実施例)及びPFGEによる遺伝子型別分類(比較例)
を行った。
【0060】
<ORF検出による遺伝子型別分類(実施例)>
MRSAの培養:
MRSAであると同定された菌株を、Luria-Bertani寒天培地を用いて37℃で一晩培養した

【0061】
DNA抽出:
培養した菌のおよそ1コロニーに相当する量を1.5mlのエッペンドルフチューブに入れ
たlysostaphin 1μg/100mlを含む蒸留水100μlに懸濁し、37℃で5分間細胞壁の消化処理後、100℃で10分間加熱した。次いで、12,000rpmで3分間遠心分離し、その上清をDNA熱
抽出サンプルとした。
【0062】
PCR反応液の調製:
タカラバイオのEXTaqを説明書に従って使用した。その際、反応液量は20μlとした。反応液20μlの組成は10×EXTaq Buffer 2μl、dNTP mixture 1.6 μl、MgCl2 2mMであり、EXTaqの濃度は0.6 unit/20μlとした。(Buffer、dNTP、MgCl2については取扱説明書の指
示通りの濃度であるが、EXTaq濃度は説明書の表記(0.25〜0.50 unit/20μl)よりやや高めに設定した。)
プライマーは3〜4組を組み合わせ4本の反応チューブで15個のORFについて、マルチ
プレックスPCRを行った。プライマーの組み合わせ(Mix1〜Mix4)、及び最終濃度は表2
−1および表2−2のとおりである。PCR反応液に上記のDNA熱抽出サンプルを2μl(反応液の1/10量)加えた。
【0063】
PCR反応:
サーマルサイクラー(PERKIN ELMER社製、GeneAmpTM PCR System 9600)にサンプルを
セットし、最初に94℃で2分間処理し、その後、94℃ 30秒、53℃ 30秒、72℃ 1分の
サイクルを30回繰り返した。サイクル反応終了後、4℃で保存した。
【0064】
電気泳動:
アガロースゲル(2% DNA Agar (Marine BioProducts, B.C. Canada) in 0.5X TBE)を
用い、ミニゲルを作成し、100Vで25分間、5μlのPCR産物を電気泳動した。泳動距離は約
2〜3cmであった。電気泳動後、エチレンブロマイドで染色し、写真撮影を行った。
【0065】
結果判定:
1反応につき最大4本のバンドが現れた。それぞれの菌株及び反応系において目的のサイズのバンドがあるか否かを判定し、目的のサイズのバンドが増幅していれば1、増幅が見られない場合を0として2進法のコードを作成した。さらに2進法のコードを10進法に変換し、遺伝子型コードとした。
【0066】
結果を表4−1〜4−3に示す。
<PFGEによる遺伝子型別分類(比較例)>
常法に従い、下記の方法によりPFGEによる遺伝子型別分類を実施した。
MRSAの培養:
Luria-Bertani broth培地を用いて37℃で一晩振盪培養した。
菌ブロックの作成:
培養液150μlを1.5mlエッペンドルフチューブに入れ、8,000rpmで3分間遠心分離し、
上清を捨て集菌した。集菌した菌株をlysostaphin 1μg/100μlを含む0.8%アガロースゲ
ル200μlに懸濁後、アガロースを凝固させ菌ブロックを作成した。
溶菌処理:
次いで菌ブロックを、lysostaphinを0.2μg/100μlの割合で含む0.5M EDTAに浸漬し37
℃で4時間消化した。次いでProteinase K 1mg/mlおよびN-Lauroylsarcosineを1%の割合で
含む0.5M EDTAに液を入れ換え、50℃で一晩消化した。
Proteinase Kの不活化:
その後、1mg/mlの割合でPefabloc SC を含むTris EDTA (TE) bufferに液を換え50℃で
ゆっくりと振盪しながら30分ずつ2回洗浄し、Proteinase Kを不活化させた後、TE bufferで1時間洗浄した。
制限酵素処理:
菌ブロックを元の大きさの3分の1程度に切断し、制限酵素用bufferで30分洗浄し、制限酵素(SmaI, 30 unit/sample)処理を30℃、4時間行った。
電気泳動:
制限酵素処理が完了した菌ブロックを更に薄く切断し、1%アガロースゲル(BIO RAD, Pulsed Field Certified Agarose)にアプライし、PFGE電気泳動装置(BIO RAD、CHEF-DR III)を用いてスイッチングタイム1〜50秒、内角120°、14℃の条件で22時間電気泳動した

【0067】
泳動後のゲルは、エチレンブロマイド染色し、写真撮影した。
画像解析および結果判定:
得られたバンドのパターンはPFGE型の名称を付けるために画像解析ソフト(BIO RAD, FingerPrinting II)による解析を行った。解析結果の相同性の相対値が80%以上の菌株の集
合にクラスタ名をアルファベットで付加した。続いて同一クラスタに分類された菌株間で相同性の相対値が80〜90%を示す集合にサブクラスタ名をローマ数字で付与し、さらに同一サブクラスタ内で少なくともバンド1本違うパターンに対してアラビア数字でパターン名を付加した。従ってアルファベット−ローマ数字−アラビア数字で現される遺伝子型名とした。
【0068】
結果を表4−1〜4−3に示す。
その結果、PFGEでは82タイプに、ORF検出による遺伝子型別分類法では86タイプに遺伝
子型別分類された。なお、同一の院内感染事例由来の菌株は、ORF、PFGE検出ともに同一
のタイプとなった。
【0069】
より詳しくは、表4−1から、52株のMRSA分離株について、本発明の遺伝子型別分類法と、従来法であるPFGEとの判定結果に1対1の相関関係があることが分かる。
表4−2から、42株のMRSA分離株について、PFGEでは単一の遺伝子型と判定された菌株でも本発明の遺伝子型別分類法によれば、より多くの遺伝子型に分類できることが分かる。これは、本発明の遺伝子型別分類法では、(1)ファージ由来ORF、(2)SCCmec以外
のゲノミックアイランド由来ORF、および(3)トランスポゾン由来ORFの有無の組み合わせにより、菌株ごとに異なるゲノムDNAの違いについて、偽陰性を防いで効率よく検出で
きることから菌株の識別能力が向上しているためと推測される。
【0070】
また、表4−3から、71株のMRSA分離株について、PFGEでは複数の遺伝子型と判定された菌株でも、本発明の遺伝子型別分類法によれば単一の遺伝子型と判定されたことが分かる。これは、本発明の遺伝子型別分類法ではORFの保有の有無により、客観的に結果を判
定できるため、PFGEのように判定結果の読み取りのばらつきがないためと推測される。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2−1】

【0073】
【表2−2】

【0074】
【表3】

【0075】
【表4−1】

【0076】
【表4−2】

【0077】
【表4−3】

【配列表フリーテキスト】
【0078】
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌のORFのためのフォワードプライマー。
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌のORFのためのリバースプライマー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)のゲノム上の、(1)ファージ由来のオープンリーディングフレーム(ORF)、(2)ブドウ球菌カセット染色体(Staphylococcal cassette chromosome mec; SCCmec)以外のゲノミックアイランド由来のORF、および(3)トランスポゾン由来のORFの有無を任意の順で検出し、これらORFの有無の組み合わせにより遺伝子型別分類を行うことを特徴とするMRSAの遺伝子型別分類法。
【請求項2】
前記SCCmec以外のゲノミックアイランドがMu50株のSaGImであり、かつ、前記トランス
ポゾンがトランスポゾンTn554であることを特徴とする請求項1に記載のMRSAの遺伝子型
別分類法。
【請求項3】
配列表の配列番号5と6、7と8、9と10、11と12、13と14、15と16、17と18、19と20、21と22、23と24、25と26、27と28、29と30、31と32、33と34、35と36、37と38、39と40、41と42、43と44、45と46、47と48、49と50、51と52、53と54、55と56、57と58、59と60に示された28組の塩基配列の組み合わせからなる群より選択される13組以上のプライマーを用いてPCR(polymerase chain reaction)法により前記(1)ファージ由来のORFの検出を行い、かつ
配列表の配列番号3および4に示された塩基配列の組み合わせからなる1組のプライマーを用いてPCR法により前記(2)ゲノミックアイランド由来のORFの検出を行い、かつ
配列表の配列番号1および2に示された塩基配列の組み合わせからなる1組のプライマーを用いてPCR法により前記(3)トランスポゾン由来のORFの検出を行うことを特徴とする請求項2に記載のMRSAの遺伝子型別分類法。
【請求項4】
配列表の配列番号5と6、7と8、9と10、11と12、13と14、15と16、17と18、19と20、21と22、23と24、25と26、27と28、29と30に示された塩基配列の組み合わせからなる13組のプライマーを用いてPCR(polymerase chain reaction)法により前記(1)ファージ由来のORFの検出を行い、かつ
配列表の配列番号3および4に示された塩基配列の組み合わせからなる1組のプライマーを用いてPCR法により前記(2)ゲノミックアイランド由来のORFの検出を行い、かつ
配列表の配列番号1および2に示された塩基配列の組み合わせからなる1組のプライマーを用いてPCR法により前記(3)トランスポゾン由来のORFの検出を行うことを特徴とする請求項2に記載のMRSAの遺伝子型別分類法。
【請求項5】
前記PCR法がマルチプレックスPCR法であることを特徴とする請求項3または4に記載のMRSAの遺伝子型別分類法。
【請求項6】
前記(1)〜(3)のORF有無の検出結果をそれぞれ1(有)と0(無)に置き換えて
2進法コード化することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のMRSAの遺伝子型別分類法。
【請求項7】
前記2進法コード化した結果をさらに10進法コード化することを特徴とする請求項6に記載のMRSAの遺伝子型分類法。
【請求項8】
配列表の配列番号5と6、7と8、9と10、11と12、13と14、15と16、17と18、19と20、21と22、23と24、25と26、27と28、29と30に示された塩基配列の組み合わせからなる13組のプライマーと、
配列表の配列番号3および4に示された塩基配列の組み合わせからなる1組のプライマーと、
配列表の配列番号1および2に示された塩基配列の組み合わせからなる1組のプライマーと
からなることを特徴とするMRSAの遺伝子型別分類用プライマーセット。

【公開番号】特開2006−141249(P2006−141249A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−333669(P2004−333669)
【出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【出願人】(000116622)愛知県 (99)
【Fターム(参考)】