説明

メチルセルロース組成分析方法及びそれに用いる液体クロマトグラフ

【課題】メチルセルロースの組成分析を簡便かつ定量精度よく行なう。
【解決手段】メチルセルロースを硫酸水溶液により加水分解して加水分解物試料を調製し、加水分解物試料を液体クロマトグラフに導入し、前処理カラムにより加水分解物試料中のグルコース、メチルグルコース、ジメチルグルコース及びトリメチルグルコースを捕捉し、硫酸イオンを除去し(前処理工程)、その後、前処理カラムに捕捉されたグルコース、メチルグルコース、ジメチルグルコース及びトリメチルグルコースを溶出させて分析用カラムに導いて分離するとともに、その分析用カラムから溶出したグルコース、メチルグルコース、ジメチルグルコース及びトリメチルグルコースを検出する(分析工程)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメチルセルロースの組成分析方法及び装置に関する。さらに詳しくは、メチルセルロースを構成するグルコース類の組成分析方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メチルセルロースは医薬品の分野では錠剤の賦形剤や点眼薬の粘度調整剤などとして使用されている。メチルセルロースの構成成分はグルコース、メチルグルコース、ジメチルグルコース及びトリメチルグルコースからなるグルコース類であり、それらのグルコース類がどのような割合で含まれているかが分析されている。
【0003】
そのようなメチルセルロース組成分析方法としては、13C−NMR法によるものと、ガスクロマトグラフィーによるものがある。
13C−NMR法は、メチルセルロースを構成するグルコースに置換するメチル基の置換位置を特定し、その総量を測定することにより置換位置の比率を分析する方法である。
【0004】
一方、ガスクロマトグラフィーは分離分析法であり、メチルセルロースを構成するグルコースに置換するメチル基の数及び位置を分別して測定し、個々の成分として組成分析することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、13C−NMR法ではメチル基の数を分別した組成分析ができず、どこにメチル基が存在するかなどの詳細な情報が得られない。
一方、ガスクロマトグラフィーでは、試料となるメチルセルロースを硫酸により加水分解し、その加水分解物をメタノールで沈殿させて抽出し、水素化ホウ素ナトリウムなどで還元した後、無水酢酸を用いてアセチル化するという前処理を必要とするため、分析作業が繁雑であるうえに、前処理操作に伴う回収率の低下によって高い定量精度が得られないという欠点がある。
【0006】
本発明の目的は、硫酸によるメチルセルロース加水分解物の直接分析を可能とし、かつ、グルコース、メチルグルコース、ジメチルグルコース及びトリメチルグルコースのそれぞれのαアノマーとβアノマーを含んだ合計8成分を分離することにより、メチル基の数及び置換位置に基づく簡便かつ定量精度の高いメチルセルロースの組成分析を可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のメチルセルロース組成分析方法は、有機化合物とイオンとを分離できる前処理カラムと有機化合物を相互に分離できる分析用カラムとを備えた液体クロマトグラフを使用し、以下の工程(A)から(C)をその順に含んでメチルセルロースを構成するグルコース、メチルグルコース、ジメチルグルコース及びトリメチルグルコースの組成分析を行なう分析方法である。
(A)液体クロマトグラフの外部でメチルセルロースを硫酸水溶液により加水分解して加水分解物試料を調製する調製工程、
(B)加水分解物試料を液体クロマトグラフに導入し、前処理カラムにより加水分解物試料中のグルコース、メチルグルコース、ジメチルグルコース及びトリメチルグルコースを捕捉し、硫酸イオンを除去する前処理工程、及び
(C)前処理カラムに捕捉されたグルコース、メチルグルコース、ジメチルグルコース及びトリメチルグルコースを溶出させて分析用カラムに導いて分離するとともに、その分析用カラムから溶出したグルコース、メチルグルコース、ジメチルグルコース及びトリメチルグルコースを検出する分析工程。
【0008】
本発明の液体クロマトグラフは、本発明のメチルセルロース組成分析方法を行なうための液体クロマトグラフであって、前処理カラムを備えた前処理流路と、流路に沿って分析用カラム及び検出器を備えた分析流路と、前処理カラムにおいてグルコース、メチルグルコース、ジメチルグルコース及びトリメチルグルコースを捕捉し硫酸イオンを排除する前処理用移動相を、試料注入部を介して送液する試料注入流路と、グルコース、メチルグルコース、ジメチルグルコース及びトリメチルグルコースを分離する分離用移動相を送液する分離用移動相送液流路と、試料注入流路が前処理カラムに接続される前処理工程用の流路接続から、分離用移動相送液流路が前処理カラムを経て分析用カラムに接続される流路接続を構成するように前処理カラムへの流路の接続を切り換える流路切換え機構とを備えたものである。
前処理カラムの好ましい例はイオン排除カラムである。
分析用カラムの好ましい例は逆相カラムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、硫酸水溶液により処理したメチルセルロース加水分解物試料を液体クロマトグラフの前処理用カラムに直接注入し、硫酸イオンや未反応残留物を除去した後、目的とする加水分解物を含有する溶出液を分析用カラムに導き、グルコース、メチルグルコース、ジメチルグルコース及びトリメチルグルコースに分離し検出するので、メチル基の数及び置換位雷に基づく簡便かつ定量精度の高いメチルセルロースの組成分析が達成される。
【0010】
本発明の独創的な点はグルコース、メチルグルコース、ジメチルグルコース及びトリメチルグルコースを分離し、定量することにある。これらの成分には各々α及びβのアノマーが含まれるが、これらも分離して定量できるため、ガスクロマトグラフ法で必要な還元や誘導体化といった操作は不要である。また、前処理用カラムの作用により、試料に含有される硫酸イオンや未反応残留物が除去されるので、加水分解以外の試料の前処理が要らず、簡便で精度の高いメチルセルロースの組成分析が可能になる。
液体クロマトグラフを使用するので、質量分析計を接続することもできる。その場合には、さらに、質量分析計による検出によってピーク成分の構造確認を行なうことも可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施例を詳細に説明する。
図1は一実施例の高速液体クロマトグラフを示したものである。
メチルセルロースを硫酸水溶液により加水分解して調製した加水分解物試料をこの高速液体クロマトグラフに注入するために、流路13には試料注入部としてオートサンプラーなどの試料注入器4が設けられている。流路13は前処理用移動相をこの試料注入器4を介して送液する試料注入流路であり、移動相1aを移動相中の気泡を脱気する脱気装置2を介して送液する送液ポンプ3を備えている。試料注入流路13は流路切換え機構の六方バルブ5の1つのポートに接続されている。
【0012】
六方バルブ5には前処理流路が接続されており、その前処理流路には前処理カラム9が設けられている。前処理カラム9はグルコース、メチルグルコース、ジメチルグルコース及びトリメチルグルコースを捕捉し硫酸イオンを排除するものである。
【0013】
六方バルブ5にはさらにグルコース、メチルグルコース、ジメチルグルコース及びトリメチルグルコースを分離するための分析用カラム10が接続されており、分析用カラム10の下流には検出器11が接続されている。
【0014】
六方バルブ5にはさらに前処理カラム9に捕捉されたグルコース、メチルグルコース、ジメチルグルコース及びトリメチルグルコースを溶出し、分析用カラム10においてグルコース、メチルグルコース、ジメチルグルコース及びトリメチルグルコースを分離する分離用移動相を送液する分離用移動相送液流路14も接続されている。分離用移動相送液流路14は送液ポンプ8によりグラジエント分析用の移動相を送液するために、移動相1a及び1bを脱気装置2と流量を調整するそれぞれの弁6a,6bから混合器7を経て吸引する低圧グラジエント用の流路を備えている。弁6a,6bはグラジエントコントローラとなる制御装置15により流量制御され、移動相1a,1bの組成と総流量が制御される。
【0015】
六方バルブ5は試料注入流路13が前処理カラム9に接続される前処理工程用の流路接続と、分離用移動相送液流路14が前処理カラム9を経て分析用カラム10に接続される流路接続との間で切換えを行なう。
前処理カラム9、分析用カラム10及びバルブ5はカラム恒温器12に内蔵され、一定温度に保たれる。
【0016】
移動相1aは例えば水であり、前処理用移動相と一方の分離用移動相を兼ねている。他方の分離用移動相1bは例えばアセトニトリル溶液である。
検出器11には蒸発光散乱検出器、示差屈折検出器、吸光度検出器などが使用できるが、蒸発光散乱検出器を用いるのが好ましい。必要があればさらに質量分析計を接続してもよい。
この実施例では低圧グラジエント方式を採用しているが、移動相1a,1bの流路にそれぞれ送液ポンプを設けて高圧グラジエント方式にしてもよい。
【0017】
この高速液体クロマトグラフにおいて、試料注入器4から注入されたメチルセルロース加水分解物試料は前処理カラム9に導入され、ここで試料に含まれる硫酸イオンが除去され、その後、バルブ5の切換えにより目的とする加水分解物が前処理カラム9から分析用カラム10へと導かれ、グルコース、メチルグルコース、ジメチルグルコース及びトリメチルグルコースの各成分に分離され、検出器11で検出される。
【0018】
次に、一実施例の高速液体クロマトグラフィーの分析条件について説明する。
前処理カラム9には、例えばイオン排除クロマトグラフィー用カラムShim-Pack(登録商標)SPR-H(内径7.6mm、長さ50mm)を用い、カラム9の温度を25℃に設定した。一方、分析用カラム10には、例えば逆相クロマトグラフィー用カラムShim-Pack(登録商標)VP-ODS(内径4.6mm、長さ150mm)を用い、カラム温度は25℃に設定した。ただし、分析用カラム10は、グルコース、メチルグルコース、ジメチルグルコース及びトリメチルグルコースの各成分を分離することができるものであれば、どのようなものであってもよい。
移動相には、一例として水とアセトニトリルを用いるが、検出器の種類に応じて選択すること以外に特に制約はない。
【0019】
さらに具体的な分析条件を以下に示す。
(1)前処理条件
前処理用カラム:上記のイオン排除クロマトグラフィー用カラム
移動相 :水
流量 :1.0mL/分
カラム温度 :25℃
試料注入量 :10μL
処理時間 :1分
【0020】
ここで、処理時間1分とは、バルブ5を実線の流路にして試料注入器4から注入した試料を前処理用カラム9に1分間通し、その後、バルブ5を破線の流路に切り換えることを意味している。その間に、試料成分であるグルコース、メチルグルコース、ジメチルグルコース及びトリメチルグルコースは前処理用カラム9に捕捉され、硫酸イオンは前処理用カラム9を通って排除される。
【0021】
(2)分離条件
分析用カラム:上記の逆相クロマトグラフィー用カラム
移動相 :移動相1aは水
移動相1bはアセトニトリル水溶液
(体積比でアセトニトリル:水=9:1)
流量 :1.0mL/分
カラム温度 :25℃
分離は15分間で移動相1bが0から75%まで直線的に増加する直線的グラジエント溶出法で行なった。
【0022】
(3)検出条件
検出器 :蒸発光散乱検出器
圧力 :250kPa
温度 :50℃
分析動作を説明する。
【0023】
[試料調製工程]
メチルセルロース100mgを低温の3%硫酸水溶液10mLに溶解し、130℃で3時間加水分解する。加水分解後、試料を冷却し、粉末炭酸バリウムを加えて撹拌し、その一部をメンブレンフィルタ(0.45μm)により濾過し、得られたメチルセルロース加水分解物試料を注入試料とする。このとき炭酸バリウムを加えるのは、硫酸を除去するためである。
【0024】
[前処理工程]
上の条件で示したように、バルブ5を図1の実線部で示すようにして、注入部4から注入されたメチルセルロース加水分解物試料を移動相1aの水により前処理用カラム9に導入し、試料に含まれる硫酸イオンや未反応残留物を除去する。ここでは、移動相1aとしては水を用い、その流量は1.0mL/分とした。前処理カラム9に1分間流入することにより、試料中の硫酸イオンをほとんど除去した。
【0025】
[分析工程]
その後、上の条件で示したように、バルブ5を図1の破線部に示すように切り換え、移動相1aと1bを流路14からグラジエント送液し、目的とする加水分解物試料を前処理カラム9から分析用カラム10へと導入する。
分析用カラム8には、例えば逆相クロマトグラフィー用カラムを用い、カラム温度は25℃に設定した。移動相1aとしては水、移動相1bとしては水/アセトニトリル溶液を用い、その流量は1.0mL/分とした。
【0026】
図2にこの測定結果のクロマトグラムを示す。1〜12はメチルセルロースの分解物(グルコース、メチルグルコース、ジメチルグルコース及びトリメチルグルコース)であり、分子量の小さいグルコースから分子量の重いトリメチルグルコースまでが分離されている。ピーク1はグルコース、ピーク2〜4はメチルグルコース、ピーク5〜10はジメチルグルコース、ピーク11,12はトリメチルグルコースであり、ジメチルグルコースの割合が相対的に多いことが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、医薬品の分野などで使用されるメチルセルロースを構成するグルコース類の組成を分析するのに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】一実施例の高速液体クロマトグラフを示す流路図である。
【図2】同実施例におけるクロマトグラムである。
【符号の説明】
【0029】
1a,1b 移動相
2 脱気装置
3,8 送液ポンプ
4 試料注入器
5 六方バルブ
6a,6b 弁
7 混合器
9 前処理カラム
10 分析用カラム
11 検出器
12 恒温器
13 試料注入流路
14 分離用移動相送液流路
15 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物とイオンとを分離できる前処理カラムと有機化合物を相互に分離できる分析用カラムとを備えた液体クロマトグラフを使用し、以下の工程(A)から(C)をその順に含んでメチルセルロースを構成するグルコース、メチルグルコース、ジメチルグルコース及びトリメチルグルコースの組成分析を行なう分析方法。
(A)前記液体クロマトグラフの外部でメチルセルロースを硫酸水溶液により加水分解して加水分解物試料を調製する調製工程、
(B)前記加水分解物試料を前記液体クロマトグラフに導入し、前記前処理カラムにより加水分解物試料中のグルコース、メチルグルコース、ジメチルグルコース及びトリメチルグルコースを捕捉し、硫酸イオンを除去する前処理工程、及び
(C)前記前処理カラムに捕捉されたグルコース、メチルグルコース、ジメチルグルコース及びトリメチルグルコースを溶出させて前記分析用カラムに導いて分離するとともに、その分析用カラムから溶出したグルコース、メチルグルコース、ジメチルグルコース及びトリメチルグルコースを検出する分析工程。
【請求項2】
前記前処理カラムはイオン排除カラムである請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記分析用カラムは逆相カラムである請求項1又は2に記載の分析方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の分析方法に用いる液体クロマトグラフであって、
前記前処理カラムを備えた前処理流路と、
流路に沿って前記分析用カラム及び検出器を備えた分析流路と、
前記前処理カラムにおいてグルコース、メチルグルコース、ジメチルグルコース及びトリメチルグルコースを捕捉し硫酸イオンを排除する前処理用移動相を、試料注入部を介して送液する試料注入流路と、
グルコース、メチルグルコース、ジメチルグルコース及びトリメチルグルコースを分離する分離用移動相を送液する分離用移動相送液流路と、
前記試料注入流路が前記前処理カラムに接続される前処理工程用の流路接続から、前記分離用移動相送液流路が前記前処理カラムを経て前記分析用カラムに接続される流路接続を構成するように前記前処理カラムへの流路の接続を切り換える流路切換え機構と、を備えたことを特徴とする液体クロマトグラフ。

【図1】
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【図2】
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