説明

メチルメチオニンスルホニウムクロライド含有製剤

【課題】消化管粘膜保護作用を有し、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃炎等の自覚症状及び他覚所見の改善、慢性肝疾患における肝機能の改善等の諸症状の緩和に広く用いられているメチルメチオニンスルホニウムクロライド(MMSC)は、水分により分解を起こし、不快な臭いを発生させるため、MMSCを含有する製剤は経時的に品質低下するとの問題があり、品質低下を防止する手段としてコーティング等の方法が知られている。従来よりも簡便な方法で製造可能な、MMSCの安定性が保たれたMMSC含有製剤の提供。
【解決手段】MMSCにビタミンB1類を共存させるとMMSCの安定性が保たれ、不快な臭いの発生を抑制できることを見出したことに基づく、MMSCとビタミンB1もしくはその誘導体又はそれらの塩を含有する医薬製剤。該ビタミンB1誘導体としては、ベンフォチアミンが好ましい。該医薬製剤としては、顆粒剤が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メチルメチオニンスルホニウムクロライドを含有する製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
メチルメチオニンスルホニウムクロライド(以下、MMSCともいう)は、消化管粘膜保護作用を有することから、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃炎等の自覚症状及び他覚所見の改善、慢性肝疾患における肝機能の改善等の諸症状の緩和等に広く用いられている。
しかし、MMSCは、水分により分解を起こし、不快な臭いを発生させるため、MMSCを含有する製剤は経時的に品質低下するとの問題があった。
【0003】
MMSC含有製剤の品質低下を防止する手段としては、例えば、メチルメチオニンスルホニウムクロライドを含有する素錠にプロテクト掛けを施した後、さらにコハク化ゼラチンを含有する糖衣用組成液でコーティングして糖衣製剤とする方法(特許文献1);メチルメチオニンスルホニウムクロライドにシリコーンを混合させることにより得られた混合物からなる混合末を用いる方法(特許文献2);メチルメチオニンスルホニウムクロライドを含む芯材、並びに該芯材を被覆する糖衣層を有する糖衣製剤であって、該糖衣層の少なくとも1つに、糖及びアクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー0.01〜10重量%を含む糖衣製剤とする方法(特許文献3)などが知られている。
【特許文献1】特開2003−063953号公報
【特許文献2】特開2003−306431号公報
【特許文献3】国際公開第08/013084号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、MMSCを含有する素錠に糖衣を施す方法は吸湿を防ぐ効果は高いものの、製造工程が煩雑で、長い製造時間を要するなど不利な面がある。
従って、本発明の目的は、従来よりも簡便な方法で製造可能な、MMSCの安定性が保たれたMMSC含有製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、MMSC含有製剤の品質低下を防止する手段について鋭意研究を行った結果、全く意外にも、MMSCにビタミンB1類を共存させるとMMSCの安定性が保たれ、不快な臭いの発生を抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、メチルメチオニンスルホニウムクロライドと、ビタミンB1もしくはその誘導体又はそれらの塩を含有する医薬製剤を提供するものである。
【0007】
また、本発明は、メチルメチオニンスルホニウムクロライド含有製剤に、ビタミンB1もしくはその誘導体又はそれらの塩を配合することを特徴とするメチルメチオニンスルホニウムクロライドの安定化方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、MMSCの安定性が保たれ、経時的な不快な臭いの発生が抑制されたMMSC含有製剤を得ることができる。また、本発明の製剤は、糖衣工程など煩雑な工程を要しないため、効率よく簡便に製造可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の医薬製剤は、MMSCを有効成分とする製剤に、ビタミンB1もしくはその誘導体又はそれらの塩を配合したことを特徴とするものである。
本発明で使用するMMSCは、公知の製造方法に従って得ることができる。また、例えば、「メチルメチオニンスルホニウムクロライド」(米沢浜理薬品製、アルプス薬品工業製)等の市販品として入手可能である。
【0010】
本発明において、MMSCの含有量は、有効性と品質低下防止の点から、製剤全量に対して0.05〜15質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜10質量%である。
【0011】
本発明で使用するビタミンB1もしくはその誘導体又はそれらの塩(以下、ビタミンB1類ともいう)としては、チアミン、ビスチアミン、ビスイブチアミン、ビスベンチアミン、チアミンジスルフィド、オクトチアミン、フルスルチアミン、ベンフォチアミン、ビスチアミン、ジセチアミン等のチアミン誘導体、又はそれらの塩が挙げられる。塩としては、薬学的に許容される塩であればよく、例えば硝酸塩、塩酸塩、硫酸塩等の鉱酸塩;酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、トリフルオロ酢酸塩等の有機酸塩が挙げられ、具体的には、塩酸チアミン、硝酸チアミン、塩酸フルスルチアミン、塩酸ジセチアミン等を挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明において、ビタミンB1類としては、チアミン誘導体が好ましく、特にベンフォチアミンが好ましい。
ビタミンB1類は公知の化合物であり、その入手方法としては、市販品を用いてもよく、また公知の方法に基づき製造することも可能である。
【0012】
本発明において、ビタミンB1類の含有量は、製剤全量に対して0.05〜15質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜10質量%である。
【0013】
本発明の医薬製剤におけるMMSCとビタミンB1類の配合比(質量比)は、MMSCの分解を抑制し、不快な臭い発生を抑制する点から、1:0.1〜10が好ましく、1:0.2〜5がより好ましく、1:0.5〜2が特に好ましい。
【0014】
本発明の医薬製剤は、有効成分であるMMSCの消化管粘膜保護作用により、特に消化管用薬として有用であり、例えば胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃炎等の自覚症状及び他覚所見の改善、慢性肝疾患における肝機能の改善等に対して適用可能である。
【0015】
医薬製剤の投与形態は、経口固形製剤であれば特に限定されず、例えば錠剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、丸剤、カプセル剤等が挙げられ、特に、顆粒剤が好ましい。
【0016】
本発明の医薬製剤は、常法により製造することができる。すなわち、MMSCとビタミンB1類、及び本発明の効果に実施的な影響を及ぼすことのない製剤添加物を用いて、第十五改正日本薬局方製剤総則等に記載の公知の製剤化方法に基づいて製造することができる。
製剤添加物としては、本発明の効果に実質的な影響を及ぼすことがなければ、特に限定されるものではなく、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、香料等を用いることができる。
賦形剤としては、乳糖、デンプン類、結晶セルロース、蔗糖、マンニトール、キシリトール、軽質無水ケイ酸、リン酸水素カルシウム等が挙げられる。
結合剤としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン、アルファー化デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、プルランメチルセルロース、硬化油等が挙げられる。
崩壊剤としては、カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポピドン、トウモロコシデンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸カルシウム、二酸化ケイ素等が挙げられる。
着色剤としては、タール色素、三二酸化鉄等が挙げられる。
矯味剤としては、ステビア、アスパルテーム等が挙げられる。
香料としては、メントール、オレンジ、カラメル、ハッカ油、バニラフレーバー、ミントフレーバー等が挙げられる。
これらの製剤添加物は1種又は2種以上を併せて使用することができ、本発明の医薬製剤における製剤添加物の含有量は適宜検討して、決定すればよい。
【0017】
本発明の製剤においては、上記成分のうち、ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム及び硬化油から選ばれる1種又は2種以上の添加物を含有するのが好ましい。ここで、ヒドロキシプロピルセルロースの含有量は、製剤全量に対して0.5〜5.0質量%が好ましく、より好ましくは1.0〜4.0質量%である。また、カルメロースカルシウムの含有量は、製剤全量に対して5.0〜40.0質量%が好ましく、より好ましくは10.0〜30.0質量%である。硬化油の含有量は、製剤全量に対して5.0〜50.0質量%が好ましく、より好ましくは10.0〜40.0質量%である。
【0018】
また、本発明の医薬製剤には、MMSCの作用増強を目的として、胃酸を中和する成分や胃酸の分泌を抑える成分(制酸成分)、胃の働きを高める成分(健胃成分)、消化を補助する成分(消化酵素)、胃粘膜を修復する成分(粘膜修復成分)等を更に含有させることが好ましい。
【0019】
制酸成分としては、例えば、乾燥水酸化アルミニウムゲル、ケイ酸アルミン酸マグネシウムビスマス、ケイ酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、合成ヒドロタルサルト、炭酸水素ナトリウム、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム共沈物、炭酸マグネシウム、沈降炭酸カルシウム、沈降炭酸マグネシウム、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ロートエキス、塩酸ラニチジン、ロキサチジン酢酸エステル塩酸塩、シメチジン、ファモチジン、ニザチジン、ラフチジン、オメプラゾール、ランソプラゾール、パントプラゾール、ラベプラゾールナトリウム、レミノプラゾール、エソメプラゾール、塩酸ピレンゼピン、プログルミド、臭化チキジウム等が挙げられる。
【0020】
健胃成分としては、アカメガシワ末、アセンヤク末、ウイキョウ末、ウコン末、ウバイ末、ウヤク末、オウゴン末、オウバク末、オウレン末、ガジュツ末、カッコウ末、カンゾウ末、キコク末、キナ末、クジン末、ケイヒ末、ケツメイシ末、ゲンノショウコ末、コウジン末、コウボク末、ゴシュユ末、ゴバイシ末、コロンボ末、チンピ末、サンザシ末、サンショウ末、サンナ末、ショウキョウ末、シソシ末、シュクシャ末、ショウズク末、セイヒ末、セキショウコン末、センブリ末、ソウジュツ末、ソヨウ末、ダイオウ末、チクセツニンジン末、チョウジ末、トウヒ末、ニガキ末、ニクズク末、ニンジン末、ヒキオコシ末、ヒハツ末、ビャクジュツ末、モッコウ末、ヤクチ末、ヨウバイヒ末、ハッカ油、リンドウ末、リョウキョウ末、アニス実、アロエ、スイサイヨウ、ダイウイキョウ、コンズランゴ、加工大蒜、カラムス根、センタウリウム草、ゲンチアナエキス、ホップエキス、ホミカエキス、乾燥酵母、塩化カルニチン、グルタミン酸塩酸塩、塩化ベタネコールおよびマレイン酸トリメブチン等が挙げられる。
【0021】
消化酵素としては、ウルソデオキシコール酸、含糖ペプシン、ジアスメン、セルラーゼ、セルロシン、タカヂアスターゼ、胆汁末、デヒドロコール、ニューラーゼ、パンクレアチン、ビオタミラーゼ、ビオヂアスターゼ、プロザイム、ポリパーゼ、リパーゼ等が挙げられる。
【0022】
粘膜修復成分としては、グリチルリチン酸又はその塩、甘草又はその抽出物、ショ糖硫酸エステルアルミニウム塩(スクラルファート)、アルジオキサ、L−グルタミン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ソファルコン、銅クロロフィンナトリウム、銅クロロフィンカリウム、塩酸セトラキサート、ゲファルナート、マレイン酸トリメブチン、アズレンスルフォン酸ナトリウムおよびテプレノン等が挙げられる。
【0023】
本発明の医薬製剤の投与量は、患者の体重、年齢、性別、症状等によって適宜選択されるが、通常成人の場合、1日当たりMMSCを75.0〜225.0mg/日程度、特に150.0〜225.0mg/日程度を投与するのがよく、当該投与量に応じて上述した割合によりビタミンB1類の投与量を決定することができる。
【0024】
かくして得られる本発明の医薬製剤は、吸湿によってもMMSCが分解されにくく、その安定性が保たれるため、経時的に臭いの発生が少なく、また製剤保存中にその含量低下は殆ど見られない。
【実施例】
【0025】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0026】
実施例1
メチルメチオニンスルホニウムクロライド416.7g、ベンフォチアミン347.2g、硬化油2000g、ヒドロキシプロピルセルロース150g、カルメロースカルシウム1250g、トウモロコシデンプン836.1gを混合・練合(エタノール500g)・造粒・整粒を行い、顆粒を得た。
【0027】
比較例1
メチルメチオニンスルホニウムクロライド416.7g、硬化油2000g、ヒドロキシプロピルセルロース150g、カルメロースカルシウム1250g、トウモロコシデンプン1183.3gを混合・練合(エタノール500g)・造粒・整粒を行い、顆粒を得た。
【0028】
[臭いの評価]
実施例1及び比較例1で得た各顆粒の臭いについて評価した。
顆粒2gを透明なガラス瓶(3K瓶)に入れ密栓後、40℃条件下で、各々1週間、2週間及び4週間保存したときの臭いの発生について、次の評価基準に基づいて評価した。評価は5人で行い、平均値を算出した。結果を表1に示す。
<評点 評価内容>
0:メチルメチオニンスルホニウムクロライド由来の不快臭を全く感じない
1:メチルメチオニンスルホニウムクロライド由来の不快臭を殆ど感じない
2:メチルメチオニンスルホニウムクロライド由来の不快臭を感じる
3:メチルメチオニンスルホニウムクロライド由来の不快臭を強く感じる
【0029】
【表1】

【0030】
ベンフォチアミンを配合した実施例1の顆粒は、4週間の保存期間を経てもMMSC由来の不快臭が殆ど感じられなかった。一方、ベンフォチアミンを配合しなかった比較例1の顆粒は、保存2週間後には、MMSCの不快臭がはっきりと感じられた。
また、ベンフォチアミンを配合した実施例1の顆粒の経時的なMMSC含量安定性も良好であった。
従って、MMSCにベンフォチアミン等のビタミンB1類を共存させることにより、非常に品質の優れたMMSC含有製剤が得られることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルメチオニンスルホニウムクロライドと、ビタミンB1もしくはその誘導体又はそれらの塩を含有する医薬製剤。
【請求項2】
メチルメチオニンスルホニウムクロライド1質量部に対し、ビタミンB1もしくはその誘導体又はそれらの塩を0.1〜10質量部の割合で含有する請求項1記載の医薬製剤。
【請求項3】
ビタミンB1もしくはその誘導体又はそれらの塩が、ベンフォチアミンである請求項1又は2記載の医薬製剤。
【請求項4】
消化管用薬である、請求項1〜3のいずれか1項記載の医薬製剤。
【請求項5】
顆粒剤である、請求項1〜4のいずれか1項記載の医薬製剤。
【請求項6】
メチルメチオニンスルホニウムクロライド含有製剤に、ビタミンB1もしくはその誘導体又はそれらの塩を配合することを特徴とするメチルメチオニンスルホニウムクロライドの安定化方法。

【公開番号】特開2010−30964(P2010−30964A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196087(P2008−196087)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】