説明

メチル化CpGポリヌクレオチド

本発明の目的は、CpGモチーフを有するDNAによる免疫活性を効果的に抑制することができ、それにより関節炎などの免疫疾患の予防および/又は治療のために用いることができるポリヌクレオチドを提供することである。本発明によれば、グアニンがメチル化されているCpGモチーフを含むポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドを含む医薬組成物が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、CpGモチーフの免疫活性を抑制する作用を有するポリヌクレオチドに関する。より詳細には、本発明は、CpGモチーフの免疫活性を抑制する作用を有し、関節炎などの免疫疾患の予防および/又は治療のために用いることができるポリヌクレオチド、並びに該ポリヌクレオチドを有効成分として含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
微生物由来の成分は免疫活性を有するが、特に結核菌の菌体成分の中に多く含まれるDNAは強い自然免疫活性化作用を有し、抗原に対しT helper 1タイプの免疫反応を誘導するアジュバントとして働くことが知られている(Science 273;352−354,1996)。そして、このDNAの免疫活性化作用はCpGモチーフを有するDNA(CpG DNA)に由来し、配列の変更あるいはシトシンのメチル化によってその免疫活性は失われることが知られている(Nature 374;546−549,1995)。
一方、この微生物由来DNAが関節リウマチを始めとする自己免疫疾患の病態に関わっている可能性を示唆する報告もある(Arthritis Rheum 43;2578−2582,2000,Nature 416;603−607,2002)。
また、特表2002−521489号公報には、CpG含有DNAのS立体異性体が免疫を刺激することができ、ワクチンアジュバントとして使用したり、ウイルス疾患、寄生生物疾患又は真菌疾患の予防又は治療のための免疫活性化因子として使用したり、あるいは癌、アレルギー疾患又は喘息の免疫治療のために使用できることが記載されている。さらに、特表2002−521489号公報には、CpG含有DNAのR立体異性体が上記したS立体異性体の免疫刺激効果を抑制できることが記載されている。
【発明の開示】
本発明の目的は、CpGモチーフを有するDNAによる免疫活性を効果的に抑制することができ、それにより関節炎などの免疫疾患の予防および/又は治療のために用いることができるポリヌクレオチド、並びに該ポリヌクレオチドを有効成分として含む医薬組成物を提供することである。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、グアニンをメチル化したCpGモチーフを含むDNAをマウス骨髄由来マクロファージに投与することにより、インターロイキン6(IL−6)及び12(IL−12)の産生が効果的に抑制できることを見出した。さらに本発明者らは、グアニンをメチル化したCpGモチーフを含むDNAを関節炎モデルマウスに投与することにより、関節炎を効果的に抑制できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明によれば、グアニンがメチル化されているCpGモチーフを含む、ポリヌクレオチドが提供される。
好ましくは、本発明のポリヌクレオチドの長さは8〜100ヌクレオチドである。
好ましくは、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号1から4のいずれかに記載の塩基配列を含有し、さらに好ましくは、配列番号1から4のいずれかに記載の塩基配列から成る。
本発明の別の側面によれば、上記した本発明のポリヌクレオチドを有効成分として含む、医薬組成物が提供される。
好ましくは、本発明の医薬組成物は、免疫疾患の予防および/又は治療のための医薬組成物である。さらに好ましくは、本発明の医薬組成物は、免疫抑制剤又は関節炎の治療剤として使用することができる。
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明のポリヌクレオチドを有効成分として含む、インターロイキン産生抑制剤が提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、グアニンがメチル化されているCpGモチーフを含むポリヌクレオチドの有効量をヒトを含む哺乳動物に投与する工程を含む、免疫疾患を予防および/又は治療する方法、免疫を抑制する方法、関節炎を治療する方法、並びにインターロイキン産生を抑制する方法が提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、免疫疾患の予防および/又は治療のための医薬組成物、免疫抑制剤、関節炎の治療剤、又はインターロイキン産生抑制剤の製造のための、グアニンがメチル化されているCpGモチーフを含むポリヌクレオチドの使用が提供される。
【図面の簡単な説明】
図1は、mCG−DNAあるいはCmG−DNAによるマクロファージからのIL−12及びIL−6誘導抑制の結果を示す。
図2は、タイプIIコラーゲン関節炎モデルマウスにおけるCmG−DNAの効果を示す。day0は、最初の免疫時にCmG−DNAを投与したことを示し、day21は3週間後の追加免疫の時にCmG−DNAを投与したことを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
(ポリヌクレオチド)
本発明のポリヌクレオチドは、グアニンがメチル化されたCpGモチーフを含むことを特徴とするポリヌクレオチドである。本発明のポリヌクレオチドは、ポリリボヌクレオチドでもよいし、ポリデオキシリボヌクレオチドでもよい。本明細書で言うCpGモチーフとは、シトシン(C)とグアニン(G)からなる塩基配列である。本発明のポリヌクレオチドは、1本鎖又は2本鎖の何れでもよく、また、直鎖状又は環状の何れでもよい。本発明のポリヌクレオチドの長さは、免疫活性を抑制するという本発明の効果が達成できる限り特に限定されないが、細胞への取り込みを容易にするという観点から、8〜100ヌクレオチドであることが好ましく、さらに好ましくは8〜30ヌクレオチドである。
CpGモチーフのCは、メチル化されていないシトシンを塩基として有するリボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドでもよいし、メチル化されたシトシンを塩基として有するものでもよい。インターロイキン−6及びインターロイキン−12の産生抑制試験の結果から、本発明のポリヌクレオチドはメチル化されたシトシンを有するCpGモチーフを含むものであっても、メチル化していないシトシンを有するCpGモチーフを含むものであっても、同等の産生抑制作用を示すことが確認された。
CpGモチーフのメチル化されたGとは、メチル化されたグアニンを塩基として有するリボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドを意味する。メチル化される部位は、グアニンの2位、6位、7位などを挙げることができるが、好ましくは6位ケトン基のメチル化である。
CpGモチーフ以外のヌクレオチドは、ピリミジン又はプリンで置換されたリボース又はデオキシリボースであり、具体的には、グアニン、アデニン、シトシン、チミン又はウラシルを塩基として有するリボース又はデオキシリボースである。
本発明のポリヌクレオチドは、メチル化CpGモチーフの免疫抑制作用が損なわれない限り、ヌクレオチドの一部をヌクレオチドの誘導体と置換することによって、ポリヌクレオチド誘導体として使用することもできる。このようなポリヌクレオチド誘導体の具体例としては、ポリヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換されたポリヌクレオチド誘導体、ポリヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’−P5’ホスフォアミデート結合に変換されたポリヌクレオチド誘導体、ポリヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合がペプチド核酸結合に変換されたポリヌクレオチド誘導体、ポリヌクレオチド中のウラシルがC−5プロピニルウラシルで置換されたポリヌクレオチド誘導体、ポリヌクレオチド中のウラシルがC−5チアゾールウラシルで置換されたポリヌクレオチド誘導体、ポリヌクレオチド中のシトシンがC−5プロピニルシトシンで置換されたポリヌクレオチド誘導体、ポリヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシンで置換されたポリヌクレオチド誘導体、ポリヌクレオチド中のリボースが2’−O−プロピルリボースで置換されたポリヌクレオチド誘導体、あるいはポリヌクレオチド中のリボースが2’−メトキシエトキシリボースで置換されたポリヌクレオチド誘導体等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
本発明のポリヌクレオチドを有する核酸の基本配列は、5’−purine−purine−CmG−pyrimidine−pyrimidineを有し、具体的な配列としては、

などを挙げることができる。
本発明のポリヌクレオチドは、遺伝子組み換え技術、核酸合成法、部位特異的変異導入法など当業者に公知の手法により作製することができる。例えば、ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体は、遺伝子工学で一般的に用いられる核酸合成法に従い、例えば、DNA合成装置を用いて直接合成してもよく、これらのポリヌクレオチドの一部を合成した後、PCR法又はクローニングベクター等を用いて増幅してもよい。さらに上記した通り、細胞内でより安定なポリヌクレオチド誘導体を得るために、塩基、糖、リン酸部分を化学修飾してもよい。前記ポリヌクレオチド合成法としては、リン酸トリエステル法、ホスホルアミダイト法、H−ホスホネート法等が挙げられる。
グアノシンの6位がメチル化されたポリヌクレオチドは、例えば、

を原料とすることにより製造することができる。
(免疫疾患の予防又は治療のための医薬組成物)
本発明によるグアニンがメチル化されているCpGモチーフを含むポリヌクレオチドは、本明細書中の試験例で示すように、マウス骨髄由来マクロファージをCpG DNA等で刺激した際のインターロイキン産生を抑制し、さらにマウスタイプIIコラーゲン関節炎モデルマウスにおいて関節炎を抑制することが確認された。即ち、本発明によれば、グアニンがメチル化されているCpGモチーフを含むポリヌクレオチドを有効成分として含む、医薬組成物が提供される。本発明の医薬組成物は免疫抑制作用を有し、免疫疾患の予防および/又は治療のために用いることができる。本発明の医薬組成物は、例えば、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、糖尿病、多発性硬化症、橋本病、溶血性貧血、重症筋無力症、強皮症、潰瘍性大腸炎、特発性血小板減少性紫斑病等の自己免疫疾患、慢性気管支喘息、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、花粉症、アレルギー性鼻炎等のアレルギー性疾患、移植片対宿主病、臓器移植時の拒絶反応、エンテロトキシンによる免疫系の活性化が病因因子とされている急性感染症、又は動脈硬化の予防および/又は治療のために用いることができる。また別の観点によれば、本発明のポリヌクレオチドは、インターロイキン産生抑制剤として用いることもできる。
本発明のポリヌクレオチドを医薬組成物の形態で使用する場合、上記ポリヌクレオチドを有効成分として使用し、さらに薬学的に許容可能な担体、希釈剤、安定化剤、賦形剤などを用いて医薬組成物を調製することができる。
本発明の医薬組成物を患者へ投与する場合、投与経路は特に限定されず、経口投与又は非経口投与の何れでもよく、当業者に公知の方法により行うことができる。好ましい投与経路は、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射などである。
経口投与の場合には、本発明の医薬組成物は、例えば錠剤、硬質又は軟質ゼラチンカプセル、溶液、乳剤、又は懸濁液などのような、経口投与に適した製剤形態で用いることができる。また、非経口投与の場合には、本発明の医薬組成物は、例えば座薬の形態で直腸に投与してもよいし、または例えば注射用溶液の形態で動脈内注射、静脈内注射又は皮下注射により投与することができる。
本発明の医薬組成物を製造するためには、本発明のポリヌクレオチドを、例えば、薬学的に許容可能な賦形剤と配合することができる。このような錠剤およびゼラチンカプセル用の賦形剤の具体例としては、ラクトース、コーンスターチ又はその誘導体、ステアリン酸またはそれらの塩などが挙げられる。溶液を製造するのに適した賦形剤は、水、ポリオール、スクロース、転化糖およびグルコースである。注射溶液に適した賦形剤は、水、アルコール、ポリオール、グリセロールおよび植物油である。座薬に好適な賦形剤は、植物および硬化油、ワックス、脂肪および半液体状ポリオールである。また、本発明の医薬組成物には、所望により、防腐剤、溶媒、安定剤、湿潤剤、乳化剤、甘味料、染料、香味料、浸透圧を変化させるための塩、緩衝剤、コーティング剤、酸化防止剤、および場合によっては他の治療活性を有する化合物を配合することもできる。
本発明のポリヌクレオチドの投与量は、患者の体重、年齢、投与方法などのより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。有効成分であるポリヌクレオチドの投与量としては、一般的には1回につき0.1〜100mg/kg程度である。
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例】
試験例1
(方法)
BMDMの誘導とサイトカインの測定は、Martin−Orozcoらの方法に準じて行った(Int Immunol 1999,11:1111−1118)。
BALB/cマウスの骨髄細胞から誘導したbone marrow derived macrophage(BMDM)を2×10/mlに調整し、CG−DNA(1μg/ml)、mCG−DNA(10μg/ml)、CmG−DNA(10μg/ml)、LPS(100ng/ml,E.coli 0111:B4(Sigma L−4391))と共にDMEM培地(sigma社)にて24時間培養した。24時間後に回収した培養上清中のIL−12及びIL−6濃度をELISAにて測定した(図1)。有意差検定はStatViewを用いて行った。
なお、合成DNA(いずれも5’−S化リン酸化、1microHPLC精製品)は、β−シアノエチルアミダイド法により合成し、当業者が通常行う方法により精製したものを用いた。
CpGモチーフを含むDNA(CG−DNA):

CpGモチーフのCをメチル化したDNA(mCG−DNA):

CpGモチーフのGをメチル化したDNA(CmG−DNA):

(試験例において、mC:5−methyl−2’−deoxycytidine、mG:06−methyl−2’−deoxyguanosineを表す。)
(結果)
マウス骨髄由来マクロファージをin vitroでLPS又はCG−DNAと共に、mCG−DNA又はCmG−DNAを添加して培養した。24時間後の培養上清中のIL−12及びIL−6濃度を測定した。CG−DNAによるマクロファージからのIL−12及びIL−6誘導は、mCG−DNAあるいはCmG−DNAによって抑制されたが、CmG−DNAの方がmCG−DNAより抑制効果が高かった。また、LPSによるIL−6誘導をCmG−DNAは抑制せず、mCG−DNAはかえって増強することが示された。
試験例2
(方法)
マウスタイプIIコラーゲン関節炎モデル試験は、Current protocols in immunology:15.5.1−15.5.14.に準じて行った。
DBA/1LacJマウス(8週齢雌)をタイプIIコラーゲン(CII)(高研)及びComplete Freund Adjuvant(DIFCO)で免疫し、その3週間後にタイプIIコラーゲン及びIncomplete Freund Adjuvantで追加免疫し、タイプIIコラーゲン関節炎モデルを作成した。
このマウスに下記の如く合成DNAを皮下投与し、週1回関節炎スコアを測定した。関節炎スコアは、Current protocols in immunologyに従った。

CII:タイプIIコラーゲン
CFA:完全フロイントアジュバンド
IFA:不完全フロイントアジュバンド
CmG:CmG−DNA

(結果)
最初の免疫(day0)、あるいは3週間後の追加免疫時(day21)にCmG−DNAを投与すると、関節炎が抑制された。
以上の結果からCmG−DNAは特異的に、かつこれまで知られた合成DNA以上に効果的にtoll like receptor(TLR)9を阻害し、自己免疫性疾患の治療に有用と考えられた。
【産業上の利用可能性】
本発明のポリヌクレオチドは、CpG DNAによるIL−6及びIL−12の産生を効果的に抑制するため、関節リウマチ等の自己免疫疾患、アレルギー性鼻炎等のアレルギー性疾患、多発性骨髄腫、メサンギウム増殖性腎炎などの予防・治療に利用することができる。
【配列表】



【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
グアニンがメチル化されているCpGモチーフを含む、ポリヌクレオチド。
【請求項2】
長さが8〜100ヌクレオチドである、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
配列番号1から4のいずれかに記載の塩基配列を含有する、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
配列番号1から4のいずれかに記載の塩基配列から成る、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のポリヌクレオチドを有効成分として含む、医薬組成物。
【請求項6】
免疫疾患の予防および/又は治療のための医薬組成物である、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
免疫抑制剤である、請求項5又は6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
関節炎の治療剤である、請求項5又は6に記載の医薬組成物。
【請求項9】
請求項1から4のいずれかに記載のポリヌクレオチドを有効成分として含む、インターロイキン産生抑制剤。

【国際公開番号】WO2004/094448
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505810(P2005−505810)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005935
【国際出願日】平成16年4月23日(2004.4.23)
【出願人】(598009625)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】