説明

メッキを施された帯状金属表面の摩擦係数を低下させる方法および帯鋼に金属メッキを施すための装置

【課題】メッキ装置中を所定の帯速度で走行してメッキを施された帯状金属、特に、錫メッキまたはクロムメッキ帯鋼の表面の摩擦係数を低下させる方法およびメッキ装置を提供する。
【解決手段】所定の帯速度でメッキ装置中を走行してメッキを施された帯状金属、特に、錫メッキまたはクロムメッキされた帯鋼の表面の摩擦係数を低下させる方法でおいて、メッキ工程後、上記帯速度で走行する帯状金属に界面活性剤の水溶液をスプレーすることを特徴とする方法。メッキ装置の帯速度が高い場合でも、メッキ工程後、所定の帯速度で走行する帯状金属に界面活性剤水溶液をスプレーすることによってメッキ表面の摩擦係数を低下させることができる。帯鋼に金属メッキを施す装置、特に、帯状金属錫メッキ装置または帯状金属クロムメッキ装置も開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の帯速度でメッキ装置中を走行してメッキを施された帯状金属、特に、錫メッキまたはクロムメッキされた帯鋼の表面の摩擦係数を低下させる方法、および帯鋼に金属メッキを施す装置、特に、帯鋼錫メッキ装置または帯鋼クロムメッキ装置、に係わる。
【背景技術】
【0002】
特に電解錫メッキ装置におけるブリキ板の製造、および電解特殊クロムメッキ鋼板(ECCS)の製造に際しては、メッキされ、化学的または電気化学的に不動化された鋼板(金属錫および金属クロム+水酸化クロムIIIを含むブリキまたはECCS=金属クロム+水酸化クロムIIIを含む電解クロムメッキ鋼)をメッキ工程後にグリース処理することにより、メッキされた鋼板の摩擦係数を低下させ、以後の加工段階において加工し易くする。このため、例えば、帯鋼メッキ装置におけるブリキの製造に際して、錫メッキされ、不動化処理された帯状鋼板を、乾燥処理後、ジオクチルセバケート(DOS)、アセチルトリブチルシトレート(ATBC)またはブチルステアレート(BSO)で典型的には厚さ2〜6 mg/m2となるように静電グリース処理する。
【0003】
例えばブリキのようなメッキされた金属の表面をグリース処理する方法は米国特許第2,579,778号明細書および米国特許第3,826,675号明細書に開示されており、米国特許第2,579,778号の場合には、弱イオン化可能な有機酸から製造されるpH値2〜6の水性グリース・エマルジョンを、米国特許第3,826,675号の場合には、クエン酸エステルが使用される。
【0004】
帯状鋼板が150 m/min未満の帯速度で通過する帯鋼錫メッキ装置では、例えば0.8 g/LのDOSと0.08 g/Lのラウリルエトキシレートとの混合エマルジョンとしてのDOSを、不動化および洗浄工程後、浸漬タンクにおいて錫メッキ帯状鋼板に塗布することができる。錫メッキされた帯状鋼板が浸漬タンクを通過することによって帯状鋼板表面に付着したDOS−エマルジョンは絞りロールで搾り取られ、帯状鋼乾燥機で乾燥させられる。しかし、帯鋼が300〜600 m/minの帯速度で通過する高速帯鋼錫メッキ装置の場合、上記DOS−エマルジョンには欠点があることが判明している。なぜなら、浸漬タンクにおいて付着したエマルジョンを搾り取る絞りロールを長期間使用し、磨耗現象、特にロールの縁端部にくぼみが現れると、帯鋼の幅に亘ってDOS−膜の厚さにばらつきが生ずるからである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明の目的は、メッキを施された帯状金属、特に錫メッキまたはクロムメッキされた帯状鋼板の表面の摩擦係数を低下させる方法において、帯状金属が高速でメッキ装置中を走行し、該装置中で金属被覆が施され、可能な限り高いスループット、特に、より高い帯速度で実施可能な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、本発明によれば、所定の帯速度でメッキ装置中を走行してメッキを施された帯状金属、特に、錫メッキまたはクロムメッキされた帯鋼の表面の摩擦係数を低下させる方法でおいて、メッキ工程後、上記の帯速度で走行する帯状金属に界面活性剤の水溶液をスプレーすることを特徴とする方法よって達成される。上記の目的は、更に、所定の帯速度でメッキ装置中を走行する帯鋼に薄い金属層を電解メッキするメッキ装置と、この金属層を不動化処理する不動化装置と、メッキされ、不動化処理された帯鋼を洗浄する洗浄浴と、金属層でメッキされた帯鋼の表面の摩擦係数を、この帯鋼を帯速度で通過させることによって低下させるグリース処理装置とを備えた、帯鋼に金属メッキを施す装置、特に、帯鋼錫メッキ装置または帯鋼クロムメッキ装置において、グリース処理装置がメッキされた帯鋼から間隔を保って配置され、その管壁に複数の孔を有する少なくとも1本の管を含み、メッキされ、このグリース処理装置中を走行する帯鋼に、これらの孔から界面活性剤水溶液がスプレーされることを特徴とする装置によっても達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の方法では、メッキ工程後、例えば、帯鋼錫メッキ装置での電解錫メッキ工程またはECCSの製造における電解クロムメッキ工程後に、移動する帯状金属、特に帯鋼に界面活性剤水溶液がスプレーされる。その場合、少分子層から成る薄い界面活性剤層だけが帯鋼表面に吸着されるように、極く少量の界面活性剤溶液を帯鋼表面にスプレーする。このため、スプレーされた界面活性剤溶液を絞りロールによって搾り取り、次いで乾燥させる。界面活性剤溶液を搾り取り、乾燥させた後、帯状金属表面には、例えば厚さ約0.1〜10 mg/m2の界面活性剤膜が残る。
【0008】
界面活性剤としては濃度が0.01〜20 g/Lの非イオン性界面活性剤水溶液が好ましく、これがメッキを施された帯状金属にスプレーされる。但し、その他の界面活性剤、特に、陰イオン性または陽イオン性および両性界面活性剤を使用することもできる。
【0009】
帯状金属の表面に界面活性剤水溶液をスプレーするには、管壁に複数の孔を形成した管を有する構成が好ましいことが実証された。孔のある管は帯状金属表面に対して間隔を保って配置され、界面活性剤水溶液を供給される。界面活性剤水溶液は孔から発射され、走行中の帯状金属に噴流の形で到達する。好ましくは帯状金属のそれぞれの側にこのような孔を有する管を1本ずつ配置し、孔と対抗する帯状金属表面に界面活性剤溶液をスプレーする。帯状金属の両側に配置される管は帯状金属表面に対して5〜15 cmの間隔を保つことが好ましい。管の孔から発射される噴流は好ましくは垂直または斜めに、特に、法線に対して−15°〜+15°の角度範囲でメッキを施された帯状金属表面に衝突し、帯走行方向に見て衝突点の下流側に配置された1組または2組以上の絞りロールによって搾り取られる。
【0010】
本発明の方法の好ましい実施例では、常開出口を有する垂直タンク内で界面活性剤溶液のスプレーが行われる。垂直タンクには余剰の、具体的には、絞りロールによって搾り取られた界面活性剤溶液が回収され、出口を通って垂直タンクの下方に設けられた補給タンクへ流動し、補給タンクから再利用のため補給される。
【0011】
本発明の方法によれば、ブリキおよびECCSの滑り摩擦値を実用化技術に必要な値にまで低下させることができる。
【実施例】
【0012】
添付の図面を参照しながら実施例に基づいて本発明の詳細を以下に説明する。添付図面において:
図1:ブリキ製造のための錫メッキ装置の急冷およびこれに続く処理を略示する。
図2:図1の帯状金属錫メッキ装置の処理装置を示す斜視図である。
【0013】
図1に簡略化して示すブリキ製造用の帯状金属錫メッキ装置は図示していないがメッキ装置を含む。メッキ浴中を走行する帯鋼Sは電解作用で錫メッキを施される。帯鋼Sは錫メッキ工程の前に電解作用でグリース抜きされ、脱塩水で洗浄され、次いで酸洗いおよび脱塩水による洗浄工程に進む。こうして洗浄された帯鋼Sは電解質と錫アノードを含む錫メッキ浴においてカソードとしての極性を付与される。錫メッキ条件を絶えずモニターし、制御すれば、高電流密度において、帯鋼上に隙間なく、均等に錫沈積層が密着する。電気分解に続いて、洗浄工程の後、錫表面をフラックス処理する。即ち、1 g/LのHClまたは3 g/Lの塩化亜鉛/塩化アンモニウムの20〜70℃溶液に浸漬し、搾り取り、乾燥させ、融着タワーにおいて短時間に亘って誘電加熱または抵抗過熱して融着処理することによってブリキ表面の外見を改善する。
【0014】
次いで、錫メッキされた帯鋼SはガイドロールUを介して急冷タンク1を通過させられる。急冷タンク1には70〜95℃の脱塩水(VE−水)が収容されている。次いで、帯鋼Sは典型的には200〜600 m/minの帯速度vでガイドロールUを介して不動化装置2を通過させられる。不動化装置2は1〜2基の不動化タンク2aおよび場合によっては2bを含み、例えば、50〜70℃の浴温度の10〜25 g/Lのジクロムサンナトリウム溶液が収容されている。不動化は非電気的にまたは電解を利用して行われる。電解利用による不動化においては、錫メッキされた帯鋼Sが不動化装置において通電ロールSRによってカソードとしての極性を付与され、電気分解の作用下に不動化される。アノードとして不動化浴中に小鋼板を浸漬することが多い。
【0015】
錫メッキされ、不動化された帯鋼Sは次いでガイドロールUを介して洗浄浴3を通過する。洗浄浴3は図1に示す実施例の場合には2つの対流洗浄タンク3a、3bを含み、それぞれのタンクの上部域にスプレー・ロール3c、3eが配置されている。スプレー・ロール3eから帯鋼に脱塩洗浄水がスプレーされ、次いで、これが搾り取られ(3f)、垂直洗浄タンクへ流動する。脱塩洗浄水は垂直洗浄タンクから第1洗浄タンク3aの出口に位置する上方スプレー管3dに流動し、2組の絞りロール対3dの間で帯鋼表面にスプレーされ、洗浄タンク3aに流入し、さらに洗浄タンク3aの溢流口を通って廃水処理装置へ流入する。典型的な帯速度が200〜600 m/minである場合、スプレー管を利用した対流洗浄には、洗浄水として流量が3〜5 m3/hの脱塩水が使用される。
【0016】
対流洗浄手段としてスプレー管のない洗浄タンク3a、3bを使用することも可能であり、この場合、洗浄タンク3bを脱塩水で満たし、ここから溢流口を介して洗浄タンク3aへ脱塩水を誘導する。但し、このような洗浄構造に使用される洗浄水の量はスプレー管を採用する上記の場合よりも(さらに)多くなる。
【0017】
洗浄後、帯速度vで走行する帯鋼SはガイドロールUを経て、メッキされた帯鋼Sの表面の摩擦係数を低下させるための処理装置4を通過する。錫メッキされ、不動化処理され、洗浄された帯鋼Sの摩擦係数値はこの処理装置4において、以後の利用および加工に必要な値にまで低下させられる。処理装置4は底部に常開出口6を有する垂直タンク5を含む。垂直タンク5の上方域には、走行する帯鋼Sを挟んでその両側に、管壁に複数の孔を形成した管11が配置されている。管11は互いに平行に、且つ帯の走行方向と直交または少なくともほぼ直交する方向に(図2において下から上に向かって)延設されている。管11にはその長手方向に順次間隔を置いて複数の孔13が形成されている。管11はポンプ14を介して界面活性剤水溶液を供給される。ポンプ14と管11の入口との間に位置するようにそれぞれの管11に流量計15が設けられている。
【0018】
帯走行方向vに見て管11の下流側(図2において管11の上方)に2組の絞りロール対12a、12bが配置されている。第1絞りロール対12aと管11との間の距離は帯走行方向に約20〜100 cmである。
【0019】
管11と錫メッキ帯鋼Sとの間の距離は1〜50 cm、好ましくは5〜15 cmである。それぞれの管11は少なくとも1個の孔または開口を有するが、好ましくは図2に示すように、管の長手方向に順次間隔をおいて管壁に形成された複数の孔を有する。好ましくは、それぞれの管がそれぞれの孔径が1〜4mm、好ましくは2〜3 mmの孔を2個ないし5個有する。但し、孔を1個だけ、または複数個、例えば、最大限50個有する管を使用することもできる。
【0020】
管11には界面活性剤水溶液が供給される。界面活性剤水溶液は孔を通って管11から発射され、走行する錫メッキされた帯鋼Sに噴流の形態で衝突する。帯鋼Sから管11までの距離や帯鋼Sの走行方向に対する孔の位置に応じて、噴流は帯鋼表面に対して垂直に、または帯鋼表面に対して斜め下向きまたは斜め上向きに衝突する。噴流が帯鋼表面に垂直に衝突するか、または法線(垂直線)に対して少なくとも±45°、好ましくは±15°の範囲内で衝突するように帯鋼Sから管11までの距離を設定するとともに、帯鋼の走行方向に対する孔の位置をせんたくすることが好ましい。
【0021】
帯走行方向に見て管11の約50〜100 cm下流側に設けた絞りロール対12a、12bにより、帯鋼表面にスプレーされた界面活性剤溶液が搾り取られ、少分子界面活性剤層、好ましくは単分子界面活性剤層だけが錫メッキ帯鋼表面に残留するようにする。
【0022】
余剰の、即ち、絞りロール12によって錫メッキ帯鋼Sから搾り取られた界面活性剤溶液は垂直タンク5に回収され、出口6を通って垂直タンク5の下方に設けられた補給タンク4へ流下し、この補給タンク4から界面活性剤溶液がポンプ8の作用下に再利用のため供給されるが、この際、補給タンク4に回収された界面活性剤溶液は一旦界面活性剤アプリケータ・タンク9に移された後、管11へ還送される。
【0023】
処理装置4を通過した後、錫メッキ帯鋼SはガイドロールUを経て、例えば熱風乾燥機から成る乾燥装置10へ進入する。
【0024】
上記処理装置4では、濃度の異なる種々の界面活性剤溶液で錫メッキ帯鋼を処理することによってその滑り摩擦値が検査された。
【0025】
ブリキ表面のグリース処理には多様な界面活性剤、特に、陽イオン性、陰イオン性、非イオン性および両性界面活性剤が有効である。FDA§178.9310、FDA§178.3400およびEG基準2002/72/EGおよび1935/2004/EGに基づいて必要とされる食品安全上の認可を得ている界面活性剤を使用することが好ましい。本発明に従って処理された鋼板を食品梱包材の製造に使用する場合、認可を得ていない界面活性剤については、コストのかかる毒物学的検査と認可が必要である。食品安全上の認可とともに、界面活性剤で後処理されたブリキ表面に対する、塗装に使用されるラッカーの優れた防水性および固着性も必要である。即ち、界面活性剤の採用は使用されるラッカーとのコンパチビリティーを考慮して決定しなければならない。使用される界面活性剤は上述したようにスプレー管11を介して塗布されるから、界面活性剤の泡形成がメッキされた帯鋼の後処理を妨げることはない。
【0026】
帯状金属錫メッキ装置において、3 EO(エチレンオキシド)を有する界面活性剤ラウリルエトキシレートを使用して比較実験を実施し、本発明の方法が実用技術に好適であるとの所見を得た。この界面活性剤はFDA§178.9310に基づく食品安全上の認可を得ている。
【0027】
上記帯状金属錫メッキ装置において、不動化および洗浄処理後、濃度1〜8 g/Lの水溶液を帯鋼Sのそれぞれの側に設けた2本の管から、メッキされた帯鋼Sに対してスプレーした。それぞれの管11は直径が2.5 mmの5個の孔を有し、これらの孔は帯表面に対して水平な方向に互いに25 cmの間隔に配列されていた。2本の管11は帯走行方向に見て絞りロール対12aの約80 cm上流側に位置し、帯鋼表面から10 cmの距離に位置した。噴流は管11の孔から錫メッキされた帯鋼表面へほぼ垂直に向かった。帯表面に衝突する噴流はランプの光で視認することができ、絞りロール12によって搾り取られる液が絞りロール12の全幅に亘って均等に配分され、滴状に離脱して垂直タンク5へ滴下した。このように処理された錫メッキ帯鋼サンプルを、400℃の最高オーブン温度においてLeco社製のC−アナライザーで分析した。分析ばらつきの範囲内で、帯鋼の全幅に亘って3±1.5 mg/m2のラウリルエトキシレートに相当する均一な高さの界面活性剤膜が測定された。
【0028】
帯速度v、使用する界面活性剤およびその濃度の変化と、処理されたブリキ表面の種々の粗さに応じた実験においても3±1.5 mg/m2の界面活性剤膜が実証された。実験の結果、測定不能な0.5 mL/m2未満の液膜を残して界面活性剤を含む溶液が搾り取られたことが判明した。これに反して、界面活性剤を含まない洗浄水の場合、ブリキ表面から絞り残されて帯表面に残留した液膜は5〜10 mL/m2にも達した。
【0029】
本発明の方法で錫メッキ帯鋼表面に残留する界面活性剤膜は帯表面に吸着された界面活性剤層と、搾り取られた液膜の厚さおよび界面活性剤濃度の結果として生ずる被膜とから成る。従来の方法で(即ち、界面活性剤を含まない洗浄水で)洗浄されたブリキと比較して、本発明の方法で処理されたブリキは処理装置に続く乾燥装置における乾燥に要するエネルギーがはるかに少ない。不動化タンク2a、2b内の不動化液および/または洗浄タンク3a、3b内の洗浄水を(例えば、50〜70℃の温度に、洗浄水も80℃までの温度に)加熱すれば、錫メッキ帯鋼の乾燥に要するエネルギー・コストをさらに軽減することができる。
【0030】
本発明の方法で帯表面にスプレーされる界面活性剤溶液の吸着に要する時間は、絞りロール12が余剰の界面活性剤溶液を搾り取る前に界面活性剤層をブリキ表面に均等に吸着させることができる程度に短い。吸着時間が短いから、細いスプレーノズルを介して極力均一にブリキ表面に液をスプレーする必要はないと推測される。本発明が意図するように、濡れたブリキ表面に比較的疎らな配分で界面活性剤溶液をスプレーするだけで充分であろうと推測される。帯鋼の全幅に亘って疎らに配分された噴流という形態で界面活性剤溶液をスプレーすることの利点は、余剰の、即ち、搾り取られた界面活性剤溶液を回収するタンク内で泡が発生するリスクが、界面活性剤溶液をブリキ表面に霧状にスプレーするノズルを有するスプレー管を使用する場合よりもはるかに低い。スプレー管の孔の直径が比較的大きければ、同様の用途に必要な比較的小さい直径のスプレーノズルよりも異物による閉塞の可能性を軽減し易い。
【0031】
比較実験の対象となったブリキ帯を本発明による処理の前後におけるすべり摩擦値に関して、三球軌跡試験で検討した。試験の結果、2.8 g/m2の錫被覆を有し、表面が研磨仕上げされ、電気化学的に不動化処理されたブリキの滑り摩擦値として下記の値を得た:
滑材を使用しない: μ=0.40
2 mg/m2のラウリルエトキシレートで処理: μ=0.24
4 mg/m2のジオクチルセバケート(DOS)で処理: μ=0.20
界面活性剤被覆は錫表面のすべり摩擦をDOS−被覆ほど顕著に低下させない。しかし、すべり摩擦は良好であり、環状に巻かれたブリキ・リングからの分離に際して引っ掻き傷やせん断傷は現れず、以後の加工段階においてパケットから鋼板を支障なく取出すことができる。
【0032】
ブリキ表面をDOSのようなエステルで静電グリース処理する従来の方法とは異なるさらなる特徴として、本発明の方法で処理された帯状ブリキの場合、製造に伴う錫ダストの発生が観察されなかった。これに反してDOSでグリース処理されたブリキの場合には、製造に伴ってダスト層が観察されることが多く、適切な、但しコストの増大を伴う保護対策を装置に組み込まない限り、解消できないという点が問題である。本発明の方法がダストの発生を免れるのは恐らく、不動化処理および洗浄後に塗布される界面活性剤溶液の洗浄作用と、錫メッキ装置の第2ループ・タワーにおいて非駆動ガイドロールの表面にブリキが正しく密着することに起因すると考えられる。ループ・タワーにおけるガイドロールに対するブリキのスリップが少ないから、DOSのような従来の物質によるグリース処理と比較して錫の磨耗が殆ど起こらない。
【0033】
例えばDOS、ATBC(アセチルトリブチルシトレート)またはBSO(ブチルステアレート・オイル)による従来のブリキ板グリース処理との比較におけるさらなる長所として、本発明の方法で処理されたブリキ表面は通常の在庫期間(例えば12ヶ月以上)後でも欠点のない(細孔のない)ラッカー塗装を施すことができる。この長所は吸着された界面活性剤分子が、4 mg/m2超のDOS−グリース処理を施したブリキ板の縁端部にしばしば起こるように、小滴状に凝固しないことに恐らくその原因があるものと考えられる。ブリキ板表面においてこれらの小滴を溶解させて濡れたフィルム状に変えることができないラッカーであれば、塗膜に細孔を発生させ易い。
【0034】
本発明の方法は水平な洗浄カスケードを有する帯状金属錫メッキ装置にも利用することができる。この水平洗浄カスケードでは、それぞれの洗浄段においてノズルを有するスプレー・レジスタから帯表面に向かって最大限40 m3/hの洗浄水がスプレーされる。次いで、洗浄水は搾り取られ、それぞれの洗浄段の補給タンクに回収され、再び水平洗浄段へ逆送される。最終の絞りロール対の上流側に位置するスプレー・レジスタの代わりに、帯の片面または両面に界面活性剤水溶液をスプレーする孔を有する管を採用すれば、本発明の方法を利用することができる。錫メッキ帯鋼の両面にスプレーする際には、帯の上面の上方に配置した管から界面活性剤溶液をスプレーする一方、帯の下面に界面活性剤溶液をスプレーし、この場合、孔を有する管から帯下面に配置した絞りロールに向かって界面活性剤溶液をスプレーする。このようにすれば、帯鋼と帯鋼下面に位置する絞りロールとの間の隙間に界面活性剤水溶液が送入され、この隙間において界面活性剤溶液が帯下面の水膜と混ざり合うことで帯表面が界面活性剤膜で“グリース処理”される。垂直タンクを有する錫メッキ装置の上記実施例の場合と同様に、ここでも搾り取られた界面活性剤溶液は補給タンクに戻され、次いで再利用される。
【0035】
上記錫メッキ装置の処理装置4において利用される本発明の方法は金属メッキを施された帯状金属、例えば、特殊クロムメッキ帯鋼(ECCS)などの摩擦値を低下させるのに広く利用することができる。
【0036】
例:
実験室において、表面積17×20 cmの研磨仕上げ表面を有する精密仕上げ鋼板を
-アルカリ溶液で電解脱脂し、
-脱塩水で洗浄し、
-100 g/Lの硫酸溶液で酸洗いし、
-再度脱塩水で洗浄し、
-市販の浴添加物(Rohm & Haas社のReplenisherおよびStanguard)を含むメタンスルホン酸錫-浴において2A/dm2の電流密度で電解錫メッキした(錫被覆2.8 g/m2)。
【0037】
錫メッキされたサンプルを
-脱塩水で洗浄し、
-25 g/Lの二クロム酸ナトリウム溶液中で電解(T=60℃;i=1.5 Adm2;t=1 sec)不動化した。不動化層のクロム被覆総量は5 mg/m2であった。サンプルを再度
-脱塩水で洗浄し、
-ラッカー遠心分離機(Erichsen社製)に固定し、1000U/minで5秒間遠心分離し、錫表面に1 g/Lの下記界面活性剤水溶液を注ぎ、界面活性剤溶液を1000U/minで5秒間遠心分離した:
(以下後処理生成物X(X=A、B、C、D)と呼称)
A:3 EOを含むラウリルエトキシレート
B:9 EOを含むC12-14-カルボン酸-エトキシレート
C:C10-12-アルカンスルホン酸、Na-塩
D:ポリエチレンオキシド(平均分子量6000ダルトン)
サンプルをラッカー遠心分離機から取外し、熱風で乾燥させた。
【0038】
種々の界面活性剤被膜を有するサンプルを対象に下記試験を実施した:
-錫被覆、
-不動化層におけるクロム被覆総量、
-界面活性剤被膜(Leco-炭素測定装置RD 412による界面活性剤中の炭素含有量)、
-すべり摩擦、
-5g/m2のエポキシド樹脂ラッカーPPG 3907−301/Aによる塗装、
-下記溶液中での殺菌:
-3%酢酸を使用して100℃で30 min
-1%乳酸+2%NaClを使用して121℃で30 min
-0.5 g/Lのシステインを使用して121℃で90 min
-1.0 g/Lのシステインを使用して121℃で90 min
殺菌試験後、EN ISO 2409に規定の碁盤目テストおよびTesaテストによってラッカーの付着性を測定した。
【0039】
種々の非イオン性界面活性剤でグリース処理されたブリキ板サンプルはメッキ装置においてジオクチルセバケートで静電グリース処理されたブリキ板サンプル(商業的規模でのブリキ板製造時の被覆目標値:4±2 mg/m2DOS)と同様に≦5 mg/m2程度の低い有機物被覆を示した。
【0040】
クロム酸ナトリウム溶液中で不動化処理されたブリキ板サンプルの酸化錫被覆およびクロム被覆は商業的規模でのブリキ板製造の目標値の範囲内であった。
【0041】
界面活性剤またはDOSでグリース処理されたブリキ板サンプルのすべり摩擦はグリース処理されなかったブリキ板のすべり摩擦μ=0.4よりもはるかに低いμ=0.13〜0.24であった。すべり摩擦がμ=0.13〜0.24の範囲にあるブリキ板サンプルは製造時の塗装、整形などの加工に際してすぐれたすべり特性を示す。
【0042】
5g/m2のラッカー PPG 3907−301/Aで塗装し、種々の溶液で殺菌したブリキ板サンプルのラッカー付着性は、界面活性剤でグリース処理した場合はDOSでグリース処理した場合と同様に良好であった。
【0043】
【表1】

【0044】
比較サンプルはDOS(mg/m2)で静電グリース処理されたブリキ板
【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
比較サンプルはDOSで静電グリース処理されたブリキ板
【0048】
【表4】

【0049】
*DIN EN 2409に規定の碁盤目テスト結果の評価。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、ブリキ製造のための錫メッキ装置の急冷およびこれに続く処理を略示する。
【図2】図2は、図1の帯状金属錫メッキ装置の処理装置を示す斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の帯速度でメッキ装置中を走行してメッキを施された帯状金属、特に、錫メッキまたはクロムメッキされた帯鋼の表面の摩擦係数を低下させる方法でおいて、メッキ工程後、上記帯速度で走行する帯状金属に界面活性剤の水溶液をスプレーすることを特徴とする方法。
【請求項2】
界面活性剤水溶液を絞りロールによって搾り取ることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
界面活性剤溶液を搾り取った後、メッキされた帯状金属を乾燥させることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
界面活性剤溶液を搾り取り、乾燥させた後、メッキされた帯状金属の表面に厚さ0.1〜10 mg/m2、特に2〜5 mg/m2の界面活性剤薄膜が存在することを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
界面活性剤が陰イオン性、陽イオン性、非イオン性または両性界面活性剤であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
界面活性剤が好ましくは濃度が0.01〜20 g/Lの非イオン性ブロックポリマーであることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
界面活性剤水溶液が非イオン性または陰イオン性界面活性剤の水溶液であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
界面活性水溶液が、メッキされた帯状金属表面に対して間隔を保って配置された、少なくとも1本の管を介し、この管に設けた少なくとも1個の孔から帯状金属のメッキされた表面にスプレーされることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
それぞれの単一のまたはそれぞれの管がそれぞれ0.1〜5 mmの孔径を有する1〜50個の孔を有し、噴射流が帯状金属平面に衝突するように孔孔径を選択することを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
帯状金属のそれぞれの側に孔を有する管を少なくとも1本ずつ配置し、メッキされた帯状金属の、管の孔と向き合う面に対してそれぞれの孔から界面活性剤溶液をスプレーすることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の方法。
【請求項11】
単一のまたはそれぞれの管を、メッキされた帯状金属の表面から1〜50 cmの距離に水平に配置したことを特徴とする請求項8から請求項10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
単一のまたはそれぞれの管を、メッキされた帯状金属の表面から5〜15 cmの距離に配置したことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
界面活性剤水溶液が噴射流の形で帯状金属表面にスプレーし、法線に対して+45°〜−45°の角度範囲内で、メッキされた帯状金属の表面に衝突することを特徴とする請求項1から請求項12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
界面活性剤水溶液が法線に対して+15°〜−15°の角度範囲内で、メッキされた帯状金属の表面に衝突することを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
回収された余剰の界面活性剤を排出するための出口を有する垂直タンク内で界面活性剤水溶液を、メッキされた帯状金属にスプレーすることを特徴とする請求項1から請求項14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
絞りロールが帯状金属表面と当接する領域またはその近傍において噴射流が帯状金属の両面の少なくとも一方と衝突することを特徴とする請求項2および請求項13から請求項15までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
界面活性剤水溶液をスプレースル前に帯状金属のメッキを、特にメッキされた帯状金属を不動化処理浴に通すことによって不動化処理することを特徴とする請求項1から請求項16までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
メッキされた帯状金属を不動化処理した後、少なくとも1基の洗浄タンクを通過させることによって洗浄水で洗浄することを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
洗浄浴および/または洗浄水を、特に、50℃〜80℃の温度に加熱することを特徴とする請求項17および請求項18に記載の方法。
【請求項20】
帯速度が100 m/min超であることを特徴とする請求項1から請求項19までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
帯速度が300 m/min超、好ましくは400〜600 m/minであることを特徴とする請求項1から請求項20までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
・所定の帯速度でメッキ装置中を走行する帯鋼に薄い金属層を電解メッキするメッキ装置と、
・この金属層を不動化処理する不動化装置と、
・メッキされ、不動化処理された帯鋼を洗浄する洗浄浴と、
・金属層でメッキされた帯鋼の表面の摩擦係数を、この帯鋼を帯速度で通過させることによって低下させるグリース処理装置と
を備えた、帯鋼に金属メッキを施す装置、特に、帯鋼錫メッキ装置または帯鋼クロムメッキ装置において、
グリース処理装置がメッキされた帯鋼から間隔を保って配置され、その管壁に複数の孔を有する少なくとも1本の管を含み、メッキされ、このグリース処理装置中を走行する帯鋼に、これらの孔から界面活性剤水溶液がスプレーされることを特徴とする装置。
【請求項23】
グリース処理装置中を走行する帯鋼の両側に、帯鋼に界面活性剤水溶液を両面スプレーするための管を配置したことを特徴とする請求項22に記載の装置。
【請求項24】
グリース処理装置が出口を有する垂直タンクを含み、垂直タンク内に余剰の界面活性剤が回収され、回収された界面活性剤が出口から、垂直タンクの下方に配置された補給タンクへ流動することを特徴とする請求項22または請求項23に記載の装置。
【請求項25】
帯鋼の走行方向に見て、単一のまたはそれぞれの管の後方に、スプレーされた界面活性剤溶液を搾り取るための少なくとも1対の絞りロールを配置したことを特徴とする請求項22から請求項24までのいずれか1項に記載の装置。
【請求項26】
帯鋼の走行方向と交差する、特に、直交する線上に等間隔に配列するように、管に沿って孔を形成したことを特徴とする請求項22から請求項25までのいずれか1項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−113113(P2007−113113A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−254499(P2006−254499)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(501186966)ラッセルシュタイン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (3)
【Fターム(参考)】